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邪眼学園黄龍譚7.5限目【切り開くは可能性】前編


10/15(水)放課後

「で、たまゆらはまだ目覚めないってことか」
「ああ」

ベッドの上には昨日から眠り続けているたまゆらがいた
机の上に置いてあった煎餅をかじりながら俺は気になったことを聞いてみた

「どういう状況なんだ?」
「過度の疲労、具体的に言うと全身を巡る気が著しく減ってる」
「治るのか?」
「まぁ気が減ってるだけだからそのうち目覚めるよ
 あと数日は起きないと思うが…」
「ふーむ」

煎餅がバリンと割れた
粉が床にパラパラと落ちる

「それよりも修行中に気づいたが
 厄介なのは執行部よりも黄龍鉄甲だな」
「あん?」
「あの武器は一時的に全身の気の流れを加速させる効果があるようだ
 だから戦闘中は多少の痛みも麻痺するし通常出しえないような力も出せる
 かつその時負った傷の治りも早い」
「いいこと尽くめだな
 通りでまぁこれまで執行部の奴らと渡り合えてきたんだな」
「…が、問題はそのあとだ
 気断命脈と同じように異常に加速した気の流れは確かに身体能力の爆発的な増長などをもたらす
 だが代わりに恐ろしいほどの気を消耗し肉体にかかる負担も相当だ
 だから戦闘が終わって気の流れが通常に戻った瞬間に圧倒的な気の不足が起きる」
「で、結果がコレか」

俺はベッドの上のたまゆらを見た

「…まぁ確かに今回はハードだったしな」
「しかしまさか…実戦で覚醒するとはな
 下手したら本当にやられてたぞ」
「起きたらブン殴ってやればいい」
「そうだな
 あ、それとお前も服脱げ」
「はぁ?」
「いいから脱げ」
「キャー襲われるー」

ガゴンと、顔面に衝撃が走った

「…すいませんでした」

素直に上半身裸になる

「酷い傷だな、ズタズタじゃないか」
「…まぁ、な」
「というかちゃんと全部の傷を処置しろ
 化膿したらめんどうだぞ」
「途中でめんどくさくなっちまってな」
「ほら消毒してやるからこっち来い
 …つーかこんだけあるとぶっかけたほうが早いな」
「は?ぶっかけるって…」
「染みるかもしれん」
「は?おい、ちょっと待っ…」



放課後の校舎に俺の絶叫が響き渡った





10/15(水)夜

「がぁ…クソ…!ヤチャマルの野郎…!!
 乱雑な治療にほどがあるぞ…!医療ミスの領域だろコレ…!!」

全身のズキズキした痛みを堪えて
俺はカップヌードルにお湯を入れた
お湯を入れたカップヌードルを持ったまま俺は寮の外に出た
そのまま校舎裏のゴミ捨て場に向かった

「おーい、ほろにがー」

呼びかけるとゴミの山がゴトンガタンと動いた
そして隙間ならほろにがが顔を出した

「お、メシか」
「ほら」
「おー、サンキュサンキュ」

ほろにがはMy箸を懐から取り出して
カップヌードルをズルズル食べだした
俺はその横に腰掛けた

「ほーが、ほはへふふぉうひはて
 ほほんなはひーはふーへほ?」
「食ってから喋れよ!!」
「ほーはな」

ほろにが麺を高速ですすりだし
あっという間に汁まで飲み干した

「ぶはー、ごっそさん
 いやー、すまんすまん、どうにもこうにも腹が減っててな
 最近は黒いバナナで空腹を満たしていたからな…」
「悪食にも程があるな」
「黒いバナナは甘みが増すんだぞ、ほら食うか?」
「いらん」

ほろにがは真っ黒なバナナを食べだした

「最近の若い奴は胃腸が弱くて駄目だな
 俺なんか子供のころから生き残るために食えるものなら何でも食ってきたから
 今ならこの程度で腹を壊すことはない」
「ああ、そーかいそーかい
 ほんなら俺は帰るぞ」
「まぁちょと待てよ」

