第十八章-第一幕- 戦況確認






勇者軍主力部隊は、マキナの逆撃を阻止し、
キョウカ王妃の治療を済ませた後、アーム城に入る事になった。
とりあえず、ゆっくりと半日休暇を挟み、
各自疲れを癒したが、それほどのんびりしてもおられず、
すぐに会議室へと入り、今後の方針を固める事にしたのであった。
「久しぶりだな、バスクにフローベール。待っていたぞ」
会議室に入るなり姿を見せたのは研究部のランドルフ氏である。
かの鉄人ジェイラス=ランドルフ退役中将の息子であり、
フローベール、バスクの両名にとっては祖父にあたる人物であった。
前戦役でもソニア加入の際に色々と便宜を図ってくれた人物である。
「じーちゃん!」
「おじいちゃん! お久しぶりです!!」
「はっは。元気でよろしい。しっかりやるのだぞ」
「うん!」

久々の再会劇はともかくにして、すぐに状況説明に入るのは
キョウカ王妃とユイナ王女を連れたイスティーム王だった。
その後ろには、総帥エリシャと、
その夫ノエルも暫定的に参加している。
今後のケーススタディにするためかもしれない。
「各員、着席」
イスティーム王の指示で、全員が着席する。
立っているのは説明を行う予定のイスティーム王だけである。
「ではこれより、ネイチャー・ファンダメンタルに対する
 制圧作戦のための戦況確認と状況判断を行いたいと思います。
 まず、ネイチャー・ファンダメンタルの戦力についてですが、
 何か、意見のある人はどうぞ?」
そう言うと、サイモンが挙手して立つ。
「僕の推測では、しばらく前のウィルスユーザーズとほぼ同じく、
 幹部と見られる人物はそう多くないだろう。
 デウス=エクス=マキナを除いて、六名だったはず。
 だが人海戦術に必要な兵力となると
 ウィルスユーザーズに対する報告例を鑑みるに、
 比較にならない兵力を保有していると思う。
 惑星アース国際平和機構本部、アーム城、妖精の森への
 三正面同時人海戦術奇襲作戦の決行及び、
 これまでの報告書にあった奇襲の多重作戦などを
 根拠に挙げていいと思う」
それに伴いヴァジェスも立ち上がる。
「加えて幹部共の実力も侮れん。油断していたとは言え、
 ジルベルトもひどい被害を受けている。マキナ本人に至っては
 あれでドラグーン形態の竜族だというから空恐ろしい話だ。
 いったい竜族本来の姿がどんなサイズか、想像もつかん。
 間違いなく先のスプレッダー女王体同様、最大の難敵になる」
その意見に一同、頷く。
「では、それに対する我々の主軸であるメインメンバーだが、
 これはストレンジャーソードを筆頭とする各家の家宝が
 遂に持ち出される事により、より一層強化されている。
 ただし、スターリィフィールド家ルスト家の家宝は
 使い手が現在不在のため、2家系の家宝を欠く事になる。
 特にヒーラーたるレノールがいないのは不安材料なので、
 各自、可能な限り負傷を避けて戦いたいところだな」
『母上は来ないのー?』
ジルベルトが疑問を抱くが、エリシャは首を振る。
「ごめんなさいですの、ジルベルト。
 私は雑務を溜め込み過ぎて、これから
 すぐ宇宙に戻らねばなりませんの。
 ストレンジャーソードを届けるという
 必須事項が無ければ来てはいませんでしたの。
 でも、おかげでキョウカ王妃が助かったのは幸いでしたの」
と、苦笑するエリシャ。ノエルも同じのようだった。

イスティーム王はその流れを確認すると、続けて話を進める。
「情報部に詳しく調査させたところ、先に主力部隊が潰した
 ネイチャー・ファンダメンタルの拠点はそもそも彼等の
 本部と呼ぶべき施設だったらしいですが、
 今は強奪したクルーズ・シティ郊外にある、
 惑星アース国際平和機構本部を実質的本部とし、
 基地機能をあらかた移行しているらしいですね」
これに対しては一日の長のあるキョウカ王妃が挙手する。
「やはり私が行きます。色々いじられているとはいえ、
 流石に元の建物はそのままですから、私が案内に立ちます」
「いけないです、キョウカ。危険ですよ」
「いいえ、元帥閣下。元々あそこは私の居場所のひとつ。
 そのために最大限の力を尽くしますわ……」
「……分かりました。ならば私が出ます!
 ユイナ。あなたが出るべきだった
 本来の予定とは違いますが、城の守りを任せますよ」
「分かりました、お父様」
イスティーム王は立ち上がり、一本の杖を取り出した。
「これこそ我がアーム王家の秘宝、幻杖レプリアーツ
 魔力許容量の分だけ、魔法のみならず、
 各個人の特殊技まで完全に吸収し、放出する杖です。
 キョウカ、この杖であなたを守りましょう」
「はい!」
キョウカ王妃が心底嬉しそうに言う。
夫唱婦随など、久しぶりだと言わんばかりに。

