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第三章-第三幕- 合流





『妖精の森』の区域内にある妖精山脈の中。
ジルベルト、シエル、ユイナ姫の三名は未だそこを歩いていた。
しかしほどなく下山し、めでたく合流となるだろう。
索敵範囲内に引っ掛かっていた高エネルギー反応も消滅している。
恐らく、ライナス達が駆逐したスプレッダー幼生体であろうと安心した。
ということは、ジークとも合流出来ているはずだ。
彼のパワーを抜きにしてはあれだけ短時間での駆逐は難しいだろう。

「しかし、これは困りましたね……」
と、神妙にユイナ姫。
「どうしたの?」
シエルが疑問を投げかけ……ようとしてテレパスする。
いちいち訊くより速いからだ。ジルベルトもそれに倣う。
「……なるほどね。確かにこういう山中や水中に入られたら、
 ビーム・カーテン用の重機は立ち入れないわ。既存の重機を
 いっそ汎用仕様に改造するか、あるいは別仕様の新造を
 研究部に申請しないといけない、ってトコかしら」
「ええ。今連絡しておきましょう。ひょっとしたらライナスさん達も
 それで立ち往生してしまっているかもしれませんし」
ユイナ姫は端末の通信機能をオンにし、アーム城に連絡を取った。
「シルヴィアさん、出られますか?」
「あ、はい。何事かですね?」
微妙に答弁がおかしいのは相変わらずではある。
「今後、通常地形以外のビーム・カーテン用重機が必要になります。
 追加パーツか、あるいは仕様変更機の設計を依頼したいのですが」
「はいはい。実は、そんな事も考えて、その旨既に準備出来ています。
 あとは組み上げるだけなんで、数日ほどお待ち下さいね」
と、自信たっぷりにシルヴィアが答えた。
「さすがです。お任せしますね、シルヴィアさん。
 例の謎のウィルスの解析は進んでいますか?」
「メシア3号機ならびに、4号機、5号機にもアクセスし、
 過去のデータをさらっていますが、
 絞り込みに時間がかかっていますね。
 どうも宇宙暦のデータにも該当するものが無いようでして」
「分かりました。では、作業を続けて下さい。
 こちらも作戦行動を続けます」
「はーい」

シルヴィアとの通信を切った。と、その時である。
「ぎゃぁぁぁがああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
いつ聞いても耳障り甚だしい金切り声。スプレッダー幼生体である。
「レーダーに反応が無かった!?」
周辺を警戒していたシエルが驚愕した。
地下から突然出てきたのである。そんな能力まであるとは
流石に勇者軍も予想していなかった。幼生体とは言え、
体調は十メートル級である。それが地中に潜るなど、
常識で理解出来る現象ではあり得ない。

(でも、普段は地上をノコノコ歩いているスプレッダー幼生体が
 今回に限って地下に潜っていたのは……なんでだろう?)
よく見れば傷だらけである。ライナスに追い詰められていた
ライゼリーネ・タウンでの
スプレッダー幼生体二匹目よりもボロボロだ。
傷は塞がっているようだが、非常に生々しい。
動きも心なしか、鈍っているように見えた。
その思考をシエルがテレパスで捉えた。
(ひょっとしたら幼生体は傷を受けたら地下に潜って
 その間に傷を癒すのかもしれないわ。流石にこのレーダーも
 地下の相手には反応出来ないっぽいし……)
(かもしれない。やろう、シエル)
ジルベルトとシエルの間に、テレパスで合意が成立。
「ユイナ姫。三人でもやりましょう。相手はたぶん、弱ってるから!」
「ええ!」
シエルも前に出て攻撃呪文の詠唱を始めようとした。
「ぎゃぁぅ!」
すると、スプレッダー幼生体はその多脚をもって斬りつけるのではなく、
周囲に転がる岩の塊を持ち、それを投げつけてきた。
ばかっ!
岩が割れ、凄まじい衝撃がシエルを襲う。
「あ、うぅ……ッ!」
シエルは直撃を食うが、流石に勇者軍。
ジークの一撃よりもこたえていないようではあった。
むしろ岩ぐらいでこたえていたら勇者軍などは務まるまい。
しかし、この一撃は相当に頭に来たようだった。
「ったぁ……ッ。何するのよ!」
シエルの逆鱗に触れたスプレッダーは構わず攻撃を再開する。
その飛んでくる岩を、ユイナ姫が槍一本で受け流し、
刺しては払い、あるいは柄で打ち返す。
馬上からの芸であることを考えるとやはりこれも普通の技ではない。
シエルは完璧にユイナ姫からの庇護を受けている。
その間にシエルは大型の呪文の詠唱に入った。
魔力をかなり消耗するが、一発かましてやらなければ気が済まない。
ジルベルトはジルベルトで何とか多脚を斬るべく
接近を試みるが、これもいまいち上手くいっていない。
(ここは私が、私の力で何とかするの!)
シエルの力強い意志が魔力になり、それが形を取る。
「プラズマキャノン!」
ばぢッ!
凄まじい電圧の魔力弾がスプレッダー幼生体に直撃した。
「ぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
金切り声と共に痙攣を始めるスプレッダー幼生体。
流石に魔道専門職による強烈な攻撃呪文はかなり効いたらしい。
しかしまだ息がある。
(お兄ちゃん、とどめ!)
シエルの意志を感じ取り、ジルベルトが動き出す。

