「お前等にはまだ早えええええぇぇぇっっ!!!!!」
「グホッ!!?」
「お、お姉ちゃん!!?」
只事では無い雰囲気(姉視点)の荒我と焔火に、朱花が突っ込んで来る。その跳び蹴りが、荒我の頬に突き刺さる。
「あちゃあ・・・しゅかんの奴、結局我慢し切れなかったか」
「も、もう少しの所で・・・やんす」
「やっぱり、どんな妹でも姉にしたら可愛いんだろうね」
遠くから眺める、否、眺めていた加賀美・梯・武佐の3人は口惜しそうに言葉を漏らす。
「痛っ・・・。一体何なんだ・・・」
「
荒我拳よ!!ホムラっちを傍に置くと言うのなら、彼女が所属する
十二人委員会のリーダーであるこの啄鴉を通して貰おうか!!」
「うおっ!?」
「師匠の言う通りござる!!ヒバンナの将来が懸かった重要極まること!!慎重には慎重を重ねるべきでござろう!!」
「俺は、余り他人の色恋沙汰には首を突っ込みたく無いけどな」
そこに、啄・ゲコ太・仲場までもが乱入する。実は、啄先導の下あっちこっちのプールを跨いでいる際に、荒我と焔火の姿を見付けたのだ。
最初は、加賀美の言葉もあって朱花も大人しく見守っていたのだが、何やら(朱花にとって)マズイ雰囲気になった2人を見て、我慢できずに突っ込んだという流れである。
「色恋沙汰・・・!?ッッ!!!」
「ッッ!!!と、というか、何時の間に私が十二人委員会に入ったことになってるの!?」
「ハーハッハッハ!!!ちゃんと、お前の姉である朱花嬢からも許可は得たぞ!!」
「えええぇぇっ!!?ど、どいうことよ、お姉ちゃん!!?」
「な、何て言うか・・・この啄さんなら緋花を任せてもいいかなって・・・」
「お、お姉ちゃん!?ど、どうしたの!?顔が赤いよ!?」
何故か、顔を朱に染めている朱花。こんな姉の姿を一度も見たことが無かった焔火は、驚愕の上にも驚愕する。
「ハーハッハッハ!!!ホムラっちよ!!これ程麗しい女性を姉に持てたことを誇りに思うがいい!!
気立ても良く、家事も得意。うむ、これ程素晴らしい女性だったとは!!ハーハッハッハ!!!」
「も、もぅ!煽てても何も出ませんよ、啄さん?」
「何を言う?俺は当然のことを言ったまでよ!!」
「・・・あ、ありがとうございます」
「・・・・・・」
焔火は、開いた口が塞がらない。これは、どうみても・・・己の姉があの“成瀬台の変人”に勝るとも劣らない“変人”に淡い想いを抱いてしまったとしか思えない。
「・・・さっきから、あの啄って男の子がずっとしゅかんのことを褒めちぎってるんだ」
「リーダー・・・。それで、お姉ちゃんが?」
「・・・普段は、緋花の妹ってよく間違われるしゅかんにとっては、一発で自分が緋花の姉だと見抜いたあの男に何か感じるものがあったかも。
それに、誰だって褒められるのは嬉しいことだし。特に、普段から余り男の子と関わらないしゅかんにとっては、彼の言動は衝撃的だったのかもしれないよね」
「・・・で、でも・・・!!その相手が、何であの“変人”なんですか・・・!!?」
焔火朱花という少女は、奔放な妹がいるせいか面倒見がよく世話焼きな性格で、その性格からクラスの副委員長に指名された程である。
家事等にも長け、たまに家事をするときに付けているエプロンを外し忘れて登校することも併せて、“オカン”or“しゅかん”という渾名もある。
そんな彼女にとって、男性との付き合い等殆ど無い。妹の面倒を見るので忙しいらしく、自由時間があってもそれ等を妹のために使うことが多い。
故に、男性に対する免疫が余り無く、こうして啄が放つ数々の褒め言葉に完全に参ってしまったのである。
また、啄自身もどちらかと言えばイケメンの部類に入る顔付きであった。『これで性格さえまともだったら・・・』と、同じ救済委員である花多狩がよく漏らす程である。
「・・・これも運命、うん!」
「そんな一言レベルで済ませないで下さいよ!!私の大事なお姉ちゃんの相手になるかもしれない人が、よりにもよってあの・・・!?誰か夢だと言って・・・ガクッ」
「お、おい!?大丈夫か、緋花!?」
己が愛する姉の将来図を不覚にも想像してしまった焔火は倒れ込み、荒我が慌てて支える。
