◆ ◆ ◆
誰もが息を呑んでいたというと多分語弊がある。
神戸しおと、彼女の愛する少女を知る女だけが例外だった。
だが逆に言えばその二人を除けば。
トップアイドルも犯罪王も八極道も、誰もが例外にはなり得なかった。
「…女史。つかぬことを聞くが、あのご婦人の友人が此処に乱入してくる可能性は?」
「大丈夫よ。鬼舞辻くんには先刻ちゃんとお願いしておいたから」
「ふむ…。彼は今頃怒髪天を衝いているだろうが、それは……僥倖だねェ」
鬼舞辻無惨がどれだけ持ち堪えてくれるかは分からない。
とはいえ彼が潰れるまではビッグ・マムの片割れはこの場に乱入してこない。
それは敵連合にとってあまりにも都合のいい幸運だった。
にわかに変わりつつある戦況。
神戸しおが令呪を使って呼び寄せたチェンソーの怪人。
そして今まさに鬱屈のヴェールを脱ぎつつある
死柄木弔。
この三要素が絡み合えば…ともすれば。
「試練(クエスト)を考案した段階では長い因縁を想定していたが…」
そう――ともすれば。
「グラス・チルドレンの最大の後ろ盾(サーヴァント)…"ビッグ・マム"は、此処で落とせるかもしれない」
四皇狩りは成るかもしれない。
希望的観測をしない犯罪王をしてそう言わしめた。
それ程までの追い風が今連合には吹いていた。
「…ねえ」
問いかけたのはアイだった。
モリアーティに対してではない。
令呪を使って
デンジの中に眠る彼を呼び出した神戸しおに対してだ。
「あなた、本当にしおちゃん?」
「そうだよ。私は神戸しお」
「…変なこと聞いちゃったかな。ごめんね、ちょっとびっくりして」
アイとて本気で入れ替わりの可能性を考えて聞いたわけではない。
ただあまりにも、今此処にいるしおの姿はゲストルームで見た彼女のものとは違っていた。
自分ですら嘔吐した覇王色の覇気を受けて意識を保ち。
決して絶望することなく仲間を見つめて自らの頭と口で戦況を変えた。
その姿はとてもではないが齢十歳に満たない幼子のものとは思えなくて。
気付けばアイは問うていたのだった。
「私からも一つ聞いておこうかな。君は…チェンソーの彼の中にあんなものがいると知っていたのかネ?」
「うん。夢の中じゃもっとかわいい、ワンちゃんみたいな見た目だったんだけど……」
「ワンちゃん。あれが?」
「そうだよ? 夢の中のポチタくんはすっごくかわいくって、ぎゅ~ってしてなでなでしてあげたかったよ。
…あ。でもあんなにがんばってくれてるんだから、こっちのポチタくんにもそうしてあげたほうがいいかな?」
「そこは君の判断に任せるが…なるほどね。ポチタ君、というのか彼は」
とはいえそこは犯罪卿と並ぶ、あるいは上回る犯罪王だ。
デンジというサーヴァントには何らかの"先"があるのだろうということは薄々察しがついていた。
しかしこれ程強い奥の手を控えさせていたというのは流石に予想外だった。
まさか単体の武力で四皇ビッグ・マム、この聖杯戦争においても最上位の一格であろう怪物に冷や汗を流させるとは。
「どうだね極道のライダー君。君も大分血が騒いできたのでは?」
「…どっちかってーとオレは……死柄木の坊主(ガキ)の方っすかね」
破壊の八極道、通称暴走族神(ゾクガミ)…
殺島飛露鬼。
彼も当然デンジもとい彼の中から出でたポチタには驚嘆させられた。
だが彼が。暴走族神が見ているのはあくまでも弔の方だった。
確かにチェンソーの彼は強いだろう。
四皇ビッグ・マムを慄かせ、その化物じみた武勇と真っ向相対せる程の強さを秘めているのだろう。
しかしそれでも殺島は弔の方に目をやってしまう。
彼の中に一つの予感があったからだった。
「どう見えるかね、私のマスターは」
「化けますよ。あの野郎は」
「ほう」
「昔を思い出します。オレみてえなクズと一緒にされるのは奴さんも不本意でしょうけどね。
でも…あのガキは化けますよ。良かったですね。読み通りなんでしょう? これも、アンタの」
「いいや。想像以上だよ」
無論最終的にはそのくらいになってもらわねば困ると思ってはいた。
モリアーティの理想形は世界を滅ぼせる"崩壊"だ。
それに比べればようやく目覚め始めた程度ではいささか以上に事足りない。
だが。
「逃げないで良かったね極道君。見逃すところだったじゃないか」
「今は裏切(ユダ)るかどうかを迷ってますよ。正直アンタ頼みの烏合の衆だと思ってたんでね」
「それも結構だがまだ判断が早いだろう。何しろ我が敵連合は今ようやっと君達に価値を示せたのだから」
それでも死柄木弔が此処に来て見せた成長は想像以上だった。
デトネラット本社の崩壊という痛手を含めてもお釣りが来る程の成長…進化。
「末永くよろしくしようじゃないか。なぁ、しお君もそう思うだろう?」
「うん。私ももっとアイさん達と仲良くなりたいよ」
「…ずるいなぁ。しおちゃんさ、将来はきっと悪い女の子になるよ。
魔性の女(ファム・ファタール)っていうんだよそういうの」
アイは思わずそう言って苦笑した。
分かっている。
きっとしおは本心からそう言っているのだと。
しかし彼女の目には言いしれぬ光があった。
芸能界という魔界に身を窶して何年も第一線を戦ってきたからこそ分かる、異常な輝きがあった。
