第9話「終わる終わる詐欺やってごめんなさい。尺の都合でまだ続きます。」


「・・・夢か・・・。」


9年前の中南米で関わった事件。なぜ、今さらになって夢で見たのか分からない。これ以上に印象的でバイオレンスでエキゾチックな事件なんていくらでも遭遇した。なのに、何故これなのか。

(とにかく、ここはどこだ?俺は何をやっていたんだ?)

昂焚は現状を把握する為に脳をフル回転させる。現状の理解、そのためには記憶を過去に遡らせ、現状に至るまでの過程を知らなければならない。
中華料理を食べにイギリスに行き、中華街で痩せの大食い美少女兼魔術師に勝負を挑まれ、彼女との勝負に勝った。だが、背後から謎の少女(声から判断)によって昏倒させられた。
そこまでは覚えている。だが、それ以降の記憶がスッポリと抜けている。その間の自分に何があったのか、全身に走る激痛と巻かれた包帯などの誰かが介抱した形跡がそれを物語る。そして、自分の片手は手錠がかけられ、ベッドに繋がれていた。
今分かることと言えば、ここが中流ホテルの一室ということぐらいだ。

「さて・・・ここからどうするべきか・・・。」

昂焚は必死に手を動かすが、手錠が外れる気配は無い。見たところ、都牟刈大刀《ツムガリノタチ》も棺桶トランクも見当たらない。擬神付喪神も使える状況ではない。だが、それほど焦りは感じない。相手は自分を看病してくれたようだから、殺される心配は無いからだ。
すると、この部屋に近付いて来る足音が聞こえ始めた。

「この部屋の主か?」

ドアノブが回り、ドアが開いて部屋の主が入ってきた。
健康的な褐色の肌に長い黒髪、絞まるところは絞まり、出るところは出ている体型をしたラテン系美女だ。彼女の手には紙袋が抱えられていた。

(あれって・・・まさか・・・ユマ!?)

ユマは自分の方を見ると、数刻ほど目を見開いた。そして、結界したダムの如く涙を零し、これ以上に無い笑顔を浮かべてこちらに飛びかかって来た。

「昂焚ぁ~!!!」

手錠で繋がれた昂焚に逃げるという選択肢は無く、飛びかかって来たユマに圧し掛かられ、彼女のなすがままに抱きつかれ、抱き締められ、全身を弄られる。うらやまけしからん。

「昂焚だ!本物の生きている昂焚だ!会えた!やっと会えたんだね!やっぱり何も変わってない!顔も!身体も!声も!服も!匂いも!あの時から全然変わってない!」

己が欲望のままに昂焚の全身をわしゃわしゃするユマ。鼻息を荒くし、変態の如くクンカクンカしまくる。しかし9年の時を経て少女から大人になったその身体はあまりにも扇情的だったのだが―――

(ユマ・・・大きくなったんだな。あれから9年ってことは、俺も29歳の三十路直前。そろそろ結婚でも考えるべきなのだろうか・・・。)

冷酷なまでにKOOL・・・じゃなくてCOOLだった。もう欲望をどこかに落として来たのか、聖人なのかと思うくらい、欲望というものが湧き上がらなかった。以前、ハーティに拷問された際にはボンキュッボンな大人の女性が好みと言っていたが、それは金髪ボインセクシー並のテンプレのようなものであり、「自分はロリコンじゃない」という一種の意思表明だ。実際のところ女性に関する趣向は自分でも分かっていない。

(婚活ってどうやるんだろう?出会い系サイトでも使うのか?)

そんなうらやまけしからん状況でありながら、それを一切享受せず、人形のようにユマの欲望のままに弄ばれた。性別が逆だったら例え親友同士でも確実に通報モノの行為が繰り返された。

「なぁ。そろそろ離してくれないか。」

ユマが慌てて、昂焚から離れる。離れると言っても全身密着の抱きつき状態から馬乗りにシフトチェンジしただけであった。
昂焚はユマに全身を弄られ、服が肌蹴て、髪をボサボサにされていた。


