家に帰り着く頃には、時刻は午後四時近くになっていた。
とはいえ夏真っ盛りなのでまだまだ日は高いし、気温も然りだ。
部屋のドアを開けて中に入ると思いがけず涼しい空気が肌に触れる。
どうやら家を出る時、クーラーを消さずに出てしまったらしい。
普段ならば"やらかした"と溜息をつく場面だが、長居する予定のない異世界での懐事情にさして執着する意味はないだろう。
「あー……流石に、つっかれた〜……」
靴を脱いで居間に入るなり、ぼふんとソファに座り込む。
体重は背もたれに全部預けて、両手もだらりと投げ出した。
少し行儀の悪い格好ではあるものの、この疲れている状況でそんな小さなことを気にしている余裕などない。
目を細めて安堵の息を吐く鳥子の隣にちょこんと座って、アビゲイルがくすりと笑った。
「お疲れさま、マスター。どうかゆっくり休んでくださいな」
「ん、そうする……。アビーちゃんもちゃんと休んでね。
私は最後にちょっと動いただけだけど、アビーちゃんはあいつと戦ってたんだから」
あいつ――。
それは言わずもがな、先刻鳥子達が遭遇したサーヴァントのことを示している。
アルターエゴ・リンボと名乗った毒々しい陰陽師。食虫花と肉食獣の合いの子のような男。
裏世界の存在を相手に幾度となく大立ち回りを演じてきた鳥子だが、リンボはその鳥子をして経験のないタイプの怪異であった。
あのリンボから鳥子が感じ取ったのは、底無しの悪意。
何かを貶め陥れ、破滅へ導くことに無上の喜びを覚える対話不能の怪物。
よく生き残れたものだと今になって思う。自賛になってしまうが――あの場で機転を利かせたのは、我ながら本当に良い判断だったのだろう。
「(まさか、本当に上手く行くとは思わなかったけど)」
冒険の戦利品。共犯者のしるし。
この世界で思いがけず、それもあんないけ好かない奴に一泡吹かせる大役を果たしてくれたのは結構嬉しかった。
ただあんな大博打、そう毎度通りはしないだろう。
そもそもああやってサーヴァントまで直接近付かなければならない時点でリスクが高すぎる。
いざという時の奥の手として頭の中に入れておく価値はあるが、進んで狙うものではないに違いない。
そして――それとは別に、鳥子には一つ懸念していることがあった。
「ねえアビーちゃん。あいつ、あれで倒せたと思う?」
アルターエゴ・リンボは確かに鳥子達の目の前で消滅した。
鳥子に存在の核を弾き出され、止めにアビゲイルの触手を叩き込まれて粉砕された。
確かにその筈だ。断末魔もあげずに消えた憎たらしい面影を鳥子はちゃんと覚えている。
だが……。
「マスターは、そうは思ってないのね」
アビゲイルが問いかけた通り。
鳥子は自分達の手で倒した筈の相手の生死について、疑義の念を抱いていた。
「……うーん、微妙なとこ。
倒せてるならそれに越したことはないんだけど、私があいつの中から引きずり出したのって――なんか霊核っぽくなかったから」
記憶を掘り起こす。
鳥子は実際に英霊の霊核というものを見たことはないが、何となくのイメージはあった。
淡い光を放つ物体。ないしは、人間の心臓のように脈を打つ肉塊。
実際にそれが正しいかどうかはさておいて、こんな具合のイメージを抱いていた。
しかしいざ引きずり出してみた時、鳥子の手に握られていた"それ"は……人型に切り抜かれた一枚の護符という形をしていた。
無論、鳥子が無知なだけで実際は霊核の姿形はその英霊の性質や経歴によって左右されるだけなのかもしれない。
鳥子も無論そのことを考えなかったわけではなかったが――
「パブリックイメージってやつなのかもしれないけどさ。陰陽師って、式神とか使いそうじゃん」
伝わるかな、と少し不安だったが、特に不思議がっている様子はない。
英霊の座から与えられる知識の中に、陰陽師という職種の概要のような情報も含まれていたのだろう。
「私達が頑張って倒したのは式神で、本体は今もどこかでのうのうと生きてる……とかだったら最悪だなって。
アビーちゃんの情報も持ち帰られちゃったことになるし」
無論、あれで倒せているならそれが一番良い。
が、もしもこの懸念が当たっていた場合は一転鳥子達は非常に厳しい立場に追い込まれることになる。
一体如何なる経緯があったのか知らないが、リンボはアビゲイルのことを一方的に知っているようだった。
手の内も見抜かれているようだったし、彼の匙加減次第で幾らでも情報を悪用されてしまいかねない。
尤も、リンボが消滅した今となってはどうすることも出来ないのだが……それでも些か据わりの悪い気持ちになるのは否めなかった。
