とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

その2

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「エスコートは私たちにお任せを、とミサカ一〇〇三二号は深々と頭を下げます」
「そう言えば例のアレはもう必要無いのでしょうか、とミサカ一〇〇三九号は思い出して欲しい気持ちを込めて進言します」
 その言葉に3人の注目がミサカ一〇〇三九号に集まる。
「折角購入しましたし、相手は愛玩奴隷と自ら名乗ったので問題無いと思うのですが、とミサカ一〇〇三九号は折角のチャンスを逃すまいと重ねて進言します」
 「アレ」と言う言葉に非常に不穏な気配を感じる上嬢。こう言う時だけ感が鋭かったりするのだ。
「ま、まさか首輪と来たら次は、鎖とか言うんじゃねーだろーな?」
「こんな時だけ鋭いのですね、とミサカ一〇〇三二号は素直に感心します」
「そんなトコ誉められても全然嬉しくねーよ」
 上嬢はぐったりと肩を落とす。
「好きにしろ。ったく、オマエラと言い美琴と言い、ホント私の事何だと思っているのやら」
 愚痴を言いながらもどーぞと首元をさらす。
 そこに、細身の一見ファッション用のシルバーのチェーンを繋ぐ。
「これは単なる悪ふざけで、これと私たちの気持ちを一緒にしないで下さい、とミサカ一〇〇三二号は作業の手を休めずに言います」
「はいはい、解りました解りました。で、他にも何かあるんじゃねーだろーな?」
 軽く流されてショックを受ける御坂妹と妹達(シスターズ)。
 それに気が付かない上嬢は、まだ何か出てくるのではないかとそればかり心配する。
「もう何もありません、とミサカ一〇〇三二号は少し憮然としながら言います。それとも、ネコミミとか、目隠しとか欲しいですか、とミサカ一〇〇三二号は少し意地悪な気分になったので聞いて見ます」
「いや、もう結構でございますよ。これで十分でございますれば――いい加減許してくれ」
 ペコペコと頭を下げて御坂妹を拝む。
「それは残念です、とミサカ一〇〇三二号は少し気分がすっとした事を報告します。それでは、これはミサカ一〇〇三九号に持ってもらいましょう、とミサカ一〇〇三二号はチェーンの先を手渡します」
「大役仰せつかりました、とミサカ一〇〇三九号は恭しくチェーンを両手でしっかり受け取りました」
「こちらの準備もOKです、とミサカ一三五七七号は荷物を持ったことを報告します」
「あ、それは私が持つよ。一応これでも愛玩奴隷ですからねー」
 と言いながら、上嬢はミサカ一三五七七号から荷物を受け取る。
 途端に鞄の重みにズシッと腕が下がる。
「うわ!? 何入ってんだこの鞄随分重い……あぁー解っちまった。ハハハァ――」
「それでは皆さんまいりましょう、とミサカ一〇〇三二号は代表して出発の合図をします」
 その言葉通りにぞろぞろと歩き出す妹達(シスターズ)と上嬢。
(ふ、不幸だぁー……)
 愛玩奴隷と自ら名乗った手前、自分の不憫さを口に出せない上嬢であった。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 その頃、白井は美琴と別れて上嬢を探していた。
「おかしいですわ、おかしいですわ。わたくしと上嬢さんの愛があれば決して探せない事はございませんのに」
 人込みの中を泳ぐように移動しながら、上嬢の姿を探す。
「やはりこの人込みでは無理でしょうか。でしたら――」
 ふっと上方に目を向けると、突然白井の姿が消える。
 そして次の瞬間、建物の上に白井の姿が現われる。
「やはり高い位置から探した方が楽ですわね。日が暮れないうちに見付けてしまわないといけませんですの」
 建物の上から、きょろきょろと辺りを見回し、上嬢が見つからないと解ると、パッとまた別の建物の上に移動して、辺りを見回す。
 そんな事を何度繰り返しただろうか。
「み、見つけましたわ! やっぱり上嬢さんと黒子は赤い糸……で……ぇ!!?」
 白井は我が目を疑う。
 確かにそこを歩く後姿は上嬢である。それは間違いない。
 問題なのは――
「お姉様? しかも3人?」