「うん。9年ぶりだね。昂焚。」

ユマは未だ目に残る感涙を指でふき取った。

「再会の祝辞とか、俺とお前がここにいる理由とか、色々と言ったり聞いたりしたいことがたくさんあるんだが、その前に『手錠を外してくれないか?』」

「やだ。」

脊髄反射の如き即答だった。

「いや、外してもらわないと色々と不都合が生じるわけなのだが・・・」

第六感がビンビンと嫌な予感を受信している。だが受信できたとしても対処しようがない。

昂焚の上で馬乗りになっていたユマが再び上半身を降ろし、2人の顔の距離が一機に近づく。

昂焚には彼女の全てが艶めかしく感じられた。

手錠で縛られて病み上がりなので抵抗する術は無い。

そして、ユマは両手で昂焚の顔を掴んで固定すると、そのまま一気に唇を重ねた。

これでもかというぐらいの大人の熱い接吻を(一方的に)交わされた。

「これが私の気持ち。残酷だよね。それに気付いたのが昂焚と別れる寸前だったんだよ。」

突然の出来事にいつもポーカーフェイスを貫いていたはずの昂焚が豆鉄砲をくらった鳩のような顔をしていた。

「それから9年。どんな気持ちでいたか分かる?組織は別に悪くなかった。霊装は貰えたし、衣食住にも困らなかった。上層部の利権争いなんて末端の私には関係ない話だったしね。だけど、一番欲しいものは手に入らなかった。だって地球の裏側だよ。届くはずもないよ。だけど――――」

ユマは昂焚の頬に手を当てる。微かに見せる大人の笑顔。あの時、ゴミ箱に詰められていたスラム出身の少女とは思えない。

「やっと手に入れた。もう離したくない。離れたくない。」

そう言って、ユマは再び熱い抱擁をする。

「だから・・・昂焚はずっと私の傍にいてね。」

今になって昂焚は現状を理解した。と同時にどっと冷や汗が湧き出る。

(9年も放置プレイしたせいで、ヤンデレ化してしまった・・・。)





ドイツ 首都ミュンヘン イルミナティ所有の地下大聖堂

ドイツのどこかと繋がっているイルミナティが所有する地下大聖堂。ヴァチカンにも劣らないかもしれない地下大聖堂の中ではイルミナティの幹部一同が揃っていた。
大聖堂の内部は裁判所のようになっており、中央の台とそれを囲むように敷居の高い席が13個、それよりも高いところに金銀財宝で装飾された豪華な座席が鎮座していた。13個の席の席の内、12個は埋まっており、空いている残り1つの席に座るべき人間が中央の台の上に立っていた。

「我々、イルミナティ幹部一同を集めての会議。いったいどういうことか説明してもらおうか?ヴィルジール=ブラッドコード。」

12の席を埋めている人間の1人が中央の台にいるヴィルジールに話しかけていた。
どこか悲しげな雰囲気を醸し出す金髪の男だ。目隠しで視界を覆っており、目を見せないことで彼のミステリアスさが増していく。人間の域を出ない程度であるが、肉体もそこそこ鍛えられているようだ。




過去に愛する妻を交通事故で失い、それゆえに他者によって命を奪われる事のない『完全な生命』の研究に取り付かれている男だ。 生命の共有をコンセプトとし、他人と生命力を共有する事で、例え死ぬような事になっても、他人から生命力を分け与えて貰う事で生きながらえるという物だ。今は完全に目的が歪み、弱者の生命を奪い、搾取し、生きながらえる事が目的と化している。

「どうせ、私の散財が酷いとか何とか、愚痴りにでも来たんでしョーネ。」

ヴィルジールを嘲笑する女もまた、12の席を埋めている人間の1人だ。
ブロンドの髪に豊満なバストを主張する服を着ている。全身に宝石や金銀のアクセサリーをつけている。豪華で贅沢な様相であるが、コーディネイトが悪いのかとても悪趣味に見える。


“メイラ=ゴールドラッシュ”


アメリカのスラム街で育ち、金が全てだという考えに行きついた女だ。どんな手を使っても、例えあらゆる倫理に反して居ても、世界が金を望むなら、自分がその全てを手に入れるというイルミナティらしい強欲を持っている。

