とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

その3

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 時を同じくして、ここはとあるアパートの一室。
「うわっ!? あの人さらわれちゃったよ!? ってミサカはミサカは下位個体の行動力に驚いてみたり」
 年の頃は10歳くらいだろうか。
 美琴や妹達(シスターズ)を幼くした感じの少女――打ち止め(ラストオーダー)がソファーの上でぴょんぴょん跳ねながら何か騒いでいる。
 飛び跳ねるたび可愛いワンピースの裾がヒラヒラと翻り、健康的な脚が際どいところまでこれでもかと露出されるがお構い無しである。
 それもこれもある人物を意識しての事なのだが、生憎意中の人は向かいのソファーで毛布を被ってお休み中である。
「ンァ? 誰がさらわれたって?」
 どうやら努力は実を結んだらしく、毛布の中から白い頭が現われる。
 毛布の端を掴む、細い綺麗な指も、その肌も、何処もかしこも白い――一方通行(アクセラレータ)は自分に掛けてあった毛布を剥ぎ取ると気だるげに上体を起こす。
「ンな事よりよォー、なンで一々俺の睡眠を邪魔すんのかなァ?」
 乱暴に頭を掻き毟ると、端整な眉間に深い皺を寄せて、ソファーに仁王立ちする打ち止め(ラストオーダー)を見上げる。
「睡眠不足で俺がどォにかなったらオマエはどォすんだよ」
 まだ抜け切っていない眠気に、少しとろんとした赤い瞳を、両手を腰に当てて見下ろながら、打ち止め(ラストオーダー)は言葉を続けた。
「あなたはこぉーんな大事な時にも寝るのが優先なんだね? ってミサカはミサカはあなたの寝意地の汚さに呆れてみる」
 その言葉に一方通行(アクセラレータ)の片眉が吊り上る。
「あァ? このクソガキィ、だァれのせいでこォーなったのか解ってねェーだろ?」
 言うが早いか、向かい合わせのソファーの中央にあったテーブルに左手を付て身を乗り出すと、右手でがっちりと打ち止め(ラストオーダー)頭を鷲掴みにした。
「――ひゃ!? ここは一つ穏便に話し合おー、ってミサカはミサカは提あ、あわわわ――」
 そして、ぐりぐりと打ち止め(ラストオーダー)の頭を左右に捻るように揺らし始める。
「わぁーっ!! 首がもげるぅー!! ってミサカはミサカは哀れな現状を報告してみるうるる――」
「謝った方が身のためだぞ。で、だァれのせェーで、こォーなったンですかァ?」
 相変わらす、打ち止め(ラストオーダー)の頭をゆすりながらめんどくさそうに声をかける。
「あわわ――ミ、ミサカかもーっ!! ってミサカはミサカは暴力に屈して口を割ってみたりぃぃぃ!!」
 その言葉を聴いて、ふんっと一つ鼻を鳴らすと、一方通行(アクセラレータ)は打ち止め(ラストオーダー)をソファーの上に転がすと、自分もドカッと腰を下ろす。
「で? 興味はねェが、何処のどちらさンがさらわれたンだって?」
 ふんぞり返って天井を眺めながら打ち止め(ラストオーダー)に質問する。
「聞いて驚いて、ってミサカはミサカは勿体つけて――」
「さっさと話を進めろ」
「ちぇ、面白くないの、ってミサカはミサカは拗ねて話をするのを止めてみたり――ってあなたのお顔がとっても怖いの! ってミサカはミサカは気が変わって早速話を再開する!!」
 急にこちらに目を向けられた打ち止め(ラストオーダー)ひくっと一瞬体を強張らせると、言葉通りに早速本題に入った。
「あの人だよ、上嬢当子って人、ってミサカはミサカはあなたのリアクションに期待してみたり」
 満面の笑みを見せる打ち止め(ラストオーダー)を無言で見つめる一方通行(アクセラレータ)。
 そして沈黙の後、
「誰だそいつァ?」
 その言葉に打ち止め(ラストオーダー)がソファーの上から落ちそうになる。
「あわわ!? 危ないっ!! ってミサカはミサカはあなたのリアクションに驚いてみたり!? ミサカの命の恩人だよ! ってミサカはミサカは説明してみる!」
 両手を振り回して熱弁する打ち止め(ラストオーダー)を醒めた眼差しで眺める一方通行(アクセラレータ)。
「命の恩人? 名前からすっと女みてェだけど――」
「『絶対能力進化』の実験の!! ってミサカはミサカはニブチンなあなたに呆れてみたりっ!!」
「『絶対能力進化』……?」