この先自分と彼女がとても仲良くなったとして。
それでも大一番のときが来れば、しおは自分のことを乗り越えていくのだろうと分かった。
実際にやり合ってどちらが勝つかは分からないにせよ。
神戸しおはそれができる少女なのだとこの時
星野アイは確かに理解した。
「…まぁいいや。当分は"よろしくお願いします"だねこりゃ」
そう言ってアイは殺島と顔を見合わせる。
そして偶像(アイドル)は極道(ヤクザ)に言った。
「お手伝いしてきてあげて。あのおばあちゃん、今なら倒せるかもだから」
「いいのか? 案外あっさり返り討ちに遭っちまうかもだぜ」
「その時は新しいサーヴァントを探すよ。だからお願い。暴走族神(ゾクガミ)なんでしょ?」
「……お前も大概、人のこと言えねー悪女(わるいおんなのこ)だよ」
苦笑しながらタバコを地面に捨てる。
靴底で踏み潰して殺島は戦場の大舞台を見つめた。
あんな狂ったババアなんぞとは関わり合いにもなりたくない。
だが…だが。
やはり人間、簡単に性根は変えられないものだ。
見果てぬ破滅(みらい)を夢に見て狂喜を浮かべて戦う青年を見ているとどうしても血が騒いだ。
だからこそ殺島は愚行を犯す。
愚行と理解(わか)った上で…決行を宣じた。
「ちょっと遅れちまったが…――行くか。お前ら」
帝都高爆葬・暴走師団聖華天――またしても限定展開。
最大展開はまだ早いと自分を抑えながらもこの高まりは一人で抱えるには過ぎたもので。
「いつかはオレの手で殺す存在(てき)だが…後輩の成長ってのは嬉しいもんだからなぁ」
◆ ◆ ◆
チェンソー駆動。
異次元の駆動速度はソニックブームじみた衝撃波を引き起こしながら悪魔殺しの刃をビッグ・マムに迫らせる。
だがマムも同じ芸で何度も驚く凡愚ではない。
四皇の突出した動体視力はこの時点で既にチェンソーマンの攻めに適応し始めている。
ナポレオンでチェンソーによる六連撃を受け止めたビッグ・マムの体はたたらも踏まずその場で不動。
しかし……
『マ、ママ! 痛いよ! あの変な武器すっごく痛い!』
「黙ってなナポレオン! 無駄口叩くと殺しちまうよ!」
ゼウスを浮揚させて悪魔をめがけ稲妻を落としながらも、ビッグ・マムはこの乱入者もとい復活者について冷静に評を下していた。
“直撃するとマズいか…打ち合っただけでナポレオンが弱音を吐くとはね”
間違いなくあれは自分や
カイドウに並ぶ実力者だ。
そう認めざるを得なかったからこそ彼女も全力を出すことに躊躇はなかった。
これまでは死柄木弔というちっぽけなマスター一人に対してだったから力はセーブしていたがこうなった以上もうその必要はない。
「"震御雷(フルゴラ)"ァ!」
ゼウスの雷を左腕に纏わせて振り下ろした。
それにより降り注ぐ雷のエネルギーは戦略兵器の炸裂にも等しい。
カイドウの鬼ヶ島をすら震撼させた一撃をチェンソーマンに向け打ち込んだビッグ・マム。
しかし視界が晴れるのと同時に彼女の視界に飛び込んできたのは彼ではなく……
「あァ!?」
鋼の騎馬。単車(バイク)の群れであった。
彼らに向けてマムは眉を顰めながらも武装色の覇気で強化した右腕を振るう。
それだけで単車の彼らの首が飛んだ。
断末魔の声すら許さない瞬殺。
しかし首から上を失った彼らとその愛車は、マムの直前で派手な爆発を遂げた。
神風特攻(カミカゼアタック)など時代に合わない。
だが暴走の末に自分の神のために死ねたのだ。
呼び出された彼らも本望だったに違いない。
「ちィ…! 猪口才じゃねェか!」
爆風に包まれながらもマムにダメージはない。
だが彼女もまた一人の戦闘者。
今の行動の意味も原理も手に取るように分かった。
“宝具の自壊…壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)とかいうのに近いね。
だがおれに使うには弱すぎる……つまり目的は……!”
ビッグ・マムが地面を踏み鳴らした。
彼女の重量で行う震脚の威力は一つの爆発だ。
爆風が消え、迫るチェンソーマンの姿も露わとなる。
目眩ましなどという手で欺かれるビッグ・マムではない。
狂喜じみた笑みは彼女にとってこの世の何よりも攻撃的な表情だ。
チェンソーとナポレオンが何度目かの激突を果たすが…
「"皇帝剣破々刃(コニャックハハバ)"…!」
「……!!」
ちょうど鍔迫り合いの格好になった途端にマムの皇帝剣が赤熱した。
いや、炎を帯び始めたのだ。
そのまま炎が拡大すればチェンソーマンごと焼き払わんとする。
無論その間もマムの剣戟は止まってなどいない。
「死にな~!」
大上段からの振り下ろしとそれを受け止めるチェンソーマン。
だがこれではマムが一方的に有利だ。
もっともそんなこと、この悪魔が理解していない筈もない。
デンジという少年を器として現界した全ての悪魔が恐れた悪魔。
彼のステータスには武の究極と呼んでもいい一つのスキルが記載されているのだから。
そのスキルの名を、無窮の武錬という。
チェンソーマン駆動。
身を焼く鍔迫り合いの格好から彼は有刺鉄線じみたチェーンを無数に伸ばした。
それがマムの巨体を瞬時に絡め取る。
ビッグ・マムは当然引き千切ろうとするが……
“あ…!? 動けねェだと!? このおれが……!?”
