リディアの世界の究極黒魔法、メテオ、そして彼女が右手に持っている星屑のロッド。
それにカゲの女王の魔力を継ぎ足し、最凶で最後の魔法を作りあげた。
光の世界に生きる者達が、異なる世界の力を結び付けて、さらなる力を作り出したというのなら。
カゲの女王もまた、異なる世界の力を組み合わせて、力を得たのだ。
それは魔法ではなく、災害と言った方が正しいかもしれない。
まともに受ければ、7人は塵も残さず消えてしまうだろう。
8の世界を生き抜いてきた者達にとって、その命を吸い取れば代えがたい食料になる。
灰にしてしまえば、その力を喰らうことが出来なくなるため、これまで使わなかった。
天に、何か禍々しい光が見えたと思ったら、隕石が降り始めた。
もしここまで、メルビンが生き残っていれば、ゴルベーザがメテオを使った時の惨状を思い出しただろう。
「何だよ……これ……。」
覚は、今までにない絶望を前に、そんな言葉を口にした。
廃墟と化し、異形が蠢く東京の地下を地獄呼ばわりして、奇狼丸に甘いものだと言われたことがあった。
だが、この場を地獄と呼んでも、怒る者や笑う者はいないだろう。
正気を保てるだけで、称賛を受けても良いぐらいだ。
せめてのび太だけでも呪力で逃がそうかと思ったが、制限されている中で、それも難しそうだ。
「やっぱり……ダメだっていうの?幻想の世界にしかいることを許されないの?」
この技は、クリスチーヌも見たことが無かった。
もしあれば、マリオ達は全滅していただろう。
ビビアンがいれば影に隠れて事なきを得たかもしれないが、無いものねだりをしても意味がない。
辺りを見渡そうにも、安全地帯など到底見つかりそうにない。
いくら頭脳を回転させても、敗北という答えしか見えてこない。
「ホーリー!!」
隕石が覚とのび太を潰そうとした時。
ローザの究極白魔法が、隕石から身を護る盾になった。
何とか九死に一生を得るも、降って来る隕石は1つではない。
紫の炎に包まれた隕石が、次々と空から降り注ぐ。
「ふん。最後の最後で何をするかと思えば、その程度のこけおどしか。」
デマオンは両手を掲げた。右手には巨大な炎が、左手には凄まじい雷が宿る。
魔王の最終奥義、闇の波動ではない。
魔法をある程度学んだものなら人間でも出来る、結界術だ。
デマオンは魔力の大半を、その結界に注ぎ込んだ。
太陽の光の差さぬ天空に、血のように真っ赤な六角形の魔法陣が浮かび上がる。
「デマオン!?」
「あの隕石は地球人共では止められん!!今のうちに奴を倒せ!!」
次々に隕石が降り注ぐが、デマオンの魔法が止める。
魔王の力を、全て込めた結界だった。
最後に使ったのは、不死の術を覚えるより前のことだっただろう。
余り使い慣れた魔法ではないので使ったことは無かったが、隕石だろうと、少しぐらいなら止めることが可能だ。
「みんな!行くわよ!!」
クリスチーヌの言葉に従い、残った全員が攻撃をする。
デマオンの結界は2度は作れずで、ローザは既に魔力が残り少ない。メガザルを使えたメルビンは既に死している。
この攻撃に失敗すれば、たとえ隕石の雨を耐えきったとしても、勝機は完全に無くなる。
タイムリミットはデマオンの結界が壊れるまで。もって30秒と言った所か。
まさに背水の陣だ。
全員が走って行く。今度はデマオンやクリスチーヌの指示に基づいた、機能的な動きではなく、シンプルこの上ない全軍突撃だ。
リンクが、キョウヤが、ローザが、クリスチーヌが、覚が女王へと走って行く。
「デマオン……。」
他の者が走って行く中、のび太だけは彼の近くにいた。
「聞いて欲しいんだ。少しだけでいい。」
デマオンは言葉を返さない。聞こえていないのか、返答する余裕さえないのか。それとも地球人の言葉など聞くに値しないとするのか。
「この戦いが終わったらさ、地球に遊びに来なよ。」
デマオンは徹頭徹尾、のび太が言った友情を拒絶した。
