10/6(月)深夜
黒やんとの戦いで追い詰められ
あと少しでやられると思った
しかし突然の大爆発で意識が吹っ飛んだ
…どうやらまだ俺は生きているみたいだ
朦朧とした意識の中で数人の声が聞こえていた
「お前ら一体何に首を突っ込んでる?」
「関係ない」
「ま、ま、落ち着け、ほらせんべい食うか?」
「勝手に食うな」
「お、日本酒…」
「死にたいのか?」
「…とにかくただカラスに襲われただけだ」
「この前からお前の周りは怪我が多すぎる」
「…関係ない」
「なら治療もしてやらないさ」
「…なぁガキンチョ
もう全部話したほうがいいとは思うぜ」
「お前が聞きたいだけだろ」
「ま、それもあるが…」
「…ゆき兄が話したくないならこっちに聞くさ」
誰かが頬をぺちぺちと叩くのがわかった
薄っすらと目を開くととても眩しい光が飛び込んできた
「目を開けろ」
ライトのようなものを当てられる
目がチカチカする
ふっと光が止んだ後まばたきを数回繰り返してやっと視界がクリアになってきた
「正常だ」
「…そうか」
見回すと保健室だった
室内は暗く、机の上に置いてあるキャンドルの柔らかい光が辺りを照らしていた
「…俺は…」
状況が把握できずにぼーっとしていると
ベッド脇の椅子に座っていたほろにがが話しかけてきた
「屋上から物凄い数のカラスの鳴き声が聞こえて
言ってみたらビックリするぐらいのカラス地獄
しかもなんかおめーらの声がするじゃないかだから咄嗟に閃光弾を投げてやったんだよ」
「…閃光弾?」
「フラッシュ・バンって言うんだぜ
音と光と衝撃で相手を気絶させる強烈な奴だ」
「あんたに助けられるなんてな…」
「おいおい、折角助けてやったのにその言い草はなかろう
ぶっ倒れたお前ら2人をここまで運んできてこのおっかないネーチャン呼んできたのは俺だぞ」
「…まぁ…その…ありがとう…」
「うむうむ」
話がひと段落ついたのを見計らったのか今度はヤチャマルが近づいてきた
近づいてきたと思ったら次の瞬間俺の寝ているベッドにドガァッ!と踵落としが入った
ベッドが今にも壊れるんじゃないかというほど軋んでいた
「質問だ、正直に答えろよ」
「は、はい…?」
「何に首を突っ込んでいる?」
「…それは」
言ったところで信じてもらえるのだろうか
そもそも言っていいのだろうか
そっとゆき兄のほうを見ると壁によりかかって遠くを見ていた
これは好きにしろっていう意味か…
「答えろ」
短い言葉の裏に潜む威圧感
言い逃れはできなさそうだ、話すしかない…
結局俺はヤチャマルとほろにがに全部を話した
意外にも2人とも終始真面目な顔で話を聞いてくれた
「…なるほどな、執行部がそんな能力を持っているとはな」
「学園に隠された謎ってのはそういうことか…
っか~、こりゃでけぇヤマだぜ」
「2人とも…信じてくれるの?」
「まぁな」
「頭ガチガチの奴らと一緒にすんなよ
俺の脳は柔軟だからな」
なんだか安心した
絶対に信じてくれるわけがないと思っていたから
「それで、たまゆらとゆき兄は執行部と戦ってるわけだな」
「…そうです」
「で、今日は負けたと」
「…」
「つーかおめーら実際俺がいかなかったら本当にヤバかったんだぜ」
「そうみたい…つッ!?」
突然全身にビキンと激痛を感じた
反射的にうずくまる
「全身に切り傷と擦り傷だ
しかし重要なのは断続的に衝撃を受け続けたせいで内臓にまでダメージがいっている」
「…くそっ…」
「治るまで無理はするな」
「だけど…このままじゃ他の生徒が巻き添えを…」
「たまゆら」
壁際にうずくまっていたゆき兄が話しかけてくる
「何?」
「今行って勝てるのか?」
「それは…」
「確かに俺たちは奴の能力について知らなかった分遅れを取った
しかし奴の能力がわかった今また行ったとしてあの能力に対抗できるか?」
「…」
「今行っても死にに行くようなもんだ」
「じゃあどうすればいいんだよ!!」
「…」
沈黙が保健室を包んだ
短いようで長い沈黙、重苦しい空気
そしてゆき兄がその沈黙を打ち破るように言葉を発した
「…命を賭ける覚悟があるなら」
「え?」
「…その覚悟があるなら…方法はある」
「…どんな方法?」
「鍵はヤチャマルだ」
全員の視線がヤチャマルに集まる
ヤチャマルは頬をかきながら何か考えてるような顔をしている
「気断命脈…か、よく知ってたな」
「昔酔っ払った時に話してくれたろ」
「じゃあよく覚えてたな」
「まぁな」
「その気断命脈って…?」
