宿曜さんが勧めてくれた学園都市第6学区にある水のテーマパーク『クリア・シー』
そこで久峨君……鐶(たまき)君や斗修さん、他校生の焔火さん葉原さん浮河さんと過ごした1日は、
私、白雪窓枠にとって予想外で衝撃的なことばかりで、でも楽しい思い出になることばかりでした。
流れるプールやウォータースライダーで遊んだり、内陸部の学園都市では珍しい『海』を体験できたりしました。
私は泳げない、いわゆる金槌なので正直いろいろと不安だったのですが、
愛用の浮き輪や鐶君や皆さんがついてくれていたこともあり溺れてしまうことはありませんでした。

でもちょっとしたハプニング?もありました。
なぜか私の手を引いていた焔火さんと斗修さんの間で激しい追いかけっこが始まったり、
私が離してと言ったらあっさり離してくれたんですけど、そのまま斗修さんと焔火さんがバトルを始めちゃって…

「焔火緋花!お前にヒメは渡さねえ!能力抜きのガチ勝負よ!」
「いいですね!受けて立ちます!この勝負、楽しみましょうか!」
「斗修せんぱーい、緋花ちゃーん、あんまり周りに迷惑かけないでくださいねー」
「「はーい!」」
「そこは素直に返事するのかよっ!」
「ククッ、何だか面白そうね」
「一応言っとくけど真白ちゃん、これに乗じた賭博行為とかはしないでね」
「その手があったか!じゃねーや、しないわよッ」
「真白ちゃん!本当にダメだからね!」
「へーい」
「返事ははい!」
「はいッ!」

あっ、バトルと言っても50mプールで自由形競争したり、バタフライで競争したり、
ビーチバレーで勝負したり、ビーチフラッグ勝負だったりで戦闘ではなかったです。
ちなみに2人ともビキニを着て激しく動いていたにも関わらずポロリはなかったです。
かがくのちからってすげー!と思いました。

「ゼェ…ゼェ…やるわね。焔火」
「ハァ…ハァ…斗修先輩こそ……」
「……アナタ、私が『何者』かわかってるの?……私が何をしてきたかも」
「……わかってますよ……」
「……そう……わかっててこうやって普通に接して来るんだ……フフッ、変なヤツ」
「ちょっ、いきなりヒドくないですか!?……まあ否定はしませんけど。ところで斗修先輩!」
「何よ?」
「私も白雪さんのことヒメって呼んでいいですかっ!」
「ダメ」
「ぶー」

人間離れしたスタミナと身体能力を発揮しまくった斗修さんと焔火さんですが、
さすがに連戦で疲れたのか、流れるプールに流されるままに仰向けになって流されて行きました。
正直、2人ともまだ人間やめちゃってないんだと思ってホッとしました。
そして勝負するうちに奇妙な友情が芽生えたのか、なぜか2人とも晴れやかな表情をしていました。
ちなみに勝負は3勝3敗1引き分けで、結果は引き分けでした。

「あっちゃーモロに流されちゃってるねェ」
「流されちゃってますね……」
「すみませんねェ~久峨先輩、白雪先輩。私たちちょっと斗修先輩と緋花迎えに行ってきますッ」
「えっ?ちょっと真白ちゃん?あなた泳げないんじゃ?」
「いいから行くわよ、ゆかり。ヤバかったら私が係員とか呼ぶからさッ」
「私も金槌なんだけど……」
「でしたら白雪先輩はここで待っててください。あっ、そうだ!久峨先輩に泳ぎ方でも教えてもらったらどうッスかァ~?」
「………あーそういうことか。わかりました。私たちあのアホども回収しに行ってきますね」
「ククッまあ、お2人でごゆっくり~ッ」

葉原さんの若干黒い発言と、浮河さんの表情が若干ニヤついた悪人面だったのが気になりましたが、
すぐに向こうの砂浜にいる鐶君と2人っきりにしてくれたんだとわかりました。
どうやら彼は能力の『地力使い(ソイルハンド)』を用いたトレーニングをしているようです。
こんな所でも能力トレーニングとは、実にストイックです。

