“あー…くそ。仕留め損ねた……”
武蔵が斬ったのはシュヴィの片翼と片腕に留まった。
痛手としては十分などと楽観はできない。
何しろ武蔵が放ったのは文字通り秘中の秘たる一閃だったのだから。
それをもって倒せなかった。
これは間違いなく、新免武蔵の敗北。
現に彼女の体はシュヴィの残した炎とそこに蟠る霊骸の汚染で見る間に冒されていく。
“とんだ失態、ね。この体たらくでよくもまぁあの子や鬼さんに偉そうな口叩けたもんだわ”
悔やむ気持ちは山のよう。
だが武蔵の物語はまだ終わっていない。
彼女は確かに負けた。
完膚なきまでにしてやられた。
しかし命だけは残った。
シュヴィの追撃を受ける心配も、恐らく当分の間はない。
“…ごめんね梨花ちゃん。助けに行くのはもう少し先になりそう”
新免武蔵は空位に達した正真正銘の剣聖である。
そんな彼女にしてみれば、今や空間そのものを切り裂くことすら不可能な芸当ではない。
武蔵はシュヴィを斬ると同時に彼女のいた座標そのものを斬った。
するとどうなるか。
鬼ヶ島から現世へと続く即席の、保って数秒の出口ができるのだ。
武蔵は爆熱に苛まれながらそこへ転がり込んだ。
重篤な損耗を負った霊基は転がって、転がって。
そうして…元いた東京都は新宿区の一角へと放り出される。
仰ぐ空は黒かった。
他人事のように疎らに瞬く星々を見上げていると、それだけで自分は失敗したのだという実感が嫌でも湧き上がってくる。
“でも…どうか待っていて。私は約束は破りません”
自分の体が限界に近い疲労を負っていること。
そして体の奥底にまで呪いのように染み込んだ"汚染"のことも武蔵は承知していた。
それでも新免武蔵は彼方の主へこう誓う。
待っていて。
必ず行くから。
そう、誓う。
誓いながら意識を手放した。
“必ず、あなたを……”
【二日目・未明/新宿区・路上】
【セイバー(
宮本武蔵)@Fate/Grand Order】
[状態]:全身にダメージ(大)及び中~大程度の火傷、霊骸汚染(大)、気絶
[装備]:計5振りの刀
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マスターである
古手梨花の意向を優先。強い奴を見たら鯉口チャキチャキ
0:……待ってて。必ず、助けに行くから。
1:おでんのサーヴァント(
継国縁壱)に対しての非常に強い興味。
2:
アシュレイ・ホライゾンの中にいるヘリオスの存在を認識しました。
武蔵ちゃん「アレ斬りたいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。でもアレだしたらダメな奴なのでは????」
3:
櫻木真乃とアーチャーについては保留。現状では同盟を組むことはできない。
4:あの鬼侍殿の宿業、はてさてどうしてくれようか。
◆ ◆ ◆
皮下の開花は再生だ。
虹花の能力の全てが彼の手中にある。
だが真に脅威なのは手数の多さなどではない。
彼の体を流れるソメイニンの濃度だ。
彼は葉桜の完全適合体ですら及びもつかない程オリジナルに。
夜桜(ばけもの)に近い。
偽物が本物に敵わない道理はない、成程確かにそうだろう。
しかしそれでも。
多くの場合において、偽物は本物の後塵を拝するのみに終わるものだ。
「ハクジャはともかく…お前もかよ」
残念だぜ。
ミズキの胸を貫いた腕を引き抜いて皮下は言う。
滴り落ちる血。
溢れ出す血。
失血も損傷も致死に達して余りあるそれだった。
「み…ずき、さんっ……!」
「……ダメですアイさん。来てはいけません。どうか、それだけは止めてください」
古手梨花は戦力にはならない。
よって皮下の相手はハクジャとミズキの二人でしなければならなかった。
アイも戦力として数えるには十分な力を持っていたろうが。
彼女が何を言おうと、その命と未来を結果の見えた闘争に費やすことをミズキは決して認めなかった。認められなかった。
「いい子ですから」
そう言われてしまったらアイは動けない。
だけど逃げることだけはできなかった。
ミズキとハクジャ。
傷つきながらも皮下を相手に戦い続ける二人に背を向けることは…できなかった。
「血の繋がりもねぇガキを故人の代用品にするのは止めてやれよ。お互いのためにならねえだろ」
「代用品。…はは、成程言い得て妙だ。確かにそうですね。しかし……」
ミズキの手が伸びる。
溶解の手はしかし伸ばすと同時に切り落とされた。
もう片方の腕は既に戦いの中で落とされている。
これでミズキは完全に詰んだし、そうでなくても彼の命はもう長くは続かなかったろう。
皮下の腕に貫かれ、彼は既に自身の心臓を破壊されていたのだから。
「分からない貴方を哀れに思います。いえ、それとも貴方は…そうすることすらできない程に、一途なのでしょうか」
「死人が喋るなよ。マナー違反だぜ」
手を一振りする。
ミズキの首が胴を離れた。
アイの絶叫を聞きながら皮下はその矛先をハクジャに向ける。
そのハクジャも今となっては満身創痍。
ほぼほぼ死に体と言っていい有様だった。
「へぇ。止血してやるとは健気じゃないかハクジャ。
その娘の語る理屈がそんなにもお気に召したのか?
