学園都市のアミューズメント施設が集結した第6学区。
そのうちの1つであるテーマパークプール『クリア・シー』の前に6人の男女が集まっていた。
明知中等教育学院の3年生で黄道十二星座の3人、
白雪窓枠・
久峨鐶・
斗修星羅と、
小川原高校付属中学2年生の
焔火緋花・
葉原ゆかり・
浮河真白である。
お互いに簡単な自己紹介をした後、建物の中へと6人は入って行った。
「それじゃー皆さん!今日はめいっぱい楽しみましょう!」
「おっ、おー!」
「おおっ、白雪さんけっこうノリいいですねぇ」
「……いっ、いや、そんなこと………」
(うわああああああああ!うっかりノセられたあああああああ!鐶君にも見られたあああああああ!?)
「白雪さん?」(かわいいのぅ………)
焔火の号令についノセられて右手を高くあげた後、白雪は突然顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。
それを見た焔火は目を細めて口を緩ませ、小動物を見るようなほっこりした表情になった。
そこへサングラスをかけた伊達男、久峨鐶が白雪の頭をそっとなでながら優しくささやいた。
「そう恥ずかしがることはないよ窓枠。今の仕草も可愛かったよ」
「そうそう!とっても可愛かったです!」
「ええええ、そそそそうかしら………」
「焔火さん…だっけ?彼女は本当に元気な娘だねぇ」
「ええ。緋花ちゃんはちょっと暴走しがちな所もありますけど、あの娘を見てると元気が出てきたり、何か憎めなかったりするんですよね」
「なるほど。窓枠が断らなかったり嬉しそうにしてたわけだ」
「ところで久峨先輩、つかぬことをお聞きしますが白雪先輩とはどのようなご関係で?」
「ん?恋人だよ」
久峨は爽やかに微笑みながら白雪との恋人関係をあっさりカミングアウトした。
「あっさりカミングアウトしおったーーーーーー!!」
質問をした葉原はトレードマークの赤い眼鏡を軽く上げながら驚き、
「あっさりカミングアウトしないでよおおおおおおおお!たま…久峨君!」
白雪は両手で口と頬を塞ぎながら顔を真っ赤にしながら叫び、
「ほほー、お2人は恋人同士でしたか!いいですね!私は応援しますよ!」
焔火は後ろで結んだ髪を犬の尻尾のようにピョコピョコ忙しく動かしながら、
まるで自分のことのように満面の明るい笑顔を見せて白雪と久峨を祝福した。
そんな女性陣の反応に対して久峨は嫌な顔1つせず、晴れやかな表情で堂々と話し出した。
「俺は窓枠の恋人であることを誇りに思っている。だから恥ずかしいことなんかないよ。それに俺は君達他校生の友人との交流も大事だと思っている。せっかくだし、さっき焔火さんが言ってた通りみんなで楽しもう」
「紳士的な対応ですね」
「おおー、オトナですねぇ!さっすが久峨先輩!」
「………あぅ……」
「ありゃ、白雪さんったら顔真っ赤になって固まっちゃった」
「緋花ちゃんが茶化すからですよ!」
「最初に聞いたのはゆかりっちじゃんかー」
その様子を斗修星羅は少し離れた距離で複雑な表情で眺めていた。
(この焔火って奴がヒメを口説いた張本人か。できればヒメと2人きりが理想だったんだけど………)
「アナタ明知の『女帝』サマっスよねェ」
そんな斗修に浮河真白が後ろから声をかけてきた。
「まさか明知の『女帝』サマにお会いできるとは思いませんでしたよ」
「アナタは……フッ、私もまさか小川原の『策士』サマにお会いできるとは思わなかったわ」
「………ククッ積もる話はお互いあるでしょうが、まあ今日は楽しみましょうか」