「……ごめんなさい。マスターの考えが正しいのかどうか、私には分からない」
アビゲイルはしばらく考えてから、申し訳なさそうに瞼を伏せた。
けれど、それも一瞬。すぐに少女は、隣でぐったりしている鳥子の目を見て言う。
「でも、どうだったとしてもマスターの身の安全が最優先よ。
今までは一緒に眠らせてもらっていたけれど、これからは夜も起きて警戒しておくことにするわ」
……サーヴァントに睡眠は必要ない。
取れないわけではないが、あくまでも本来必要のない事柄だ。
アビゲイルはこれまでずっと、夜は鳥子と同じように眠っていた。
それは鳥子の希望でもあった。
裏世界に何度も潜り死線を潜り、それでも冒険を止められない異常性こそあれど、
仁科鳥子は"異常者"ではないのだ。
急激に変貌した日常、相棒の空魚も友人の小桜も居ない孤独な死線――その中での不安を少しでも紛らわすため、アビゲイルへ"普通の女の子として暮らすこと"を望んだ。
これまではそれでも支障なく日々を過ごせていたが……確かにそろそろ頃合いだろう。
「アビーちゃんがそれで大丈夫なら、ちょっとお言葉に甘えようかな……。
あ――だけど疲れたりきついなと思ったら遠慮なく言ってね。それだけは約束」
「心配しないで、マスター。
今まではあんまり頼もしいとこ見せられなかったけど……これでもサーヴァントなのよ、私。
マスターにたくさん現代を楽しませてもらったぶん、ちゃんとお役目は果たすから」
そう言ってこくんと頷くアビゲイル。
その愛らしく、それでいて頼もしい言葉と姿に自然と頬が緩む。
空魚が見たら嫉妬されてしまいそうだけれど、この世界では彼女の存在だけが唯一の癒やしだった。
本当に、良いサーヴァントを引けた。あのリンボみたいなのを引いていたら、この一ヶ月を正気のまま過ごせていた気がしない。
「……ありがと。ふふ、アビーちゃんはいい子だなあ」
自分とお揃いの金髪を撫でながら言う、鳥子。
しかしその声には、どことなく元気が足りない。
「どうしたの? あんなことがあったから、やっぱりまだ不安……?」
「あ……ううん、そうじゃないよ。これでも場数は結構踏んで来たつもりだから」
死にかけたことくらい何度もある。
今更ヤバい怪異の一体や二体と出会って心が折れるほど仁科鳥子はヤワじゃない。
この歳で自分ほど修羅場慣れしている日本人はそうそう居ないだろうという自負もある。
ただ。……それは、"不安"と全く無縁だという意味合いではなかった。
「でも……不安がってるのは否定できないや。さっき――ちょっと考えたことがあってさ」
あくまで、ごく個人的な不安だ。
杞憂かもしれないし、多分そうである可能性の方がずっと高い。
それでも鳥子にとってそれは非常に居心地の悪い"しこり"で。
その内容は、彼女の今の相棒であるアビゲイルにも十分察せるものだった。
「――空魚さんが居るかもしれない。そう考えてるのね」
「……うん」
何せ、一緒に過ごした時間は一ヶ月もあったのだ。
当然、自分の話をする機会もあった。
その時に空魚の名前も自然と出たし、彼女について随分べらべらとアビゲイルに語ってしまったのを覚えている。
それに。自分がアビゲイルの思い出を夢で見たように、彼女も夢を介して自分と空魚の冒険の記憶を垣間見たのかもしれない。
とにかく、それは百点満点の正解だった。
閏間冴月の呪縛から解放された今、鳥子が強く懸想する相手は空魚しか居ない。
端的に言うならば、だ。
仁科鳥子は、この世界に――もしかしたら
紙越空魚も喚ばれている可能性を懸念している。
されど、鳥子が真に案じているのは"空魚が居た場合"の、更にその先の話だった。
「空魚ともしばったり出くわしたなら、それはそれでいいんだ。
お互い腹括って聖杯戦争から脱出する方法探しますかって、協力し合えると思う」
自分は我が身可愛さに空魚を殺すなんてことは絶対にしない。
そのくらいなら自分の命を投げ出した方がマシだと大真面目にそう考えている。
自惚れのようで少し気が引けるが、空魚の方もきっとその筈だ。そうあってくれると信じてる。
だから、もし空魚が此処に居るとして。
彼女と首尾よく合流出来たなら、それで良いのだ。
そうなったら協力し合える。
二人で向き合うのなら、ある筈のない出口を探すなんて無理難題も途端に攻略可能な課題に思えてくるから不思議だ。
故に問題は、その"首尾よく合流出来る"前提が覆った場合。
「けど、もし。考えたくもないことだけど、もし」
なかなか出会えないだとか、すれ違ってしまうだとか。