俺には正直、実に月並みなものだとしか思えなかったけどな」
「……悲しむ子がいますから。あなたが見せてくれた光ですよ、皮下さん」
「霧子ちゃんか」
は、と皮下は苦笑する。
失笑と言ってもよかったかもしれない。
「この世界のお前を、俺の知るお前と同じに考えていいのか分かんねぇんだけどさ……」
ポリポリと頭を掻きながらミズキの死体を蹴って退かす。
うつ伏せで倒れ伏して虫の息で此方を睨みつける梨花を一瞥しつつ皮下は彼女を庇うハクジャの方へと一歩を踏み出した。
「俺に言われた覚えはないか? "彼ら"のおかげで得た命を大事にしろって」
「えぇ。ありますよ」
ハクジャの脇腹は欠けていた。
大量の血を溢しながら梨花を守る。
その顔にしかし苦悶の色はない。
生きたいという思いを寄る辺に生きてきた女のそれとは思えない姿だった。
「その言葉を覚えているからこそ、私はあの子の手を取ったんです」
「そう大したもんかねぇ。不思議ちゃんではあっても所詮ただのアイドルだろ? 俺はそこまで魅力を感じないけどな」
「あの子は……お日さまですから」
ハクジャの言葉の意味は皮下には理解できないだろう。
ハクジャも彼に分かって貰おうなどとは思っていない。
そのことに憐れみをすら覚えつつ彼女は髪を展開する。
守りのためにではない。
今だけは、命の恩人に弓を引く。
最初で最後の反抗は文字通り絞り出せる限りの全身全霊で行われた。
「"八岐大蛇"」
竜巻のように渦を巻きながら殺到する頭髪。
皮下の立ち姿がそれに呑み込まれる。
そうなれば後は寄せ来る髪糸に押し潰され咀嚼されるのみ。
だが悲しきかな。
開花を我が物とした魔人の力は、生を渇望し続けた女の全身全霊をすら容易く乗り越えてしまう。
「過剰評価だな。お前は信じる相手を間違えたんだよ、ハクジャ」
アカイの異能を行使して内側から八岐大蛇を焼滅し。
皮下はハクジャの前に立つなり、ミズキにしたようにその心臓を貫いた。
「まぁ…太陽(おひさま)ってワードにはちょっとばかし因縁を感じちまうけどな」
「ふ、ふ…。少し意外です。あなたはてっきり……あの一家のことなんて、踏み潰した砂粒程度にしか思っていないとばかり」
「覚えてるさ。俺のいた世界じゃ先生方の忘れ形見がとうとう俺の喉元にまで迫ってきたんだ。
忘れられるわけがねぇ。そういう意味じゃ…お前らの目の付け所はよかったのかもな」
だが、それも。
「結局は気の迷いだ。この幕切れがその証拠だよ」
腕を引き抜いて首を刎ねる。
そこまで含めてミズキの焼き直しだった。
ハクジャが最期に何を思ったのか。
信じたお日さまの少女に何を祈ったのか。
それが明かされることは永遠にない。
彼女は死んで、皮下は生きている。
それだけがハクジャとミズキ、二人の虹花構成員の死の後に残った事実であった。
「おっと」
そして最後に残った造花。
