塵埃の捨子 - (2024/03/08 (金) 09:12:08) の1つ前との変更点
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ゴホゴホ…ゴホゴホゴホ…ゴホゴホゴホゴホ。
……夜が明けた。
窓を通して日差しがベッドを照らし、そこに寝ていた女性を起こした。
彼女の胸は大きく上下し、その体内では痰が生じて野獣が唸るような音を発していた。
ポポ
起きたよ。
母親
行きなさい......ゴホゴホ.....。
ポポ
わかった。昨日、ちゃんと充電しておいたから。
センサー
——[測定中]——
——[崩壊エネルギーの侵食度:37%。医療ガイドを生成中]——
——[医療ガイド生成完了。すぐに病院へ行き、Ⅱ型崩壊侵食抑制剤の注射を受けて下さい。受付番号自動取得中……]
——[応答がありません。ネットワークが接続されていません]——
ビー。
母親
ぱ…………
ポポ
仕事に行ってくるね。夜には戻るから。今日はもしかしたら魚の缶詰を食べられるかも。
だから......楽しみにしててね。
………
ポポ
…………
灰色の世界、壊れた空、埃だらけの子供。
----
難民
……内戦か?……一体どうなっているんだ………。
老婦人
ポポちゃん、ちょっと来てくれないかい。
ドンドン!ドンドン!
ポポ
はい、機械の修理ですか?
このテレビ、昨日から動かなくなっちゃって。このままだと上映ホールの仕事が立ちいかないよ。
ポポ
少々お待ちください。
少し叩くだけで良ければ。
バンバン!
ポポ
直りました。
おぉ!さすが噂通りだねぇ。叩くだけで本当に機械を直せちゃうんだねぇ。
ポポ
ご依頼ありがとうございました。代金は軍用の弾丸2個になります。
はぁ?本気で言ってるのかい?ただ叩いただけなのにぼったくりじゃないかい?
ポポ
……もしご自分で直せるのなら、どうして私に頼んだのですか?
はぁ。ただ噂が本当か試そうと思っただけだってのに。ほら、手製の弾だよ。持っていきな。
ポポ
ありがとうござ——
「ハハハ、転んじゃったのかい?周りに気を付けるんだよ。」
ポポ
……ふう、弾がなくならなくてよかった。
伝令係
もしもし——
「おいお前、何ていったか.....。そうだ、ポポ!こっちに来い!」
ポポ
はい。機械の修理ですか?
「ボスがお前のことをお呼びだ!」
ポポ
ボス.........というのはビクターさんのことですか?
「つべこべ言わず早く行くんだ。」
ポポ
わかりました。
ゴホゴホ…ゴホゴホゴホ…ゴホゴホゴホゴホ。
……夜が明けた。
窓を通して日差しがベッドを照らし、そこに寝ていた女性を起こした。
彼女の胸は大きく上下し、その体内では痰が生じて野獣が唸るような音を発していた。
ポポ
起きたよ。
母親
行きなさい......ゴホゴホ.....。
ポポ
わかった。昨日、ちゃんと充電しておいたから。
センサー
——[測定中]——
——[崩壊エネルギーの侵食度:37%。医療ガイドを生成中]——
——[医療ガイド生成完了。すぐに病院へ行き、Ⅱ型崩壊侵食抑制剤の注射を受けて下さい。受付番号自動取得中……]
——[応答がありません。ネットワークが接続されていません]——
ビー。
母親
ぱ…………
ポポ
仕事に行ってくるね。夜には戻るから。今日はもしかしたら魚の缶詰を食べられるかも。
だから......楽しみにしててね。
………
ポポ
…………
灰色の世界、壊れた空、埃だらけの子供。
----
難民
……内戦か?……一体どうなっているんだ………。
老婦人
ポポちゃん、ちょっと来てくれないかい。
ドンドン!ドンドン!
ポポ
はい、機械の修理ですか?
このテレビ、昨日から動かなくなっちゃって。このままだと上映ホールの仕事が立ちいかないよ。
ポポ
少々お待ちください。
少し叩くだけで良ければ。
バンバン!
ポポ
直りました。
おぉ!さすが噂通りだねぇ。叩くだけで本当に機械を直せちゃうんだねぇ。
ポポ
ご依頼ありがとうございました。代金は軍用の弾丸2個になります。
はぁ?本気で言ってるのかい?ただ叩いただけなのにぼったくりじゃないかい?
ポポ
……もしご自分で直せるのなら、どうして私に頼んだのですか?
はぁ。ただ噂が本当か試そうと思っただけだってのに。ほら、手製の弾だよ。持っていきな。
ポポ
ありがとうござ——
「ハハハ、転んじゃったのかい?周りに気を付けるんだよ。」
ポポ
……ふう、弾がなくならなくてよかった。
伝令係
もしもし——
「おいお前、何ていったか.....。そうだ、ポポ!こっちに来い!」
ポポ
はい。機械の修理ですか?
「ボスがお前のことをお呼びだ!」
ポポ
ボス.........というのはビクターさんのことですか?
