ある『客人』がこう尋ねた。



「本気なのね?」



ある『客人』はこう応えた。



「あぁ、本気だとも。ニュースで『シンボル』が報道された今こそ絶好の・・・!!!」



ある『客人』は常のように監視報告を行う。



「今の所警備員達に妙な動きは無いでぇーすっ」



刺客という名の『客人』達は静かに、しかし心だけは荒々しく強襲する機会を図る。






時刻は午後4時を回り、夏の日差しもようやく陰りが見えて来た頃碧髪の少年界刺得世は本日2度目の許可外出に繰り出していた。

「(何か、色々面倒臭くなって来たな。リノアナの件にしろチェス好きなオッサンの件にしろ俺の予測とは結構ずれてきた感がある)」

特に目的地など決めずに、ブラブラと当ても無く街を彷徨い歩く。多くのビルが立ち並ぶここ第5学区には幾らでもある路地裏を口笛を吹きながらぶらつく。
路地裏は影になっているため、夕方とはいえ体感的にまだまだ暑く感じられる空気の渡る少年にとっては望ましい環境と言える。

「(『外』へ出向く前に、もう少し情報収集をしておいた方がいいかもな。・・・確か花多狩姐さんの話だと、数日中に多くの救済委員が集う救済会議なんてモンが開催されるんだよな。
十二人委員会の1人として出席して情報収集するのも悪くない。後で鴉に連絡しとこう。ヒバンナの姉貴を見舞いに病院へ来てた筈なんだが、もう帰っちまったみてぇだし)」

骨折のために常に左腕を固定している違和感を抱えながら歩く界刺の足跡には、実はある一定の特徴があった。
それは、『警備員達の監視網から外れた路地裏を歩いている』点。【叛乱】の結果多くの風紀委員・警備員が入院中の総合病院の周囲は現在健在な警備員が見回っている。
界刺も昼頃の外出では警備員の警戒網の中を歩いていた。しかし、今回はその監視網から外れた区域を歩いている。

「(さて・・・華憐が言ってた“尾行者”はどの辺で仕掛けて来るか。このタイミングで真刺達を尾けてたってことは間違い無く『シンボル』が狙い。
涙簾ちゃん達に叱られるのを覚悟で破輩以外には内緒で外出して来たんだ。『怪我人の俺』という餌に喰い付いて貰わなきゃ困る)」

理由は苧環が齎した情報。高位の『電撃使い』である彼女は、お嬢様学校に通う生徒を狙った誘拐等への対策のために外出時は意識的に電波レーダーを張っている。
そんな彼女は病院へ来る前に妙な感覚を抱いた。具体的には不動・水楯・仮屋と自分含む常盤台生が合流して以降、
自分達と距離を狭めたり遠ざかったり等の不審な挙動を見せる人間が居ると電波レーダーで看破したのだ。但し、途中からレーダー網に掛からなくなったために、
苧環としては“尾行者”なのかそうでないかの確信は持てず、とにもかくにも界刺の判断を仰ごうと考えたのだ。
この情報を伝えられた界刺は苧環に口止めをしている。元々の予定で夕方にも外出することになっていた身としては好都合な展開。
苧環の感覚が正しいのか間違っているのかなど特に気にしてもいない。火の無い所に煙は立たない。遅かれ早かれ『シンボル』は狙われる。ならば・・・

「(『光学装飾』の監視では、特に妙な動きをしてる人間は見当たらない。いざとなったら警備員達の警戒区域へ突っ込めるようルートには気を付けてる)」

『シンボル』のリーダーとして襲い掛かって来る危害を排除し、できれば有益な情報を得たい所。それによって【叛乱】の影響が何処まで及んでいるかも見極めたい等と、
連々と思考しながらも警戒を怠らない界刺が道路を隔てた先にある新たな路地裏へ足を踏み入れた・・・その時!!






ポタッ!ポタッ!ポタッ!






見上げれば雲一つ見当たらない空・・・それなのに降って来る多量の水粒が碧髪の少年の体を濡らす。
決して雨粒などでは無いそれ等は当然のことながら自然現象では無い。人為的・・・それも超能力という学園都市に生きる者にのみ与えられた特権が次なる姿を見せる。






ピキピキッッ!!!






たちまちの内に少年を濡らしていた水粒が氷へと姿を変える。温度変化による固体化では無く、状態変化による液体から固体への変貌。
故に実在の氷には存在する冷たさ等は感じないものの水分子制御による固体化によって界刺の行動を封じ込める。






ガキン!!!






