割れた子供達(グラス・チルドレン)。
彼らはこの界聖杯の仕組みを知っていれば誰もが驚く驚異の軍勢である。
何しろ構成員のほぼ全員が覚醒を果たしている。
何の未来もない木偶から、自らの意思で可能性を掴むに至っている。
仲間やボスを売る血の薄い同胞は幸いなことに早々に脱落してくれた。
だが…当の割れた子供達は誰一人として、彼らの死をそんな風に考えてはいない。
それは勿論、彼らの頭目であるところのガムテを含めてだ。
何故なら彼らは家族だから。
血ではなく流血で繋がった一蓮托生の群体だから。
各々裏切りに思う所はあれど、本心からその死を"ざまあみろ"などと罵れはしない。
そんな彼らだ。
そんな彼らなのだ。
癇癪と激情に任せて自分達のかけがえのない仲間を殺す横暴な"母(マザー)"に対して思う所がない筈などなかった。
「今帰ったよォ~! ガキ共ォ~! 客人だ、酒とお菓子を用意しな!」
いつか目に物見せてやる。
いつかツケを払わせてやる。
そう思いながら心にナイフを忍ばせて雌伏する。
いつか必ず、自分達の王が…ガムテが。
この傍若無人な糞婆に報いを与えてくれるとそう信じて。
しかし……
「りょ…了解(りょ)! ただいまァ~ッ!!」
それでも抗えない。
彼女に気取られないよう反骨の意思は伏せている、そう言い訳をすることは出来よう。
だが心の奥底までは騙せない。
彼らがシャーロット・リンリンに対して見せる屈従の姿勢は決して演技などではなかった。
或いは演技の内に心を折られたかのどちらかだ。
いずれにせよ、彼らはリンリンに逆らえないし抗えない。
ガムテへの忠誠心と信頼……彼らの心の核にさえなっているだろうそれらの感情とリンリンへの恐怖が同居している状態。
舞踏鳥や黄金球程の強者ならばまだしも。
ただ覚醒しているだけの有象無象(モブ)共で乗り越えるには、海の皇帝が齎す恐怖というハードルはあまりにも高すぎた。
「何だこの酒は…。馬鹿みたいに甘えじゃねェか。胸焼けするぜ、代えを持ってこさせろ」
リンリンが連れてきた客人。
彼女と同等の巨躯を持ち、同格の凄みを放つ豪傑。
カイドウと呼ばれたサーヴァントが不興を示せば忽ち心胆は震え上がる。
「あぁ? 旨ェだろうが! チョコレートリキュールだぞ、この時代じゃ一番高ェ菓子酒だ!」
「酒に甘味を混ぜるんじゃねェよ邪魔だろうが! ったく…次までにガキ共に酒のレパートリーを教育しとけ」
そしてその気が収まれば胸を撫で下ろして安堵する。してしまう。
給仕役に選ばれた少年は後に一時とはいえ心まで屈従した事実に、その屈辱に打ちのめされることになる。
だが誰が彼の弱さを責められるだろう。
きっと彼よりも格上の割れた子供…先に挙げた二人はおろか、ガムテですら不可能に違いない。
四皇とはそれ程までの規格外。
極道はおろか忍者の物差しですら測ることの能わない"怪物"なのだ。
「にしてもクソ甘ェな。お前いつもこんな素っ頓狂な酒飲んでやがるのか」
「おれはジュースの方が好きなんだよ本来。酒の雑味が邪魔だからねェ」
「雑味はどっちだ。…まあいい、心底合わねえが我慢してやる」
そう言うなり先程までの文句は何処へやら。
ぐびぐびとそんな擬音が似合う飲みっぷりでチョコレートリキュールを嚥下する
カイドウ。
酒が不味くても酔えれば最低限それでいいという辺りに彼の酒豪ぶりが覗いていた。
「にしても――してやられたもんだな。お前が小指を落とされるとは」
「ハ~ハハハ! そうさ、こりゃおれも驚いた! てっきり雑魚共の寄り合いでしかないと思ってたんだがねェ。
まさか彼奴等が本気でおれを殺そうとしてるとは思わなかったよ…あァ懐かしい感覚だ!
あの日、お前の鬼ヶ島で……"最悪の世代"のガキ共を相手取った時を思い出す!!」
「一緒にするんじゃねェよ。ただ力を振り回すしか能のねえガキを、おれを楽しませたあいつらと一緒にすんじゃねェ」
「絆されたもんだねェ。まァいいさ、とにかくおれは奴らにしてやられた! まんまとね!