「………う~ん………やっぱりここの砂には珍しい鉱物は埋まってないか~」
「…………………久峨君?」
「窓枠?いや浮河さんが『こういう所に案外珍しい鉱物があるかもしんないっスよ~』って言ってたんだけどな~」
「そうなんだ………」

前言撤回。彼にもちょっと御茶目な所があったようです。
葉原さんと浮河さんが言っていた通り、彼に泳ぎを教えてもらったり、能力で砂の城や私の小型の像や
他の皆さんの像を作ってくれたり、いつもよりいろいろな話をしたりできました。
……でも……『鐶』と下の名前では呼べませんでした。

その後、斗修さんたちも戻ってきて、そこからは6人でいろいろな所を回って遊びました。
ちなみにあれほど激しく動いていたにも関わらず、斗修さんと焔火さんは完全回復していました。
あまりの回復力の早さに、再び人間かどうか疑わしく思ったのはここだけの内緒です。

先ほど鐶君がやっていた砂の城やみんなの小型像に感動して、キラキラした目で見ていた焔火さんが
彼の指導のもと砂の操作に挑戦したりもしました。彼女は『電撃使い』なので砂鉄限定でしたが。
もちろん濡れたまま行ったら危険なので、体を拭いたり私の能力『発火体質(レッドセンサー)』を
うまく微調整して乾かしたりした後で行いました。
正直私は能力あまり使いたくなかったのですが、鐶君や皆さんの頼みで使いました。
でも能力は人を傷つけるだけではなく、他でも活かせることも意外な形で改めて知りました。

「ぐぬぬぬぬ………」
「うーん、やっぱり難しいかい?焔火さん」
「ぬあーっ!難しいですね!私、こういう細かい演算苦手でして」
「そう焦らなくてもいいよ。そうだねぇ~砂鉄はちょっと違うかもしれないけど、もっと優しくしなやかに演算を練ってみたらどうかな?」
「なるほどー。ありがとうございます!」
「焔火、アナタ不器用に見えて変な所で器用だったりするわね。さっきアナタが叫んだ奇声通りに砂鉄が動いてたし」
「ええっ!?そうなんですか?」

斗修さんが言うとおり、焔火さんが動かそうとしていた砂鉄は本人は演算に夢中で気づいていないようでしたが、
グニャグニャと奇妙な動きをしながら走り書きをしたかのように『ぬ』という文字を地面に描いていました。

「あれはあれで無駄にすごいですね………」
「緋花のヤツ、相変らず器用なんだか不器用なんだかわからないわねッ」

葉原さんと浮河さんも私・白雪と同じような感想だったようです。
それにしても………改めて本当に今日1日だけでもいろいろなことや新しい発見がありました。
こんな私を遊びに誘ってくれて、いろいろなきっかけを作ってくれた焔火さんにも、
その友達の葉原さんや浮河さんにも、私についてきてくれた斗修さんにも、そして鐶君にも感謝です。
やっぱりまだまだ人と関わるのは恐いですが、こういう関わりなら悪くはないとも思いました。

※注意:実は所々に白雪さんの心の絶叫が入っていますが、非常に読みにくくなるのでカットしました。


―――――――――――――――


時刻は夕方に差し掛かる少し前、白雪ら6人は『クリア・シー』の名物である
学園都市の外にある『海』を再現したプールで遊んでいた。
そんな中、浮河がデジカメを持ってきて写真を撮ろうと声をかけてきた。

「よーし、それじゃー写真撮るわよー」
「おー!頼むぜ真白っちー!」
「それじゃお願いしますね」

一方後方の明知生たちは………

「あうう……や、やっぱり恥ずかしい」
「ほら窓枠、せっかく撮ってくれるんだからさ…」
「あーらナイトさま~。ちゃっかりヒメ…白雪さんの肩に手を寄せちゃって~。何しようとしてたのかしらァ~~」
「いや、そういう変な意味はないよ。向こうで浮河さんがみんなの写真撮ってくれるから窓枠の緊張感をほぐそうと思ってさ」
「ほーう。本当にそうかしらねぇ~」
「なっ、何か斗修の目が恐いんだけど…」