少女の腕力は猛獣すら一撃で黙らせる剛力だがそれも皮下という魔人相手には意味がない。
片手で受け止められればそれで終わり。
前にも後ろにも動かせず、アイは涙を流しながら精一杯の威嚇をするしかできなかった。
「無意味な殺しは俺も望むところじゃないんだ。
せっかくの成功例を無闇矢鱈にぶっ壊してたら勿体ないだろ?」
お前ら作るのだって安くないんだからさ。
そう言いながら皮下は手空きの左手をそっと動かしアイの頭に触れさせた。
撫でるのではない。
彼はその小さい頭を掴んだ。
「あ…っ。ひ、ぁ……っ」
「ダメじゃないか、アイ。悪い子は昔みたいにお仕置きされちまうぞ?」
それと同時にアイの体がガタガタと震え始める。
蘇る記憶。
忘れたい思い出。
汚い部屋の中でゴミのように殴られ蹴られ暮らした時間。
頭を掴まれるのは痛いことをされる合図。
そのトラウマは超人となった今もアイの中に消えない傷として残り続けている。
「ミズキもよくこうしてたっけな。
被虐待児捕まえて父親の真似事たぁ涙ぐましいというかなんというか」
「───」
「アイツもバカだよな。さっさと忘れちまえばよかったのに」
皮下は人の命など何とも思わない。
彼にとって人間とは使い捨てで死とは消費期限のようなものでしかなかった。
だからこうして平気で死んだ人間を嘲笑う。
が…
「ばかに…しないで……」
「ん?」
絞り出すような声だった。
受け止めていた腕が想定外の力によってずれる。
虹花の中では決して抜きん出た戦力ではなかった少女が。
恩人を愚弄されたことに対する怒りでもって、今この時皮下の想定を超えたのだ。
「ミズキさんのこと……ばかに、しないで!!」
「うおっ」
死者を愚弄するという行為はガソリンを撒き散らすことにも等しい。
皮下の腕を押し退けたアイの鉄拳が彼の腹に叩き込まれた。
思わずたたらを踏んで後退する皮下。
アイはそれを尻目に、涙を溢しながら何処かへと逃げ去っていく。
追い掛けることは簡単だったが…そうまでしなければならない存在だとも思えなかった。
ミズキを失ったアイなどただの心的外傷抱えた幼子だ。
今更何ができるとも思えない。
「後で適当にお触れでも出しとくか。そうすりゃ誰かが見つけんだろ…おー痛て。本気で殴りやがってあのガキ……」
まともな人間だったら内臓破裂どころか背骨まで吹っ飛んでるぞこりゃ。
殴られた腹を擦りながらぼやく皮下。
その靴底が切断されて本体を離れた梨花の右手を踏み潰した。
ぐりぐりと。
まるで気味の悪い毛虫を完全に視界から消し去ろうとするみたいに、徹底的に踏み潰す。
こうなっては失われた令呪を復元させることはおろか、梨花の腕を接合することすらまず不可能だろう。
「…かわ、した……!」
「マジか、まだ意識あんのかよ。麻酔無しで腕切り落とされてんだぞ?
…あー、ハクジャの止血が功を奏したのか。にしても凄えーな、君まだ小学生だろ?