「株主総会を控えているから、なるべく早めに終わらせて欲しいわね。」

メイラの隣で少し面倒そうにぶつくさ言うスーツ姿の女性がいた。
見た目30代前半の長い銀髪にブルーアイの女性。優しい女性としての面影を持ち、同時にかつての美女としての面影を残す“美人なおばさん”だ。(いや、お姉さんでもまだ通じるかも。)


“ローズ=ムーンチャイルド”


元ローマ正教の錬金術師であり、死と老いを恐れてエリクサーの精製に固執し、後に愛する人の子を産めなかった悲しみから、人造人間(ホムンクルス)の創造にも固執するようになった過去を持つ。しかし、それらが神への冒涜だったため、ローマ正教に命を狙われる。現在は夫と共に日本に亡命し、そこのイルミナティメンバーと共にエリクサーの研究をしている。美や老いへの恐れ、産めなかった子供への執着はほとんど失っているため、エリクサーや人造人間の研究は“一応”しているが、昔のように固執していない。学園都市内外で有名な化粧品会社「ゼリオンコーポレーション」の女社長として、科学側でも有名である。

「あらあらまあまあ・・・それはいけませんねえ。どうしましょう?」

埋められた12の席のうちの一つから、浅黒い肌をした20歳前後の女性が心配そうに声をかける。強欲なる者たちの集団とは思えないほど穏和な雰囲気を醸し出している。




イルミナティの幹部でありながら、これといった強欲が無く、弱者に手を差し延べ、搾取される人間を救い上げる変わり種なのだが、その本質は歪んでいる。世界の破壊と再構成を目的とし、悪の蔓延る世界をまず一掃し、新たに作り上げるというものだ。インド神話においては世界の最後は一端悪が消え去り、再び再構成されるというものだが、現実に則していないその思想は異端と断ぜられ、追放となった。 現在は、各地の孤児などを広い、養いながら、世界を終わらせる研究を続けている。孤児の中には、彼女の手ほどきで魔術師となったものもおり、彼女の研究に手を貸している者も多い。

「そういうのはどうでもいいからよぉ。さっさと始めねえか?」

幹部席を埋める金髪にそめた、ウルフカットの青年は不機嫌そうに呟いた。身長は高く、細いがしっかりとした体つきをしている。腰に2本の刀を携えている。


鬼島甲兵


幼い頃「鬼」と呼ばれる魔術生命体に家族を殺されており、敵を討つため、そして新たな犠牲者を出さない為に魔術師となる。天性の剣の才能と合間って超一流と称されるほどであったが、現在は人外を殺すことにしか興味を持たず、もはやその殺戮衝動は、人というより「鬼」のそれに近い。

「時間は・・・まだ・・・ある。」

幹部席にいる雪のように白い髪、雪のように白い肌を持つ少女。コートを羽織り、長く伸ばした髪で顔は隠されている。素肌も見えない。




元・ロシア成教・殲滅白書の魔術師。「氷の葬列」という二つ名を持ち、イルミナティの幹部。霊装開発部門の部長を任されてもいる。幼い頃から心臓や臓器類が弱かったのを父親の魔術によって半ば無理矢理に治療、延命されていた。しかし、体調が再び悪化を始め、数年の間の生存すら絶望視されるようになる。そこを彼女は、自らの心臓や臓器の役割を、霊装で強化、補完することで補うことに成功する。霊装「ブローズグホーヴィ」がそれだ。現在は「生きながらえたい」という欲望が暴走し、「死にたくない」に転じたため、不老不死、「生への強欲」に固執するようになった。

リーリヤの隣の席に鎮座する男も黙って頷いた。
金髪金目でシャツとスラックスを優雅に着こなしており、イギリス紳士を絵に描いたような優男だ。


“ディアス・マクスター”


娼婦の母と、名も知らぬ父親の間に生まれ、様々な苦難を味わった後に「この世の全ては『血』で決まる」ことを悟り、「血統の強欲」に執着する。どれほど努力しても自らの身体の中に流れる穢れた血を取り替えることなど出来ないのなら、万人に自らの血を認めさせれば良いと考え、自らが王になろうとしている。