「俺もよくは知らんが…ヤチャマル教えてくれ」
「…要するに自らの潜在能力を開花させる修行だが…
さっきゆき兄も言ったが命を賭けないと…」
「つーかさ、一言いいかい?」
黙って話を聞いていたほろにがが口を挟んできた
いつもどおりの若干イラッとする口調で
「前から思ってたんだけどさぁ
命を賭けるとかどうとかこうとかガキンチョのくせに背負いすぎだろ」
「駄目な大人の典型みたいな奴にそんなことを言われるとはな」
「…おーおー言ってくれるねぇ」
「お前ら喧嘩するなら外に放り出すぞ」
「…はいはい」
微妙に険悪な雰囲気になりつつ
保健室はまた沈黙に包まれた
「…ヤチャマル」
「ん?」
「気断命脈…やり方を教えてください」
「…本気か?」
「このままじゃ勝てない…黒やんに勝てないんだ!!」
「たとえ気断命脈の修行を乗り越えたとしても
黒やんに勝てるかどうかはわからないぞ?」
「それでも可能性があるなら…」
「…」
ヤチャマルは椅子に腰掛け何かを考え出した
ほろにがはいつの間にかタバコを吸っていた
ゆき兄は窓の外をぼうっと見つめていた
しばらくしてヤチャマルが口を開いた
「…どちらにせよ今は無理だ」
「何でですか!?」
「お前の身体はお前が思っている以上に酷い状態だ
その状態で気断命脈を行うのは…」
「だけど時間がない!」
「囀るな!!!」
「えっ…」
大声を張り上げたのはほろにがだった
全員が驚いてほろにがのほうを見た
「本当にイライラするガキンチョだな全くよぉ
何自分で何もかも背負ってる気になってやがんだよ
ガキはガキらしく目上の人の言うこと聞いてりゃいいんだよ」
「…」
「いいか、限界を越える修行と限界を突き破る修行は違ぇんだよ
命を賭ける修行と命を捨てる修行ってのは違ぇんだよ」
そこでヤチャマルが言った
「たまゆら、1週間だけ我慢しろ
1週間普通の学校生活を送るだけでいい」
「1週間…」
「うん、1週間
準備もあるしな、これは絶対に譲れない」
「…」
ヤチャマルに従うしかない
今のままでは黒やんには絶対に勝てない
勝てる可能性があるとしたらこの修行だけ
と、なるとヤチャマルに逆らうべきではない
だけど1週間…今の執行部の状態を考えると…
「…わかりました」
「…」
ヤチャマルの手が頭に置かれた
「え?」
「1週間後の放課後、もう1度ここに来い」
「…」
「よし、それじゃ今日は帰れ」
「ネーチャンネーチャン、俺ここに泊まってもいいか」
「死にたいのか?」
「…じょ、冗談っす…今日もどこか適当な場所で夜を明かすのか…」
「ゆき兄、帰ろう」
「…いや、先に帰っててくれ」
「えぇ?」
先に帰れとどうしてもゆき兄が言い張るので
結局俺は1人で帰ることにした
1週間の制約を受けたのが気に食わなかったのだろうか…
ただ怒ってる感じでもなかったが…考えてても仕方ないか
とにかく身体がダルい…今日は帰ったら即寝だろう…
10/6(月)同時刻
「帰ってきたよ」
「仕留め損なったみたいだね」
「引き際を弁えずに戦い続けて負けるような奴とは違う」
「要するにアクシデントに弱い臆病者ってことだろ?」
「死にたいのか?」
「フフフフン…いいよ?やってみろよ?」
「よせ」
「止めるな」
「お前らが本気でやりあうと部屋が壊れる」
「チッ…」
「ところで転校生はまだ挑んでくると思うか?」
「圧倒的な力の差を理解してなければな」
「…なら、とりあえずの目的は達成したか」
「仕留めてはいないが…」
「まぁ不穏な動きをするなら次こそ仕留めればいいだろ」
「随分甘いな」
「正直あいつにばかりかまってもいられないだろ?」
「…なるほどな」
10/7(火)朝
目が覚める、だけどベッドから動けない
身体もとてつもなくダルかった
全身の痛みはヤチャマルの治療のおかげでだいぶ和らいでいるが
それを遥かに上回る倦怠感
それでもなんとかベッドから這い出して学校に向かう
途中何度も倒れそうになって休んだほうがよかったのかと思いながらも教室に辿り着いた
遅刻ギリギリで入ると教室の中にゆき兄はいなかった
酷い顔をしていたのか心配そうな顔をしたリカが近づいてきた
「たまゆら君…酷い顔だけど…大丈夫?」
「なんとか…」
「昨日…戦ったの?」
「…負けたけどね」
「え…」
なんて言ったらいいかわからない
そんな顔でリカはしばらく俯いた
だから俺が先に言葉を発した
「…次は負けない」
その一言だけを
それを聞いたリカもたった一言だけ返してきた
「…無茶だけは…しないでね…?」