 嫌な過去を思い出して、一方通行(アクセラレータ)の表情が少し曇る。
 忌まわしい記憶。今、目の前に居る打ち止め(ラストオーダー)を含めた妹達(シスターズ)を己の為に蹂躙した日々。
 実験とは言え、クローンとは言え、相手は罪も無い人間――一時はモルモットか人形と思おうとした時もあった――を殺し続ける事一万人以上。
 そんな暗く澱んだ自分の世界に、ある日まばゆい光が降り立った。
 そいつはくだらねェ説教をだらだら垂れ流しながら、澱みの中心で蟻地獄のように他者を引きずり込ンで喰らっていた自分(もうじゃ)と共に彼女たちを光の中に連れ出した。
 自分は結局澱みの中に逆戻りしてしまったのだが。
(あン時ゃ、随分いィもンもらっちまったからなァ。アレから俺ン中で何かが変わったつーか)
 一方通行(アクセラレータ)は懐かしむように自分の頬に指を這わす。
 そう言えばアレから一度も会ってはいないが、噂じゃ随分とご活躍らしい。
 打ち止め(こいつ)も何度か助けられてる。ガラじゃねェーから礼はしねェが、心の中じゃ感謝してる。
「――アイツァ、上嬢当子って言うのか」
 一言ポツリと呟くと、急に一方通行(アクセラレータ)の体が斜めになる。
 そして、そのままずるずるっとソファーの上に横倒しになる。
 最後には打ち止め(ラストオーダー)に背を向けると一言「もう一度寝るわ」と言うと、ごそごそとそこらにあった毛布を手繰り寄せて頭まで被る。
「えーっ!! 何そのリアクション!? ってミサカはミサカはショックを受けてみたり!!」
「あのアマの事ならほっとけ。心配する方がアホらしくなるわ。それより俺ァ――あーあ、誰かさンのお陰で眠ィンだよなァー」
 一方通行(アクセラレータ)の無反応振りに、打ち止め(ラストオーダー)は焦り出す。
「寝ちゃう? 寝ちゃうの? ってミサカはミサカはあなたの行動が理解不能って訴えてみたり!?」
 寝ている側まで来ると、必死にゆさゆさと一方通行(もうふ)をゆする。
「うるせェーなァー。アイツは俺の力なンて無くたって勝手に解決しやがンだよ。で、また新しい仲間とかこさえるンだろ。ハッ、馬鹿馬鹿しくって付き合い切れねーっての」
 一方通行(アクセラレータ)は心底うんざりしたような声を出す。
 ところがそれを聞いた、打ち止め(ラストオーダー)は、ゆするのをピタッと止めると満面の笑みを浮かべて――
「あー、やきもち焼いてるんだぁー、ってミサカはミサカはあなたの心の中を覗いてほくそえんでみたり」
 その一言に一方通行(もうふ)の背中がビクッと跳ねる。
 それでも振り返らないのは本人のプライドもさることながら、打ち止め(ラストオーダー)の性格を知っての事――相手をし始めると際限が無いのだ。
 それでも黙ってはいられなかったのだろう。背を向けたままで静かに反論する。
「――テメェにそンな洒落たスキルがある訳ねェーじゃねェーかよ。ガセぶっこいてっと撒き散らすぞ」
「ふふふ、あなたの心はまだまだ無垢なのねー、ってミサカはミサカはあなたのリアクションに嬉しくなってみたり」
 ポンポンと背中の辺りを叩かれて、何故か赤面する一方通行(アクセラレータ)。
「クソッ! もォぉー寝る、もォー俺は寝るんだから、テメェーは勝手に遊んでやがれっ!!」
「いーもーん、ってミサカはミサカはミサカネットワーク中継の『R15指定 あの人の秘密』のモニターに戻ってみる」
「あ?」
 その一言に一方通行(もうふ)の背中がピクリと動く。
(クソガキ、今なンて言いやがった?)
 微かな動揺に気付いた打ち止め(ラストオーダー)は一方通行(アクセラレータ)に畳み掛けるように話しかけた。
「興味ある? 興味ある? ってミサカはミサカはあなたがエサに食いついたので喜んでみたり」
「寝る」
 一方通行(アクセラレータ)は気になって確認してみようかと思ったが、打ち止め(ラストオーダー)の声があまりにもムカついたので、鉄の意志で不貞寝する。

