――ねえ。

 それでも綺麗だと、囁いてくれますか。

 それでもまだ、未来を信じていいですか。

 それでもわたしに、帰る場所はありますか。



朝比奈覚と川尻早人がスクィーラの鬼謀を食い止めた頃
地上では、なおも戦いが繰り広げられていた。


「がああああああああああああああああ!!!!ローザ!!おまえだけはゆるさん!!!!!」


クッパは猛然と突進してくる。
何のひねりもない、真っすぐ走るだけの突進だ。
だからといって、それが簡単に攻略できるという訳ではない。
まっすぐ進んでくる蒸気機関車を、人間の手で止められないのと同じだ。


「させないわ!!」

しかし、真っすぐな突進と言うのは得てして横からの攻撃に弱いものだ。
クリスチーヌがクッパ目掛けて、頭突きを見舞う。
この殺し合いではよくあることだが、今のクッパは『ものしり』で出来る範囲を超えている。
既存の情報を捨て、今の状況から最適解を見出さねばならない。
誰彼構わず暴れている状況は、カゲの手に堕ちたマリオを彷彿とさせる。
だが、特定の誰かに明確な殺意を持って暴れている様子は、マリオのそれとは異なる。




「魔王に対する度重なる狼藉!!もはや一片の慈悲もないと知れ!!」


デマオンは両手で魔力を溜める。
黒い手から閃光が迸り、両手の間に集まって行く。
それがいつの間にか竜を形成した。
魔法の力の竜は、大口を開けてクッパに襲い掛かる。


「じゃまだあああああああ!!!!」


しかし、素人の戦い方とは時に玄人の裏をかく。
クッパはあろうことか雷の竜の真ん中に突っ込んでいき、正面から鉄球で砕いたのだ。


「ガアアアアアアア!!!」


当然の話、チェーンハンマーが金属である以上は、その雷撃はクッパにも伝わる。
炎の熱さとは違うエネルギーの躍動が、クッパを飲み込む。
しかし最早痛みを感じることは出来ない彼には、どうということはない。
魔法竜の中を突っ切るという予想外の行為を成したクッパは、持っていると痺れて邪魔なチェーンハンマーを投げ捨て、走り続ける。
すかさず、彼のボディーにクッパの身体がめり込む。


「ぐぬう……」

不死の術が失われているこの空間でも、魔王の生命力は並の人間より数倍上だ。
一発突進を貰ったぐらいで気を失うことも、ましてや即死することもない。
だが、陣営の前線が崩されたのは事実。


邪魔な壁を吹き飛ばしたクッパは、ローザを引き裂こうと突進する。
ここまで距離を詰められれば弓矢も意味が無いし、ホーリーは詠唱時間が長すぎる。
プロテスでダメージを軽減しきれる相手でも無い。


彼女が想い人の後を追おうとしたその瞬間
奇跡は起きた。


「ふんぬううううううう!!!!」

彼女も会ったことのある老兵が、その間に割り込んだ。
その力のタネは、『仁王立ち』。
伝説の英雄として、何十年も人間を守り抜いてきたメルビンにとって、ローザ一人守ることなどどうということはない。


「どけええええええええええええ!!!!!」


人間であるメルビンの身体は、魔族の王であるデマオンより小さい。
だというのに、全く先へ進むことが出来ない。


「今でござる!!リンク殿!!」
「でやあああああああ!!!!」


メルビンの後ろから、緑帽子の青年が跳躍し、クッパに斬りかかる。


「ぐうううううう!!」


顔面を切られ、うめき声を上げるクッパ。
ここへ来て理性を取り戻したわけではない。
彼の身体が、痛みを最早誤魔化しきれない所まで来ているのだ。


「メルビンさん!」
「ローザ殿も、無事でよかったでござる。キョウヤ殿も息災でござるよ。」

そして、メルビンと共にいたのは、ローザとクリスチーヌが求めていた青年。
彼のマスターソードの力、そしてローザの魔法の力で、首輪を解除するのが予定だ。
パズルピースは揃いつつある。
だが、揃いつつあるがまだはめる瞬間ではない。
それは、クッパを倒してからだ。


