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無枷の囚人 - (2024/03/09 (土) 10:16:43) のソース
トントントン。 うん? トントントントン。 週末なのに、朝から誰なの?ノックしているのは。 起きてカーテンを開けると、日光が寝室へと射し込んできた。 パソコン本体の電気がついている。昨日、遅くまで遊んでいてスイッチを切り忘れたみたいだ。 マウスを動かすと画面もついた。画面には今の時間とニュースのトップページが表示され、の上に戦線の結果が表示されていた..…。 どうやら私たちの陣営が勝ったようだ。 当たり前よ。だって&color(#F54738){我が軍}は人契連にすら勝ったんだから。 でもそんなこと、学生にはあまり関係ないかな。 長い間戦いが続いているけど、私には全然実感が湧かなかった。遠方で暮らしているからかもしれない。 ドンドンドン!!! 一体誰? 私 お母さん、誰か来たよ! …… あれ?今日は発電所に行く日だったっけ? パジャマ姿のままリビングに来てキッチンの方を見た。ガラスの窓越しに人影が動いているのが見える。母がまた料理をしながら何かの番組を聞いているようだ.……。 ドンドンドン!!ドンドンドン!!!ドンドンドンドンドンドン!!!! はいはいわかりました。まったく、誰も反応してないのにそれでもノックし続けるなんて。 私はそう思いながら玄関へと向かっていった。 私 どなたですか? お母さんよ。パリス、早く開けて!!! ? お母さんの声? でもこの扉の向こうにいるのがお母さんなら..... キッチンにいるのは誰? ウ————————— 私 えっ、何?何があったの?この音、突然何? ウウウウウウウウ———————————— 窓ガラスが震えている。窓の外では防空警報が鳴り響いている。 私 何?どういう事? 母親 どうしたの?ずいぶん外がうるさいけど。 キッチンのガラス戸が開かれ、エプロンをつけた母が首をかしげながら聞いてきた。 私 お母さん、たぶん防空警報だと思う。 「市民の皆さん。これは訓練ではありません。先ほど兵団の指揮本部から入った情報によると——」 「賽は投げられ、答えが間もなくわかるということです。直ちに——」 直ちに......何? その後は?なんでいきなり聞こえなくなっちゃったの? 一瞬、あたりが静まり返った。寝室のパソコンのファンの音も聞こえなくなった。 私 なんだか怖い。お母さん、私たち—— お母さん? キッチンの方を振り向くとそこには誰もいなかった。 ドンドンドンドンドンドン—— パリス、ドアを早く開けて!早く逃げないと! 私 これって……。 困惑、不安、混乱、震え—— ドアノブからひんやりとした感覚が伝わってきた。 ドアノブを回すと、防犯ドアのロックが外れる音が聞こえた。 すると突然、外に居た人がドアを押し開けてきた。そして私を地面に押し倒し私の手をつかむと、ものすごい力でかみついてきた—— でも......まったく痛くなかった。 それが母だったからだ。 母にはもう歯はないのだから。 母親 パリス.....お母さん痛い、ものすごく痛い。毎日、骨も焼けるように痛いの。 これも全てあなたが原因....あなたのせいよ..…。 私は冷たい床に倒れ込み、耳元で母が囁くのを聞いていた。 母のことを見ることができなかった私は、首を背けて窓の外を眺めていることしかできなかった。 窓の外では空が砕け、地平線の遥か彼方から砂塵で出来た巨大な波が押し寄せ、視界を埋め尽くした。 そして、私はそれにのみ込まれた。 —— ポポ あっ! 旅の2日目 朝。 寒鉄 あら、起きたわね。どう?私の作った乾パン、食べてみる? 消えた焚火のそばに座っていた寒鉄が、目を覚ました私に話しかけてきた。 ——これが現実の世界。 