普通なら痛みだけで気をやって然るべきと思うんだが……」
梨花は皮下を睨みつけていた。
そんな彼女に皮下は驚きを示したが、勿論梨花とて平気ではない。
頬の内側を噛み潰す程強く歯を噛み締めながら強引に意識を保っていただけ。
せめてもの意地だった。
今もこの鬼ヶ島の何処かで戦っているだろう武蔵に少しでも応えるための義理。
そして、皮下が話した界聖杯の真実を生きて霧子達に伝えねばならぬという強い意思。
それが梨花を突き動かしていた。
皮下の姿すら朧がかった曖昧な
シルエットでしか捉えられない程曖昧な意識の中で、それでも活動を可能とさせていた。
「あんた、は…心底、見下げた人でなしね……!」
「心配すんなよ自覚はある。できれば合理主義者と呼んでほしいけどな」
肩をすくめる皮下。
「にしても…。沙都子ちゃんといい君といい、最近の幼女は人間離れが著しいな。日本の未来は明るいんだか暗いんだか」
「……え」
彼が何の気なしに漏らした言葉。
それを聞いた梨花は、抱いた闘志も忘れて驚愕に目を見開いた。
沙都子。
北条沙都子。
その名前は古手梨花にとってあまりにも思い入れの深いもので。
そして……今は思い入れのみならず因縁さえもが深かった。
「あんた――沙都子を知ってるの…!?」
「お、知り合いか? 知ってるも何も同盟相手だよ」
皮下は知らない。
梨花と沙都子の間に存在する因縁を。
そこにある業の深さを。
卒すること能わぬ複雑に怪奇した縁の形を。
知らないが、それでも彼は何も困らない。
鬼ヶ島を舞台にした会談の席は反故にされた。
会談は戦いに転じ、古手梨花及び新免武蔵は敗北した。
ハクジャとミズキは死にアイは逃亡者の身に堕ちた。
梨花は令呪を全損し、武蔵は東京に戻って死に体同然の有様で眠っている。
「まぁいいさ。何にせよお前の体は有効に活用させて貰う。
界聖杯のお墨付きの"可能性の器"だろ? 使いようは色々と思いつく」
「っ…教えて……教えなさい!
沙都子が、この世界にいるの!? いるんだとしたら、何処に……!」
「教えるかよ。黙って寝とけ敗北者」
梨花の頭を踏み付ける。
その衝撃だけでただでさえ薄れかけだった梨花の意識は消え果てた。
これで誰も残らない。
勝者は皮下。
鬼ヶ島の盤石さは何一つ揺らがない。
カイドウが不在の現状でさえ。
梨花と武蔵と。
"お日さま"に希望を見出した虹花の三人は一つの勝利も掴めなかった。
「とりあえず何とかなったな。アーチャーちゃんにはマジでお礼言わないとなぁ。パフェとかで機嫌取れるかねえ……」
にしても総督はいつ戻ってくるんだか。
そう思いつつ。
自分の悪運に感謝もしつつ。
皮下は胸を撫で下ろした。
その胸中には既に、ハクジャとミズキ…己が殺した部下達の命(そんざい)など欠片もなかった。
【二日目・未明/異空間・鬼ヶ島】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労及び失血(大)、右腕欠損、気絶
[令呪]:全損
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度
[思考・状況]
基本方針:生還を目指す。もし無ければ…
0:沙都子が此処に、いる…?
1:白瀬咲耶との最後の約束を果たす。
2:ライダー(アシュレイ・ホライゾン)達と組む。
3:咲耶を襲ったかもしれない主従を警戒、もし好戦的な相手なら打倒しておきたい。
4:彼女のいた事務所に足を運んで見ようかしら…話せる事なんて無いけど。
5:櫻木真乃とアーチャーについては保留。現状では同盟を組むことはできない。
6:戦う事を、恐れはしないわ。
【
皮下真@夜桜さんちの大作戦】
[状態]:疲労(小)
[令呪]:残り二画
[装備]:?
[道具]:?
[所持金]:纏まった金額を所持(『葉桜』流通によっては更に利益を得ている可能性も有)
[思考・状況]
基本方針:医者として動きつつ、あらゆる手段を講じて勝利する。
0:ひとまずどうにかなったが…さぁ、どうするかね。
1:大和から霊地を奪う、283プロの脱出を妨害する。両方やらなきゃいけないのが聖杯狙いの辛い所だな。
2:覚醒者に対する実験の準備を進める。
3:戦力を増やしつつ敵主従を減らす。
4:沙都子ちゃんとは仲良くしたいけど……あのサーヴァントはなー。怪しすぎだよなー。
5:峰津院財閥の対処もしておきたいけどよ……どうすっかなー? 一応、ICカードはあるけどこれもうダメだろ
6:梨花ちゃんのことは有効活用したい。…てか沙都子ちゃんと知り合いってマジ?