そういう不運が重なって――空魚の存在を知った時点で、全てが終わってしまっていたなら。
「もし、空魚がどうにかなっちゃったなら。その時は――」
……考えたくもない最低最悪の未来。
だけど有り得ないとは言えない。
この世界には実質、法がないのだ。
誰もが隣人を殺し、そして隣人に殺される。そういう可能性を等しく秘めている。
その結果、空魚に万一のことがあったなら。
鳥子が空魚と再会することなく、彼女が死んでしまっていたのなら。
「――その時は、多分私。聖杯を手に入れるために動くと思う」
……仁科鳥子はきっと、"いい人"では居られない。
彼女には良識がある。倫理観もある。
でも、本当に必要な時に引く引き金の重さは間違いなく常人のそれよりも軽い。
そして紙越空魚の消失は、仁科鳥子にとってこの世で最大の非常事態。
確信があった。もしそうなってしまったなら、その時自分は人間では居られないと。
誰を殺し、誰を裏切ってでも――空魚を蘇らせるために動くと。
そのことが分かってしまったからこそ、それは鳥子の心の中でしこりとして確かな存在感を発し始めるに至ったのだ。
「あくまで最悪中の最悪の話だけどね。だからあんまり気にしないで」
「マスター……」
「……ごめんね、こんな話しちゃって。
でもね――分かるんだよ。ああ、次は我慢出来ないなって」
鳥子は以前にも一度、大切な友人を失っている。
閏間冴月。裏世界に誰よりも深く踏み込み、結果裏世界に消えた友。
冴月の喪失は振り切れた。空魚のおかげで振り切れた。
でも――二度目は、駄目だ。
空魚に並ぶ人間が、今後自分の前に現れることはない。
そんなことは有り得ないのだとこの世の何にも勝る強い感情でそう確信している。
だから空魚まで失ったなら、その時鳥子はアビゲイルの良き友人では居られなくなるだろう。
彼女を武器として使い。聖杯を手に入れようとする筈だ。
「そんな顔しないで、マスター。
私はあなたのサーヴァント。あなたの運命は、私の運命」
――けれど。それを聞いたアビゲイルは、微笑みながら鳥子の頭を健気に撫でた。
アビゲイル・ウィリアムズは仁科鳥子のサーヴァントだ。
彼女のために喚ばれた降臨者。片翼を失った鳥を大切に抱く運命。
その身、その霊基に世界をすら滅ぼし得る巨大な意味を背負いながらも。
それでも。アビゲイルは、抱きしめた素敵な鳥を裏切らない。
「どんな道を選んだとしても、私はあなたについていきます。
だからどうか謝らないで。マスターは、笑顔が一番かわいいわ」
聖杯を手に入れる。
この世界を出る。
どちらでも構わない。
どちらでも――アビゲイルは鳥子に寄り添い、ついていく。送り届ける。
彼女にとっての本当の運命が待っているその場所まで。
その役目を果たしたなら、そこで初めて踵を返す。
「良かったわ」と微笑んで、それで初めて。そして最後の、さよならだ。
「あ〜〜っ、もう! かわいいなあ私のサーヴァントは〜〜!!」
「きゃ……っ!? ちょ、ちょっと、マスターっ!?」
疲労困憊のマスターにぎゅううう、と抱き締められ。
わしゃわしゃと頭を猫か何か宛らに撫で回されながら、アビゲイルは目を細めた。
銀の鍵。無垢な少女。誰かのために祈れる善良。
願わくば。自分が、このカタチのままで居られますように。
その願いは誰にも届くことなく――小さな胸の中だけに。
【荒川区・鳥子のマンション(日暮里駅周辺)/一日目・午後(夕方直前)】
【仁科鳥子@裏世界ピクニック】
[状態]:疲労(中)
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:護身用のナイフ程度。
[所持金]:数万円
[思考・状況]
基本方針:生きて元の世界に帰る。
1:もしも空魚が居るなら合流したい。その上で、万一のことがあれば……。
2:出来るだけ他人を蹴落とすことはしたくないけど――
3:アルタ―エゴ・リンボに対する強い警戒。
[備考]
※鳥子の透明な手はサ―ヴァントの神秘に対しても原作と同様の効果を発揮できます。
式神ではなく真正のサ―ヴァントの霊核などに対して触れた場合どうなるかは後の話に準拠するものとします。
※手を隠していた手袋が焼失しました。今のところはポケットに手を突っ込んで無理やり誤魔化しています。
※荒川区・日暮里駅周辺に自宅のマンションがあります。
【フォ―リナ―(アビゲイル・ウィリアムズ)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスタ―を守り、元の世界に帰す
1:マスタ―にあまり無茶はさせたくない。
