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邪眼学園黄龍譚8限目【激痛】前編


8時間目 - 激痛 -

視界は真っ暗闇
まるで深い泥沼をどこまでも落ちていくような感覚
そんな場所に佇む俺に誰かが語りかけていた

『…レ…ロ…ト…ハナテ…』

その声からは怒りも悲しみも喜びも楽しさも感じない
ただまるで弾け飛びそうなほどのピリピリした感じを受けた
ただその声はよく聞こえない

『ワ…ウ…キ…ナテ…』

声の主は俺に何を伝えたいのだろうか
ただ何度も何度も、消えそうな言葉を俺に投げかける
お前は誰なんだ

『ワレヲ…トキハナテェェェェエエエエ!!!!』

絶叫、轟音、もうそれは声ではなく
ただの雄叫び、それでも何を言っているかはしっかりと理解できた
突然、世界が回転した
より深い暗黒に頭から落下していく
やがて声が聞こえなくなる
最後に聞こえた、小さな、そしてハッキリとした声
それはまるで呪詛のように耳の奥にへばりついたようにずっと俺の頭の中を巡っていた




『我をこの牢獄より解き放て』




10/17(金)深夜

「おい!出血が止まらねぇぞ!!」
「まずいな、貫通している
 気の流れがグチャグチャだ」
「どうすんだよ!?」
「…仕方ない」
「…ってオイ!何する気だ!?」
「この状態で内気功は使えない
 なら直接しかない」
「ここでやんのかよ!?」
「時間が無い、ゆき兄…はいい、リカちゃんだけ手伝ってくれ」
「正気か!?」
「わ、わかりました…がんばります…」
「大丈夫かよ?」
「やるしか…ないし…」

頭が重い、何か聞こえるが起き上がる気力がない
ゆき兄とリカとヤチャマルの声が聞こえる
とても慌しく焦っているような声
そこで俺の意識はまた消えていった



10/18(土)早朝

少し眩しさを感じて目を開けた
窓から朝日が差し込んでいた
頭がクラクラする、随分寝ていたらしい
同時に、鼻にツンとした臭いを感じた

「…?……!?」

声が出ないことに気がついた
驚いてもう1度喋ろうとする

「…あ、あー…あー…あー」

今度はちゃんと出る
声を当分発していないと出し方を忘れてしまうと聞いたことはあるが
これがそういうことなのか
周りを見渡すとここはどうやら保健室のようだった
確か俺は黒やんと戦って…倒した…んだよな…
そういえばゆき兄はどこにいるんだろう
そもそも俺はどのくらい寝てたんだろう
ゆっくりと身体を起こす、まるで鉛のように重かったがなんとか立ち上がった
それにしてもこのツンとする匂いはなんだろう、どこかで嗅いだことがあるような…
シャッ!と勢いよくカーテンを開けた
その瞬間、飛び込んできた光景に驚愕した

あたり一面血まみれ
白くて清潔さを感じさせる保健室は血があちこちに飛び散り
乾いて変色した部分や鮮やかな赤が折り重なり恐ろしい光景だった
何も言えずに呆然としていると壁の隅に血まみれになった白衣を着てうなだれているヤチャマルが見えた
その横で同じような姿でうなだれてるリカがいた

「ヤチャ…マル…?」
「…」

返事はなかった
もう1度、大きめの声でヤチャマルを呼んで見た

「…起きたか、たまゆら」
「あ…うん…いや、それよりこれは…」
「…何、少し頑張っただけさ
 疲れたから寝かせてくれ…」
「え…うん…」
「聞きたいことはゆき兄に聞け
 おやすみ…」
「お…おやすみ…」

それだけ言うとヤチャマルは寝息を立て始めた
これ以上聞ける雰囲気ではないと判断した俺は静かにゆっくりと血まみれの保健室を後にした
保健室から出てすぐの壁にゆき兄がよりかかって寝ていた
そっと揺り起こして見る

「ん…」
「起きろよゆき兄」

ゆっくりとゆき兄の目が開いた

「…やっとお目覚めかい」
「…俺、どのくらい寝てたの?」
「4日ぐらいだな…今日は土曜日だぜ?」
「そんなに…寝てたのか」
「…話しておかなきゃならないことは沢山ある
 とりあえずここじゃなんだしな…寮に戻るぞ」
「うん…うわっ…」