7:逃げたアイの捜索をさせる。とはいえ優先度は低め。
[備考]
※咲耶の行方不明報道と霧子の態度から、咲耶がマスターであったことを推測しています。
※会場の各所に、協力者と彼等が用意した隠れ家を配備しています。掌握している設備としては皮下医院が最大です。
虹花の主要メンバーや葉桜の被験体のような足がつくとまずい人間はカイドウの鬼ヶ島の中に格納しているようです。
※ハクジャから
田中摩美々、七草にちかについての情報と所感を受け取りました。
※峰津院財閥のICカード@デビルサバイバー2、風野灯織と八宮めぐるのスマートフォンを所持しています。
※虹花@夜桜さんちの大作戦 のメンバーの「アオヌマ」は皮下医院付近を監視しています。「アカイ」は
星野アイの調査で現世に出ました
※皮下医院の崩壊に伴い「チャチャ」が死亡しました。「アオヌマ」の行方は後続の書き手様にお任せします
※ドクロドームの角の落下により、皮下医院が崩壊しました。カイドウのせいです。あーあ
皮下「何やってんだお前ェっ!!!!!!!!!!!!」
※複数の可能性の器の中途喪失とともに聖杯戦争が破綻する情報を得ました。
◆ ◆ ◆
「ごめ、ん……。倒しきれな、かった………」
「気に病むことじゃねぇよ。元々押し付けられた仕事だろ」
皮下ではなく
リップの許に帰投してきたシュヴィ。
彼女は片腕と片翼を失っていた。
機凱種には肉体を自己修復する機能がデフォルトで備わっている。
だからたかだか四肢の欠損くらいは然程後を引かない負傷だと言えた。
が、シュヴィの表情はマスターであるリップへの申し訳なさで染まっていた。
昼間のフォーリナーとの邂逅に引き続いてまたも成果を持ち帰れなかった。
そんな心の内が幼い容貌に滲み出ていた。
リップは自分の頭をガシガシと掻くと、ぶっきらぼうに少女の頭を撫でた。
愛する伴侶のいる彼女にこんなことをしていいのかどうか分からなかったが。
少なくともリップはこれ以外に失敗した子どもの慰め方を知らなかった。
「撃退できただけでも十分だ。相手方のマスターは皮下が回収したんだろ?
マスターも令呪も奪われた手負いのサーヴァントなんざ死に体同然だ」
峰津院大和とそのランサーが異常すぎただけで、この鬼ヶ島は端的に言って反則の一言に尽きる。
特定不能の異空間に備えた大量の戦力。
そこにシュヴィが加わっている現状はまさに鬼に金棒だった。
「俺は奴と組むことに決めた。どの道もう時間だしな」
「…いいの?」
「気に入らない奴だが戦力の豊富さと設備の充実ぶりは無視できない。
もしも切り時が来たら一方的に刺せるのも大きいな。
孤立を深めてる峰津院と組むよりも得られる利益は大きいと判断した」
それに、とリップ。
逡巡するように言葉が途切れた。
彼は踵を返してシュヴィに背を向ける。
その仕草と目の前に広がる光景からシュヴィは全てを理解した。
此処は皮下の選んだ実験場だ。
そして今。
此処にはリップとシュヴィ以外に誰もいない。
遠くの方から轟音が聞こえてくる。
得たばかりの力を高揚しながら試しているような…そんな音が。
「覚醒者の魂を利用してサーヴァントを強化する戦略は有用なものだと分かったからな」
予め伝えておいたことではある。
皮下と組む可能性は高いと、彼女も分かっていた筈だ。
しかしそれを現実として突きつけられれば感じる思いも違ってこよう。
皮下と組むと決めた以上。
これから先ずっと、この戦いが終わるまで…自分達の目の前でこういうことが繰り返されていくのだ。
その全てを理解することの重さが如何程のものかをリップは測れなかった。
だから目を背けて相棒の少女に背を向けた。
あいも変わらず情けない男だと自罰しながら、努めて平静にシュヴィへ話を続ける。
「貰った名刺は無駄になっちまったが…皮下の投稿が発見されればこっちの意思は伝わるだろ。
大和への餞別にもなる筈だ。組むにこそ至らなかったが、奴らも脱出派狩りを始めてくれれば実質こっちの得にもなる」
脱出派は聖杯を狙うマスター全員にとっての公共の敵(パブリック・エネミー)だ。
峰津院大和も間違いなく彼女達を野放しにはしておかないだろう。
当然此方側も何かしらの形で動くことにはなる筈だし、そうなれば脱出狙いの勢力は一気に追い詰められることになる。
「シュヴィ」
振り向く。
一度背けた視線を再び今は片翼の少女に向けた。
「悪いな」
「…ううん……。マスターは……すごく、やさしい人……だよ………」
