街が、燃えていた。
新宿で起きたらしい大きな戦いの傷も癒えないままに。
また、大きな戦いが起きて、大勢死んだようだ。
その様は、今の私の拠点であるマンションからは良く見えた。


「相も変わらず、喧しい街ですわ」


そこかしこで鳴り響くけたたましいサイレンの音で、昼間より五月蠅くなった気がする。
私はそれに辟易しながら、手にしていたグラスの中のカフェオレを呷った。
時刻は日付が変わって三十分ほど経った後。
今いるのはガムテさんに与えられた高級マンションの一室、そのベランダだ。
仕事を終えて帰ってきたとき、ガムテさんは既に何処かへ出かけている様だった。
ならば今後に備えて少し休もうとした時に思い立ったのがこの部屋だ。
部屋の中にある食べ物も衣類も自由にしていいと言われているため、遠慮は無かった。
すぐさま私は鏡世界からこの部屋に降り立ち、シャワーを浴びた。
理由は単純、私が殺したアイドルの一人に付けられた血が鬱陶しかったから。
迷うことなく、熱いお湯で付いた血痕すべてを洗い流した。
綺麗さっぱり、あの名前も知らない女が生きてきた痕跡すら、洗い流すように。


(全く、人を不快にさせるのだけは一丁前の連中ですわね)


その後は血の付いた服から着替えて、こうしてこのベランダで寛いでいる。
夕食は備え付けられていた冷蔵庫にあった出前品と思わしき鰻重で済ませた。
きっと、ガムテさんが彼の部下にあらかじめ用意させたものだろう。
随分羽振りと準備の良い事だ。
意外と、几帳面な性格をしているのかもしれない。
洋服箪笥に替えの下着まで用意していたのは若干気持ち悪かったけれど。


「協力相手が優秀でお金持ちなのは頼もしいのでしょうね。
……随分と派手にやってるご様子なのは良し悪しですけれど」


夕食を済ませて彼が帰ってくるまで二時間ほど鏡世界で仮眠を取り。
目を覚ましてマンションに戻ってみれば、ほど近い街が燃えていた。
確か、豊島区だったかの辺りから数区画、消しゴムをかけたように吹き飛んでいる。
あんな芸当ができるのは、まぁほぼ間違いなくガムテさんの引き当てた“お婆様”絡みだろう。
流石にあんな芸当ができるお婆様や鬼さんの様なサーヴァントがこれ以上いるとはあまり考えたくなかった。


(この街、聖杯戦争が終わるまで残っているんでしょうか)


消し跳び、また生き残った区画も火の手が上がっている街並みを眺めて。
抱いたのは、そんな疑問だった。
他は特に何も思わない。
ただマスターが巻き添えを食っていたらいいな、と思うぐらいだ。
きっと大勢死んでいるのだろうけど。
今の私にとって、そんな事はどうでも良かった。
所詮この街の人間の大多数は、ゲーム盤の駒に過ぎないのだから。
それが高々数千数万死んだところで、何だというのか。
所詮偽物。人も街も見栄えだけ良くして取り繕った嘘の産物。
気に入らない街が消えてくれればむしろせいせいすると言うものだ。
だけれど。


「……もう少し、スッキリすると思っていたのですけど」


今の私の中には、勉強をしている時のような冷めきった感情しかなかった。
ぽつりと漏らした呟きも、今の私の気分を表すように冷たい物だった。
何故かは分かっている。さっき終えてきた仕事のせいだ。
思い返す、先ほど踏み潰してきた偶像(アイドル)の方々を。
昼間CDショップで見かけたときから気に食わなかった。
もしマスターなら躊躇なく銃弾をお見舞いできると思って、事実そうなった。
いけすかない梨花に群がる悪い虫を排除した。
それにはガムテさんへの得点稼ぎという実益も含まれていて。
なのに、達成感だとか、爽快感は落胆するほど沸いてこなかった。
沸いてきたのは虚無感だけだ。
人質の確保に失敗したからだろうか。
リンボさんの式神が謎の英霊に倒され、危うく死ぬところだったからか。
何方も理由の一端ではあったけれど、違う気がした。


(ま、やっぱり、私の相手ができるのは梨花だけ、という事なのでしょう)


