第九章 真相回答《アンサートーク》

第五学区 軍隊蟻《アーミーアンツ》第十九支部

軍隊蟻《アーミーアンツ》はそこそこ規模が大きく、学区全域に支部という名の隠れ家を持っている。
それは大量に不法所持している銃火器の隠し倉庫として使われており、大型兵器をパーツごとに分解して格納しているような場所もある。
第五学区には、そういった隠れ家が百個近く存在するのだ。

第五学区にあるとあるデパートの地下駐車場にある隠し扉。
その先にある地下通路を十数メートルほど行くと、50人ほど収容できる大きな地下室があった。
ここはデパート建設時に周辺にあった地下街と統合し、デパートと地下街を繋げる計画があったのだが、
建設途中に計画が頓挫してしまい、結果としてこの隠れ家のような地下の個室が出来上がった。

地下の個室には十数人のスキルアウトと毒島拳、冷牟田花柄がいた。
テーブルが中心にあり、毒島と冷牟田が向かい合うように鎮座していた。
毒島は冷牟田を疑う目で睨みつけ、その視線を冷牟田はサラリと受け流していた。

毒島「本当に、事件の真相を教えてくれるんだな?」

冷牟田「何度もそう言ってるじゃない?」

毒島「お前に何のメリットがあるんだ?」

冷牟田「そうねぇ~、メリットと言えば、私の敵とあなたの敵が同じと言う事。
あなたと軍隊蟻《アーミーアンツ》が共同戦線をはっているようにね。」

するとメンバーの一人のケータイが鳴り、電話に出る。
敬語口調で答えることから、相手はおそらく幹部3人の誰かであろう。
1分足らずで会話は終わり、男は電話を切り、毒島と冷牟田のところへと向かってきた。

蟻A「お嬢からの連絡だ。“振動使いの女を捕まえた。毒島拳と冷牟田はハインツホテルの1階ロビーまで来い。”とのことだ。」

冷牟田「そう。ご苦労様とでも伝えておいて。」

毒島「行くぞ。」

冷牟田と毒島は椅子から立ち上がると第十九支部の出入り口へと向かっていった。
ハインツホテルまでは少し距離があるので、メンバーの中から選ばれた運転手も同行する。
扉を抜け、十数メートルある地下通路を歩き、駐車場の隠し扉を開けた。

寅栄「おう。」

突如、目の前に寅栄瀧麻が現れた。
樫閑や仰羽たちが振動支配《ウェーブポイント》という怪物と戦ったこともいざ知らず、あまりにもお気楽な挨拶だった。

寅栄「第十九支部に来いってメール来てたから、来てみたんだが・・・・、どなた?」

寅栄はそう言って、冷牟田の方へと手を差し向けた。

冷牟田「冷牟田花柄よ。第二三学区国際特殊環境研究所に勤めているわ。」

寅栄(国際特殊環境研究所って・・・確か、木原故頼がいる研究所か・・・。)