自分が友情と言ったものは、全て必要だから仕方なしにやっただけのことだと一蹴した。
だが、のび太はどうにもそうだとは思えなかった。
いや、たとえデマオンの言ったことが正しかったとしても。
どうにかして本当に友達になれないかと思っていた。
「ジャイアンやスネ夫やしずちゃんにも紹介してやるからさ。実は僕の恩人だったって。」
さっさと女王を殺しに行けとでも言われるのかと思いきや、不思議とデマオンは何も言わなかった。
「のび太!そんなこと言ってる場合じゃない!!」
一人だけ走ろうとしないのび太を、覚は案じる。
「だから、一緒に帰ろう!!」
覚の呪力に引っ張られながらも、のび太は魔王に話し続ける。
彼らは結局知らないことだが。ひょっとすればデマオン本人でさえ知らないかもしれないが。
デマオンの表情が、ほんのわずか綻んだ。
「どこまでも、度し難い馬鹿者だ。」
のび太たちが魔王に背を向け、走り出した後。
デマオンはどこか馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
よりによって、侵略者たる自分に、侵略先で友達にならないかと言って来たのだ。
まさかこの期に及んで、ここまで愚直な人間だったのは。
魔界だったら、10になるまでに100回死んでもおつりがくるだろう。
だというのに。
不思議な気持ちよさが、デマオンの胸の内を包み込んだ。
「そこまで言うのなら、是非ともこの場を生き抜いて、わしがその理想を砕いてやろう。」
彼がそう呟いた瞬間、魔法陣に小さなひびが一つ入った。
□
リンクを先頭に、戦士たちは残された時間、決死の攻撃を仕掛ける。
再び女王を守ろうと、大量の小さい手が立ちはだかった。
「どけ!!」
今度は、じっくり倒している時間はない。
最前線にいたリンクは、ザックからPOWブロックを出し、地面にたたきつける。
激しい地震が起こった。
本来とは違った使い方だが、それでも女王の手を動けなくさせることが出来た。
ついでとばかりに、矢が切れたローザに、弓ごと矢を渡した。
今のリンクには、矢は必要ない。マスターソードと、その身を護る盾があれば十分だ。
草でも刈るかのように、地面で怯んでいる手を斬り払い、女王の下にたどり着く。
「そうはさせぬわ!!」
隕石が降り注ぐ中でも、女王は魔法の詠唱を始める。
何度も見た黒い雷が、リンクに襲い掛かる。
今度はクリスチーヌの合図に合わせて躱すことは出来ない。
邪魔な女王の手が、そこら中にあるからだ。
それをキョウヤが割って入り、リンクの盾になる。
バズーカの弾丸が切れた中、出来るのは不死の力を活かした盾ぐらいだ。
「こんな……こと……そんなにするもんじゃ……ないけどな。」
彼のことを慮っている間ではない。
こうしている間にも、デマオンの結界の崩壊は進んでいる。
「リンク!!受け取れ!!」
覚が呪力の炎を、マスターソードに纏わせる。
マスターソードに宿る光が、2つになる。
「愚かな!!」
だが、カゲの女王の紫の吐息が、リンクに吹きかかる。
それ自体に殺傷力はさほどでもない。だが、この場で時間を稼がれるには、この上なく厄介な技だ。
必死で踏ん張り、吹き飛ばされないようにする。
頭上から、ひっきりなしに爆音が鳴り響く。
既にデマオンの張った結界は、半分以上壊れている。
「エスナ!!」
ローザの白魔法によって、混乱の追加効果も防げた。
だが、剣に纏った炎が吹き消されてしまった。
このままでは、例え敵に斬撃を入れたとしても、倒せる可能性は低い。
さらに、女王の両手が現れる。
リンクの回転斬りで巨大な手を一つ切り伏せ、もう片方の手は覚の呪力の炎が燃やす。
それでも一手遅れることになった。
勿論、その一手が、極めて致命的な遅れだとは言うまでもない。
「星よ。雷となり、偽りの女王を打ち砕け。」
そこで攻撃に入ったのは、まさかの魔王だった。
無の空間では、邪精霊降臨術が使えない。
だが、ここで敵が落とした隕石に、邪悪な魔力を宿したのだ。