服の裾を掴まれて
また座りなおす

「…俺はどっちかと言うとあっちのたまゆらってガキンチョよりも
 お前のほうに興味があるな」
「ふーん」
「つれないねぇ…
 …ん…?お…おおおお…?」
「どうした?」
「腹が…ぬおっ…これは…まずい…
 ト、トイレ…!!いかん…急がなければならないが走ったら…!!はぉう!!」
「俺は帰るぞ!!」
「…おい…ちょっと手伝え…!」
「誰が手伝うか!!」

俺はダッシュで寮に戻る
後ろからほろにがの恨みのこもった声が聞こえた
だけど完全にシカトして俺は寮へと戻った

10/15(水)深夜

「随分と寂しくなったねこの部屋も」
「そうだな」
「…で?」
「俺が行こう」
「俺じゃないの?」
「お前は動くな」
「つまんね…ま、いっか」
「…俺も随分動いてなかったからな
 そろそろ技が鈍る…」
「…そうか、それなら行ってらっしゃい」
「意外と素直に引き下がるんだな」
「気が乗らないや」
「じゃあ僕はどうしようかな…」
「一般生徒の断罪をしておけ」
「最近やりすぎて飽きちゃったし…
 張り合う相手もいなくなっちゃったしね
 それよりももっと面白いこと見つけたから、そっちのほうが興味ある」
「…そうか」
「ま、がんばって…」


10/16(木)朝

早めに目が覚めた俺は
10日ぶりぐらいに朝から学校に登校した
今学校は執行部の暴走によって疑心暗鬼の渦に囚われて
雰囲気は最低最悪でまるで監獄のようと聞いていたが…
どうも様子がおかしい
おかしいというが一般的には普通なのだが生徒同士が普通に会話していた

「なぁ聞いたかあの噂」
「聞いた聞いた、執行部のことだろ」
「ノスフェラトゥだっけ」

ノスフェラトゥ、たまゆらが言っていた仮面の男のことか…?
ちょうどリカがサボりまくってた俺に説教をしに来たので話を聞くことにした

「一体何があったんだ?」
「ええとね、何でも一般生徒を執行部から守ってくれる正義の味方が現れたとか…」
「たまゆらのことか?」

半分冗談で言ってみた
しかし予想通りそうじゃないと言われた

「私も最初はたまゆら君のことかと思ったけど…
 ノスフェラトゥとかいう仮面の男?だったかな?」
「どっからその噂が出たんだよ」
「火曜日の夜に執行部を倒している姿を生徒の誰かが見たそうなの
 でそのときに自分のことを執行部と戦って生徒を守る者ノスフェラトゥ名乗ったらしいよ」
「それで?」
「それでその…昨日から断罪がピタリと止んで
 皆こりゃ本物だって…」
「火曜の夜…たまゆらがあいつを倒した…
 それならその後か…?」
「でも、私は知ってるよ
 本当に皆を守ってるのはたまゆら君とゆき兄だって」
「…あいつだけだよ、俺は皆を守ってるわけじゃない」
「…」
「…しかし大衆ってのは愚かだな
 いとも簡単に踊らされやがる…いや、それよりも今重要なのはノスフェラトゥか…
 そいつは一体何が目的なんだ…?」

しかし考えてもわかるはずもない
ならば考えるだけ無駄だ
気にかけておくだけに留めておこう

「…何も知らない故に真意がわからずとも喜ぶ
 全てを知ってる俺らから見れば滑稽だが…本来これがあるべき姿なんだろうな」
「ゆき兄…」
「今日は授業には出てやるよ
 真面目には聞かないがな」

俺は椅子に座った
リカは文句を言い続けていた


10/16(木)昼休み

「あふぁ~~…はふぅ」

かなりの大あくびが出た
まぁ午前中最初から最後まで寝続けてりゃ当たり前か
校内をうろついてるとどこもかしこもノスフェラトゥの話で持ちきりで耳にタコが出来そうだった