「地球人よ、奴から離れろ!!」


デマオンは早速、新たに参戦したばかりの兵士に指示を出す。
リンクからしても、彼はおおよそ正義に与する者とは思えない見た目だったが、とりあえず言う通りにした。


彼の魔法で、クッパを吹き飛ばす。
クッパ自身も、もう限界が近づいていた。

完全に予想外の援軍だったが、デマオンにとってこれは天祐だった。
前線に立つリーダーではなく、今度は司令塔として動き始める。


「新たに来た地球人共は、ツノガメの相手をしろ!!ローザは奴等に結界魔法をかけろ!
ワシはあのエセ紳士を追う!!付いて行きたい者は来い!!」

なんでお前が指揮を執ってるんだよという雰囲気が辺りに漂う(特に新規参戦組)。
だが、それが最適解なのだと、僅かな者を除いて各自判断した。

「ちょっと待ってよ!ハヤト君やサトル君は!?」


味方が増えたことで、誰もがいなくなっていた二人のことを気遣う余裕が出来ていた。
ローザはデマオンに、状況のことを尋ねる。


「奴らは自分のすべきことを為した。」
「え?何言ってるの?」
「うるさい!きさまらも自分のことをやれ!!」


デマオンはローザを振り切り、そのまま吉良を追いかけるために東へ向かう。
その後を追うのが、クリスチーヌだ。


「ふむ。あの時とは違いついて来るか。」
「残念だけどクッパはわたしの知識が役に立たない。悪いけどそっちに向かうわ。」

魔王と女子学生、立場も生まれも違う相手だ。
とはいえ、図書館で手を取り合い、悪辣な主催者を共に破ろうとした間柄だ。
一度は部下をすべて失った経験をしたからか、どことなく頼もしさを覚えた。


「なるほど。デマオン軍の文官を勤める決心がついたという訳か。」
「なんでそうなるのよ……。」

さらに、その後をのび太も走って来る。


「わしを信じるというのか?」
「信じるよ。朝比奈さんも助けてくれたんだ。」


本当はのび太はこの殺し合いで、色んな相手と友達になりたかった。
それは元の世界で悪人だった者とて例外ではない。
だが、その願いは叶わず、それどころかすでに友達だった者達まで失ってしまった。
こんな形で、仲間が1人増えただけでも良かったと思っていた。
勿論、彼を仲間として認めたくない気持ちもまた嘘ではない。それでも、信じてみようと考えた。


「わしは戦力になるならそれで構わん。ならば向かうぞ。地球人の足の遅さに合わせてはかなわん。」

のび太を念力魔法で持ち上げ、そのまま走りだす


「う、うわああああああ!!」
「振り落とされるな!!」

激しい空気抵抗を全身に受ける。
遊園地のジェットコースターに乗った時と似たような感覚だ。


デマオンに連れて行かれるその途中、一瞬見えたものがあった。
前にいた時は無かったはずの、大きな穴だ。
あの辺りに覚がいたことから、彼がやったことなのだと推測できる。
なぜそれをやったのかは、クッパとの戦いで夢中だったのび太には分からない。
だが、彼が自分のなすべきことをしたのだと、感覚で分かった。



クッパの鉄球が、リンクを襲う。
だが、チェーンハンマーの持ち主は、どのような軌道で襲ってくるか熟知している。
そして、武器としての弱点も。


――参の奥義 背面斬り

横っ飛びに鉄球を躱し、すかさず地面に転がり込む。
その勢いで鉄球が戻って来るまで、背後まで回り込む。
クッパの背中は甲羅で覆われているが、その隙間、甲羅と尻尾の間を斬りつける。

全身を固い鎧に覆われ、大きい身体を活かして戦いを挑んでくる。
チェーンハンマーのリンクの前の持ち主、ハンマーナックと戦い方が酷似していた。
ゆえに、打開策も見出しやすい。
攻撃をしてきた瞬間、背後へ回り込み、すかさず尻尾の付け根の部分を斬りつける。



「ばくれつけん!!」

そしてクッパの前面では、神の手の称号を持つ老兵が、連撃を打ち込む。
超接近戦を行う相手には鉄球は通じないため、ファイヤーブレスで焼き払おうとする。


「ぬがぁ!?」

不意に、クッパの足元が爆発した。
リンクがクッパを斬りつけたついでに、水中爆弾をセットして、爆発させたのだ。


「ファイガ!!」


さらにそこへ援軍がもう一人。
地中からルビカンテが現れ、すかさずクッパに火球を当てた。


「ルビカンテ!?」

かつてゴルベーザの手下として、2度も戦った相手がこんな形で出てくるとは。
ローザは驚いていたが、リンクは頼れる仲間との再会に頬を緩める。


「遅いぞ。」
「仲間を置いて先へ行ったお前が言うな。」

文句を言いながらも、リンクに加勢する。
早速炎の爪を右手に付け、その先からは炎が燃え盛っている。



(わがはい……まえにも……ほのおのたま……だれだっけ?)

