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第3部 序章-第三幕- エマージェンシー





イグジスター五滅将が誕生していた頃、ザン共和王国の
メイン・スペースポートでは上へ下への大騒ぎとなっていた。
なにせイグジスターが大量発生し、
まだ充分に識別装置の行き渡っていない、
あるいは行き渡らせるにも時間がかかるような
小規模な市町村などを襲っている、
と聞き、事態の緊急性を理解しつつあったからである。
「フェンリル・ヴィレッジ方面への輸送はまだ出来んのか!?」
「今出ました、次、準備始めます!」
「それで間に合うかどうかは分からんが、惑星アース内への
 供給はある程度追いついたか……ならば、次は衛星ムーンだ!
 その次にマーキュリー、次にヴィーナス、量をとにかく積み込め!
 多少荒っぽくしても九割動けば問題無い! 構うな!!
 識別装置が届かん事にはどこの居住区も対応すら出来んのだ!」
スペースポートの管制官に向かって怒鳴る上役。
「は、はい! 各作業員に伝達! 質より速度を上げよ!
 今はとにかく識別装置を宇宙に送り切る!
 多少損傷しても構わない、使えればいい! 急げ!」
それを聞き、作業員が更に慌しく動き出す。
その管制室にドタバタと兵員が入って来る。
一時的に出向していた勇者軍の予備役隊員達である。
「おう、勇者軍の諸君、待っていたぞ……
 ここが文字通り、現状の生命線だ。ここは我々に協力し、
 何としても輸送防衛に協力してはもらえまいか?」
「はっ!」
一斉に敬礼する勇者軍予備役隊員達。
するとその中の一人が歩み出て、紙の書類を渡す。
「……今時レトロな……君達に関する辞令か何かか?」
「いえ、アーム王家直筆の書状であります!」
「王家の?」
開封して見てみると、千の援軍より頼もしい内容が書いてあった。
『ストレンジャー直系の隊長を送る。健闘を期待する』
「ははっ、これはいい!」
いくらか生気の戻った上役はようやく笑顔を見せた。
「内容を知らんのだろう? 君達も見ておけ!」
ビッ、と書状を予備役隊員に突きつける。
「はっ!」
予備役隊員もすぐに理解した。事の重大さと書状の重大さを。
「隊長が……あの絶対反逆の勇者が来る……!」
静かに、しかし確かに意気を上げる予備役隊員達。
「俺、見た事あるぜ。すっげぇ強そうだった」
「あのマリー大尉と互角以上にやるんだろ。すげぇな……!」
「よし、この戦い、いけるぞ……この施設は守り切る!」
冷静さを失いかけた隊員達を制止する上役。
「意気上がるのは結構。だが図に乗って命を落とすな。
 諸君等一人一人が今や欠くべからざる戦力に違いない。
 最終的にはここを放棄してでも、皆で生き残る!
 施設の保存より、生存を優先せよ、以上だ!」
「はっ!」
いくらか冷静さを取り戻し、予備役隊員達はその場を離れた。

数時間後――
「次、惑星マーズ方面への輸送、開始!!」
「カウントダウン……!」
一気に進捗する作業だが、既にイグジスター識別装置の数が
不足気味になってしまっている。
惑星ジュピターへの移送が終われば
本格的に品不足になってしまうだろう。
既に次のロットがスペースポートに向かっているが、
惑星サターン宙域、惑星ウラヌス宙域、
惑星ネプチューン宙域に向かわせるには、
その輸送トラックの到着を待たねばならなかった。
一方でこれは幸いとも言える。既に三交代シフトで
十回目近い交代をしているとは言え、貴重な休憩時間になる。
今働いている人員にようやく食事を摂らせる事も出来るだろう。
もう一仕事というところなのだが、それが終わったら終わったで
この施設を放棄するかどうかの決断も
いい加減に決めなくてはならない。
算無く一箇所に留まっていても、狙われる危険が増すばかりだ。
「輸送トラック、来ます! 五時方向、距離、二千メートル!」
「よし、来たか! 休憩を切り上げさせろ! もう一息だ!」

ヴィーッ、ヴィーッ、ヴィーッ!

そこで不吉なアラート音。
「何だ!?」
「イグジスター反応!
 当管制塔から五時方向、距離三千メートル!」
「トラックを追っているのか! 数は!?」
「推定二千五百! 更に後続に千を認めます!」
「三千五百だと……! こちらの兵力は!?」
「施設直衛に六百。勇者軍予備役出向から百です!」
「七百対三千五百……彼我兵力差は五倍か……!
 ロバート=ストレンジャー隊長の到着は!?」
「まだもう少しかかります! 八時方向、距離四千八百!
 どうやらオートタクシーに乗車している模様!
 イグジスターの到着からプラスマイナス二分の誤差です!」
「二分、か……この二分はデカいぞ……ちいッ!」
管制塔のマイクを鷲掴みにして最優先の命令を出した。
「こちら管制塔! イグジスターの襲撃だ!
 直衛兵及び勇者軍出向部隊はイグジスターから施設を防衛し、
 非戦闘員の生命を守り切れ! いざとなったら一旦施設を放棄し、
 逃げる事も辞さないが、出来れば識別装置を乗せた
 最後の輸送艦隊発進までは粘って欲しい!
 繰り返す! 死守の必要は無いが、可能な限り粘れ!」
その声で今度は戦闘要員が慌しく走り出す。
各々に武器を取り、魔道書を構え、戦闘態勢に入る。

その頃、ロバート達はようやく
スペースポートが視認できる距離に入った。
オートタクシーの中で退屈そうにしていたが、
火線や爆発、そして轟音が
視覚、聴覚で感じられるようになると、
途端に緊張感を漂わせた。
「…………俺達より先に奴等が来やがったか!」
「オートタクシー、急いで下さい! 緊急事態です!」
「了解」
オートタクシーの機械音声が淡々と了承を告げる。
それに乗っていた勇者ロバート=ストレンジャーと
その相棒エナ=ギャラガー、ついでに愛猫ポメは
焦燥を募らせ、いよいよ再び世の表舞台に姿を現そうとしていた。



<第二十一章-第一幕- へ続く>
最終更新:2012年07月02日 20:08