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邪眼学園黄龍譚7限目【爆炎浄化】後編

10/14(火)深夜

屋上へと上がる
静かだけど、感じる、誰かの纏わりつくような視線を
呼吸を整え、俺は叫んだ

「出て来い!!」

しばらくすると、カツンッと音がした
音のした方向を見ると、黒やんが立っていた

「…驚いた、まさかまだ力の差を理解していないなんて」
「…」
「大人しくしていれば…死ぬことも無かったというのに…
 …だけど来たものはしょうがない…今度は逃がさない…」

俺は黄龍鉄甲を構える
カラスの大群にこれが役に立つことはないがフラッシュバンを持っていることを悟らすわけにはいかない

「…今度こそ、餌になれ…」

気がつくと、黒やんの頭上に、あの時のような黒い蠢く巨大な塊があった
そして塊が爆散するように四方八方に散った
あの時と同じように、カラスの大群の俺の周りを高速で回転を始める
まだだ、ドームのようになった時にフラッシュバンを使うんだ
自分も意識を失ってしまうかもしれないが
そんなのなったときはなったときだ

ピシッと、頬を何かが掠る、血が流れるのを感じる
今更多少の傷なんてどうでもいい
俺はただ動かず、その場に立ち尽くした
頬から滴る血が地面にピチョンと音を立てた時
ついに光が消えた、カラスが俺の周囲を完全に取り囲んだ証拠だった

「よし…!」

懐からフラッシュバンを取り出す、そのときだった
手にバシィンと衝撃が走り、フラッシュバンが地面に落ち、カラカラと転がった

「しまった…!」

慌てて拾おうとするが身体に連続的に四方八方から衝撃が走った

「ガハッ…!!」

視界の端にあるフラッシュバンは黒いカラスの塊の中に消えていった
その時、黒やんの声が響いた

「残念だったな
 まぁ何かしらしてくるだろうとは僕もカラスもわかってたからね
 しかし…あんなものでなんとかなると思って来るとは…舐められたにも程がある…
 死ねよ」

ドームが、狭まりだす
しかもその速度は速い
あの回転に巻き込まれたら本当にやられる…!
だけどどこにも逃げ場は無い

「どうだ?死の恐怖ってのは?
 …そういえばお前会長の死のイメージ乗り越えたんだっけな…
 だけどこれはイメージじゃない、現実だぜ?」
「それでも…」
「あん?」
「俺は自分の張って意地から逃げ出さない!!
 最後の最後まで足掻いてやる!!」

黄龍鉄甲を構える
全く意味がなさないとしても突破できる可能性を信じる

「本当に馬鹿だな…
 お前と話すのすら馬鹿らしくなってきたよ…!!
 僕のカラスたちのエサになれ!!」

一気に周囲が狭まってくる
それでも俺はただ一点を見つめそこに可能性を信じた
その瞬間、声が響いた

「俺を忘れんじゃねぇよ
 ダブル・クロス!!!」
「えっ…!?」

その声は、間違いなく、ゆき兄の声だった
その声こそが可能性
狭まったカラスたちの回転に巻き込まれる寸前で突然がカラスたちがバラバラに散った
月の光が、俺を照らした
そしてゆき兄の姿が見えた

「馬鹿な…カラスたちのコントロールが…!?」
「効果は1時間が限界だが…それだけお前を倒すのには充分だ」
「貴様…何を…!?」
「ゆき兄…」
「おいおい、たまゆら、また俺に助けられるっていういつものパターンだな」
「どうして…ていうか…その身体…」

ゆき兄はなぜか上半身裸だった
その身体は傷だらけで身体のあちこちに包帯を巻いていた
包帯を巻かずに露出してる傷も沢山あった
見てるこっちが痛くなる様なその姿は少なからず黒やんにも畏れを抱かせていた

