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邪眼学園黄龍譚10限目【臆病者】


10/21(水)夜

部屋に戻り、ベッドに腰掛ける
一体俺は何をやっているんだろうか
…やはり俺自身が災厄なのだろうか
俺だけが何も知らない気がする
皆それなりの理由を持って戦っている、ゆき兄はいまいち不明だが…
俺はただ黄龍鉄甲が現れたからというだけの理由でなし崩し的に戦っている気がする
さらに今回の堕人の件で何だか俺はもう戦う意地すら失っていってる気がする
…今日は疲れた、もう寝たほうが…いい…


10/21(水)同時刻

「寒くはないか?」
「…」
「必要な物があったら揃えよう」
「…私をさらったのはどうして?」
「堕人の活動が著しく活発化している」
「…」
「…そのための措置だ…わかって欲しい」
「…」
「堕人は必ず食い止める、それが俺に与えられた…」
「…わかってます」
「…物分りがよくて助かったよ…」
「1つだけ、質問していいですか?」
「何だ?」
「転校生、たまゆら君は…あなたにとって本当に敵と言える存在?」
「…無理さ、俺がどう思おうとも彼は俺を敵と認識してしまっている」
「でもそれはちゃんと理由を話せば…」
「あいつは正しい、だが俺も正しい
 同時にあいつは間違っていて、俺も間違っている、この意味がわかるか?」
「…」
「…もう引き返せないのさ、動き出した歯車を無理に止めと必ず弊害が起こる
 戦うしか…ないのさ」


10/21(木)朝

窓から差し込む太陽の光で目が覚めた
気分は重いが学校に行かないと…
足取りは重かった
生徒会はずっと堕人から生徒を守っていた、だけどそもそもの原因は生徒会で…
いや、俺が落ち込んでいるのはそんなことじゃない
何も知らないのは俺だけな気がする
何も知らない俺こそが、この学園の…災厄?
違う…俺は…ただ…

教室につくとゆき兄がいた
無言で俺は机に突っ伏してるゆき兄に近づいた
だけど何を話していいかわからずしばらくそこに立ち尽くした

「…なんだよ、何かあるなら言えよ」

そうこうしてるうちにゆき兄が先に話しかけてきた
ただし突っ伏したままで顔はあげない

「あ…その…」
「…?」
「堕人って…ゆき兄知ってた…?」
「…堕人」
「…」
「知ったのか、アレのことを」
「知ってたのか!?」
「ああ」
「どうして教えてくれなかった!?」
「…知れば迷ったろ?」
「え?」
「知ってしまえば生徒会に正義を見出してしまう
 そうすればお前は恐らく負ける」
「だから教えてくれなかったっていうのか!?
 俺にだって知る権利はあるだろう!?」
「知ったところで何も変わらない、戦いが止まるわけでもない
 なら下手に教えてお前がやられるよりかは教えないほうがいいだろう?」
「ふざけんな!!!」

思わず声を荒げてしまった
周りの視線が俺たちに集中する

「俺だけが何も知らない!何も知らずに戦ってる!!
 俺は自分の意思で戦うんだ!!だから全てを知ってどう動くかは俺が決めるんだ!!」
「…」
「なんとか言えよ!!!」
「…自分でどう動くかを決めると言う奴ほど」
「え?」
「大抵誰かに流されてるだけさ」
「どういう意味だよ」
「…実際この世界の何人が完全に自分の意思だけで動いてるんだろうな」

そう言うとゆき兄は立ち上がり
こちらには目もくれず教室から出て行った
どうしようもなく、イライラする
ゆき兄の言うこともわかる、確かに生徒会に正義を見出してしまっていたら
今頃俺はやられている
それでも何も知らないのがとても、辛い
俺は…どうすればいいんだろう
…いや、どうしようもないのか
結局白やんは俺を敵と考えている、なら俺がどう思おうとも戦いを仕掛けてくる
正義を見出してしまえばいつか俺はやられてしまう
なら俺は、生徒会を潰し、堕人を完全に消し去ることを…正義だと…信じよう

思わず、廊下に飛び出た
先にふらふらと歩いているゆき兄がいた
追いかけて、腕を掴んだ

「…どうした?」
「俺は…戦う…!」
「…」
「何が正義で…何が悪かなんて…もう考えない
 俺はただ生徒会をぶっ潰してやる…その先にあるものが望む物だと信じて」
「…ああ」
「さっきは…ごめん」
「気にするな、それじゃあな」
「どこいくの?」
「屋上」
「…わ、わかった」