如何に焔火が他人の長所を認めるタチとは言っても、今日会ったばかり+その長所がサッパリわからない+自分の邪魔ばかりして来た+妄想癖の激しい“変人”では彼女でも無理筋であった。
現実とは非情なものである。
時は過ぎ、夕焼け空に上空が染まる頃合いであった。ここ『マリンウォール』の玄関前には、界刺達や荒我達の姿があった。
「そんじゃま、これでお別れってことで。また、機会があったら遊びに来よーぜ」
「それでは・・・得世様、これにて」
「界刺様!今日は、本当にありがとうございました」
「遠藤達は、界刺様のおかげで思いっ切り楽しむことができました!!」
「サーヤの奴・・・。今に覚えてらっしゃい・・・!!」
「月ノ宮・・・。この敗戦を糧に、大きく羽ばたきなさい・・・!!」
「だから、何でシリアスに?」
「バカ界刺にしては、中々にセンスが良かったんじゃ無い?」
「さて。今日は『
シンボル』の活動は無しとする。偶には、連続して休むというのもいいだろう」
「・・・今日からは寮か・・・。残念・・・・・・・・・まてよ」
「な、何だか不動に指圧された部分が痛いな・・・。帰ったら、さっさと寝ることにしよう」
「ん~?何かな、仲場クン?」
「ちょっと、グルメスポットの件で話が・・・」
「むむむ?何でござるか?拙者も参加するでござる」
「朱花嬢よ!!これにて失礼する!!お前達との一時、すごく楽しかったぞ!!」
「そ、そう?・・・だったら、よかった・・・です」
「しゅかん・・・」
「お姉ちゃん・・・。私は、絶対に認めないからね!!」
「荒我君!!惜しかったでやんすね!!」
「荒我兄貴!!今回は、もう一息の所で横槍が入りましたけど、次は行ける所まで行っちゃってもいいですよ!!」
「なっ!!?お、お前等には関係無ぇよ!!」
「(・・・うまく、あの人と合流しないと)」
千差万別の思いを各自は抱き、それぞれの途に着く。夏休みの醍醐味であるプール。その機会を思う存分に楽しんだ面々の胸には、充実感が漂っていた。
「・・・で、何でこの人達も居るんですか?」
「そんなことは言わずもがなよ!!俺達が十二人委員会に所属しているという事実が、全てを物語っているぞ、ハバラッチ!!」
「ガクッ!!も、もうその渾名が広まって・・・」
夜の学園都市の路地裏を歩く集団が1つ。その集団の顔触れは以下の6名。
「実は、界刺殿に折り入ってご相談があってな・・・」と呟くのは
ゲコ太マスク。
「ん?何かな?」と呟くのは
界刺得世。
「少し力を貸して欲しいんだよ。人手が欲しくてさ」と呟くのは
仲場志道。
「仲場クンって、ボクでも知らない“通”なお店を知ってるなぁ」と呟くのは
仮屋冥滋。
「ところで、ハバラッチよ!!そのCDは、何と言う名前の曲なのだ!?」と呟くのは啄鴉。
「こ、これですか?曲名は『Love song’s loads』ですけど・・・」と呟くのは
葉原ゆかり。
「(こ、これじゃあ緋花ちゃん達の誘いを断ってコソコソしたのが無意味になっちゃう!!な、何とか界刺先輩と2人きりになるチャンスを見付けないと!!)」
予想外な事態に、葉原は焦りの色を濃くする。界刺からの連絡を受けて、いざ待ち合わせ場所へ向かってみると、そこには啄・ゲコ太・仲場・仮屋の姿があった。
『別に、俺1人が付き合うって言ってないよね』
「(く、くそぅ!!・・・これは、私の狙いがバレてると見ていいかもしれない・・・。でも、諦めて堪るモンか!!)」
「・・・ふむ。・・・いいよ。前に皆には世話になったからね」
葉原が決意を新たにしている間に、界刺はゲコ太の頼みを承諾した。
「恩に着る!!これで、あの子達に面と向かって会いに行ける!!あぁ、そうだ。
催し物というか、あの子達に喜んで貰える衣装も揃えているでござる!!故に、明日以降は界刺殿にもその衣装を着用して貰うでござるよ!?」
「衣装・・・?さっきの説明には無かったような・・・?」
「ボクも手伝うよ、ゲコ太クン。仲場クンに色んなグルメスポットを教えて貰ったし」