梨花。
大好きな梨花。
無意識のうちに、彼女を相手に惨劇を起こす事と同一視してしまったからだろう。
実際には梨花どころか、部活メンバーの足元にも及ばない害虫でしかない相手に。
そう、害虫駆除だ。
ハエやゴキブリを殺すのと何も変わりは無い。
もう姿を見なくて済むという僅かな安堵と、それ以上に残った死体への空虚な嫌悪感。
今の私の心境を指すのに、これ以上なく最適だと感じていた。
認識をあらためばならない。
あんな害虫共と私の願いでありゲーム相手である部活メンバーを無意識とは言え同一視するなんて。
彼女たちにとってそれは最大級の侮辱だ。


「……早く、会いたいですわね」


もう一度、呟きを漏らして。
胸の中に渦巻く空虚感を、カフェオレでのみ下す。
早く、梨花に会いたい。
早く、彼女と勝負の続きがしたい。
早く―――あの、雛見沢に帰りたい。


「よーっす、帰ったぜ~黄金時代~」


そんな風に、故郷に思いを馳せていた時だった。
三時間ほど前に別れた少年の声が、背後に響いたのは。
背後を振り返れば、別れた時と何も変わらない協力者――ガムテさんが立っていた。


「ど~した黄金時代?何か萎え萎えじゃ~ン」
「色々酷い目に逢いまして。人質を取るのには失敗するわ、危うく死にかけるわ…
お婆様は何方に?」
「鏡世界(ミラミラワールド)の中。で、偶像(ブス)共は殺せたか?」


人質を確保できなかった事は、素直に話した。
ガムテさんを相手に誤魔化せるとは思えなかったからだ。
下手に弁明するより、あったことをそのまま伝えた。
偶像の殺害には成功したが、謎のサーヴァントの襲撃により本丸は逃がした、と。


「ブっ殺すのには成功したのか。OKOK。了解(りょ)だぜ黄金時代。ゴクロー」
「軽いですわね。叱責を受けることも覚悟していたのですけど」
「ン~?そうして欲しいならそうしてやるけど?
あの五月蠅(ウッセ)ェ糞坊主(リンボマン)が居ないって事は、サーヴァントが来たってのは真実(マジ)だろうしな」


サーヴァントが来たならどの道舞踏鳥達が当たっていても失敗しただろう。
人質の確保だけではなく、偶像の殺害すら失敗していたかもしれない。
それを考えれば自分は十分仕事をこなした。
彼はそう言って、私を労った。
簡素な報告だったにもかかわらず、ここまで察するのは本当に頭の回転が速い事だ。


「どの道、何人かは失敗しても無問題(おけまる)だったしなァ~
舞踏鳥達の方も失敗(シク)ッたみたいだし、まッ!ノーカンノーカン!!」


別に一度失敗したところで大勢に影響が出るわけではない。
時間をずらして再攻撃を仕掛けるだけだと彼は語った。
確かに、その通りだ。
偶像たちが敵に回したのはガムテさん個人ではない。
割れた子供達という組織だ。
組織であるために、一度や二度の失敗では何ら全体は揺らがない。
攻撃を続けて行けば、いずれ守り切れなくなる時が来るだろう。
その証拠に。

「でも、意外ですわね。よりによって貴女の右腕の彼女がしくじるだなんて」
「何か変な侍(チョンマゲ)が来襲(キ)たんだってさ。
サーヴァントじゃなかったみたいだけどォ…忍者みたいなバケモンってのは何処にでもいるもんだな」


舞踏鳥さんたち“は”失敗した、ということは、つまり。
私の予想を裏付けるように、彼は言った。


「―――他はだいぶん前に連絡があったぜ、“終わった”って」


番狂わせは、他の場所では起きなかったという事だ。
私と舞踏鳥さんの場所以外では、彼らは何も仕損じる事無く仕事を果たしたらしい。
あっけないものだ。本当に、歯ごたえが無い。
彼女達相手に憎悪を燃やしていたのが、酷く馬鹿馬鹿しく感じる。


「ガムテさん、復讐って虚しいものですわね」
「偶像(ブス)共やPたんが聞いたら激怒(ブチギレ)そうだなそれ」
「向かってきたら全員穴だらけにして差し上げますわよ」