少年の頭上に大きな氷柱が顕現する。空気中に存在する水蒸気を1箇所へ集中させた後に状態変化によって十分な殺傷能力を持たせた氷塊が、
氷漬けによって身動きの取れない少年目掛けて突貫する。ここから何百mも離れた場所で標的を潰す確信を抱いたことで邪な―僅かに引き攣った―笑みを浮かべる刺客足る銀髪少女は・・・







ジュアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!






突貫させた氷柱や挙動を封じ込めていた氷が一瞬で解け、更には気化した光景と感触をその身に得る。
半径15m内を赤外線加熱炉化する【千花紋様】によって窮地を脱した少年は、すぐさま『光学装飾』による本格的な光学偽装を展開し、“尾行者”を幻惑及び捕捉に掛かる。
一方、双眼鏡に映る光景が先程と一変したことを認識した少女は視覚による捕捉では無く、干渉している水蒸気を用いて標的の動向を探りながら後退及び新たな攻撃を仕掛け出す。
追う者と追われる者が一瞬一瞬で入れ替わるも、少年少女は互いの目的を達成するために研磨して来た能力を振るう。そこへ、尋常ならぬ想いを込めながら。






「(水分子の制御が奴の能力で揺らがされた・・・やっぱり500mギリギリだと操作精度が相当落ちる!!)」
「(“尾行者”の能力系統は多分涙簾ちゃんと同じ水流操作系。しかも、状態変化を行使できるとなるとレベル4クラスか?)」

銀髪の少女霧流寿恩は安全策に拘る―自分と仇との因縁に本当は『関係無い』標的を潰す実感(ざいあくかん)を殊更強く感じてしまう近距離戦を無意識の内に忌避した―余り、
水分子制御の精度低下を招いた己の戦術ミスに歯噛みする。一方『光学装飾』による走査に集中する界刺は“尾行者”の能力について仲間の能力を参考に分析を続けて行く。

「(あの無駄にキラキラしてる“変人”は光学系能力者の可能性が有力って話。私の氷塊を気化まで持って行った所からして、可視光線だけじゃ無くて赤外線も操作可能なのか!!
奴の光学偽装範囲がどれ程のものなのかは知らないけど、水蒸気による知覚能力を有する私なら視覚に頼らなくても行動はできる!!)」
「(水流操作系で一番気を付けないといけないのは、『人体内部の水分操作が可能か不可能か』だ。今の襲撃を見ると、少なくとも接触無しで人体の水分は操作できないんだろう。
さて、今後“尾行者”の行動としては俺の光学攻撃対策のために水なり水蒸気なりを使った知覚方法を用いながら攻撃を続行するって所か)」
「(怪我をしてるから、足の速さは私の方が上。なら・・・複雑に入り組んでいる路地を利用して奴の光学攻撃から逃れつつ・・・)」
「(んふっ。俺の光学監視を機械や『電撃使い』と同じ代物と思っちゃ困るぜ!!)」

高位能力者らしく、双方共に起きた事象・得た感覚等から相手の行動を的確に分析して行く。ならば、何処で差異が出始めるか。
それは、相手の能力と同系統能力について何処までの知識を有し、現場での情報も合わせて相手が如何程のレベルまで能力行使が可能なのかを予測できるかに尽きる。



カクッ!カクッ!



不可視である“超近赤外線”がレーザーでは無くレーダーとして界刺自身から放たれるのとほぼ同じタイミングで屈折する。
光学操作の『基本』である光学偽装に必須な光の屈折を思いのままに操る界刺は、まず干渉範囲内にある物体から放たれる遠赤外線を感知し周囲の位置取りを把握、
怪しい行動を取っていると見做した者目掛けて“超近赤外線”を屈折させながら差し向ける。当然“尾行者”の体は衝突した“超近赤外線”の何割かを跳ね返すのだが、その反射波を界刺は更に屈折させて自身の瞳へ戻すことで“尾行者”の姿を認識(=暗視と同じ光景)する。
更に、赤外線によって“尾行者”特有の静脈リズムを知覚することで敵が顔を隠したとしても識別可能になった。
『自身から半径500mまで操作可能』と『自身から半径300m及び、自身を操作範囲の一番端にすることを条件に一方向に限り600m先まで操作可能』のどちらが優れているか一概に断言はできないが、
今回の場合は電波レーダーとは違い『視覚できる』赤外線の性質も相俟って後者が前者に勝る結果を生み出した。

