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邪眼学園黄龍譚13限目【ドリームスナッチャー】前編


10/24(火) 夜

「とりあえずゆき兄をヤチャマルに見せないと…
 でもその前にこいつを壊さないと…」

俺の目の前にある放送機材
しかしどうやってぶっ壊そう…

「どいてろ」
「え?」
「はッ!」

高橋が放送機材にカカト落としを叩き込む
ガガァン!!と物凄い音がした
ボタン類などが吹っ飛んで機材が大きく凹んだ

「もう数発か」

間髪入れずに今度は側面に
強烈な蹴りが叩きこまれた
金属と金属を全力で叩きつけるような音が放送室に何度も響いた
俺はただ呆然とその光景を見続けた

「ふぅっ、こんなもんか」

高橋の足技を叩きこまれ続けた放送機材はもはや
かろうじて原型を留めると言った程度のスクラップと化していた

「…じゃ、俺は行くぞ」
「あ、えと…」
「聞きたいことは沢山あるだろうが…
 話すつもりは無いんでな
 助かってラッキーぐらいにとらえとけ」
「…」
「じゃあな」

それだけ言うと高橋は黒い廊下に消えていった
…不思議な奴だ、それにしてもあの足技は…
と、そんなこと考えてる場合じゃない
ゆき兄を抱え上げボロボロになった放送室から出る
まだそんなに遅い時間でもないしヤチャマルは保健室にいるかもしれない
急いで保健室に向かうと明りと煙が漏れていた
まだ魔よけの香を炊いてるのか?

「ヤチャマル!入るぞ!」
「お?」

ちゃんとした返答を待たずにドアを開ける
七輪でヤチャマルでサンマを焼いていた
あっけにとられてサンマを凝視しているとヤチャマルが呟いた

「や、やらないぞ…」
「違う違う、ゆき兄を治療してくれ!」
「わかった、それじゃその間サンマを見ていてくれ」

ゆき兄をベッドに寝かす
さて、やるかーっと言った感じでヤチャマルが近づいてくる

「あ、焦がしたらお前を焼いてやる、焼き鳥にして串に刺してやる」

シャッ!とカーテンが閉められた
とりあえずヤチャマルに任せてサンマの焼き具合を見ていることにした
机の上にうちわがあったのでそれであおぐ
カーテンの奥からはカチャカチャという音やシャッ!という音が聞こえてくる
そしてサンマからはジュウジュウと…
アンバランスだ…何だこの保健室は…

そのままサンマを見ていると
ジュウジュウという音に混じってカラカラとドアが開く音がした
ちらりとドアのほうを見ると宝物を見つけたような目のほろにがが覗いていた

「そのサンマ、誰の?ねぇ誰の?」

ドア越しに小声で聞いてきた
こちらも小声で言い返す

「ヤチャマルのだよ、食ったら殺されるぞ」
「ちょっとだけなら…2尾あるし1尾なら…!!」

手を掴んで物凄い力で押してくるので
俺は必死に押し返す

「食わしたら俺まで殺されるだろ…!」
「お前に迷惑はかけないから…!!!」
「食った時点で俺も巻き添えが確定なんだよ…!!」
「もう何日もマトモな物を食ってない俺に…!!
 この匂いは拷問だとは…おもっ…わんかね…!!」
「知る…かよ…!!ぐぐぐ…!!」

必死に保健室の中に入ってこようとするほろにがを押し留める
ほろにがはあの手この手で侵入しようとしてくるが
何とか必死に妨害していた
すると後ろからシャッ!とカーテンが開く音が聞こえた