寅栄「第二三学区で勤めているエリートが、俺たちスキルアウトに何の御用で?」

冷牟田「ちょっとした情報提供よ。今現在、あなた達が喉から手が出るほど欲しいもの。」

寅栄「それは、随分とありがたいものだな。」

毒島「悪いが、あんたのいない間に色々と取引させてもらった。ハインツホテルの1階であんたの仲間が待ってる。そこで話すそうだ。」

寅栄「それは良いんだが、あまり他人を隠れ家に入れるなよ。」

毒島「すまない。色々と焦ってた。」

寅栄「まぁ、1ヶ所バレた程度じゃ痛くも痒くもないけどな。」

冷牟田「あまり時間を無駄にしたくないわ。そろそろ行きましょう?」

寅栄「そうだな。・・・・おい。」

運転手「ウッス。」

寅栄「運転は俺がするから、お前らは第4支部に拠点を移せ。」

運転手「了解しました。」

言われるがまま、運転手をするはずだったメンバーは隠れ家に戻り、寅栄の運転する藍色のワゴンに毒島と冷牟田が乗り込んだ。

ハインツホテルは車で5分のところにあるホテルだ。14階建ての高層ホテルで設備も値段を考えれば素晴らしいの一言に尽きる。
しかし立地条件の悪さから現在は経営難に陥っており、裏の人間やヤバい人間を客にして金をもうけているため、
客の事情に踏み入らない経営スタイルを貫いている。
3人を乗せたワゴンがホテルの向かいの駐車場に止まり、降りてホテルの入り口へと向かった。
扉を開いた途端、1階ロビーに樫閑がいた・・・が、とても目も当てられない姿だった。
あまりの光景にカウンターにいる店員の目が死んだ魚のようになっており、寅栄、毒島、冷牟田の3人も唖然としていた。

寅栄「樫閑・・・。お前、その格好は・・・・」

樫閑「仕方ないじゃない。仰羽の手当てをしていたら、制服が血まみれになったんだから。」

毒島「いや、だからってその格好は・・・・」

そう、今、樫閑恋嬢は普段から来ている長点上機学園の制服を脱ぎ、私服姿だったのだ。
本邦初公開の私服姿。しかし、お世辞にもファッションセンスは良いとは言えない。
それどころか、赤の他人が大声を挙げて「ファッションセンス悪過ぎるだろ!」とツッコミを入れたいほど酷いものだった。
樫閑はいつも好き好んで長点上機の制服を着ているわけではない。
確かに長点上機の生徒というステータスは様々なところで物事を円滑に、時には都合よく進めさせてくれる。
それでもプライベートにまで学校の制服を着るというのは苦痛である。
しかし、彼女の私服のセンスはあまりにも酷く、軍隊蟻《アーミーアンツ》のメンバー全員が彼女にカノッサの屈辱の如く
総土下座で懇願したのは有名な話である。
ありとあらゆる視覚的暴力が込められたデザインの服、どこで売っているのか逆に知りたいような服で出迎えた樫閑は、
唖然する3人を尻目にある部屋へと案内した。

エレベーターに乗り、最上階の14階のボタンを押す。
エレベーターの中は洗練されたデザインではあるが、性質の悪い客を扱っているせいか、汚れとかが目立って、あまり宜しくない。
静かな音で慣性の法則を感じさせることなく、エレベーターは14階へと到着した。
そして、1401号室へと辿りついた。

樫閑「この中に振動支配《ウェーブポイント》がいるわ。」

冷牟田「そう。ご苦労様ね。」

樫閑「ぐっすり眠っているから、静かにしてくださいね。」

樫閑が1401号室を開けると、そこには極上のリラックスルームが存在していた。
クリーム色をベースとした壁紙が心を落ち着かせ、フカフカのベッド、ソファー、学園都市を一望出来る超巨大な窓ガラス、
クローゼットには流行のファッションからドレスまで取りそろえられている。
とてつもないVIP待遇だった。
そして、ベッドの上に振動支配《ウェーブポイント》の少女は寝ていた。
単身で軍隊蟻《アーミーアンツ》の武装部隊を圧倒し、大能力者《レベル4》の仰羽を軽くあしらうほどの怪物も、
寝ている姿は少女そのものであり、元々の素材は良いのだから、美少女さは際立っていた。

寅栄「随分とVIP待遇だな。俺もこんな良い部屋に住みたいぜ。」

樫閑「言葉が通じないなら、部屋の雰囲気で警戒心を削ぐしかないと思ってね。」

毒島「この部屋といい、ドレスといい、けっこう金がかかってるんじゃないか?」

樫閑「ええ。軍隊蟻《アーミーアンツ》の軍資金からちょっとね・・・。」

毒島(ちょっと・・・・って。どんだけ金余りしてるんだよ。)