千切れない。
マムは強行突破に失敗する。
ゴムのような柔軟さと鉄の硬さを併せ持った異様な強靭さだった。
しかし不可能を可能に、不条理を条理に変えてねじ伏せるのは彼女ら四皇の専売特許。
強引にその両手で鎖を引っ張れば、少しずつだが拘束は緩み始める。
が――この調子ではチェンソーマンの到着に間に合わない。
「ゼウス! おれを巻き込むのを許可するよ!」
雷のホーミーズは返事をしないが指示には従う。
生前さんざっぱら主人を裏切った役立たずから自我を奪うのはこの鬼女のやりそうなことだった。
ゼウスの雷霆がマムを巻き込む形で着弾すれば絶大な衝撃と共に辺りのものが悉く吹き飛ぶ。
その衝撃も利用して鎖の拘束を脱却したビッグ・マム。
雷霆を縫って接敵したチェンソーマンと何度目かの火花を散らした。
そして。
「やめときな三下ァ…! 銃(チャカ)なんぞじゃおれは殺せねェよ」
「ま、だろうな」
先程現れて盛大に爆死した二人の単車乗りのように。
だが彼らより数段上のドライビングテクニックを見せ、瓦礫の段差を利用して跳躍。
そのまま上空から超高精度の精密射撃の雨を降り注がせた男がいる。
殺島飛露鬼。星野アイのライダーだった。
“理解(ワカ)っちゃいたがやっぱり此処までデタラメな野郎相手だと渋いね、どうも。華虎の旦那を思い出す怪物(バケモン)っぷりだぜ”
彼の放つ弾丸は十分一般人、及び魔術師の基準で言えば技術的にも性質的にも魔弾の領域に達している。
しかしビッグ・マムに対して使うならばその威力は豆鉄砲の一言で片付けられてしまう。
それ程までに現代社会の極道と大海賊時代の極道の間には隔絶した力の差があった。
そこに一抹の自嘲を覚えながらも、こんな射撃はおまけに過ぎない。
「おい。今の必要だったか? 手の内がバレちまったろうが」
「運賃の代わりだ。さ、行けよリーダー」
上空。
殺島の単車の後部座席から青年が飛び降りた。
死柄木弔の背中を見送って殺島は期待と郷愁の入り混じったような、そんな顔をする。
「…青(わか)いってのは強ぇなぁ。やっぱりよ…」
「随分様変わりしたなチェンソー野郎」
マムと打ち合うデンジだったものにそう笑う弔。
次の瞬間彼は猟犬と化した。
四皇と悪魔の中の悪魔、この界聖杯を巡る戦いの中でも頂上決戦に近いだろう二体の激突を前に毛程の恐れも抱いていない。
「まだしゃしゃってくるのかい。悪いがおれも先刻みたいに遊びやしねェぞ!」
崩壊の手はマムに触れられない。
弔を取るに足らないモノと看做していながら彼の手には常に警戒を張っていた。
個性とは"超常"の力だ。
弔の生まれた時代には既にある程度科学で分析できる力となっていたが、
それでも科学だけでは語り尽くせないブラックボックスの部分は依然として存在していた程。
個性には超常の神秘が宿っている。
故に弔の手はサーヴァントであろうと触れば崩せるのだ。
ビッグ・マムの警戒と危険意識は実に正しいものであったと言えるだろう。
「てめェら仲良く纏めて死ねよ! プロメテェェウス!」
『は~いママ! ゼウスのバカと違って確実に仕留めてみせるよ~!』
ビッグ・マムの周囲が炎の海と化す。
これだけで死柄木弔はもう自分に近寄れない。
チェンソーマンは別だが、彼と戦うのはマムとしても臨むところだった。
“此処まで楽しめそうな相手がいるとは思わなかったからね…! あの退屈な予選の間は一体何処に隠れてやがったんだか……!”
何てったってこのビッグ・マムが死の気配を感じているのだ。
それ程までにチェンソーの悪魔は優れた戦士だった。
仮に此処にいるのが自分でなくカイドウだったとしても、同じく高揚を見せただろうという確信さえある。
“唯一肝を冷やしたのは船乗りのガキ共だったか…捨て身とはいえおれを海に突き落としやがった憎たらしいガキ共!
カイドウ以外におれを焦らせられる奴なんざ居やしねェと思ってたが……あの侍といいこのチェンソー野郎といい、認識が甘かったねェ”
マムとチェンソーマンの激戦が続く。
炎と雷、そして剣。
三種の混合攻撃を放ちながら笑うマムは最早天変地異の擬人化に等しかった。
そしてそれを悉く捌き切りもとい捌き斬り、三色の混沌の中戦い続けているチェンソーの彼は…まさに悪魔としか言いようがなく。
「マ~ママママ! 認めてやるよ蜘蛛野郎! いい駒を集めやがったじゃねェかテメェ!」
もう一匹の蜘蛛とは偉い違いだと笑うマム。
彼女は今やモリアーティのことを敵視してはいても侮ってはいなかった。
策だけで猪口才に足元を掬おうとしている連中と、優れた策といざという時の凶悪な暴力を併せ持つ連中。
海賊である彼女がどちらを好むかは分かりきった話だった。
「認めてもらえたようで何よりですが」
ギャラリーに徹するモリアーティが蓄えた髭を弄びながら言う。
ビッグ・マムの賞賛。
彼女に敵として認められることは間違いなく栄誉なのだろう。
それはモリアーティも素直に受け取った。
「連合の王は私ではない」
その上で言葉を返す。
蜘蛛に玉座は似合わない。
犯罪王などと呼ばれてはいるが、自分にあるのはあくまで黒幕の資質なのだとモリアーティは自覚している。
玉座に座って覇者を名乗る
ジェームズ・モリアーティなど三文喜劇も甚だしいだろう。
だから連合の王も必然彼ではない。
敵連合の王はただ一人。
「さあ、目覚めの時だ」
ジェームズ・モリアーティは王の目覚めを歓喜と共に迎え入れる。
今この瞬間、終局的犯罪(カタストロフ・クライム)へ向かう時計の針は一気に加速した。
「これは――君が最高の魔王になるための物語なのだから」
炎の中を縫って青年は走った。
笑いながら、手足を狂った人形のように振り乱しながら。
そのまま手を伸ばす。
しかしその手は届かず彼は地面に手足をついた。
土下座のような見窄らしい格好は笑い者にされそうな程だったが。
彼が手で触れた地面が、その時――
「……何?」
ぼろ、ぼろと崩れ出し始め。
妙な気配を感じたマムが訝しげに眉を顰め振り返ったその瞬間に起こったことは。
きっと…悪夢としか形容できないだろう。
「クエストクリアだ」
始まった崩壊が次から次へと伝播する。
物体から物体へ。
大地から建造物へ。
建造物から人間へ。
弔自身にさえ止められないそれはデトネラット本社跡地、正しくはそこに座す死柄木弔の前方数キロメートルに渡る都市機能の全てに影響を与えた。
文字通り崩れ落ちたのだ。
建物も運の悪い人間も、二匹の蜘蛛が配備していた策にまつわる何かしらもそこにあったかもしれない。
だが関係ない。
一度始まってしまった崩壊は地表の全てを絶滅させる。
主人の抱える衝動と破滅の地平線への憧憬、その二つを現実世界に表出させるかのように。
「……!」
マムが空へと逃れにかかる。
立ち上がった死柄木が彼女に魔手を振るった。
ゼウスとプロメテウスに指示を飛ばしていたのでは間に合わない。
ナポレオンを用いた斬撃で対応する判断を下すまでにコンマ数秒。
振るった刃は剣圧のみで弔の右腕を複雑骨折させ、彼の手首から先の骨は余さず粉々になった。
だが切断はされていない。
何故か。
「触れる前に壊せばそこまででもないな」
ビッグ・マムの魂を分け与えたホーミーズ。
巨体と怪力を存分に発揮して振るわれる剣術。
それを支えていた皇帝剣ナポレオンが、崩れたからだ。
耳触りな断末魔の叫びと共に崩れて塵となった。
目を見開くビッグ・マムは自分の愛剣だったそれをすぐさま捨てる。
この崩壊は伝播する。
既にその種は割れていたからだ。
本気の危機感と共に空へ跳び上がったビッグ・マム。
だがそれを許さじと跳び上がるモノがもう一体いた。
“こいつら…本気で!”
