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第二十八章-第一幕- 首脳会談





遂に共闘を決意した魔神軍筆頭、イノ=ヘレティックの意思を受け、
魔族軍代表、魔王サタン、竜族軍代表、ヴァジェス=バハムートⅡ世、
そして勇者軍代表代理のウォルフ王子の計四名をもって、
大規模な会談が行われていた。会談は任せているものの、
勇者軍筆頭ロバート=ストレンジャーももちろん列席している。

「……まず最初に言っておく。私達が思っているより、
 状況は悪いし、より悪化する可能性が高いと見るべきね」
イノは報告書らしきものをまとめて置いた。
曰く、どこそこのコロニーが劣勢に陥り始めているだの、
どこぞの町が丸ごと壊滅しただの、国家が一つ消し飛んだだの、
恐ろしげかつ物騒極まりない事ばかりが羅列してあり、
もはや見る気も失せるほど、状況は切迫している。

勇者軍が局地的勝利を収めることがあっても、
それは大局に、ほぼ何の影響も及ぼしていない事が多いし、
それは魔神軍にしても同様の状況であった。
いや、未だ発足したばかりで、状況が整いきれない事もあってか、
魔神軍の方が戦績としては劣る、と
はっきり示されているぐらいである。
この事態に、さすがにイノも業を煮やしているのだろう。
焦りと苛立ちが、珍しくはっきりと見て取れた。
「ザン共和王国民政部の飛ばしている
 無人偵察機の動向はどうなっているの?
 まだ、イグジスターの発生源を見つけ出す事が出来ずにいるの?」
「……方法がしらみ潰しに近いですからね。
 しかし、捜索すべきエリアは限られて来ました。
 敵が恒星サンシャイン系の外からでも来ていない限り、
 必ず発見できるようになっています。それも、割とほどなく」
「信じる」

イノは苛立ちを抑えつつ、ヴァジェスに顔を向けた。
「前の戦いではどうも。あれは、いいきっかけだったと思うから」
「そうかい。その割には随分と荒っぽかったがね」
「でも、協力はしてもらえるのでしょう?」
「是も非もあるまいよ。俺はカレン家と、
 竜族の未来をこの牙と爪で切り開くのみだ」
「いい答えね。流石に貫禄が違う」
「うるせぇ。いいから対策でも立てろや」
「その鍵は魔王サタン、あなた達魔族がたぶん、握っている」
「?」
突然話を振られて、魔王が困惑する。
「イグジスターは負の感情を具現化したような物体だと思われる。
 だから、あるいは魔族の手で逆に捕食し返せるかもしれない。
 この戦い、恐らく切り札の一つは魔族の食欲にかかってる」
「……そう言われてみれば、あれは意外にうまそうだな。
 若干、珍味系の香りが漂わないでもないことだしな」
思わずよだれを垂らしそうになって、慌てて拭く魔王。
若干威厳が下がった気もするが、敢えて誰もツッコまない。
「まあ、そういう事でもあるけれど、気付いていた?
 イグジスターは魔族にだけはほとんど攻撃を仕掛けていない。
 事実上、食われる事を分かっているからよ。
 ある意味無人兵器とならぶ天敵の一つだと思っていいかもね」

「へえ、色々と考えているんですね……んん?」
ウォルフ王子が、端末をいじっていた手を止めた。
「どうした、王子?」
魔王が語りかけて来る。
「ん、いや。ちょっと待って下さいよ?
 これは今までに例を見ないパターンが……
 ロブ! ちょっとそっちも端末を確認して下さい。
 衛星からの情報をロードして!」
「お、おう?」
いきなり名指しで呼ばれて慌てるロバート。
「では、私の端末の映像をスクリーンに出力します」
ウォルフ王子はロバートに確認させつつ、エリックに頼んで
スクリーンを用意させ、それに映像を出力させてもらった。
「これは……!?」
その様子にヴァジェスも驚く。
それはヴァジェスも一緒に守ったスペースポートの尽力によって
導き出される、イグジスター識別装置のマスターハードを搭載した
イグジスター分布図監視用人工衛星の分布図が
異様な反応を示したからだ。

「これ、全部イグジスターか……!?」
ヴァジェスとエリックが唸る。
無理もない、『数千万の規模で存在する』と言い続けてきたはいえ、
あくまで地図だけで見れば点在レベルだったイグジスターの反応が
明らかに異常な物量と分布を示し始めたのだ。
分布と面積から示される推測数量も異様な桁を指し示し始める。
「一億、二億、三億、四億、五億……!?」
異様としか言いようの無い数である。市街地と思しき地域にも
数千万単位で降ってきているので、まずまともに対策は取れまい。
確実に壊滅してしまっている事だろう。
勇者軍メンバーレベルの人材以外なら、撤退すら困難なはずだ。
あるいは最初から空中に避難していれば心配無いのかもしれないが、
アーム城など極一部の施設以外では、それも不可能である。
いや、そもそも敵は宇宙からブラック・レインとして飛来する以上、
天空に逃れる手法も完全に完璧、とは言いがたいものがある。
一応、結界などはしっかり張って侵入は防いでいるのだが。
離島にいる事は、まったくもって幸運と言ってよかった。
「六億、七億、八億……」
まだカウント増加は止まらない。これ以上見ていても無駄だと判断し、
放置してウォルフ王子は声を荒げる。
「こんな数がいたらどうすればいいと言うのですか……!
 地上の人間は、まず間違いなくいなくなるでしょう……」
イノはそれでも、出来るだけ動じる事無く、告げる。
「手段はまずいくらかしか残っていないことになる」
「いくらか?」
意外な事をイノが言い出すので、驚く一同。
この期に及んで手段などという言葉が
出てくるとは思っていなかったのだ。

ぱちん!