2:あなたが何を目指そうと。私は、あなたのサーヴァント。
◆◆
宿に着くと、簡単なチェックインを済ませて部屋に入った。
まだ一日の行動を終えるには早すぎる時刻だが、東京の猛暑は思いの外体力を奪う。
多少身体を休めつつ、これからの方針についても考えつつ……落ち着いたらまた外に出る。
そんなプランを考えながら、ロビーの自販機で購入したエナジードリンクを一口飲む。
ケミカルで不健康な味わいを喉奥に流し込んでから、一息吐いて、
リップは霊体化したままの自分の相棒へと声を掛けた。
「……落ち着いたか?」
「……う、ん……。もう、大丈夫……」
「そうか。お前が何を見たのか俺は知らないが、あまり思い出すな」
本戦が始まって最初の敵サーヴァントとの接敵は、リップにとってもそのサーヴァントにとっても不本意な結果に終わった。
リップのサーヴァント・アーチャー。真名をシュヴィという彼女は、端的に言って非常に優秀な英霊である。
火力も器用さも申し分ない。少しばかりリップの方針とは異なる思想を抱いてはいるものの、それも許容範囲内だ。
ただ……今回は、その"器用さ"が仇となった。
【機凱種(エクスマキナ)】の性能に基づく超絶の解析能力。
英霊であろうが何であろうが暴き立て、詳らかに読み解き理解する反則級の解析。
シュヴィは、遭遇したサーヴァントを"解析"した。その行動自体は至極順当なものであり、責められるものでは全くない。
悪かったのはシュヴィではなく、――運。
一発目から、出会ってはならない存在と出会してしまった不運(アンラック)。
「先刻のサーヴァントと次に遭遇したら、解析はせずに初手から火力で押し潰せ。
理解するのが危険な手合いなら、そもそも理解しなきゃいい。
一から十まで詳らかにしなくても十分やれるだろ、お前なら」
「……わかった……。……ありがと、ね。マスター……」
「……礼を言われることなんてしてねえ。俺はただマスターとして、指示を出しただけだ」
シュヴィにとって、あの時垣間見た"冒涜"は拭い去ることの出来ない傷であった。汚染、とも言い換えられるかもしれない。
もしも彼女が、愛という汚染に苛まれたことのある機械でなかったなら――もっと致命的な損害を被っていた可能性すらあろう。
しかし
シュヴィ・ドーラはとうの昔に、正確なだけの機械ではなくなっている。
それが辛うじて彼女の存在と自我を繋ぎ止めた。
恐慌はある程度引き、今ではどうにか震えも止まった。……リップの言う通り、あまり思い出さないようにすれば――だったが。
「(ごめんなさい……って、言ったら。怒られちゃう、よね……)」
敵サーヴァントを倒すどころか、逆にその狂気にあてられて怯えて帰ってくる。
マスターがマスターなら怒鳴られ叱責されているだろうし、シュヴィ自身、そのくらいの失態をしたと自覚していた。
だが、リップはシュヴィを責めなかった。否定もしなかった。
彼は、優しい男だから。過酷な茨道の中を進んでいても、本質は決して悪のそれではなく。
むしろ人を惹きつけ、誰かの希望になれる――そんなヒーローの性を持っている、そういう人間だから。
だから、もう一度謝れば却って怒られてしまうだろうなと分かった。
故に謝罪を重ねることはしない。謝る代わりに、もう二度と繰り返さないことで挽回しようとシュヴィはそう誓った。
次こそは、必ず。彼の期待と、抱く願いに添った結果を持って帰れるように。
「それよりも、これからの話をするぞ」
「……ん……」
「"ガムテープの奴ら"が持っていた麻薬の量産だが……素人の作れる範疇の設備と道具じゃまず無理だ。
一枚二枚作るだけなら可能かもしれないが、それにしたって時間が掛かりすぎる。
そこまで悠長に動いてたら、出来上がった時にはもう麻薬の効能程度じゃ取り返しの付かない遅れを取ってるって可能性も出てくる」
「じゃあ……薬のことは、諦める……?」
「そうは言ってない。餅は餅屋に任せるのが一番かもしれない、ってことだ」
麻薬(ヘルズ・クーポン)の量産は個人で用意できる設備と環境ではまず追い付かない。
無理に目指せば本末転倒。では諦めるかと問われれば、そういうわけでもない。
リップが考えたのは、自分に与えられた"元医者"のロールを最大限に活用する方策だ。
神の気まぐれによる医療ミスが原因で人生の道を踏み外したリップに対しては酷い皮肉と言う他ないロールだが、感情を排して考えればこれは"利用出来る"。
「過去の俺は、新宿の"皮下医院"に何度か顔を出してた。その頃のコネクションを使いたい」
「それは……ちょっと、無茶じゃ、ない?