不意にクッパを頭痛が襲った。
白黒の世界に、一瞬映ったのは、赤い男。
ルビカンテのことではない。
その顔を思い出すと、腹立たしいような、懐かしいような気分になる。
でも、その名前が誰なのか分からない。
そもそも、なぜ自分はローザに対して殺意を抱いていたのかさえ、忘れてしまった。


「ホーリー!!」


かつて敵対していた者の援護に驚くも、味方が増えたことで、余裕が出来たローザは強力な魔法の詠唱を始める。
今こそ、闇に捕らわれた怪物を解き放つ、魔法を唱える瞬間だ。
ローザが両手を掲げると、穢れ一つない白銀の光球が天に昇る。
空高くまで走ると、クッパの頭上で弾け、光の雨が降り注いだ。


「があー―――――――――っ!!」


防御する暇さえ与えられず、聖なる光はクッパを焼き払う。
だが、彼らの攻撃はそれで終わりではない。


「お主に怨みは無い……だが、ワシらに害を及ぼすのを止めぬなら、致し方なし!!」


メルビンは大剣を鞘に収め、両手で十字を斬る。


「聖なる十字架よ。悪鬼を貫け!!グランドクロス!!」


神の加護を受けた戦士が祈りを込めたその瞬間、輝く十字架が現れる。
長十字を象った光線は、ついにクッパを貫いた。




乱戦に乗じて吉良吉影は、東へ向かっていた。
暫くの間走り続けていたが、戦乱の音が小さくなってくると歩き始める。
まずは休憩をたっぷり取り、戦乱の音が止んだ辺りでトドメを刺しに行こうと考えていた。

ザックから水の入ったボトルを取り出し、一気に飲み干す。
体育の授業の後の水分補給のように、身体中に水が行き渡る清涼感を感じる。
しかしのどを潤すと、今度は腹の虫が目を覚ましてくる。
すぐにパンを取り出し、全部食べた。
暴食は健康の敵だと信じて疑わない吉良だが、消費したカロリーからして、全部食べても構わないと思った。
血糖値が回復するのを感じる。糖へと変化したデンプンが、身体中を行き渡る。
先の戦いで、社会人の過剰労働とは比べ物にならないほど体力を消耗した。


身体を見ると、スーツはボロボロで、新しいものを新調せねばならない。
おまけに酷く怪我を負ったものだ。ろくに眠りもしないで長時間過剰労働したのもあり、身体の内側はそれよりも碌でもないことになっているはずだ。
風呂に入り、この世界の空気を洗い流し、それからホットミルクを一杯上がりたいところだ。
ストレッチはする必要はない。そんなものとは比べ物にならぬほど激しい運動をしたため、きっと泥のように眠ってしまうだろう。
まだ終わっていないのに、そんなどうでもいいことを考えてしまう。


歩きながら考えていると、不意に寺で見た、美しい少女の絵を思い出す。
彼女はまだ生きているのか。
生きているのなら、是非土産代わりに『お持ち帰り』したいなと考える。
色々と碌でもない目に遭ったので、土産の1つぐらいは貰っても構わないだろう。


だが、そんなことを考えている間にも、追跡者の魔の手は迫って来ていた。




魔王が全力で疾走する。
既に片足の怪我は、白魔導士により完治していた。
殺人鬼が逃げた東へと、仲間を2人連れて駆ける。
方向からして、次に昇る太陽をその手で掴むかのような勢いだった。
実際にこの世界は影に閉ざされ、太陽を掴むことは出来ないが、それでも彼らは走る。
勝利という名の太陽をその手でつかみ取るために、北風のように激しく疾駆する。


「いたぞ!あそこだ!!」


その先に見えたのは、太陽をつかみ取るまでの壁、吉良吉影だ。
壁とは言われても、その実はガラスのように見えにくく、土塊のように柔らかい。
それゆえ下手に硬いだけの壁より、壊すのは厄介だ。


「奴の召喚する霊の、右手には気を付けろ。触れれば最後、爆発させられる。」


のび太とクリスチーヌにかけていた念力を解除し、魔王はさらに加速する。
怨敵をこの手で滅殺するために、魔界星の頂点、デマオンが追う。
殺人鬼は逃げる。死地を走破し、その先にある安寧を掴むために生き続ける。


――コッチヲ ミロ!!


