第十一章-第一幕- 長官救出戦
ジルベルトを筆頭とした
勇者軍主力部隊の構成員は
現在、ジルベルトの実質上の恋人ソニアとその姉ルシア、
そしてジルベルトの従兄妹であるメイベル。
それと、新しく『
あんみつ』を加えた五匹の仔猫達であった。
彼等は襲撃され、脱出した
惑星アース国際平和機構長官とされる人物との合流を
初期作戦案とし、それを所在の明らかなメンバーに
公表した後で、すぐに動き出したのであった。
とりあえず惑星アース国際平和機構の本部があったとされる
シャンゼリー王国領内へと向かうべく、
まずは東進を開始した勇者軍だった。
ストレンジャー・タウンからの直線方角は、
北を0時方向と表記するなら、
大体2時方向と表現すれば、大体間違っていない。
しかし急いで走るというような事を彼等はしなかった。
走る事に全力を注いでいれば注意力は散漫になり、
見つけられるであろう脱出機を
スルーしてしまう可能性があるからだった。
とはいえ、長旅ではメイベルの
スカーレット・アーマーは重すぎる。
ブースター機構でむしろ楽を出来る状態でなければ、
あるいはジルベルトも彼女を置いて来たかもしれなかったが、
やはり相手の戦力も不明な以上、戦力減は避けたかった。
そんな中、ソニアは懸命に端末をフル稼働して
近隣に勇者軍メンバーがいないかを探していたが、
レーダーには誰も引っ掛かってはくれなかった。
最寄は
フェンリル・ヴィレッジではあるが、
そこに在住しているはずの
シルヴィア=スターリィフィールドは
現在
アーム城勤務であって、
先のアーム城襲撃ではフォローをしていたはずだ。
即ち同じ場所に勤務している
リゼル=ジョルダも然り、である。
「……駄目ね、誰も応答してくれないし、近くにもいないわ。
出来ればもう2、3人ほどいてくれると助かったんだけど」
ソニアが投げやり気味に嘆息しながら端末をいじる。
「弱気になっちゃ駄目よ。
私達は人類史上最強の私設軍なんだから。
どこの誰だか知らないけど勇者軍関係者に
手を出すなんて迂闊だってことをこれでもかってぐらいに、
分からせてやらなきゃならないんだから」
「分かってるわよ、お姉ちゃん。でも
スプレッダー戦役の時の
ウィルスユーザーズの人海戦術の例もあるし、
団結しとけるとこはしとかないと不安じゃない?」
と、そこに割って入るジルベルト。
『大丈夫。ソニアさんには僕がいるから、一緒なら負けない』
と文章で言いつつ、彼女の頬を手で撫でる。
「ちょっ……もう、馬鹿! 人前でなんてこと言ってくれんのよ!」
こっ恥ずかしさにソニアは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「……いつもこんな感じですか?」
メイベルはルシアに質問した。
「概ね相違無いわ。まったくもう、って感じなんだから」
「はあ」
何となく緊張感が無いジルベルトを筆頭にそのままの行軍が、
あと数日は続くと思われたが、事態はそう甘くもなかった。
ぐぉぉぉぉぉ……ん……!
前方数キロほどに、失速して不時着寸前の航空機を発見したのだ。
ご丁寧な事に煙まで吹いて炎まであがっており、
明らかに事故で受けた損傷ではない事も一目瞭然だった。
どうやらストレンジャー・タウンを目指しているらしいが、
このままでは不時着しか無いだろう。
最悪、墜落の危険性もある。そう一同が思案している間にも、
危うく小型
ミサイルらしき物体が輸送機をかすめていった。
寸前でチャフとフレアを撒き、誘導から逃れたようである。
だが、それも束の間、その後方から戦闘機らしきものが現れ、
機銃による直接攻撃を仕掛けてくるような動きを見せた。
「ひょっとしてアレじゃないの!? 長官さんの脱出機って!」
ルシアが叫ぶや否や、この中で唯一空中機動の可能なメイベルが、
瞬発力に長けたソニアを抱えて飛ぼうとした……
「って、私怖い私高いの駄目私無理ー!!」
が、高所恐怖症のソニアは素早く拒否したため、
メイベルは長距離射撃能力の高いルシアを抱えて飛翔した。
「おおっと、私なの!?」
「急ぎます……ブースター・オン・パワー!」
きゅごッ!