「おっとぉー、まだ早かったかー、ってミサカはミサカは功を焦らずじっくり責めてみたり」
 腰をすえた打ち止め(ラストオーダー)は、文字通り一方通行(もうふ)の側に腰を下ろすと好き勝手に喋りだす。
「それでは実況してみる! ってミサカはミサカはあなたの興味を引く為にがんばってみる。お、下位個体はヤル気満々だね! ってミサカはミサカは嬉しそうに言ってみたり。うわ! 今のところ計画通りだって! ってミサカはミサカはあの人の事を思い出してちょっと心配してみたり。それにしても下位個体が言う『きせーじじつ』って何だろうね、ってミサカはミサカは寝ているフリのあなたに話しかけてみる」
 一方通行(もうふ)の背中が再びビクッと震えた。
(再びヒットォ!! ってミサカはミサカは心の中で自分の話術に感心してみる)
 内心喜ぶ打ち止め(ラストオーダー)をよそに、エサに掛かった一方通行(アクセラレータ)は背を向けたまま質問をする。
「おい、下位個体って妹達(シスターズ)の事か?」
「そうだよ、ってミサカはミサカは寝ているフリのあなたから返事が来たので喜んでみたり。で、今回の首謀者は、検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号、一〇〇三九号、一三五七七号、一九〇九〇号、それとお姉様(オリジナル)――」
「あ? お姉様(オリジナル)って、まさか第三位の事か」
「――そうだよ? ってミサカはミサカは即答してみる。あと空間移動能力者で白井黒子って人もいるね、ってミサカはミサカは主要人物を全員ピックアップ出来て満足してみる」
「白井黒子――風紀委員(ジャジメント)じゃねェか」
 打ち止め(ラストオーダー)の言葉に常に静かに言葉を返す一方通行(アクセラレータ)だったが、その心中は穏やかではなかった。
「おい、首謀者ってどォー言う事だ? みんなアイツの仲間じゃねェーのか? どォーなってんのか説明しろ」
「興味示した? ってミサカはミサカは嬉しさを隠さず表現してみたり!」
「いいからさっさと話しやがれってンだ、このクソガキ」
「せっかちだね、ってミサカはミサカはちょっと拗ねてみる」
「ラァーストオォーダァー」
 一段と低い声で呼ばれて、打ち止め(ラストオーダー)はぴょこんと跳ねると早口で話し始める。
「え、えっとねぇ、掻い摘んで話すと、あの人の浮気が皆にばれて、皆であの人が『しょじょ』か『ひしょじょ』か調べるんだって、ってミサカはミサカは急いで説明したけど解った? って聞いてみたり。それから『しょじょ』とか『ひしょじょ』って何だろうね、ってミサカはミサカは後でミサカネットワークで調べようと思ってみる」
 ちらっと様子を見るが、一方通行(もうふ)に変化は見られない。
「それからそれから、下位個体は調べた後に『結果の如何によらずあの人をモノにします』って断言してたよ、ってミサカはミサカはこれで報告を終わりにしてみる」
 打ち止め(ラストオーダー)が話の終了を宣言したのを聞いて、ここで一方通行(アクセラレーター)は一つ疑問を口にしてみる。
「いくらなンだって、アイツをどォーやって確保したンだ? いくらなンでも、そんな事に強力するようなタマじゃねェだろ?」
 当然の疑問である。それに対して打ち止め(ラストオーダー)は何を今更って顔で毛布に包まれた背中を見つめる。
「検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三九号が不意打ちで気絶させたらしいよ、ってミサカはミサカはあなたの質問に答えてみる」
「あ? アイツにゃ超能力ならなンでもござれの便利な右手さまがあるじゃねェか。なンで妹達(シスターズ)に――」
「お姉様(オリジナル)と戦ってる時に隙を突いたみたい、ってミサカはミサカは種明かししてみる」