キラークイーンの左手から、爆弾型スタンドが現れる。
人の数が減った今こそ、満を持して主人を守るために現れる。
全力疾走したため、体温が上がった魔王目掛けて襲い掛かる。
それを目にした魔王が、ほんのわずかに足を遅める。この局面で小細工を弄するか。
そんなものすべて打ち払ってやるとばかりに、突風魔法を使う。
吹っ飛んで行く小型爆弾だが、暴風が止むとすぐに戻って来る。


「立てよ!火柱!!」


明後日の方向に炎が立つ。
それで吉良を焼くのではなく、温度に反応する爆弾型スタンドを追い払う誘蛾灯代わりにする。
戦い続けた先の局面でなお、乱れることなく魔法を使えるというのは、人間を凌駕する魔王である証左か。


「動かないで!」


のび太も銃を構える。弾丸残り一発。
確実に敵に打ち込む瞬間を伺う。


デマオンの右手が、黒く輝く。
その力が、路傍に転がっている岩に集まる。


「岩よ、雷となり、地球人を打ち砕け!!」


何度目か、邪精霊降臨術を使う。
吉良はシアーハートアタックを引っ込め、キラークイーンで邪悪な岩の精を打ち砕く。
破片が吉良のスーツを傷付けるが、彼はなおも涼しいままだ。
現状を軽視しているわけではない。この苛烈極まりない現状を乗り越えようとする、覚悟の表情だ。


「ここまでだな。わしの手をここまで焼かせたドブネズミのような精神を湛えて、一つだけ聞こう。
平穏な生きざまを望むのならば、なぜ同胞の人間を殺す?地球人らしく手を取り合って草食動物のように生きればよかろう!!」


一度地球人に敗れ、この世界に来て、様々な地球人に会って来た。
だが、その中でも吉良吉影という人間は、極めて異色な存在だった。
自分たち悪魔族のように平然と人を殺すのに、求めているのは地球人にありふれた安寧だ。
デマオンは様々な人間にこの世界で出会い、会話を交わし、共に戦った。
食料か征服対象でしか無かった彼らに興味を抱き始めたからこそ、矛盾した存在に疑念を抱いた。


その言葉を聞いた吉良は。ふっと笑った。口元に柔らかな笑みを浮かべた。
大乱戦の、その最終幕には到底似つかわしくない表情だ。
それさえも罠ではないかと、デマオンは勿論、のび太やクリスチーヌも警戒する。


「簡単な話だ。手を見ればいい。自分の「爪」がのびるのを止められない人間がいるだろうか?」

これも罠の内かと考え、困惑しながらも彼らは敵を警戒し続ける。
特に爪が生えてないクリボーであるクリスチーヌは猶更だった。


「いない…誰も「爪」をのびるのを止める事ができないように…持って生まれた「性(さが)」というものは誰もおさえる事ができない…
どうしようもない…困ったものだ。」


吉良の言うことは至極真っ当である。
どんな人間で在れ、環境や遺伝に関係は無く、揺りかごから墓場まで生まれついての性癖と共存せねばならない。
貧民街出身だから、親に虐待を受けたから。そんな理由とは関係なしに、時としてそれはラフレシアのように悪臭を放ち、周囲に害を及ぼす。


「わたしは人を殺さずにはいられないという『サガ』を背負ってはいるが………私はそんなものに屈指はしない!!何があっても性と共に幸福に生きてみせるぞ!!!」


幸福追求権は、前世で徳を積んだから、人を助けたから、そんな後天的な理由で得られるものではない。
生まれついて、万人が共通して承っているものだ。
人だけではない。魔族にも、クリボーにも。
求めるのは自由だが、そのために他者の幸福を踏み躙れば罰せられる。