日々の生活も過去の思い出も、全て無くなってしまったんだから。 ポポ これ......ただの乾パンだよね? 寒鉄 私が作ったオリジナルよ。肉が食べたければ、この缶の中にまだ少しあるわ。でも、肉が底にくっついちゃったみたいで、それをなんとか出そうとしているところ。 トントントントン! 寒鉄 あっ、出てきた。食べる? ポポ 要らない......。 私は立ち上がり、袖で顔を拭った。そして日に照らされた荒野とアスファルトの道路を見つめた。 ポポ 今日もこの道路をずっと進むのね。 寒鉄 そうよ。私の計算によれば、あと7日で着くはずよ。 ポポ 7日間......徒歩だとそんな遠くへは行けないよね? 寒鉄 この先はちんたら歩かなくても済むわよ。もうすぐヤマアラシが来るから。そうすればもう少しいい物を食べられるし。 ポポ ヤマアラシって......別の聖痕ハンターのこと? 寒鉄 違うわ。自律型の歩兵戦闘車両よ。軍用レベルの耐崩壊装甲がついてて、亀裂に近い場所でも行動できる代物なの。まあ私の弾薬庫兼乗り物って所かな。 だけど電裂の影響もあって、今は遠隔操作ができないのよ。 ドオオオオン—— ポポ えっ——何か音がするような……。 寒鉄 私が選んだ場所に間違いは無かったみたいね。すぐそばにヤマアラシがいるわ。 !!!!!! 地面が微かに揺れ、土が舞い上がった。すると以前、映像で見たことのある戦車ほどの大きさの乗り物が荒野の奥の方から現れた。 信号を思わせる赤い監視装置が揺れ動くと、その乗り物はこちらへと近付いてきた。 ポポ これ......軍事用兵器? ヤマアラシの監視装置が私のことを標的と認識したのか、車両の横から機関銃が出てきた。 寒鉄 ヤマアラシ、ストップ。彼女は仲間よ。攻撃を停止して彼女の生体情報を登録して。 ——[ブイン!」—— 寒鉄 どう?この応答音。ブタみたいでしょう? 移動と戦闘だけじゃなくて穴も掘ったりするから、ヤマアラシって呼んでるのよ。可愛いでしょう〜。 ポポ ああ......うん......可愛い......かも? 近寄って見ると、その歩兵戦闘車には無数の弾痕や擦れたような傷跡があることがわかった。 しかもなぜか.....何かにつかまれて出来たような凹みも見て取れた。 寒鉄 ヤマアラシ、ドアを開けて。 彼女がそう言うと歩兵戦闘車の扉が開いた。中に乗り込んだ寒鉄はしばらくゴソゴソと物を探したかと思うと、ランチョンミートの詰を手に取り、それを私の方に放り投げた。 寒鉄 メリン缶詰よ。それを食べたら出発して、引き続きこの道路を進むわ。 ちゃんと言うことを聞いてくれるなら、運転させてあげてもいいけど.....試してみる? ポポ うわあ......この缶詰の製造日、人契連のトップがまだメリン・キャベンディッシュだった頃だよ。 寒鉄 だからメリン缶詰って言うんじゃないの?.....そんな事どうでもいいでしょ。要は食べられればいいのよ。 まったく、今どきの若い子は。ねぇ、ヤマアラシ。 (マシンガンが出てきた) ——[ブイン!」—— ポポ わかった、わかったから。ちゃんと食べるよ! —— ガタンガタンガタンガタン! ポポ ううっ——オエッ! ヤマアラシが勢いよく道路を突き進んでいく。昨日、野営した場所があっという間に見えなくなった。 寒鉄 吐いてもいいけど、ヤマアラシのトゲにかからないようにね。 彼女の言う「ヤマアラシのトゲ」とは、この歩兵戦闘車の機関銃のことだ。 しかし言うのがちょっと遅かった。ランチョンミートのカスは、すでに「ヤマアラシのトゲ」にこびりつき、ヤマアラシの姿に歴史の重厚さを増した後だった。 ポポ ハァ……。 寒鉄 少しはスッキリした? ポポ うん……。 寒鉄 スッキリしたらスピード上げていくわよ。行け!ヤマアラシ! ——[ブイン!」—— ポポ わあああ—— —— ポポ ハァ.....