チェンソーマン、肉薄。
ビッグ・マム、戦慄。
海の皇帝は恐怖などしない。
今更死など恐れはしない。
だが。
そうなる程に自分という存在を鍛え上げ、そうなるに足る程に多くの戦場を乗り越えてきた存在だからこそ……
“此処でおれを……殺す気だったのか!”
ビッグ・マムは驚愕した。
チェンソーマンが刃を振るった。
炎と崩壊が包む深夜零時。
界聖杯戦争本戦の日付が"二日目"へと動いたまさにその瞬間……
偉大な皇帝の血が飛沫(しぶ)いた。
◆ ◆ ◆
「あ…?」
所変わって百獣のカイドウ。
その目がビッグ・マムの戦う方へと向いた。
そちらから聞こえてきた崩壊音と異様な空気。
それはカイドウにとって何か起きたことを察させるには十分すぎた。
“宝具か? いや、それにしては……”
それにしては魔力の反応が小さすぎる。
だが何にせよ、ビッグ・マムを…シャーロット・リンリンをして予想だにしない不測の事態が起こったろうことは明らかだった。
マムの魔力反応は健在である。
殺されたということはないようだが、あのあらゆる意味で手に負えないババアが一杯食わされたらしいその時点でカイドウの興味は大いに惹かれた。
“この野郎の相手も飽きてきたしな。顔でも出してやるか”
カイドウは既に鬼舞辻無惨への興味を失っていた。
無惨は見かけ上は損傷がないようだったが体内はその限りではないのだろう。
カイドウの打撃を何発となく受ける羽目になった無惨は今目に見えて消耗していた。
「お前はもういい。殴っても簡単には死なねえようだしな…今は見逃してやるよ」
「貴様……」
「テメェの大嫌いな太陽に灼かれてもいいってんなら追ってこい」
ずしんずしんと足音を響かせながらカイドウは無惨に背を向けた。
そのまま二度と振り向きはしない。
無惨がまだ戦う姿勢を見せるなら話は別だったかもしれないが、そうでない限りはもう興味はなかった。
そして無惨も…令呪の強制力にあれほど振り回されていたにも関わらず今はそれにある程度逆らえていた。
“…冗談ではない。あのような悪夢の如き戦場になど誰が赴くものか……!”
鬼舞辻無惨は生存することに異常な程執着した生命体である。
故に他者への共感性は著しく低く、人間というよりその精神構造は昆虫などの下等生物のそれに近い。
そんな無惨だからこそ太陽光が乱れ舞う場所へ向かうということは魂レベルで激しく拒絶した。
令呪一画分の強制力ならばこうして抗えてしまう程、無惨にとって太陽というのは忌むべき概念だったのだ。
“あの女には必ず今回の事の報いを受けさせる。こうして地上に出てくるのも今回が最後だ”
無惨はカイドウを此処まで足止めしていた。
彼に対してそれを伝えても逆上されるだけだろうがこれは十分すぎる功績だった。
持ち前の耐久力と手段次第ではカイドウにも通用する膂力。
これを最大限駆使することで、無惨は終始劣勢でこそあったものの四皇との戦闘を可能にしたのである。
もしも無惨が早々に潰れていたならばカイドウはその時点でリンリンへ加算し、敵連合は壊滅していたに違いない。
“あの男が…この怪物共などより余程恐ろしいあの化物がいつ私の存在を探り当てるか分からん。
そうなればこれまでの全てが御破算になる。こんなところで油を売っている場合ではないのだ…!”
それが誇るべきことだなどとは露程も考えずに。
鬼舞辻無惨は一人屈辱と、その何倍も大きな焦燥に身を焦がしていた。
◆ ◆ ◆
ビッグ・マムの小指が切断された。
巨人族ですら投げ飛ばし、数え切れない程の海賊に夢を諦めさせてきたその剛拳。
右拳の小指が根元から切り飛ばされて地面に転がっている。
ポタポタと滴り落ちるビッグ・マムの血液。
鉄の風船とすら称される彼女がこんな姿を晒していることの異常さは、彼女と一度でも相対した者なら分かる筈だ。
「おい、ガキ」
あの瞬間に起こったこと。
死柄木弔が進化した崩壊を解放した。
ビッグ・マムは彼の手で愛剣を破壊され。
その隙を突いたチェンソーマンがその小指を切断したのだ。
マムは空へと一度逃れてから数メートル離れた位置に着地。
そして地の底から響くような声で彼女は連合の王、死柄木弔へ言葉を発した。
「お前…名前は何て言うんだい」
「死柄木弔」
「陰気な名前だね。名付け親のツラが見てみたいぜ」
ビッグ・マムは不気味な程静かだった。
弔の名前を聞くとケラケラ愉快そうに笑ってみせる始末。
だが場の空気は全く緩まない。
「今回はしてやられちまった。おれとしたことが油断したね!