「奇遇だな。わしも同じことを考えているよ。なのでわしの目の前の幸福のために、きさまには死んでもらおうか!!」
「ドカン!」

デマオンの咆哮と共に、吉良は空気弾を発砲する。
既に魔王の手を焼かせた、爆弾と化した空気弾だ。


真っ先に狙われたのは、のび太だった。
デマオンも厄介ではあるが、その取り巻きが何をしてくるか分かったものではない以上、優先的に殺そうとする。


「そうは行くか!」
「やめろ!!」

銃弾を空気弾目掛けて放つ。
空気の塊ならば、銃弾を当てれば風船のように割れると考えてのことだ。
だが、のび太の予想は外れることになる。
キラークイーンの能力で固定化されている空気弾は、本来のものより動きは遅い。
だが、攻撃力は格段に上がり、それ以上に破壊し辛い。
刃物のようなもので真っ二つにしても、分かれた状態で迫り来るし、壁で塞いでも隙間を塗って来る。


――コッチヲミロオ!!


さらに魔法の炎が消えた瞬間、シアーハートアタックが、これ見よがしに迫って来る。
狙いは勿論、発砲したばかりで熱を帯びているのび太の拳銃だ。


十把一絡げと、デマオンは突風の魔法で空気弾と爆弾型戦車を吹き飛ばす。
その隙に、クリスチーヌが吉良本体に頭突きを見舞う。
この最中に、『ものしり』で相手のことを調べ、33歳の仕事はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のない男と解説している暇はない。
それをするぐらいなら、攻撃に転じた方が良いと彼女も判断する。
だが、キラークイーンの左手に阻まれ、本体にダメージを与えることは出来ない。


「くっ!」

キラークイーンのパワーは、クレイジーダイヤモンドやスタープラチナと言った強力な力を持つスタンドで、初めて破ることが出来る。
逆に、パワーより攻撃回数が重視されるクリスチーヌの攻撃では、到底太刀打ちできない。


「今、援護す……しまった!!」


のび太が続けざまに発砲しようとするが、銃弾が出ない。
カチ、カチと何度か引き金を引くが、結果は同じだ。
先程の一発で、使い切ってしまった。


「ええい!使えぬ奴らめ!!下がっておれ!!」


業を煮やしたデマオンは落ちている岩に魔法をかけ、飛ばす。
しかし、その一撃も空しく、キラークイーンに殴り飛ばされる。
攻撃を悉く凌がれる。
傷付けることは出来ても、殺すことが出来ない。近いように見える勝利への旗が、どうにも遠い。
何度も似たような魔法を使っているため、相手が慣れてきているというのもあるが、それが原因ではないような気がしてきた。


早人は自分が吉良を倒せなかったのは運命が彼に味方しているからと言った。
最初は下らぬと鼻で笑ったデマオンだが、ここまで攻撃が当たらないと、そうも思いたくなってしまう。


「きゃっ!?」


不意に爆発が起こる。
一番近くにいたクリスチーヌが悲鳴を上げた。
爆発自体は大きくはないが、彼女に確実にダメージを与えた。


「おっとそこだったか。今さっき砕いた破片の一つを、キラークイーンのスタンドで爆弾に変えておいたんだよ。」

今のは吉良の牽制攻撃のようなものだ。
自分の攻撃が相手の反撃につながり、ひいてはそれが仲間を傷付けるから攻撃するなという脅迫だ。

「この吉良吉影、自分で常に思うんだが強運に守られているような気がする……あの時あのピンクの髪の女の子が盾になってくれたようにね。
さあ次は誰が私の不幸を肩代わりしてくれるのやら。」


「地球人風情がわしを脅迫するなど……笑止!!」


再びデマオンは岩に魔力を集める。
邪悪な岩の精は、空気弾を吹き飛ばすも、再びスタンドによって打ち砕かれる。


「チンカラ・ホイ!!」
「な!?」

しかし、その瞬間だった。
粒のサイズまで砕かれた岩の破片の1つが、吉良の右肩に突き刺さった。


予想外の痛みに、スタンドで破片を爆発させるタイミングを逃してしまう。
消し飛んだ破片による攻撃。
それはのび太の物体浮遊術と、射的で培ったノウハウによるもの。
銃弾が無いのなら、銃弾のようなものを代わりに使えば良い。
そして、先程クッパを躓かせた時に身についたコツを利用した。
下手に動かない物体を動かそうとするより、動いている物のベクトルを少し弄ってやればいいと考えた。