「つべこべ言わず早く行くんだ。」
ポポ
わかりました。
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——
「夜に南の方で爆発音がした気がするけど、あれって空爆?」
「小麦粉の供給、いつまで持つんだろう?」
「あなたの隣の家の人、先日見つかったんだけど、死んでからもう一週間経ってたんだって。」
「軍はいつ来るんだ?まあどっちの軍でも構わんが。内戦でどちらが勝とうと俺には関係ない。」
「そんな色々考えたって、なんの意味があるって言うの?」
沈黙の世界、腐敗した空、灰になる子供。
ポポ
失礼します、ビクターさん。
ビクターさん......私のことをお呼びですか?
この避難所でビクターに逆らうことのできる人はいない。なぜなら彼は多くの物資と30丁ものライフルを持っているからだ。
さらに彼はとにかく効率を重視していて、回りくどい答え方が嫌いだ。
それはわかっていたが、それでも彼に対する言葉がやや詰まり気味になってしまった。
ビクター
閣下。彼女が例の、この拠点で唯一の修理士です。
まだ16歳と若くはあるものの、彼女の手法にはとても......不思議な力があるのです。
ビクターの態度がおかしいのは、そばに風変りな女性がいるからだろうか。
その女性はポポに背を向ける形で、姿勢よく腰を掛けビクターの説明を聞いていた。
???
彼女?
ポポ
は、はい。私は修理士。…..です。
チェーンソーや溶接機械が襲ってくるような、鋼鉄地獄の中から現れた人間を想像したら、きっとこういう人物を想像することだろう。
ビクターがポポのことを紹介している間、その女性は微動だにせず、話に耳を傾けているそぶりすら見せなかった。
一方のビクターは、丁寧に説明しようとやや前かがみになっていた。
???
お嬢さん、これを受け取って。
ポポ
あっ——!これは……?
アーマーで身を固めたその風変りな女性は、ポポに向かって突然ライフルを放り投げてきた。
咄送に抱きしめたものの、驚いたポポの肩が少し跳ねた。
それは日式のライフルだった。07式を改造したものだろうか。崩壊エネルギーを装填でき、聖痕の力で駆動するもののように見える。
聖痕の力で駆動する兵器を使うことができるということは.....この女性が聖痕使いであるか、もしくは——
ポポ
ううっ——
ビクターがポポの耳をつかみ、女性の前へと引っ張っていった。
ビクター
そんなに離れた所で何やってるんだ。どうなんだ、これは直せるか?
ポポ
その、私思うんで——
???
黙ってやらせなさい。
ビクター
チッ、お前はすみっこにでも行ってろ。
ポポ
はい。
???
まずはネットワークよ。ここでネットに接続できる?形式はなんでも構わないし、対価も弾むわ。
ビクター
すいません。ここでは接続ができないんですよ。見てください、あそこからこんなに距離が近いんですよ。
ビクターが窓の外を指さした。
見なくてもわかる。彼が指さしているのは侵食され淀んだ空だ。
半年ほど前、長く続く大戦——
そして私の周りのあらゆる人々の日常は、この絶望的な崩壊の波によって脆くも打ち砕かれた。
それは絶えず広がり続け、私たちは繰り返し避難を余儀なくさせられた。やがて新しい情報へのアクセス手段をすべて失い、陸の孤島に閉じこめられ、かろうじて生きながらえている。
???
崩壊の亀裂ね......それじゃ無理もない。
ビクター
第一軍団によるものと聞きましたが...…
本当ですか?
???
その情報にも金がかかるわよ。いくら出すつもり?
ビクター
いいです結構です。私は社会奉仕に熱心なただの中年男に過ぎませんし、戦争も平和も私とは無縁ですから。
非礼がありましたらお許し下さい。
???
ネットすら繋げられないんだったら、あなたたちは武器の修理以外、なんの役にも立たないということね。
ビクター
どうかそう結論を急がないでください。うちの修理士が閣下の武器を見ている間に、うちの倉庫を見てみてはいかがですか?
ちょうど補給が必要な物もあるかもしれませんし。
ポポ
(この人は一体.....)
ポポは隅の方で07式の状態を確認しながら、彼らの会話を聞いていた。
ビクターはまるで爆弾を処理するかのように非常に慎重に、この風変りな客人に応対していた。
彼は裏手の扉を開けると、古びた手押し車を引っ張り出してきた。手押し車にはピカピカに磨かれた様々な品物が載せられていた。
ビクター
武器に弾薬、爆発物.... 閣下のような実力者であれば実弾の武器なんて見向きもしないとは思いますが、不測の事態がいつ起きるとも限りません。
万が一のためにも使い慣れた昔ながらの武器を持っていた方が、何かといいと思いますよ。
ああ、もちろん薬もあります。聖痕使いでなければ、やはり崩壊の侵食を多かれ少なかれ受けることになりますからね。
それに聖痕使いだって、時には負傷することがありますから、薬がないと大変です。
薬……
東方軍団のヒポクラテスグループの「Ⅱ型崩壊侵食抑制剤」は赤い包装のはず。
ビクター
おいポポ、お前はその銃に集中しろ。それを直せたら閣下からも報酬が出るぞ。
ポポ
はい。
彼女はやはり聖痕使いなのだろうか?しかし彼女の持っている物体は、聖痕使いには必要のない移植体の基座だ。
——よく見ると汎用型の基座とは少し異なるようだ。
とにかく、直せるか試してみよう。
バンバン!