「ほ、本当でござるか!?かたじけない!!実は、仲場の後輩も応援に駆け付けてくれることになっているでござる!!」
「そうなの、仲場クン?」
「そもそも、ゲコ太と俺の後輩が企画者だからな。明日紹介するぜ!!それと・・・ありがとう、仮屋様!!俺も、仮屋様オススメの店へ今度行ってみるぜ!!」
「(えっ?えっ?『明日以降』って何!?し、しまった!!全然聞いて無かった。マ、マズイ!!)」
葉原の焦りは、頂点に達した。どうやら、界刺は明日からこの“変人集団”と一緒に何処かへ行くようだ。
それでは、駄目だ。界刺にしか頼れないことがあるのに。だから、少女は意を決して碧髪の男に言葉を放つ。
「界刺先輩!!あ、あの・・・」
「界刺得世!!!」
「「「「「「!!!??」」」」」」
「~~~♪~~~~~~♪」
「お姉ちゃん・・・何だかノリノリだね」
ここは、第15学区にあるカラオケ店『ジャッカル』。このカラオケ店の系列は学園都市中に点在しており、利用料金の安さ等から学生達には結構人気があった。
そこに、焔火・朱花・加賀美の3名は居た。ここは、朱花が何回か通っているカラオケ店だった。他の系列よりも安いというのが朱花のお気に入りポイント。
常日頃から家事の現場に居る朱花にとって、安さというのは最重要要素であった。しかも、改装前セールということで今は更に安くなっているのだ。
「きっと、火照った体を冷ましているんじゃない?」
「だ、誰が火照ってるって!!?」
「しゅかんって、結構わかりやすい性格しているからねぇ。緋花もそういう所があるし、さすがは姉妹って言った所かな?」
「うぅ・・・」
「私を愚妹と一緒にすんじゃ無ぇー!!」
そのカラオケ店で、先程から1人マスクを独占している朱花。どうやら、啄の褒め殺し攻撃で火照りに火照った体を冷まそうとしているようだ。
そんだけ歌っていたら、余計に体が熱くなるんじゃ・・・等と言う文句は言ってはいけない。彼女自身、どうやって冷めるのかがわからない状態なのだ。
そこに、飲み物の注文を承りに来た店員がドアをノックする。焔火は、空いたグラス等を店員へ戻すために席を立つ。
「失礼します。ご注文を承りに来ま・・・!!!」
「ありがとうございます!!え~と、サイダー2つにオレンジ1つ追加で。後、空いたグラスも持って行って下さい」
「・・・は、はい!!サイダー2つにオレンジ1つですね。確かに承りました!少々お待ち下さい!」
その時の焔火は、メニュー一覧に目を通していたがために、店員が自分達の顔を確認して驚きの表情を僅かに形作ったことに気が付かなかった。
店員はすぐに気を取り直し、部屋を後にする。向かうはカウンターの奥。そこにある電話に専用の番号を入力し、ある人物に連絡を入れる。
「蜘蛛井さんですか?片鞠です」
「どうしたの、片鞠?さっき言ってた薬の補充になら風間を向かわせたよ?」
「それとは別件っす。実は、今この店に176支部の風紀委員が2人居るんですよ」
「へぇ・・・。今朝のミスで、網枷のバカにグチグチ言われると思ってた所に・・・ツイてるな(ボソッ)」
「えっ?何か言いましたか?」
「いや・・・。ちょっと待ってね・・・ボクもすぐに確認するよ」
店員―を装った
片鞠榴―の情報に、『ジャッカル』全店の情報網を管理する
蜘蛛井糸寂が興味深げな声を零す。
「・・・本当だね。網枷のバカが参加してる風紀委員会の名簿一覧に居る2人だね・・・。え~と、176支部の
加賀美雅に
焔火緋花・・・。あのバカの所か。
それと・・・もう1人は・・・焔火朱花。焔火緋花の姉か。・・・この娘が姉?ぷっ、普通は逆だよね、片鞠?」
「そ、そうですね・・・」
風紀委員会に潜入している網枷からのリークで、風紀委員会に参加している各支部の風紀委員のデータ(能力や家族関係等)を知り尽くしている蜘蛛井は、
どう見ても焔火が姉で朱花が妹にしか見えない姉妹を嘲笑っていた。この男は、一言で言えばガキである。もっと言えば、残虐がお好みの狂ったガキである。
だが、これでも『
ブラックウィザード』の主戦力である“手駒達”を取り仕切る幹部であり、同時に情報管理を一手に背負う優秀なハッカーでもある。