彼の拳銃の元の使い手も、吉良と同じスタンド使いであった。
とあるギャングのスタンド、セックス・ピストルズと似たようなやり方で吉良を攻撃するのは、何かの縁か。


「これで良かったんでしょ。」
「ふん。まあ及第点といった所か……。」


緊張感が襲う中、なけなしの魔力を物体に注ぎ込んだため、身体を疲労が襲った。
だが、それは達成感に伴う、心地よい疲労。
たとえ魔王だとしても、仲間と協力するのはいいものだと感じる。


「あ、あの一瞬で話し合いもなしに!?あの二人、本当に敵同士だったの!?」


魔王の魔法からの少年の離れ業を、クリスチーヌは口をぽかんと開けて見ていた。
彼とデマオンは敵同士だと、図書館にいた時に聞いた。
だというのに、今戦う二人は、息の合った仲間そのものだ。
そうだとしか思えなかった。


「立てよ、火柱!!」


続けざまにデマオンが魔法を放つ。
激しい熱気が吉良吉影を襲う。
さらに頭突きを見舞うのはクリスチーヌだ。


「ドカン。」

彼女に目掛けて、爆弾化の空気弾を撃ち込もうとする。

「チンカラ・ホイ!!」


だが、それをのび太が跳ね飛ばす。
屋根まで飛んだシャボン玉のように、空気弾は明後日の方向に飛んで行く。
例え爆弾となっても、空気弾は空気弾。女の子のスカートよりも軽い。
魔法に関しては小学校1年生より劣るのび太でも動かせるのは自明の理である。
3人の力が、少しずつ吉良を追い詰めていく。
誰が言ったか。悪に味方する運命など、正義の心に比べればちっぽけな力だと。


「武器が切れたか。これを使え。」

デマオンはザックから何かを取り出す。
それは、小さいケースに入った銃弾だった。

「きさまが持っている武器は、これが必要なのだろう?本当はあのハヤトという地球人に渡すつもりだったがな。」
「え?あ、ありがとう。」

予想外の相手から予想外なものを受け取り、のび太はデマオンに感謝する。
すぐにケースを開け、銃弾を補充する。


「それと前から一つ聞きたかったことがある。きさま、魔法世界の住人ではないな?」
「え?」


のび太が使っている銃は、明らかに魔法世界の理とは相容れぬ武器だ。
より多くの時間や知識があれば、発明できるというものではない。
例えばのび太たち科学世界の住人が、原爆やそれ以上の力を持った兵器を発明しても、魔法の杖を発明できないのと同じ原理だ。


「そうだけど……。」

その言葉を聞くと、デマオンはニヤリと笑う。
(やはりか。わしの楽しみがもう1つ増えたという訳だな。)


この殺し合いが終われば、自分たちが望んでいた地球のみならず、科学世界も征服できる。
普通に考えれば到底収まり切らない壮大な野望を胸に、再び片手に魔力を込めた。


(この、クソカスどもが……)


じわりじわりと土俵際へ追い詰められていくことは、吉良にも分かっていた。
目の前の壁を避けても避けても、いつの間にか避けきれずに追い詰められていく。
だが、のび太たちの側にも勝利のビジョンは見えてきているが、なかなか見えない。
なぜなら、近付けば爆弾にされる可能性があり、遠ざかれば爆弾入り空気弾の餌食になるからだ。


「さて。わしの野望の為に、まずはあの目の前のエセ紳士を処刑せねばな。」
「あの猫耳の幽霊が厄介ね……。ノビタくん、デマオンさん、作戦が1つあるわ。
2人ともまだ戦える?」
「うん。まだ大丈夫だよ。」
「部下の癖にいらぬ気遣いをするな。まだ何日でも戦えるわ。」


クリスチーヌが頭脳を回転させ、作戦を練る。


「ドカン」

早速、空気弾が再び迫り来る。
亡き友の道具を悪用されてたまるかと、空気弾目掛けて銃を放つ。
だが、先程やったように銃を当てても爆弾にされた空気弾は飛んでくる。


そして銃弾も、その先でキラークイーンの拳で弾かれてしまった。
跳ね返ってきた銃弾と空気弾は、デマオンの竜巻魔法で吹き飛ばす。
だが、それも吉良には当たることは無い。
銃弾は外れ、空気弾の導火線は彼のスタンドが握っている以上、吉良の近くで爆発することは無い。


