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第八章-第二幕- 再会の義姉





勇者軍主力部隊はストレンジャー・タウンの
ジルベルト宅から、宝剣ストレンジャーソードを入手し、
亜人王タイタン名義の無差別全方位救難信号を受けたことと、
同時にスプレッダー成体の反応を確認した事によって、
速やかに移動を行う事になったのだった。

一方の亜人族の里では、阿鼻叫喚と絶望の嵐が吹き荒れていた。
ほとんど奇跡といってもいいが、亜人族特有の身体能力の高さから、
ケンタウロスにも、ジャイアントにも、
ワーウルフにも、ミノタウロスにも
一切死者は出ていない模様だったが、
それでも壊された建造物の破片で
多数の重傷者が出ており、しかもインフルエンザウィルスに感染した
かなりの人数が呻き声をあげている有り様であった。

そして広大な亜人族の里を今なお
蹂躙するスプレッダーを防ぐべく、
インフルエンザウィルスに感染し、
動けない亜人王タイタンに代わって、
二人の女傑と、その側近が奮闘していた。
一人は亜人王令嬢にして時期筆頭最有力候補ミゼラブル=タイタン。
もう一人は現勇者軍総帥養女にして、ワーキャット族長でもある
ラティシア=ラヴィニットであった。ミゼラブルを護衛している
ミノタウロス族長、バーンガスト=シーリアルに
元ワーウルフのヒョウガ=グリッドフィードも
スプレッダーの成体相手に、やはりというべきか、
流石というべきか、諦める様子は無い。
しかし残念ながら、火力不足は否めない。救援も望めない。
既に亜人族の戦力はズタズタにされたに等しいのだから。
「バーンガスト! ヒョウガ!!」
そして今なお、ミゼラブルを守るために二人の英傑が
倒れる寸前になろうとしていた。長い時間戦っているが、
それでもスプレッダーを倒すどころか、傷が増えるばかりだ。
ミゼラブルは歯を食いしばり、二人に撤退命令を出す!
「二人とも、もういいです! 退いて下さい! 里は潰されても
 再建は可能です! それに、私達二人で倒せないと
 決まったわけでもありません。そうですね、ラティシア!?」
「ラティシアと、ミゼルがいるなら、なんとかなる!」
マクスフェル戦線当時と比べ、すっかり成長したラティシアも
虚勢を張って言ってのける。
「すまねぇ、姫さん方! 後を任せるぜ!!」
「再建は可能でもお前達は必要だ……無理をするな!」
バーンガスト、ヒョウガ両名は撤退した。
ミノタウロスのバーンガストはともかく、
ヒョウガには老いという敵も付き纏うという年齢だ。
厳しいのは事実である。
だが、あの七大戦線を生き抜いてきた者達をもってしても、
これほどの苦戦を強いられ、敗北を喫しようとしている事に、
ミゼラブルは素直に絶望を感じつつあった。
里の三分の一を犠牲にしてでも総員に
避難命令を出すべきかもしれない。
そんな考えが頭をよぎったが、ラティシアが激励する。
「ラティシアもミゼルもロードだ! ロードが諦めるな!」
「これは私達の最後の戦いになるかもしれない……それでも、
 ラティシアは私に付き合ってくれますか?」
「当たり前だ! ここはラティシア達の故郷だ。一緒に守るぞ!」
ラティシアは武器を手に取り、爪を剥き出しにして構えた。
既に二人ともかなり消耗し、傷も少なからず負ってはいたが――
それでも、諦める事は出来なかった。
「行くぞ、ミゼル!」
「はい! うおおおおおおおおッ!!」
二人して進行中のスプレッダーめがけて走り出したその時だった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
スプレッダー成体は、前に立ちふさがった
二人に対して何をするかと思えば、
電気ケーブルを引き千切り、それを身体に巻きつけた。
すさまじい電流がスプレッダーに蓄電され、スプレッダー自身が
自らを軸に、放電を開始した。凄まじいエネルギーが二人を襲う。
「うああああああッ!!」
「あううッ!?」
二人が倒れる。まさかこんな技まで持っているとは。
なんとかよろけながらも立ち上がるが、もはや万策尽きた。
体力もまともに残っていないでは、轢き潰されて死ぬのが関の山か。
(すまない……エリシャ……ノエル……!)
(お父様……ッ!!)
二人して死を覚悟し、今すぐ轢き潰されようかという瞬間だった。

がぎぎぃぃいん!!
甲高い音と共に、多脚の一本が問答無用に切断された。
ラティシア=ラヴィニットはそれを成し遂げた剣の輝きに、
人の業の器の面影と、新たなる世代の幕開けを見た。
「ジルベルト! シエル!!」
ラティシアは二人の名前を呼んだ。
(無事……じゃないけど生きてて良かった!)
「お姉ちゃん、やっぱりここにいたのね!!」
「来てくれるだなどと期待していなかった! 心底助かったぞ!」
三者三様の反応にて、再会を、瞬間、喜ぶ。
しかしその暇も無く、後ろからリゼル、メイベル、
コンラッド、ジーク、ソニアが到着。
「メイベルも来たのか!?」
一応、ケヴィンを通して、数回ほど
面識のあったメイベルに対しても、
ラティシアは驚いた。まさか前線に
出てくるとは思わなかったのだろう。
脚の一本を両断され、もがくスプレッダーを尻目に、
メイベルは訊いた。
「ラティシアさん……なんで私だって分かってるんです?」
「アーマー着てても、匂いで分かる!」
自らの怪我も忘れ、ラティシアはニカッと笑った。

