第十一章-第二幕- 虚ろな交渉のテーブル
新たにキョウカ王妃を加えたジルベルト達
勇者軍主力部隊は、
速やかに
アイリーン・マフィア方面への移動を済ませ、
もう既にアイリーン・マフィアへと来訪しようとしていた。
「すみません……もう少し引き止めておけば、
遊びに来てたコンラッド君も
今すぐ参戦出来たと思うんですけど……」
と、申し訳なさそうにメイベルが言う。
「構わないわ。でも一応連絡だけは続けてもらってね。
レッド・ワイズマンMk-Ⅱがあるのと無いのとでは
海洋戦力そのものが根本的に変わってくるんだから」
「ウチの構成員の人にやってもらっています……」
ソニアは思ったより人員集めが上手くいかない事に嘆息していた。
そしてアイリーン・マフィア内部。
『お久しぶりですー』
「おう、ジルベルト。相変わらずのようだな」
ジルベルトは礼儀正しく挨拶し、叔父ケヴィンは微笑んだ。
「早速ですけどお父様……あの二人を呼んでいますか?」
と、メイベル。どうやら先に言っていた『友達』を呼んだらしい。
「ああ。俺の権限で呼んでおいた。
そのうち来るから待っておいてくれ。
ソニア、それにルシアもそれでいいな?」
「はい」
「分かりましたっ」
「それと……」
ケヴィン、グスタフ両名、膝を付いて挨拶する。
「キョウカ王妃殿、お久しぶりです、
この度は随分と難儀な目に遭われたようですが……」
「我々アイリーン・マフィアは総力を結集して、
本部奪還の協力に当たらせていただきます」
「そっ、そんなかしこまらないで下さいな……
なんだか恥ずかしくなってまいりましたわ。
私、そんな大層な人間でもありませんから……」
顔を真っ赤にして二人を嗜めるキョウカ。
どうやらキョウカはあまり飾り気の無い人物であるようだった。
「はっ、では軍礼のみで失礼させていただきます。
ところで、主力部隊の主目的をお聞かせ願えますか」
あくまで丁寧なケヴィンに対して、ジルベルトが一歩前に出た。
やはり
リーダーなのか、場をまとめようとしているのだろう。
『主目的は戦力の結集なの。敵のメインターゲットは
レイリアさん、エイリアさん二人だけみたいだから、
僕達は何としても二人を守る必要があるのー』
と、メールで素早く的確に説明するジルベルト。
「……勇者軍
メインメンバーの
引き渡し要求をしてきたということか。
それはまた随分と穏やかじゃないな。応じる姿勢が無ければ、
敵はその他のメンバーにも
手を出してきかねないという事なのだろう」
「だが、ケヴィンよ。その両名を引き渡すなどというのは論外だ。
そもそも引き渡した場合、
生命の保証はまったく出来ないだろうし、
エドウィンの頃から戦い続けた当代最強レベルの人材を失うなど、
勇者軍としては断じて認められる事態ではない」
「おじいの言う通りだ。可能な限り戦力を結集させるぞ。
俺やおじいが直接出向くのは無理だが、ここから通信網を建て直し、
出来るだけ多くの
サブメンバーをジルベルト達に合流させよう」
どうやら方針は決まったようである。
だが、彼等が思っているよりもすぐに事態は動き出す。
「敵襲! 敵襲だーッ!」
兵士達の絶叫が周囲にこだまする。
ばばっ!