最初から何の手抜きもなしに全力で潰しておくべきだった」
チェンソーマンが動いていない。
彼が追撃をしようとしていない。
その事実はどんな言葉よりも雄弁にこの状況の緊迫を物語っていた。
下手に動けば、核爆弾が炸裂する。
指詰め(エンコ)のように失った小指を誇示するビッグ・マム。
弔はそれを詰ったり煽ったりはしない。
むしろ失敗だったとすら思っていた。
弔は本気で…あの場でビッグ・マムを殺すつもりだったのだから。
「だからよ」
こんな化物。
「――次は殺すぞ」
一分一秒だって、生かしておくべきではないだろう。
自分で物を考えて欲望のままに自律行動する災害そのものだ。
それにせっかく気持ちよく物を壊せるようになった。
それができるだけの力を得られたのだ。
殺したかったなぁと弔は笑う。
誰もが魂まで凍り付くビッグ・マムの殺意と人の身で対峙するは、犯罪王に魔王たれと見初められた事実に恥じない姿だった。
「四皇(おれたち)に全面戦争吹っかけやがったんだ。
小便漏らして詫び入れても絶対に勘弁はしねェ。一人残らず殺してやるよ。
テメェらの魂最後の一滴まで搾り取って…"絶望"ってもんを教えてやる。ママママ……!」
「絶望するのはどっちだろうな。テメェの断末魔はさぞかしいい気分になれそうだ」
此処に全面戦争は開幕する。
海賊同盟と蜘蛛達の戦線は、そこに敷かれた導火線はとうとう燃え尽きた。
「皆殺しにしてやるよ老害共。これからは"新時代"だ」
「そいつはおれのと~っても嫌いな言葉さ。だがお前を殺せたらちょっとは好きになれそうだよ」
新時代は啖呵を切った。
古い皇帝はそれを受け止め殺意で以って歓迎する。
カイドウの足音が聞こえてきた。
大方想定外の展開が起こったことを察して様子を見に来たのだろう。
カイドウと共に潰しにかかればこの場で皆殺しにすることはきっと容易だ。
しかしそれではビッグ・マムの気が収まらなかった。
こいつらは徹底的に潰す。
そう決めたからこそ、今は踵を返すのだ。
「随分と手こずったようだな。…やったのは誰だ?」
「後で話すさ。それより今は帰るよ、ナポレオンの代わりを見繕わなきゃならねェ」
「あ? 厭に消極的だな。お前らしくもねェ…」
時に激しすぎる怒りは人を冷静にする。
ビッグ・マムは怒っていないわけではない。
むしろ真逆だ。
彼女は自分に敵対する者を決して許さない。
敵連合と蜘蛛達はこの先もう彼女に対して日和ることは叶わないだろう。
ビッグ・マムの巨体が骸となって斃れるまで、彼女は彼らの敵として立ち塞がり続ける。
「そのガキ、海賊同盟(おれたち)を潰すと吠えやがった」
「そりゃ随分だな。骨のある野郎が出てきたじゃねえか」
「だから徹底的に潰してやるのさ。思い出すだろ? ムカつく記憶を!」
そして連合もそれに臆しはしない。
彼らだけではないもう一方の蜘蛛達も直にそうなるだろう。
蜘蛛の巣を焼き払えば確かに彼らの糸は失われるが。
巣を失って怒り狂った群れが、そうした者の体に毒牙を突き立てない保証は何処にもない。
蜘蛛連合対海賊同盟。
この対立構造はきっと確定的なものとなる。
東京を舞台にした聖杯戦争という名のボードゲームは俄に激化の様相を見せるに違いなかった。
「そういうことだからよ、お前も欲張らねェで帰りな」
マムが振り向いてギャラリー達の方を見る。
かれこれ数十秒前からそこにはマムと縁深い人物がいた。
犯罪王の棺桶が火を噴けばただでは済まない射程圏内で…その少年は。
「ガムテ」
「ちぇっ。ライダーにだけは言われたくね~なそれ。マジ鬱陶(ウッゼ)!」
◆ ◆ ◆
崩落した瓦礫の中に運良く破壊を免れた鏡面があったのだろう。
ガムテはそれを使ってぬるりと出現し、すぐにモリアーティにより察知された。
彼は確かに殺し屋であるがアサシンのサーヴァントのように気配遮断スキルを持っているわけではない。
英霊…その中でも特に悪意害意の気配には鋭いであろうモリアーティを出し抜いて凶行に及ぶことは不可能だった。
しかしガムテはそれに不満を示すでもなく悠然と歩くと。
一人の少女の横にべしゃっと腰を下ろしてあぐらをかいた。
「お前さ、
神戸あさひの妹か何か?」
「? お兄ちゃんを知ってるの?」
「知ってるっつーか今は一蓮托生(マブ)。あっちはそう思ってないだろうけどな」
その少女を見た瞬間ひと目で分かった。
兄とあまりによく似ていたからだ。
あさひを女体化させて年齢を多少引き下げればこうなるだろうなと納得できる見た目の少女。
或いはそれを見た時点で既に、ガムテはこの場で事を起こす気を抱いてはいなかったのかもしれない。
殺しの王子様としてではなく割れた子供達(グラス・チルドレン)の王としてのある種の義理だった。
「じゃあじこしょうかいしないとだ。神戸しおです、はじめまして。よろしくね」
「ガムテ。にしても真実(マジ)かぁ。不安定(くも)るだろうな~アイツ」
「お兄ちゃんにつたえてあげてほしいの」
言ってみ、とガムテ。
ありがと、としお。
「心配しないでいいよって言ってたって。つたえてあげて」
ガムテはその言伝てについて追及するつもりはなかった。
そんなことをしなくても理解できたからだ。
神戸あさひと神戸しお。
この二人は兄妹として完全に断絶している。
あさひがどうかは分からない。
でもしおの方はもうその視界に兄を入れていない。
それは明らかだった。
あさひへの思いやりじみた伝言を頼んできた時のしおの目には肉親に対しての情など微塵も見えなかったから。
「今のあさひは相手が妹(オマエ)でも殺すよ。多少曇りはするだろうが、アイツの覚悟はもう決まってる」
「そっか。またお兄ちゃんがでてくるんだ」
あの日みたいに。
その言葉の意味はガムテには伝わらないだろう。
「でもべつにいいよ。私もお兄ちゃんのこと殺すつもりだし」
「あ~理解理解(オッケオッケ)。そういうことなら分かりやすいな」
「ガムテくんはお兄ちゃんにきょうりょくするの? わたしにはきょうりょくしてくれない?」
「当たり前だろ、バカかよ。お前の加齢臭(クッセ)ェ仲間(ファミリー)が今あそこでオレのサーヴァントとドンパチやってんだろ~が」
「そっかぁ」
べーと舌を出すガムテと肩を落とすしお。
あまりにも場違いなのどかさがそこにはあった。
互いにナイフを持っているのに、年こそ離れていても二人の会話は絶妙に子供らしいのだ。
内容がどれだけ物騒でも子供らしくなくても、その根底には幼いあどけなさがある。
「じゃあなかよくなれないね、わたしたち」
「どの道だな。お前の心はもう塞がってる」
「…ゲームとかたのしいよ? いっぱいあるよ?」
「バ~~カ」
ガムテくんお口悪~い。
そう言ってむっと唇を尖らせるしお。
ガムテはまた舌を出しながら、すっくと立ち上がった。
遠くでは彼のサーヴァントが帰るぞとそう言っている。
「もう行っちゃうの」
「ン。次はもう敵同士だ。
オレは容赦なくお前を殺すから、お前もその気で来いよ」
「やさしいね」
「あさひの妹だからな。アイツへの義理ってやつさ」