「そんなことより・・・なぜ私の席が妙にルシアンとエドワードから離れているんだ?」

23歳くらいの灰色の髪の美女が口から不満を零していた。だが、なによりもF~Gカップ近くの胸に目が行ってしまう。




彼女にはこれといった強欲というものがない。特殊な性癖を除けば欲望は人並みだ。しかし、それ以上に「世界の滅亡」という野望が存在する。結婚前日に婚約者が政府高官の息子に面白半分で惨殺され、自力で犯人をつきとめ何回訴えても「裏の力」で無罪になった。「これが正しい世界なら滅んでしまえばいい。」そう思っていた時に魔術に出会い、イルミナティに入るという経緯が存在している。

「それは、あなたが一番よく分かっているんじゃないかしら?」

ミランダの隣に座る日本人女性。長い黒髪のストレート。右目から右頬を大きな布の眼帯で隠しているが、その下にある更に大きな火傷跡が少しはみ出ている。全身を包むゆったりとした服を着ているが、服の上からでも分かるほど胸が大きい。イルミナティが誇る巨乳艦隊(メイラ、ミランダ、美繰、アレハンドラ)の一角を担うほどだ。母の様な穏和な雰囲気を醸しだす。


箕田美繰


神道系皇室派の魔術師にという経歴を持つが、『忌』とされて来た異質な魔術を使う。その殆どが自らの魔力のみならず、他者の霊魂を使用して発動するものであり、戦力として重宝されながら、『味方殺し』『魂食らい』との侮蔑も受けていた。魔術の発動に必要な大きな火傷の跡を心ない人間から蔑みを受けたこともある。それでも尚、全ては皇室の為、ひいては日本の、護国のためであるとの思いから献身的な活動を行なっていたが、『学園都市』の台頭と、それによる国内の戦力バランス、権力の推移等により、『日本を守る』のが『自分達』ではなく『学園都市』になった時、自らの努力が全くの無意味であると理解した。その強欲、望みは、『日本の守護』。

「も~、幹部会議とか面倒なのよね。もうサボっていい?私の投票権あげるから。」

そう言って、机の上に突っ伏せる褐色で黒髪ストレートロングの女性。服装は全てコヨーテの皮でできており、グラマラスな体形で胸もミランダとはりあうほど、イルミナティ巨乳艦隊の一角だ。


“アレハンドラ・ソカロ”


かつては「翼ある者の帰還」に所属し、次期首領になるべく修行したりなどの堅苦しい生活をしていた過去を持つが、それに嫌気がさし組織崩壊前に脱走した。堅苦しい生活の反動なのか、とことん「快楽」を欲す性格となった。最強のサボり魔であり、曰く「サボるために幹部になった。」

「だめだ。アレハンドラ。逃げるつもりなら閃天の五槍を足に打ち込むことになる。」

長い金髪を一纏めにした青目の男。年齢は10代後半が、そこそこの童顔であるため年齢判別が難しい。服装は黒のジャケットにラフなYシャツ、ジーンズ。太陽がプリントされたマフラーをしている。




かつては「暗闇を照らす太陽」という「世界の役に立つ」ことを目的としたケルト系魔術結社を姉と共に設立し、メンバーとは肉親同然だった。しかし、傭兵としてイギリス清教の一部に雇われた際に「捨て駒」として扱われ、自分以外のメンバーを全滅させられてしまう。世界の役に立ちたかったメンバーや姉の想いが無下にされて絶望し、遺志を無駄にしない為に「存在の証明」という強欲に取りつかれる。自分、ひいてはメンバーや姉の考えは不条理な世界の中でどこまで上り詰めるのか。それを証明するためにイルミナティにいる。

「恐えええええ。今のエド、仕事モードじゃねえかよ。おい。」

イルミナティの中では比較的常識人とも言える少年が強がりながらも少しビクビクしていた。
慎重160cm前後で栗色の髪に青い目をした10代後半の少年だ。顔立ちは年齢の割に幼く見える。いわゆるショタ顔だ。




かつては「大空の掌握」を目的とした魔術結社予備軍にいたが、自分が留守の時に騎士派に仲間を殲滅されるという過去を持つ。行くあてもなくさまよっていたところをイルミナティのボスに拾われ、騎士派に対する復讐心と「大空の掌握」という生き様ゆえに若干16歳で幹部に上り詰めた。