足がふらつき、よろけそうになった

「…4日寝てたからか、すっ転ぶなよ」
「う、うん…」

フラフラする頭と身体でなんとか寮にたどりついた
ゆき兄と一緒に自分の部屋に入った
部屋に入るなりゆき兄はベッドに腰を下ろした

「さて…何から話せばいいものか」
「…」
「…とりあえず俺も…戦えるようにはなったぞ」
「え?」
「これについての説明はめんどくさいから省くぞ」
「…うん、まぁ…いいけど…」
「執行部を1人倒したんだ、だけどそこでノスフェラトゥが現れた」
「ノスフェラトゥって…あの仮面の奴か!?」
「そうだ、多分たまゆらと接触した奴と同一人物だろうな」
「俺が倒した執行部は剣三郎っていうんだけどな
 そいつは執行部にしてはなんつーか武人肌でな
 正々堂々戦おうとしていたみたいなんだが、ノスフェラトゥがリカを人質にとってな
 それを知った剣三郎が激怒してノスフェラトゥに突っ込んだんだが返り討ちにあったんだ」
「剣三郎ってやつも特殊な能力もってたんだろ?」
「ああ…かなり強烈だ
 だけどノスフェラトゥも恐らく何かの能力を持っている
 何が起こったかよくわからなかったがな…」
「…じゃあノスフェラトゥも執行部の1人…?」
「いや、剣三郎はノスフェラトゥのことを知らなかったみたいだ
 となると執行部か生徒会の誰かがノスフェラトゥとして暗躍してるのか
 それとも俺たちにも生徒会にも属さない第3勢力かだ」
「…」
「それともう1つわかってることは…
 ノスフェラトゥは敵だな、少なくとも俺にとっては」
「そうか…得体の知れない奴だとは思ってたけど
 ノスフェラトゥは何が目的なのかな?」
「わからない、ただ執行部と俺たちをぶつけたいのは確かだ
 そのためにわざわざリカを人質に取ったんだからな」
「…くそ、俺が寝てる間にそんな」
「それとノスフェラトゥについてだけどもう1つある」
「何?」
「学園中にノスフェラトゥの噂が広まってる
 執行部を倒し学園に平和を取り戻す正義のヒーローって感じでな」
「え…?」
「実際は俺たちの手柄を横取りしてるんだけどな
 だけど皆は信じてしまう…」
「…」

いつも突然現れ、突然消える正体不明の怪人ノスフェラトゥ
目的こそわからないが、ゆき兄の話を聞く分では少なくとも味方ではないらしい

「あ、それと何で保健室血まみれだったの?」
「ありゃあヤチャマルが剣三郎を治療したんだよ
 …つーか血まみれになってたのか…」
「そっか…なんか納得した…」

そのとき、俺のお腹が盛大に音を立てた

「…う」
「…そういやぁ、点滴だったからな…
 何も食ってないわけか」
「そうみたい…」
「ただ突然固形物をガッツリ食うのはよくない気がするな
 スープなりおかゆなり食ってろよ」
「うん…わかった…」
「それじゃ俺は寝る…」
「寝るの?」
「…戦ったうえにずっと起きてたからな、じゃあな」
「あ、うん…」

ゆき兄は部屋を出て行った
1人取り残された俺は買い置きしていた忠告を無視して食料を漁った
一瞬吐きそうになったが空腹には勝てずに無理やり食料を胃袋に押し込んでいった
だがあまり量を食べることはできずに空腹が満たされたぐらいで食べるのをやめた

しばらく頭の中で俺が寝ていた時にあったことを整理することにした
ゆき兄が執行部を1人倒した
しかしゆき兄を執行部の元におびき出したのはノスフェラトゥだった
そしてノスフェラトゥはゆき兄と戦っていた執行部を倒して消えてしまった
そして今ノスフェラトゥは学園のヒーローとされている
たった4日ほど眠っていただけで色々ありすぎだろう…

そのときドアが勢いよく開いた
ゆき兄だった

「寝るんじゃなかったの?」
「今日の夜イビルアイ集合な、8時くらいだ」
「え…?」
「ヤチャマルが話しておきたいことがあるってよ
 それじゃちゃんと来いよ」
「…わかった」

ゆき兄はまた勢いよくドアを閉めていった
夜の用事はできたが、今から夜まで一体どうすればいいだろう
4日間眠っていたおかげか全く眠気もなく
かといって特にやることもない
…いや、そういえば前にゆき兄から借りたゲームが…