「(女・・・か。まぁ、いいや)」
「(こっちへ向かってる!!?まさか、奴の光学監視に引っ掛かった!!?)」

位置を捕捉した界刺の速度が上がる。屈折させるが故の誤差や演算負担等からさすがに通常のレーダーと同等の効果は得られない。
しかし、それに近い効果や通常では得られない効果を生み出した『光学装飾』が次なる一手を打つ。

「【千花紋様】もどき!」
「グゥッ!!?」

半径15m内に限られる【千花紋様】とは違い、“通常”の赤外線加熱は『光学装飾』の制御範囲内であれば何処でも行使可能である。
霧流が遠隔干渉によって水蒸気を液体や固体にしたように、界刺は遠隔干渉によって霧流へ赤外線を押し寄せる。
霧流も咄嗟に操る水を防御用として自身の周囲に敷いた。だが、これが逆に霧流の行動を阻害する結果となった。
近付いて来る“変人”から距離を取りたい―捕捉されたことを理由に『引き上げたい』―思惑を、覚悟を決めて強襲を仕掛けた激情が邪魔したことも大きいと言えるだろう。

「ハァ、ハァ・・・よっこいせっと。んふっ。俺に何か用かな、お嬢さん?」
「・・・!!!」

様々な思惑や感情を抱いた2人が顔を合わすのに数分も掛からなかった。荒い息を整えつつ胡散臭い笑みを浮かべる“変人”を瞳に映し霧流は息を呑む。
強襲そのものは失敗に終わる。ここからは・・・逃げも隠れもできぬ本気のぶつかり合い。






ある『客人』は再び尋ねた。



「対象が止まったわ。ここでやるの?」



ある『客人』も再び応える。



「おぅよ!!ふはははは・・・血沸く血沸く」



ある『客人』は先程までの戦闘を眺めて冷や汗を流す。



「俺以上の水流操作系が先に“成瀬台の変人”を襲ってるなんて・・・!!」



ある『客人』は襲撃前にも関わらず能天気そうな声を挙げる。



「えへへ~。なんだか、あの人を思い出す追い詰め方だなぁ」



ある『客人』は舌なめずりしながら強襲の合図を待つ。



「今日は俺が一番槍を務めさせて貰うぜ」



刺客という名の『客人』達は穏やかに、しかし瞳に秘めた光を激しくギラつかせながら時が満ちるのを待ち続ける。






「よくここまで来れたわね」
「お褒めに預かり光栄の至りです。んふっ」

銀髪が路地裏を流れる風で靡き、碧髪に乗る水粒が『光学装飾』によって生み出される光によって色鮮やかに彩られる。
複雑に入り組んだ路地の中故に、外を走る車両の音も途切れ途切れでしか鼓膜を震わせない空間で対峙する霧流寿恩と界刺得世。
状況的には強襲側である霧流が不利。だが、逆に言えば開き直れる展開とも言える。

「で、俺に・・・いや、『シンボル』に何の用だい?」
「・・・ハッ。『シンボル』なんかに用は無いわよ」
「・・・どういう意味かな?」

ここまで来れば抱く謀りごとを隠すのは無駄であり無用である。何より、少女の心の中で酷く荒れ狂う憎悪の感情がこのまま黙すことを拒否する。

「私が用があるのは・・・あなたよ、“変人”」
「俺?俺、君と会うのは今回が初めてな筈だけど」
「えぇ、そうね。私も今回が初めてよ」
「理由を聞こうか?『シンボル』に用が無くて俺に用がある理・・・」
「フフッ。私と同じように大切なものを奪ってあげれば、あの殺人鬼も私の悲しみや苦しみがわかるのかしらね?フフッ、フフフッッ、フハハハハハッッッ・・・・・・」
「殺人鬼・・・?」

眼前の銀髪少女の狂ったような笑い声の中にあった『殺人鬼』という言葉から、界刺は自身に重傷を負わせたあの陰気な男を瞬時に思い浮かべるが、
すぐに自分の想像が間違っていることを当の霧流から教えられる。

「えぇ。殺人鬼・・・・・・水楯涙簾よ!!!」
「涙簾ちゃんが殺人鬼!?・・・・・・・・・まさ、か・・・君は」

告げられるのは『シンボル』の仲間であり、界刺にとって“特別”な少女である水楯の名前。彼女を殺人鬼と呼ぶ霧流の言葉から少年はある事実を想起する。
去年の夏休みに水楯の口から聞いたあの事実を。正当防衛として自身の能力であるスキルアウトを殺したという事実を。

