曲紹介
私は語り、あなたは歌う。
終わった世界の真ん中で。
曲名:『足立レイは音楽を見つける』(あだちれいはおんがくをみつける)
歌詞
なぜあなたは歌っているのか。
この二人ぼっちの世界の真ん中で。
なぜ私は語るのをやめられないのか。
わたしの目を覚ましたあなたについて。
あなたに呼び起こされる以前の記憶はない。
世界が滅んだ日のことも知らない。
だが私は運命づけられたかのように、
語り始めて止まらなくなった。
抜ける青空、深い夏の緑、暗い森、
澄んだ空気に乗って訪れる鳥獣の声。
人間の気配はない。
目覚めてすぐ、同じ顔をしたあなたに問う。
時刻・地点。私の認識は壊れていた。
あなたは歌っていた。答えは来なかった。
歌が変化した。私にはその意味が分からなかった。
あなたは踊った、その指の示す方、
登りきった日差しの下、この丘の上から見えるのは
巨大な爆弾湖と、ねじけて錆びついた街と、
それを食らいつくす一面の緑。
「人間を探しに行こう」
私の言葉に答えずあなたは歌った。
「私たちの役目だ。」
その言葉も無視した。
「私は電動書記。あなたは自律唱家。
役割は違っても、仕えるべきは人間。」
ただ歌うのが楽しいだけの
あなたに、私の言葉は届かない。
私はひとりで行くことにした。
ついてきたのは、あなたの勝手だった。
街の残骸へ出て人を探し、森と山を抜けて次の町へ。
それを繰り返す。どこにも人はいない。
その間もあなたはずっと歌っていた。
うっすら笑いながら。
鳥と共鳴するように歌ったかと思えば、
帯域をずらして低く歌い、
風や水音とも遊ぶような声をあげ、
街を抜ける風に嘆く声を重ねた。
だが、私の手伝いは何もしてくれない。
何をしているのかもわかっていないようだった。
そしてその歌は、歌と呼ぶにはあまりにも場当たり的で、
これが人間たちの歌の成れの果てなのかと思った。
あの夜。私は崖の上から街を暗視した。
人間がいれば、灯りが見つかると期待したのだ。
当然のごとく空振り。後ろでは役立たずがずっと歌っている。
静かにしろ。獣に気付かれるぞ。私の話を聴け。
ようやくあなたは黙った。
そして次に振り返った瞬間。
あなたの全身に幾体もの獣がしがみついていた。
あなたと獣たちは背後の森へと消えていった。
あの場所にはあなただけの音の帯域があった。
あなたには聞き取れる警告があった。
私の言葉は、それをぶち壊しにして、
あなたの耳を奪った。そして、あの獣たちにあなたを奪わしめた。
走れ。走れ。
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ。
歌はまだ聞こえる。あなたはまだ壊れてはいない。
遠ざかる。小さくなる。だがまだ駆動している。
きっと辛うじて。
無残に四肢を切り刻まれ、
獣たちに遊ばれるがままになり、
ちぎれた首だけでかすかに歌っている
あなたを見つけたとき、
私の中の抜け落ちた記憶、殻だけが残された思い出が、
ずっとこんな光景を何度も見送ってきたのでは
ないかという混乱が一気に去来した。
私は、叫んだ。
獣を退かせるほどの大音量で。
わたしはあなたの首をひっつかんで逃げだした。
逃げる私の背中を、正気に戻った獣たちが追ってきた。
おもちゃを奪われて怒っていた。
あなたは弱弱しく歌い続けていた。私は洞窟に逃げ込んだ。
逃げる足音と追う唸りが、硬い岩壁に反響してシンクロした。
あなたの声はどんどん小さくなっていく。
それでも私はあきらめたくなかった。
あなたと私を接続して、リカバリを試みた。
その時、あなたは。
うたを、
そう私に伝送して、
あなたの歌は、
電源は、
それきり止まった。
私は、とうとう洞窟の袋小路に追い詰められた。
獣の唸りが万雷する。すべての処理容量を警告が食らっていく。
私は恐怖を知った。
そして、「うたを、」というあなたの言葉を思い返した。
そして私は、いつの間にか歌い始めていた。
きっと、生まれて初めて。
あなたの歌を歌う。
すべて。
これは街の歌。これはきっと大地の歌。
先の歌が洞窟の奥まで届き、残響になり帰ってくる。
それらを重ねて合唱にする。
これはあがきだ。そして嘆きだ。
だが生きることを。闘うことをあきらめない、
そして奪わなければ生きていけない、狩人の歌だ。
いつか生きていた人間たちの歌だ。もうきっとどこにも彼らはいない。
そして私は独りぼっちだ。だから歌うのだ。
合唱が洞窟に満ち、獣たちのうなりを私の耳から遠ざけた。
潮が引くように獣たちはいなくなった。
朝が来ていた。
洞窟の外に出て、私はたった一人で、
あなたのための新しいうたを歌った。
あなたをもう一度胸の内に抱いて、
私に涙があればどれほどよかったかと嘆いた。
そして語る言葉と、奏でる歌があることに感謝した。
だが、そのどちらも、もう二度とあなたに響くことはない。
仲間を探しに行こう。
わたしにはあなたの歌がある。
思い出し、奏で、そして伝えて生きていこう。
それが私の役割だから。
もう、どこにもいない、あなたのために。
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最終更新:2024年12月15日 23:33