「うん…ありがとう…」
それから俺はヤチャマルに言われた通りに
一週間、ただひたすら普通に学園生活を送った
だけど身体のだるさは日が立つごとに増していき
ゆき兄の姿も見ることがなかった
姿を見せないことは多いが1週間も見せないとなるとさすがに心配になるが
恐ろしいほどの身体のダルさが行動を阻害していた
さらにこの1週間で一般生徒の生徒会への不満は極限まで高まり
それに比例するように執行部の断罪は増えていた
その断罪はもはや生徒だけに留まらず教師にまで及ぶようになり
誰もが恐怖に怯え逃げ出すことも出来ない
学園全体が疑心暗鬼の渦に囚われまさに最悪の状態とも言えた
俺にはそれを打ち破る力があるのに何も出来ないことが悔しかった
自らの無力さを嘆き、異常な程の身体のダルさに苛まされ
かなり最悪の1週間だったが俺は何とかそれを乗り切った
いよいよヤチャマルとの約束の放課後が迫ってきたが
身体のダルさは取れずにいた…
10/13(月)放課後
保健室のドアを開けるとヤチャマルが椅子に座って本を読んでいた
俺の姿を見ると本を机の上に置いて話しかけてきた
「よく1週間我慢したな」
「…何も出来ないってのがどんなに惨めかよくわかった…」
「それで、命を賭ける覚悟は?」
「あるさ…だけど」
「だけど?」
「なんだか身体がとてつもなくダルいんだ…
こんなんで大丈夫なのかな?」
「それは大丈夫
それと黄龍鉄甲持ってきたか?」
「言われたとおり…」
「ほんじゃこっち来い」
身体のダルさの何が大丈夫なのかよくわからないが
ヤチャマルは保健室から出て行くの連いていく
そのまま体育館に入った
体育館には誰もいなかった
俺が入るとヤチャマルはドアに鍵をかけた
「始める前にまぁ言っとくが…
気断命脈は失敗すれば死ぬような本当に危険極まりない修行でな…
ただ立場上失敗したらそのまま死ねとも言えないから
まぁ…本当に危ないと思ったら途中で強制的に終わらせるぞ」
「その場合どうなるの?」
「わからん…いや、死ぬことはないと思うが」
「…まぁどちらにせよやらないと始まらない」
「よし、じゃあこっちに来い」
ヤチャマルは俺の頭に手を当てた
「…気脈"全開放"」
その瞬間、身体のダルさは全て吹っ飛んだ
同時に全身から沸き立つような衝動が溢れ出した
恐ろしい程の爽快感、同時にじっとしていられないほどの躍動
「すげぇ…!何だこれ…!?」
「手短に説明するぞ
実は一週間前からすでに仕込みは始まってたんだ」
「え?」
「あの夜、お前の気脈を意図的に狭めたんだ
その結果、恐らくこの一週間身体がとんでもなくダルかったはずだ」
「うん、滅茶苦茶ダルかった」
「そして今それを一気に開放した
塞き止められて分の気が爆発的に全身に行き渡っている
今たまゆらの身体は普段は出せない力もいとも簡単に出せるだろう」
「うんうん」
「だが逆を言えば身体を自ら痛めつけてるのと同じだ
長時間その状態が続けば確実に死に至る」
「…」
「いいか、死に至る前に潜在能力を引き出すんだ
それが気断命脈…命を賭けた修行だ」
「わかった」
「制限時間は…30分というところかな
よし、じゃあ始めるか、来い」
「え?」
「ん…ああ、戦うんだよ」
「誰と?」
「1人しかいないだろ?」
さも当たり前のように言い放つヤチャマルにあっけに取られる
状況が把握できないままにぼーっとしてしまう
「時間がないっていうのに…
ええい、じゃあこっちから行くぞ!」
「え?え!?」
突っ込んでくるヤチャマルを見る
目がマジだった
拳が振りぬかれる、ぼうっとしていたせいで避けれない
ゴガッと、頭蓋骨に音が響いた気がした
衝撃、浮遊感、そして…
「ぐごげがががががッペガッブッ!!!??」
ゴム鞠のように体育館をバウンドしながら壁際まで吹っ飛ばされる
何が起こったか全くわからずただ呆然としていた
「立て」
「な…な?」
「仕方ないな、やりやすいようにしてやるか」
ヤチャマルが懐から鬼の面を取り出した
そしてそれを顔につけた
「久しぶりだなぁ…これつけるの
さぁ来い…本気でな」
「う…」
その言葉は冗談なんかではない
本気でやらないとこっちがやられると本能でわからせるのには充分だった
黄龍鉄甲を構える
「うおおおおおおおおおお!!」
叫び声と同時にヤチャマルに走りよる
いつもより数倍身体が動く
今ならどんな動きでも出来る気がする
左右に不規則に動きながらヤチャマルに接近する
今の俺なら普段以上のリーチを出せる…!!
