第二章-第一幕- ゼン・ヴィレッジ消滅





ロバートがレオナを仲間に加えた直後辺りの頃、
壊滅したとされるゼン・ヴィレッジへと足を運んでいた
ウォルフ王子は、明らかに不機嫌な顔をしていた。
まず露骨に気に入らないのは、
ウォルフ王子当人も聞かされていなかった
ゼン・ヴィレッジ独自の惑星アース純血種限定定住政策の事である。
そんな馬鹿げた考えが未だに残っているとは思ってもいなかった。
あげくが迫害を末にロバートを招いての自滅である。
ウォルフ王子でなくとも、リアルに頭痛がしても仕方が無い。

その次に気に入らないのは村人の媚び諂う態度である。
異能者として自分達を嫌っているくせに、いざとなると、頼り、
平気で頭を下げてくるそのプライドの無さが気に要らなかった。
自らがクソ真面目な男、と評するのに相応しく、
曲がったことは決して許すつもりのないウォルフ王子だった。
随伴しているマリー=ジーニアスもそのウォルフ王子の空気を
感じ取って、神経質になっていた。
いくら自分の国の領民とはいえ、許せない事は許せない。
その思いが、ウォルフ王子という人物を端的に現している。

「ですから、村人達の生活の場の保障をお願いしますぞ!」
「そーだそーだー!」
自分達で災いを招いておいてのこの態度である。
本来の被害者であるギャラガー夫妻は、悔しさをこらえて
ジッと押し黙っている。ロバートに言われた通り、
何を言われようと最後まで事態を見守る覚悟なのである。
「……いいでしょう」
一拍置いてから、ウォルフ王子は頷いた。
「おお、では、村の再興を! 純血種達の村を再び!」
「黙りなさい!!」
遂に怒りが頂点に達したウォルフ王子が叫ぶ。
気迫だけで周囲の生き物が死んでしまいそうであった。
「あなた達のような身勝手な思想を放置してはおけない。
 一人残らずバラバラの地域に移住させるから覚悟しなさい!」
「そんな殺生な! 我々はこれ以外の生き方を知らぬ!
 異能者達の住む場所になど送り込まれて、
 我々が迫害されない保障など、どこにもありますまい!」
村長がめいっぱい抗議するが、意にも介さない。
「それは人という生き物を知らぬ愚者の台詞!
 人の事をあなた達は改めて考えてくる必要がある!
 人に揉まれ、人に溺れ、人に塗れて出直して来なさい!!」
鶴の一声を発してから、恐慌している村人は放置して、
ウォルフ王子は手だけでマリーを招き、
肝心のギャラガー夫妻のもとへ歩み寄る。

ウォルフ=テオ=ザン=アームⅣ世です」
(まあ必要は無いが)軽く自己紹介してから、頭を下げる。
「今までこのような不法行為を見つけ出す事が出来ずにいた
 我が身の不明と不徳、どうかお二方にはお許しいただきたい」
突然の態度に、こちらはこちらで恐々としている。
「いえ、そんな恐れ多い……!」
「どうか頭をお上げ下さい、王子!」
「そして、娘さん……エナ=ギャラガー嬢を、
 我等勇者軍は、全身全霊、魂魄一片たりとも残さず、
 すべての本音と本心をもって、歓迎致します」
そしてマリーが前に出る。
「それと同時に、あなた達も勇者軍の扱いになります。
 相応の責任と義務、そして権利を伴いますこと、お覚悟を」
「私達が……」
「勇者軍!?」
寝耳に水であった。ロバートからはそんな事実は語られなかった。
だがここまで深く踏み込んでしまっているのだ。
たとえ影であれ脇役であれ、もはや逃げ出すという選択肢は、
もはやギャラガー夫婦には無いのであった。
「参りましょう。もうこのゼン・ヴィレッジは消滅しました。
 彼等も、あなた達も、新しい人生を歩みましょう」
そう宣言して、さっさと歩き出すウォルフ。
マリーも、そしてギャラガー夫婦も後を追うのだった。

その直後、端末にメールが届いた。
追わなければならないはずのロバートからだ。
「……また新入隊員ですか。彼も新しい仲間を引き入れるなら
 こちらの人事部を通してからにしてくれればいいのに」
と言いながらも、自分の権限で了承するウォルフ王子とマリー。
追う者、追われる者の関係であっても、
根本的に勇者軍同士である事に変わりは無い。
新しい仲間、しかも有能な人材を拒む理由は無かった。
レオナ=タブーフィールダーランスファイター、ね」
軽く確認してマリーも頷く。

ぴぴぴっ!
更に情報端末に通信。緊急コールだ。
「マリー、ギャラガー夫婦を城下街へお連れして下さい。
 私は緊急コールにまず最優先で対応します」
「分かった、頼むぞ! さあ、急げ!」
「は、はい!!」
マリーは二人を連れて走り出した。
端末を開いて、通信の主との話を始める。
「カイトだ、救援要請を聞いたかい、ウォルフ王子」
「聞いていません。カイトさん、内容を!」
アーム城に暫定的に設置された
 情報支部が攻撃を受けているようだね。
 侵入者は一名だが、サブメンバーにひけを取らない強さで、
 城兵や、援軍に寄越したウチの兵も手を出しあぐねている。
 申し訳ないが、至急、救援に向かってもらえるかい?」
「分かりました、今すぐ行きます!」
通信を切って馬笛を吹き、愛馬を呼ぶ。
「はっ!」
そしてひらりと飛び乗ると、ウォルフ王子は愛馬の腹を蹴った。
「城まで全力疾走です、行きますよ!」
彼と愛馬は駆け出す。エリックの援軍も期待は出来ない。
一時帰宅中なので仕方が無いといえた。
「勇者軍に真っ向から一人で仕掛けるとは……何者です!?」
焦燥感に駆られつつ、ウォルフ王子は帰り道を急ぐ。
ロバートを追跡出来ない事にも困っていたが、
本拠地が襲撃されてはそれどころではないからである。

アーム城と城主であるウォルフ王子に訪れた危機は、
彼の到着を待つかのように、着々とゆっくり進行していた。



第二章-第二幕-へ続く>
最終更新:2015年07月10日 02:07