だから――」
瞬間。
スッとリンリンの顔が変わる。
今の今まで陽気な赤ら顔で笑っていた彼女の顔が瞬時にして氷点下に堕ちる。
それは殺意の発露であった。
自分に屈辱的な痛手を与えた彼ら。
敵連合という、蜘蛛が紡いだ軍勢に対する…敵意と殺意。
「――あいつらはちゃ~~んとおれが殺すよ。どんな手を使ってでもね…ママママ」
それなら
カイドウとしても言うことはない。
同じ四皇として…それ以前に彼女と長いこと付き合ってきた身として。
彼女が殺すと宣言したことの意味を理解出来ない
カイドウではなかった。
連合はリンリンを敵に回した。
彼女が率いる子供達の全てを敵に回した。
彼らは今頃一時の勝利に酔っているかもしれないが、彼らにとっての本当の地獄はむしろこれからであろう。
本気になったこの怪物が殺しに来る事態。
それを地獄と呼ばずして何とするのか。
「まあそれはいい。おれが聞きてェのは一つだ」
「何だい。言ってみな」
「とぼけるんじゃねェよ。長い付き合いなんだ、お前の考えなんざすぐ分かる。
おれに何か聞かせてェことがあるんだろ? ならさっさと話しやがれ。おれだって暇じゃねえんだ」
「ママママ…そう急かさなくてもそのつもりさ。お前とおれが話し合うこの場を、どうしても取り仕切らせてくれって野郎がいてね……」
そうまで言ったところでリンリンはスッとその顔を天蓋に向けた。
言わずもがなそこには誰もいないが。
彼女は用のある相手がこの近くに既にやって来ていることを確信していた。
「――出てきなァクソ坊主~! 道化(ピエロ)野郎が待たせてんじゃねェぞォ~~!!」
ドン! と轟く王者の声。
威嚇に放った覇王色にすら決して劣らない気がその巨体から発せられる。
それを間近で浴びていながら顔色一つ崩さない
カイドウはやはり彼女と同等の怪物なのだろう。
それどころか
カイドウは、リンリンの発した「クソ坊主」という言葉に眉根を動かしていた。
「おいババア。そのクソ坊主ってのはまさか……」
厳しい顔で問い質そうとする
カイドウ。
そんな彼の言葉を遮るように、禍々しい気配が四皇二人の膝元に現出した。
極彩色にも似た美しさ。
そしてその美を悍ましく彩る獣性と蛮性。
弧を描く口は今は鳴りを潜めている。
それは眼前の二人が彼程のトリックスターをして、迂闊に地雷は踏めぬと看做すそれだけの存在だということの証だった。
「――お久しぶりでございます。彼方の海を馳せたる大海賊のお二方」
慇懃に頭を垂れるはアルターエゴ・リンボ。
美しき肉食獣とも称される、この界聖杯の暗躍者である。
しかし挨拶が終わるなり彼を待っていたのは、並び立つ怪物からの威圧の視線だった。
「どういうことだ。テメェおれに断りなくこのババアと繋がってやがったのか?」
遡ること凡そ半日。
リンボは鬼ヶ島にて
カイドウに謁見を果たしている。
そこでリンボは
カイドウの本気の殺意を受け、そして浴び。
そしてどうにか彼の傘下に下るという形で穏便な落とし所にありつくことが出来た。
にも関わらずその舌の根も乾かぬ内に、この厭らしい陰陽師はシャーロット・リンリンの元にまで現れ取り入ろうと画策していたというのだ。
当然看過出来る話ではない。
「お前…おれ相手に間者(コウモリ)をやろうと目論んでたわけじゃねェよな?」
リンボがやっていたのは言うなれば卑怯なコウモリだ。
どっちつかずの宙ぶらりん。
その所業が明らかになれば当然中途半端の報いを受けることになる。
カイドウとリンリン、双方からの疑念と怒りを身一つで浴びながら。
アルターエゴ・リンボは…口を開いた。
「ええ――いずれもその通り。僭越ながら拙僧、貴方がたをこの掌で踊らせていただいておりました」
飛び出すは爆弾発言。
神をも恐れぬ妄言にリンリンが拳を振り下ろした。
カイドウも金棒に手を伸ばし殺気を溢れ出させる。
しかしリンボは涼しい顔でリンリンの一撃を躱し。
「どうか落ち着きなされますよう。時が来れば全てを打ち明けお二人を結びつけるつもりであったのです。誓って嘘ではございません」
「お前みてえな生臭坊主の言葉を誰が信じると思う?」
一手でも。
一言でも誤ればリンボは死ぬだろう。
彼とてサーヴァントとしては規格外の部類だ。
並のサーヴァントでは彼の本気を前に太刀打ちなど出来ないだろう。
