とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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とある授業の社会見学     序―2  

上条当麻がインデックスに頭を丸齧りされているのと同じ頃、当麻の通っている学校の職員室で、担任である
小萌先生は机に向かって何やら作業をしているところであった。
パソコンの画面に学園都市の地図を読み出したり、プリンターで出力した資料にチェックを入れたり、さらに他
の資料をコピーしたり、それらを分厚いクリアファイルに閉じていったりと中々に忙しそうである。
さらに、小萌先生の身長は一三五センチ程なので、机からコピー機や資料の棚に移動する際にも、一手間余
計に掛かってしまう為、輪をかけて小萌先生の動きは慌しいものとなっている。
そんなふうに動きまわっていると、職員室の扉が開いて一人の教師が入ってきた。
「ありゃ、月詠センセ、まだ学校に残ってたの? 相変わらず仕事熱心じゃん」
入ってきたのは黄泉川愛穂という名の教師である。
ちなみに、彼女の担当教科は体育であるために年中のほとんどをジャージで過ごしている。ジャージを着てい
るのがもったいないくらい美人でスタイルの良い大人の女性なのだが、今日も今日とて、またジャージを着て、
長い黒髪を後ろで軽く縛ったラフな格好をしている。
「あ、はい。明日のための準備をですね、まだもう少ししておこうと思ってるのですよ」
「ふーん。…っと、センセ、プリントが一枚落ちてるじゃん」
軽い足取りでプリントを拾うと、小萌先生に手渡そうとする黄泉川。その際見えたプリントの内容に思わず疑問
が口をついて出る。
「んん? 社会見学祭に出展予定の全企業・グループ、研究機関の全リストと活動内容、及び、学園都市内外
両方の活動施設場所? センセ、こんなの一々全部調べてたら時間なんていくらあっても足りるわけ無いじゃん」
「そうは言ってもですね。うちのクラスの生徒さんはいろいろと手が掛かる子が多いのでこうやって調べておか
ないと心配なのですよ。それに、こうやって調べておけば何かあった時も行動が取りやすいと思うのですよ」
その答えに、
「そんなもんかねぇ…。センセのところの生徒さんたちはかえって何かあった時なんか、クラスがまとまって臨機
応変に対応できそうな感じがするじゃんよ。ウチのは普段の生活はそつなくこなせるけど突発的事態には向い
てない無難な優等生ばっかで、センセのとこみたいにはっちゃけてる奴はいないんじゃん」
などと気楽そうに返す黄泉川。
「なっ、う、うちのクラスの子たちだって、皆が皆そんなにはっちゃけてる子ばっかりじゃありませんよ!」
そんな黄泉川に対して迫力のない目で睨み付けながら小萌先生は反論しているが、対する黄泉川はあっけら
かんとしている。
「まあまあ、どの先生でも自分の預かってる生徒さんたちはかわいく見えるもんじゃん♪」
「なっ、何を言ってるんですか!」
顔を真っ赤にして叫ぶ小萌先生を楽しそうに見ていたが、ふと真面目な口調で呟く。
「まあ実際、こんなウチでも預かってる子どもらは可愛いわけで。だからこうやっていろいろと準備をしちゃうわ
けなんじゃん」
見れば、彼女はいつの間に出してきたのか大型のスポーツバッグを足元に置き、他にも色々と道具を手に取
りながら別の袋に詰めている。
「それは……」
「明日の社会見学祭は一応、企業側のデモンストレーションで学校側はそれを見学するだけ、イベントの裏側
には積極的には関わらないってことだけど、何があるか分かんない以上、ウチとしても出来るだけの準備をし
ておこうって思ったんじゃん」
気遣わしげな小萌先生の視線に気付くと、照れくさそうに笑う黄泉川。されど、その言葉、その瞳にふざけた色
は無い。

そう、明日は学園都市が年に数回外部に向けて公開する内の一日。
外部からの関心、興味も高いが、それは生徒の側も同じ事。
日頃から学園都市の中だけで生活している身としては、外部と接触、交流を図る数少ない機会なのである。
それを期待している生徒たちのためにも、明日は何にも邪魔されずに精一杯楽しんでもらいたい。
彼女が所属している警備員も、そのためにこそあるのだから。

「まぁ、何かあったときはセンセにはウチのクラスの連中も頼むことになるかも知れないから、今のうちにお願い
しておくじゃん」
「ほ、本当は何事もなければ一番なのですよ!」
「そりゃそうだ! こりゃセンセに一本取られたかな!」
心配する小萌先生を見て、不安を吹き飛ばそうとするかのように明るい声を出す。
わざわざ不安要素を前面に出す必要は無い。事が起こったら起こったとき。先のことが分からない以上、その
とき自分にできる事をやればいいのだと。
「それじゃウチはこれで失礼するじゃん。センセもあんまり遅くまで準備で残って、明日の朝寝坊しないように気
を付けなきゃだめじゃんよ」
「なっ、そ、そんなことはしませんよ!」
「あっはっは、それじゃーねーん」
足取りも軽く職員室から出て行く黄泉川。
「もう、まったく…」
それを見送った小萌先生も小さく息を吐くと残っている作業を片付けていく。彼女は彼女、自分は自分にできる
ことをするために…。

「でも、明日は本当に、生徒の皆さんが楽しめる一日になって欲しいのですよ…」

呟きながら見上げる小萌先生の視線の先には雲一つ無い星空。天頂にある月は何も語らず、ただ静かに光を
降り注いでいる。
社会見学祭開催前夜はこうして更けていくのであった……。

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