10/18(土)夜

ちまちまゲームをやり続け結局夜まで時間が潰れた
時計を見るとそろそろ約束の時間だったので寮を出てイビルアイに向かう
途中でゆき兄と出会ったので一緒に行くことにした
イビルアイに入るとヤチャマルがカウンターに座っていた
こちらを見て神楽君がいった

「いらっしゃい、イビルアイにようこそ」
「…来たか、まぁこっちに座れ」

促されるままにヤチャマルの隣の椅子に座る
俺の横に座ったゆき兄に神楽君が話しかけた

「ねぇどうだった?」
「とりあえず成功はした…ただ」
「ただ?」
「お陰で勝てたっちゃ勝てたんだが…
 途中で俺の意思に反して剣が勝手に動いてな」
「ふむ…興味深いね…
 魔力と宿したと同時に意思を持った…?」

何を話しているかはわからなかったが真剣に話しているので
とりあえず口出しはしないでヤチャマルに用件を尋ねてみた
ヤチャマルはグラスを置いてこちらに向き直った

「身体はもういいのか?」
「…うん、大丈夫…だと思う…」
「用件ってのは黄龍鉄甲のことさ」
「黄龍鉄甲の?」
「ゆき兄には話したが、黄龍鉄甲は戦闘中に使用者の気の流れを著しく加速させる
 結果、通常では出しえない力を発揮できるし、その時に負った傷の治りも早い
 だがそれは限界以上の力を出し続けているようなものだ
 使い続けて身体が平気なわけがない、簡単に言うと命を削って力を搾り出してるようなものだ」
「…」
「特に今回の衰弱は酷かったな、4日も眠り続けるほどだ」
「それは…もう戦うのをやめろって言ってる?」
「いや」

ヤチャマルはグラスを手に取り飲みながら話し出した

「ただ知っておいて欲しかっただけさ
 戦いをやめるも続けるもたまゆらの自由だからな」
「…そっか」
「まぁジュースでよければ飲め」

その時、入り口のドアがカランと音を立てた
振り向くと隙間から誰かが覗いていた

「ヤ~チャ~マ~ル~さ~ん…
 いっぱいおごってくれませんか~…」

この声は…と思った瞬間にヤチャマルがカウンターの上にあったマドラーをブン投げた
高速で放たれたマドラーはドアの隙間から覗いてたアイツに見事に命中した

「うぉあだぁ!?」

ドターンガターンビターン!な感じの音がドアの向こうから聞こえた
そしてすぐに声の主が飛び込んできた

「でこに刺さったぞ!今刺さったぞ!!
 マドラーがブスッと刺さったぞ!!」
「…ほろにが…」
「おろ、ガキンチョ、起きたのか」
「…」
「なぁなぁ一杯奢ってくれだぎゃぁッ!?」

ヤチャマルが10円玉を投げつけたらしい
見事にそれはまたほろにがのおでこに命中した

「いっ…つぅ~…!
 頭割れたかと思った…!!」
「学生にたかるような脳みそは1度叩き割って洗浄したほうがいいかもな」
「おお、怖い怖い
 いやだってよぉ…ここにきてからアルコールなんて全く摂取してないしな
 ほら俺だってたまには息抜きを…ね?」
「…全く落ち着いて飲めなくなったな…」
「…よし、ゆき兄奢ってくれ」
「うるせぇ下痢男」

下痢…?

「だからいくらなんでもそのあだ名はやめろと…」
「とにかく奢らないぞ」
「…」

ほろにがは後ろでウロウロしていた
もはや誰も相手にしていなかった
神楽君ですらシカトしていた
しばらくすると深いため息をついてドアから出て行った
それを見届けるとヤチャマルが言った

「放っとけ放っとけ」

次にゆき兄が言った

「俺もコーラが飲めなくなったらと考えると…
 まぁ…ちょっと可哀想だな」

次の瞬間ドアが盛大に開いてほろにがが飛び込んできた

「可哀想だろ!?可哀想なんだよ!!
 だから一杯頼むわ!!」
「前言撤回、ゴミ捨て場に帰れ」
「チッ…」

またほろにがはドアを開けて出て行った

「…絶対また外で聞き耳立ててるぞ」
「…」

しばらく全員が無言だった
するとゆき兄が立ち上がった

「話も終わったみたいだし俺は帰るぞ」
「もう帰るの?」
「眠いんだよ」
「…俺はどうしよう」
「特に用も無いならいればいいんじゃないか?」
「…うーん…じゃあもうちょっとここにいるや」
「おうよ」