全員が立ち上がる。対応を協議する必要は無い。
慣れた防衛戦である。直接指揮を執るケヴィン、グスタフを置いて、
一同は速やかに外へと出る。
「わわっ!?」
ルシアは外を見るや否や一歩退いた。凄まじい敵兵の数である。
よほどの資金力をバックにしているのだろう。
規模で言うなら、前戦役の
ウィルスユーザーズ並か、それ以上だ。
流石にウィルスユーザーズの主力部隊ほどではないが、
敵兵の数は百ではきかないほどだ。
「くっ……人海戦術か……
惑星アース国際平和機構も
アーム城もそうやって襲われたってのに……ワンパターンね!」
ソニアも呆れているが、事は楽ではない。
すると無造作にキョウカが前に出てきた。
「ちょっ、キョウカさん、危ないですって!」
「まずは交渉です。それに何かあっても、必ずあなた方が
守って下さるのでしょう? 駄目なら退きますわ」
ソニアの制止も聞かず、キョウカはどこから持ってきたのか
拡声器を取り出して交渉へと入った。
「どこのどなた達かは存じ上げませんが、
惑星アース国際平和機構への攻撃を
強行した方達とお見受けしますわ。
是非、ここは話し合いの余地を持つべきと思いますが……」
どうやら敵部隊の隊長と思しき人物がそれを聞いて前に出た。
隊長と言っても末端レベルのようで、敢えて名乗りはしなかったが……
「惑星アース国際平和機構のカザミネ長官とお見受けする。
その前に、何故貴女が勇者軍の拠点にいるかを問い正したい。
その回答如何によっては問答無用で攻撃を加えさせてもらうぞ」
「どうやら御存知無いようで……私のフルネームは
キョウカ=カザミネ=ザン=アーム。
アーム王家当主、
イスティーム王が妻であり、
同時に勇者軍情報部少将でもあります」
「……そういう事か。難儀となって身内を頼りおったか。
まあいいだろう。聞くだけ聞いてやろう。言え」
その横着な態度に後方のジルベルト達はかなりムッとしたが、
キョウカは構わずに話を続けた。
「何故、勇者軍のメインメンバー、
レイリア=ルスト及びその妹
エイリア=ルストの両名を
それほどまでに欲するのかをまずは問いましょう」
「それをそちらが知る必要は無い。ただ、引き渡せば良い。
そうすれば当面の間、勇者軍への攻撃は控えよう」
「当面の間? それでは交渉にもなりませんわ。
それに自衛互助組織である勇者軍のメンバーとしても、
両名の引渡しは断固として容認出来ません。
そのような下劣な行為は、身内を売るに等しい行為ですわ」
「話にならんな。やはり問答無用に攻めるべきだった。
だが交渉しようという努力だけは買ってやろう。
俺達が直接あんたに攻撃を加えるのだけは無しにしてやろう。
とっとと後ろにすっこんでいるがいい」
「……平行線ですね……」
交渉が失敗し、すごすごと引き返すキョウカ。
どことなく哀しげな表情だったが、
諦めの色は見せてはいなかった。
「ごめんなさい、ジル君。せめて私なりに
役に立ちたかったのですが……
どうやら相手はかなり強行な姿勢を取っているようです。
レイリアさん、エイリアさん両名確保後の対応は不明ですが、
恐らく人道的な扱いはされないのは明白でしょう……対応を……」
『分かってるの』
ジルベルトの目に緊張が走る。それにつられて
メイベル、ソニア、ルシアも
実に多数の相手と戦わねばならなくなった。
キョウカが建物内に入るのを確認すると、敵兵が動き出した。
きっちりと約束は守る辺り、
最低限の倫理だけは持っているらしいが、
それがレイリア、エイリア両名にまで及ぶ保証はどこにもない。
もはや直接戦闘は避けられなかった。
「目標、アイリーン・マフィア内部の捜索だ!
たとえ勇者軍だろうと、邪魔者はすべて蹴散らせ! 突貫!」
「末端レベルの雑兵風情が何を偉そうに!
勇者軍メンバーを拉致監禁しようだなんてふざけたこと、
許しておくわけないでしょうに! 背水死守!!」
ルシアの号令で、全員が散開。
四方から包囲していた敵勢力に対し、
四人での真っ向勝負が始まった。
最終更新:2011年02月20日 21:46