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第3部 序章-第二幕- 五つの滅将





イノ=ヘレティックが魔神軍を正式に発足してから数日――
ただでさえ駆逐されつつあったイグジスターは勇者軍、魔神軍、
そして各国軍の協力によって完全絶滅も遠くないと思われていた。
そう、希望はすぐ先に見え始めていたはずだった。
一方、勇者軍気象観測センターにおいては
ウォルフ王子の指揮下において監視活動を行っていた
予備役隊員が異常なものを発見したところであった。
「あれは……! ウォルフ王子、王子!!」
「騒々しいですよ……どうしました?」
「どうしたもこうしたもありません、映像回します!」
「…………!?」
ウォルフ王子は驚愕に目を見開いた。
それはイグジスターを生み出す、通称『ブラック・レイン』。
黒き雨にしか見えない災厄そのものであった。
それがまた、再び惑星アースに訪れたのだ。
「また……ですか……!」
ようやくシェルターやら避難施設やらから一般市民を
順次帰宅させる算段を整え始めていたというタイミングで、
この有り様である。下手を打てば暴動に発展しかねない。
いざとなったら強権を発動する必要さえあるだろう。
「観測しているのはこのカメラだけではありません!」
「各国どころか、惑星アース外のコロニーからも支援要請が!」
「なんと!?」
ウォルフ王子は更に驚愕する。
少なくとも前回の戦争には無かった現象である。
ブラック・レインもその大半がザン共和王国内で
発生したものであったし、残りもダイギン共和国の内部で起こった。
間違っても惑星アース外で発生したという報告は無かったはずだ。
「くっ……いざとなったら市民を疎開させようという計画も
 これで水泡に帰す事となるのか……!
 だが反撃の手は緩められない!
 せめて物流の最大拠点であるスペースポートに増援を送れ!
 あそこを遮断されたら、相互のライフラインが途絶えかねない!
 最終的には連携すら考えているのに、それだけは許容出来ない!」
「は、はい! 周囲の友軍を検索……これは!」
一縷の希望を見出したように予備役隊員は叫ぶ。
「ロバート隊長とエナ伍長です! 偶然ですが、近くにいます!」
「それは不幸中の幸いです。最優先で行かせなさい!」
「更に、多少距離がありますがローザ中尉も所在、確認出来ました!
 暗号通信で緊急支援要請、出します! 許可を!!」
「言うまでもありませんし多少遅れても構いません、すぐに!」
「はっ!」
一息つきながらもウォルフ王子は対策を練り始めていた。
「コロニーも駄目、陸地も論外、ならばどこに市民を逃がす……!?」
途方も無いような問いを自問自答しながら、ウォルフ王子は悩んだ。
すぐに解決策は出なくとも、早期に結論は出さねばならないのだから。

ウォルフ王子がその存在を察知し、勇者ロバート達の支援を
待ち始めた頃、更に情勢は大きく動き始めていた。
イグジスターの多くは無抵抗の市民を丸呑みし、擬態し、
充分に識別装置の揃い切らない
現状の市街地をひたすら蹂躙し始めた。
だがそれらの中にわずかなイレギュラーが混ざっており、
群れからうっかりはぐれて行動した結果、民間人以外の、
しかも極めて強力なナインサークルの生物を丸呑みした
イグジスターが五体ほども現れ、頭一つ抜けて頭角を現したのだ。

「…………」
竜族の王城、竜宮城からはかなり離れた森林地帯にて
一人の竜人――ドラグーン形態を保った竜族を丸呑みした
イグジスターが、ゆらり、と立ち上がった。
相当に疲労していたのだろうか、あっさり丸呑み出来た。
だがそのポテンシャルや知性は高く、人の言語も操り得る。
極めて強力な竜族――ミズチの個体と言えるだろう。
「これが、こいつの武器か」
傍に転がっていた斧を握り締める。手にしっくりきた。
「よし、他にも俺のようなイレギュラーがいるかもしれん、探すか」
ミズチ・イグジスターはすぐさまその場を離れた。
下手に他の竜族に見つかっては厄介であるからだ。
それも、ミズチ自身の知識であるのだが。

「中途半端だこと」
人魚の亜人族、セイレーンを丸呑みしたイグジスターが一言こぼす。
だが、人魚でありながら空を飛行する事が出来る。
それがセイレーン族の特徴でもあった。それを理解し、
セイレーン・イグジスターはニヤリと笑う。
「慣れてしまえば便利そうね。気に入ったわ。声もいいし」
そう言うと岩礁から去り、水の中へと潜っていった。

「みーっ!」
人語こそ話せないものの、
希少な生物を丸呑みしたイグジスターが叫ぶ。
彼が呑んだのは妖精族の小型生物、カーバンクル。
極寒の地にわずかな数だけ生きている超絶希少生物だ。
基本的に臆病であまり他者の前に姿を晒さないその生態を
忠実に再現して、こっそりと隠れるカーバンクル・イグジスター。

「………………」
人もいない寂れた某所の洋館にて、
がちゃがちゃ、と中身の無い鎧が動き出す。
イグジスターといえど非実体である怪物族のゴースト種は呑めないが、
リビングメイルという物理媒体を通す事で辛うじてそれを実現した。
リビングメイル・イグジスターはその場に落ちていた
頑強そうな槍を拾い、ただ無言でその場を後にする。

そして最後に、放置されたきりの旧魔神王教団本部施設。
腐敗した謎の人間と思しき死体を丸呑みしたイグジスターがいた。
「この人間の怨念……並々ならぬものがある、面白い。
 どうせ俗物とは思うが、我が力として使ってくれよう!」
そう、その腐敗した死体は魔神王教団教皇、エッセ=ギーゼン。
死してなお、彼女の身体に安息は許されていなかった。
エッセ=イグジスターは彼女の武器、爪杖ベアーズクローを手に取り、
病んだような薄笑いを浮かべながら、ゆるりとその場を去る。

その後、この五体のイグジスターは速やかに合流し、
『イグジスター五滅将』と名乗って他のイグジスターを指揮し始めた。
今までバラバラ、あるいは小規模で動いていたイグジスターが
大規模な統制の下に動き始めた事で、事態はより悪化を深め、
勇者軍の対策すら無意味にしかねないほど、
勢力拡大を進めるのであった――



最終更新:2012年07月02日 20:05