 それを聞いた一方通行(アクセラレーター)の額にピキッ血管が浮かぶ。
(俺をぶち倒したヤツが、隙を突かれただけで、たかだか電撃使いと、その模造品にヤラレちまっただと)
 そして、それ以上にムカつく事は――力ずくで人をモノにしようって言う、実に下種な考え方にだった。
 一方通行(アクセラレーター)はソファーからゆっくりと体を起こすと、爛々と光る紅い双眸を打ち止め(ラストオーダー)に向ける。
 急に睨まれた打ち止め(ラストオーダー)はびっくりして固まる。
「ちょ、ちょっとどうしたの!? ってミサカはミサカはあなたの様子に戦々恐々としてみたり!!」
「オイ、クソガキ、一回しか言わねェーからよォーく聞けよ――ヤツラが向かってる場所は何処だ?」
 その言葉を聴いて、打ち止め(ラストオーダー)は一変にぱぁっと笑顔を見せる。
「えへへ……あなたにチョーカーをくれた病院だよ、ってミサカはミサカは嬉しさを隠さずに言ってみる。で、立ち上がったあなたは何処に行っちゃうの? ってミサカはミサカはわくわくしながら説明を求めてみたりっ!?」
 打ち止め(ラストオーダー)は、立っている一方通行(アクセラレーター)の腕にしがみつく。
 一方通行(アクセラレーター)は腕にぶら下がる彼女を見下ろして、不意にその頭を優しく撫でる。
 突然の一方通行(アクセラレーター)のらしくない行為にぎょっとする打ち止め(ラストオーダー)から素早く自分の腕を取り戻すと、さっと玄関の方に移動する。
 その玄関の方から一方通行(アクセラレーター)は打ち止め(ラストオーダー)に声をかける。
「急用思い出したわ。それからそォ言う教育上良くねェーモンは見るンじゃねェよ。大体、R15じゃテメェの歳じゃまずいだろォがよ」
 その言葉が終ると共にバタンと玄関の扉が閉まる音がした。
(まァ、すぐに放送は終わりになるからかんけェーねェか)
 玄関を出た一方通行(アクセラレーター)は、首のチョーカーに手を当てると、目の前の渡り廊下の柵にひょいと飛び乗る。
 その身のこなしから、どうやら能力を全開にしているようだ。
「随分とまァ、愉快な事してやがンだなァーアイツラは。平和ボケ? するにはまだまだ世の中賑やかだと思うンだけっとなァ」
 そして徐々に夜が支配権を伸ばす町並み――とある方角を見つめて、独り言を呟く。
「そォー言うオイタをするお嬢さンたちには、お仕置きが必要だよなァァァァアアアア」
 口元に壮絶な笑みを浮かべたままくっと膝を曲げて体を少し屈める。
 そして次の瞬間、バンッと空気が弾けたような音を残して一方通行(アクセラレーター)の姿が消えた。
 後に残されたのは人気の無い夕闇迫るアパートの渡り廊下だけだった。





END


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