 『お姉様の露払い』を自称し、病的なまでに美琴を敬愛する白井が美琴を見間違えるはずが無い。
 つーっと緩んだ口元から涎が垂れた。
「ん? じゅる――こ、これは早速に確かめねばいけませんわね。そうですわね、そうしましょう!」
 口元を押さえながら、支離滅裂な独り言を発する白井。
 その姿が瞬時に掻き消え、次の瞬間には件の上嬢達の前に現われたのだった。
「「「「「!?」」」」」
 その場の全員が一斉にギョッとする。
 上嬢は、「し、白井ぃ!?」と腰が引ける。
 御坂妹と妹達(シスターズ)は、
「このツインテールはいつぞやミサカを追い掛け回した女学生!? とミサカ一〇〇三二号は蘇る記憶に戦慄を覚えます」
「お姉様(オリジナル)に只ならぬ思いを抱いていると言う情報もあります、とミサカ一〇〇三九号は役に立たない情報を提示します」
「ここはひとつ愛玩奴隷に頼っては如何でしょう、とミサカ一三五七七号はさっさと上嬢さんの後に隠れます」
 ミサカ一三五七七号の行動を見た、他の妹達(シスターズ)もそれに習って皆上嬢の後ろに隠れる。
 すると、当然上嬢と白井が向き合う事になるのだが。
「お、おい待てオマエラ。いくら奴隷だからって弾除けみたいしていいんですか? ってか白井も落ち着け! コイツ等は美琴じゃねーぞ! 妹だ! い・も・う・と」
 上嬢は必死に白井に呼びかけるのだが、白井の目は尋常じゃない光を湛えている。
「この際どーでもいい事じゃないですか♪ お姉様が3人に、上嬢さんが手に入るんですものぉ~。多少の事は目を瞑ろうってものですわぁ~♪」
「ひぃぃぃ!!」
「それに上嬢さぁん、その首輪にチェーン、上嬢さんにお似合いです。ホントとぉぉぉってもステキですわぁぁあああ♪」
 白井がじりっじりっと近づいてくる。
 上嬢は妹達(シスターズ)を置いて逃げるわけにも行かず、冷や汗を流しながら立ち尽くす。
「このままでは我々は兎も角上嬢さんの貞操が危ういと思うのですが、とミサカ一〇〇三二号は愛する人を盾にしておきながら奇麗事を言ってみます」
「それでは一〇〇三二号あなたが行って来なさい骨はちゃんと拾ってあげますから、とミサカ一三五七七号はわが身可愛さの提案します」
「こんな時に仲間割れしてはいけません、とミサカ一〇〇三九号は役に立たないと知りつつ正論を唱えます」
「「ではどうすればいいのですか!! とミサカは「それならオマエが行って来い!!」と言う眼差しを向けながら代案の提示を催促します」」
 上嬢の背中で、姉妹漫才を繰り広げる妹達(シスターズ)を尻目に、上嬢は覚悟を決める。
「しかたねーなぁ――オマエラさっさと逃げろ。白井は私が何とかすっからさ」

「しかし、それではあなたの貞そ……」
「なぁに馬鹿な事言ってんだ? 女同士で貞操の危機なんてあるわけねーじゃねぇか」
 その言葉を上嬢のうんざりしたような声が遮る。
 所が、その言葉に妹達(シスターズ)は一斉にため息を着くと頭(かぶり)を振って――
「「「底抜けにおめでたいのですね、とミサカは心底呆れながら答えます」」」
「人ぉ捕まえて、おめでたい、おめでたいって、テメエ等ぁ……」
 小馬鹿にされたとキレる上嬢。
 そして忘れられているが、ここにもう一人キレている人――白井が急に怪しげな笑い声をあげる。
「黒子を目の前に密談とはいい度胸ですのね。うふ……うふふふふ……」
「ひっ!? い、いや白井さん、いや白井様、そんな無視するなんて、そんな事する訳ありませんですわよ、おほ、おほほほ……」
 上嬢は顔を引き攣らせながら言い訳の言葉を並べる。
「おしおき、ですわ」
「へ?」
 白井の言葉の意味が判らず、聞き返す上嬢。
「そぉんな悪い奴隷にはおしおきが必要、と申し上げましたのよ、愛玩奴隷の上嬢さん?」
「ひへ!?」
 言うが早いか瞬時に間合いを詰めると上嬢の大きく開いた襟首からしゅっと服の中に左手を滑り込ませる。
 そして満面の笑みを上嬢に向ける。
「うふ、うふふふふ……えい♪」
「ひや!?」
 白井の掛け声と共に、上嬢は急に胸の辺りに違和感を感じて胸元を押さえる。そして――
「な、なな……」
「お探しはこちらですの?」
 白井は右手に握るそれ――白地に同色のレースとリボンが付いた可愛いブラジャー――を上嬢の前に見せる。