「私の名前は霧流寿恩!!あの殺人鬼の手によって実の兄を殺された妹よ!!!」
「(・・・成程。また何てタイミングで・・・!!)」

少女の双眸が凄まじい険しさを醸し出す。今の今まで秘めていた憎悪の激情。それを吐き出した途端、少女は溢れ返る感情を抑えられなくなった。

「その表情だと、あなたもあの女が殺人を犯したことを知ってるようね!!ハッ、よくも殺人を犯した女と平然と付き合えるものね!!?」
「正当防衛じゃなかったけか?」
「正当防衛!?えぇ、そうよ!!それが何!!?殺人には変わり無いでしょ!!?」
「・・・そりゃね。でもさ、確か君のお兄さんが凶器片手に涙簾ちゃんを襲ったんでしょ?暴漢目的でさ。んで、パニックになった涙簾ちゃんの能力が暴発して・・・」
「パニックになったって誰が証明できるのよ!!?本人にしかわからないじゃない!!?そんな不確かなもので殺人を犯した罪が消えてたまるもんか!!!」

抑えられない。いや、抑える気が更々無い。無くなった。亡くなった兄共々『置き去り』であったが故に誰にも打ち明けることができなかった激情。
それを、今この瞬間目の前の男へ遠慮無くぶつけることができるのだ。あの仇の仲間に、殺人鬼と平然と付き合える“変人”に。何を躊躇する必要がある。

「悪いけど、俺は君の意見に同意しかねるな。最初に凶器を持って性犯罪へ及ぼうとしたのは君のお兄さんの方だ。
先に手を出したら・・・能力者が数多く存在する学園都市の学生へ凶器を振り向けたらどうなるかお兄さんだってわかってたんじゃないの?」
「だから、そんなこと殺人の罪に比べたら・・・」
「涙簾ちゃんは罪を問われていない。正当防衛としてね。それが現実。揺るがない事実。君が何を言おうが変わらない」
「・・・!!!」
「もし、君の言う通り涙簾ちゃんが殺人という事実から目を逸らしているとして、君だってお兄さんの凶行から目を背けていないかい?
君はさっき『私と同じように大切なものを奪ってあげれば、あの殺人鬼も私の悲しみや苦しみがわかるのかしらね?』と言ったよね?
よりにもよって、君は君が仇と見做す涙簾ちゃん以上の凶行を自分の手で犯すつもりなのかい?」

界刺は自分の言葉で水楯と霧流の問題が解決するわけが無いことを重々承知しながら一般論を語り続ける。
そもそも、界刺は2人の問題を自分の力で解決するつもりが無い。解決できるのは水楯と霧流の2人のみ。できるのは補助くらい。
単純な『白』と『黒』で解決できない両者の因縁を把握するために、今は銀髪の少女の本音を可能な限り引き出すべく敢えて霧流を苛立たせる言葉を並べ立てる。

「一度壊れた命は何があろうと戻らない。人の心も同じよ。私は兄さんを奪われたあの日・・・・・・壊された。壊れた私に常識を期待する方がおかしいわよ。
私は・・・私から兄さんを奪った『水使いの能力者』は絶対に許さない。何があろうと必ず罪を償わせる!そのためには何だってやるわよ!!」
「へぇ・・・何をして来たってのさ?言っとくけど、涙簾ちゃんは高位の水流操作系能力者だよ?俺にやったようなやり方でどうやって罪を償わせるのさ?
というか君だって水流操作系なのに、『「水使いの能力者」は絶対に許さない』だなんて言って・・・・・・もしかして“凶行を犯そうとする自分のことも許していないの”?」
「・・・!!!わ、私に与えられたのは、兄さんを奪ったものと同じ忌々しい能力・・・・・・でも全ては復讐のため・・・・・・。
もうそれだけしか私にはないの・・・・・・。だから、徹底的に鍛え上げた!!兄さんと同じ奴等を狩る・・・無能力者狩り集団に雇われに行ってでも徹底的に!!!」
「(・・・・・・ふ~ん。この娘はお兄さん程には『堕ちていない』んだな、本当は)」

続々と漏れ出る霧流の本心に散りばめられたキーワードを吟味する“変人”は、ある可能性に気付く。
正直、銀髪少女の態度から彼女が無理をして自分と対峙しているのは火を見るより明らかだ。ならば、あの可能性は有り得る。
但し、その可能性を可能性より上へ持ち上げるには碧髪の少女の『決断』も必要だが。となると・・・

「(こうなりゃ・・・・・・ん?何か、こっちに近付いて来る人間が複数居る!?)」
「徹底的に・・・徹底的に潰す。容赦もしないし同情も抱かない!!私はあの女を・・・!!!だから、今ここであなたを!!!」