ゆき兄は手をひらひらと振りながら屋上への階段を上がっていった
なんかスッキリした気がする
俺はゆき兄を見送った後教室に戻った

10/21(木)昼休み

「たまゆら君、ゆき兄と喧嘩でもしたの?」

昼休みなってすぐにリカがそう言ってきた
少し心配そうな顔をしていた

「ちょっとだけ…あ、でももう解決したよ」
「そっか、よかった~
 あ、これノートのコピー」
「あ、ありがとう…一応これで赤点は免れるかな」
「赤点取っても多分ゆき兄も一緒だから寂しくないと思うよ」
「そういう問題じゃなくてね…」

渡された紙の束をペラペラめくる
それだけで大分やる気が削がれた…

「そういえばゆき兄どこいったの?」
「屋上いったよ」
「いこうか、今日お弁当もってきてるし、3人分」
「おおう!」

リカと一緒に屋上に上がる
どうせゆき兄は貯水タンクの影で寝転んでるんだろうな
が、予想に反してゆき兄はいなかった

「あれ…いない」
「えー、どこ行ったんだろ?」

あたりを見回して見るがゆき兄の姿はどこにもない

「お弁当が1つ無駄になっちゃう…」
「メールとかしてみたら?」
「だぁぁ!俺は眠いんだよ!!」

後ろからゆき兄の声が聞こえた
ああ、今上がってきたのか…

「あそぼーよー、あそぼーよー、昼食おごれー」
「だからっ…そんな金はねぇっ…
 引っ張るなと…!!」

女子の声が…?
振り向くとゆき兄と…下級生の女子?

「いいじゃんかーおごれーあそべー寝るなー」
「…ん、たまゆらとリカかどうした?」
「いや…お弁当…」
「ああ、お弁当な
 リカの弁当か、久しぶりだな」

淡々と話すゆき兄だが服が後ろにとんでもなく引っ張れている
足元がズリズリと後退していくのをなんとか踏ん張っているようだった

「ゆき兄…」
「何だ?」
「その…後ろの…」
「…気にするな」
「いや、気にするなって」
「あーそーべぇぇえええー」
「いったぁぁぁあ!!!噛むな!おい!噛むな!!
 やめろ!!いってぇぇえええええええええ!!」
「あほへー」
「昼飯食うんだよ!!やめろ!!!離れッ…!?」

ゆき兄の顔が引きつった
視線を追うとリカが仁王立ち状態だった

「随分仲がいいようで…」
「お、おい…勘違いするな…これは…」
「はい、たまゆら君」

リカからずしりと重いお弁当を受け取る

「それじゃ私はシャインで食べるから"仲良く"お弁当食べてね」
「お、おいリカ…」
「まだ、何か?」
「う…」

あのゆき兄が気圧とされている
リカは笑顔なのだが異常にその笑顔が冷たく感じる
リカは笑顔を絶やさないまま屋上から出て行った
後にはなんとも微妙な雰囲気の3人が残された

「あれまー、ゆき兄大変だね」
「誰のせいだよ誰の…」
「なぁ…ゆき兄…その子」
「これは…なんかやたらと気に入られたみたいでな…」
「あーあ、ゆき兄遊んでくれないからもういいやー」
「…散々引っ掻き回してそれか」
「じゃあねぃー」

女の子はどこかにいってしまった

普段より2割増しぐらいでゆき兄の顔がやつれている気がした
そのまま俺が持っていた弁当を指差した

「食おう…それ」
「う、うん…」

2人で三人分のお弁当は量が多かった
さらにゆき兄はあんまり食べないので俺の腹は爆発しそうだった
食い終わるとゆき兄は弁当箱をリカに返しておいてくれと言ってフラフラと屋上を後にした
膨れ上がった腹を抱えて俺はしばらくそこから動けなかった

10/21(木)放課後

放課後になった、あれからゆき兄は顔を見せない
そしてリカもなんだかドス黒いオーラを噴出していてとても近づけない
とても居心地の悪い教室で明日から始まるテストをどうするか考えていた
今更勉強しても意味が無い気もするが…
いや、リカのノートがあるから最低限これはやっておくべきだろう
寮に戻るより図書室でやったほうが効率が上がりそうな気がしないでもない
というわけで図書室にいくと何人かの生徒は俺と同じように勉強していた

「…たまゆら君か」
「あ、ピュア」
「勉強かい?」
「あ、うん…」
「そ、がんばって…」

それだけ言うとピュアは視線を落とした
手元には1冊の古ぼけた本があった
なんだかよくわからないが難しそうな本だった
集中しているようなので邪魔をしないように適当な椅子に座りノートを開いた
かなりわかりやすくまとめられている…
静かだということもあり割と集中できる
コツコツと書き写しては暗記を繰り返す
どのくらい時間がたったか、肩をポンと叩かれた