「……そうか」
そんな言葉を口にできる人間が悪人でなどあるわけがない。
だからシュヴィはリップの選択に心を痛めはしても彼に失望はしていなかった。
彼の願いと想いの重さはシュヴィもよく理解しているから。
彼に勝ってほしいと思うからこそ、シュヴィは茨道を歩く彼の後ろをついていく。
「そう見えてるか。俺は」
しかしリップはその言葉を否定する。
自分は悪人だと信じて疑わない。
ヒーローになどなれやしない、所詮殺すことでしか目的を達成できない殺人鬼。
救う救うと言いながら最後に残る一人以外を血の海に沈めていく醜いヴィラン。
無辜の市民を怪物の腹の中へ導いた、外道畜生。
そう信じるからこそ、シュヴィの言葉はリップの心をよく灼いた。
それを痛みと認識できるくらいには、彼はまだまだ人間だった。
【リップ@アンデッドアンラック】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[令呪]:残り3画
[装備]:走刃脚、医療用メス数本、峰津院大和の名刺
[道具]:ヘルズクーポン(紙片)
[所持金]:数万円
[思考・状況]
基本方針:聖杯の力で“あの日”をやり直す。
1:皮下と組むことに決定。ただしシュヴィに魂喰いをさせる気はない。
2:283プロを警戒。もし本当に聖杯戦争を破綻させかねない勢力なら皮下や大和と連携して殲滅に動く。
3:敵主従の排除。同盟などは状況を鑑みて判断。
4:地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)の量産について皮下の意見を伺う。
5:ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)は様子見。追撃が激しければ攻勢に出るが、今は他主従との潰し合いによる疲弊を待ちたい。
[備考]
※『ヘルズ・クーポン@忍者と極道』の製造方法を知りましたが、物資の都合から大量生産や完璧な再現は難しいと判断しました。
また『ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)』が一定の規模を持った集団であり、ヘルズ・クーポンの確保において同様の状況に置かれていることを推測しました。
※ロールは非合法の薬物を売る元医者となっています。医者時代は“記憶”として知覚しています。皮下医院も何度か訪れていたことになっていますが、皮下真とは殆ど交流していないようです。
【アーチャー(
シュヴィ・ドーラ)@ノーゲーム・ノーライフ】
[状態]:疲労(中)、右腕と片翼を欠損(修復中)
[装備]:機凱種としての武装
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:叶うなら、もう一度リクに会いたい。
0:…マスター。シュヴィが、守るからね。
1:マスター(リップ)に従う。いざとなったら戦う。
2:マスターが心配。殺しはしたくないけと、彼が裏で暗躍していることにも薄々気づいている。
3:フォーリナー(アビゲイル)への恐怖。
4:皮下真とそのサーヴァント(カイドウ)達に警戒。
5:峰津院大和とそのサーヴァント(
ベルゼバブ)を警戒。特に、大和の方が危険かも知れない
6:セイバー(宮本武蔵)を逃してしまったことに負い目。
※聖杯へのアクセスは現在干渉不可能となっています。
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
時刻が零時を回った。
自室で身を休めていた峰津院大和が失望の息を吐く。
リップからのコンタクトは結局無かった。
彼は間違った選択をしたということだ。
利口な男だと思ったのだがな。
そう思いながら手元の端末に目を向ける。
「袖にされたか。無様だな」
「傷心する柄でもない。それに、奴が此方に何も齎さなかったというわけでもないようだ」
おもむろに自分のサーヴァント、ベルゼバブへ画面を見せる。
気安い態度に彼の眉がピクリと動いたが、結局は大人しく示された画面に視線を落とした。
そして眉間に皺を寄せる。
それは大和への苛立ちや怒りから来る表情ではなかった。
「欠陥品めが」
「大方、あの機械のアーチャーが界聖杯を解析なり何なりしたのだろう。
こればかりは我々には確かめようのない真実だった。餞別として素直に受け取るとする」
@DOCTOR.K ・4分 …