一方のミゼラブルの方にはユイナ姫、ライナス、テディ、
レイリア、エイリア、シルヴィアが到着。
「レイリアさん、エイリアさん!
 来てくれたんですね、ユーリさんも!?」
流石にユリシーズらしき人物の姿にはミゼラブルも驚いた。
しかし、それはライナス。ユリシーズの孫なのだ。
「祖父を御存知なのですか?」
「あ……そうか。年齢的におかしいですもんね。はい、知ってます。
 察するに、ジーニアス家直系の方ですよね?」
「そーだよー、彼はライナス=ジーニアス。お孫さんだよー」
と、レイリアが明るくフォローする。
「そんな事やってる場合じゃないでしょ!」
エイリアが激怒する。スプレッダーがもがくのをやめ、
再度進行を続けようとしていたからであった。

「ヒールシューター!!」
シエルと、シルヴィアの呪文が唱和し、
ミゼラブル、ラティシア共に立ち上がった。
「よし、動けるぞ、ありがとう、シエル!」
「お姉ちゃん達のためだもの、これぐらい当然なんだから!」
シエルは我が意を得たりとばかりに、テンションを自ら上げる。
「助かります!」
ミゼラブルも勢いを増した。
「お姉ちゃん……亜人族なのに?」
ソニアが事情を理解していないのか、訝る。
ユイナ姫が戦いながらではあるが事情を説明する。
「あのラティシアさんという方は、ジル君のお母様の養女なんです。
 ですから、戸籍上は、あの方はジル君とシエルのお義姉様ですよ」
「そうなんだ」
合点がいった顔で、ソニアも気迫を強める。
「だったらますます許せなくなってきたわね、スプレッダー!
 私の大事な人の身内を傷付けた罪を一つ加えさせてもらうわよ!」
ソニアは勢いの波に乗り、総力戦へと加わった。
数、質共に勇者軍主力部隊は以前の比ではなくなっていた。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉん!!」
スプレッダー成体は再度、電気ケーブルを引き千切り、
それを身体に巻きつける事によって帯電を始めた。
ばぢッ!
そして放電。しかしジークがそこに立ちはだかる。
「雷の相手なら任せろ!!」
一身に電流を受けるが、軽くのけぞる程度で収まった。
守護精霊における耐性というのは、それほどに強固なのだ。
「うむ! ぬるいな!!」
ジークはニヤリと凄んでみせた。
「うむ! じゃねぇだろうが!!」
コンラッドが先行し、弓による乱射を叩き込む。
リゼルの攻撃魔法や、テディのハンマーなどがそれに続いた。
「安心するがいい! これからが本番だ!」
ジークはスプレッダーによって
流し込まれた電流をそのまま帯電させ、
更に魔力を注ぎ込み、増幅させた。いわばスプレッダーのおかげで
奇しくもパワーアップしたような状態になっていたのだ。
ジークはユイナ姫を勝手に愛馬チトセから降ろした。
「ひゃッ!?」
「すまん、一分ほど借りるぞ!」
「後で返して下さいよ!?」
ジークは騎乗すると、チトセのスピードに任せて疾走する。
そのままの勢いで斧を叩き込み、甲殻へと食い込ませた。
「奥技! ボルトコンダクション!!」
ばぢばぢばぢッ!
スプレッダーの放った数倍もの電流と電圧が、斧から直接
スプレッダー成体の体内へと流し込まれ、大きく痙攣するスプレッダー。
そのあまりの電力に、攻撃を加えていた
主力部隊も慌てて離れたほどだ。
「ひゃッ!?」
一番近くにいたメイベルも感電してはかなわないとばかり、
何故か近くにいた四匹の仔猫達を抱えて高速離脱する。
(どうも地味に攻撃を加えていたらしいのだが)
痙攣したのを好機と見て取ってか、
ジルベルトとライナスが先頭に立ち、
かたやストレンジャーソードで、かたや『疾風剣』の連続使用で、
多脚のことごとくを容易く切り裂いてしまった。
最後の一本は、二人で十字斬りとばかりに斬り捨てた。
すたん!
ジルベルトとライナスは近くに着地した。
ぱんッ!
身長差故に、少々無理があるが、二人は無言でハイタッチをする。
そして、ジルベルトの意志を受け、シエルが伝達する。
「お姉ちゃん! トドメよ!!」
「分かってる! デスヴォイスシャウトを食らえ!
 うぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」
強烈な重低音から、極端な高低音へと移行しつつも、
ミゼラブルは絶叫した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
そのあまりの超音波に、端末の通信機能が一時遮断され、
地盤に影響を及ぼし始めた。若干の地割れと共に、
スプレッダーが痙攣しながらも更にもがき苦しみ始めた。