ハァ......ハァ....ハァ……。 寒鉄 よし、今日はこれくらいで十分ね。そろそろ休みましょう。 ポポ やっと……。 これから数日間、こうして揺れながら先を急ぐとなると......あなたに売り飛ばされる前に死んじゃうかも……。 寒鉄 大丈夫。私の予想通りなら、明日には移動手段が変わるはずだから。 ポポ 明日? ---- 寒鉄 ほら、夕飯の時間なんだし何か話そうよ。 ポポ それって命令......? 寒鉄 別に、言う通りにしなかったとしても、あんたの事を煮たり焼いたりしないわ。 だってその命、私が守らなきゃいけないわけだし。ただ人類として、随分長いこと人と語り合うことがなかったから、単純に寂しくてね。 ポポ そうなんだ。 寒鉄 ええ。何ヶ月もかけて、やっとの事であそこから逃れてきたから。 寒鉄は缶詰を鍋で調理しながら、ある方角をあごで示した。その先には崩壊エネルギーによる巨大な亀裂が静かに浮いていた。 ポポ 装備についてる無数の傷.......あそこから逃れる際についたものなの? 寒鉄 そうよ、もう少しでくたばる所だったわ。武器も弾薬もほぼ使い切っちゃってね。幸いヤマアラシがあったおかげで、なんとか逃げ延びることができたというわけ。 ポポ じゃあ......あれは—— ポポも彼女の真似をして、あごで亀裂の方角を示した。 ポポ あの亀裂は一体何?天災? 寒鉄 正直言うとね、私にも分からないんだ。 新しい大崩壊かもしれないし、軍の仕業によるものかもしれない。このあたりは長距離通信機器が全然使えないから、私にもどういう状況なのかさっぱり分からないのよ。 ポポ うん……。 寒鉄 内戦で誰が勝利したのか。この亀裂を生みだしたのは誰なのか。 それに..……人間社会を管理する組織が今も存在しているのかも分からない。 ポポ そうなんだ……。 寒鉄 まったく、あいつら一体何をしてるんだろうね。 ポポ ……ふああ…………。 寒鉄 眠い?まあ、そろそろお子様はお休する時間かな? ポポ たぶん......ずっと吐き続けて......疲れたからかな........。 寒鉄 寝なさい。今日の夜はもう移動しないから。 ポポ うん......じゃあ寝るね.......。 私は横になると夢の中へと落ちていった。 …… ……………… 銃だ。 旧式のセミオート拳銃だ。 崩壊エネルギーではない実弾を使った銃だが、それでも人を殺せることに変わりはない。 母親 ……ぱ………。 誰にも気付かれない内に、私はその銃をこっそり盗んできた。 心臓がバクバクしていた。逃げる際に冷静さを装おうとしたが冷静になれなかった......まるで飴を盗んだ子どものように。 悪い子、自分勝手な子。 扉を開けると、母がベッドに横になっていた。 母親 ……パ......パリス..... 慣れない手つきで弾を装填し、震える手で狙いを定めた。 母親 い……痛い…… そして目を閉じ、引き金を引いた。 バン! ポポ ! 体中がヒヤリとし、一瞬で目が覚めた。 ポポ (……また......夢....) ひどい夢だった。目が覚めてよかった。 しかし目が覚めてもそれほど意味があるわけじゃない。現実も悪夢のようなものなのだから。今回の旅も、墓場へと時間をかけて連行されるようなもの。 睡眠もまたこの酷刑の一部なのだから。 ポポ ……。 だけど......そうする以外に道はあっただろうか? ポポ 星……。 空を見上げると星が見えた。遠くの方にある小さく明るい星だ。 それは孤独そうに、どうしていいか分からないかのように宙に浮いていた。 あれが数十年前、あるいは数百年前にこうして輝いていたら、地上で注目する人がもっといたはずだ。 でも今のように混乱した世界では、空の星のことなんて考える余裕がある人は一人もいない。 今この世界で、あの星を注視しているのって私だけなのかな。 