峰津院が管理する東京タワーとスカイツリーの地下には莫大な魔力が眠っている。
聖杯戦争の趨勢を決するだけの魔力プールが峰津院の手の中にある。
@DOCTOR.K ・3分 …
283プロダクションのアイドル達はマスターであり、聖杯戦争からの脱出を狙っている。
そして、それが達成された場合、聖杯戦争は中途閉幕となり残存マスターは全て消去される。
「一つ余計な情報もあるがな。あの三下め」
「どの道あの羽虫共は余が殺さねばならぬ相手だ。探し出す手間が省ける」
単純な脳細胞で羨ましいなどと口にすればまた先刻の焼き直しになりかねないので、その言葉は喉の奥に留めるとして。
とはいえベルゼバブの言うことも一理あった。
大和としても皮下らは早急に撃滅しておきたい相手である。
霊地の情報を知って迂闊な気持ちで飛び込んでくる他の、ベルゼバブの言葉を借りるなら羽虫達を狩ることもできよう。
故に此処で大和達にとって真に重要なのはやはり二つ目の投稿。
先刻ベルゼバブとの論議の中で挙がった界聖杯についての仮説がどうも的中していたらしいという事実だった。
「283プロダクション。恐らく蜘蛛の一匹は潜んでいるな」
峰津院の情報網には当然この二十四時間の間でかの事務所に起こった不自然な動きの話が届いている。
皮下の暴露に曰く283プロダクションには脱出派勢力が結集しているという。
聖杯戦争絡みの暗闘が繰り広げられていることは誰の目から見ても明らかだった。
そしてこのやり口は素人の手付きにしては巧すぎる。
狡知に長ける者がブレインのような形で収まっていなければ不自然な大立ち回りの痕跡が所々に見られた。
「喜べランサー。君に鬱憤を晴らす機会を与えよう」
「…あの皮下なる羽虫が霊地の所在について明かしたことについては如何にするつもりだ?
まさかくれてやるなどと巫山戯たことを言うつもりではあるまいな」
「霊地にはまず私が単独で向かう。十中八九サーヴァントが来るだろうからな、部下では流石に用が足りん。状況が厳しくなれば令呪で君を呼ぶさ」
令呪という言葉を聴くなり殺気を横溢させるベルゼバブだが大和の表情は涼しい。
彼と会話をする上で、いちいちその機嫌に配慮していては話が一切進まないからだ。
大和は既に大分この気難しい従僕の扱い方を心得ていた。
“口にすれば話が拗れるだけだが…令呪は他人から奪うこともできる。
勿論多少の腕は必要になるだろうが、私には関係のない話だ”
令呪による空間転移。
これを活用すれば二つの戦場、二つの状況に同時に関与することができる。
無論令呪は有限のリソースだが、敵を倒して相手から奪えばさしたる問題はないと大和は考えていた。
突如戦場に出現するベルゼバブ。
奇襲攻撃としてはなかなかに非人道的な部類だろう。
「君は283プロの脱出派共を握り潰せ」
「居場所は」
「峰津院財閥の情報網を用いれば大まかな居所の特定は難しくない筈だ。
相手もアイドル、当然何かしらの変装はしているだろうが…芸能人というのは兎に角目立つからな。
目撃談がゼロということはまずない。そしてそこから先は私の手駒達の腕の見せ所だ」
アイドル――偶像。
偶像があるならば、そこには必ず崇拝が生まれる。
蜘蛛がどれだけ完璧な策を講じていようとも。
偶像そのものが放つ輝きを抑え込むことはできない。
そしてそこが彼らにとっての致命的な隙になる。
「今すぐにとは行くまいが、そう長くは待たせないと約束する。
貴様の大嫌いな狡知者達を思う存分虐殺してくるといい」
「…いいだろう、乗ってやる。肩慣らしには丁度いい」
「ただ一つだけ言っておく。もっとも君に対してこれを言うのは釈迦に説法という物かもしれないが」
相手は脱出派の集団。
ブレインに蜘蛛がいるのは確定だろうが、それだけではない可能性もある。
「相手の話には一切耳を貸すな。
恐らく敵はまず交渉を持ちかけてくる」
「羽虫よ」
大和の二の句を待たずにベルゼバブ。
既に興味が失せたらしいスナック菓子の付録を握り潰して言う。
「余がそんな愚を犯すと思うか?」
「…やはり不要な忠告だったようだな。忘れてくれ」
「次はない。貴様の非礼には最早慣れたが、侮りは許さん」
ベルゼバブは蜘蛛の天敵だ。
何しろ話が通じない。
武力での解決もその強さ故望めない。
その彼が向かうことはノアの方舟を目指す脱出派達にとって最悪の結果をもたらすだろう。
「どう脱出するつもりなのかは未知だが…何分実行された場合のリスクは非常に大きい。