しかし、その直後だった。
「悪いが、こいつは私が生け捕りとさせてもらいますよ」
スプレッダー幼生体の前に、一人の男が立ちはだかった。
いきなり脈絡も無く上から降ってきたので、ユイナ姫も驚いた。
「誰ですか、あなたは!?」
「勇者軍の方々とお見受けしました」
謎の男は優雅におじぎをしてみせる。仕草がいちいち嫌味ったらしい。
「私は『ウィルスユーザーズ』の医療チームリーダー。
 コードネームを<ハンドドッグ>と申します」
(犬の手?)
ジルベルト、シエル双方が同時に思った。
「犬の手ではありませんよ、一応言っておきますと」
即座にハンドドッグとやらはツッコんでくる。意外と律儀である。
「組織の腕となって、介護犬のごとく清潔かつ、従順に働くもの。
 そういう意味合いでしてね、ふっふっ」
「そのハンドドッグがスプレッダー幼生体に何の用!?
 ってか、その前にウィルスユーザーズって何よ!」
シエルは未だに機嫌が悪い。岩の塊を顔面に受けたのが
相当に癪に障ったのだろう。
「スプレッダーの成体が持つウィルスの情報を共有し、
 それにより利益を得る事を目的とした新設組織の正式名称、
 それが『ウィルスユーザーズ』なのです」
(利益?)
ジルベルトが怪訝な顔をする。
「そう、利益です! あなた達は幼い、その意味など
 お分かりにならないかもしれませんけどねぇぇ?」
しかしユイナ姫は冷静に答えた。
「細菌兵器としての軍需利用、対病原菌医療薬開発と供給による
 医療業界の活性化、生物兵器としての研究などなど、
 確かに考えうるケースは色々ありますね」
その見解に、ハンドドッグの表情が変わる。
「その見識と見解。あなたが間違いなくアーム王家の方ですね。
 筆頭とはいえ、所詮一般市民レベルのストレンジャー家や
 他の家系の者達にそこまでの即答は出来ますまい」
これは本当の事なので、ジルベルトは特に反論はしなかった。
「で、生け捕り? 私と、勇者軍がそれをさせるとお思いですか?」
ユイナ姫が槍を構えた。愛馬チトセの足があれば、
ものの数秒で彼女の槍はスプレッダー幼生体のコアを捉えるだろう。
「出来るのですよ。輸送ヘリ、出撃!」
ばららららららららら!
数機の輸送ヘリが突如としてその場に現れた。
「光学迷彩!?」
シエルが驚いた。こんな技術まであるとは、
ウィルスユーザーズ、侮り難し、というニュアンスであっただろうが。
「捕獲! 幼生体を研究素材として本部へ持ち帰れ!」
ハンドドッグの指示により、ヘリが拘束具を射出し、
その後ワイヤーを取り付けて持ち上げようとした。
「させません!」
しかし既にユイナ姫とチトセは駆けている。
「こちらのセリフですな!」
ハンドドッグがメスを多数投げつけてくる。
「!」
チトセの足が止まる。ユイナ姫も防御に回らざるを得ない。
「ジル君行って! まだ間に合うの!」
ユイナ姫の指示に従い、ジルベルトが走る。
一直線にスプレッダーめがけて。
シエルは誰が怪我をしてもいいように回復呪文を詠唱していた。
(ワイヤーを狙う)
ジルベルトが狙いを定めた瞬間だった。
ドガガガガガガガガ!
周辺に潜んでいたライフル兵達が一斉掃射を浴びせてきた。
「っ!」
ジルベルトの反応は結果から言えば驚異的である。
全銃弾を一発たりとも浴びる事無く回避し続けているのだから。