「確か、今日は風紀委員会って休みでしたよね?」
「そうだね。これは・・・気晴らしだろうね。ボク達の存在に気付いて来たんじゃ無いと見て、間違い無いだろうね」
「よ、よかったっす・・・」
「アハハ。片鞠はビビリだなぁ~」
部下である片鞠のビビリように蜘蛛井は、つい笑ってしまう。そして、今後の対策を考える。
「ここで、あの風紀委員達に薬を仕込んでもいいのかもしれないけど・・・“決行前”だからなぁ。“決行後”なら、遠慮無く仕込むんだけど。
それに・・・生憎品切れなんだよね?片鞠が今居る店ってさ?」
「はい。・・・すみません」
「片鞠のせいじゃ無いよ。品切れを報告しなかった店員が悪い。ソイツの名前・・・後で教えてね。中毒者(オモチャ)にするから」
「・・・・・・はい」
中毒者(オモチャ)。蜘蛛井が言うそれは、“手駒達”の材料を意味する。
「風間に持って行かせたのも、被暗示性が強い何時もの薬だけだからねぇ。しかも、緊急だったから数自体が少量だし。
そもそも、風紀委員達が店を出る前に風間がそっちに着く保証も無いし。タイミングが悪いよねぇ・・・。あの殺人鬼(クソッタレ)さえ居なければ・・・!!!」
「!!と、とりあえず、どうしましょうか?」
蜘蛛井の口調の変化に、片鞠はすかさず質問を重ねる。今の彼は、すこぶる機嫌が悪い。
何故なら、彼が取り仕切る“手駒達”が、あるスキルアウトに雇われた傭兵の手によって次々に壊滅させられているからだ。
その傭兵対策の一環として、ある作戦が“仕方無く”進められている。そして、蜘蛛井はこの作戦における統括者の1人である。
「・・・風紀委員に、今気取られるわけには行かないからね。今の状態なら・・・放置が一番得策かな?状況を見て、ボクが判断するよ。
とりあえずは、風間待ちだね。彼がそっちに着いたら、また連絡を取ろう」
「わかりました。とりあえず、グラスに付着してある唾液は保存して置きますね」
「それがいいね。『書庫』だけじゃあ詳しくはわからない情報も、風間の『個人解明』なら結構な所までは判明するし」
「それじゃ」
「うん」
そう言って、片鞠は受話器を置く。今は、薬を運んで来る仲間待ち。その僅かな平穏を、片鞠は身を委ねた。
その後薬を持つ仲間が到着した頃には、風紀委員である加賀美と焔火は店を後にしていた。明日の風紀委員会に備えてである。
唯一残っているのは・・・『もう少しで体の火照りが取れそう』ということで、最後の熱唱に突入している焔火朱花。そして・・・
「界刺得世・・・だな?」
「そうだけど・・・。そちらさんは?」
界刺達の前に現れたのは、ツンツン頭を手入れせずにボサボサにした感じの髪型の男。
その男の顔には疲労が色濃く反映されており、目は血走り、息も絶え絶えな状態であった。だが、その男は己の状態に無関心であった。それよりも!!
ザッ!!!
「なっ!?」
ゲコ太が、思わず呻き声を放つ。それも致し方無いこと。何故なら、その男が界刺に対して急に土下座を敢行したからである。
「俺の名前は・・・
風路形慈。アンタのことは、ある人間から聞いた。学園都市の人間を守る活動を行っている『シンボル』のリーダーだって」
土下座をする男―風路形慈―は、己が妹を助けてくれるかもしれない存在に頭を下げる。希う。懇願する。
「頼む!!アンタの力を俺に貸してくれ!!!俺の・・・俺の妹、
風路鏡子を『ブラックウィザード』から助け出して欲しいんだ!!!!!」
旧い時代(エピソード)が幕を閉じ、あるいは過去からの使者となることで、新たな時代(ゲートウェイ)がその幕を開いた。
誰も彼もが予測できない、そんな騒がしいにも程がある未来を、何時如何なる時も世界は厳しくも温かく見守っている。
さぁ、世界に生きる少年少女達よ!!己が信念を世界に示してみせよ!!さすれば、世界はきっと応えるだろう!!
“希望”と“絶望”。『光』と『闇』。果たして、世界はどのような応えを示すのか!?刮目して待て!!!
Welcome to the new gateway!!!
最終更新:2012年08月20日 20:28