「ま、それだけ不満だったんだろうな
 執行部のことが
 抑圧された不満が放出すると共に一種のヒーロー像が投影されてるってとこか?」

誰に言うでもなくブツブツと呟きながら廊下を歩いていると
反対側から鬼気迫る勢いで走ってくる誰かが見えた

「…ピュアか」
「あっ!!」

キキィー!と効果音が聞こえるんじゃないかというぐらいの速度で止まる
勢いが凄過ぎて顔が近づく
汗だくで呼吸が荒く鬼のような形相だった

「…普段とは全く違ってアクティブだな
 どうかしたのか…?」
「今日登校してきたら図書室が荒らされてたんだよ!!
 ああもう本当最悪だよ!!あちこちに本をバラまきやがって!!
 ページに折り目がついたらどうするんだって感じで今まである程度まで整理してたんだ!!
 落ち着いたら犯人が許せなくなってブッ殺すて死ねを死ねで死ねに…!!」
「お、落ち着け…俺じゃない!
 首を…絞めるな…!!」
「あ、ごめん」

パッと首から手が離される
いかん、こいつ見境なくなってる

「…そうだ!ちょっと一緒に犯人を捕まえてくれ!!」
「…なんだその突拍子もない発想は
 だいたい犯人わかんねぇんだろ」
「…うーん…じゃあ現場検証しよう!」
「なんで俺が…うおっ!?」

無理やり手を引っ張られて図書室まで走らされる
振りほどこうとしたが異常に力の入ったピュアの手は振り解けなかった
そのまま殆ど投げ込まれるように図書室に飛び込む

「…なぁ現場検証ってももう片付けたんだろ?」
「僕が思うに犯人も僕と同じように無限の知識の探求者なんだ
 しかしいくら知識を吸収し無用になったからといって本を乱雑に扱っていいわけではない!!
 敬意を表して深く頭を下げて1mmの狂いもなく本棚に戻すべきなんだ!!」
「…わかったわかった、それで何の本が盗まれたんだ?」
「いや、本は盗られてない
 犯人はきっと貪るように知識を片っ端から食らって…」
「盗られてない…?
 図書室には鍵がついてたんだろ?」
「当たり前じゃないか、かけ忘れることはない
 鍵は24時間僕が管理してる、しかしご丁寧に犯人はドアをこじ開けやがったんだよ!!」

わざわざ鍵のかかったドアをこじ開けてまで入ったのに何も盗まれてない?
そいつはちょっと腑に落ちないな…

「…じゃあ本のほかに何か盗られた物は…?
 仮に普通の泥棒だとしてそいつが欲しがりそうなものは…」
「…」

ピュアは腕を組んで眉間にしわを寄せながら考えだした
しばらくそのまま静止し、沈黙したあと口を開いて一言

「無い」
「…無いって…本当か?」
「この学園ははるか昔からあって図書室にある本には歴史的価値のあるものもいくつかある
 ただし本以外になるとペンやら消しゴムやら貸し出しカードやら…
 まぁつまり泥棒が欲しがるようなものはひとつもない」
「…で、本はブチまけられていたが盗まれたものはないか…」

普通に考えるなら何かを探すために本をぶちまけたが見つからなかった
それかピュアの言うように本に書いてあること自体が目的だった…
前者とは思うが…あ、そうだいいこと考えた

「じゃあピュア、犯人が何の知識を得ようとしていたのか調べてみればいいじゃないか」
「何?」
「だからー、ブチまけられてた本のタイトルとか内容とかを照らし合わせれば
 犯人が何について調べようとしたかわかるだろ?」
「そうか!
 そこから見つけ出すんだな!」
「そうそう、それじゃそれが済んだら俺を呼んでくれ」
「わかった!」