本戦もかれこれ二日目だ。取り返しのつかない事になる前に、ケアをしておくとしよう」
絶望が動く時は近い。
蜘蛛の糸を引き千切り。
優しい境界線を踏み荒らし。
無骨な復讐者を蹴散らして。
あらゆる偶像の光を塵と断じて握り潰す。
悪魔(ベルゼバブ)が動く。
東京に、再び嵐がやって来る。
【渋谷区・大和邸/二日目・未明】
【峰津院大和@デビルサバイバー2】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:宝具・漆黒の棘翅によって作られた武器(現在判明している武器はフェイトレス(長剣)と、ロンゴミニアド(槍)です)
[道具]:悪魔召喚の媒体となる道具
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり
0:283プロの脱出派勢力の居所を探る。大まかな当たりが付いたらベルゼバブを派遣する。
1:ベルゼバブを動かせる状況が整ったら自分は霊地へ偵察に向かう。
2:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員
NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます
3:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています
4:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです
5:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です
6:白瀨咲耶、
神戸あさひと不審者(プリミホッシー)については後回し。炎上の裏に隠れている人物を優先する。
7:所有する霊地の一つ、新宿御苑の霊地としての機能を破却させました。また、当該霊地内で戦った為か、魔力消費がありません。
8:リップ&アーチャー(シュヴィ・ドーラ)に同盟を持ちかけました。返答の期限は、今日の0:00までです。
9:
光月おでんは次に見えれば必ず殺す。
10:逃がさんぞ、皮下
【備考】
※皮下医院地下の鬼ヶ島の存在を認識しました。
【ランサー(ベルゼバブ)@グランブルーファンタジ-】
[状態]:極めて不機嫌、疲労(小)、胴体に袈裟の刀傷(再生には時間がかかります)
[装備]:ケイオスマター、バース・オブ・ニューキング
[道具]:タブレット(5台)
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:最強になる
0:蜘蛛の潜む283勢力を潰す。休息後の慣らしには丁度いい。
1:現代の文化に興味を示しています。今はプロテインとエナジードリンクが好きです。また、東京の景色やリムジンにも興味津々です。
2:狡知を弄する者は殺す。
3:青龍(カイドウ)は確実に殺す。次出会えば絶対に殺す。
4:鬼ヶ島内部で見た葉桜のキャリアを見て、何をしようとしているのか概ね予測出来ております
5:あのアーチャー(シュヴィ・ドーラ)……『月』の関係者か?
6:セイバー(継国縁壱)との決着は必ずつける。
7:ポラリス……か。面白い
8:龍脈……利用してやろう
【備考】
※峰津院大和のプライベート用のタブレットを奪いました。
※複数のタブレットで情報収集を行っています。
※大和から送られた、霊地の魔力全てを譲渡された為か、戦闘による魔力消費が帳消しになり、戦闘で失った以上の魔力をチャージしています。
【追加備考】
※龍脈の秘術の要となる方陣を、東京タワー(港区)とスカイツリー(墨田区)に用意しております。大和が儀式を行う事で、凄まじい魔力プール並びに強化ツールとなり得ます
※上述の儀式は徹底して秘匿されており、また現状に於いては大和レベルに術が堪能でなければ逆に発動する事すら難しいかも知れません
※界聖杯について、最後の主従以外の全員を殺さねば願望器として機能出来ない程に、頼りないのではないかと考察しております
※1日目夜9時を目途に、動画配信サイト上に、新宿御苑に医療スタッフと炊き出しの為の地質調査部門のスタッフを派遣する旨と、遠回しに皮下医院が新宿での事件の黒幕である事を示唆する動画を投下しました
時系列順
投下順
最終更新:2022年05月02日 23:30