白雪の肩にそっと手を乗せて優しく囁く久峨を睨みつけながら2人に絡む斗修。
そんな中、突如シャッターの音がした。

「アッ、ゴメ~ン。明知の御三方の三角関係が面白そうだったからもうシャッター押しちまったわッ」
「「何イィィィ!?」」

デジカメを持った浮河は、人を食ったようなひょうひょうとした表情と発言でニヤニヤしながら、
非常にわざとらしい口調でさらりと問題発言をかました。
カメラのシャッターが押されていたことにより白雪と斗修は驚き、顔を真っ赤にした。

「ハハハ、これはしてやられたねぇ」
「もう!真白ちゃんったら!」

苦笑いをしつつ頭を軽くかく久峨と、同じく苦笑いしながらトレードマークの赤い眼鏡を直す葉原。
しかし2人とも表情を見るに、どこか楽しそうでもあった。

「やりおったな真白っち!でもこういう不意打ちっぽい写真の方が面白い思い出になったりするんだよね!」

そして満面の笑顔で完全に面白がっている焔火。後ろで結んだ髪も機嫌のいい犬の尻尾のように激しく動き回っていた。

「ククッ、デジカメだからすぐ見れるよ」
「よーし!それじゃーさっそく見てみよう!」

先ほど浮河が撮った写真の画像を見るために6人はビーチパラソルの下に集まった。
大きめのパラソルの中心に白く丸い机が置いてあり、それを囲むように座って各々に
デジカメをまわしながらさっき撮った写真を見ていた。

「いやー、それにしてもよく撮れてるね!この一枚で今日の様子がいつでもすぐに思い出せそう!」
「そうですね。それにしても……フフッ、緋花ちゃんだけ半分後ろ向きでアップで写ってますよ」
「あはは、そりゃ急に真白っちがシャッター押すからだよ!」
「緋花がさっき言った通り、こういう写真が後々ネタ…じゃねーやいい思い出になんのよ。ククッ」

浮河の不意打ちで写したとはいえ、爽やかで躍動感のある1枚となった写真を見て
それを心から楽しむ焔火・葉原・浮河の小川原付属中学2年生3人組。

「俺はそんな焔火さんの様子もいい味になってると思うよ。躍動感のある一枚になっているね」

久峨も彼女たちの話に加わり、写真を素直に評価する。

「後ろの私たちもはっきり写ってるわね………」
「写ってますね………」

斗修と白雪は学園都市製のデジカメの性能のよさと、そこに写っている自分たちの様子を気にしていた。
斗修は久峨との軽~い小競り合いで目が全く笑っていない部分を、白雪は単純に自らの写真写りの悪さを。
まあ白雪本人がそう思っているだけで、実際はそんなことはなかったりするのだが。
決して一緒に写真に写っている友人たちと自分の胸部を見比べていたわけではない。
………たぶん………。

「おお本当だ。さすがは学園都市製だね。これを写した浮河さんもけっこう撮り慣れてる感じだね」
「ヘヘッ、それほどでも。しかもこれだけ水がはねてもヘッチャラな防水加工付きですぜッ」
「それに窓枠、そんなに写真写りを気にすることはないよ。俺は可愛く写ってると思うよ」
「ななな何でわかっちゃったのよおおおおおお!?心を読まれたああああ?」
「君はいつも写真撮ったときに、自分の写真写りの悪さを気にしているからね」

そう言うと久峨は柔らかく微笑みながら、興奮して顔を真っ赤にする白雪の頭を優しくそっとなでる。
白雪はそんな彼を上目遣いで見つめていた。どうやら久峨のおかげで白雪もだいぶ落ち着いてきたようだ。
一方斗修は平静を装っているが、だんだん眉間にしわが寄り落ち着きがなくなってきていた。
そして小川原の3人娘たちは、

「おおー!やっぱり白雪さんと久峨先輩ってばラブラブですねぇー!」
「完全に私たち忘れて2人の世界とやらに入っちゃってやがるわねェ~。ククッ」
「緋花ちゃん!真白ちゃん!あんまり茶化さない!斗修先輩も何か言ってやってください!」