色々手を回してた様だが、これで鬱陶しい蜘蛛の企みは失敗というわけだ。
都内にいた殆どのNPCのアイドルは殺され、必然的に誰がマスターかは炙り出される。
大敗と言っても過言ではないだろう。
割れた子供達という組織を相手にした時から、NPCの防衛という点では結果は見えていたかもしれないけど。
何にせよ、社長が死んだのだからこの世界のあの事務所はもうお終いだ。


「こっからはバンダイっ子も真剣勝負(ガチ)で殺しに来る。気合入れろよ、黄金時代」
「えぇ、それは承知していますわ。蜘蛛さんが厄介な手合いという事ぐらいは」


これで社長を含めると私とガムテさんたちだけで八人もの283の関係者が死んだ。
確かあの事務所は見せられた資料では25人程だから、三分の一が死んだ事になる。
だが、それは裏を返せば残る三分の二を救ったという事。
ガムテさんを相手にしてそこまで被害を抑えた実力は、間違いなく確かな物だと思う。
侮りはきっと命取りになるだろう。
だがマスターは別だ。


「…マスターがマスターですから、宝の持ち腐れというものですけれど」


例え可能性の器だとしても。
今しがた殺してきたアイドル達と同じ様な下らない連中なのは想像に難くない。
見栄えを良くするばかりで、部活メンバーに比べれば何もかも劣る。



「……黄金時代(ノスタルジア)。一個忠告(アドバイス)しといてやるよ。
あんまり、偶像(ドル)共を舐めすぎんな」
「あら、ガムテさんはあんな半端な方々の肩を持つ…と?」


珍しく、釘を刺すような事を言ってきたガムテさんに、少々驚く。
だが私もただ単に気に入らないから、彼女達を下に見ている訳ではない。
少し考えた後、私はそう思っている根拠を彼への問いという形で提示する。


「―――ねぇ、ガムテさん。奇跡を起こすのに必要な物って何だと思います?」
「ハァ?」
「いいから、別にそう捻った質問ではございませんわ」


いきなり何を言い出すんだこいつは、という顔でガムテさんが見てくるが気にしない。
答えが返ってくる事も期待していない。
きっと、彼らは奇跡なんて言葉とは一番縁遠い方々だろうから。
だから、私は彼の返事が返ってくる前に、答えを言って見せた。


「答えは意志ですわ。自分の願いに辿り着くためなら全てを捻じ伏せ、
自分の未来を一歩も譲らない、誰にも覆せない絶対の意思
月並みな言い方をすれば、覚悟とでも言いましょうか」


そう。
たった一人で、育ての祖父を神にするために雛見沢を滅ぼしてきた鷹野三四も。
惨劇の輪廻(ループ)から昭和五十八年の夏を越える事を目指した梨花も。
方向は違うけれど、どちらも揺らがない意思があった。
そして、二人はそれぞれの形で願いを成就させたのだ。
鷹野三四は最後の盤面で敗れたが、それまで数えきれないカケラで願いを叶え、オヤシロ様となってきた。
そして、梨花は意志だけを頼りとした百年の旅路の果てに、遂に百年の惨劇を打ち破った。
どれだけ絆が強く、どれだけ精鋭とは言え、当時の私達がただの子供であったことには変わりはない。
部活メンバーと特殊部隊である山狗との戦力の差は歴然としたもので。
それでもそんな戦力差なんて、自分たちが起こした奇跡の前には些細な物だった。
だから、私は戦力差という見方でも偶像の方々を侮っている訳ではない。
そんな物、彼女達が奇跡を起こせば容易にひっくり返る事を既に知っている。

「けれど、今の偶像(アイドル)の方々にそれがあるとは思えない」


ガムテさんが事務所を訪れた時も。
もし、情に流されないで事務所に関わろうとしなければ。
最悪でも、あの時事務所に居た人間しか死ぬことはなかった。
既に情報を流されていた事を考えれば、他の主従の調査は避けられなかっただろうけど。
それでも、ガムテさんと、割れた子供達という組織を敵に回すことは無かった。
予選期間の様に存在は悟られず、現在もずっと有利に立ち回れていたのだけ確かだ。