ガムテが子供達の王子であることが理由に含まれていなかったのかは彼にしか分からないことだ。
ガムテは立ち上がると、「じゃあな」と言ってしおの隣から立ち去った。
…いや、正確にはその足は一度だけ立ち止まった。
そしてガムテは見ていた。
相手もガムテのことを見ていた。
ガムテが此処に来た目的の主たる所は状況の視察と出た所勝負(ワンチャン)の暗殺である。
彼と会うことを意図してやって来たわけではない。
ガムテはきっとそう言うだろう。
「殺島の兄ちゃん」
「違うだろ、ガムテ」
色のない顔で呼びかけたガムテ。
その声に殺島は、彼よりも先に逝った破壊の八極道はダメ出しをした。
違うだろ。そうじゃないだろと。
「もうオレはお前の兄ちゃんじゃねぇんだ。
極道さんが見てたら叱責(こごと)言われちまうぜ」
「…あぁ、そうだな」
ガムテの目が紫電のような戦意を宿す。
殺島はそれをじっと見つめて受け止めた。
ガムテがあさひへの義理としてしおと対話をしたように。
殺島もまたガムテへの礼儀として口を開く。
「破壊の八極道、殺島飛露鬼」
「――破壊の八極道、ガムテ」
二人の極道の間に多くの言葉は必要ない。
既に彼らの道は分かたれた。
殺島が死んで英霊になり、ガムテがマスターに選ばれたその時点で。
かつて彼らの間にあった親しさや絆のようなものはもう何の意味も持たない。
忍者と極道ならぬ。
蜘蛛と極道ならぬ。
極道と極道。
それでも。
道を違えた極道同士が敵として相見えたなら言うべきことは…
「「ブッ殺す」」
結局のところ……それしかないのだ。
◆ ◆ ◆
後悔した。
後悔していた。
田中の傍に護衛役の陰陽師の姿はない。
彼は田中の向かう先で予定外の戦いが行われていることを察知するなり、自分は同行できなくなったと言い始めたのだ。
『拙僧があの場に顔を出せば貴方にとっても都合の悪い事態になるでしょう。
引き受けた仕事を投げ捨てるようで非常に心が痛いですが…この先は貴方一人で向かいなされ』
もちろん田中だって抗議した。
そんな話があるかと怒鳴った。
自分一人であんなところに出向いてどうなるかなんて火を見るより明らかだろうと。
駄々をこねる子供のように、しかし内容としては極めてもっともなことを田中はリンボに訴えた。
そんな田中に対してリンボはまさに子供へ言い聞かせるようにこう諭したのだ。
『案ずることはございませぬ。貴方はあの老蜘蛛にすら認められた悪の卵なれば』
ふざけるなと怒鳴っても誰にも文句は言われないような無茶苦茶な状況なのに。
それでも自分を肯定するリンボの声はどうしようもなく甘くて、心地よくて……
『拙僧が保証しましょう。貴方は必ず望んだ居場所にありつける筈ですよ』
結局田中はその言葉に押し切られてしまった。
リンボから貰った護符もあるからと。
そんな馬鹿丸出しの楽観視で、一人旅することを決めてしまったのだ。
そして今、田中はそのことを心の底から後悔している。
「な…なんだよ、どうなってんだよ……。
盤石なんじゃなかったのかよ、なのになんで本社が燃えてるんだよッ」
デトネラット本社のある地点は燃え盛っていた。
それだけならまだいい。
そこから絶え間なく轟音が響いてくるのだから田中の心はすっかり臆病風の大嵐といった有様と化した。
なのに牛歩同然の歩みなれど足を進めること自体は続けられたのは、リンボの言葉に背を押されたからというのと。
もう一つは…自分はもう後戻りできないのだという昏い自覚だった。
此処で引き返せば俺は必ずアサシンに殺される。
あの殺人鬼は絶対に俺を追ってくる筈だ。
令呪を使って自殺させればいいだけの話と言われればそれまでだ、確かにそれまでだろうよ。
だけど怖い。
しょうもないしみったれた変態野郎と見切りをつけた今になって急にあの冷たい目を思い出しちまう。
「頼むよ…頼むよぉ……!」
涙すら流しながら田中は歩く。
体をガタガタ震わせながら田中は進む。
その間も心臓が口から飛び出そうになるほどの轟音が目的地からは響き続けていて。
「俺には、もう……!」
何処かのタイミングで音が消えた。
それでも田中の恐怖は何も目減りしなかった。
こいつも戦地で戦っていたのかというくらいボロボロになりながら。
田中は思い出す、先刻の"M"の言葉を。
――やはり君には光るものがある。この局面で機運を掴んでいる。
冗談でも何でもなく悪の親玉がかけてくれた言葉。
リンボの言葉の魔力は歩む中でいつしか臆病風に押し負けて、田中は今その言葉だけを頼りに歩んでいた。
「連合(アンタら)しかいないんだよっ…!」
そうして愚かな男は辿り着く。
哀れな男が辿り着いた時にはもう祭りは終わっていた。
デトネラットを瓦礫に変えた二人の皇帝は去り、残っているのは連合の面々のみ。
本社は焼け落ちてマスター達もそのほとんどが疲弊なり消耗なりしている。
ボロボロじゃないかと失望の声をあげてもいいような状況で……
しかし田中はそれとは別の意味で言葉を失っていた。
そうせざるを得ないものがそこにいた。
「あ…」
彼の背後には
世界の終わりが広がっている。
家やビルは瓦礫に変わり大地は死に絶えた。
一体どれだけの人数が死んだのか想像もできない破壊の痕跡が果てを見通せないくらい遠くまで続いている。
彼の背後に、まるで長く一本伸びた影のように続いている。
「ジジイの言ってた新入りか?」
「あ、ぁ。え、ぇと、は、はい……」
自分より何歳も年下だろう青年なのに自然と敬語が出てしまう。
彼が連合の先輩だからというのももちろんあったろう。
だがそれ以上に田中は、その青年のことが…ひどく神々しく見えた。
「そうか。まぁ…見ての通り、ちょうど一仕事片付いたところだ」
白を超克した純白の髪。
ボロボロに壊れているのに一切弱さや脆さを感じさせない体。
滅びを背にして佇む彼は田中の全ての鬱屈をすら打ち砕く異様な魅力を放っていて。
同時に田中は理解した。
これなんだ。
俺が見たかったのは、きっと……
「ようこそ敵連合へ。歓迎の前に撤収だ、ついてこい」
救世主(これ)なんだ。
田中の足は小市民じみた後ずさりをすることもなく気付けば前に歩み出していた。
こうして田中は――敵(ヴィラン)になった。
【豊島区・池袋/デトネラット本社ビル跡地/二日目・未明】
【死柄木弔@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、右腕複雑骨折、覚醒
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度
[思考・状況]基本方針:界聖杯を手に入れ、全てをブッ壊す力を得る。
0:さぁ――行こうか。
1:勝つのは連合(俺達)だ。
2:四皇を殺す。
[備考]
※個性の出力が大きく上昇しました。
【アーチャー(ジェームズ・モリアーティ)@Fate/Grand Order】
[状態]:腰痛(中)
[装備]:超過剰武装多目的棺桶『ライヘンバッハ』@Fate/Grand Order
[道具]:なし?