が、彼が今目前にしている二騎が並などという規格とはかけ離れた怪物であることは周知の事実だ。
如何にリンボが並外れた術師であれどまず間違いなく死ぬ。
そんな状況にありながら…リンボは冷や汗一つ流すことなく二の句を継いだ。
「信じることになりまする。鬼ヶ島のライダー殿、貴殿には既にお伝えした話でございますが…」
「あ? …あぁ、あれか。地獄界曼荼羅だったか。荒唐無稽な話過ぎて忘れてたぜ」
「それは危うい所でございましたな。その迂闊は御身の足をも絡め取りますぞ」
「……言うじゃねェか。このおれを相手にそこまでホザいたんだ、それなりの根拠は持ってきてるんだろうな?」
カイドウはリンボを信用などしていない。
だがこればかりは上に立つ者、絶対強者の性分だ。
己と物怖じせず向かい立つ者に対してはそれだけで心象に加点が入ってしまう。
「二人だけで話を進めてんじゃねェよ! おれにも分かるように一から説明しなァ!」
「これは失礼致しました偉大な母(ビッグ・マム)! この素っ首刎ねるか否か、これより拙僧が話す内容を以って見極めていただきたく!」
百獣の
カイドウ。
ビッグ・マム。
どちらも話の通じる相手ではない。
彼らを相手に弁舌を回すのは地雷原の上で舞踊を舞うにも等しい自殺行為だ。
それでもリンボは恐れず語る。
地獄界曼荼羅もとい"窮極の"地獄界曼荼羅。
誰もが馬鹿げていると笑う荒唐無稽な終末論を振り翳して、挑戦者として四皇との交渉に挑むのであった。
「…へえ! なかなか面白い話じゃねェか、興味が湧いたよ!」
フォーリナー・アビゲイル。
窮極の門へと通ずる無限の可能性を秘めた巫女。
この界聖杯戦争において恐らく最大の規格外にして不確定要素。
それを我が物として覚醒させ運用する計画…名を窮極の地獄界曼荼羅。
先に彼を傘下に加えていた
カイドウも計画の全貌を聞くのは初めてだったが、実に馬鹿げた話であった。
「収集癖も相変わらずか。少しは慎みってもんを覚えろよババア」
「海賊が欲しいもんを妥協してどうする!? 良いねェ…エクストラクラス、フォーリナー! 領域外からの降臨者!
ぜひおれのコレクションに加えてみてェ! 飽きるまで眺めて飼い殺してやりたいねェ……!」
「阿呆が。珍獣集めなら余所でやりやがれ」
呆れたように溜息をついて
カイドウはリンボに目線を移す。
一切の嘘偽りを許さない王の眼光。
視線だけで大気を震わせる不条理を呼吸のように実現させながら彼は陰陽師を詰問した。
「…確かに、そのフォーリナーとやらがお前の言う通りの力を秘めているってんなら無視は出来ねェ。
手綱を引く手段さえ確保出来りゃ最高の兵器だ。この戦争を終わらせる上での都合は凄く良い」
カイドウはリンリン以上に兵力、武力の重要性を熟知している。
何しろ総督の敬称で呼ばれる程なのだ。
生前はワノ国の野山を切り開いて数多の武器工場を建設させ武装の補充に腐心した。
その彼をしてもサーヴァントを兵器として運用する計画自体には魅力を覚える。
何処まで信じていいかは不明だが、少なくともリンボの言を信じるならば無限の可能性を持つというサーヴァント。
そんな兵器を手中に収めることが叶えば…聖杯戦争を終わらせるまでの道筋と手間は大幅に短縮されるに違いない。
「しかしお前の話によれば…そのフォーリナーは今何処ぞのガキを甲斐甲斐しく守ってるそうじゃねェか。
具体的にはどうやってフォーリナーを起こす? テメェの考えを聞かせてみろ」
「…く。くく、クククフフフフハ――」
「何が可笑しい」
「いえ…失礼。海の皇帝ともあろうお方であれば、それは愚問だとばかり思っていましたので」
ギョロリとリンボの眼球が動く。
異形の怪物めいた駆動から滲み出るのは底なしの悪意。
ならば当然、その口が紡ぎ出す答えもまた悪意に満ちた穢言であった。
「外なる神と繋がりし巫女。外宇宙からの降臨を成し遂げる者。
そんないと悍ましき化外の民が健気にも下女などの命を守るため粉骨砕身働いているというのなら――」
リンボが引き裂くような笑みを見せる。
カイドウも決して善人ではないが。
それでも思わず反吐を吐きたくなるような、そんな貌だった。
「それを奪ってやればよろしいでしょう。
支柱ありきで成り立つ安定ならば支柱をへし折り踏み躙ればよいだけのこと!