「…まぁこの身体のことは置いておけ
 ここに来たのはほろにがが教えてくれたのさ」
「え?ほろにがが?」
「ああ」
「どうなろうが知ったこっちゃないって言ってたのに…」
「放っとけないって言ってたぜ?」
「え?」
「理由聞いたら雨に打たれてる赤ん坊をお前を見捨てるのか?って言われたぜ」
「…は、ははっ…なんだ、あいつ…」
「さて、と」

俺とゆき兄は黒やんのほうを向いた

「さぁどうする?
 これでお前は無力化したも同然だぜ?」
「ク、ククッ…クックック…」
「…何がおかしい?」
「つまり…本気を出さなきゃいけないってわけか…」
「なんだと…」
「お前らが今まで倒した奴らの能力…
 周囲を闇に落とす…触れた爆発物に変化させる…音で人を操る…弾丸を無限に作り出す…
 どいつもこいつも遠まわりな能力だ…」
「何を言って…」
「戦闘に置いて勝利を得るなら必要な能力は実にシンプル…
 相手の攻撃が届かない場所から一方的に攻撃できる能力だ…」
「…たまゆら、気をつけろよ」
「見せてやる…最も単純で…最強の力を!!」

周囲の空気がビリビリと振動する
黒やんの背中から、何かが突き出た

「ぐっ…!がぁっ…!!」
「あれは…何だ…!?」

突き出たものが辺りに羽根を撒き散らしながら
月光の下にその全貌を現した

「翼…!?」

そして、黒やんが空へと、飛んだ

「なッ!?」

次の瞬間、空からナイフのように鋭く尖った羽根が放たれた
咄嗟に飛びのいてそれを避ける俺とゆき兄
羽根は、コンクリートの地面に突き刺さる

「…これが最も単純で最強の能力」

空から黒やんの声が響く
月光に照らし出されるそれはまるで天使のような、悪魔

「鋼鉄の羽根がもたらす飛翔能力はお前たちの攻撃が届かない場所へ導く最強の防御
 同時に無限に放たれる羽根は一方的に攻撃できる最強の攻撃だ」
「これじゃ…手が出せない…」
「この姿にさせたことは褒めてやろう
 だがここまでだ、お前らに一方的に僕に嬲り殺しにされるんだよ!!」

また羽根が放たれた
だがスピードは比較的遅めで肉眼で捉えることが出来る
そして軌道も直線なので避けること自体は難しくはない!!

「そう、避けることは簡単だ…単発ならば」
「え?」

目の前に、羽根があった

「うわっ!?」

慌ててそれも避ける
だが避けた先にまた羽根がある
それを繰り返し、右足に羽根が突き刺さった

「がっ…!?」

バランスを崩し転倒する
黒やんはその隙を見逃さなかった
自分の遥か上空から空を斬る不気味な音が聞こえる

「たまゆらぁっ!」

飛び込んできたゆき兄が俺を抱えて飛びのく
さっきまで自分の倒れていた場所に羽根が突き刺さるのが見えた
地面を転がり身体が傷つきながらも止まったと同時に立ち上がる
悠々と空に浮かんでいる黒やんは不適な笑みを浮かべていた

「戦闘では低所より高所のほうが圧倒的に有利
 そして僕はどんな敵であろうと高所にいられる…
 さらに相手が近接攻撃しか出来ないのなら僕は無敵だ」
「くっ…そぉ…!!」
「諦めろ、僕には勝てない」
「諦めない!!!絶対にだ!!」
「ならこれを避けてみせろ、ただし逃げ場はないぞ!!」

大量の羽根、一斉に放たれた
空を埋め尽くすほどの、無数の死を呼ぶ黒い羽根

「たまゆらぁぁぁぁ!!!!!!!」

ゆき兄の叫び声が聞こえた
目の前に羽根に向かって黄龍鉄甲を振る
何本かの羽根が弾かれるのを感じた
だけど、その直後、全身に突き刺さる羽根…
途端に襲う、耐え難い激痛