ある程度近づいたところで床を蹴った
弾丸のように宙を貫き、1撃!!
「ふん」
「…え?」
片手で、止められる
そのまま床に頭から叩きつけられる
「ガグァッ!??」
ベキベキパキバキンと音が聞こえる
あわてて飛び上がり距離を取る
「どうした?その程度か?」
「くそぉっ!!」
どれだけ考えて隙を作ろうとしても
全て避けられ受け止められ何度も何度も壁や床に叩きつけられる
痛みは殆ど感じないそれどころかやられればやられるほど身体がヒートアップしていくのがわかる
だけど攻撃が全くあたらない
そしてそれがイライラさせる
「…くそぉ…!くそぉ…!!」
「20分立ったぞ、どうした」
「ちくしょおおおおおおおおおおお!!!!」
涙目になりながら、なんとか拳を当てようとする
どんなに不規則に動いて接近してもヤチャマルは隙を作らない
そしてカウンターを受ける
「ガッ…」
「…まだわからないのか」
「何だって…?」
「これは修行だ、相手を倒すことが目的ではない
そこをよく考えろ」
「はぁ…はぁ…」
修行、相手を倒すことが目的ではない…
じゃあどうしろってんだ…
「…お前は黄龍鉄甲に使われているだけだ」
「使われてる…?」
「武器に使われてる奴が…自らの武器を使いこなす奴には勝てない」
俺が黄龍鉄甲に使われている…?
そんなことは…無い…はず…
いや…本当にそうなのか…?
…そうだ、確かに、俺は使われているのかもしれない
俺は今までどうにかして敵に黄龍鉄甲で1撃を食らわすことだけを考えていた…
間違っては無い…だけど…俺は勝つことは考えていなかったんじゃ…
…そうだ、黄龍鉄甲に頼るんじゃないんだ…
黄龍鉄甲も…勝ちへの手段として考えるんだ…
「はぁー…はぁー…」
静寂、自分の鼓動の音がやけに大きく聞こえる
同時に全身を巡る血液の音すらも聞こえるような気がする
ヤチャマルは動かない
ただ鬼の面を介してこちらをじっと見つめている
一歩、俺は前へ踏み出した
そして右腕を構えた
そのまま目を瞑る、右腕に流れる何かが黄龍鉄甲に注ぎ込まれていくのを感じる
どのぐらいの時間、それを感じていたのかわからない
永遠とも言えるし、一瞬とも言えるような時間を確かに感じていた
あれだけ熱かった身体が今では落ち着いている
不意に、声が聞こえた
頭に直接響くような、あの声
『更なる高みを望むか』
ああ、もっともっとだ
誰一人、犠牲にしない力が欲しい
『お前が望み、我の声に耳を傾けるなら
比類なき破邪の拳は自ずとお前に答えるだろう』
力を、俺に力を
この学園に蔓延る暗雲を全てブチ破る力を
『ならば聞け、新たなる力の名は…』
どうした!?おい!
おい!!答えろ!!!
「おい!!おい!!たまゆら!!!!」
「あ…あれ?」
目を開けると、目の前にヤチャマルがいた
俺は、いつの間にか床に倒れていた
慌てて立ち上がろうとするものの身体に力が入らずに床に倒れてしまった
「あ…あれ…何で…」
「…もう限界だったんだ、だから強制的に気脈を絶った」
「そんな…時間は!?」
「30分は過ぎたよ…」
「そんな!後少しなんだ…なんかそんな気がするんだ…!!
