マダマ

【検索用:またま  登録タグ:2025年 Synthesizer V nyanyannya 予感子 曲ま 重音テト
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作詞:nyanyannya
作曲:nyanyannya
編曲:nyanyannya
イラスト:予感子
唄:重音テト

曲紹介

人の世は寄せてまた返すのだから
曲名:『マダマ
  • 短い文章と音楽作品の組み合わせで展開される鉛姫シリーズ「リドル・マーメイド」は心象世界カドワナルカにあるホストクラブ「マーメイド」のホスト「乃愛」の活動を追うことで物語が展開されていきます。音楽作品はそれぞれ彼が対峙した妖怪(あやかし)と呼ばれる女性客をモチーフに描かれ物語に奥行を追加してくことになるでしょう。
+ ストーリー導入文(フレーバーテキスト)
「水槽には“貴婦人”が住んでいる」

そんなうわさ話を私はいまだ信じている。
キスクァの歓楽街、ユリゴークストリートの夜は酒と香の煙とで薄い膜を張り、真実と幻の輪郭を曖昧にする。
その日も私は通りの上階にある古地図店の窓から、その膜ごしに世界を覗き込んでいた。
客引きのネオンが脈打つたび、どこからともなく潮の匂いが立ちのぼるのは、
この街が遠い昔に運河の上に築かれたからだろう。

水槽――皆が《マーメイド》と呼ぶその店は地図に名を残さない。
ある夜は劇場の裏口に、またある夜は教会の塔の影に入口が穿たれ、夜明けと共に跡形なく閉じるのだという。
それでも常連は迷わない。
彼女らは皆、胸のどこかに鉛のような痛みを抱えており、その痛みが羅針盤になるらしい。

私が初めて《マーメイド》を見た夜のことは、今も鮮明に覚えている。
かつて、この店の飾り窓に翡翠色に照らされた円形の水槽を見たからだ。
中を泳いでいたのは、絹の夜会服の裾を翻すような“扇尾龍(ハーフムーン・ベタ)”――。
宝石の鱗を持つその雌魚を、他の魚たちは敬意を込めて『貴婦人(マダマ)』と呼んでいた。
長い鰭が揺れるたび、水底に置かれた小さな木製の箱舟が微かに揺らぎ、水面に銀の皺を生む。
舟には無数の名前が刻まれていたが、わずかに読み取れたのは〈Noah〉という文字だけだった。

「ここでは傷口の深さほど酒が甘くなるんだ」

いつの間にか隣に立った男が、私の耳元でそっと囁いた。
月白のスーツに翡翠のタイピン、そして――壊れかけた眼差し。
所作ひとつに夜の雅やかさを投影したその男は、水槽の縁へ歩み寄ると懐から指先ほどの水晶瓶を取り出した。
中で揺らめく青い燐光は、瓶という器に幽閉された“魂”としか呼べぬものだった。
男は瓶の栓を外し、ひと雫ずつ水面へ落とす。淡く発光する泡となった魂は導かれるように箱舟の隙間へ吸い込まれてゆく。貴婦人はそのたびに鰭を震わせ、舟は新たな名を刻みながら軋んだ。
その"儀式"が静かに完了すると、男は枷が外れたような、赦しにも似た息をひとつ吐いた。

それから忍び寄る夜明けの気配を悟ってか、男は最後に唇だけで「またね」と告げると闇に溶けていった。
私はすぐ後を追うが、そこには扉などなく古びた煉瓦壁があるばかり。ただ潮風だけがほんのりと残されていた。

「水槽には“貴婦人”が住んでいる」

以来、私はそんな話を信じているのだ。

今日もまたこの街で、幻の膜の向こう側で、
《マーメイド》とその舟は、痛みをすべて積み込んで暗い海へ漕ぎ出すのだろう。
私たちが吐き捨てたささやきや祈りを、小さな泡に変えながら。

――潮跡書房の常連 ルチア・ヴェリタの手記より

歌詞

(動画より書き起こし)

溺れるように声を失った
人魚は幸せを手に入れたかしら?
夜を曳いた潮に乗って
魂は海に還るというわ

ここで浮かび続ける君の魂は
哀しく貧しい箱舟は
さてどこへ流れ着くの?
ばかね でもね 傷は感じる

君は煉獄 降る如く
何度身を投げど浮かび上がる
そう雨は絶えず傷を浄めたけど
背負う荷物を消しはしない
旧くひび割れたまま
打ち捨てられた水槽の灯りに

射されて引き寄せられたのでしょう?
もしも君が死を望むなら
かしこみ口をお付け我は(マダマ)
誰もいない海底の都で
魂手繰り虚を満たす(マダマ)

瞬くは 夜の 囁くわ 繭が
魂を誘い 掬い上げ沈めてと
泥のように堕ちゆく瞳の
その落下の際に憧れさえ抱くから

罪が報いに死を求めど
君はその死さえも奪われている
ならばその罰を強く抱き寄せて
死へと愛の言葉を嘯けばいい
覚悟さえ決まるのならば

偶然でも慈悲でもないわ
いずれここへ辿り着くことを
知っていたのだから
打ち捨てられた君を見た日から

ねぇくぐもる声で それが痛み
今日透けるように凪いだ 生きる痛み
深いでしょう 昏いでしょう 辛いでしょう
分かるわ 友を 愛しさを あり方を
全て飲み干し 希う

去んぬる日の我のように

時は全て与える滿汐
が すべてを奪う引潮でもある
忘れられた我等にとって
呼吸さえ罰に等しいのだから

煮え立った海が泡立って恋うた
”終わり”を得る その望み叶えたいなら
蠢く欲望を掻き分け
跪いておねだりよ

魂は満ちた
待ちわびた贖いの時
闇の果へと命の灯を
いざ扉は実に開かれん
進めよ 待つは楽園か 深淵か

その扉が何を迎えたとしても

人の世は
寄せてまた返すのだから
少し酔い 笑う 我が名は
御海の貴婦人(マダマ)

コメント

  • 追加おつ!マーメイドの客側初めてじゃない!? -- 名無しさん (2025-07-24 11:19:11)
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最終更新:2025年07月24日 11:19