「がっ…ぐっ…はぁー…はぁー…!!!」

足が震え、膝をつきそうになるのを耐える
顔を上げ、黒やんを見据える

「…なぜ倒れない…!?」
「たまゆら!!」
「貴様は動くな!!」
「うおっ…くそっ…!!」
「倒れないならもう1度やればいい!!」

また俺に無数の羽根が放たれた
避けることなど出来ない
だから俺は、必死に弾けるだけの羽根を弾く
それでも、全てが弾けるわけではない

「ぐぅぅぅぅぅう!!!」

ふらりと意識が遠くなり、前に倒れそうになる
だが足を踏み出し、必死に耐える

「倒れない…だと…!?
 馬鹿な…!」

黒やんが驚愕しているのがわかった
自分でもびっくりだ、ここまで踏みとどまれるなんて
あの時と同じだ、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる
同時に全身を巡る血液の音まで聞こえる気がする

「はぁー…はぁー…」

俺は黄龍鉄甲を構えた
右腕から何かが流れ込むのがわかる
俺は静かに目を閉じる
あの声が、聞こえた

『更なる高みを望むか』

俺は望む、誰も犠牲にしない力を…!
誰も犠牲にならない未来を切り開ける力を…!!!

『お前が望み、我の声に耳を傾けるなら
 比類なき破邪の拳は自ずとお前に答えるだろう』

何度でも、何度でも俺は望む…!
そして…何度でもお前の声に耳を澄ます…!!

『ならば聞け、新たなる力の名は――…』

新たなる…力の名は…!!!



「ならば…最大の技で息の根を止めてやる…!!
 絶技…!黒桜花!!」
「たまゆら!!避けろォォォォォオ!!」

俺はその声でそっと目を開けた

「避けない、打ち破る…!!!」
「ふん、血迷ったか、打ち破ることなど不可能だ」

空高く舞った無数の羽根が、まるで桜の花を思わせる
そしてその全てが一点集中し、俺に向かってきた

「新たなる力…その名は…」
「消えろ!!!」
「焼き尽くせ!!スザァァァァァァァァク!!!!」

その瞬間、視界全てが燃える炎のように赤く染まった
黄龍鉄甲から、赤い光が溢れ出し…砕けた
いや、砕けたのではない、分裂した
表面部分が2つに別れて本体から離れ
その2つは俺の背中へとついた
右手に残った部分は軽くなり形状も鋭角が多くなっていた
俺に接近してくる多数の羽根が燃えていく

「なんだと…!?
 僕の羽根が…焼き尽くされた…!?」
「あいつ…!」

辺りに、爆風にも似た熱を持った風が吹き荒れた
その風が去った後、俺の視界は元に戻っていた

「はぁ…はぁ…!!」
「たまゆら…その姿は…」
「…朱雀の力、天を舞う朱き聖獣」

俺の背中には赤く光を放つ、翼があった
その姿に誰よりも驚いていたのは、黒やんだった

「…何だ…こいつ…一体何を…」
「はぁ…終わりだ…!黒やん!!」

俺は右腕を構え足に力を込めた
ただ一点、黒やんを見つめて

「…うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

踏み出すと同時に、俺は高く、高く、飛んだ
ただ1点を目指し、赤い炎のような尾を引きながら天空へと放たれるその姿
それは、神話で語られる、朱雀

「馬鹿な!この高度まで!?クソッ!!」

黒やんが翼を閉じて自分の身を守ろうとする
その翼に向かって渾身の力で右腕を振りぬいた
ガガガガガッ!!と力と力がぶつかり合って互いが互いを弾き飛ばそうとしている感覚
同時に、何かが焼けるような匂いがした

「…馬鹿な…僕の翼が…燃えていく?」
「朱雀の炎は全てを焼き尽くし浄化する…!!」
「ぐ…ぐ…ぐぞぉ…僕がこんな…奴に…!!!!」

ボシュウッ!と音がした
黒やんの翼の大半が焼き尽くされ
ついにその形状を留めることが出来なくなり、月夜に大量の羽根をばら撒き…散った

「…そんな…負けるのか…この…僕が…!!!」
「終わりだ!!」
「ク…ソがぁあああああああああああ!!!!!!」
「邪なる力を焼き尽くせ!!!朱雀爆炎大焔帝!!!!!!」