そして俺はさっさと図書室を出た
ぶちまけられた本は全部整理されて元の棚だし
本の内容に目的がなかったら法則性なんて見つかるはずもない
せいぜいその無駄な作業を延々繰り返しときやがれ

教室に戻るとリカが小走りで近づいてきた
手には封筒みたいなものを持っていた

「ゆき兄…」
「なんだよその不安げな顔は」
「さっき知らない男子生徒がこれをたまゆら君にって…」
「封筒ねぇ…貸してみろ」

手渡された封筒を破り開けようとする

「開けるの?」
「ラブレターってわけでもないだろ
 っと…中にはまた紙か…」

その紙を取り出すと
表に大きく堂々と果たし状と書いてあった

「…明日の夜に1人で剣道場まで来い
 執行部より、だってさ」
「…でも…たまゆら君は…」
「絶賛お休み中だ」
「…」
「…心配すんなよ
 なんとかなるさ、これ俺預かっとくぞ」
「…うん」
「授業を受ける気分じゃなくなったな」
「あっ!ちょっと待っ…」

リカが文句を言い終わる前にドアをピシャリと閉めた
俺はそのまま走って教室からとにかく離れた

10/16(木)放課後

授業が終わったのを見計らって保健室を覗いてみた
たまゆらはすやすやと寝息を立てている

「うーむ…」
「ゆき兄、お前授業サボってたろ」
「サボってねぇよ」
「ヨダレのあとがついてるぞ」
「む…」

口周りを拭いてから俺は椅子に座った
ヤチャマルがコーラを目の前にポンと置いてくれた

「あ、悪いな」
「というかお前が勝手に保健室の冷蔵庫に入れていったんだろう
 邪魔だから早く減らして欲しいんだよ」
「あー…そういや忘れてたわ
 …ふーむ…」
「また何か考え事があるのか?」
「これだこれ」

懐から取り出した執行部からの果たし状をヤチャマルに投げる

「…果たし状とはまた古風だな
 やろうというなら受けてたつぞ?」
「馬鹿!違う!構えるなよ!!」

立ち上がって拳を構えるヤチャマル
慌てて椅子の裏に隠れる

「…冗談だ」
「冗談にしてもタチが悪いぞ…」
「しかしどうするんだ?」
「あー…やっぱり明日じゃたまゆらは起きないか?」
「仮に今目覚めたとしても明日の夜じゃじゃ体調万全とは言いがたいな」
「果たし状を出してくるぐらい正々堂々した奴なら
 たまゆらの状態を話したら全快まで待ってくれないかねぇ?」
「…可能性が無いわけじゃないがそれだけに賭けるにはいささか…」
「…だよなぁ…」

しばらくお互い無言になる
俺は天井を見ながらどうすべきか思考を巡らせていた

「…しかし少し意外だな」
「あん?」

ポツリとヤチャマルが呟いた

「なんというか執行部はもっとこう…手段を選ばないという印象だったが…
 わざわざ果たし状を送ってくるなんて…」
「…ま、中にはそういう奴もいるってことだろ」
「んー…今思ったがたまゆらが動けないならゆき兄がやればいいじゃないか」
「は?」
「…だってそのために…」
「違う」
「…」
「俺はただ…」
「…ただ?」
「…」
「…あー…まぁゆっくり考えろとは言えないがとりあえず今日は時間があるんだあるんだ
 それまでどうするか考えとけばいいさ」
「それもそうだな
 それじゃ引き続きたまゆらの面倒頼んだぜ」
「というか別に何もしてないんだけどな
 栄養を点滴で入れてるだけだ」
「そーかそーか」

俺は保健室を出て寮に戻ることにした
明日の夜ってことはもうそんなに時間がないな…
どうすればいいやら…

10/16(木)深夜

深夜になるまで寮で無意味に時間を潰していた
時計が午前2時を回ったあたりで俺は寮を抜け出した
目的の場所につきボロボロの扉を開ける
ギィという音が響いて中からやわらかい光がさし込んできた