???
彼女、何をしているの?
ビクター
これがポポの特技なんですよ。こいつがこうして叩くと、かなりの物が不思議とすぐに直るんです。
なぜ直るのかはよくわからないのですが。
???
そう?
私には理解できなくもないけど。
ビクター
おいポポ、あまり派手に叩くなよ。
ポポ
はい。
効果がない。いつもの方法では直らないらしい。
どうやら「あの類」の故障ではないのだろう。
銃を分解しないといけない。
うん?
ポポ
これは……。
銃床の接続部に文字が書かれた紙が貼ってある。
「余波戦争勝利記念博物館、収蔵物116-W-31号」。
色褪せたラベルのような紙にそう書かれていた。
ビクター
閣下、ご覧になられて何かご所望の品はありましたか?
???
特にないわ。それに修理士を呼び出したということは、虚空プリンターもないのよね。
——武器や装備品は取っておきなさい。
ビクター
では薬はご覧になりますか?
つまり、この銃は博物館の展示品だったという事ね。でもどうしてこの人が......。
考え込んでいると、ビクターが別の手押し車を引っ張りだし、彼女に見せた。
ビクター
薬は十分そろっていますよ。見てください。崩壊侵食抑制剤もひと箱あるんですよ。ただ申し訳ないことにこれは非売品なのです。肝心な時に命を救える代物なので。
その言葉を聞き、ポポは思わず振り向いた。
もしかして、赤い包装の?
???
軍用の興奮剤はある?軍の物資がなければ旧人契連の物資でも構わないわ。
ビクター
あれですか......うちの薬の仕入れ先は——
ポポ
あの、ビクターさん。
この銃、かなり精密な構造をしてますので、スペアパーツがないと私にも直せない状況です。
ビクター
フン、わかった。.....閣下、攻撃型ドローンにご興味は——
ポポ
ビクターさん。
ビクター
………
ポポ
私......もう行っていいですか?
用心棒
……ポポ、ビクターさんには常に敬意を示さなきゃいけない事くらいわかってるだろう。
???
彼女はもう帰したら?私、真面目な話をしている最中に子供がウロチョロしているの、大嫌いなのよね。
ビクター
そ、そうですね、わかりました。ポポ、お前もう行っていいぞ。
ポポ
……ありがとうございます。
----
緑髪の難民
ポポ、ちょっと手伝って。
——
ポポ、昼食の買い出しかい?
ポポ
はい。お母さんが魚の詰を食べたいって言ってて。一つお願いします。
はいよ。......そうだ、このヒーターをちょっと直してもらえないかな。
ポポ
わかりました。
バンバン!
「どう?まだ直らないのかい?」
ポポ
ごめんなさい。今日はあまり調子が出なくて、ちょっと急ぐので、また今度にでも。
「わかったよ。」
ポポ
それじゃあ。
——
バン!
家に戻り、買ってきた食料を机に置いた。そして銃が隠してある場所に誰も触った形跡がない事を確認した。
ポポ
はぁ……。
あ……………………ああぁ……………!
そしてポポは、誰かに脊椎を抜き取られてしまったかのように力なく壁に寄り掛かった。
ポポ
おそろしい……。
さっき......手の......。
手の震えが止まらなかった..……。
心臓が……。
ポポ
心臓が口から飛び出してしまうかと思った.....!!!
ビクターの倉庫で2つの事実を知った。
ポポ
やっぱり赤かった。
まず、ビクターの倉庫に少なくともⅡ型崩壊侵食抑制剤がひと箱あるという事実。
ポポ
それと……。
移植体を使い、博物館から奪ってきた旧式の銃を持っていて......ビクターをあれほどまで怖がらせる……。
ポポ
あの人は......軍の高官でも逃亡兵でもない.......。
もはや疑問の余地はなかった。以前、ネット上でよく話にのぼっていた——
——崩壊の災難が訪れた後、家を失った人々が口々に語ったあの存在……。
ここには軍が駐留していないから、ビクターがあそこまで恐れるのも無理もない。
いや......軍が駐留していたとしても、簡単に皆殺しにされてしまうのかもしれない。
軍事用途、あるいはそれ以上の兵器を駆使して、聖痕使いを狩り、それを研究所にサンプルとして提供し賞金を得る、残忍な輩——
ポポ
あの人は&color(#F54738){聖痕ハンター}なんだ。
ポポ
お母さん?
また床に落ちちゃったの……。
母親
……ぱ………
ポポ
床は冷たいよね。私が抱えてベッドに上げてあげるから....…寒くないように毛布も使ってね。
……
軽い。すごく軽い。
少女でも力む必要がないほどの軽さだ。
お母さんとあの薬......お母さんとあの銃......どっちの方が重いんだろう?
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