「あの方たちは自分達が見捨てたという事実を背負いたくなかったから、そうしただけ。
もう一匹の蜘蛛さんとの会話では、聖杯戦争自体に消極的なようですけど、
翻って仲間を殺したガムテさんへ復讐はしたい…半端なんですのよ、何処まで行っても」


奇跡はそんなに安いモノではない。
梨花ですら、それに辿り着くまでに百年の旅路を必要としたのだ。
何度も何度も何度も数えきれない惨劇の夜を越えて。
それを半端でくだらない連中がただの一度で辿り着く?冗談もいい所だ。


「黄金時代、そんじゃ~お前の言う奇跡を起こす奴ってのはァ…
仲間を殺した奴ともお手手つないで握手するような狂気(イカレ)の事かァ?」


訝し気な声を上げて、ガムテさんは此方を見てくる。
そんな彼に対して私は迷うことなく言葉を紡いだ。
我ながら、自信に満ちた声色だと思った。


「ええ、そうですわ。奇跡は簡単には起こらないから奇跡というのです。
蜘蛛さんたちのガムテさんを排除しようとする姿勢は至極正常(まとも)ですが、
まともなために、奇跡を起こすには余りにも半端なんですのよ」


そして、奇跡が起こらなければ。
残酷なまでに順当に、何方がより勝つために積み重ねてきたかで勝敗は決する。
それは私も昭和五十八年の雛見沢で経験してきた事だし、この聖杯戦争でも結果は既に出ている。
奇跡は起きず、東京に残っていた殆どのアイドル達は殺されたという結果が。
仲間を自分のサーヴァントに生贄に捧げてでも、勝つために動いたガムテさんの選択がその結果を導いた。


「随分自信満々(イケドン)だなァ、そんな狂人(イカレ)が友人(ダチ)にでもいたん?」
「……えぇ、親友(マブ)でしたわ」


『この世界に、敗者はいらない。
―――これが、古手梨花が奇跡を求めた千年の旅路の果てに…辿り着いたたった一つの答えよ』



梨花は、百年間自分を惨劇の檻の中に閉じ込めていた鷹野三四を赦した。
両親を惨たらしく殺し、梨花自身も生きたまま解剖された事さえあった仇を。
実際にその瞬間に立ち会ったときは分からなかったけれど。
梨花が巡った百年のカケラの追想を経て、あの時の選択がどれだけ偉大な物だったかを私は理解した。
優しい、なんて領域ではない。
それは最早、狂気だ。そしてそれは強靭(つよ)さの同義語でもある。
だからこそ、梨花は最後に栄光を掴んだ。
流石、私の親友だと思う。
梨花に比べれば、上っ面だけよくした偶像たちなんて足元にも及ばない。
そして、私はそんな梨花に勝たなくてはいけない。
もう一度あの頃に。
二人が無邪気に笑っていた、あの頃に還るために。


「―――言いたい事は分かった、黄金時代(ノスタルジア)。
それでも…偶像(アイドル)共を舐め過ぎんな。
……お前の言ってるような奴は、一人居た」


あくまで警戒するように、ガムテさんは告げてくる。
彼の様子は今までの道化然とした態度とはかけ離れたものだった。
今迄とは比べ物にならない程の真剣な表情。そして、何か思いを馳せる様に。
初めて見る、これまでとは違った彼の側面。
此処は、特に反論せず素直に受け取っておくものとする。


「…忠告として受け取っておきましょう。
けれど、貴女が言うその方はもういない。違いますか?」
「まァな」


なら、やはり結果は出ているではありませんか。
喉元まで出かかったその言葉を、私は飲み込んだ。
…これは始まりに過ぎない。
NPCの殆どが死んだという事は、次に狙われるのはマスターの方だ。
誰がマスターかも殆ど絞り込まれ、追い込みもより苛烈になっていくだろう。
これまで以上に選択を迫られるし、犠牲を払う痛みもより近しいものになる。
理不尽だし、とても残酷な話だ。
だけれど。
世界なんて、元から不条理で、残酷な物だ。
何かを捨てなければ、先へと進むことはできない。
彼女達は、それをたまたま幸運にも知らなかっただけ。
私も、目の前の少年もそれを既に知っている。
数えきれないほど多くのモノを選び切り捨て、此処へと立っている。