寅栄「こう見てると、普通に可愛い女の子にしか見えないな。」

樫閑「そうね。出来れば、妹にしたいぐらいだわ。」

毒島「こいつが振動支配《ウェーブポイント》で間違いないんだな?」

冷牟田「ええ。資料通り、彼女が振動支配《ウェーブポイント》よ。」

毒島「じゃあ、約束通り、全てを話すんだな?」

冷牟田「約束は守るわ。ここで貴方達を敵に回しても私の利益にはならないもの。」

樫閑「隣の部屋に行きましょう。ここだと起こしてしまうわ。」

樫閑に連れられ、寅栄、毒島、冷牟田は隣の1402号室へと連れて行かれた。
1041号室の扉の前には軍隊蟻《アーミーアンツ》のメンバーであろういかつい男たちが警護していたので、
何かあればすぐに対応できる状態だ。

毒島「あの女には睡眠薬でも盛ったのか?」

樫閑「いいえ。普通に疲れて寝ているだみたい。相当な時間、徹夜でもしたんでしょうね。」

特筆すべきところもなく、隣の1402号室も同様の間取りだった。
真ん中にあるテーブルを4つの椅子が囲んでいた。
寅栄、樫閑、毒島、冷牟田・・・・

寅栄「おい。仰羽はどうした?」

樫閑「ケガが酷かったから、闇医者に見せてるわ。爆発騒ぎの直後に正規の病院なんて連れて行ったら、怪しまれるでしょ?」

寅栄「そうか・・・・って、あの爆発、お前らか!?第七学区まで聞こえてきたぞ!」

毒島「そんなことはどうでもいい!さっさと話を始めるぞ!」

毒島はそう憤り、テーブルを殴った。
姉の仇であり、この数カ月、自分の全てを捧げて捜したものが目の前にありながら、それを雑談なんかで遮られては堪ったものじゃない。
焦りと希望が彼の逸る気持ちを更に高ぶらせる。

寅栄「あ、ああ・・・。悪かったな。」

樫閑「そうね。さっさと話しましょ?・・・ね?冷牟田さん。」

冷牟田「そうね。時間はあまり無駄に出来ないわ。」

そう言って、冷牟田は自分が知る限りの真相を語り始めた。

“宇宙頭脳《スペースブレーン》”
宇宙空間という特殊な環境下における能力開発の効果を提示するプロジェクト。
宇宙開発も兼ねた莫大な資産を投資し、発案者である木原故頼の全てを賭けた宇宙頭脳《スペースブレーン》は度重なる非人道的な研究の結果、
振動支配《ウェーブポイント》という超能力者《レベル5》を生み出した。
誰もが超能力者《レベル5》の誕生に歓喜した。
学園都市に7人しかいない希少な存在を自らの手で生み出し、“8人目の超能力者《ナンバーエイト》”を生み出した。
宇宙頭脳《スペースブレーン》は振動支配《ウェーブポイント》こと四方神茜(しほうじん あかね)の研究へとシフトし、
莫大な研究成果と利益を挙げるはずだった。
…が、実験の副作用によって茜は自ら言語を発することが出来ず、他人からの言語を言語として認識できない脳となっていたのだ。
要するに、コミュニケーションが取れないのだ。そうなると実験への協力どころの話ではない。
下手すれば、意志が疎通しないことによる猜疑心による反逆だってありえるのだ。
研究に協力できない=研究価値がない、と見なされたことで振動支配《ウェーブポイント》は超能力者《レベル5》の序列に組み込まれることは無く、
実験が実験なだけに書庫《バンク》にも登録されず、“存在しない能力者”として扱われることとなった。
同時に宇宙頭脳《スペースブレーン》も“なかったこと”にされてしまったのだ。

そんな統括理事会の対応に憤慨したのは当然の如く、発案者の木原故頼だった。
宇宙頭脳《スペースブレーン》がもみ消されたことで、彼には出来そこないの能力者と用途不明の天文学的な借金が残されてしまったからだ。
だが、そこで諦めてしまっては全てが終わる。
故頼はすぐに行動を開始した。木原一族のコネで第二三学区の国際特殊環境研究所に研究室を構え、
茜と意志疎通が出来る手段を探し始め・・・そして、発見した。

