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序章-第一幕- 絶対反逆の勇者





ロバート=ストレンジャーはたまたま立ち寄っていた
アーム城の城下町にて適当にぶらついていた。
ちょうど食事時も終わり、満腹ですこぶる機嫌もいいはずだった。
彼は、勇者軍筆頭……即ち『勇者』と呼ばれる存在であり、
任務も無いのにこんなところでうろついている理由は、特に無かった。
単純に賑やかな場所が嫌いではない、というのは大きいが、
それは特に理由としては成立しないだろう。

とりあえず防具屋に特注していた品を取りに来る、というのが
第一の目的であった。前から欲しがっていた物品だったが、
人間相手にはなかなか取引されるものではないため、
随分と予定より入手が遅くなってしまった特注のマントである。
「親父、発注した品は届いているか?」
店に入るなり、ロバートは店主に呼びかける。
「おう、隊長さん。随分と久しぶりだね。今しがた入庫したよ。
 しかし何だってこんな妙なもの欲しがるかねぇ」
とぼやきながら、店主は特注のマントを重そうに引っ張り出した。
「まあ強いて言うなら伊達や酔狂だろ。趣味だと思ってくれや」
「ふむ……まあこんなブツを伊達や酔狂で着れるのも
 あんたぐらいかもしれんが……お代は現金でかい?」
「いや、月末払いにしておいてくれ」
「あいよ。毎度!」
より上機嫌になったロバートは、さっそくマントを背中に着けて、
意気揚々と防具屋を出たのであった。

ロバート=ストレンジャー。
勇者軍リーダーの家系であるストレンジャー家直系の長男。
ストレンジャー家にしては、珍しくやや大柄である。
年齢は17歳。適当に切った黒髪の少年であった。
ただし剣の扱いに長けているはずの
ストレンジャー家としては異質な事に、
両足のホルスターに銃を収め、鉄甲で武装している。
もちろん彼自身、剣の扱いは得意中の得意だったが、
とある事情から、剣の使用を控えているのであった。

「……一泊してから帰るかな」
せっかく来たので、軽くのんびりしていこうという腹だったのだろう。
今夜の宿を探し始めるが、それがよろしくなかった。

ごつん。

道行く青年と肩がぶつかった。相手はいかにも柄が悪い。
「なんだ、おらぁ!? 誰だてめぇ!?」
青年はロバートの胸ぐらを掴みあげてくる。
周囲がざわめいて『またあいつかよ』というリアクションを取る。
「あぁ、気に障ったならごめんなさい、わざとじゃないんスよ」
一応体裁を取り繕って、ロバートも謝ってみせる。
「ごめんで済んだら警察が要らねぇ事ぐらい知ってるな、あぁ!?」
「いや、だから謝ってるんだから許してくれよ」
さっきよりは若干語気を強めてロバートが牽制するが、
相手は一向にお構いなし、ますます態度を硬化させた。
「悪いと思ってるなら治療費ぐらい払ったらどうだ、おらぁ!」
ごがっ!
「きゃぁぁッ!?」
一部のギャラリーが悲鳴をあげて逃げていく。明らかな恫喝だ。
というより殴られている。暴行、恐喝、双方該当するだろう。
「やだなぁ兄さん、こんな大通りで、ちょっと体裁悪いぜ?
 あんたも大人だろ? 殴ったのは許すから、そろそろ引こうか?」
ロバートの語気も改めて強くなるが、やはり青年はお構いなし、
しつこく何発も鉄拳をロバートに叩き込んでくる。
実はほぼ『痒い』程度のダメージしか受けていないが、
いくらなんでも忍耐の限界というものがある。
ロバートは速やかに堪忍袋の尾を自ら切って、
ほぼ十発目ぐらいになろうかという鉄拳を素手で受け止めた。
「こっちが大人な態度示してやってんだから
 やめろっつってんだろうがオラぁぁぁぁぁッ!!」
ぼぎり!
そのまま相手の右手の骨を握り砕いた。
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
それで拘束を解くには充分だった。
だがロバートは攻撃をやめず、相手の頭を踏みつけた。
「ぎぃぃぃ!」
「兄ちゃん、相手が悪かったな。喧嘩は相手のツラ見て売るんだよ。
 そこんとこが分かってないと、ほうら、こうなる」
ぼぎん!!
軽く脛を蹴飛ばし、左足の骨を叩き折ってやる。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
のたうち回る青年だが、ロバートは暴行を止めない。
「九発殴ったよな? まだ二発だ。殴って欲しい場所を選ばせてやる!
 ただし俺が殴る前に言えたらの話だがなぁ!」
といいつつ、肘打ちで左腕の骨も叩き折った。
「三発! 四発! 五発!!」
次々と青年の骨が叩き折られていく。
もはや虫の息、抵抗は不可能だ。
あまりの惨状に、周囲の民間人も止める勇気すら出ない。

九発殴り終わった時には、きっちり九本骨が折れており、
もはや意識はとっくに無かったりする。
「ちっ、クズが粋がりやがる」
そのまま青年を打ち捨てて、悠々と歩き去っていくロバート。
警察がかけつけて、青年が確保されるのはその十分後だったが、
ロバートに対しては、何故かお咎めはなかったりする。

第一に先に手を出したのが青年であるという証言があったこと。
第二に、ロバートが勇者軍メンバーである事を
知っている証言があったこと。
治外法権の勇者軍に過剰防衛などという
瑣末な出来事は適用されないのである。
青年も絡む相手が悪かった、という事で
事件の未追及を承諾させられたのだった。
それはそれ、大した話ではなかったりする。

だが、このロバート自身の振る舞いは
勇者軍という自衛組織の度を超えており、
しばしば勇者軍の内部で問題になっている悪い態度であった。
自衛行為を著しく逸脱したこのロバートの行為、
しかも作戦本部のあるアーム城の城下町でこんな事をしておいて、
ただで済む理由は無いに等しかった。すぐさまアーム城から
ウォルフ=テオ=ザン=アームⅣ世王子自らが率いる、
追撃部隊が上司であるはずのロバートに差し向けられる事になった。
容疑は勇者軍軍規に対する反逆罪である。

だが、それを人づてに聞いたロバートは
むしろ上機嫌そうにしていた。
「いいぜ……面白くなってきやがったじゃねぇか。
 ウォルフの野郎が俺に反逆罪を適用するとかぬかすなら、
 やってやろうじゃねぇか、俺による、俺のための反逆をな!
 ふふふはははははは……! はーっはっはっはっはっはぁ!!」
心底面白そうに彼は笑う。この世の万物に反逆することを。
人は彼を呼ぶ。絶対反逆の勇者と。

アーム城城下街そばにおける勇者軍主力部隊VSロバートの戦いが、
今にも始まろうとしていたのだった。



<序章-第二幕-へ続く>
最終更新:2011年12月15日 01:34