ポポ でも、私も間もなく死ぬことになる。 あの人によって……。 近くに目を向けると、ヤマアラシが通りの影に静かに縮こまっているのが見えた。寒鉄はその上に座り、空を見上げていた。彼女のマスクに隠された顔は今、どんな表情をしているのだろう。 寒鉄 ……。 ポポ ……。 彼女も同じ星を見つめているようだった。 なぜか分からないけど、私は奇妙な感覚を覚えた。彼女がこの時代のものではない、ひとつの孤独な星であるかのように感じたから。 星から放たれた光が地球に届くまで、おおよそ数十年から百年以上かかると授業で聞いたことがある。つまり地球の人々が見ることができるのは、星の過去の姿に過ぎないということだ。 私は彼女から、そうした言葉では言い表せないものを感じていた。 彼女は一見、普通のハンターのように見えるものの.....同時にすごく……。 過去から来た光のように感じられた。 ポポ 寒鉄……。 寒鉄 何?やっとあんたの方から話しかけてくれたわね?私が今、何を考えているか知りたい? ポポ ……。 寒鉄 ヤマアラシの機関銃についてるこの汚れ、なんだかすごく吐瀉物の痕のように見えるなあって思って。 ポポ ……それは気のせい。 色々考えるのはよそう。何を考えた所で勝手な想像に過ぎないから。 ポポ …… あの……。 どうしてあの日、私たちが暮らしていた拠点に、ヤマアラシに乗ったまま来なかったの? 寒鉄 どうしてそうする必要があるわけ? ポポ そうすれば逃げる必要もなかったし、武器を使って一掃することもできたよね。 寒鉄 そうね......でもあんたの言ってること間違ってるわよ。 あの拠点を取り仕切っていた彼、実弾兵器しか持ってなかったでしょう。だからヤマアラシなんて無くても、あの男もあいつの手下も素手で十分よ。 でもさ、あいつらを皆殺しにしちゃったら、あそこで暮らしている人たちが困っちゃうでしょう? ポポ そういう事も気にするんだ。 寒鉄 ……そうね。まあ.....例えば漁師をするにしても、目の細かい網を使って魚を絶滅させちゃいけない責任がある、それと似た感じかな。 ポポ そうなんだ。 寒鉄 それ以外に何があるっていうの? ポポ ……。 寒鉄。 寒鉄 何? ポポ 私のお母さん、今頃どうしてるかな? 寒鉄 ……きっと今頃、よく眠れてるんじゃない。 ポポ なんでそんなに自信を持って言えるの? 寒鉄 ああいう症状、今までにたくさん見て来たから。 今頃、長かった苦しみから解放されて安心して休んでるわよ。 ポポ そう......だよね....。 寒鉄 もう遅いし私は寝るわ。あんたも眠い? ポポ う〜ん....話してたら目が冴えてきたかも。 寒鉄 夜更かししすぎないようにね。私が寝てる間に逃げられでもしたら大変だから。 そう言うと、彼女は私のことを強引に寝袋に押し込み、ジッパーを閉じた。そして私は暗闇に包まれた。 ポポ 寝ようかな.......。 私は目を閉じた。この日、母が夢に現れることはなかった。 もしかすると、母はよく眠れているのかもしれない。 ---- ……… …………… ………………… グオングオングオングオン…… ポポ うっ......オエッ! 寒鉄 ヤマアラシのトゲにはかけないでよ。 ポポ 大丈夫.....今日は朝.....何も食べてないから。 寒鉄 あんた、なんでそう意味の分からない方に強がるのよ!? —— ポポ どうしていきなり暗くなったの? 寒鉄 この先が山だからトンネルを通る必要があるのよ。ほら、さっさと頭を引っ込めて。 ポポ ……なんでライトをつけないの? 寒鉄 それは—— ドン! ポポ !? 後ろの方から何かの爆発音が聞こえてきた。 ポポ さっきの音は何? 寒鉄 トンネルが崩れたのよ。 ポポ えっ? 寒鉄 あいつら、やっぱりここで待ち伏せをしてたわね。 寒鉄は車を止めると、ライフルを手に取りヤマアラシから飛び降りた。 