「ふぅ、終わったぞ…!!?!!!?」

…しまった、ほろにがに気を取られて…
サンマを見ていなかった…
七輪の上のサンマは真っ黒に焦げ
ブスブスと不安を煽る煙をあげていた

「…たまゆら」
「は、はいぃ!!」

状況を察したほろにがが逃走を図ろうとした
しかし今度は俺が保健室の中に引っ張り込もうと必死だった

「ば、ばか!離せ!!」
「ヤチャマル!こいつ!こいつのせいだから!!」
「やめろコラァ!!俺は関係ねぇ!!!」

ヤチャマルがゆっくりとこっちに近づいてくる
気のせいか鬼の面をかぶってるような気がする

「連帯責任だ」
「「うぁぎゃああああああああああああ!!!!!」」


1時間後

「どうだ?
 自分達で焼いた北海道直産の生サンマの味は?
 よーく味わえよ?」
「…ガリガリで凄く苦いです」
「同じく…」

ほろにがと俺が同じタイミングで喋る
2人してボコボコにされた
途中で彼岸が見えた気がした
さらにもはや炭と化した生サンマを味わって食わされることになった

「とりあえずゆき兄だが
 命に別状はないぞ」
「ガリガリ…よかった…ガリポリッ…」
「…たまには無傷で戦えないのかお前らは」
「ポリガリ…ヤチャマルーそりゃガリガリッ
 おこちゃまにスマートな戦いはガリボリ無理だって…」
「パキッ誰がおこちゃまだボリン」
「ここで喧嘩するなよ
 また殴るぞ」
「ポリポリ…ゴクン」
「バリバリ…」

炭サンマを食い終わり
俺は立ち上がった

「帰るのか?」
「…疲れたからさ
 ゆき兄のこと任せた」
「わかった、任せろ」
「ポリポリ、お疲れーバリン」

口の中がかなり嫌な感じだった
とりあえず口をゆすぎたい
ガンになりそうだ…

寮に戻り今日のことを考えた
天下の言っていた黄龍の意思とはどういうことだろう
そしてなぜ堕人は俺たちに目もくれずに天下に襲い掛かったのか…
…いや、きっと考えてもわからないんだろう
寝よう、明日になれば皆も俺のことを思い出してるはずだ…

10/24(火) 深夜

「…ん…?」

ふと、目が覚めた
そして視界に入ってきた光景に驚いた

「…空?」

部屋で寝ていた俺がいつの間に外に出たんだ?
いや、それよりも空がなんというか茶色だった
身体を起こして辺りを見回す
枯れ果てた大地がどこまでも続いている、起伏も何も無い大地が
延々と続き地平線が見えていた
空は茶色くどんよりとした空気が漂っていた
一体俺はどうしてこんなところに…
とはいえ過去にいったりと色々と修羅場を経験した俺は今更驚くこともなかった
また何か変な状況になったんだろうか

「…しかしどうしよう…」

360度地平線
目指すべきものが全く見当たらない
さすがにこの状況は…

「誰かいないかー!!」

叫んでみたものの俺の声が虚しく響くだけだった
普通に考えて誰かいるわけは無いのだが叫んでしまうのはやはり人の性か
とは言うもののこのままじゃ埒があかない
とりあえず適当に歩いてみることにした

いけどもいけども景色は変わらない
ただ茶色い、大地も、空も
歩を進めるたびにつま先が砂を蹴り上げ、小さな砂塵が舞う
次第に歩くスピードが遅くなってきた気がする
確かな道しるべが存在しないこの場所ではそれすらも分かりづらい
俺は段々、焦りと不安を感じ始めていた
そのときだった

「ふふ…」
「誰だ?」

どこからか、声が聞こえた
女の微かな笑い声
次の瞬間、周りの地面が大きく隆起した

「なんだ!?」

大きく膨れ上がった大地はそのまま人の上半身の形となった
土の巨人、そんな表現がぴったりだった
そして巨人はその拳を俺に向かって振り下ろした

「やべぇ!!」

咄嗟に横に飛びのく
地面に叩きつけらた拳の衝撃
そして宙を舞う大量の砂煙

「一体なんなんだよ!!」

武器は無い
あっても勝てる気がしない
とにかく逃げるしかない
必死に後ろに向かって走ると巨人は俺を掴もうとその手を伸ばしてきた

「うわっと!!」

右へ左へ、ジグザグに移動しながら
なんとか巨人の手を避ける
そして気づいたがどうやら巨人は動けないらしい
手の届かない範囲へと抜けた俺はどうやら安全のようだった
しかしこいつは一体なんなんだ…
安心したのも束の間、今度は遠くからズシーン、ズシーンと何か大きなものが歩いてくる音がした
音の方向を見た

「…テディベア?」

片目が取れ、腹部が切り裂かれた巨大なテディベアが
同様に巨大なチェーンソーを持ってズシーン、ズシーンと音を立てながらこちらに向かってきていた
近づくにつれチェーンソーの音が大きくなっていく
そしてある程度近づくと、テディベアはチェーンソーを俺に振り下ろしてきた