「ん」

振り返るとピュアだった

「閉めるよ」
「あれ、もうそんな時間なのか」
「…」

ピュアが無言で隣の椅子に座った
周りを見渡すともう図書室には俺とピュア以外誰もいなかった

「なに?」
「…時計塔があるよね、この学園」
「あ、うん」
「位置がおかしすぎると思わないかい?」
「確かにあんな場所にあるのはおかしいけど…」
「…そう、四方を建物に囲まれて極端に遠くからではないと文字盤が見えない
 今でこそ使われてはいないが…建築の時にそんなことわかるはずだろ?」
「つまり、こういいたいのか?
 あの時計塔は時計塔ではなく別の意味を持った建物、と?」
「…僕はそう思っているんだけどね」
「でも時計塔じゃなけりゃなんなのさ」
「わからない、そもそもこの学園自体が1つの目的に沿って建てられたというなら
 そこには僕らじゃ想像もつかないほどの思惑があったのかもね」
「時計塔…」

そういえば俺が堕人に遭遇するのは決まって時計塔の周辺だ
…あの時計塔の中には何があるんだ?

「…ま、憶測に過ぎないけどね…
 じゃあ僕は後片付けして出るからお先にどうぞ」
「…ああ」

俺は図書室を出て寮へと帰ることにした
確かにピュアの行ってることは突拍子もなく憶測の域を出ない
だがなぜ時計塔に堕人が集まる?
ピュアの言っていることとは違ってもあの時計塔は確かに怪しい
あの入り口の大きな扉…あの奥には何があるのだろう…


10/21(木)夜

とりあえず寮に戻って勉強をしようと思っていた
が、廊下でなるべくなら会いたく無い奴に会ってしまった

「…やぁたまゆら君」
「小川…さん」

最近小川がなぜ苦手なのかわかった
こいつから七不思議の話を聞くということはそのまま執行部との戦いに繋がる
明日からテストなんだぞ、こんなときにやめてくれ

「…最近とても闇が騒いでいるよ」
「え?」
「とても面白い、とても、ね」
「…」

こいつは何を知っているのか
堕人の存在を知っているんだろうか?

「全体的に闇が浮き足だっててね…
 だが一点だけ色濃く浮き上がってる場所がある」
「え?」
「4番目の噂…かな」

正直とても聞きたくない
だが小川はお構いなしに話し続けてくる

「ゴミ捨て場から更に奥
 学園の敷地内の隅の隅、元々は教員用の宿舎があった…
 最も今は廃屋街…闇が潜むには格好の場所さ」
「そんな場所が…?」
「…まぁ普通は知らないよね…
 夜中にそこに行くとある少年に出会えるそうだ…」
「少年?」
「出会ったら…どうなるのかな?ふふふ…」
「…」
「それじゃあね…また会おう」

小川はどこかに行ってしまった
何にせよこれで敵の場所はわかった
だが誰が行くか
テストが終わるまでは絶対に行かない、そう決めた

とはいっても気にはなる
部屋に戻ってテストのための勉強をしているが…
どうも頭に残らない
しかし絶対に行くものか今日行ったら勝てたとしても明日のテストは壊滅的打撃を受ける
どちらかというと今の俺にはそっちのほうが重大だ
無理やり頭を切り替えて必死にノートと教科書とにらめっこを続けていた


10/21(金)朝

気がつくと、俺は机にヨダレを垂らしていた
窓の外からは太陽の光がこれでもかと言わんばかりに差し込んでいた
しばらく呆然としていたがこうなったものはしょうがないのはしょうがない
やはり赤点だろうか…
…考えていても仕方ない、さっさと学校に行って最低限は暗記しよう

教室につくと何人かの生徒は俺と同じように切羽詰っていた
俺も必死に暗記を繰り返す、神様助けてくれ
テスト開始ギリギリになってゆき兄が教室に入ってきた
サボらずに来たのか…

10/21(金)午後

「たまゆら君?」
「  」
「おーい…」
「  」
「燃え尽きちゃってる…起きろッ!!!」

バシーン!と頭に衝撃
びっくりして我に返ると目の前にリカがいた

「…テストどうだった?」
「ふっ…」

笑いがこぼれた
それだけでリカは全てを察したようだった

「うん…頑張った!たまゆら君は頑張った!
 少なくともアレよりは」

リカが後ろを指差す
その先には机の上に足を乗せて完全にだらけきったゆき兄の姿があった
なぜか机の上には大量の鉛筆とシャーペンでよくわからないオブジェのようなものが作られていた
あいつ…考えることを放棄したな…

「なんかどっと疲れた…」
「まぁ今日はこれで終わりだからね
 土日挟む分月曜は余裕でしょ」
「そうありたい…」

なんか今日はさっさと寮に戻って寝たかった
教室を出て廊下を歩く

「た、たまゆらさん」
「え?」

呼び止められ、振り向くと縮こまった蝶がいた

「蝶か、どうした?」
「あ、あの、昼ご飯…シャインで…一緒にどうです…か?」
「あ、ああ…」

そういえばすっかり忘れていたが毒入りカレーパンの件
あれはやはり何かの間違いだったんだろうか
単にほろにがが間違えただけという線もあるし…
いや、深く考えないことにしよう、もう終わったことで別に誰もどうもなってないんだ
どうせ昼ご飯は食べる必要があるし、蝶に付き合ってシャインに行くことにした