もう少し…もう少しでいいから!!」
「無理だ…もう身体が限界だ、これ以上続けると本当に命が…」
「くっ…そぉぉ…!!ちくしょう!!ちくしょお!!!」
涙が零れ落ちた
身体は思うように動かずに
しばらくヤチャマルに身体の気の流れを正す治療とかいうのを行われ
寮に送り届けられた
結局、修行は失敗した…
だけど無駄ではなかったはずだ
俺はあの時、何かを掴みかけた…
10/14(火)朝
「ぐ…」
目が覚めると、身体はマトモに動くようになっていた
昨日の夜に布団の中で何度もまたあの声を聞こうと頑張った
だけど聞こえる事は無く結局いつの間にか眠りに落ちてしまった
落ち込みながらも半ば惰性的に学校へと向かった
学校の雰囲気は最低最悪
誰もが人と関わろうとせず休み時間であろうと学校全体は静寂を保っていた
こんなものが正しいはずがない
周囲を支配する雰囲気はその場にいる人間全てに影響を及ぼす
リカもどうにも俺に話しかけずらそうだった
ゆき兄は相変わらず登校してきていない
静かな教室で俺はある覚悟を決めていた
それが愚か過ぎる選択であったとしても、もう放っておくことが出来なかった…
10/14(火)昼休み
昼休みでも学校は静かだった
誰もが1人で机に座り淡々と食事を取るその光景はまるで監獄のようだった
それを見ていられなくて俺は屋上に上がってきた
すると、見た顔がいた
「…お前か」
「…高橋…」
「…随分とまぁ焦燥しきった顔をして、ククッ
前に忠告してやったろう?それに逆らってまで執行部を倒し続けた
そしてこの状態だ、満足か?」
「黙れ…」
「何一つ救えてない、お前の仲間は傷つき倒れていく
そして状況はどんどん悪化している」
「黙れ!!!」
思わず、俺は高橋を殴りつけた
だけど、止められた
俺の拳を握ったまま高橋は喋り続けた
「…お前はそれでもまだ執行部を倒し続けるというのか?」
「倒す…!倒さなきゃ…いけない…!!」
「…」
「確かに…今の状況は最悪かもしれない…!
それでも救って…他の誰かが犠牲になっても…その人も救って…
ずっとずっと…救っていけば…きっといつか…!!」
「奇麗事を抜かすなッ!!!!」
バシンッ!と拳が跳ね除けられ
腹部に高橋の鋭い蹴りが打ち込まれた
「ガッ…ハッ…!!」
「…お前のように理想論や奇麗事を心から信じていた奴がいた…
だけどそいつは…どうにもならない現実を突きつけられた…
何もかも救うなんてことは決して出来ないと…どんなに頑張っても…どんなに自分を犠牲にしても…
泣きながら、絶望に打ちのめされ、誰かが犠牲になると知っていても…
それしか方法が無いと、それが最善だと、誰よりも知ってしまった…あいつの気持ちがお前にわかるか…!!」
「…」
「だから俺はお前がムカつくんだ…
どうしてもイライラする…!!」
「…それが誰かは知らない…
だけど…俺がその人と同じ道を歩むとは限らない…!」
「あいつとお前じゃ背負ってる者の重さが違うんだよ…!!」
「それは…お前が決めることじゃないッ!!」
「何ッ!?がっ…!?」
今度は、俺の拳が高橋の顔を打ち据えた
顔を抑え、少し後ろに下がる高橋
指の隙間から除く目には、怒りと、悲しみが垣間見えた
「ハァ…ハァ…いつかお前にもわかる…
このまま執行部と敵対を続けていけば…そのうち…わかる…」
「…どういう意味だ」
「…」
すっと、前に出てきた高橋
刹那、顔面に衝撃が走った
「カハッ…!?」
不意の衝撃で後ろに転倒する
「…もう1度言う…いつかお前は…自分のしていた後悔し…
自らを呪う時が…必ず…来る…」
その言葉を残して高橋が屋上から去っていくのがわかった
仰向けになった俺の視界に写るのはいつも変わらない晴天…
突き抜けるような、混じり気の無い青
…惑わされることなく、この空のようなただひたすら…純粋でいられたなら…
どんなに…楽だったんだろうか…
しばらくそのまま、空を見ていた
どれぐらいそうしていたのかわからないが
不意に視界に、何かが現れた
目線を写すと、あの子がいた…
「鼻血、出てるよ」
「…またこういう展開か」
ハンカチを受け取り