寒鉄 ヤマアラシの中に隠れてて。伏せて動かないこと。 ポポ う……うん。 寒鉄 ヤマアラシ、ライトつけて。 ——[ブイン!」—— 声と共にライトがついた。一体何が.....待って、ペリスコープの画面に映ってる、あのどんどん大きくなってる火の玉は!? ドン! 寒鉄 見つけた! 寒鉄が火の玉が来た方向に向かって二発撃った。すると暗間の中から銃弾と共にトレーサーの光が伸びてきた。 寒鉄 いいわ、ヤマアラシ。ライトを消して。あんたは壁の右側を掘って身を隠してて。私は派手にやり合ってくるから。 ——[ブイン!」—— ダダダダ—— 寒鉄 まったく無礼極まりないわね。ハハッ、秩序の失われた世界はやっぱりジャングルのようなものね。 ジャングルじゃ戦って力比べするのが掟だもんね。 「だからこれ、どうなってるの!?」 寒鉄 そんなの決まってるじゃない。同業者に出くわしたってわけ。 こいつらはさ、人の獲物をかっさらおうと狙ってる ———聖痕ハンターよ! ドン! ダダダ…ダ…..ダダダダ.…… 私はヤマアラシの中で頭を抱えるようにして伏せた。何もできなかった。次第に弱まっていく断続的な銃声を聞いていることしかできなかった。 しばらくすると銃声も聞こえなくなった。 ……。 真っ暗。どちらが勝ったの? 相手が何人もいたら、寒鉄が負けたりするのかな? そうしたら私、どうすればいいの? あっ、でも彼女が負けたら.....逃げることができる。 ダメ.....ダメよ。相手は聖痕ハンター、結局連れていかれて実験動物にされて殺されちゃうに決まってる。 でも相手が聖痕ハンターっていうのも、寒鉄がそう言っただけだよね?彼女が戦っている間に私が逃げないか心配して脅しただけかもしれないし。 それに、相手側が使ってたのは銃だけで、聖痕の力は使ってなかったみたいだし。ということは軍の部隊?軍の部隊なら......助かるかもしれないよね? だけど.....外に出たところで、どこに行けばいいって言うの? それに私に助かるだけの資格があるのかな? 私みたいに、私みたいに…… 私みたいに卑劣な人に、助かる資格なんて本当にあるのかな? カチャッ! 寒鉄 ねぇ、終わったわよ。出てきたら。 そう考えていると突然ドアが開き、血だらけの寒鉄と陽の光が同時に目に入った。 ポポ ……うん……。 私はボーっとしながらもヤマアラシの外に出た。ヤマアラシはトンネルの片側に寄せられていて、敵の死体があちこちに転がっていた。 ポポ 彼らはつまり……。 寒鉄 軍の武器を使ってたから、壊滅した部隊の生さ残りが集まってできた盗賊のような輩ね。敵が私だけだっていうのに、わざわざ有利な地形を選んで攻撃してきた事からしても、戦闘訓練を積んでいることはほぼ間違いないわ。 慎重に死体に近づくと、死体の胸元にバッジがついているのが見えた。 ポポ 第一.......軍団..… &color(#F54738){我が軍}……第一軍団が.....敗北していたということ? 寒鉄 さあ、たぶんそうなんじゃない。 寒鉄は死体を一瞥すると別の方に顔を向けたが、しばらくするとまた死体の方を振り返った。 しかし結局諦めたかのように身を翻した。 寒鉄 —— あっ、これいいじゃない!軍用のオフロードバイクよ! ポポ えっ? 寒鉄の方を見てみると、確かに軍のマークが削り取られたバイクが1合あった。 寒鉄 スマートコアはついてないみたいだけど、なんとか動かせそうね。ほら、どいたどいた。これはかなりの収穫ね。崩壊エネルギーの武器もあれば、十分な実弾も爆発物もある。これでヤマアラシも満杯ね。 おっ!これも使えそう。崩壊エネルギーの亀裂の、現在の拡大規模を示した地図よ。 寒鉄は興味と興奮で一杯の様子だ。私のことを押しのけると、鹵獲した銃器などをヤマアラシの中に運び入れ始めた。 ポポ う〜ん……。 ということは......