「フフフ、そうね」
笑顔で微笑みあう『女帝』と『策士』。しかしその目は全く笑っておらずむしろギラついていた。
ただ単に2人ともわりとツリ目で目つきが鋭く見えるだけかもしれないが。
―――――――――――――――
テーマパークプール『クリア・シー』は50メートルプールや流れるプール、ウォータースライダーに
ジャグジープールなど様々なプールがあり、中には学園都市の『外』にある『海』を再現したプールもある。
まだまだ暑い日が続くためかどのプールも人が多く盛況であった。
そんな中、更衣室から青いビキニの少女と黒の紐ビキニの少女が出てきた。
「よーし!それじゃーさっそく遊びましょう!!」
「ちょっと焔火、はしゃぎ過ぎて騒ぎは起こさないでよね。私達は風紀委員なんだから」
「わかってますって!騒ぎにならない程度に楽しみましょう!」
(ホントにわかってんのかしらこの娘……ってデカッ!いや私も人のことは言えないけど)
明るい表情で元気にはしゃぐ焔火緋花と、彼女をため息交じりにジト目で見つめる斗修星羅であった。
焔火は以前第5学区で購入したオーダーメイドの青色のビキニを身につけており、
とても中学生とは思えない、いや大人でもまずいないほどのデッカイ胸を少し窮屈そうに収めていた。
わきにはビーチボールを抱えており「ビーチボールが3つ!?」と思った通行人もいるとかいないとか。
その水着姿はとても中学生とは思えないような健康的な色気を振りまいていた。
「それにしても……斗修先輩の水着姿って大人っぽいですよね!」
「フフッ、ありがとう」
焔火に褒められて目を細めて微笑み、左手で髪を軽くかき上げる斗修。
その腰まである艶やかな髪と同じ黒の紐ビキニが、対照的な雪のように白い肌を際立たせる。
学校内ではともかく、学生寮では臙脂色のジャージという残念っぷりを発揮する斗修だが今回は違う。
白雪と遊びに行くため厳選に厳選を重ねて選んだ『勝負水着』がこの黒の紐ビキニなのである。
その水着姿はとても中学生とは思えないような妖艶な色気を醸し出していた。
「でもアナタが言うと嫌味にも聞こえるからせいぜい気を付けることね」
「ええっ?そんなつもりないですよ?どうしてですか?」
「………アナタねぇ、少しは自分のスタイルの凶暴性を自覚しなさいよ」
「わかってますって!犯罪者と戦うときもやりすぎないようにいつも気を付けてます!」
「いや戦闘スタイルって意味じゃなくてさ」
(つーか何よそのふざけた胸。しかも年下なのよね……)
焔火の能天気さに対し、半ば呆れがちにツッコミを入れる斗修。
そんな2人は中学生とは思えない抜群のスタイルも相まって、男女問わず注目の的となっていた。
そんな中、他の女性陣も更衣室から各々の水着に着替えて出てきた。
「あっ!斗修先輩!他のみんなも来ましたよっ!」
「そうね。………ふぅ………」
(ヒメの水着姿最高ウゥゥゥゥ!!ヒメマジ天使!ヒメマジ純白天使イィィィィ!!)
(斗修先輩、急にため息出してどうしたのかな?)
つつじ色の髪で、純白のワンピース水着に身を包み浮き輪を持った美少女が降臨した。
その瞬間周りの全ての人間は一瞬にして背景と化した。彼女は正に罪な美しさであった。
身に着けている純白のワンピース型の水着が、無駄に自己主張し過ぎない慎ましやかな肢体を際立たせる。
ビキニは目線が上下に分かれますけどワンピースは身体のラインが出ますから細い方しか似合わないんですよ!
その水着姿はとても中学生とは思えないような………否ッ!正に地上に降臨した天使そのものであったアアッ!!