「何なんだよここは!!!」

動きは割と緩慢だったので避けるのは容易だった
だがチェーンソーが地面に当たった瞬間に物凄い音と同時に大量の土砂が俺に降り注いだ

「ぶぇっぺっ…!」

思わず目を瞑った
その瞬間ギュォオオオオオオン!とけたたましいチェーンソーの音が響いた
目を開けると横からチェーンソーが近づいてきた
まずい、避け…れない…!
頬に風を感じ、頬にチッと何かがかすった


10/25(水) 朝

「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

俺は絶叫をあげてベッドから転げ落ちた
…あれ?あれれ?
とりあえず自分がベッドから落ちたことだけはかろうじて理解できた
ゆっくりと身体を起こす
窓からは朝の日差しが気持ちいいぐらいに差し込んでいた
なんだか酷い悪夢を見た気がする…が、思い出せない
夢って割と起きた瞬間なら覚えてるもんだけどな
まぁそういうこともあるか…
深くは考えないことにしてとりあえず学校に向かう用意をした

教室につくと俺の机はちゃんとあった
周りの皆もちゃんと俺のことを思い出していた
というか忘れたこと自体がなかったことになってるようだ
リカが近づいてくる

「おはよ、たまゆら君」
「おはよ」
「何者かに放送室がほぼ破壊されてたって話知ってる?」

知ってるもなにも犯人すら知ってる
広い意味なら俺も犯人かもしれないが…

「ああ…うん…」
「生徒会かな?
 たまゆら君どう思う?」
「多分違うと思うんだけどさ…はは」
「何か歯切れ悪いね…
 そういえば今日もゆき兄きてないなぁ」

傷が開いて現在絶賛療養中
なんて言えるわけも無く
引きつった笑顔でいつものことだよと言っておいた
リカは納得したようだった
少し、胸が痛くなる思いだ…
…ゆき兄ならヤチャマルがなんとかしてくれるから心配は無いだろう
などと考えてるうちに授業が始まった

10/25(水) 午前

なんだろう、何だか凄く眠い
おかしいな、昨日ちゃんと寝たのに
黒板の字が歪んで見える
先生の声も何だか遠い…
寝ちゃ駄目だ…寝ちゃ…

「…あれ?」

ふと周りを見ると誰もいなくなっていた
先生、周りの皆、誰もいない
いつの間にか皆が消え去っている
無音の教室にただ俺だけが取り残されている

「え…何で…?」

恐る恐る廊下に出て他の教室を覗いて見る
どの教室にも誰もいない
昼だと言うのに校舎全体が不気味な雰囲気に包まれていた

「やっぱり…生徒会の…?」

それしか考えられない
…そういえばゆき兄は無事なんだろうか
ふと、そこまで考えた時に頬がズキリと痛んだ

「?」

触れてみるとぬるっとした感触と痛み
どうやらどこかで切ったか何かしたらしい
そんな覚えは無いんだがな…
と、そこまで考えた時だった
突然静かだった校舎に音が響いた
コツーン、コツーン、と誰かが廊下の奥の階段を上がってくる
敵か…?まずいな、黄龍鉄甲は持ってきてない…
コツーン、コツーン、とゆっくりと何かが上がってくる
そして段々とその音は接近してくる
カツンッ!と音がして足音が止まる
もう、曲がり角を曲がってすぐの場所にいるはずだ
逃げなくちゃ、とにかく今はまずい
そんなことを考えてるが意思とは裏腹に俺の足は動かない、動いてくれない
そして、何かがゆっくりと姿を現した…

「…ウサギ?」

正確には大きなウサギのぬいぐるみ
成人男子より少し小さい程度だろうか
全体的にピンク色だがところどころペンキをぶちまけたみたいに黒くなっている
ボタンで作られているその目はどこか虚ろな感じで不気味さを増長させていた
ウサギは2足歩行でゆっくりこっちに歩いてくる
いや、それよりも、ウサギが手に持っているもののほうが重要だった
斧、それも血濡れの
そして気づいたウサギの身体でペンキをぶちまけたように所々黒くなってる部分は
乾ききった返り血なのだと
得体の知れない奴とは何度も戦ってきたが
こいつはヤバい、完全に俺の理解の範疇を超えている
俺は、廊下を真後ろに、全力で走り出した
ウサギは追いかけては来なかった
いや、追いかけては来ているがその動きはゆっくりだった
歩いているのとほぼ変わらない、これなら逃げ切れる!!