データによるとスプレッダー成体の聴力は
人間のそれを大きく凌駕する。
そのスプレッダー成体にとってはたまらない威力であろう。
なにせ、誰一人、この音波攻撃スキル『シャウター』の前には
耳を塞がずにはいられないのだから。
更には物理的な破壊力となり、なんと尾殻まで破壊し始めた。
「うおおおおおおッ!!?」
声量――否、声圧に苦しむのはスプレッダーだけではなかった。
怒りの声がダイレクトに脳に響く。頭痛までしてきた。
「ぬおおおおッ! 頭が痛い!?」
たまたま一番近くにいたテディがのたうち回っていたが、
彼の悲鳴などとっくにラティシアの声量でかき消されていた。
息が続かなくなり、いい加減声を止めた頃には、
既に甲殻の大半が割れたりしており、流石のスプレッダー成体も
度重なるダメージで虫の息となりつつあった。
「ミゼル、幕引きだ!!」
「分かってる、ラティシア!!」
ミゼラブルが跳躍、幼生体より遥かに大きなコアを目視した。
しかしそのコアさえも、大きな損傷を受けており、限界寸前だった。
「無情拳・画龍点睛撃!!」
がごん!!
ミゼラブルの鉄拳が飛ぶ。
この一撃によって、コアに更にヒビが入った。
ミゼラブルの構えが変化した。
「お父様の技の真似なんて出来たことなかったけど……今なら!!」
ミゼラブルの全体重が拳に乗り、魔力が込められ、放たれる。
「亜人族筆頭専用最終奥技!!」
ミゼラブルの目に光が宿る。それこそが一撃の証だ。
「怒号拳! タイタァァァンパァァァァァァァンチ!!」
あまりにも愚直で、しかしそれ故に恐るべき破壊力の怒号の拳が、
コアどころか、その下にある筋肉組織ごと破壊する。
「おおおお……おぉぉん…………!!」
世界中を悩ませたスプレッダーのボスであろう成体は、
ここ、亜人族の里にて駆逐されたのであった。
「やった! やったわ! ジルベルト君!」
ソニアは手放しで喜び、ジルベルトを抱きしめた。
「ずるいですよ、ソニアさん!」
ユイナ姫までくっつきにかかり、ジルベルトはワケも分からず
真っ赤になって困り果てた。
「こらこら、青少年をびっくりさせるな」
と、ラティシアがジルベルトとシエルをまとめて抱きかかえる。
半ば奪い取るような形であった。身内だという主張かもしれない。
(姉さん……)
「お姉ちゃん!」
抱き合う三人を他所に、シルヴィアがラティシアのシャウターによって
一時通信遮断された端末の復旧作業にかかっていると、
リゼルが血相を変えて近寄ってきた。
「シルヴィアさん……これは……!?」
「……敵、ですかねぇ?」
と、二人が警戒色を示したところで、全員に再び緊張が走る。
「敵だと!? スプレッダーの幼生体か何かか!?」
今回大活躍のジークも、慌てて身を乗り出し、
一箇所に集められた全員の端末を見る。
「ミゼル! あの怪獣の成体じゃないなら、どうとでもなる!
 今のうちに、ある意味今度こそちゃんと皆を避難させてくれ!」
ラティシアの指示に、ミゼラブルが困惑する。
「ラティシアはどうするの!?」
「勇者軍、またラティシア、助けてくれた!
 だから、またラティシア、恩を返してから戻ってくる!」
「……分かった。止めない。行ってらっしゃい!!」
ミゼラブルは被災者を改めて避難させるために、ここで別れた。
「で、反応は一体何なんだ!?」
コンラッドが苛立って端末を見る。
「反応は人間大。ただし相当数の数がいます。
 まっすぐスプレッダー成体の死骸に向けて動いています。
 進路予測上、残り三十分以内で我々と接触しますね」
と、冷静にリゼルが分析した。
「です」
無駄な一言をシルヴィアが付け加えるのは無視して、
ユイナ姫が結論を出した。
「ウィルスユーザーズ、ですね。恐らく大部隊なのでしょう。
 ビーム・カーテン改部隊を避難させて下さい。
 除去には時間が必要です。
 ビーム・カーテン改を破壊されては元も子もありませんから」
「よし、俺が伝える!」
テディの鳩がまたやってきて、情報の伝達を行うようである。
実に便利なのは皆が認めるところであった。
一方のシルヴィアとリゼルはスプレッダー本体から抗体のための
サンプルを懸命に採取していたが、
それも数分で終わったようである。
となれば、後はウィルスユーザーズからこの成体の死骸を
奪還されないために防衛し、その後除去すれば一連の騒動に
一応の決着は着くだろう、という結論に至ったのであった。

勇者軍とスプレッダーを取り巻くウィルスユーザーズとの戦いは、
修羅場へとステージを移そうとしていた。



<第八章-第三幕- へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:16