国鳥ヶ原学園高等部二年 毒島帆露

彼女の能力“大衆念話《マセズトーカー》”は念話《テレパス》系では最高位の大能力者《レベル4》であり、非常に応用の効く代物であった。
更に、複数の人間の更新できるため、2人の会話をリアルタイムで研究員に伝えられると言うオマケ付きだった。

木原故頼を主とした研究チームは、“先天性言語障害のメカニズムの解明”という名目で国鳥ヶ原学園から毒島帆露を招集し、茜と交信させた。
冷牟田自身はその場にいなかったので、どのような状況下で交信が行われたかは不明だが、何かしらの意志疎通は出来ていたらしい。
意志疎通が出来たという事実に喜んだ研究員たちは、実験の度に毒島帆露を招集し、振動支配《ウェーブポイント》と交信させた。
宇宙頭脳《スペースブレーン》が帆露に露呈するという危険性を孕んでいたが、
帆露と茜の間の交信は抽象的なものが限界であり、茜を含む被験体は実験前まで冷凍睡眠《コールドスリープ》されていたため、
宇宙頭脳《スペースブレーン》がどのような実験を行っていたか知らず、自身の言語障害も実験の失敗によるものと思い込んでいる。

茜と帆露の関係も非常に良好であり、妹のように彼女に接していた。全てが上手くいったかのように思われた・・・が、
どこで情報を手に入れたのか、毒島帆露は宇宙頭脳《スペースブレーン》の存在を知ってしまい、その計画を告発しようとしたのだ。

そして、例の暴行強姦未遂事件が起きてしまった。
茜とのコミュニケーション相手や貴重な大能力者《レベル4》を失うのは大きな損失ではあったが、
宇宙頭脳《スペースブレーン》の露呈はそれ以上の、木原故頼だけではなく、学園都市の存続に関わる損失だった。

帆露の事件以降、姿を見せない帆露に数ヵ月後。帆露を探し求めるかのように茜は研究所を破壊して逃走した。

寅栄(俺が手に入れた宇宙頭脳《スペースブレーン》の資料とも辻褄が合うな・・・。)