翼の赤い光が周囲に爆散した
そして右腕が赤く光り輝いた
炎を纏い全力で振りぬかれた拳は黒やんを遥か地面をへと叩き落とした

「ゴワッがッギャァァァァァァア!!
 アガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

断末魔の叫びを上げながらグラウンドへと高速で落下し
叩きつけられた地面にビシリと亀裂が走った
間違いなく…あれはもう動けないだろう…

「はぁ…はぁ…終わった…」

ゆっくりと高度が下がっていく俺は屋上に着地した
同時に黄龍鉄甲が元の姿に戻った
後ろでゆき兄が心配にこちらを見ていた

「…ま、なんとか大丈夫みてぇだな」
「うん…」
「…」
「…」
「やったな」
「ああ!…あれ…」
「おっと」

身体から力が抜けて倒れそうになる
だけどゆき兄がなんとか支える

「だいぶ疲労したみたいだな」
「どうも…そうみたい…」
「そうだ、あいつ大丈夫かな」

ゆき兄が屋上の端から下のグラウンドを覗いた
俺もなんとか下を覗く

「大丈夫みたいだな
 見ろよ、騒いでるぜ」
「煙が…抜けていってる…」
「ああ…勝ったんだな…」

だが次の瞬間、周囲が揺れた
一瞬地震かと思ったが違う、これは桃花のときにも起こった

「…ォォォオオオオオオオオオ!!!!!!!」

思わず耳を塞いだ、同じだ、あの時と
人間の恐怖などという概念を遥かに超越した先のような感覚を感じさせるこの唸り声
これは一体…何なんだ…!?
しばらく耳を塞いでいると、やがて声は聞こえなくなった

「…ゆき兄…今のは…」
「……」
「ゆき兄?」
「…あ…悪い、何でもない…」
「…?」
「それより黒やんは…あれ?」
「ん?どうしたの?」
「いないぞ…」
「はぁ!?」

言われて下を覗き込むと確かにさっきまでいた場所に黒やんはいなかった
まさかあの状態でまだ動けたのか…?

「…どうしよう」
「まぁ…しょうがない…あいつの中の黒い煙は出たしもう能力は使えないだろう
 とりあえず…今日は帰ろう…」
「そうだね…あ、でもごめん」
「あん?」
「今日は…ちょっと…限界…みたぃ…」

意識が、プツッと電源を切ったテレビみたいに途切れるのを感じた

「お、おい、たまゆら!おい!しっかりしろよ!」

完全に気を失う直前に聞こえたその声が
ああ、今回も何とかなったんだな…と思えて
安心した



10/14(火)同時刻

「…クソォ…絶対に…許さねぇ…!!
 力は消えたが…もう1度会長に…!!
 今までよりもっと強い力を…もっと…その力で…
 奴らをズタズタに引き裂いてやる…!!!」
「ハッハッハ、随分こっぴどくやられたなぁ」
「…誰だッ!」
「ノスフェラトゥ…」
「何だお前…」
「別に覚えなくても問題ないなぁ
 お前は俺の目的のために利用させてもらうらなぁ」
「なんだと…?
 なッ…おい、よせ…」
「可哀想だけどぉ…
 ま、命までは取らないからなぁ
 しばらくベッドの上でゆっくり過ごしてなぁ」
「く、くそっ…よせっ…やめろ…!!
 やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「じゃあなぁ!」




「ふむ、それにしても器の奴なかなかやるなぁ」
「絶体絶命のタイミングで朱雀を発動させるとはぁ…」
「こりゃあ本当に…ひょっとすると…ひょっとするなぁ…」
「まぁそろそろ仲良しごっこも終わりかなぁ…」
「クククッ、ククッ、クックックックック…!!!」


7時限目 - 爆炎浄化 -



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最終更新:2009年11月01日 02:43