ルシアを抱えて、スカーレット・アーマーを着たメイベルが飛翔。
あっという間に墜落寸前の脱出機へと取り付いた。
「たく、この肝心な時にドルカスはいないんだから!
あいつがいればデリバリー・
ランチャーで
ジルベルト君も来られるのに!」
機体上部に立ったルシアは
愚痴をこぼしながらも敵の確認を始めた。
戦闘機が三機。いずれも機械そのものの精密な動き。
無人機のようだ。それで合点がいった。
優秀な
パイロットが本気で追撃にかかっていたのなら、
ストレンジャー・タウン付近に来るまでもなく
とっくに撃墜されていたであろう。
所詮は量産物のAIというところだろう、と推察した。
「メイベル、中央の一機だけ任せるわ。左右の二機は任せなさい!」
「はい!」
ルシアを降ろしたメイベルは再度飛翔し、
鎌による直接戦闘のために中央の一機へ向かっていった。
対して敵戦闘機のAIは人間が航空戦力に対抗する事を
想定されていないのか、こちらを敵とさえ
認識していないようであった。
つまりは相手にされていない。これは論外の侮辱に映った。
「
ウォーターキャノン!!」
ルシアは怒気を込めて水圧の魔法を叩き込み、
一機を問答無用に粉砕する。間髪置かずに弓を構え、
乾坤一擲の一撃を、敵のエンジンへ叩き込んだ。まず二機。
ほぼ同時にメイベルが鎌によって、
真正面から戦闘機を丸ごと叩き割った。
真っ二つになった戦闘機は空力制御を失い、
爆発する前にバラバラに砕けた。
「よし、こんなモンかしらね」
ルシアはどうという事も無げに弓をしまう。
その光景を遠目に地上から見ていた
ジルベルトとソニアは喝采の拍手を送る。
「やったあ! さっすが、やるわね!」
『あの二人ならきっと楽勝』
と、のんびり見ていると、事態は急変した。
「えっ?」
ソニアが一声あげる間もなく、瞬間――
ずぼぉぉぉぉぉん!
「わわわッ!?」
脱出機が更に大きく爆発し、火を吹き始めた。振動によって
機上のルシアはすっ転び、あっさりと空に放り出された。
「ルシアさん!!」
メイベルは速やかにブースターで追跡し、ルシアを再度抱えあげた。
「ふぃー、流石に私もこの高さから落ちたらタダじゃ済まないしね。
あんがと、メイベル。助かったわ」
「そんな……たいした事はしてません。この鎧のおかげです。
それより、長官さんの脱出機かもしれない輸送機が……!」
「もう手出し出来ないわ……祈りなさい、不時着するのを」
「…………」
急降下し始めていた機体は何とか持ち直し、
高度こそ著しく下がったものの、
何とか不時着だけでもと懸命に足掻いているようであった。
それからほぼ一分後――
ずがががががががががががががが!!
凄まじい轟音を立てて、主翼両方が周囲の地形で折れながらも、
何とか脱出機『ブリッドライク』は不時着に成功した。
「無事……なのかしら……」
先に不時着地点に到達していたジルベルトとソニアは、
不時着した脱出機に踏み込もうとした。
しかしそうするまでもなく、脱出機からは
多くの人員……恐らくはSPであろう人物達が
周囲を警戒するかのように脱出機から何とか出てきた模様である。
機長や副機長と思しき人物までもが銃を握っている始末だ。
明らかに要人警護の構えだった。
「君達は……誰だ? どうやら私達を
追撃から守ってくれたようだが」
機長らしき人物がこちらに近寄り、恐る恐る声をかけてきた。
「不時着寸前の機体があったので救助行動に移りました。
私達は、勇者軍です。そしてこの子が――」
「勇者軍筆頭、
ジルベルト=ストレンジャー君。そうでしょう?」
ソニアの発言に女性の声が割って入った。
最後に機体から出てきた女性だ。物腰の柔らかい印象だが、
それと同時に儚さを連想させる人物でもあった。
その人物を目視するや否や、ジルベルトの顔が輝く。
明らかに知己の人物への態度だ。
『ユイナママだー!』
メールでソニアに向けて知らせつつも、
自らはぴょんこぴょんこと跳ねながら、
ユイナママと呼んだ女性に抱きつく。
「ユイナ姫のお母さん……?」
ソニアは一瞬びっくりしたが、
それならばジルベルトの態度も分かった。