(リールで!)
ジルベルトのリールが何人かのライフル兵から銃を奪う。
もちろん丁寧に輪切りにして無力化はする。
「間に合わない!?」
ユイナ姫の悲鳴が聞こえてきた。もうあの巨体が浮き始めたのだ。
「チェックメイトですな。少数精鋭への
 過剰な期待を呪うがよいでしょう!」

「そうかしら」
突然知らない女の声が響いてきた。
「女!? 誰だ、どこにいる!?」
ハンドドッグが招かれざる来客の存在に慌て始めた。
「ここ」
やや暗い赤茶色の髪の、身長の高い、恐らく妖精族の女性が、
一振りの鞭を握って、スプレッダー幼生体の上に乗っていた。
「おのれ、いつの間に!?」
ハンドドッグの存在を無視して、謎の女性は
ジルベルトへと呼びかけた。
「そこの君? 要はこの怪獣を生け捕りさせなければいいのでしょ?」
(うん、そう)
ジルベルトはただ頷いた。感じ取ったのだ。
どんなに隠しても繕いきれない、一般の人間との力量の差を。
そして自分自身の予想が当たっているなら……味方なのだと。
「じゃ、後は私に任せてくれるかしら?」
女性は鞭をしならせ始めた。攻撃態勢だ。
びしばしびしばしびしばしびしばし!!
もはや何発叩いているかの目視確認は出来ないが、
凄まじい勢いで息も絶え絶えのスプレッダー幼生体に、
更に苛烈な攻撃が加えられている。その傷は
ジルベルト達が見た傷の形と、寸分違わず一致していた。
すなわち、この幼生体を追い詰めたのは彼女の所業なのである。
「やっ、やめろ! やめないか!」
ハンドドッグが大慌てで制止にかかる。
「なんで? 生け捕り出来たらあなた達大喜びなんでしょ?」
「そうだ! 何の関係も無いお前が阻止する理由があるまい!」
どうやらハンドドッグは理解していないのだ。
彼女が敵だということを。
「じゃあやめるわけないでしょう? そんな道理が無いんだし」
手をまったく緩めずに女性は答える。
「つまりは敵か! ならば容赦するな! 誘導ミサイル用意!」
念のために、と備えてでもいたのだろうか。
一発の小型ミサイルが女性を狙い撃ちにした。
「あら、プレゼント?」
女性は平然と鞭を構えると、なんとミサイルを鞭で巻き取り、
そのまま振りかざして至近距離から幼生体に叩きつけた。
ずどどん!
「ちょうど火力がもう一押し欲しかったの。気が利いてるのね」
「ぁぁ……ぁ……ぁぁ……」
スプレッダー幼生体は今のがとどめとなって、ただの死骸と化した。
「作戦……失敗……!! おのれ!」
ハンドドッグが悔しさを露にしてそこら辺の木を蹴る。
その眼前へと女性が降りてきた。
「光学迷彩とはやってくれるじゃない。
 でも、詰めが甘いんじゃない?」
「こうなれば貴様だけでも!」
ライフル兵の銃と、ハンドドッグのメスが一斉に女性を襲う。
しかし女性は鞭で一斉にメスを巻き取り、
それを鞭の勢いのままに飛ばして銃口を塞いだ。
ボンッ!
銃口が次々に暴発する。もはや使い物になるまい。
「ちいッ、撤退だ!!」
ハンドドッグとヘリ部隊はやむなく撤退した。
最大の目的である生きた幼生体サンプルの回収を成せぬままに。
「ふう。ちょっと汗かいたかな」
あれだけ無茶な動きをして、この物言い。超人的である。
「君達もすごいのね。何者?」
女性はそこで、あっ、と失敗した! 的な表情をする。
「ごめんなさい。私はエイリア。
 エイリア=ルスト。勇者軍の一員なの」
その一言にジルベルトが、ユイナ姫が、シエルが驚く。
(僕達もだよー)
と、ジルベルトが握手しにかかる前に、ユイナ姫が前に出た。
「私達もなんです。私はユイナ。アーム王家の女王で、
 この子がジルベルト君。ストレンジャー家の子です。
 こっちは妹のシエル」
今度はエイリアが驚く番だ。
「まあ。それじゃ仲間なの……姉さんに報告しなきゃ」
エイリアはしっとりと笑い、そして『姉』に連絡した。