シャインにつくとカナが席に案内してくれた
とりあえず日替わりランチを頼んだ
待ってる間に蝶が話しかけてくる
他愛も無い、なんというか普通に学生的な話題
ここんとこそういうのと無縁だったから安心するなぁ

「あれー?たまゆら君、寮に戻ったんじゃなかったの?」
「んー?」

後ろにリカがいた
どうやら友達と何人かで来たようだ

「あれ、そっちの人…」
「あ…初めまして…蝶っていいます…」
「あ、こちらこそ初めましてーリカですー
 うーん、知らない間にたまゆら君ってば友達がっつり作ってるね!」
「あー、うん」
「おっと、私もご飯ご飯っと、それじゃね」

リカは奥のほうへ行ってしまた

「…可愛いですね」

蝶がポツリと呟いた

「ん?ああ…」
「彼女ですか?」

思わず口に含んだ水を噴出しそうになった

「違う違う!」
「そうムキにならなくても」
「…んー…なんていうか彼女って言うのは何か違うんだよな
 どこがどうってのは言えないけど…」

どうも関係が言い表せない
ゆき兄のリカの関係ほどではないが非常に説明がし辛い

「…まぁ、そんなんじゃないよ」
「そうですかぁ…」

なんだか若干空気が重くなったような…気のせいか?
蝶はなぜか遠くの席に座っているリカをぼーっと見ている
…気にいったんだろうか
そうこうしてるうちに注文した日替わりランチが来たので食べることにした
食べてる最中も蝶はチラチラとリカのほうを見てる気がした
何をそんなに気にしてるんだか…
食べ終わったものの蝶は何もせずにぼーっとしていた
一体どうしたんだこいつは

「おーい、蝶?」
「あ、すいません、ちょっと考え事を」
「何?」
「くだらないことです」
「ふーん…それじゃ俺そろそろ帰るぞ」
「あ、はい…どうもありがとうございました…
 また一緒にお昼ご飯、食べれるといいですね…」
「誘ってくれれば他に用がなけりゃ来てやるよ」
「ええ…楽しみにしてます」

一瞬、ほんの一瞬だけ
蝶がいつもとは違う自身に満ちた笑みを浮かべた気がした
だがすぐにいつもどおりの弱々しい顔へと戻る
見間違いか…いや、でも…

「それじゃ僕もいきますよ、用事があるんで」
「あ、ああ…それじゃまたな…」
「ええ…また…」

蝶は行ってしまった
何だろう、違和感というか…なんというか
考えていても仕方ないので俺も寮に戻ることにした

寮に戻ると入り口で2人の生徒が話していた
いや、あれはもしかして…

「しげる!えび助!」
「たまゆらさん!」
「お前ら、もう怪我は大丈夫なのか!?」
「ええ、もう大丈夫です」
「俺も大丈夫、あ、それと見てくれよ」

えび助はポケットからうまい棒を1本取り出した
そしてそれを上に向かって放り投げる

「よっ」

頭上でうまい棒がパンッ!と爆発とまではいかないが破裂した
粉がパラパラと降ってくる

「多少だけど爆破の力を取り戻した
 最もこの程度じゃ目くらましぐらいにしかならないけどさ」
「ははは、もう必要ないだろ?」
「いや…きっと必要になるさ」
「…そうだ、桃花ももう怪我治ったのか?」
「ええ、桃花さんも完治してます」
「そっか、よかった」
「それよりたまゆらさん」
「ん?」
「僕達が透過と戦ってから執行部との戦いはどうなりました?」
「えっと…透過を倒してから次に倒したのはカラスを操って空を飛ぶ黒やん…
 そのあと痛みを蓄積させて炸裂させる雷雲ってのを倒して…
 あ、あとゆき兄が刀を使う剣三郎を倒したとか」
「あれ?ってことはよぉ、しげる」
「ええ…僕らを含めて7人」
「執行部全滅じゃないか」
「え、でも…最後の執行部って名乗る奴がいるんだけど?」
「最後の執行部…?
 しげる聞いたことあるか?」
「いや…」
「蝶ってやつで執行部にはしてはなんつーかビビリで…
 戦いたくはないって言ってやたらとフレンドリーに接してくるんだけどさ」
「最後の執行部…」
「んん…?」