と斗修は思い、愛しの白雪の水着姿に内心では激しく荒ぶっていた。
若干賢者的なため息が漏れてしまったものの、焔火たち後輩や他の大勢の目もあってか
今度はさすがに何とか暴走行為は抑え込んだようだ。
「斗修さんも焔火さんも思いっきりみんなの注目集めてるわね……」
「あの2人は反則的なスタイルですからね。それはそうと白雪先輩も可愛いですよ」
「そう?ありがとう………」
(ぬおおおおおおお!やっぱ初対面の人に褒められるのは緊張するわああああああ!……でも悪くはないかな)
「水着の斗修先輩と緋花が突っ立ってるだけで、風紀委員のくせに思いっきり風紀乱してる臭いけどねッ」
「それは言わないお約束です」
白雪は先ほど斗修が語った通り、白のワンピース型水着を着て浮き輪を持っていた。
葉原は緑のワンピース型の水着に、トレードマークの赤い眼鏡兼水中眼鏡を付けていた。
浮河も一応黒のワンピース型水着を着ているものの、上に白いパーカーを着て麦わら帽子をかぶり、
防水加工付きのデジカメを首に下げていた。それは明らかに「私は泳がねーわよッ」と言わんばかりの装備だった。
「それに他人事のように言っちゃってるけどさァ~」
ムニュッ
浮河と白雪の目がギラリと光り背後から葉原の胸を揉みだした。
「きゃあああああ!何するんですか!」
「アンタもよ!ゆかり!この裏切り者があああァァァ!」
「斗修さんや焔火さんほどではないけど、確かに年下とは思えない大きさ……」
「白雪先輩まで一緒になって揉まないでください!」
葉原ゆかりは、浮河と白雪が言うように普段は制服姿や露出度の低い服装が多いため目立たないのだが、
焔火や斗修には及ばないものの胸はけっこう大きい、いわゆる隠れ巨乳であった。
現に白雪や浮河の片手では収まりきっていなかった。
思わず葉原は2人の手を振りほどいて距離を取る。
「もう!2人とも悪ふざけが過ぎますよ!それに何ですか!裏切り者って!」
「………ごめんなさい」
「ゆゥゥゥかりちゃァァァン!テメー初めて出会った時は私と同じくらいだったじゃねーか!いつの間にそンなに成長しやがったンですかァ?アァン?」
「真白ちゃんはこの間も一緒に水着買いに行ったじゃない!完全にどこかの不良みたいな口調になってるし!」
葉原に叱られて白雪は素直に謝ったが、浮河は完全に開き直っている。
「クソッ!ムサシノ牛乳か!緋花がしきりに勧めるムサシノ牛乳のせいなのかーーー!」
「そんなに言うなら真白ちゃんも飲んでみたらいいじゃない!」
「私は牛乳が死ぬほど嫌いなのよッ!コノヤロー!」
(ムサシノ牛乳かぁ……今度飲んでみようかな)
会話中に出てきたムサシノ牛乳が少し気になった白雪をよそに、
浮河は懲りずにもう一度葉原の胸を揉もうと手を伸ばし始めた。が、その魔の手が届くことはなかった。
焔火が後ろから浮河を持ち上げ、彼女の暴走を阻止したからである。
「はいはい、あんまり皆さんに迷惑かけちゃだめだよー。真白っちー」
「ええい!緋花!HA・NA・SE!!私はこの裏切り赤メガネに制裁を………」
「………ねぇ真白っちー?あんまりオイタが過ぎると力加減誤っちゃいそうなんだけどー?」
今の浮河は焔火に後頭部を掴まれて右手1本で持ち上げている状態だ。
つまり焔火が右手にちょっと力を入れればすぐにアイアンクローに持って行ける体制であった。
もちろん浮河も焔火の手を振りほどこうとするが、ビクともしない。
状況を把握し顔から嫌な汗がダラダラと出てくる浮河。そこで彼女が取った行動は………
「………スミマセンデシタ………」
さすがに浮河もアイアンクローはくらいたくないのか素直に観念した。
それを受けて焔火も浮河をそっと地面におろす。
状況が落ち着いたことを見計らって、斗修は年長者として(白雪とは同い年なのだが)
皆をまとめるため両手を叩きながら皆を注目させつつ声をかけた。
「ハイハイ、何やってんのよアナタ達。ショートコントやってないでさっさとタウロスと合流するわよ。あいつも待ちくたびれてるだろうし………!?」
「「「!?」」」
斗修が言った通り合流場所には確かに「明知のタウロス」こと久峨鐶が待っていた。
しかし彼の姿を見た途端白雪以外の少女たちは一瞬言葉を失った。
別に彼の水着が褌(ふんどし)だったりブーメランパンツだったり変わった水着だったりしたからではない。
何と久峨はプールでも、いつも愛用しているサングラスとマフラーを着用していたのだ。
「えっと…久峨君、おまたせ」
「やあ、待ってたよ。みんなよく似合ってるね」
「「「「ちょっとまてーーーーーーーーーー!!」」」」
思わず絶叫しツッコミを入れる白雪以外の女性陣4人。
「ん?みんなどうしたんだい?」
「タウロス、アナタふざけてんの?サングラスは百歩譲っていいとして何でマフラーつけてんの?」
「これは窓枠からプレゼントされた手編みマフラーだからね。肌身離さず持っておきたいんだよ」
「久峨君………そこまで大事に………」
(鐶君ったらああああああああ!そこまで私のプレゼント大事にしてくれてるなんてえええええ!!)