「そろそろ、あの方々もハッキリと認識すべきなんですわ。今の自分の立場を」


私たちは、界聖杯という世界に選ばれた23丁の拳銃(バレル)だ。
狙いを定め、撃鉄を起こし、引き金を引く。
そうして他の願いを背負った銃身を打ち砕く。最後の一丁となるまで。
普通の拳銃と違うのは、弾丸が勝手に装填されてくれるという事。
それだけでなく、安全装置を外し、撃鉄を引き起こしてさえくれる。
だからこそ…引き金を絞るものの意思が要求される。
それを認識できない様であれば、あの連中に先は無い。


「……そうだ、ガムテさん。プロデューサーさんの電話を貸してくださいな」
「ん?快諾(イ)~けど、如何するつもりだ」
「少しあの方々に向けてメッセージをと思いまして…直ぐに返却します」


そう言って頼むと、少し考えてガムテさんは電話を此方に投げてきた。
それを受け取って、私は手早く文字を綴る。
プロデューサーさんの動画が晒され、未だ混乱の最中にあるその場所に。
白けた気分にさせられたささやかな報復と、精神的な削りもかねて。
駆けずり回って知恵を絞り。
それでも実を結ばなかった可哀そうな方々へ言葉を贈ろう。


「―――黄金時代、ババアからの呼び出しだ。終わったら行くぞ」
「えぇ、今終わりました。そろそろ戻りましょうか」


丁度その文面を入力し終わった時だった。
鏡の世界にいる彼のサーヴァントから招集がかかったらしい。
メッセージを書き込み、彼に電話を返す。
そして、グラスの中に残っていたカフェオレを飲み干した。
視線を戻せば、無防備なガムテさんの背中が映る。
その背中を見て、私は。


(……そう言えば、ガムテさんはどうなんでしょうね)


短い付き合いだが、彼がただの狂った子供ではないことは既に確認している。
頭の回転も、仲間への求心力も。
だが…その実力は、未だ確かめたことは無かった。
即ち、今の自分が殺し得る相手なのか、という事は。
脳裏に沸いたその疑問に突き動かされるように。
気づけば、私は行動に移していた。



「……ッ!?」


キンッ!と
私とガムテさんの間で、乾いた金属音が響いたのはその直後の事だった。


「……全く、自信を無くしますわね。これでも本気で抜いたつもりだったのですけど」


彼は、振り返る事すらなく。
私が向けようとした拳銃を短刀(ドス)で撃ち落としていた。
発射するつもりは無かったとは言え。
鏡の世界に入る寸前。その一瞬を狙ったというのに。




「いんや~いい線行ってたぜ。薬(ヤク)キメてりゃ千載一遇(ワンチャン)あるぐらいにはな。
ただ…俺は殺人(コレ)に関しちゃ、天才なんだよ」


半身だけ鏡の中に入れた状態で。
振り返ったガムテさんはニカっと笑い、欠けた歯を覗かせた。
そして、指で何かを弾いて、此方に渡してくる。


「今回のお仕事(ちごと)の報酬(ギャラ)だ。とっとけ」
「…プレゼントがいけないお薬だなんて、贈り物のセンスは致命的ですわねぇ」
「うっせ、なら返せそれ希少(レア)何だから。後、今の俺以外にやったら死んでっからな」
「分かっています。ガムテさんだからやったんですもの。こういう女性はお嫌いでしたか?」
「いんやァ、可愛(マブ)いと思うぜ、イー感じに壊(イカ)れてて」
「誉め言葉のセンスも致命的ですわね」


苦笑しながら持っていたグラスを置いて、落ちた銃を拾い彼に続く。
渡された薬は使うつもりは無かったが、貴重な物らしいので捨てることはしない。
彼の意向を尊重し、お守り代わりに受け取って置く。
今試してみて改めて感じたが、やはり彼は優秀な駒で、競争相手だ。
子供達の王としての確かな意志と、それを務めるだけの能力は最早疑わない。
彼との勝負は、きっと“部活”の様な刺激的なものとなるだろう。
だけれど、彼ですら“そこ”止まりだ。


(彼も所詮は通過点。私の前に最後に立つ相手はもう決まっていますもの)


かつて奇跡を起こした掛け替えのない親友。
兄を置き去りにした今ではたった一人になってしまった家族。
そして、連綿と続く惨劇の遊戯(ゲーム)の好敵手。
ガムテさんでも、梨花の替わりには成りえない。決して。


(早く、勝負の続きと参りたいですわね。そう思うでしょう、貴方も?)