「岩よ、雷となり、地球人を打ち砕け!!」

すっかり馴染みのものとなった魔法を、吉良に打ち込む。
それは彼のスタンドの前では役には立たないことは判明している。
だからこそ、吉良から外れる形で撃った。


「なっ!?」


またしても、吉良を弾丸が貫いた。
跳弾だ。
のび太は明後日の方向に飛んで行った岩を銃で撃ち、跳ね返った弾丸が吉良の脇腹を貫いた。
スタンドが敵を守っているというのなら、守備範囲の外から攻撃すればいい。


「上手く行ったようね。」


彼の悲鳴と出血に、作戦の成功をかんじて彼女は歓喜する。
今の作戦は、マリオとの冒険中に身体を回転させ、攻撃を跳ね返す彼の動作から思いついたものだ。
飛んで行く岩を使えば、銃弾の軌道を変えられ、敵を予想外な方向から攻撃できるのではないかと連想した。
かつてはのび太を死の淵へと追いやった技が、今度は彼を助けるとは何の因果だろうか。



「あり得ない……この吉良吉影を、ただのちっぽけな小僧が追い詰めるなど……。」


血がだらだらと流れる傷口を押さえ、吉良は呻くように言葉を発する。


「遠くからチマチマ打ち合っても、埒が明かん。出せ、貴様の召喚魔を。」


デマオンはずいと前に出る。
勝負を決めるは、たった一撃のクイックドロウ。
魔王が射るか、暗殺者が刺すか。
どちらも西部劇のガンマンがするような勝負に向いている職業ではない。
だが、まっすぐ歩こうとしてもいつの間にか曲がって歩いていることになるこの殺し合いの世界では、そんな常識など通用しない。


「キラークイーン 第一の爆弾!!」


スタンドの人差し指が、天を仰ぐ。
瞬間、指は地面を突く。


「!!」

魔王はすぐに魔法を出そうとするも、一手遅れた。
爆弾へと変えられた地面は、轟音を出し、もうもうと砂煙を上げる。
それで敵を殺せるほどダメージを与えられるわけではないが、視界は確かに奪われた。


――コッチヲ 見ロ


砂煙の真ん中から、機械音が聞こえる。
すかさずデマオンは強風を起こし、シアーハートアタックごと砂煙を払う。
煙が晴れた瞬間、吉良が見せたのはその背中だった。


「おのれぇ!この期に及んで!!」

吉良の姿は、既に小さくなっていた。
追おうとする3人に、爆弾スタンドが迫って来る。
奴を逃がしてしまえば、どんな被害が出るか分かったものじゃない。
意地でも彼を逃がすまいと、魔法を撃つ。
しかし、右手からはただの黒い煙が出た。
無尽蔵かと思われたデマオンの魔力も、ついに限界が来たのだ。
再び魔法を放つためには、人間達と同様、適度な休憩か魔力を回復する薬が必要だ。



「くそ……当たれえ!!」


敵スタンドが迫ってくる中、のび太は一発の弾丸を放った。
彼は吉良を殺したい訳ではない。
ただ、悪として裁かれて欲しいとは思っている。
だから、足を狙って撃った。



敵を振り切ったと確信し、吉良吉影は今にも笑いそうになる。
興奮のせいか、傷口が開いたが、そんなことは関係ない。


彼の後方から、銃声が響いた。
足に痛みが襲う。
けれど走れなくなるほどではない。


やはり運命は、吉良吉影に味方している。
そう思った瞬間だった。



「私はー―――」



不意に、彼の右足が踏みしめた地面が崩れた。





誰も知らない。

ましてや、吉良が知る由もない。


なぜなら、その穴を作った人間は、既に死んでしまっているから。


誰が分かるだろうか。その地面が、脆くなっていたことを。
かつてその地面は、東方仗助という少年が、スタンド能力で闇に堕ちた英雄を埋葬した場所だ。
そこから赤帽子の英雄はすぐに出ることが出来た。
だが、その地面はマリオという構成要素を無くしたため、元の地面と大差ない姿をしていても、脆くなっていた。