「くぅふふふふ……デザインもサイズも上嬢さんらしいですわぁ♪」
「$%&#!?」
 声にならない悲鳴を上げて膝から崩れ落ちる上嬢。
「オ、オマ、オマ……何てことすんだ、この大バカモンのド変態がぁぁぁあああ!!!!」
「あら? これは『愛のムチ』ですの。因みにこれで終わりではありませんですのよォ♪」
「ひぃ」
 白井の言葉に戦慄する上嬢。
 所で、上嬢と同じく白井のターゲットにされていた筈の妹達(シスターズ)はと言うと――
「ここは静観しましょう、とミサカ一〇〇三二号は興奮を抑えながら提案します」
「「右に同じ、とミサカは次の展開に期待しながら一〇〇三二号の意見を尊重します」」
 先程の上嬢を心配する声も何処へやら、ターゲットが上嬢に絞られたことにより危険が無くなったと判断し、目の前で起こるお仕置きを傍観する事を決めたようだ。
 と言うより、上嬢は次に何処を脱がされるのか、その一点に集中しているのだ。
 そんな期待に答えてか白井が動く。
「それでは、上嬢さぁん、次は何処を脱ぎ脱ぎしてみましょうかぁ?」
「うわぁ!? やめっ、御止めになって下さいお代官様ぁ!!」
「うふふふ――良いでわないか、良いでわないか、ですわぁ♪」
 上嬢の不可解な叫びに、ノリノリで相槌を打つ白井。
 その白井の左手が再び上嬢へと触れようとしたその時――乾いた破裂音が響き渡った。
「きゃん!?」
 音と共に白井は短い悲鳴を上げると、上嬢の上に覆いかぶさるように倒れ動かなくなる。
 妹達(シスターズ)は倒れた白井達には目もくれず一斉にある方向を見る。
 そこには、大きく肩で息をしながらこちらを睨みつけている美琴が立っていた。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

「はぁ、はぁ――ま、間に合ったみたいね」
 美琴は荒い息と共に安堵の言葉を呟く。
 彼女も上嬢を探して走り回っていたのだが、ある時特異な電気の流れを感じてこちらに向かってきたのだ。
 その感は正しく、そこには妹達(シスターズ)が居て、何故か上嬢も一緒で、しかも白井に襲われていた。
 きっとまた、妹達(シスターズ)を見て心の箍が外れて暴走したのだろう。
(いつかちゃんと妹達を紹介しないと、一々暴れられては堪んないわね)
 毎回、電撃に打たれる事になる白井も堪らないのだが、美琴にはそこまでの配慮は無いようだ。
 息を整えながら美琴が近づいて来た。
「アンタたち大丈夫だった?」
「お姉様(オリジナル)助かりました、とミサカ一〇〇三二号はもう少し遅くても良かったのにという気持ちを隠しながら、皆を代表してお礼を言います」
 そう言いながら御坂妹はぺこりと頭を下げる。
「へ? は? い、いいって、いいって」
 御坂妹の言葉の意味を理解できなかった美琴は、頭の上にいくつもはてなマークを飛ばしつつも手をヒラヒラさせて、御坂妹に軽く挨拶する。
「――それより黒……ぶっ!?」
 そして、目の前で伸びている白井を抱き起こすが、白井の右手に握られた可愛いブラジャーを見て絶句した。
「こ、これ……これって……」
「あー、私んだ。ちょっと色々あって」
 上嬢が疲れたように右手を上げて答える。
「これ、アン……ぶっ!? へ、アンヒャ……何れ、くヒッ、首ワ……」
「これも色々あんだよ。それより私のブラ返してくれ」
 驚きの連続で言語中枢のやられた美琴に、上嬢はむすっとしながら右手を伸ばす。
「あ、あ、これ、これね。は、はい」
「サンキュー」
 美琴からブラを受け取ると、上嬢は襟からブラを押し込んだ。
 そして、その場で両手をセーターの中に引っ込めてるとそもそし始める。
 どうやら服の中でブラを着けている様子だ。
 広い襟元から中の様子が丸見えなのだが、本人は全く気付く様子が無い。
「同じくらいでしょうか、とミサカ一〇〇三二号は頬を赤らめながら感想を述べます」
「同じくらいだとしても何ら問題ありません、とミサカ一〇〇三九号は力強く断言します」
「同性でも興奮できるのですね、とミサカ一三五七七号はこの気持ちに感動を覚えました」

「ばっ!? ア、アンタたち、な、何言ってんのよ!?」