ほどなくして、合流を急いでいたレイリア達のチームと、
本隊は合流を果たした。特にレイリアは急いでおり、
「この子達の仲間がやっぱりいたんだね、エイリア!」
「姉さん、遅かったんですね。そちらも何かありましたか?」
後ろからライナス、ジーク、ソニアも出てきた。
一気にジルベルト達の表情に喜色が浮かぶ、が。
「あはははははははははは! まだ練習してたんだその喋り方!」
いきなりレイリアが大爆笑する。
「だから死ぬほど似合わないってお姉も言ってるじゃん!
 いい加減やめてってば! あたしを笑い殺す気!?」
おかしくてたまらないのか、レイリアがのた打ち回るほど大爆笑する。
すると、穏やかだったエイリアの表情も豹変した。
「うるっさい! 私だって女性なんだ! いい加減こういう
 ガサツな口調とか印象とか卒業したいって思ったっていいだろ!
 大体レイリアだってガサツ過ぎるぞ!!」
「あたし、それが悪いだなんて思ってないもんねー!
 大体お姉ちゃんて呼びなさいって言ってるでしょー!
 そんなふざけた喋り方する前にさぁ!」
「そんな恥ずかしい呼び方出来るか、馬鹿!」
「馬鹿って言うなー! 妹のくせにー!!」
「きーッ!」
「きーッ!」
いきなり壮絶、かつ見苦しい姉妹喧嘩が始まったのを見て、
レイリアをライナス達が、エイリアをジルベルト達が止める。

「はあ……はあ……」
こうして五分ほど喧嘩して落ち着いたのだろうか、二人は改めて
自己紹介をするのだった。
「あたしがルスト家のレイリア=ルストだよ! で、こっちが妹の」
「エイリア=ルストよ。よろしくね」
「げらげらげらげらげら!」
またもや爆笑するレイリアに、またもやエイリアは突っかかる。
よほど本来の口調からはかけ離れているのだろうなぁ、と
何となくライナス、ソニア、シエルなどは想像がついた模様である。
「花嫁修業ぐらい自由にさせろ!
 とまあ、この馬鹿姉は放っておいて、
 これからは私達も合流するわ。これからどこへ行くのかしら?」
「だ、そうだ。どうするリーダー?」
ジークの問いに、ジルベルトは熟考する。
そしてそれを感知するシエル。
「この区域のスプレッダー幼生体はほぼ駆逐されつつある状況よ。
 後はアーム城民政部や、ザン共和王国の正規軍、
 各ギルドなんかでも充分対処が可能だから、
 ここからは本格的にスプレッダーの成体と、
 敵対組織、ウィルスユーザーズの撃破にかからないといけないわね」
「わっ、なんで君が喋るの!? 軍師の人?」
突然喋り出したシエルに、レイリアはいたく驚いたようだった。
「しーっ、ジル君と彼女は兄妹で、しかもエスパー同士なんです。
 でもジル君は極端に無口だから、
 シエルが通訳してるんです。お静かに」
ユイナ姫に言われて理解したのか、レイリアも大人しくなった。
「蒼の都――シュライク・シティを経由してヴェール・シティへ。
 その後、カルナード港を目指し、シャンゼリー王国へと入るわ。
 王国内に存在する各組織と連携を取ろうって、お兄ちゃんが」
「母さんが前に教えてくれた」
ライナスがいきなり立ち上がった。
「シャンゼリー王国の国土内には、カレン家の人達も住んでるって。
 だから、そういう意味でも、俺はジルベルト君に賛成する」
「そうか、それは重要ね!」
ソニアも賛成した。次いで全員が頷く。

「なら、決まりだね、急ごう!」
「ああ。我々も力になる。共に行こう」
レイリア、エイリアが加わった勇者軍主力部隊は、
今度は南東の蒼の都、シュライク・シティへと向かうのであった。



<第四章 へと続く>
最終更新:2011年02月18日 01:26