毒島「姉さんにそんなことが・・・・。」

樫閑「あまりにも理不尽ね・・・。その木原って奴を蜂の巣にしたくなったわ。」

寅栄「それで、俺たちの味方をすることで、あんたにはどんなメリットがあるんだ?」

冷牟田「そうね・・・。私は、“ある人”の依頼で“ある物”を木原故頼から取り戻すように言われているの。
第二三学区の研究員って肩書きもそのために偽装したものよ。」

寅栄「じゃあ、俺たちを奪還作戦に協力させようって魂胆か?」

冷牟田「そこまでは頼んでいないわ。ただ、木原故頼の周辺で騒ぎを起こして欲しいの。出来れば、能力者絡みでお願いしたいわ。」

樫閑「そのある物ってのは?」

冷牟田「それは言えないわ。言ったら、あなた達が喉から手が出るほど欲しがるでしょうし・・・。」

毒島「とにかく、俺はその木原って奴を殺れればそれでいい。」

寅栄「俺たちは事件の解決と軍隊蟻《アーミーアンツ》の潔白。それが出来ないと商売が成り立たない。」

冷牟田「じゃあ、私たちの利害は一致したってことで良いかしら?」

寅栄「そう考えても構わないぜ。」

樫閑「でも騒ぎを起こすって言われても、第二三学区だと警備が厳重過ぎて手も足も出ないわよ。」

寅栄「それに、その騒ぎで俺たちが警備員《アンチスキル》のお世話になったら元も子もないぜ。」

冷牟田「警備員《アンチスキル》のお世話になるかどうかはともかく、故頼の周囲で騒ぎを起こすなら、一度だけチャンスがあるわ。」

毒島・寅栄・樫閑「「「なんだって!?」」」

冷牟田「一度だけ、第二三学区から出る時があるのよ。明後日に第一二学区で何か大事な実験をするらしいの。」

樫閑「大事な実験?」

冷牟田「内容までは知らないわ。知っているのは境界突破《アフターライン》って――――――――


「そう簡単に喋られては困るな。冷牟田花柄。」


一同「!?」

突如、聞こえた声と共に、全員が部屋の入り口の方へと向いた。
年齢は50代ぐらいだろう。ほぼ黄色に近い薄い茶髪、ほぼ同色の髭。
白衣を着ており、医師か研究職の人間であることが窺えるが、白衣が不釣り合いに思えるほど筋肉質な体型をしている男。
そう、紛れも無く、木原故頼だった。

冷牟田「木原故頼・・・!どうしてここが・・・」

故頼「暗部の人間はどうにも信用できないからね。用心深く、監視させてもらっただけだよ。」

毒島「尾行されてたのか・・・。」

全員が椅子から立ち上がり、突然の襲来に身構える。

故頼「そうだ。入口でちょっとした歓迎を受けてね。それを返させてもらうよ。」

寅栄・樫閑「「?」」

そう言うと、故頼は片手で体重80キロはあるだろう男を2人ほど部屋の真ん中へと投げつけた。
紛れも無く、茜のいる1401号室の入り口を護っていたメンバーたちだ。
全身に打撲痕があり、吐血していた。見るだけでも痛々しい姿だった。

「すみません・・・お嬢。」

樫閑「無理しないで。」

寅栄「てめぇ!!」

仲間を傷つけられ、いつも飄々とした寅栄が激高する。しかし、故頼はそれを意に介さなかった。

??「ちわ~っす!」

挑発的でドスの効いた声と共に再び、一人の男が現れた。
20代後半の中肉中背の男でいわゆる細マッチョ。不衛生なボサボサの短い黒髪にヒビの入ったメガネをかけ、汚れた迷彩服を着ている。
誰が見ても警戒心と敵意しか抱けない、そんな狂気的な容姿をしていた。
片手で軽々と大口径のランチャーを担ぎ、もう片方の手にサブマシンガンが握られていた。

冷牟田「あなたは・・・!亜継磨斗!?」

毒島「知り合いか?」

冷牟田「裏で有名な殺し屋よ。強い能力者ばかりを相手にする反吐の出るドM野郎よ。」

亜継「あれ?冷牟田じゃねぇの?お前、俺が殺したんじゃなかったけ?」

冷牟田「あの時、あなたが死体を確認しなかっただけよ。」

亜継「まぁ、いいか。またここで殺せば済む話だしな!」

瞬時に亜継がサブマシンガンの銃口を冷牟田へ向け、何の躊躇いも無く引き金を引いた。

寅栄「お前ら!伏せろ!!」

ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

一秒に20発近く発射する弾丸が全て、冷牟田個人へと向けられた。
数秒間に打ち込まれた弾丸は200発を超え、人間なら原型と留めない肉塊に変貌している・・・はずだった。

亜継「ヒュー。驚いたぜ。全部、能力で弾きやがった。」

冷牟田「これが私の能力“紙片吹雪《コールドペーパー》”よ。」

紙片吹雪《コールドペーパー》とは、名前から想像するのが難しいが、念動系の能力であり、一度に多数の対象を念動力で操る能力である。
彼女はこの能力でダイヤモンド製カッターを仕込んだ紙を散らばせ、それらを操って攻撃する。
その様は紙吹雪と形容するに相応しく、それ故に紙片吹雪《コールドペーパー》と呼ばれている。

ダイヤモンド製カッターを仕込んだ紙片で全ての銃弾を弾いた冷牟田だったが、
頬やふとももに何発か掠り、来ていた白衣も銃弾でボロボロになっていた。
冷牟田が隙を逃さず、すぐに残った紙片で亜継への攻撃を開始する。
何枚かの紙片が亜継の首元に向けて放たれる。