2人は腕を組んで考え出した
しばらくそのままの体勢で時間が過ぎる
ポツリと、えび助が口を開いた

「…いつも会合のときにあの部屋に現れてたのは俺としげるを含め7人だった」

続いてしげるが喋りだす

「ということは…会合に参加しない執行部員がいた?」
「そいつが最後の執行部員?」
「でもそれならなぜ会合に参加しなかったんでしょう?」
「…本人に来る気がなかったか…
 それとも…執行部の隠し玉として会長に止められていたかのどちらか…かな」
「たまゆらさん」

突然話を振られて虚を突かれた

「え?何?」
「そいつが何者かわかりませんが…気をつけてください
 なんだか…恐ろしく危険な気がします」
「どうしてそう思うんだ?」
「…元執行部としての…勘とでも言えばいいんですかね?」
「そもそも執行部の会合は会長の命令によって行われる
 …本人に来る気がなかったとしても来ないというのは会長の命令に逆らうこと
 ということはそれだけの力があるってことだ…
 後者の場合は言わずもがな、あの会長が隠し玉として扱ってる奴が一筋縄で行くわけがない」
「とはいえただの騙りの可能性もあります」
「…まぁ用心に越したことはないだろう」

なるほど、蝶の存在は執行部員の誰も知らなかったのか…
しかしあの臆病な蝶がそんな隠し玉とは思えない
でも毒入りカレーパンの件もあるし…
それにさっきの蝶が見間違いかもしれなかったがあの不気味な笑み
やはり…警戒が必要だろう

「ありがとう2人とも
 気をつけとくよ」
「恐らく会長も焦ってます
 そいつを退ければいよいよ生徒会自体が動き出すことに…
 そうなったら」
「やめとけしげる
 …たまゆら君だってそんなのわかってるはずだ」
「…ああ」
「そうですね…すみません…」
「もし困ったことがあったら、いつでも呼んでくれ」
「大丈夫さ、その気持ちだけで」
「それじゃ僕らはこれで」
「あ、桃花にも完治おめでとうとか言っといてくれよ」
「はは、わかりました、それじゃ!」

2人は手を振ってどこかに行った
俺も部屋に部屋に戻ろう
テストが終わってすぐに帰るつもりだったけどけっこう時間くったな…




10/21(金)同時刻

「~♪」
「蝶」
「うあひゃぁ!ごめんなさい!…ってあれ、会長」
「任務のほうは?」
「…任務ってなんでしたっけ」
「…」
「うわぁ冗談です!覚えてます覚えてます!
 転校生たまゆらを断罪、抵抗するようであれば処刑も止む無し!!」
「…それで?途中経過を聞かせてもらおうか?」
「ああ、あの、それがですね…
 なんていうか…その…仲良くなって…できればこのまま穏便に済ませたいなーって…」
「…命令違反か?」
「けけけ、けっしてそんなことないです!!」
「ならば早く遂行しろ!!」
「…」
「…どうした?」
「…焦るなよ、会長」
「…!」
「名コックはな、食材の下ごしらえを怠らない
 あらゆる可能性の中から成功へと繋がる可能性だけを導き出していく
 それでいいんだ、俺が手を汚す必要は無い…」
「…」
「あいつは敵意の無い者には手を差し伸べる…そういうお人よしだ
 だからこそ、そこに隙がある」
「…狡猾だな」
「まるっきり馬鹿ってわけでもないけどな
 毒を突っ込んでやったカレーパンで蹴りがつけば楽だったんだけどな」
「…それで?奴はいつ倒せるんだ?」
「時期尚早かと思っていましたが…丁度今日打ち崩せる穴が見つかったんでね
 休みの間に蹴りをつけましょうか、勿論僕は動きませんけどね
 あいつが勝手に飛び込んで勝手に死ぬそういう筋書きです」
「…さすが、とでも言えばいいかな?」
「…僕はね…臆病者ですから…
 自分が戦うのは…向いてないんですよ」

10/21(金)夜

部屋でゲームしたりとなんだかんだしてるうちに夜になってしまった
なぜテスト期間中にゲームをしているのだろうか…
間違いなくゆき兄の影響な気がする
だけど休みを挟むし今日ぐらいは骨休め的な意味で別に問題無いだろう

ふと、後ろを振り返る
こんな夜はいつもパターンとしてノスフェラトゥが現れるのだが…
部屋には誰もいない
これが普通のことなんだが最近普通がよくわからなくなっていて非常に困る
そのときコンコンとノックの音が響いた

「たまゆら」

ゆき兄の声だった
返事をする前にゆき兄がドアを開けた

「いたか、ちょっと頼みがある」
「何?」

すっと差し出したゆき兄の手にはカップラーメンが湯気を立てていた

「何これ?食えってこと?」
「違う、ほろにがに持っていってやってくれ」
「え?ほろにがに?」
「ああ、普段なら俺が持ってくんだがちょっと今日は忙しくてな
 あ、ほろにがのいる場所わかるだろ?ゴミ捨て場だぜ?」
「うん、まぁいいよ
 じゃあちょっと行ってくるよ」
「悪いな」