すごく無理やりに乗っ取ることになりそうだし……そうなったら、ボロも出ちゃうと、思う……」
「これは俺の、あくまで個人的な推測だが」
エナジードリンクを、また一口飲み込んで。
それからリップは、シュヴィの目を見て言った。
「皮下医院の院長――"
皮下真"には、何か探られたくない腹がある」
皮下真。
院長職を務めるにはあまりにも若すぎる齢だが、しかしその異常さに見合うだけの能力と頭脳を秘めた男。
とはいえ、リップが皮下と直接面識を持っていたわけではない。
だが、何かと胡散臭い男であるという印象は――どうも当初から抱いていたようだ。
「仮に無かったとしてもそれはそれで構わない。
その時は力ずくで、どうにかして奴を懐柔する。
皮下の能力と、奴の病院の設備。この二つがあれば、例の麻薬の量産は無理難題ではなくなる筈だ」
リップの視界には三通りの可能性がある。
皮下が何か、日の当たる場所には出せないような弱みを抱えている可能性。
はたまたその手の事情はなく、単に頭抜けて優秀な若院長であるという可能性。
そして、皮下がリップと同じく聖杯戦争のマスターである可能性。
「……もう少し休んだら、俺は皮下医院に赴いてみるつもりだ」
「マスターが行くなら……シュヴィも、行く……」
「ああ、出来ればそうしてほしい。万が一、億が一……サーヴァントが出て来たら、俺一人じゃどうにもならないからな」
真実がどれだったとしても、目指すところは変わらない。
皮下がマスターでないのなら力ずく、ないしは奴の弱みをシュヴィに見抜かせて突き付け懐柔する。
皮下がマスターであるのなら、その時は利害の一致を突き付け一時の味方にする。
どちらに転ぶにせよ一定のリスクを負うことは避けられないが、こればかりは行動を起こす者に必ず付き纏う荷物だ。
その重さも受け入れて進み、現状を変えなければ――変え続けなければ。勝利はない。
「……マスターは、シュヴィが守るよ。
だから……安心して。もう、失敗、しないから……」
「……ああ。ありがとな、シュヴィ」
【豊島区・ビジネスホテル/一日目・午後(夕方直前)】
【リップ@アンデッドアンラック】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:走刃脚、医療用メス数本
[道具]:ヘルズクーポン(紙片)
[所持金]:数万円
[思考・状況]
基本方針:聖杯の力で“あの日”をやり直す。
1:皮下真に接触し、地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)量産のために必要な設備を入手したい。
2:敵主従の排除。同盟などは状況を鑑みて判断。
3:ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)は様子見。追撃が激しければ攻勢に出るが、今は他主従との潰し合いによる疲弊を待ちたい。
[備考]
※『ヘルズ・クーポン@忍者と極道』の製造方法を知りましたが、物資の都合から大量生産や完璧な再現は難しいと判断しました。
また『ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)』が一定の規模を持った集団であり、ヘルズ・クーポンの確保において同様の状況に置かれていることを推測しました。
※ロールは非合法の薬物を売る元医者となっています。医者時代は“記憶”として知覚しています。
皮下医院も何度か訪れていたことになっていますが、皮下真とは殆ど交流していないようです。
【アーチャー(シュヴィ・ドーラ)@ノーゲーム・ノーライフ】
[状態]:少し……落ち着いた、かな……。
[装備]:機凱種としての武装
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:叶うなら、もう一度リクに会いたい。
0:……しっかり、しないと……。
1:マスター(リップ)に従う。いざとなったら戦う。
2:マスターが心配。殺しはしたくないけと、彼が裏で暗躍していることにも薄々気づいている。
3:フォーリナー(アビゲイル)への恐怖。
時系列順
投下順
最終更新:2021年10月11日 02:07