イノが指を鳴らすと、ゆっくりと軍師が入ってきた。
魔神軍メインメンバー、レイビー=ショルダーズである。
「レイビー? あなたの即興案が必要よ。言って」
「ああ」
ゆっくりと前に出て、ホワイトボードに箇条書きしていく。
「前もって述べておくが、私は軍師だ。
 だが精密な状況分析や、緻密な計画立案は
 本来私の本領とするところではない事を述べておく」
「それって、軍師なんですか?」
ウォルフ王子がツッコむ。
「私自身気付いていたが、イノが気付かせてくれたのだ。
 私は即興による思いつきの献策を本領とするようだ。
 言われて初めて気付いたのだが、今は感謝している。
 だから、魔神軍に籍を置く事にも全面賛同しているのだ。
 即興で思いついた方法が上手くいくからなのだろうが、な。
 では、それを理解した上で、しっかり聞いてもらおう。
 今外で聞いていた分だけで思いついた戦法をな」
レイビーの物言いに、一同が緊張する。
「さっくり言ってしまえば、篭城戦法だ。
 人類は篭れるだけ、空中、あるいは地下、それから離島、
 でなければ船舶、戦艦、潜水艦の類に完全に篭る。
 その上で無機物による徹底攻撃を継続し、
 こちらの人数は一切減らさず、敵の損耗だけを狙う。
 つまりここからは兵器工場の存在する拠点に、
 どれだけ強力かつ、大規模な防御結界が張れるかで、
 勝負が決まってくると言ってもいいかもしれんな」
「しかし、篭城だけでは勝てんぞ?」
魔王の至極もっともな指摘に、レイビーは笑う。
「第一の戦略目標はこれ以上敵が増えるのかを確認すること。
 増えないのであれば可能な限り、穏やかに人的損害を出さず、
 かつ苛烈に非人道兵器によってイグジスターを殲滅する。
 第二の戦略目標はイグジスターがまだまだ増える場合だ。
 その場合はザン共和王国民政部が総力を挙げて出動させている
 無人偵察機の報告を可能な限り待ちつつ、ひたすら粘る。
 もし発見出来たなら全力をもってそこを叩きに行く。
 これが現状、私が思いついただけの策だと言っていいだろう」
緻密な計画は得意ではない、とは言いながら、
これだけしっかりした目標を立てるあたり、やはり異才である。
そこまで言われては、誰も反対するものはおらず、
一同、静かに頷くしかなかった。
「もういいわ。レイビー、よくやってくれた」
「ふむ、まあ、こんなものだろうな」
レイビーもまたこの反応に納得し、退席する。
彼は理解したのだ。自らの意見が受け入れられたことを、
ただ一言さえ会話を交わすことなく。
「ふうむ、僕とは真逆のタイプかな。
 けれど、閃きという点では随分と切れそうだね」
横で見ていたカイトは自らのお株を奪われた事を責めるでもなく、
静かに笑って、面白そうに見ていたりする。

「ようし、そうと決まれば通信施設をフル稼働させろ!
 使える分のあらゆる人脈を使ってこの事を全世界に伝えるぞ」
「分かった……!」
と、何故かそこにいたニンジャが、
ロバートの指示を伝えようと、外へ出て行こうとする。
「ってちょっと待てお前、いつ来た!?
 いたんならとっとと合流しやがれよ貴様は!」
よくよく見れば、それはクロカゲだったりした。
「つい……先刻……来た……!
 我、敗走……! 船で漂流して、ここ、着いた!」
更によく見てみれば、あちこちボロボロだったりする。
命を粗末にしないためにも、何とか頑張ってきたのだろう。
「うむ、見事な生き様ぞ! 蛮勇を誇らぬのが貴様の美点だ!」
珍しくマリーもしっかりと激励してやる。
「……では……我……行く……!」
クロカゲは気を緩めるでもなく、自然と足を動かし、
通信施設に連絡を取りに行ったのであった。

「奴も随分とキッツい目にあってきたんだな」
エリックも同情するようにクロカゲの去った方向を見る。
「でも、生きててくれて安心です……」
エナもポメと一緒に、表情をほころばせる。
これでまた、貴重な戦力が増強された。
絶望の渦に包まれた、勇者軍と魔神軍、そしてそれに協力する
ナインサークルロード達の篭城戦が本格的に始まろうとしていた。
高らかに響くは、酷使される無人兵器のエンジン音のみ……



<第二十八章-第二幕- へ続く>
最終更新:2012年07月02日 21:29