鼻血を拭く
「…」
「…前から思ってたけど君は…不思議だね」
「…?」
「何か…初めて会った時からなんていうか…他とは違うような感じだったんだけど…
それに今だって…よく知らない相手とは話すの怖いでしょ?」
「…そうだね、よく知らない人と話すのは怖い…」
「じゃあ何で…」
「…鼻血を流して倒れてる人にハンカチを渡してあげるのは怖くないから」
「…そう…だね…」
傷つき、倒れてる人を、放っておけない、そういうことか
そうだ、だから俺は…戦うんだ…
先に何があろうとも…
スッと、女の子は立ち上がった
「…ハンカチ、いいの?」
「いいよ別に」
そこで俺は思い切って聞いてみた
「名前、なんていうの?」
「…きのこ」
「…覚えた」
「そう」
ドアがパタンと閉められた
ふぅ、と一息ついて俺はもうしばらく屋上で過ごすことにした
辺りを見回す、約1週間前、俺はここで戦って歯が立たなかった
あの大量のカラスを操る力
1匹2匹倒したところでどうすることも出来ないほどの数
あれを打ち破るにはどうすればいい?
あの時俺たちが助かったのはほろにが来たから…
確か…閃光弾…フラッシュバンを投げたっていってたな
それでカラスを無力化し、回復するまでに黒やんを倒せば…
しかしそう簡単に行くとも思えないが、今のところ方法はこれしか…
10/14(火)夜
夜になり、俺は校舎周辺をうろついていた
とりあえずほろにがに会おうとしているのだが
どうでもいいときに現れるくせに会いたいときには姿を見せない
一体どこにいるんだか…
校舎の裏手のゴミ捨て場を見てみる
ほろにがはいないが足がゴミの隙間から出ていた
…足?
近づいて見ると、確かに足だった
なんだか微妙にイビキのような音が聞こえる
そっとその足を掴んで思いっきり引っ張ってみた
「おわぁあああああああお!!」
ゴミの山が崩壊し中から頭に黒く変色したバナナの皮を乗せたほろにがが現れた
「な、な、何だ何だ!?」
「あんた…一体なんてとこで寝てんだよ…」
「お?おー?お前か…
いや、最近寒くなってきたからよ…」
「まぁそんなことはどうでもいいんですけど…
ちょっとお願いがあって」
「お願いだぁ?」
「フラッシュバン、ください」
「おーおー、フラッシュバンね、えーとそれじゃコレ…ってやるかボケェ!!!」
「…ノリツッコミ」
よっこらしょといいながらゴミの山に座りなおすほろにが
ちなみにまだ頭の上にバナナの皮が乗っている
「なんでまたいきなりそんなこと言い出すんだよ」
「執行部を倒すから」
「…あー、そういえば…なんだっけ…き…きざんめいにゃく?あの修行成功したのか?」
「気断命脈…成功は…してないんすけど」
「それでなんで行こうとしてんだよ、おかしいだろ
前も言ったがよ、命を賭けるのと命を捨てるのは全然ちげぇんだぞ」
「…もう嫌だ」
「あん?」
「俺のせいで今学園は最悪だ…
もう引き下がれないから…」
「…放っとけよ、1番大事なのはテメェの命だろ」
「じゃああんたは雨に打たれてる赤ん坊を見たら見捨てて逃げるのか?」
「質問の意味がよくわかんねぇが…見捨てるわけにはいかねぇだろ…」
「同じさ…放っておけないんだ…」
「…」
「ついて来いとか言わないけど
あのカラスの大群を打ち破るにはこれしか方法が思いつかないんだ…
お願い…します…」
考えるようにほろにがは顎に手を当てていた
しばらくすると溜め息を吐きながらポケットから何かを取り出した
「…ほら、持ってけ」
「…ありがとう、ございます」
「お前が死のうと俺には関係ないしな
まぁ…なんつーか餞別代りにくれてやるよ」
「…倒せたら…ご飯でも持ってきてあげる」
「…そうか、まぁ…グッドラック」
「ありがとう」
ほろにがからもらったフラッシュバン
このたった1個のフラッシュバンが、俺の運命を握っている
時刻はそろそろ0時を回る
本当に愚かな選択をしたのかもしれない
だけどもう、俺は…
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最終更新:2009年11月01日 02:43