ゆき兄は手を振りながらイビルアイを出て行った
ドアの向こうから

「ここにいんなよ…邪魔だろ」
「なぁ~ゆき兄~…一杯でいいんだよ~」
「しつこい…」

などというやり取りが聞こえた
それからしばらくヤチャマルと神楽君と他愛もない話をしながら
イビルアイで時間を潰した

10/18(土)深夜

「久しぶりですね会長」
「…来た理由はわかってるな?
 ノスフェラトゥについてだ」
「…ええ、ただの愉快犯かと思っていましたが」
「…早急に手を打て」
「尽力しますよ」
「…」
「執行部も少なくなってきてましてね」
「だろうな」
「…ですがご心配には及びませんよ
 楔は守り通します…」
「…残り4つ
 恐らくそろそろ影響が出始める」
「だからこそ僕らが必要になる…そういうことですね」
「…そう、それが生徒会の…」
「心得てますよ…」


10/19(日)午前

時間が11時を回ったあたりでイビルアイを出て
自室でなんやかんやとしたあと眠った
寝れるかどうか微妙だったがすんなり寝れたのだ
目が覚めると時刻は午前10時少し過ぎだった
適当に顔を洗ってベッドに腰を降ろして今日はどうしようか考えた

「やっぱり別段やることはないんだよなぁ…」

とても平和な日、そう思う
ずっと戦いっぱなしで気の休まるときがなかったからな…
こうしていると戦っていることを忘れてしまいそうだった
窓を開けて見た、気持ちのいい陽射し、同時に何人もの大声
どこからどうやら学校のほうから聞こえているようだった
気になった俺は他にやることも無いので言ってみることにした

寮を出て学校に向かう
グラウンドには人だかりが出来ていた
まさかまた誰かが断罪されて磔にでもされてるんじゃないかと思ったがそうではないらしい
輪の中心で誰かが演説をしていた

「生徒会を許すな!!」
「許すな!!」
「生徒の安全を考えない生徒会なんて必要ない!!」
「必要ない!!」
「教師も皆怯えてるならば僕らがやるしかない!!」
「やるしかない!!」

これは…生徒会への反抗?

「恐れるな!僕らには心強い味方がいる!!」
「そうだ!生徒会を打ち倒し学園に平和を取り戻すヒーロー!」
「ノスフェラトゥ!!ノスフェラトゥ!!!」
「「「ノスフェラトゥ!!ノスフェラトゥ!!!」」」

ノスフェラトゥ…
ゆき兄の言ったとおり奴は一般生徒にはヒーローとして扱われてる
しかしここまでなのか?
…いや、それはともかく…ここにいる生徒はこんなことをしていて大丈夫なんだろうか…
もしこれが生徒会や執行部に見つかったら…
いやこれじゃ見つけてくださいと言っているようなものだ
俺は一歩前に出た

「あの…」
「ん?」

周囲の視線が一斉に俺に集まった
若干ひるんだが逃げるわけにもいかない

「こういうのやめたほうがいいと思います…
 生徒会に見つかったら…」
「何言ってんだ!ノスフェラトゥが僕らを助けてくれる!」
「そうさ!彼は僕らを見捨てない!!」
「違う!!あいつはそんなんじゃない!!執行部を倒しているのは…」

大声を張り上げた
周囲がシンと静まりかえった
気がついたら取り囲まれていた

「…お前、執行部なのか?」
「え?」
「…そうか…お前も執行部か…」
「え…違…」
「来い!!」
「なッ…うわっ…!」

6人ほどに囲まれ、腕や足を掴まれて連れていかれる
校舎裏に連れていかれそこで地面に投げつけられる
背中に痛みが走る

「うっ…」
「テメェら執行部のせいで俺たちは…」
「ブッ殺してやる…」
「待て…誤解…」
「今更ごまかしても遅いんだよ!!」

なんだ、何かがおかしい
この場にいる全員何かがおかしい
目がギラギラしているというか…とにかく危ない
逃げようにも周囲を囲まれて動けない
どうすればいい…どうすればいいんだよ

「あれあれ…先輩、1対6で喧嘩とはなかなかハードですね」
「え?」

声の聞こえた方向を見ると1人の男子生徒が立っていた
その男子生徒はゆっくりと俺のほうへ近づいてきた
全員が男子生徒に注目していた
男子生徒は全員を見渡すと俺に向き直っていった