後は荒神と化したフォーリナーを、我々の手で都合のよい兵器として運用すればそれで事足りまする!」
フォーリナー、
アビゲイル・ウィリアムズには価値がある。
しかしそのマスターである
仁科鳥子…透明な手の女は稀少ではあれど用はない。
鳥子とアビゲイルの間にある信頼関係は傍目からしても深く見えた。
ならばそこを挫けばアビゲイルは容易く反転するだろう。
仁科鳥子こそがスイッチなのだ。
彼女を排除することこそが、窮極の地獄界曼荼羅成立の最短手。
リンボの見立てではそれさえ叶えば今すぐにでも、この東京を地獄に変えることが出来る算段だった。
「マ~マママ…まぁ話は分かったよ。なかなか悪くねェ。賭けてみる価値はありそうだ」
話の全貌を耳にしたリンリンは笑ってそう言う。
カイドウも言葉にこそしないものの概ね彼女に同感だった。
実際に実行してみて話が違ったならリンボを排除すればいい。
アビゲイルが彼の言う通りの怪物だったならその恩恵に与ればいいだけ。
窮極の地獄界曼荼羅を実現させるまでのハードルは想像以上に低かった。
「ただ。テメェ変な気だけは起こすんじゃねえぞ? リンボ」
ビリビリと大気が震える。凍り付く。
窮極の地獄界曼荼羅が実現したとしてもリンボがそれを掌握し、独占してしまっては最悪だ。
なればこそ彼がその暴挙に出ないよう釘を刺しておくことは必要不可欠であったが。
生憎リンリンは知らない。
カイドウもまた、知らない。
彼との付き合いが短い故に知らない。
このアルターエゴ・リンボが…そのような圧力など無視して己の目指す方角へひた走れる馬鹿であることなど知る由もない。
「…はい、それは勿論。拙僧も聖杯を目指している身ではありますが――然るべき時が来るまでは、この均衡を乱す真似はしないと誓いましょう」
そして知らないのはリンボもまた同じ。
彼は四皇と呼ばれる海賊達の真の恐ろしさを未だ知らない。
リンボはかつて彼らの強さを異聞帯の王になぞらえて評したが。
制御の利かなさで言うならば、リンボの知る王達よりも遥かに上を行くということを彼はまだ実感を以って知ってはいない。
一度でも暴れ出させてしまえばどんな事態になるか、その脅威度を正確には認識出来ていない。
互いが互いに対して抱える無知。
それが今後、大局にどのような影響を及ぼすのかは定かではなかったが……
「そこでご要望がありまする。フォーリナーのマスターである透明な手の娘。
彼女を抹殺するために…貴方がたの保有する戦力の一部を拙僧に貸し与えていただきたい。
ああ無論過ぎた申し出であることは百も承知ですとも! しかしその上で――拙僧にお任せいただければ、必ずや期待に応えてみせまする」
「坊主が指揮でも取るつもりか? テメェにゃ念仏が適役だろう」
「ンンンン――確かに二流三流の僧ならばそうでしょう。
しかしながらこの拙僧めは一流を志しておりますれば」
アルターエゴ・リンボは決して軍師に向いている存在ではない。
その立ち位置を取るなら
カイドウ、妙な気を起こしていないことを踏まえればリンリンでさえまだ上を行くだろう。
だが…悪業を振り撒くことにかけては。
人の嫌がることをすることにかけては、リンボは彼らに数段勝る才能を持っている。
「この首に懸けて戦功を誓いましょう。
もしも疑わしく思うのでしたらば、この場で臓物(はらわた)の奥までご覧に入れて進ぜましょうか」
「マ~ママママ大層な自信だ! そんなに凄ェのかいフォーリナーのガキは!?」
愉快愉快とばかりに笑うのはリンリンだ。
奇妙珍妙なものを見境なく好む彼女である。
目前のアルターエゴも彼が話の俎上に載せたフォーリナーにも興味が尽きないのだろう。
一方で
カイドウはと言えば、未だ訝るような眼差しを崩していなかった。
「…話は分かったが条件がある。
このババアがどうかは知らねェが、おれが伸るか反るか決めるのは手前がそれを果たした後だ」
「聞きましょう。拙僧に何をお望みで?」
「今すぐ沙都子のガキを連れて来い」
リンボのことは未来永劫信用などしない。
こういう手合いを心から信用したならその瞬間がそいつの死期だ。
だから話を聞くなら…もとい。
諸々を問い質すなら、走狗ではなく飼い主の方だと
カイドウは踏んだ。
「あァ――そいつはおれも同感だ。
あのガキ、おれの可愛い弟分の存在を知りながら伏せてやがったんだろう!?