自分からのプレゼントを大事にしてくれている久峨に、しどろもどろになりながらも改めて感謝する白雪。
若干周囲の温度が上がったのはおそらく興奮した彼女の能力のせいだろう。………たぶん。
恋人からの言葉に対し、物静かに見えて実は心では荒ぶっている女・白雪窓枠であった。
「あーそういうことですか!いいですね!愛ですねっ!」
「ククッ、愛ですねェ~」
「オイそこのマセガキども、あっさり納得するんじゃないわよ。白雪さんもいいの?プールにまでマフラー持ち込まれて!」
「大丈夫です。学園都市の愉快な技術で防水加工付きです」
「そういう問題じゃねーーーー!しかも普段絶対やらないサムズアップまでしてるし!つーか何故か私、普段やらないツッコミ役になっちゃってるし!!」
「ククッ、大変ッスねェ~斗修先輩」
「アナタ達のせいでしょうが!」
そんな普段はあまりやらないツッコミ役に早くも疲れていそうな斗修に、
この会話に唯一加わってなかった葉原が静かに話しかけてきた。
その間に白雪・焔火・浮河は、久峨のマフラーそのものの話や馴れ初め話に移ったようだ。
「何か友人たちがご迷惑おかけしているようですみません。斗修先輩」
「葉原…だったわね?いいわよ。アナタのようなまともな人もいるから。いっそ全員『倫理転換(モラルコンバータ)』してやろうかなとかは思ってないわよ」
「それはそれで恐いからやめてください」
葉原は斗修からのちょっと恐い冗談に苦笑いしながら、思わず1歩後ろに引いてしまった。
それを見て斗修は軽く口元を緩ませながら葉原に話かけた。
「フフッ冗談よ。アナタのことも聞いているわ。プライベートでも風紀委員でもじゃじゃ馬ばかりで大変よね」
「確かにツッコミ疲れたり、本気でぶっ飛ばしてやろうかなと思うことは多々ありますね」
「………アナタも大概ね」
「でもあの娘たちや他の皆さんのおかげで、元気付けられたり楽しかったりすることも多々あります。何だかんだでレベル0の私にも気さくに接してくれる、いい親友たちです」
「そうなんだ。アナタ達はお互いにいい友達を持ったわね。大切にしなさいよ」
「ありがとうございます。斗修先輩にとっての白雪先輩や久峨先輩もそうですよね」
「白雪さんはともかくタウロスはそうでもないわよ」
「そうですか?私にはいいお友達に見えましたよ」
葉原は柔らかく微笑みながら親友たちのことを嬉しそうに語った。
斗修も言葉では照れ隠ししているもののまんざらでもない様子だ。
そこへやっとガールズトークから開放された久峨がみんなに声をかける。
「それじゃ、そろそろプールに行こうか。急にプールに飛び込むのは危険だからね。軽く準備運動してから入ろう」
こうして一行はプールに入る前の準備運動を行った。
が、先ほども注目を集めていた女性陣の水着姿といい、久峨のサングラス+マフラーな格好といい、
傍から見るとちょっとシュールな光景だったかもしれない。
「よーし!張り切って思いっきり遊びまくりましょう!!行きましょう白雪さん!目指せ全プール制覇っ!」
「あっ、ちょっと焔火さん!私泳げないんだけど」
「大丈夫!何かあったら私が助けます!それに浮き輪で浮かんでいるだけでも気持ちいいものです!」
「焔火!待ちなさい!さりげなくヒメの手引いてんじゃないわよ!それにヒメを助けるのはこの私よっ!!」
「ちょっと!皆さん走ったら危ないですよ!」
「やーれやれ、騒がしい1日になりそうねッ」
「そうだね。でも元気があっていいんじゃないかな。窓枠や斗修も学校よりも何だか生き生きしているようだしね」
準備運動も終わり、いよいよ本格的に『クリア・シー』のプールで遊ぶこととなった一行。
果たしてどのような1日になるのだろうか………
最終更新:2013年09月27日 05:43