魔力は結界を張るのに使ってしまったが、まだ少しぐらいは撃てる。
「デマオン!」
覚が声を上げて、彼が結界を張っていた方向を見る。
流星群を全て受けようとした影響か。片目と片方の角が折れ、口からは血を零している。
片手で結界魔法を唱え続けているためか、片手の鋭い爪は、全て剥がれていた。
それでも、結界を維持し続けようとしていた。
「馬鹿者が!!早く奴にとどめを刺しに行くが良い!!」
リンクより少し離れた場所に、小型の隕石が、結界の隙間を縫って落ちて来た。
その破片が、リンクの身体に小さな刺し傷を作る。
だからと言って、今さら立ち止まる訳にはいかない。
マスターソードの刃が、ついに女王に届いた。
後に続いて、クリスチーヌも頭突きを女王に撃ち込もうとする。
「その程度か……蹴散らしてくれる!!」
「ぐわっ!!」
「きゃっ!!」
だが、凄まじい魔力の逆流が、リンクとクリスチーヌを吹き飛ばす。
8の世界を全てのみ込もうとする女王だ。いくらマスターソードと言えども、簡単に倒せる相手ではない。
そして、ついに結界が壊れた。
まずは最初に、天から降り注ぐ炎がデマオンを飲み込む。
隕石の数は大分減ったが、それでも7人を飲み込むぐらいは残っている。
「星よ……いかづちとな……り………ちきゅう人を……まも……れ……。」
魔王は炎に飲まれながらも、隕石の破片に全身を貫かれながらも、最後の精霊術を、降り注ぐ隕石の1つに送った。
それを飛ばし、残った隕石を砕く。
死に瀕してなお、魔法を使い続けることが出来るのは、魔王としての矜持か、生命力か。
「おちよ……みずばしら………。」
地面に落ちる炎を、水魔法で消していく。もう邪精霊降臨術は撃てない。
それでも大分小さくなってしまった水龍が、炎を飲み込んでいく。
隕石を全て壊した瞬間、魔王の視界がかすみ始めた。
魔法を使った時に熱を帯びた手を除いて、全てが冷たくなっていく。
破壊と滅亡のエネルギーと、正面から向かい合ったのだ。
白魔導士の回復魔法では、もはやどうにもならない。
地球征服もしておらず、このまま志半ばで死ぬ。
だというのに、不思議と死への恐怖も、未練も無かった。
ただ、無事だった戦士たちの背中を見続けていた。
(らしくないことをしたものだ……)
当然の話、人間よりも悪魔と、長く多く生きて来たというのに。
最後に見るのは、不思議なことに2人の地球人の顔だった。
何一つ力を持っていないというのに、自分でさえも倒せなかった男を倒そうとした少年。
そして、元々愚直だとは思っていたが、その愚直さを貫き通した少年。
「応えて見せよ……地球は、わしが征服すべき素晴らしい場所だったと…。」
長い間、デマオンの遠い祖先が地球を求めていた理由は、豊かな資源や食料だと思っていた。
だが、もしかすると。
地球を求めていた理由は、そこに生きていた者達の底知れぬ強さ。そしてその者達との共存ではなかったのかもしれないと。
最も、そんなことを今更考てもどうにもならないが。
(……皆で、地球を………。)
たった一人で数百年を生き続けた不死の魔王は。
勇者と共に戦う一人の戦士となり。
永遠の命を捨て、代わりにかけがえのない友を得た。
【デマオン@のび太の魔界大冒険 死亡】
【残り 7名】
「しぶとい奴らめ!!」
「まだ……終わってたまるか!!」
吹き飛ばされたリンクは、なおも斬りかかって行く。
一度は戦い抜くという気持ちを奪われてしまった。だからこそ、命尽きるまで戦おうとする。
「馬鹿め。何度やっても同じこと……。」
再び、魔法で近づく者達を吹き飛ばそうとする。
カゲの女王が違和感を覚えたのは、リンクの手の甲の光だ。
3つに連なった三角形が、3つとも黄金の光を帯びる。
(力が……満ちていく……)
――今こそ、私の力を貴方に譲ります。
――お前に一度だけ力を貸してやろう!!我を破ったというのなら、この程度の影ごとき切り捨ててみせよ!!