落とし前はともかく詫びの一つは入れさせなくちゃ気が済まねェよ!」
そして少女にとっては運の悪いことにリンリンまでもがそれに同意する。
四皇相手の三者面談。
おまけにただ一人彼女にとって味方である男は地雷原を踏み荒らす狂人と来た。
「承りました。我がマスターもまたこの拙僧めを走狗とするに相応しい悪意の傑物。
必ずや御二方の御前に連れて参りましょう。
そしてその暁には、この拙僧めを一時信用していただきたい」
「考えてやる。あのガキをこの手で打ち殺す事態にならなきゃだがな」
カイドウもリンリンも…相手が女子供であろうが容赦をする性格ではない。
沙都子が答えを誤れば容赦なく彼らの暴力は沙都子の小さな身体を粉砕するだろう。
が――彼女にとって何もこれはただの受難に終わるとは限らない。
「……それに、丁度聞きてェこともある」
カイドウはこの会談が始まる直前。
鬼ヶ島に居る己がマスターから一つの連絡を受けていた。
鬼ヶ島へ現れた脱出派の主従。そしてその顛末。
それ自体は実に順当なものだったが、皮下曰くマスターの方が奇妙なことを口走っていたという。
北条沙都子。
鬼ヶ島にて
カイドウの傘下に入ると誓い、これから蝙蝠の報いに詰められることが確定した彼女の名を呼んでいたというのだ。
“どの道相手のガキは死に体のようだが、まァ…因縁ってのは侮れねェもんだからな”
雛見沢という土地を舞台に渦を巻いた業と情念の永劫回帰。
運命の輪を外れても……それでも彼女達は引かれ合う。
魔女と猫が再び相見える時は、もうすぐそこまで迫っているのかもしれなかった。
【中央区・某タワーマンション(グラス・チルドレン拠点)・鏡面世界内/二日目・未明】
【ライダー(
カイドウ)@ONE PIECE】
[状態]:首筋に切り傷、体内にダメージ(小)
[装備]:金棒
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:『戦争』に勝利し、世界樹を頂く。
0:あの日の悔恨に"決着"を。
1:沙都子を問い質す。リンボに兵を貸すかはそれ次第。
2:峰津院の霊地(東京タワーとスカイツリー地下)を強奪ないし破壊する。
3:組んでしまった物は仕方ない。だけど本当に話聞けよババア!!
4: 鬼ヶ島の顕現に向けて動く。
5:『鬼ヶ島』の浮上が可能になるまでは基本は籠城、気まぐれに暴れる。
6:
リップは面白い。優秀な戦力を得られて上機嫌。てめェ戻って来なかったらブチ殺すからな
7:リンボには警戒。部下として働くならいいが、不穏な兆候があれば奴だけでも殺す。
8:アーチャー(ガンヴォルト)に高評価。自分の部下にしたい。
9:
峰津院大和は大物だ。性格さえ従順ならな……
10:ランサー(
ベルゼバブ)テメェ覚えてろよ
[備考]
※鬼ヶ島の6割が崩壊しました。復興に時間が掛かるかもしれません
【ライダー(シャーロット・リンリン)@ONE PIECE】
[状態]:疲労(中)、右手小指切断
[装備]:ゼウス、プロメテウス@ONE PIECE
[道具]:なし
[所持金]:無し
[思考・状況]
基本方針:邪魔なマスターとサーヴァント共を片づけて、聖杯を獲る。
0:"海賊同盟"だァ~~!
1:沙都子を問い質す。リンボに兵を貸すかはそれ次第。…フォーリナーとかいう珍種は気になるけどね!
2:敵連合は必ず潰す。蜘蛛達との全面戦争。
3:ガキ共はビッグマムに楯突いた事を必ず後悔させる。
4:
北条沙都子、
プロデューサーは傘下として扱う。逃げようとすれば容赦はしない。
5:
カイドウを見つけて海賊同盟を結成する。
6:ナポレオンの代わりを探さないとだねェ…面倒臭ェな!