 それぞれに感想を述べる妹達(シスターズ)に、思わず一緒に見入っていた美琴は、自分の事はさて置き突っ込みを入れる。
「お姉様(オリジナル)は相変わらず自分に正直では無いですね、とミサカ一〇〇三二号は目線を逸らさず指摘します」
「ぬあっ!? 何処までガン見してんのよ! コラコラ見ちゃ駄目ぇ!!」
 白井を抱きかかえがら器用に妹達(シスターズ)を蹴散らす。
「何騒いでんだみんなで?」
「馬鹿っ! ア、アアア、アンタ胸見えてんのよ! さっさとブラしちゃいなさいよ!!」
 状況が全くの見込めない上嬢に、美琴は真っ赤になりながらありのままを伝える。
 美琴には「お姉様(オリジナル)の正直者と、ミサカは――」とか「チッ、とミサカは――」とか聞こえたがあえて無視する。
「んな事言ったってすぐ出来りゃ世話ねーんだよ! そうだ、御坂妹手伝ってくれよ」
「ミ、ミサ、ミサ、ミサカがですか、とミサカはぁぁ……」
 急に白羽の矢が当った御坂妹は、真っ赤になって言葉も満足に発せなくなる。
「やっぱ駄目――」
「いや! いやいやいや! そんな事はありません、とミサカ一〇〇三二号はヤル気満々な所を見せます」
 上嬢が諦めかけた所を遮って御坂妹は慌ててしゃがみこむ。
「んじゃ、悪ぃーな」
 と、上嬢はセーターの裾を広げて、御坂妹の手が入りやすいようにする。
「では失礼します、とミサカ一〇〇三二号は興奮冷めやらぬまま未知の世界に足を踏み入れます」
 するすると御坂妹の手が上嬢のセーターの中に入ってゆく。
 誰かがごくりと唾を飲み込む音がした。
「ひゃ!? コラ御坂妹、私のブラはフロントホックじゃないから」
「し、失礼しました、とミサカ一〇〇三二号は感触を反芻しながら謝罪します」
 妹達(シスターズ)が、「グッジョブ」と親指を立てて御坂妹の勇気を称える横で、美琴がバチリと火花を散らす。
「アンタ達いい加減にしなさいよ。いくら妹達(シスターズ)だからって赦せない事があるんだからね」
 美琴にこんな声が出せるのか――まさに地の底から響くかのような低く押し殺した声に、妹達(シスターズ)のみならず、上嬢の背中にも冷たい汗がつーっと流れた。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

「はー、やっと落ち着いた。サンキュ、御坂妹」
 上嬢はすくと立ち上がって、「んー」っと唸って背伸びをする。
「これくらいお安い御用です、とミサカ一〇〇三二号は笑顔で言葉を返します」
 相変わらずの無表情で答える。
「じゃ、御坂、白井は頼んだぞ。私はこれから御坂いも――」
「待ちなさいよアンタ。もしかしてもう忘れたんじゃないでしょうね?」
 上嬢は美琴と挨拶を交わして立ち去ろうとしたのだが、美琴の声に顔をひくりと引き攣らせる。
 どうやらどさくさにまぎれて、また逃げようと考えたのだが、そう何度も神様はチャンスを与えてはくれなかったようだ。
 鎖で繋がれていては逃げようも無い上嬢は必死に言い訳の言葉を並べるが――
「だ、だからアレは女につけられたっつただろーが! 同性からの『キスマーク』の一つや二つでガタガ……タ……あ、あれ?」
 気が付くと、妹達(シスターズ)までもが冷たい視線を送ってきていた。
「『キスマーク』の件を詳しく聞きたいのですが、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)に説明を求めます」
 ずいっと御坂妹が美琴の方に近寄る。
「いや? 何故そこで御坂に聞――」
「「愛玩奴隷のあなたは黙っていてください、とミサカはきっぱりとあなたに発言権が無い事を伝えます」」
 それに割って入ろうとした上嬢は、残りの妹達(シスターズ)に一喝されて押し黙る。
「愛玩奴隷? は、それで首輪ね」
「な、何もそんな汚らわしいモノでも見るような感じに言わなくても」
 今度は美琴からの冷たい視線と感情を押し殺した声に、凹む上嬢。
「ソイツの右肩辺りに痣があんのよ。それがキスマーク。本人が白状したんだから間違いないわ」
 それを聞いた妹達(シスターズ)は言葉を発せず暫くじっと佇んでいたが、ミサカ一〇〇三九号が急に手に持っていた鎖をぎゅっと引いた。