[所持金]:なし
[思考・状況]基本方針:死柄木弔の"完成"を見届ける
0:――成ったね、死柄木弔。
1:蜘蛛は卵を産み育てるもの。連合の戦力充実に注力。
2:連合員への周知を図り、課題『グラス・チルドレン殲滅作戦』を実行。各陣営で反対されなければWの陣営と同盟
3:禪院君とアイ君達の折衝を取り計らう。あわよくば彼も連合に加えたいところだがあくまでも慎重に。
4:しお君とライダー(デンジ)は面白い。マスターの良い競争相手になるかもしれない。
5:
田中一を連合に勧誘。松坂女史のバーサーカーと対面させてマスター鞍替えの興味を示すか確かめる
6:…もう一度彼(
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)に連絡しておいた方がいいね、これは。
[備考]※デトネラット社代表取締役社長、四ツ橋力也はモリアーティの傘下です。
デトネラットの他にも心求党、Feel Good Inc.、集瑛社(いずれも、@僕のヒーローアカデミア)などの団体が彼に掌握されています。
※禪院(
伏黒甚爾)と協調した四ツ橋力也を通じて283プロダクションの動きをある程度把握していました。
※アルターエゴ・リンボ(
蘆屋道満)から"窮極の地獄界曼荼羅"の概要を聞きました。また彼の真名も知りました。
アラフィフ「これ先に知れて本当によかったなァ~…(クソデカ溜め息)」
※田中一からアサシン(
吉良吉影)と
仁科鳥子によるリンボ奇襲の作戦を聞きました。(詳細は田中が知らないので不明)。
アサシン(吉良吉影)の能力の一部も知りました(真名は田中が知らないので不明)。
※星野アイおよびそのライダーから、ガムテ&ビッグ・マムの情報および一日目・夕方までの動向を聞きました
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:疲労(中)
[令呪]:残り二画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数千円程度
[思考・状況]
基本方針:さとちゃんとの、永遠のハッピーシュガーライフを目指す。
1:ポチタくんありがとう!
2:アイさんとらいだーさん(殺島)とは仲良くしたい。でも呼び方がまぎらわしいかも。どうしようねえ。
3:とむらくんとえむさん(モリアーティ)についてはとりあえず信用。えむさんといっしょにいれば賢くなれそう。
4:最後に戦うのは。とむらくんたちがいいな。
5:“お兄ちゃん”が、この先も生き延びたら―――。
6:れーじゅなくなっちゃった。だれかからわけてもらえないかなぁ。
【ライダー(デンジ/■■■)@チェンソーマン】
[状態]:令呪の効果によってチェンソーマン化中
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円(しおよりも多い)
[思考・状況]
基本方針:サーヴァントとしての仕事をする。聖杯が手に入ったら女と美味い食い物に囲まれて幸せになりたい。
0:…………。
1:あの女(さとうの叔母)やっぱり好かね~~~! 顔も身体も良いんだけどなァ~~!!
2:死柄木とジジイ(モリアーティ)は現状信用していない。特に後者。とはいえ前者もいけ好かない。
3:星野アイめちゃくちゃ可愛いじゃん……でも怖い……(割とよくある)
[備考]
※令呪一画で命令することで霊基を変質させ、チェンソーマンに代わることが可能です。
※元のデンジに戻るタイミングはしおの一存ですが、一度の令呪で一時間程の変身が可能なようです。
【本名不詳(さとうの叔母)@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:健康、ぱちぱち
[令呪]:残り二画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]基本方針:いつもの通りに。ただ、愛を。――ああ、でも。
0:わぁ、みんな頑張ったわねぇ。
1:さとうちゃん達に会ったことは、内緒にしてあげなきゃね。
2:鬼舞辻くん怒ってるかしら?