二人は幼馴染み同士であり、小さい頃から知っていたのだろう。
とはいえ、明らかにSP達が警護しているのはこの人物である。
即ち、惑星アース国際平和機構の長官とはこの人の事なのだ。
「大丈夫なの!?」
そのタイミングでルシアとメイベルが帰ってきた。
「大丈夫みたいよ。でも驚いたわ。
助かったのがユイナ姫のお母さんで、
しかもそれが惑星アース国際平和機構の長官みたいなのよ」
「ええっ!?」
ルシアは愕然としたが、メイベルは平然としている。
恐らくは事情背景としては知ってはいたのだろう。
ただ、今に至るまで忘れていただけかもしれない。
そうこうしているうちに抱擁も終わり、長官が語りかけてきた。
「速やかにして的確かつ完全なる対応に感謝します。
私は惑星アース国際平和機構長官兼
ザン共和王国王政部王妃兼
勇者軍情報部所属、
キョウカ=カザミネ=ザン=アーム少将です」
思わず舌を噛みそうなぐらい長い肩書きをすらすらと言うキョウカ。
「勇者軍に預けられるのなら長官殿も安心だ。
我々は負傷者への対応にすぐさま当たりますが、よろしいか?」
「ええ、機長。ここまでありがとうございました。
更なる追撃が来ないうちに、
私の近くから全員離れるように通達を」
「はっ!」
機長達への気配りも済んだようである。
脱出した人員達はキョウカを置いてすぐさまその場を離れた。
『ユイナママ、一体何があったの?
アーム城も攻撃を受けてるみたいなのー』
小動物的な愛嬌には抗い難いのか、
思わずジルベルトの頭を撫でつつ……
「私達には一体何故襲撃を受けたのか、皆目検討がつきません……
ただ一つ言える事は、次回以降の襲撃に備えて、
速やかに戦力を可能な限り結集しなければならないという事です。
どうも情報では
妖精の森のレイリアさん、エイリアさん両名が
敵のメイン・ターゲットだという情報を聞いています」
「キョウカ様……こちらの情報も同じです……」
と、メイベルが切り返すと、キョウカは頷いた。
「とすれば、合流可能な戦力を可及的速やかに結集し、
何としてもその両名を守り抜く事が
本作戦の主目的となるでしょう。
そちらのお二方は初めましてですが、よろしくお願いします」
「あっ、はい! 妹共々よろしくお願いします!」
「頑張ってみます!!」
ルシアとソニアはキョウカの気品に押されたのか、
ガッチンガッチンに緊張しまくっているようだった。
「とは言え、レイリアさん、エイリアさん両名との合流は困難です。
戦闘のゴタゴタで通信網がズタズタに寸断されています。
復旧期間には数日から数週間の範囲で誤差を見積もらなくては……
今はとにかく、近くの戦力を集めましょう。
それから、私も付いて行きますけど……その……」
急に頬を赤らめて口ごもるキョウカ。
『どうしたのー?』
「すみませんけど、私、その……
虚弱なものでして、戦闘とかは
一切出来ないんです……すみませんけど……
守って下さいね……?」
ジルベルトはそれを聞いてどや顔でキョウカの前に立ち、
『みんな強いから非戦闘員一人守るのぐらい何とかなるのー』
と、足りない背をめいっぱい伸ばして
キョウカの頭を撫でるジルベルト。
「相変わらずいい子ですね、ジル君は。流石は総帥のお子様です」
キョウカはにこりと微笑んだ。
「とりあえず作戦の第一段階は予想外だけどもう終了したわ。
キョウカ長官……王妃……少将……
どれで呼びゃいいか知らないけど、
合流も成功したし、まずは仲間を集めなくちゃ!」
「ソニアの言う通りね。メイベル、近くに誰かいないの?」
と、急に話を振られたメイベルだが、
うろたえつつも思い出したようで、
「私の家の近くに勇者軍
サブメンバーの友達が住んでいるんです。
たぶん接触できれば力になってくれると思います……」
『じゃあまずはその人達だー』
と、ジルベルトが律儀にメールで決定する。
「それじゃあ行きましょう! ジルベルト君!」
『うん』
「目標、
アイリーン・マフィア本部! 進軍開始!!」
ソニアの号令で五人と五匹は足を再び進め始めた。
最終更新:2011年02月26日 22:02