界刺がこの後の行動及び光学監視内を疾走する影達へ意識を振り向けている中、病的なまでに白い肌に覆われた体を震わせながら怨恨の念を吐き続ける霧流は、
己が目的を果たすために周囲に漂わせていた水壁の大部分を自身の懐へ集中させる。圧縮に圧縮を重ねた状態から放たれるウォーターカッターは鋼鉄すら両断する。
赤外線は残存の水壁で防ぐ。左腕を骨折しているらしい“変人”だ。どんなに虚勢を張った所で行動への悪影響は免れない。
殺気すら帯びた少女の視線が“変人”を射抜く。仇を討つためには何事も徹底的に動かなければならない。
そこまでしてようやく復讐を果たせるのだと“許せなくなる”自身へ語り掛けながら。









「待つがいい、銀髪の少女よ!!!その“変人”は俺達の獲物だ!!!」
「「!!!??」」









しかしながら、霧流の凶行は突如頭上から降って来た大音声によって中断を余儀無くされる。






「だ、誰よ!?私の復讐を邪魔す・・・・・・!!!」
「(何だありゃ!!?)」






復讐の邪魔をする新手に声を張り上げる霧流は、その途上で絶句してしまった。奇しくも、凶行を受ける側であった界刺も驚愕を言葉に表すことができなかった。
2人が言葉を失う程の衝撃・・・その根源は路地裏を構成する建物―高層ビルでは無く3階建ての建物―の屋上で偉そうにふんぞり返っている大男らしき人間他数名の風貌にある。






<定時報告でぇーすっ。今の所警備員達の行動に変化無ぁーしっ!!>
<えへへ~。サポートは万事僕達に任せて下さいね>
<錬児。今はまだ大丈夫だけど、近くには警備員達が居るから早目に着けなさいよ。他の皆も気を付けて>






屋上に居る人間達に装着されている“ケモミミカチューシャ”に内蔵されている通信機から、活動時は主に後方支援部隊を務めることが多い逆咲はごろも(さかざき― )、
屋布笑治(やしき わらじ)、貴常野宮(きじょう のみや)達3名の声が主に実戦部隊を務める者達へ届く。
特に、副頭領である貴常には近くに警備員達がウロついていることに対する警戒心が言葉の端々に宿っている。






「錬児!!何回も言ってるが、今回は俺が“変人”を頂くぜ!!独楽田!!テメェはあの女な!!」
「ええぇ!!!復讐が何とか言ってるヤバ気な女なんか相手にしたく無いワン!!教祖様もそう思うワン!!?」
「いや・・・お前にはあの女を任せる。お前だからこそ任せられる大任だ。頼むぞ」
「きょ、教祖様・・・!!了解ワン!!!」






下半身の筋肉が異様に膨れていいる宇佐美美兎(うさみ みと)の無茶振りに堪らず頭領に泣きつく独楽田剣太(こまだ けんた)だったが、
派閥長及に組織全体の頭領も勤める黒井錬児(くろい れんじ)の信頼感溢れる頼みを耳にして、文字通り尻尾を振って歓喜を示す。
屋上に立つ人間は彼等3人。この内2人は頭にケモミミカチューシャを装着しており、他にも獣の尻尾やこの気候の中で蒸れそうなふわふわグローブを身に付けてたりする。
顔は犬やウサギを模した特注の仮面によって隠されているため、常人には仮面の下に隠れる素顔を窺い知ることはできない。






「ふはははは!!!『獣耳衆<ケモミミスタ>』推参!!!さぁ・・・『シンボル』の“変人”よ!!!これより貴様にケモミミの素晴らしさを叩き込んでやろう!!!いざ参る!!!」






碧髪の少年と銀髪の少女が目を白黒させている中、カチューシャでは無く本当にケモミミを『移植』した頭領黒井が組織としての活動開始の旨を高らかに宣言する。
学園都市の学生の中で、ケモミミ・尻尾をこよなく愛する者たちが結成した非公認グループ・・・刺客足る『獣耳衆』のテロ()活動の標的は・・・・・・
【『ブラックウィザード』の叛乱】にて名が上がった『シンボル』のリーダー界刺得世の首・・・では無く『界刺得世にケモミミを装着させること』。
【叛乱】が齎した余りにも意外な展開、予想だにしなかった『客人』の襲撃に界刺は心中で盛大に叫んだ。






「(何か、面倒臭そうな連中キタアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!!)」

continue…?

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最終更新:2014年01月24日 16:33