ゆき兄からカップラーメンを受け取ってこぼさないようにゴミ捨て場に向かう
ていうか普通に考えて麺が伸びるはずだが…いいのかな?
校舎のまわりこみゴミ捨て場に向かう
するとゴミ捨て場のほうからウラァ!だのダリャァ!だのほろにがの声が聞こえてきた
何をやっているんだ…と思ったその瞬間だった
周囲の空気が一変した
冷たく、だけど暑苦しくへばりついてくるような空気
間違いなく、堕人が現れた時の感覚
思わず、カップラーメンを投げ捨て、俺は走り出した

「ほろにがッ!!」
「おお!?たまゆら!?
 こいつら何なんだ!?」

ほろにがの周囲を4体の堕人が取り囲んでいた
3体以上…!まずい!

「こんニャロ…!」
「待てほろにが!そいつらに手を出すな!!!」
「ええっ…ぬあっ…ととっ…!!
 だぁぁぁーーーーーーー!!!」

ゴミの山から滑り落ちるほろにが
慌ててそれに駆け寄る

「いっでぇ…」
「とにかく逃げるぞ!!」
「わかったわかったよ、その代わり後で説明しろよ!!」
「ああ!あいつら動きは遅いからな!全速力だ!!」
「りょーかいっとぉ!」

俺とほろにがは一気に走り出した
しばらくはこちらを追いかけてきた堕人だったが
ある程度距離が開くと踵を返してフラフラとどこかに行ってしまった
俺たちはそのままグラウンドかまで走りぬけた

「はぁー…はぁー…
 やっぱ…最近走ってないから…だりぃわ」
「…はぁ…はぁ…」
「んで、アレなんだったんだよ」
「…アレは…堕人…」
「だひとぉ?」
「なんなのかはよくわからない…
 生徒会が封じていたらしい…そして人を襲う…
 あと3体以上が集まってる時に倒すと数倍強いのが出てくる」
「なるほど…
 ま、要するに妖怪みたいなもんか」
「まぁ…そういうもんかな?」
「次から次へと本当にもう…この学園は魔窟だな…
 このヤマが終わったら1発本でも書いてみようかな」
「誰も信じねぇよ」
「まぁな…ああ!」
「何だよ」
「カップラーメンは!?俺のカップラーメンは!?
 ねぇ俺のカップラーメンは!?俺の生命線は!?」
「…悪い、どっかに投げ捨てちゃった」
「ホァァァァア!!!!」

奇声をあげて発狂しだすほろにが
いやでもあの状況じゃあしょうがねぇ…だろ?

「まぁ…しょうがねぇ…っちゃ…しょうがねぇよ…な」

意外と物分りがいいな
というか考えてることでも読まれたんだろうか

「…しょうがないんだが…ああああ!!!」
「今度は何だよ!!」
「おい!俺のゴミ捨て場!俺のサンクチュアリどうすんだよ!
 あいつらいたら戻れないじゃねーかよ!!」
「堕人は朝になったら消えるらしいぞ」
「朝までどうすんだよ!!」
「他に寝るとこぐらいあるだろ…」
「ねーよ!ぜんぜんねーよ!どーにかしろよ!!」

延々と騒ぎ立てるほろにが
そして結局


「よ、ゆき兄」
「…」

ゆき兄が部屋のドアをバタンと閉めた

「コラー!閉めるなー!」
「ば、ばか!騒ぐな!!」
「む、むぐ…」

ドア越しにゆき兄の声が聞こえる

「…何があったか知らないし、聞く気もないが…
 連れてきたんならたまゆらが世話しろよ」
「人を捨て猫みたいに…」
「いいじゃんかーほろにがとゆき兄仲いいだろ?
 だからさー」
「そうだよー、ゆき兄ー
 風呂入って裸の付き合いしようよー
 一緒の布団で親睦を深めようよー」

ガチャと、カギの閉まる音が聞こえた

「…冗談だったのに」
「…仕方ない…俺の部屋で寝かしてやるよ」
「ベッドは俺な、久しぶりだい」
「…」

部屋に入れるとあっという間にベッドを占領された
俺は泣く泣く床に寝た


10/21(土)午前

がーやらごーやらやたらとうるさい音で目を覚ます
時刻は午前9時ちょっと過ぎ
一体なんの音かと辺りを見回す

「んがー、ぐごー、しゅぴるるるる…」
「コイツか…枕がヨダレまみれに…」

イラっときて叩き起こそうとしたが手を止める
起こすとまためんどくさいことになりかねないと本能が悟った
とりあえず勉強でもしよう
そう思って机に座ってノートを開く
よし、じゃあまず数学から…

