最初に音が消えた。
そして影が消え、闇が消えた。
辺りに広がっていたのは、カゲの世界ではなく、色や形を取り戻した空間だった。


「……ローザ……みんな、助けてくれたの?」


最初に声を出したのは、女王の依り代とされた女性だった。
それは、女王が完全に消えたことの証左。


「リディア!!」


ローザは涙を流しながら駆け寄る。
身体に傷らしいものは見られない。奇跡だろうか。

「ど、何処か痛くないの?」
「大丈夫よ。それより助けてくれてありがとう。」


のび太と覚に、虚脱感が襲い、同時に尻を付いた。


「もしかして……」
「やったぞ……勝ったあああああああああああああああああ!!!!!」


朝比奈覚は、喉が枯れるのも承知で叫ぶ。
床に大の字になって転がったままなので、なんとも締まりのない有様になってしまった。


「やったんだな……俺達……。」
「イリア……ゼルダ……ルビカンテ……アルス……ミドナ……。終わったよ……。」


いつもは感情を露わにすることの無いキョウヤも、涙ぐんでいた。
リンクは空に向かって、この殺し合いで死した仲間の名前を呟く。
彼らは、勝利したのだ。世界を守ることが出来たのだ。


「そうだ……デマオンは……。」

のび太はすぐに立ち上がり、友になった者の所へ走る。


「ねえ、目を……開けてよ!!」


人間が友というにはあまりにも強大だった存在は、今はどうしようもなく終わっていた。
闇の炎に包まれたためか、のび太が初めて見た時よりも随分小さくなっていた。
誰がどう見ても、死んでいると分かってしまう。
それでも、少年は声をかけ続けた。


「勝ったんだ!僕達は勝ったんだよ!!地球は守られたんだ!!」


爪の剥がれた手を、のび太は掴む。
焼かれた死体だというのに、酷く冷たかった。
彼がいくら大声を出しても、魔王は応えない。
その手が握り返されることもない。


「だからさ、一緒に帰ろうよ!!」


ぽたりと落ちた熱い雫が、デマオンの身体を濡らした。


「僕さ、ドラえもんや美夜子さんがいなくっても、強くなって……。友達になってさ……」


仲間となった魔王の死骸の前で、泣きじゃくる。
その態度は、巨悪を滅した人間とはとても思えない。いや、小学5年生の子供らしいと言えばらしいのだが。


「お前なんか怖くないって、思いっきり笑ってやるつもりだったのに………!!」


冒険の果ての別れは、慣れているはずだったのに。
しかも相手は、生きていれば敵になるかもしれない魔王だったというのに。
ただただ、胸が苦しかった。




「うわ!」
「た、助かったんですか?私達!?」


無の空間から、突然キーファとミキタカは現れた。
女王が死んだことで、彼女が作ったカゲの檻も消えたということだ。


「ミキタカ!キーファさん!!」
「その様子は……勝ったんだな!!」


その時、激しい振動が辺りを襲った。
秩序を壊された世界が、元に戻ろうとしていたのだ。
死んでいった命を除いて、無かったことになろうとしている。



「お、おい、どうするんだ?これ?」

キーファは早速慌て始める。
折角敵を倒したというのに、世界が壊れてしまえばどうしようもない。


「ボスキャラを倒したら壊れるタイプの建物か…ゲームではよくあったが、本当にあるとはな……。」
「キョウヤさん!感心してる場合じゃないわよ!!」
「と、とにかくここから出よう!!」


何のことかも分からず、キーファの後を追う。
もう動くことは無いデマオンを連れて帰ろうとしたが、そののび太を覚が引っ張る。
部屋を出た所にあったのは、空の棺と、のび太が良く知っている秘密道具だった。


「これは……もしもボックスじゃないか!!」


のび太が魔法世界を冒険し、美夜子や満月博士、デマオンと合うきっかけになった道具。
もしかすると、8つの世界がつながった理由も、これかもしれない。
そう思ったのび太は、急いでボックスの中に入る。


「元の世界に……戻れ!!」


しかし、それはママにゴミ捨て場に捨てられた時と同様、壊れていた。
別世界から女王を復活させた際に、魔力を浴びたことが原因か、地震のあおりを受けたのが原因か。
勿論、のび太の声にも反応しない。


「いつもドラえもんの道具は、肝心な時に役に立たないんだから!!」

そして、女王が封印された場所も、崩れていく。
カゲの女王と戦った部屋は、もう戻ることは出来ない。


「まだだ!もう少しついて来てくれ!!」
「え?ここのことじゃないの?」


キーファが連れて行った先にあったのは、かつてザントに連れてこられた石板の間だ、
地図など読んでいる余裕など無かったが、奇跡的にたどり着くことが出来た。


「ここは?」
「オレたちはこの石板を通じて、色んな世界に行ったんだ。もしかすると、ここからなら脱出できるかもしれない。」


誰もその場所を知らない。似たような場所を見たこともない。
不思議と、誰もが懐かしい気分になった。
何故かは分からないが、それぞれの帰り道が分かった様な気がした。


「ここも、崩れそうだ……。」
「どうすれば帰れるんだ?お前さん、忘れたとか言わないよな?」
「え、えーと、とにかく、真ん中をのぞき込めばいいんだ!!」


生き残った者達が、それぞれ異なる石板の隣に立つ。
恐らく、全員でいられる時間は、もうあまり残されていない。


「みんな……」


ずっと黙っていたリンクが声を出した


「こんな所で、こんな目に遭って、大切な人を失ったけど……俺、みんなに会えてよかったと思ってる。
ここを出ても、仲間でいて欲しい。」


凛々しい瞳から、涙を流しながらそう言った。

「当たり前だろ!どんなに離れていても、オレたちは親友だ!!」
「また会えるために、ずっと長くいきてなきゃな。早季や他の仲間のためにもな。」
「今度は会う時は、トニオさんって所のレストランでお食事でもいかがですか?」
「バロンに帰ったら、セシルと同じくらい勇敢な戦士がいたってことを伝えるわ。」
「私は、帰ったらあったことをまとめなきゃね。クリフォルニア大学の論文にしようかしら。」
「お前さんたちのことは、ずっと忘れないよう、記録しておくつもりだ。」
「私はあなたたちのことは良く分からない…けど、助けてくれたことだけは忘れないわ。」
「……僕達、色んなことあったよね……色んな人と戦ってさ……友達になってさ……何か上手く言えないけど……ありがとう!!みんな!!」




その言葉を最後に。
皆が自分たちの世界に帰って行く。



表裏・バトルロワイヤル 終了



生還者



【野比のび太】、【ローザ・ファレル】、【小野寺キョウヤ】、【朝比奈覚】、【クリスチーヌ】、【リンク】、【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】




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最終更新:2023年06月22日 00:35