勇気、知恵、力。
始まりの勇者の時代を除き、決して交わることの無かった黄金三角形(トライフォース)が、1つになった。
黄金の光は、止め処なく輝いて行き、カゲの世界をも照らす。
「おのれ……おのれ……おのれえええええええ!!!」
全身に焼けるような痛みを覚え、女王は耳をつんざくような悲鳴を上げる。
「これで……終わりだ!!」
今までで一番の力が、リンクの左手に宿る。
右足を踏み出し、それを軸に、一回転。腕だけではない。背筋と遠心力まで味方した上での、回転斬りだ。
これまでの奥義のような、特段素晴らしいものではない。始まりの勇者から、様々な勇気の証の持ち主の間でずっと使われてきた一撃。
リンクはずっと、失ってきたことで悩んできた。
だが、この瞬間、彼の心から迷いは消えた。
黄金の光を纏った一撃が、女王の胴体を切り裂く。
「や……やった!!」
ローザは、思わず声を出してしまった。
だが、その歓声を突き破る轟音が響いた。
女王が蘇った時のような、ごうごうと竜巻が現れた時のような音だ。
「ぐあっ!!」
「ま…だ……じゃ……。」
黒い竜巻でリンクは吹き飛ばされる。
女王はまだ生きていた。
呪力の回復量を大幅に超えるダメージを受けたが、それでも皮一枚つながった。
「わらわは……おわらぬ……カゲですべて……のみこむまで……。」
女王は両手を掲げ、闇の流星群を呼び出そうとする。
あの技をもう一度使われてしまえば、今度こそ全滅は間違いない。
リンクはすぐにもう一度斬りかかろうとするが、もう間に合わない。
ローザの矢では、女王の詠唱を止められるほどの威力を出せない。
「まだよ!!」
「ドカン!!」
のび太が空気砲を打つ音が聞こえる。
放たれたのは空気の弾丸だけではない。
隕石を放った女王の意趣返しであるかのように、クリスチーヌという名の流星が、女王目掛けて飛ぶ。
「受け取ったぜ!のび太!!」
さらにそれは、覚の呪力で加速する。
かつての女王の力の源がスターストーンで在り、同時に敗北のきっかけもスターストーンであったように。
今の女王の力の源も、『異世界の特異点』であると同時に、最大の弱点も特異点たる、クリスチーヌとなったのだ。
だが、女王は既にその攻撃を見抜いた。
闇の流星の詠唱を中断し、雷の魔法で打ち落とそうとする。
その魔法は出なかった。
――クリスチーヌ、覚。女王の動きは止めた。今だ!!
そこに響くのは、瞬の声。
リンクの一撃によって、意思を取り戻した瞬の呪力が、女王の動きを止めた。
これで、彼女を邪魔する者は誰もいない。
「いっけえええええええええええええええええええ!!」
もう、彼女が幻想でしか生きられないクリボーではない。
英雄の影でしか生きられない弱者でもない。
邪悪な女王を討つ、新たな英雄だ。
今度は仲間を守りたい。
彼女が胸の中で、真に叶えるべき望みを願った。
たとえいなくなったとしても、彼女の胸の中には赤帽子のヒーローがいる。
「カゲの女王よ。消えなさい!!」
それは、紛うこと無き奇跡の一撃。
女王が胎内にいた、消えることの無かった少年は、その一撃を境に消えていく。
如何なる毒や災害でも死ぬことが出来なかった彼は、ついに、消えることが出来た。
「ありがとう、みんな。」
青沼瞬という、一人の少年の優しい声は、クリボーの少女にだけ届いた。
クリスチーヌの攻撃は終わることは無い。
彼女は1人ではない。
8つの世界で生きた勇者の、戦士の、呪力使いの、少年の、少女の、能力者の、スタンド使いの、そして魔王の想いが、彼女についている。
ついに、一匹のクリボーが、世界をカゲに包み込んだ女王を貫いた。
「ふたたび……この世によみがえったというのに………。」
その言葉を最後に、巨悪は完全に消滅した。
【カゲの女王@ペーパーマリオRPG 死亡】
最終更新:2023年06月03日 12:06