相変らず久峨と白雪を茶化す焔火と浮河。
そこで葉原は年長者である斗修が注意してくれるように声をかけたのだが……
斗修星羅はやっぱり最後の最後まで斗修星羅であった。

「私にもヒメの頭ナデナデさせろやコノヤロー!」
「こっちはこっちで何か別のことほざきやがったーーー!!」
「あはは、白雪さんって可愛いですもんね!」
「一応年下の緋花に可愛いって言わんのもどーなんだろうねェ………」
「そっ、そうだ!今度は真白ちゃんも一緒に撮りましょうよ!」

この話題を変えるために葉原が言った苦し紛れの一言により、また話は思わぬ展開へと転がり出した。

「いいね!さっすがゆかりっち!全員集合写真は必ず1枚は欲しいからね!今度は真白っちも一緒に撮ろうよ!」
「いッ、いやァ~私はいいよ。こんな虚弱体質+虚弱体型に金槌だしさァ~。ハハハ」
「そんなことないよ。俺は浮河さんも可愛いと思うよ」
「!?」

白雪とノロけてばっかりいると、浮河が勝手に勘違いしていた久峨の自分に振ってきた意外な一言に驚き、
思わず目を丸くして彼の方に振り向く浮河。彼女は照れ隠しからか頭にかぶっている麦わら帽子を深くかぶり直した。
そして何とか自分から話題をそらそうと、先ほどから自らの写真写りを気にしていた白雪に話を振った。

「この私が?いやいやいや、白雪先輩ももう一度写るの恥ずかしいっスよね?ねッ?ねッ?」
「最初はそうだったけど、これ見たら私もみんなで写るのもいいかなーって思ってきたわ。今度は浮河さんも一緒に写りましょう?」
(浮河さん!1人だけ写真逃れしようたって、そーうはいきませんからねえええええ!)

久峨に励まされて落ち着いたのか、先ほどとは打って変わり穏やかな口調で話す白雪。
しかしその目は若干ギラついてもいた。

「何か言葉と裏腹に白雪先輩の様子が目が光って鬼気迫る感じなんですが………」
「ゆかりっち、きっと白雪さんも荒ぶるテンションを抑えきれないんだよ!」
「そうだね、窓枠がいいなら俺はもう一度撮っても構わないよ」
「浮河!ヒメも撮りたいって言ってるし観念しなさい!」
「真白っちー、別の水着がいいなら私かゆかりっちの水着貸そうか?」
「サイズが合わねえよ!バカ緋花がァーーー!!」
「でしたら白雪先輩に借りてみては?」
「そういう問題じゃねェーーー!」

先ほど浮河が撮ったデジカメ写真の画像をビーチパラソルの下でワイワイ騒ぐうちにいつの間にか、
写真をネタにイジろうとしていたが写っていないことで逆にイジられる浮河の構図が完成していた。
『策士』策に溺れるとでもいうのであろうか。
いや、そういう策や企みを度外視した等身大の中学生たちがここにはいた。

「どうだい窓枠?来てよかったと思うかい?」
「ええ……来てよかったと思う。焔火さんたちは面白いし、たま…久峨君ともいつもよりたくさん話せたし」
「それはよかった。俺も嬉しいよ」

こうして白雪窓枠は久峨や斗修、そして焔火ら他校生と楽しい時間を過ごした。
しかし、まだ恋人・久峨鐶を下の名前で呼ぶにはもう少しだけ勇気と時間がかかるようだ。

その後も彼らは完全下校時刻が迫るまで、プールでのひとときを楽しんだ。

学園都市に住まう能力開発を行った異能の力を持つ能力者たち。
しかし彼らもまた能力者である前に『外』の学生たちと何ら変わらない、普通の中学生なのだ。
この年代でこうやって友達と楽しく遊んだり、馬鹿騒ぎしたりした時間は一生の思い出になるものだ。

そしてこのできごとは、とある暑い日の楽しい思い出として少年少女たちの心に深く刻まれたことだろう。


END

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最終更新:2013年09月27日 05:52
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