[備考]
※ナポレオン@ONE PIECEは破壊されました。
◆ ◆ ◆
「はて、さてェ」
沙都子に対して念話を飛ばさねばなるまい。
或いはこのまま直接会いに行くか。
どちらにせよ彼女を待つのは修羅場だ。
これはお叱りを覚悟せねばなりませんなァと呟きながらもリンボの顔は淀んだ笑みに歪んでいた。
“図体の割に小心ですなァ百獣の王君。そう頑なにならずとも、この儂嘘など吐きませんとも。今は…ねェ”
リンボはマスターを信用している。
その胸の内に渦巻く昏い情念を。
宿業を、信頼している。
吹けば飛ぶような矮小(ちいさ)い命。
しかして彼女は間違いなく可能性の器だ。
地平線の果てはおろか。
常人ならば覗き込むことを躊躇するような悍ましい深淵にまでも歩んでいける、稀代の魔女だ。
“つきましては我がマスター、猫箱の魔女よ。
貴女にはこの窮地ぜひ乗り越えていただきたく。
生憎拙僧は睨まれておりますゆえ助け舟は出せそうにありませぬが、なァに御身もこれしきの逆境は承知の上でございましょう”
そうであってくれなければ困る。
何しろ今や聖杯戦争も二日目。
可能ならば朝が来ることは避けたかった。
その前に地獄を顕現させたいとリンボは考えていた。
即ち、フォーリナーのマスターを殺し或いは壊し。
アビゲイル・ウィリアムズを"銀の鍵の巫女"として覚醒させる。
窮極の地獄界曼荼羅、その開演である。
「何やら、猪口才に蠢いておられるようですが」
構いはしない。
もはや猶予はない。
収穫の時は近い。
「外なる神の巫女という極上の果実……必ずやこのリンボが収穫してくれる」
カイドウとリンリン。
二人の四皇の兵力を借り受けられるのならばそれも容易になるだろう。
収穫さえ済めば後は思うがままだ。
あの居丈高な老害達から真っ先にねじ伏せてやるのも悪くない。
全ては万事リンボの計画通りに進んでいた。
後は沙都子の頑張り次第で、計画は一気に最終段階に移せる。
時に。
“しかし…気になることが一つ”
それは夕暮れ時にも感じた異変だった。
マスターに同伴させる形で動かしていた式神。
当然式神故に出力は本体と比べて数段劣る。
しかしそれでも並のサーヴァントであれば十分に圧せる力を与えていた筈。
にも関わらずそれが霧散した。
何者かによって、本体が危機の兆しを感知する間もなく討滅されている。
“只の偶然、運の悪さと切り捨てることは容易。だが――”
これが自分の行く道に付き纏う悪縁。
ないしはある種の"業"のようなものであるとしたらば。
“魔女の葛籠に囚われた哀れな猫を…儂も笑えぬなァ”
異星の神やカルデア。
その他あらゆる観念から解き放たれて自由に振る舞っている心算のこの身も、何処かで鎖に繋がれているのかもしれない。
時を世界を運命を。
あらゆる因果を超えても拭い去れない応報がこの身に迫っているのかもしれない。
そんな悪い予感を抱きつつもリンボはやはり笑うのだった。
彼はそれだけを生業とする生物だから。
何度負けても打ちのめされても目に物見せられても決して止まれない。
ただ"悪"を成し続ける……妖星であるのだから。
【アルタ―エゴ・リンボ(
蘆屋道満/本体)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:この東京に新たな地獄を具現させる。
0:地獄界曼荼羅の完成に向けて準備を進める。
1:頼みましたぞ、マスター。
2:「1」が済み次第計画を最終段階に移す。フォーリナーのマスターを抹殺する。
3:式神は引き続き計画のために行動する。
4:…のつもりでしたが、やめました。祭りの気配がしますぞ、ンンン――。
5:式神にさせるつもりだった役目は本体が直接担うことに変更。何をするつもりかはおまかせします。
6:それはそうと新たな協力者(割れた子供達)の気質も把握しておきたい
7:“敵連合”は静観。あの蜘蛛に邪魔されるのは少々厄介。
8:機会があればまた
プロデューサーに会いたい。
9:七草にちかとそのサーヴァント(
アシュレイ・ホライゾン)に興味。あの断絶は一体何が原因か?
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最終更新:2022年05月14日 22:24