【バーサーカー(鬼舞辻無惨)@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、体内にダメージ残留(大)、この世のあらゆる怒りや屈辱も霞む程の激しい焦り
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数億円(総資産)
[思考・状況]基本方針:界聖杯を用い、自身の悲願を果たす
0:速やかに表舞台を退いて水面下に潜る。
1:
松坂さとう達を当面利用。
2:『M』もといアーチャー達との停戦に一旦は合意する。ただし用が済めば必ず殺す。
3:マスター(さとうの叔母)への極めて激しい嫌悪と怒り。早く替えを見つけたい。
4:神戸あさひはもう使えない。何をやっているんだ貴様はふざけるなよ私の都合も考えろ
6:童磨への激しい殺意
7:他の上弦(
黒死牟、
猗窩座)を見つけ次第同じように呼びつける。
8:叔母「鬼舞辻くん怒ってるかしら?」無惨「当たり前だ!!!!!!!」
※別れ際に松坂さとうの連絡先を入手しました。さとう達の今後の方針をどの程度聞いているかは任せます。
※ビッグ・マムが新宿区近くの鏡のあるポイントから送った覇王色の覇気を目の当たりにしました。
具体的に何処で行っていたかは後続の書き手にお任せします。
※今はマスター及び他の連合メンバーとは少し離れた場所にいますが、すぐ合流できます。
【星野アイ@推しの子】
[状態]:疲労(中)
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]基本方針:子どもたちが待っている家に帰る。
0:マジか。(弔の破壊した町並みを見ながら)
1:ガムテ君たちについては殺島の判断を信用。
櫻木真乃についてはいったんMに任せる。
2:敵連合の一員として行動。ただし信用はしない。
3:あさひくん達は捨て置く。もう利用するには厄介なことになりすぎている。
[備考]※櫻木真乃、
紙越空魚、M(ジェームズ・モリアーティ)と
の連絡先を交換しています。
※グラス・チルドレンの情報をM側に伝えました。
【ライダー(殺島飛露鬼)@忍者と極道】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[装備]:大型の回転式拳銃(二丁)&予備拳銃
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]基本方針:アイを帰るべき家へと送迎(おく)るため、聖杯戦争に勝ち残る。
1:アイの方針に従う。
2:M達との協力関係を重視。だが油断はしない。厄(ヤバ)くなれば殺す。
3:ガムテたちとは絶対に組めない。アイツは玄人(プロ)だしそれに――啖呵も切っちまった。
4:アヴェンジャー(
デッドプール)についてはアサシンに一任。
[備考]※アサシン(伏黒甚爾)から、彼がマスターの可能性があると踏んだ芸能関係者達の顔写真を受け取っています。
現在判明しているのは櫻木真乃のみですが、他にマスターが居るかどうかについては後続の書き手さんにお任せいたします。
【田中一@オッドタクシー】
[状態]:吉良親子への怒りと失望、吉良吉影への恐怖、地獄への渇望、忘我
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン(私用)、ナイフ、拳銃(6発、予備弾薬なし)、蘆屋道満の護符×4、吉良吉廣(写真のおやじ)
[所持金]:数千円程度
[思考・状況]基本方針:『田中革命』。
0:あぁ…これだ。これだったんだ。
1:リンボの意向に従う。アサシンは切った。
2:敵は皆殺し。どんな手段も厭わない。
3:SNSは随時チェック。地道だけど、気の遠くなるような作業には慣れてる。
4:リンボに“鞍替え”して地獄界曼荼羅を実現させたい。ただ、具体的な方策は未だ無い。
5:
峰津院大和のことは、保留。その危険度は理解した。
[備考]
※界聖杯東京の境界を認識しました。景色は変わらずに続いているものの、どれだけ進もうと永遠に「23区外へと辿り着けない」ようになっています。
※アルターエゴ(蘆屋道満)から護符を受け取りました。使い捨てですが身を守るのに使えます。
【豊島区・池袋/デトネラット本社ビル跡地→移動中(行き先は次の話にお任せします)/二日目・未明】
【ライダー(カイドウ)@ONE PIECE】
[状態]:首筋に切り傷、体内にダメージ(小)
[装備]:金棒
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:『戦争』に勝利し、世界樹を頂く。
0:あの日の悔恨に"決着"を。
1:峰津院の霊地(東京タワーとスカイツリー地下)を強奪ないし破壊する。
2:組んでしまった物は仕方ない。だけど本当に話聞けよババア!!
3: 鬼ヶ島の顕現に向けて動く。
4:『鬼ヶ島』の浮上が可能になるまでは基本は籠城、気まぐれに暴れる。
5:
リップは面白い。優秀な戦力を得られて上機嫌。てめェ戻って来なかったらブチ殺すからな
6:リンボには警戒。部下として働くならいいが、不穏な兆候があれば奴だけでも殺す。
7:アーチャー(ガンヴォルト)に高評価。自分の部下にしたい。
8:峰津院大和は大物だ。性格さえ従順ならな……
9:ランサー(
ベルゼバブ)テメェ覚えてろよ
[備考]
※鬼ヶ島の6割が崩壊しました。復興に時間が掛かるかもしれません
【ライダー(シャーロット・リンリン)@ONE PIECE】
[状態]:疲労(中)、右手小指切断
[装備]:ゼウス、プロメテウス@ONE PIECE
[道具]:なし
[所持金]:無し
[思考・状況]
基本方針:邪魔なマスターとサーヴァント共を片づけて、聖杯を獲る。
0:カイドウとこれからの計画を練る。
1:敵連合は必ず潰す。蜘蛛達との全面戦争。
2:ガキ共はビッグマムに楯突いた事を必ず後悔させる。
3:
北条沙都子、
プロデューサーは傘下として扱う。逃げようとすれば容赦はしない。
4:カイドウを見つけて海賊同盟を結成する。
5:ナポレオンの代わりを探さないとだねェ…面倒臭ェな!
[備考]
※ナポレオン@ONE PIECEは破壊されました。
【ガムテ(輝村照)@忍者と極道】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:地獄への回数券。
[道具]:携帯電話(283プロダクションおよび七草はづきの番号、アドレスを登録済み)
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:皆殺し。
1:蜘蛛共を叩き潰す、峰津院の対策も 講じる。
2:283プロ陣営との全面戦争。
3:あのバンダイっ子(犯罪卿)は絶望させて殺す。
4:黄金時代(北条沙都子)に期待。いざという時のことも、ちゃんと考えてんだぜ? これでも。
5:あさひに妹(しお)のことを伝える。
[備考]
※ライダーがカナヅチであることを把握しました。
※ライダーの第三宝具を解禁しました。
※ライダーが使い魔として呼び出すシャーロット・ブリュレの『ミラミラの実の能力』については以下の制限がかけられています。界聖杯に依るものかは後続の書き手にお任せします。
NPCの鏡世界内の侵入不可
鏡世界の鏡を会場内の他の鏡へ繋げる際は正確な座標が必須。
投射能力による姿の擬態の時間制限。
【アルタ―エゴ・リンボ(蘆屋道満/本体)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:この東京に新たな地獄を具現させる。
0:地獄界曼荼羅の完成に向けて準備を進める。
1:こうなるとは。よもや、よもや…
2:新宿区の地獄を眺めに行くか、リンクの切れた式神の調査を行うか…。(今のところ興味は後者に向いているようです)
3:式神は引き続き計画のために行動する。
4:…のつもりでしたが、やめました。祭りの気配がしますぞ、ンンン――。
5:式神にさせるつもりだった役目は本体が直接担うことに変更。何をするつもりかはおまかせします。
6:それはそうと新たな協力者(割れた子供達)の気質も把握しておきたい
7:“敵連合”は静観。あの蜘蛛に邪魔されるのは少々厄介。
8:機会があればまたプロデューサーに会いたい。
9:七草にちかとそのサーヴァント(
アシュレイ・ホライゾン)に興味。あの断絶は一体何が原因か?
[全体備考]
※デトネラット本社から北東へ直線数キロメートル範囲で"崩壊"が放たれました。
時系列順
投下順
最終更新:2022年04月06日 15:23