「んぐぉぉぉぉぉおお…」

…ここにxを代入…

「ごがぁぁぁぁぁあああ…」

…で、こうなって…こうなるから…

「ぐごぉぉぉぉぉぉおお…」


「ふがぁぁぁああああああ!!」

集中できるかボケェ!!!
思わずシャーペンを机に叩きつけ半ばドアをぶっ壊す勢いで外に出た
くそっ…しかし外に出ても特にやることがねぇぞ…

少しマシになってきたとはいえまだ少し直射日光ガンガンの外で1日時間を潰すのは辛い
そうだ!保健室にいこう!
ヤチャマルならちょっと事情を話せばわかってくれるに違いない!
それに保健室はある意味あの暴君ヤチャマルのおかげで凄く快適な空間だからな!
そう思ってウキウキ気分で保健室へと向かう

『昨日徹夜で飲んだから寝ています
 起こした奴は打ち首獄門、命が惜しけりゃ侵入禁止』

保健室のドアにはそう書かれた張り紙がしてあった
落胆してトボトボと保健室を後にする
くそう、一体この土曜日をどこで時間を潰せというんだ…
素直に部屋に戻るしかないんだろうか…
そう思って寮の前まで戻ってくると誰かがウロウロしていた

「たまゆらさんッ!!!たたた、大変です!!」
「蝶!?どうした!?」

半泣きの蝶が俺の姿を見るやいなや突っ込んできた

「僕のせいなんです!僕が…僕がっ…!!」
「落ち着いて話せ!どうしたんだよ!!」
「リカさんがっ…会長に…連れていかれました…」
「なッ!?」
「僕が…たまゆらさんを倒せないと判断した会長は直々に潰すと言い出して…!
 僕が悪いんです…こんなんだったら早くたまゆらさんに倒されてれば!!」
「そんなのはいいッ!!どこに連れていかれたんだ!!」
「あ、案内します!」
「!ちょっとここで待っとけ!!」

俺は猛ダッシュで寮に飛び込み階段を駆け上がる
部屋に飛び込むと同時にベッドの上に飛び乗る

「ふげっ!!?」
「ほろにが!!起きろ!!!」
「な、なに?」
「リカちゃんがまたさらわれた!!
 ただし今度は生徒会長が直々にさらいやがった!!
 俺は先に行くからゆき兄に伝えてくれ!!」
「ほ、ほわい!」

すぐさま机の上の黄龍鉄甲を掴む

「蝶って奴に場所を聞いてから来いって言ってくれ!」
「お、おう…」

そのまま開けっ放しのドアから俺は飛び出した
寮の外では蝶がオロオロとした感じで俺を待っていた

「案内しろ蝶!」
「こ、こっちです!!!」

蝶が走り出す、俺もそれについていく
白やん…やっぱりお前は…俺の敵だ!!
そして辿り着いたのはゴミ捨て場の更に奥
そう、小川から話を聞いた、廃屋街
昼間だと言うのにどんよりとした空気が漂っており…
なんというか…暗い…
もちろん、昼間の明るさなのだが視覚で感じる明るさとは違う
とにかく、できるなら長居はしたくない場所だった

「それで?リカちゃんはどこだ!?」
「あそこの、建物に入っていくのを見ました…それ以上は…」
「よし、わかった」
「あ、あの僕は…」
「蝶は今すぐ寮に戻れ
 そしてゆき兄って奴にここの場所を教えてくれ」
「え…それは?」
「仲間さ、頼んだぜ」
「は、はい!わかりました!すぐ呼んできます!!」

その言葉を聞いて俺は廃屋に飛び込んだ
中はひんやりとした空気だった
ボロボロになった家具などがあちこちにブチまけられている
使えなくなったものはこのまま置いていったのか…?
その中途半端に残存する生活臭が雰囲気と相まっていいしれぬ恐怖を煽っていた
どこかに敵がいるかもしれない緊張感がさらに俺の精神をすり減らしていった
一部屋ずつ慎重に足を運ぶ
だいたい見回ったはずなのにどこにもリカの姿も白やんの姿も無い

「リカちゃーん!!いるなら返事してくれー!!!」

思い切って大声で叫んで見る
だけど返事は返ってこない
…他の場所に移動したとかそういうのだろうか?
その時、足元からジャリ、という感触がした

「…土?」

家のほぼ中心部の床になんで土があるんだ?
よく見ると土が線のようになっている
それはキッチンに続いているようだった

「なんでキッチンから土が…
 いや、外から来たやつについていた土が落ちたのか…?」

なんにせよ手がかりはこれしかないようなので
土の線を追っていく
そして土の線はキッチンのある一点で途切れていた
いや、途切れていたというよりも…

「床下収納…?」

土は床下収納の蓋の縁の部分で切れていた
ここに何かがある…?
少し迷って…蓋を開けてみる

「これは…?何だ!?」

床下収納ってのは大きくても小型冷蔵庫ぐらいの大きさだと思っていたが…
蓋の先は縦穴が続いていた
まるで地の底まで続いているような深い穴が…
よく見るとどうやらこの穴は床下収納の底をぶち抜いて掘られているように見えた
となるとこれはこの家が建てられた後に作られたのか?

