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第二十一章-第一幕- イグジスターの攻勢





勇者ロバート=ストレンジャーとその相棒エナ=ギャラガー、
そして二人の愛猫ポメを乗せたオートタクシーは、
イグジスターの襲撃を受け、大混乱の中にある
ザン共和王国のメイン・スペースポートへ一直線に突っ走る。
そして、遂に敷地を目前にし、オートタクシーは停車した。
「お会計はどうしましょうか?」
オートタクシーが無機質な声で聞いてくるのでロバートは
武器を取り出しながら叫ぶ。
「非常時だっつってんだろ! 後でアーム城に問い合わせろ!
 名義はロバート=ストレンジャーで構わん、記録しとけ!!」
「前後二十秒の音声をレコード済み。帰りはいかがしましょう?」
「無理にここにいて壊れられてもかなわん、いいから離れてろ!」
「了解しました」
オートタクシーは二人と一匹、そしてその荷物が
降りるのを確認すると、速やかにその場を退避した。

「作戦開始だ! 最優先でイグジスターを撃破! いいな!?」
「はい……念動干渉、開始!」
エナの念動円剣『ソーサー』が十五枚ほど宙を舞う。
「おお、器用になってきやがったな……
 ヒーラーというよりむしろ一流のサイキッカーじゃねぇか」
「フェンスを砕いて、ソーサー!」
エナのソーサーが邪魔なフェンスに一部穴を開ける。
「強引ですけど、どうせフェンスなんて意味ありません!
 行きましょう、ロバートさん、ポメ!」
「おうよ!」
「ふにゃー!!」
二人と一匹は猛然と駆け出す。
イグジスターまでまだ少し距離があるが、
エナは一応確認だけはしておこう、と思った。
「ロバートさん、ストレンジャーソードは?」
「忘れたのか。カオスリキッドで封をしてあるだろうが。
 この封印はマリーじゃないと解けない。
 それにあれぐらいの数と質なら、
 この試作品で何とかしてみせる……心配は要らねぇ!」
そう言うとロバートは背中からやたらと細身の剣と銃を抜いた。
「随分と無茶言って作らせたみたいですけど、強力なんですか?」
「工房試作品のタングステンソードだ。
 物理的に刃こぼれはあり得ねぇが、
 その代償として研ぐ事も形状変更もほぼ不可能な頑強品でな」
「……また無茶な物を作らせますねぇ」
「ぼやいている場合か! もうすぐだ!」
エナが前方を見ると、武器が破損してしまった直衛兵を
イグジスターが追い掛け回している光景に出くわした。
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
もはや対抗手段を失い、逃げ惑う兵員達。
「エナ、ポメ、やれ!」
「!」
エナがソーサーで、ポメがその凄まじい牙と爪で
イグジスターをあっという間に二十ほど片付けてしまう。

イグジスターは黒いゲル状の生命体であり、
一定以上の損傷を受けると飛び散り、消え去る不気味な生物だ。
その特性として他者を丸呑みし、それに擬態して
社会構造の中に巧みに入り込み、更に犠牲者を増やす。
犠牲者の潜在能力をも最大限に引き出し、経験、記憶、性格までも
緻密に模倣するため、肉眼では識別が非常に困難である。
また、イグジスターは特殊な脳波というか、電波のようなものを発し、
その周波数をキャッチする事によって識別する事が一応可能である。
それ以外の正体はまったく分かっていないに等しいが、
一応、強力な人間であれば対抗する事も可能なのは分かっている。
ましてそれが世に名高い勇者軍であれば当然であった。

「おい、生きてるか! 俺がロバート=ストレンジャー!
 勇者軍隊長だ! 通信機があったらよこせ、すぐに!!」
「あ、はい! これを! 管制塔へのチャンネルは57で!」
直衛兵の一人から無線通信機を受け取った。
「管制塔! ロバート=ストレンジャーだ!
 一人でも多く生き残りたかったら、すぐに指示を実行しろ!」
「こちら管制塔! 待ちかねていました!
 既に多くの兵がイグジスターに捕食されております! 指示を!」
「ウチの! 勇者軍の兵員には識別装置を持たせてあるはずだ!
 それらの人員を中心にフォーメーションを組ませろ、
 その陣形で多少はマシになるはずだ! 粘らせている間に
 俺とエナが片っ端から薙ぎ散らすまでだ!!」
「了解、こちら管制塔――!」
指示が届くのも待たず、ロバートとエナ、そしてポメは
それぞれ手分けしてイグジスターを片っ端から切り散らしていく。
「おおおおりゃあああ!」
ロバートは銃と剣を巧みに扱い、一番数の多い集団を蹴散らし、
エナは広域に散らばった敵をソーサーで切り裂いていく。
高速移動している少数の敵に対してはポメが切り込みをかけた。
兵員の多くが呑まれたり、
擬態したイグジスターに斬られたりしたものの、
その勢いと技術に味方も舌を巻き、
三千五百もいたはずのイグジスターは
みるみるうちに数を減らされていった。
超絶少数精鋭の勇者軍メンバーではあるが、
囮に出来る人材がいれば、これぐらいの事は
二人と一匹でも当たり前にやってのけるのだ。
「こちら管制塔! 敵数が百五十を切っている!
 反撃に出ろ! 袋叩きだ!
 調子に乗っている黒い化け物に
 人間の気概を示せ! これは反逆だ!!」
「おおーッ!」
既に四分の一減った兵員達だが、めげずに突撃を敢行する。
武器を失った者達も補給を受け、再攻撃を仕掛けている。

「この勢い……勝てます、ロバートさん!」
「おうよ!」
久しぶりに超巨大なびきマントを広げ、
イグジスターの動きを阻害しつつ、
邪悪な笑みを浮かべ、ロバートは恒例の紋切り型口上をあげる。
「得体の知れない物の怪共が、跳梁跋扈の世の中よ!
 我が逆鱗に触れし愚者共、ひたすら末路を思い知れ!!
 防衛反逆ストレンジャー!
 輸送艦に手が出せると思うんじゃねぇ!!」
更に意気上がる勇者軍予備役隊員らの手によって、
残りのイグジスターが追い立てられ、多数が一箇所に集まった。
「合わせろ、エナ! グランドブラスター!」
「はい……ライトブラスターッ!!」
二人の広域魔法が周囲を包み込み、多くのイグジスターを駆逐。
残りはカスみたいな数しかおらず、
もはや決着は着いていたに等しい。

そして、管制塔も安堵に包まれていた。
「勝ったか……よし、作業員に作業を再開させ――」
「待って下さい!」
どうした!?
レーダー監視者の声に驚く上役。
「九時方向よりイグジスター大量に襲来!
 距離五千! 数は四千!!」
「いかんな……兵員の疲労も激しい。ここは予備戦力を出すぞ!
 とにかくロバート隊長にこの事を急ぎ、知らせろ!」
「は、はい、こちら管制塔!」
上役は返事も聞かずにすぐに部屋を出ていった。

更なる危機に動揺する兵員達を必死に叱咤激励しつつ、
来たる第三波に、備える勇者軍と直衛兵達であった――



<第二十一章-第二幕- へ続く>
最終更新:2012年07月03日 19:59