「ぐえっ!? な、何すん――」
「それはこれと同じものですか、とミサカ一〇〇三九号は苛立ちを隠さず、お姉様(オリジナル)に確認を取ります」
 抗議する上嬢を無視して、上嬢を後から抱き寄せると、器用に手を掛けて顎を上嬢の頭を右に向かせる。
 すると左の首筋が露になり、そこに右の肩甲骨と同じ痣が見えた。
「ア、アンタってヤツはぁぁぁああああ!!!!!」
「わひゃ!!」
 美琴の額から上嬢に向かってズババッと電撃が走るが、右手で辛うじて防がれる。
「み、御坂、な、何怒ってんだ? 私にキスマークがついてて誰が困るってんだよ!!」
「私が困んのよ、この馬鹿ぁぁぁぁああああ!!!!!」
 再び美琴の額から上嬢に向かってズババッと稲妻が走るが、これも上嬢は右手でかわす。

「ま、毎度毎度危ねぇっての解らねぇのかテメェ!! 間違ったら死ぬだろーが!! 大体何でオマエが困ん――ぎゃん!!?」
「な、何?」
 目の前でぎゃあぎゃあ喚きたてていた上嬢が、悲鳴を上げるとミサカ一〇〇三九号の腕の中でぐったりした。
「隙を突けば右手を使う暇もありませんね、とミサカ一〇〇三九号は上嬢さんに心の中で謝罪しつつ報告します」
「アンタ何てことすんのよ!!」
 美琴は表情を怒りから驚きに変えて、自分の事はすっかり棚に上げて、ミサカ一〇〇三九号に非難の声を上げる。しかし――
「お姉様(オリジナル)にそれを言われるとは思いませんでした、とミサカ一〇〇三二号は呆れ顔を隠さずに言い返します」
「そ、それは……」
 言葉とは裏腹に無表情な御坂妹の当然の突っ込みに口篭る。
「それはさて置き一つ提案があるのですが、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)を論破した勢いを借りて進言します」
「ろ、論破って――提案?」
 目まぐるしく変わる状況に振り回されながらも御坂妹に質問の言葉を返す。
「お姉様(オリジナル)も私たちと同じ人を愛する身として、上嬢さんの貞操が守られているか気になりませんか? と、ミサカ一〇〇三二号は実はあんな事やこんな事をと想像しているのを隠しつつ確認します」
「て、ててて、貞操ぉ!?」
 思わぬ言葉に声が大きくなってしまう。
「そう、貞操です、とミサカ一〇〇三二号は何度も貞操と言うのは恥ずかしいなと思いつつもその言葉を口にします」
「恥ずかしいなら言うなぁー!!」
 聞かされる方も恥ずかしいのだろう、美琴が再び叫び声を上げる。
 そんな美琴に構わず、御坂妹が会話を再開した。
「お姉様(オリジナル)には三つの選択肢があります、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)の質問を無視して話を進めます」
「無視すんな、コラ! ――で、選択肢って何よ?」
 美琴は、露骨な無視宣言に突っ込みを入れつつも先を促す。
「一つ、私たちと一緒に来るか、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)がこの提案を採用するのを期待しながら発言します」
「二つ、私たちを見逃してお姉様(オリジナル)は残るか、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)が一つ目をを選ばないならこれがお勧めですと言う気持ちを込めて発言します」
「三つ、私たちを止めるか、とミサカ一〇〇三二号はこれは選ばないで欲しいなという気持ちを込めて発言します」
 結局はどの選択の時も相変わらず無表情な御坂妹だったが、対する美琴はそうはいかない。
 眉間に苦悩の皺を刻みながら黒子をぎゅっと抱きしめる。
 とその時――
「わたくしでしたら、迷わず一つ目を選択いたしますわ」
「「「「!?」」」」
 予期しない所から、予期しない人物の発言に全ての瞳が、気絶しているはずの人物――白井に注がれる。
「ア、アンタ、目が覚めてたの?」
「折角愛しのお姉様が熱く抱擁してくださっているんですもの、何時までも寝てなどいられませわぁ」
 白井は首だけを捻って美琴に微笑む。
「アンタは何時も何時もそればっかりで」