「…いらっしゃい、イビルアイにようこそ」

カウンターの椅子に深く腰をかける
懐から小瓶を取り出して目の前に置いた

「役にたったみたいだね」
「ああ」
「ダブル・クロス…自らに敵対する者を混乱させるマジックオイル…」
「ただしカラスにしか聞かなかったけどな」
「そりゃあ…まぁね
 人間に効果を及ぼそうと思ったら日常的に嗅がせるか食べ物に混ぜておくか…
 さらには魔方陣を使用した中規模儀式ぐらいは必要だろうね」
「ま、おかげで助かったんだけどな」
「何よりだ…で、何を飲む?」
「コーラに決まってる」

コトンとコーラの入ったグラスが置かれた
それを掴むと一気に飲み干した

「っかっはぁー」
「相変わらずいい飲みっぷりだ…
 それで?本題はなんだい?」
「…よくわかってることで」
「ゆき兄がわざわざ小瓶を返しに来るだけとは考えられないからね」
「俺がここに来たのは…可能性を探しにな」
「可能性?」
「そ、可能性」

俺は自分の考えてることを全て話した
神楽君は静かに黙って俺の話を聞いていた
全て話し終えるとゆっくりと口を開いた

「魔術師としてもとても興味深い話だ」
「だろ?
 だから…まぁよければ手伝って欲しいんだ」
「…」

神楽君はカウンターの下から大きな箱を取り出し
それを置いた
中には液体が入った小瓶が沢山入っていた

「…ありがとう」
「説明するのは省く、だけどそれぞれの効果がラベルに書いてあるから…
 あとは直感と判断力の問題だな」
「あ、ぜんぜん大丈夫」
「…ま、うまくいったら話を聞かせてよ」
「そればっかりだな、神楽君は」
「だけど気をつけてな…そもそも出来るかどうかも…
 理論的には可能だけど…」
「…ああ、承知の上さ」

また、目の前にコーラの入ったグラスが置かれた

「おごりだから飲みな」
「そりゃどーもっと…」

また思いっきり飲み干し
大きな箱を抱えて俺は寮へと戻った
とりあえず寝ることにしよう

10/17(金)午前

「ん……はっ!?」

目を開けると時計はすでに11時を回っていた
机に突っ伏して寝ていたらしい
目の前には散乱した小瓶があった

「説明読んでるうちに寝ちまったか…
 めんどくせぇし、このままサボってやろうか…」

ふと携帯を見るとメールが着信していた
差出人はリカで
昨日の午後の授業をサボったことについて文句をダラダラと書き綴ったメールだった
…どうやら今からでも行ったほうがいいらしい
まぁどうせ授業には出ないからいいか…
適当に用意をして学校に向かった

10/17(金)昼休み

学校につくと丁度昼休みになっていた
とりあえずリカに学校に来たということを見せておいて…
そのあと適当にどっかで時間を潰すか
そう思って教室に行ったもののリカの姿は無かった

「おかしいな、シャインとかで食ってんのかな」

リカの机の周りをウロウロしていると
クラスメイトの道下が話しかけてきた

「あ…ゆき兄、リカちゃんなら欠席だよ…」
「はぁ?」
「朝から来てないしね…連絡もないみたいだし…
 おっと…早く阿部さんのところに行かないと…」

道下はとっととどこかに行ってしまった
と、思ったら途中で何かを思いついたように戻ってきた

「なんだよ、俺はノンケだぞ」
「うんうん、わかってるわかってる…
 そうじゃなくてこれ…」

また封筒を手渡される

「たまゆら君宛てだけどね…
 ずっと来てないからたまゆら君と仲がいいゆき兄に渡しておくよ…
 会ったら渡してあげてね…さてトイレトイレ…いや別に溜めておけばいいか…」