そして、中心にある台の上に立つ男。危険な匂いを漂わせる爬虫類の様な目をしている。年齢は30代後半といったところか。左目に大きな傷を持ち、ウェーブのかかった黒髪が肩にかかっている。常日頃から迷彩色の服に無線や機関銃を所持しており、「戦場の最前線でなら違和感のない」格好をしているが、さすがに今は武器の類を持ち合わせていないようだ。胸に数多くの勲章を付けている。


“ヴィルジール=ブラッドコード”


「欲望の終着点が戦争であり、戦争こそが人類の本質である」ことを信条としており、「強欲の思想のみが唯一神として崇めるられる対象」というイルミナティの思想に共感している。「戦争こそが強欲の終着点であり、崇められるべき絶対唯一神」と考える“戦争崇拝”に傾倒し、ありとあらゆる戦争に手を出している。戦争に対する独自の美学を持っている。

本来ならば幹部13席にいるはずのヴィルジールがなぜ、被告人の如く中央の台に立たされているのか。それはニコライが言う通り、彼が幹部全員を招集したからである。だが、普段は幹部の誰かが幹部を招集することなんてない。なぜなら、それぞれが平等の立場にあり、逆らえる立場であるのなら自分の欲望を優先して招集を無視することが多く、「幹部が幹部を呼ぶことは出来ない。(※ただし、ラクサーシャと美繰は呼べば来る)」が常識となっているからだ。
ならばなぜ、ヴィルジールは幹部全員を招集することが出来たのか。話は簡単だ。ヴィルジールが幹部より上の立場の人間に召集する様に頼んだからだ。

「ヴィルジール。双鴉道化《レイヴンフェイス》の権限を使ってまで幹部を招集した理由について、話してもらおうか?ただの道楽だとでも言うのか?」

ディアスはそう言いながら、剣の様な目でヴィルジールを見下した。

「そうだな・・・。そろそろ話しておくか。」

「双鴉道化が来ていない・・・・。勝手に始めていいの・・・?」

生きているのか死んでいるのか分からない様なかき消されそうな声でリーリヤが呟いた。

「問題ねぇ。あいつには『予定通り始めろ。』と言われていたからな。」

そうした雑談も終え、場が静かになったところで会議が始められた。全員が固唾を飲んで、主催者であるヴィルジールが告げる議題を待つ。
そして、ヴィルジールの言葉と共に沈黙が破られた。


「この中から一人だけ、幹部を辞任してもらう。」





イギリス ロンドン とあるホテル
ユマと熱い接吻をしてから一時間、昂焚は彼女の口から現状を把握した。

「お前は俺に会いたくて海外を飛び回り、ここで発見したら血まみれでゴミ箱に詰められていたからホテルに連れ込んで、介抱してくれたわけだ。なんで病院じゃないんだ?」

「だだだだだって、あんな時間に空いている病院なんてほとんどないし・・・・救急病院は遠かったから。ほら!近場の裏ホテル借りて、闇医者呼んだ方が早かったしぃ!幸い、お金はいっぱいあったしぃ!」

ユマは酷く慌てた様子で返答していた。

「そうか・・・。このホテルの客層とか、大量にあったお金とか、俺の飛んでいる記憶とかについては面倒なのでスルーしよう。だが・・・」

「だが?」

「かれこれ数十分、何でお前はエロ漫画を読んでいるんだ?あと、手錠外せ。」

昂焚が縛られているベッドから少し離れたソファーでユマは極東の変態大国から直輸入したエロ漫画を読んでいた。カバーには堂々と卑猥なイラストが描かれており、ユマは恐る恐るページをめくりながら読んでいた。顔を真っ赤にし、その様子はキャベツ畑とかコウノトリとかを信じている少女が興味本位に父親のエロ本を読んでしまっている姿のようだ。

「い、今、集中して読んでるんだから邪魔しないで!」

「と言いつつ、そのページから全然先に進んでいないな。と言うか、手錠外せ。」

ユマの手は漫画の初期の部分で止まっていた。おそらくア~ンなシーンに直前で立ち止まっているのだろう。

「手錠は外すよ。でもその前に昂焚を私無しでは生きられない身体にしないと。」

「なにそれマジやめて。」

一難去ってまた一難、休む暇も無く「珍奇騒動《カーニバル》」は続く。

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最終更新:2012年06月17日 23:51