「……陣」
そこでゼクウがぽつりと一言漏らす。
『敵の布陣がどうなっているのか分かれば突入しやすいんだって』
ジルベルトの翻訳が入る。するとコンラッドが立つ。
「それに関してはレッド・ワイズマンMk-Ⅱのクルーに
 各地を偵察させているんだが、敵は大元の本部を失った事で、
 惑星アース国際平和機構本部施設への戦力を集め始めた。
 そのうちのかなりの数を俺等への
 進攻妨害に当ててくるだろうぜ」
ドルカスが状況を勘案し、一計を案じる。
「だったらレッド・ワイズマンMk-Ⅱを使いましょう。
 そもそも勇者軍の行軍は、なんか知らないけど
 道なりに進む事が多すぎるように思うの。
 まあ大体が仲間を集めつつの行軍になるから仕方ないけど、
 今回は戦力もある程度以上集まっているみたいだし、
 惑星アースを一周するような行程より、
 アーム城から北上して最短ルートで
 クルーズ・シティ方面に乗りつける方がいいわね。
 乗り物酔いしやすいユイナ王女も来ないわけだし」
「それもそうだな。じゃあ呼んどくか」
コンラッドが端末を使い、母船を呼び始める。
「では、コンラッドのレッド・ワイズマンMk-Ⅱが到着次第、
 我々はネイチャー・ファンダメンタルから
 惑星アース国際平和機構本部を奪還し、
 キョウカ王妃及び、機構関係者への返還作業へと移行します!
 作戦開始までは各自自由行動とします!! 解散!」
イスティーム王が宣言すると全員が立ち上がる。

と、いきなりキョウカ王妃がふらふらし始めた。
ユイナ王女から直接輸血を受けているとはいえ、相当量の血を
失っているのだから無理もない。
慌ててイスティームが抱き止める。
「ほら、無理をしてはいけませんよ、キョウカ」
すると、突然耳まで真っ赤になってうろたえるキョウカ王妃。
「すすすすすみません! 醜態を晒してしまいました!」
「いいから無理をしないで、ね?」
優しい抱擁に尚更動揺し、
遂に頭から蒸気まで吹き始める王妃。
ついでにあまりのこっ恥ずかしさに
ユイナ王女まで顔が真っ赤だ。
「あのあのあのあの……
 皆様見ていますから……ですからその……
 ここではちょっと……それは……恥ずかしい……です」
「夫婦ですから構いませんよ。さあ、ベッドで休んで下さい」
「~~~~~~~~~~ッ!!?」
ひょい、とイスティームがお姫様抱っこで抱き上げると、
キョウカ王妃の赤面ぶりは最高潮に達し、
くたりと全身から力が抜ける。

――どうやら失神してしまったらしい。

「……うわぁ……意外かも」
柔和でありながら、芯が強く、凛とした姿しか見ていなかった
ルシア、ソニアの姉妹が異口同音に呟いた。
「キョウカちゃんも相変わらずだねー」
「うむ、以前とまったく変わらん」
レイリアとエイリアの姉妹は慣れた様子で受け流す。

ぐぐぅー。
いきなり脈絡も無く、間抜けな腹の音を立てたのはバスクだった。
「フローベール。なんか食べ物ちょーだい」
「えー。今在庫が切れてるのよ、補給してなかったし。
 買い出しに行くから、その間待ってられる?」
「うー。腹減ったー」
「これでも吸う?」
そこに割り込んできたのはリュミエル。手にはつつじの花。
「……花の蜜を吸えってか? てか何で持ってる?」
即座にギースがツッコミを入れる。
「父さんと放浪生活してた頃は食べ物に困る事も多くてねー。
 これで気をよく紛らわせたもんなのよね」
「お前一体どんな親父持った?」
「吟遊詩人だけど?」
ギースとリュミエルのやり取りは軽く無視しつつ、
(しかしつつじの蜜はしっかりと吸いながら)唸るバスクに、
ユイナ王女が近寄ってきた。
「ね、何か作ってあげましょうか?
 お母様を助けてくれたお礼もしたいし」
「いいの!?」
心底嬉しそうに言うバスク。
「お腹すいてる人を見ると放っておけないんです。
 ちょっと待ってもらえればいっぱい食べさせてあげますから。
 私、これでも料理とか得意なんですよ?」
「ひゃっほー! ありがとう、ユイナ王女!!」
嬉々としてユイナ王女の後ろをついていくバスクであった。

「では、私達はこれで戻りますの」
「しっかりやるんですよ、ジルベルト」
エリシャとノエルが立ち去ろうとした中、ジルベルトと手を繋ぐ
ソニアの姿が、エリシャの目に留まった。
「……話には聞いていますの。あなたが
 ソニア=メーベルヴァーゲンさんですのね」
「あ、はい!」
急に改まって言われたので驚くソニア。
「息子は……ジルベルトはどうにも甘えん坊ですの。
 そのように育ってしまったのも私の業の成した事ですの。
 でも、あなたはそれを受け止めて下さいましたの。
 どうか、ジルベルトをよろしくお願いしますの」
「はい。これからも仲良くやっていこうと思います。
 お二人の分も頑張らせていただきますね!」
「武運長久をお祈り致しますの。
 では行きますの、ノエルさん」
「いずれ父のエドウィンにも会いに来させる予定です。
 その時も快く会ってあげて下さいね、ソニアさん。
 エリシャ、待って下さい、あまり先へ行かないで」
そう言うと、役割を終えた
エリシャ、ノエル夫妻は去っていった。

ともあれ、各々の事情をあらかた整理しつつある各員は、
いよいよ進攻のための英気を養うのである――



第十八章-第二幕-へと続く>
最終更新:2011年05月22日 21:20