「先輩、こいつら俺がやっていいですか?」
「え…?」
「おい、テメェいきなり出てきて何言ってやがんだよ!!」

リーダー格の男が男子生徒の肩を掴んだ

「…1人」
「あ?がごっ…!!?」

振り向き様に、リーダー格の男の顎に男子生徒の肘が叩き込まれた
後ろにリーダー格の男は後ろに吹っ飛んだ
全員に動揺が走った

「ほら来いよ、遊びたいんだろ?」

男子生徒は指で挑発している
それに激昂した残り5人が雄叫びをあげて一斉に男子生徒に飛び掛った


10/19(日)同時刻

「あれ?ゆき兄こんなところで何してるの?」
「ん…よぉリカ…たまゆら見なかったか?」
「いや、見てないよ?部屋にいるんじゃない?」
「部屋にもいなかったんだ」
「んー…休みだしどこかに遊びにいったんじゃない?」
「だといいんだが…なんか胸騒ぎがしてな」
「また勘か…」
「杞憂ならいいんだが…」
「ん、向こうから走ってくるのは…ほろにが」
「おいおいおいおい!ゆき兄!
 たまゆらのガキンチョが絡まれてたぞ」
「どこでだ!?」
「校舎裏だよ校舎裏!びっくりしたわー!」
「見捨てたのかよ!」
「だって俺あんまり人に見つかるわけにはいかねぇんだよ!
 だからこうしてゆき兄に伝えにきたんだよ!」
「…くそっ!おい、リカここで待ってろ!」
「う、うん…気をつけてね」


10/19(日)同時刻

「もう…許してください…」
「俺たちが…悪かったです」

何が起こっているのか
俺を取り囲んだ6人は全員1人の男子生徒に叩き伏せられた

「つまんねぇ奴らだなぁ…
 ほら、立てよ!立たないとこのまま死ぬぞ!!」
「ゴハッ!!」

倒れている奴の腹部に容赦なく蹴りを叩き込む男子生徒
蹴られた生徒は口から汚物を吐き出していた
男子生徒の表情は嬉々とした喜びを感じさせた

「お、おい…さすがにやりすぎ…」
「んー?」

男子生徒がこちらを振り向く

「…あんた、こいつらにリンチにされそうだったんだぜ?
 なんで庇うの?」
「だけど…いくらなんでもやりすぎ…
 このままじゃ本当に死んで…」
「死んでいいじゃん、こんな奴ら」

あっけからんとした"死んでいい"という発言
背中に冷たい感覚

「何を…」
「力も無い癖に真実かどうかもわからない救いにすがって
 自らが力を得たように錯覚してもなお群れることでしか自らを誇示できない馬鹿どもは死んだほうがいい」
「お前…まさか…」
「…紹介が遅れたね、執行部の1人…雷雲…
 よろしくね、たまゆら先輩」
「う…」
「まぁそんなわけでさ…こいつらは死んだほういい」
「待てよ!!」

あわてて雷雲を後ろから抑える
特に抵抗する様子も無い

「甘いね…そんなんで僕に勝てるのかな?」
「とにかく…やめろ!!」
「はいはい…よかったな、お前ら、今回は見逃してやるよ
 さっさと消えろ、目障りだ」
「う、うわああ…」

6人は一目散に逃げ出した
残ったのは俺と雷雲の2人だった

「離してくださいよ」
「…」

ゆっくりと警戒しながら束縛を解いた
雷雲は向き直って動かない

「会長から先輩を倒せって言われてるんですよ」
「…」
「…どうします?なんならここでやってもいいんですよ?」
「たまゆら!!」
「え、ゆき兄?」

ゆき兄が向こうから走って来る
それを見た雷雲はため息をついた

「…邪魔が入ったようですね
 ま、どうせすぐに戦うことになると思いますけどね」

そう言い残すと雷雲は去っていこうとした
ゆき兄とすれ違った瞬間、ゆき兄が若干驚いた顔をした
雷雲が去るとゆき兄がすぐに近づいてきた

「たまゆら…今の奴は…」
「執行部…らしい」
「大丈夫か?」
「あ…なんていうか…あいつが助けてくれたんだけど…」
「あいつが…?」
「少し…やりすぎだとは思ったけど」
「あいつは…ヤバいぞ」
「え?」
「すれ違うときに目が合ったんだ…
 狂喜を感じるほど楽しそうな目だった…」
「…」
「あいつと戦うのか…」
「逃げられないと思う…」
「あいつとの戦いのときは…絶対に俺をよべ」
「え…?」
「いいな」
「あ、ちょっとゆき兄…」