旅は続くのね? 寒鉄 そうだ、ひとつ忘れてた。うん......この銃でいいかな。 そう言うと、寒鉄は長いスコープのついたライフルを手に取り、空のとある部分に照準を絞った。 ポポ 何をして……? ドン! ポポ 何かが......落ちたきたみたいだけど? 寒鉄 えっ?わからない? ポポ うん? 寒鉄 昨日の夜、あんたも一緒に見たやつよ? ポポ 昨日の夜……。 寒鉄 ドローンよ。星に偽装してたあれさ、こいつらの偵察用ドローンだったのよ。 私、このドローンがあんたたちの暮らす拠点を監視してることに気が付いてね。それであそこに人類が暮らしてることを知ったのよ。 こいつら、私があの倉庫を焼き払ったのを見て、私を襲撃すればもっと価値のあるものが手に入ると考えたのよ。それでターゲットを私に切り替えたんじゃないかな。 もし私が倉庫に行かなければ、あそこで暮らす数千人の命、全てこいつらに奪われていたかもね。 ポポ 星......私の星が.……。 寒鉄 えっ、星? やっぱり......私の思い込みだったのね.....。 星だと思っていたあれが、まさか私たちを殺すために準備されたものだったなんて......。 寒鉄 ……。 ポポ ずっと前から......。 寒鉄 はいはい、わかった。 ポポ うぐっ……! 寒鉄 あんた辛いのね?じゃあ私がハグしてあげるから。 ポポ 何.....いきなり抱き着いてきて......すごくゴツゴツなんだけど、この装甲.....。 寒鉄 気持ち悪がらないでね。人類って遺伝子で構成された本能に従う生き物なんだから。辛い時はこうして誰かにハグしてもらいたいものなのよ。 それは相手が私みたいな残酷な輩でも同じ、本能って理屈に合わないこと、よくあるでしょう? ポポ は......ハグは別に勝手にすればいいけど.......頭を撫でないでよ......撫でないでってば! 寒鉄 この一連の出来事、あんたみたいな子供には残酷すぎるよね。 寒鉄 あんた、十分頑張ってるよ。その年齢で自分の命と引き換えに母親の命を救うだなんてさ。 あんたはすごく勇敢よ。 ポポ ……。 そんなこと.......ない.......。 私、勇敢なんかじゃない.....私はただの臆病者だから。 寒鉄 わかったわかった。 あんたの言う通り。 ……。 ポポ ねえ、寒鉄? 寒鉄 何? ポポ 私......あなたに聖痕局に売り飛ばされるんだよね? 寒鉄 ええ。 ポポ そして私はモルモットにされて解剖されて、聖痕の謎を解き明かす研究に使われるんだよね? 寒鉄 ええ。そういう約束よね。 ポポ その約束、破らないで。 寒鉄 ……? ポポ 頼れるものが何もない、明日どんな残酷な目に合うのか分からない状況で生きていくくらいだったら——死んだ方が良いから。 それに人には言いたくない事だけど、自分でも分かってる。私なんて死んでしまった所で惜しくもなんともない存在だということを。 寒鉄 …………………………………。 ………ごめんね………。 何を謝っているの? 寒鉄 私たち、もうちょっと頑張って.....いや、なんでもない。 さてと。私も16歳の少女の柔らかい胸で癒されたことだし、そろそろ行きましょう! ポポ あなたは本能に従うどころか、操られてない!? 寒鉄 そんな事ないわ〜。 ポポ ちょっと待って。物資でヤマアラシが一杯になっちゃったけど、私たちはどうやって移動するの? 寒鉄 あれを使うのよ。 ポポ あれって......ま、まさかアレの事じゃないよね!? —— 寒鉄 ハァ——— すごく気持ちいいわね。渋滞なんかもお構いなし。 バイクで飛ばすのってホント最高! ああ、ヤマアラシのことは心配要らないわ。集合地点をちゃんとセットしておいたから、私たちが寝ている間に追いつくからさ! ポポ オロロロロ—— 寒鉄 行くわよ!次に目指すのは大都市だからね!!