 白井の何時もの調子に乗せられまいと、必死に冷静さを保ちながら美琴は言葉を返した。
 そして、白井の本当の意中の人は誰なのだろう? 私? それともアイツ? それとも全然別に存在するとか? そんな気持ちがふと生まれた。
「ふぅー……ホントの本心ってヤツは一体何処にあんのかしらね?」
 それを深いため息と共に軽い気持ちを装ってぶつけてみる。
「それはもちろん――乙女の秘密ですわ、お姉様ぁ♪」
 案の定の答えが帰って来た――相変わらず白井の気持ちは読めない。
「聞いた私がバカだったわ」
 美琴はふぅーっとまた一つ大きなため息をつく。

「それよりもお姉様はどれを選択なさいますの?」
 急に話を本題に戻された美琴はぎょっとする。
「くっぅぅぅううう――私もアンタたちと行くわよっ!!」
 そして苦悩した後、彼女らに同行する事を決める。ただし――
「た、ただ私はコイツを信用して無いんじゃなくて、アンタたちが、コイツに悪戯するかもしれないから見張りに行くのよ」
(そう! 私には何にもやましい事は無い。無いったら、ぜぇったい無いぃ!!)
 心の中では必死に言い訳している辺りが美琴らしいと言える。
 御坂妹はその事を見透かしたように――
「どうやら決まったようですね、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)は相変わらずお姉様(オリジナル)だなと内心呆れながらも結論を述べます」
 もちろん、そんな事を言われて黙っている美琴ではなかったが、白井から「まあまあ、良いではありませんか」と強引に宥められると、不機嫌さを隠さずにはいたが、それ以上は食い下がらなかった。
 取り合えず美琴を黙らす事に成功した白井は、御坂妹のほうを
「改めましてお姉様の妹さん、わたくし、お姉様のルームメイトの白井黒子と申します」
「ミサカはミサカです、とミサカ一〇〇三二号は戦々恐々としつつも答えます」
「あら? 番号なんて珍しいおなま――」
「く、黒子、アンタは後で説明してあげるから――で、これからどうすんのよ?」
「既にミサカネットワークを介して一九〇九〇号に場所の確保を依頼してあります、とミサカ一〇〇三二号は問題ない事を報告します」
「で場所は?」
「ミサカたちのお世話になっている病院です、とミサカ一〇〇三二号は告げます」
「び、病院!? そんなとこで大丈夫な訳?」
「問題ありません、とミサカ一〇〇三二号はあっさり答えます。あそこの院長はとても寛容です、とミサカ一〇〇三二号はミサカたちの勝手な評価と知りつつも断定しました。ついでに言えば、万が一貞操が失われていた場合都合が都合が良いのでは、とミサカ一〇〇三二号は取り越し苦労であって欲しいと祈りつつも利点を挙げます」
「何よ、都合がいいって?」
 そも言葉の意味を図りかねる美琴に御坂妹は――
「処女膜再生手術と、ミサカ一〇〇三二号は恥ずかしい気持ちを押し殺して答えます」
「バッ!? バカ、アンタ、な、なななな、何言ってんだか判ってんのぉ!?」
「お、お姉様のお顔でその台詞は刺激的ですの」
 盛大にうろたえる美琴と白井だった。
 そしてこちらは御坂妹――美琴の口を付いて出た意味の無い確認の言葉に律儀に答える。
「恥ずかしいと言ったのに何度も言わせるんですね、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)隠れた嗜好に驚きを感じつつ指摘します。処女ま――」
「もぉいいー!! もぉ判った!! だから何度も言わなくていいから」
「お姉様(オリジナル)の了解も得られましたので、でわ参りましょうか、とミサカ一〇〇三二号は話がまとまった事に安堵を感じながら出発を促します」
 御坂妹を先頭に少女たちの一団がぞろぞろと移動を開始する。
 上嬢は、未だミサカ一〇〇三九号の腕の中で目覚める気配も無い。
 果たして、上嬢にはこれからどんな不幸が待ち受けているのだろうか。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


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