亜継「おいおい。そんなことしちゃって・・・」

突如、亜継が弾切れになったサブマシンガンを捨てて、ある物を自分の前に突き出して盾にする。
それは、隣の1401号室で寝ていたはずの茜だった。
自分が盾にされているのもいざ知らず、お気楽なものだ。

亜継「この娘を殺しちゃってもいいのかなぁ?」

冷牟田「くっ!」

亜継「超能力者《レベル5》に相当するって聞いたから、ちょっと楽しみにしてたんだけどなぁ~?
ご丁寧に睡眠薬か何かで眠らせてやがる。」

故頼「仕事が早く済んで良いではないか。」

亜継「黙れよ。筋肉じじい。俺は特別な能力を持った奴と戦いてぇんだ。雑魚なんざOut of 眼中なんだよ。」

毒島「このっ!」

毒島が椅子を振り上げて、亜継に振りかかる。
「人質を取ったから、攻撃してこない」と思った途端の不意打ちだったため、
亜継の反応が遅く、毒島の攻撃が彼の頭にクリーンヒットする。

亜継「舐めた真似するじゃねぇか!」

亜継は怒りに身を任せて毒島を蹴り飛ばす。
毒島は勢いよく数メートルほど飛ばされ、食器棚にぶつかった。

故頼「とにかく、時間は無駄にしたくない。さっさと終わらせてもらう。」

そう言って、故頼が指をパチンと鳴らした。

ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィぃン!!!

突如、耳鳴りの様な音が聞こえた。と同時に冷牟田と毒島が耳を押さえて苦しみ出す。

冷牟田「ああ・・・・・ああああああああ!!!」

毒島「ぐあああああああああああああっ!!」

冷牟田は床に転げてのた打ち回り、毒島も立っているのがやっとの状態だ。

寅栄「お、おい!どうしたんだよ!?」

樫閑「え!?何!?どうしたの!?」

故頼「面白いだろ?キャパシティダウンという代物さ。特殊な周波数の音を出すことで能力者の演算を阻害し、能力を封じるものだ。
ついでに脳に激痛を与えてくれると言うのだから、一石二鳥というものだな。」

亜継「しっかし、何でこのメスガキには効いてねぇんだ?」

故頼「おそらく、振動の膜で自分に害するものはシャットアウトしているのだろう。
キャパシティダウンも所詮は音という空気の振動だからな。」

亜継「ああ。クソッたれ。超能力者《レベル5》っていうバケモノが苦しむ姿を拝めると思ったのになぁ?」

故頼「振動支配《ウェーブポイント》が手に入れば、後はどうだっていい。」

亜継「ああ。そうかい。」

そう言うと、亜継は振動支配《ウェーブポイント》を故頼に託し、一人、毒島のところへと向かう。
寅栄と樫閑がそれを止めようとするが、寅栄は故頼に銃口を向けられ、樫閑は恐怖で足が震えている。

亜継「ったく、さっきは舐めた真似してくれたじゃねぇか。けっこう痛かったんだぜ?」

亜継はそう言って、キャパシティダウンの音に苦しむ毒島を殴り倒し、床に伏せる彼を足蹴りする。

故頼「遊んでいる暇はないぞ。」

亜継「ああ。そうだったな。じゃあ、さっさと死んでもらうぜ。」

亜継が腰から拳銃を引き抜き、毒島の頭へと付きつけた。

寅栄「毒島!逃げろ!おい!」

寅栄が必死に呼びかけるが、キャパシティダウンと亜継によるダメージで立ち上がることが出来ない。
冷牟田はキャパシティダウンのダメージに耐えきれずに気を失い、寅栄は故頼に銃口を突き付けられ、樫閑は恐怖で手も足も出ない。
亜継が拳銃の引き金に指を賭ける。

このまま諦めるしか無いのか・・・・・!?

誰もがそう思った瞬間だった。
学園都市最強の振動使い、振動支配《ウェーブポイント》こと四方神茜が目を覚ました。


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最終更新:2011年11月17日 22:53