怪しいのはここしかないが…さすがに迂闊には飛び込めない
とりあえずゆき兄が来るのを待ってから…それから
と、そこまで考え顔をあげようとした時だった

「え…?」

後ろから背中をドンッと押された
穴が、闇が、視界いっぱいに広がっていく
ガスッと、額に土壁がこすれる痛みと衝撃
そして、狭い穴をぶつかりながら、弾き飛ばされるように落下する
身体のあちこちに痛みが走り
最後に全身に強い衝撃、呼吸が止まる

「かっ…は…ああ…!」

右肩を強くぶつけたらしい…
ズキズキと痛み、痛みで身体を起こせない
何が起きた…?突き飛ばされた…?誰に…?
白やんにか…?クソッ…油断した…!!

「はぁっ…ぐっ…」

なんとか身体をねじり仰向けになる
上のほうから差し込む微かな光
この距離を落ちたのか…
穴がせまかったからひっかかったりして落下速度が抑えられて助かったのかな…
だけどとても登れそうには無いな…
いや、ゆき兄がもうすぐここに来るだろうから
そうしたら叫んで引き上げてもらえばいいだけだ…

「ん?」

段々暗闇に目が慣れてきた
よーく目をこらして見ると底の部分は意外と拾いみたいだった
なんというか…魔神が入ってるような壷のような形状だろうか

「…地下室…なのか…ここは?」

ピキッ、ピシッという音が上から聞こえた
穴の底からじゃ何が起こってるのかわからない
不安に駆られているとまたピキッ、ピシッ、ピキピキとした音がした
何の音なんだ、あれは…

次の瞬間、一際大きいバキッ!という音が響いた
その音を皮切りにバキン!バゴッ!ドガン!と音が響き渡る
何が起こってるんだ!?
必死に目を凝らして上を見る
穴から見あげても天井しか目に入らない
だがその天井に全ての答えがあった
天井に、亀裂が走っていた

「…嘘…だろ…?」

呆然とする俺をよそに亀裂はビシビシと大きくなっていく
そして…

「くそっ!!!」

咄嗟に横に転がる
ガンッ!!ドガッ!バキッ!と音を立ててさっきまで俺が倒れていた場所に
天井の欠片がズガン!と音を立てて落ちてきた
衝撃で砕けた破片が散ってくる
同時に土がパラパラと俺に降り注ぐ
ドガン!バキン!ゴガン!と崩壊の音は鳴り止まない
必死に身体も丸め、頭を抱えてこの地下が崩壊しないことを祈り続けた

10/21(土)同時刻

「お、おい!ゆき兄急げって!!」
「あのクソ馬鹿野郎!!また捕まったのかよ!!
 つーかどこいきゃいいんだよ!」
「いや、蝶って奴が場所を教えてくれるって言ってたんだけどよ」
「じゃあそいつはどこにいるんだよ!」
「しらねぇよ!!」
「あれ…2人ともどしたの?そんなに慌てて」
「リカ!?」
「え…何…?」
「え…何…って…お前捕まったんじゃ?」
「そりゃ確かに2回ほど捕まったけど3回捕まるほどバカじゃないもん…」
「…どういうことだ?ほろにが?」
「俺に聞くなよ…
 何かの間違い…とか?」
「…間違い…?」


10/21(土)同時刻

どれくらい時間が立っただろうか
辺りは不気味な静寂が支配していた
そっと、目を開けてみる

真っ暗だった、何も見えない
手探りで辺りを調べて見る

土…瓦礫…

どうやら…穴は瓦礫で塞がってしまったらしい…
何も見えない…闇に閉じ込められてしまった…

だけど俺がここにいることは蝶がゆき兄に伝えてくれるはずだ
だったらそのうち助けが来るはず…
今は…待つしかない…この恐怖に耐えるしか…ない…


10/21(土)同時刻

「…ふぅー…
 廃屋街に忍び込んだものの"偶然"建物が崩壊…
 そして"偶然"にも彼は地下室に閉じ込められた…
 しかし誰もその行方は知らない…これで、ジ・エンドだね
 …あんたがここに来たのは僕以外は誰も知らないからね…
 ま、もしかしたら助けが来るにしてあの恐怖じゃ…数日も持たないだろうね
 ああ、不運な"事故"だね…ご冥福をお祈りしますよ…たまゆらさん…
 クックック、ハハッハッハハハハ!!」



10時限目 - 臆病者 -




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最終更新:2009年11月01日 02:52