ゆき兄はさっさと行ってしまった
雷雲…やはり俺は執行部との戦いから逃げられないか
いや、別にそれはいい
重要なのはあいつに勝てるかだ
もう1度黄龍鉄甲の朱雀を発動させることができれば…
しかしヤチャマルが忠告してくれたように
あれを使うと命を削る…か
しかしそれでも殺されるよりかは幾分マシなんじゃ…

「おいすー」
「…ん?」

顔をあげると目の前にほろにががいた
片手にポテトチップスの袋を持ってバリバリ食っていた

「いやリカって子によぉ数日マトモなものを口にしてないって言ったら
 コレくれたんだよ、いい子だなぁガッハッハ」
「プライドはないのか…」
「生きてく上では邪魔なだけだそんなもん
 長生きしたきゃ変なことに首突っ込まないことだな
 おっと…もう頭のてっぺんまでどっぷりか」
「そういうあんたこそこんなことに首突っ込んで長生きとか言えたもんじゃねぇけどな」
「まぁこれが生きてくための仕事だからな
 それに…」
「それに?」
「……いや、なんでもない」
「?」
「…ま、いいじゃねぇか
 俺の事情なんて知ったこっちゃねぇだろ?」
「…それもそうだが」
「それじゃあな、ガキンチョ、せいぜい長生きしろよ」

そう言うとほろにがはフラフラとどこかに言ってしまった
俺も戻ろう…

10/19(日)午後

戻りついでにシャインで昼食を取っていくことにした
店内に入るとカナが走りよってきた

「いらっしゃいませ~シャインにようこそ~…ってあれぇ?
 なんかたまゆら君見るの久しぶりだぁ」
「はは、ちょっと身体を壊して寝入ってたんだ」
「え~そうなんですか~?
 もう大丈夫なんです?」
「もう平気だよ」
「病み上がりが1番怖いんですよー
 こういうときこそシャイン特製
 "ウホッいい感じ何回でもいけちゃうよ!スタミナ抜群丼!"でも食べて栄養つけてください」

なんだろう、とても食べたくない
そのままカナに席に案内してもらった

「それで何にします?」
「えーと…」
「あ、それじゃウホッいい感じ何回で
「ハンバーグ定食!!!!」
「…」
「ハンバーグ定食…」
「かしこまりましたーハンバーグ定食1つー」

危なかった…また勝手に決められるところだった
名前が長かったおかげで助かった
ハンバーグ定食を待っていると誰かが前の席に座った

「やぁたまゆら、久しぶり」
「ピュア…」
「少し聞いてもらいたいことがあるんだ」
「ん?」

ピュアはニコニコしながら話し始めた

「最近図書室に泥棒が入ってね」
「ええ?」
「まぁそれはいいんだ、それでその関係で本を漁っていたんだが…
 とても興味深いことがわかった」
「うん?」
「関連性を求めて本から本を渡り歩く
 そこに一つの答えが浮かび上がる」
「答え…?」
「…この学園には…謎が多すぎるのさ」
「謎?」
「設備が多すぎる、一見必要ないようなものすらね」
「…」
「俺は思うんだ、この学園は学校というカムフラージュを施した
 なんらかの目的を持った建物として建てられたと」
「…考えすぎだろ?」
「…そう、まだ疑惑の域を出ない
 確信に至るには深い懐疑の森を抜ける必要がある」
「…」
「すまない、たまゆら君が気にすることはない
 ただ勝手に僕が思っているだけだ」
「あ、いや別に謝らなくても」
「…見当外れならそれでもいい
 だけどもし真実が僕が思っている通りならそれを知らしめたい
 だからやれるだけやってみようと思うんだ」
「どうするつもり?」
「…僕にできることは本を読んで
 そこに込められた真意を掴み取ることだけさ」
「お待たせしましたーハンバーグ定食でーす」

カナがハンバーグ定食を運んできた
それを見たピュアは席を立った

「それじゃあね、ゆっくり食べな
 また何かあったら話してあげるよ」
「あ…うん、それじゃあね」
「ああ、またね」

ピュアは行ってしまった
ハンバーグ定食を口に運びながらピュアの言ったことを考えていた
いくらなんでも考えすぎだろう
学校は学校以外の何でも無い
だけどなぜか気になってしまいハンバーグ定食の味が全くわからなかった…



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最終更新:2009年11月01日 02:48