ブツブツ呟きながら道下は嬉しそうにどこかに行ってしまった
どこに行ったのかは考えたくはないな…
さてこの封筒、十中八九執行部からだろうな
俺は屋上に上がった

屋上はいい感じに風が吹いて気持ちがよかった
いつもの場所に寝転がって封筒を開けて見る

「中には紙が1枚…と写真?…なッ!?」

『逃げたらこの子がどうなっても知らないよ?』

紙はその一文だけ
写真には縛られているリカが写っていた

「あの馬鹿野郎!!また捕まりやがった!!」

思わず紙をビリビリに引き裂いた
いかん、落ち着け
とにかくこれで夜のことをシカトするわけにはいかなくなった
たまゆらが起きないにしろそれを伝える奴がいるというわけだ
…俺しかいないじゃないか
人質を取るような奴が相手じゃ状況説明だけじゃ済まない気もするが…

「クソッタレ…あの馬鹿野郎…
 どうしてこう次から次へと…問題を巻き起こすんだ…!」
「ゆき兄が言えた立場じゃないよ」
「あん?…!?!?!!?」

やや後方、そこに1人の女子生徒
それは、俺の、最大の罪

「くっ…!」
「待って!!」
「…」
「…逃げないで…話を聞いて…」

心臓の鼓動が、加速する
奥歯を噛みしめる
振り向かずにただ言葉だけを発する

「…今さら…話なんて…」
「昔のことはもういいよ…」
「…あれが…許されるのか?」
「私はもう…」
「世界中全ての人間が俺を許したとしても…俺は俺を許さない…
 そして全てを知っていながら今だ罪を犯し続ける俺を…誰が許せる…」
「…」
「…俺は…君に会わす顔なんて無いよ…きのこさん…」
「…じゃあそのままでいいから話を聞いてよ
 あの時みたいに逃げないでね…」
「…ああ、あんときな…たまゆらとリカで三人で弁当食ってた時だな…
 あんときはびっくりしてコーラ噴いちまったよ…」
「…その…たまゆら君…
 ゆき兄は気づいてるでしょ?」
「最初からわかってた…器だってことも…」
「私は…たまゆら君に…儚くて今にも消えてしまいそうな小さな…
 だけど確かな光…希望という可能性が見えたよ」
「…だけどそれはいとも簡単に闇に押し潰される
 昔みたいに…」
「じゃあ何でたまゆら君を助けてるの!?」

きのこさんの声が一段階大きくなった
怒っているようにも、泣いているようにも聞こえるその声に
胸が締め付けられるようだった

「…それは…」
「ゆき兄も、たまゆら君に希望を見出したんでしょ?
 この学園を呪われた運命から解き放つ希望を…」
「…そうだね…だけど今は同時に不安だ
 次はもう…決断するしかないのだから…」
「…ゆき兄」
「…もしもたまゆらが決断するのなら…その罪は…重すぎる」
「だからって…ずっと1人で背負っていくの…?」
「他に方法がないじゃないか!」
「…」
「…」

沈黙が辺りを支配した
長い静寂の果てできのこさんが紡いだ言葉は

「…ゆき兄は…何をどうしたいの?」
「…俺は…ただ…」
「もう…流れは始まってしまってる
 逃げれないんだよ…?」
「…逃げれない…か」
「…」
「…わかってたよ…そんなことは…
 だから…俺は…」

俺は歩き出し
ドアに手をかけた

「…俺が本当に避けたいのはね…
 …いや、いいや…それじゃあね…
 出来れば…もう…俺には…」
「…」

俺は、屋上から立ち去り
階段を降り
人気の少ない階段を壁の隙間にもたれかかった

「…くっ…そぉぉぉぉおお!!」

思わず壁を殴りつける
痛みすら厭わず、ただ感情を拳に乗せぶつけていた

「はぁっ…はぁっ…!!」

涙がポタリと、地面に落ちた
顔を抑え必死に自分を抑えようとする

「…逃げれないんだよな…だったら…
 俺がやることは…」

昼休みが終わろうとしていたが俺はずっとその場に立ち尽くした
ただ、自らを嘆き続けて



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最終更新:2009年11月01日 02:45