そして、のび太に脚を撃たれたため、バランスを崩した吉良は。
頭からその地の底に落ちた。
彼を追いかける少年の手によって、スタンドを出す間もなく墜ちていく。



「消えた……。」


不意に彼の姿が見えなくなったと思ったら、爆弾スタンドは影も形も残さず消えた。
死んだと考えるのは妥当かもしれないが、彼のことなので、安易に死んだと思えない。
ゆっくり、ゆっくりと彼を追いかける。


「どういうことだ……。」


近くには小さな穴が開いており、吉良はその中心部で倒れていた。
首があり得ない方向に曲がっていることから、即死だと確認できる。
のび太の拳銃による失血死ではなく、どう見てもそれが原因だ。


「ふざけるなよ……。」

吉良はその言葉に応えない。ただ、笑っていた。
あまりのあっけない死にざまに、デマオンも開いた口が塞がらなかった。


「勝手に死ぬ権利が、貴様にあると思っているのかあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


魔王の怒声が、空しく木霊する。
戦いには勝った。勝ったというべきなのかは疑問だが、誰も死んでいないという点においては、確かに勝った。
それでも、彼を自分の手で裁きたかったという気持ちは残った。
散々振り回されたデマオンは勿論のこと、彼とさして関わっていないのび太やクリスチーヌも同じことを思った。


(笑えるものだ。地球人との約束を反故にした己に対し、これほど腹が立つとはな。)

決戦の前に、デマオンは早人に約束しろと言われた。
たとえ死んだとしても、自分が奴を必ず裁くようにと。


乾いた笑いが、静かな空間に響いた。



[吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 死亡]
[残り 12人]



【E-8 西 夕方】



【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:ダメージ(特大) 魔力 0
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:割り切れない気持ち
1.………。




【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】

[状態]:ダメージ(中) 疲労(特大) 決意
[装備]:ミスタの拳銃(残弾5)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品 替えの銃弾×5
[思考・状況]
基本行動方針:覚と共に脱出する
1.勝ったことを、覚に報告しに行く。



【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:HP1/5 空しい気持ち
[装備]:なし
[道具]:基本支給品@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説 マリオの帽子 ビビアンの帽子 グリンガムのムチ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士 ビビアンの基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済み) クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品(×0~1 確認済)
[道具]:基本支給品×2(マリオ、セシル) 
[思考・状況] 
基本行動方針:首輪解除のヒントを見つける
1.脱出のカギになるリンク、ローザが心配










眩しい光に焼かれたクッパは、気づけば知らぬ場所にたどりついていた。
そこにあったのは、光に満ちた階段と、真っ暗な通路。
ふと、クッパが長きに渡り求めていた、優しい声が聞こえた。


「クッパ……」


それは、心が壊れても追い求めていた女性の声。
彼がいたのは、あの世への入り口だった。


「ピーチ姫か!?」


怪物の両目から、涙が出た。

「ありがとう。」

彼に応えるかのように、ピーチは笑顔を見せる。
それは、クッパがピーチを攫っている時には見せなかった笑顔だった。


「どんなことがあっても、私のことを覚えてくれていて。」


「………!!」

その笑顔に対し、クッパが見せたのは、硬い表情だった。

「あなたがやったことは許されないかもしれないわ。けれど、それでも私は嬉しかった。
向こうでも、私を捕まえてくれない?」

思わず、想い人の待つ上への階段へと向かいそうになるクッパ。その顔には晴れやかな笑顔が浮かんでいた。
だが、クッパは初めて、彼女の綺麗な手を振り切った。

「え?」

ピーチは驚いた表情を見せる。


「ワガハイは、許されぬことをした。だからそのケジメをつけねばならん。」


クッパは来た道を引き返し、真っ暗な道を選ぶ。
それは、散々いいように弄ばれ、悪事を重ねてきたクッパへの、最後の贖罪の機会かもしれない。
ここでピーチの所へ行くのは簡単だ。だがそれをしてしまえば、最後の最後まで弱さから逃げたことになる。
楽な方へ、楽な方へ歩いていくなど、大王には似つかわしくない行為だ。
そして、もう、彼は操り人形ではない。思考を停止し、誰かの思うが儘にしか動けない愚かな亀ではないのだ。

彼は、魔王として、自分の意志で進み続けるしかない。
その結果、最愛の人の笑顔に目を背けることになったとしても。


それは戦いの終わり(End of Fight)に非ず。
まだ彼には、戦うか終わるか(End or Fight)の選択肢が残されている。




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最終更新:2023年04月16日 13:39