…私は、あの日の梨花の選択はとても尊いものだと思っている。
だからこそ、過去を裏切るような選択を為そうとした今の梨花が許せない。
あの日の栄光に。辿り着いた奇跡に。二人の故郷である雛見沢に何の不満があるのか。
この街で男に媚びる見栄えだけの偶像共より、余程価値があるのに。
めでたしめでたしで終わった物語の結末を先に裏切ったのは、梨花の方だ。
シンデレラは末永く幸せに暮らしました、と締めくくられるから価値があるのに。
そのあと実際は政治で苦労したなんて、そんな結末を認められるものか。
世界中の人間が認めたとしても、私だけは認めない。
その結末を否定できるのなら、私は喜んで魔女となろう。


「黄金時代、何してんだ~さっさと来いよ」
「えぇ、今行きますわ」


ガムテさんの言葉で、思考の海に沈んでいた意識を引き戻す。
そうだ、勝った後の事を考えるにはまだ早い。
今は未だ、勝つために最善を尽くす時なのだから。
ベランダと部屋を隔てるガラス戸の前に進み出ながら、先ほど偶像達に贈ったメッセージに思いを馳せる。
さて、彼女達はどんな顔をするだろうか。
再び鏡世界の中へと進みながら、私は綴った文面を心の中で反芻する。
プロデューサーさんの件で傷心中の所に追い打ちをかける、心を抉るその言葉を。



『仲間思いの誰かさん。貴女の尽力のお陰で死人が増えました』


『無駄な努力をご苦労様でした』



【中央区・某タワーマンション(グラス・チルドレン拠点)・鏡面世界内/二日目・未明】

北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:健康。
[令呪]:残り3画
[装備]:トカレフ@現実
[道具]:トカレフの予備弾薬、地獄への回数券
[所持金]:十数万円(極道の屋敷を襲撃した際に奪ったもの)
[思考・状況]
基本方針:理想のカケラに辿り着くため界聖杯を手に入れる。
0:ガムテさん達とこれからの計画を練る。
1:最悪脱出出来るならそれでも構わないが、敵は積極的に排除したい。
2:割れた子供達(グラス・チルドレン)に潜り込み利用する。皮下達との折り合いは適度に付けたい。
3:ライダー(カイドウ)を打倒する手段を探し、いざという時確実に排除できる体制を整えたい
4:ずる賢い蜘蛛。厄介ですけど、所詮虫は虫。ですわよ?
5:にっちもさっちも行かなそうなら令呪で逃亡する。背に腹は代えられない。

【ガムテ(輝村照)@忍者と極道】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:地獄への回数券
[道具]:携帯電話(283プロダクションおよび七草はづきの番号、アドレスを登録済み)
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:皆殺し。
1:蜘蛛共を叩き潰す、峰津院の対策も 講じる。
2:283プロ陣営との全面戦争。
3:あのバンダイっ子(犯罪卿)は絶望させて殺す。
4:黄金時代(北条沙都子)に期待。いざという時のことも、ちゃんと考えてんだぜ? これでも。
5:あさひに妹(しお)のことを伝える。
[備考]
※ライダーがカナヅチであることを把握しました。
※ライダーの第三宝具を解禁しました。
※ライダーが使い魔として呼び出すシャーロット・ブリュレの『ミラミラの実の能力』については以下の制限がかけられています。界聖杯に依るものかは後続の書き手にお任せします。
NPCの鏡世界内の侵入不可
鏡世界の鏡を会場内の他の鏡へ繋げる際は正確な座標が必須。
投射能力による姿の擬態の時間制限。



時系列順

Back:日蝕/Nyx Next:引奈落

投下順


←Back Character name Next→
094:崩壊-rebirth-(後編) 輝村照(ガムテ) 110:チルドレンレコード
097:光月譚・桃源 北条沙都子 110:チルドレンレコード

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年04月19日 22:53