だがしばらく走っておかしいことに気がついた
廊下が終わらない
どこまで走っても終わらないのだ
突き当たりまでいけば階段があるはずなのに
いけどもいけども廊下が終わらない
そもそも普段なら両端の階段がどちらも見えるはずなのに
走っても走っても廊下に果ては無い
壁と、誰もいない教室に挟まれた延々と続く廊下
そんな馬鹿なことがあるわけないのに
ふと、後ろを振り向いてみた

「なッ!?」

かなりの距離を走ったのに
ウサギはさっきとほとんど変わってない位置でゆっくりとこちらに歩いてきていた
ゴトッ、ゴトッ、と斧を地面に当てながら

「何なんだよクソッ!!」

俺はまた走り出す
走りながら何度も振り向く
ウサギは歩いている
俺は走っている
なのに距離が縮まらない
それどころか段々と狭められている気がする
嫌な汗が、全身から噴き出るのを感じた
すると今度は正面からギュオオオオオオン!とけたたましい音が聞こえた

「…え、ちょ!?」

遥か前方に、テディベアがいた
そうだ、夢で出てきたチェーンソーを持ったテディベア…
大きさは普通の人間程度に小さくなっているが
取れた片目、大きく破れた腹部は間違いなく俺を切り裂こうとしたテディベアだった
そしてそいつはチェーンソーを振りかざしながらこちらに向かってきた
前門のテディベア、後門のウサギって感じか?笑えねぇよクソ!!!
とにかく逃げるなら横しかない
俺は横にあった教室に入る
時間稼ぎにしかならないかもしれないがすぐさまドアに鍵をかける
なんとか、ここから脱出しないと…
ふと、顔をあげて正面を見る
そして、戦慄した

「なんで…」

目の前に、テディベアとウサギがいた
虚ろな眼が、「もう逃がさない」と言っているようだった
すぐさまドアを蹴り破ってでも逃げようとしたが足が動かない
地面から生えたいくつもの手が俺の足にからみついていた

「何なんだよ…!ここ何なんだよ!!!!」

ギュオオオオオオン!とけたたましいモーター音
テディベアとウサギがゆっくりと近づいて来る
まずい…やられる…!!!
頭に、何かが触れた
その瞬間、世界が暗転した









「うわああああっ!?」

ドガシャーン!と言う音と共に身体に衝撃
同時に周囲から笑い声
あれ?
正面を見ると呆れ顔の先生が立っていた

「やっと起きたか、たまゆら」
「あ、あれ…先生?」
「お前、朝からずっと寝てるそうだな…
 全く…」
「え…あ…すみません」
「気をつけろよ」
「はい…」

椅子を戻し席に座る
時計を見るともうすぐ昼休みだった
あれ、俺1限目からずっと寝てたのか…?
椅子なら無様に転げ落ちた俺を見て周りがクスクス笑っている
かなり恥ずかしくなった
いや、それよりも何か…夢を見てた気がする
でも思い出せないな…
何だったっけ…



10/25(水) 昼休み

身体がダルい
寝すぎだろうか…
リカがてこてこと寄ってきた

「よく寝てたねぇ」
「あ…うん…」
「まだ寝ぼけてる?」
「あ、いやいや」

リカは少々呆れたような感じだった

「そんなに夜更かししたの?」
「ちゃんと寝てたはずなんだけどなぁ…」
「熟睡出来てないとか」
「うーん…よくわかんないな」
「まぁほら、おいしいもの食べれば大丈夫!
 はいよ、お弁当!」
「お!やった!」

リカからお弁当を受け取る

「っと、ごめんね
 友達と約束しちゃったから私は一緒に食べれないよ」
「ああ、いいよ
 ありがとね」
「うん!ごめんね!」

そう言ってリカは友達のところに行ってしまった
じゃあ俺も食べようかな…と思ったが
どうも周りの奴らのニヤニヤした視線に気に障る
屋上で食べることにしよう

「…こんなところで会うとは…
 うれしいよ…たまゆら君…」
「…」

初めて寮以外で小川の姿を見た気がする
いや、それよりもまさか遭遇するなんて…

「…お弁当…一緒に食べないかい?」

断りたい、物凄く断りたい
だけど弁当もって1人で屋上に来ているんだぞ俺は
明らかに食べる気マンマンなやつが断るのもおかしな話…
まぁ、別にいいか、物食ってりゃこの人も静かだろ
とりあえず承諾して一緒に昼飯を食うことになった

…重い、凄く空気が重い

確かに静かなのだ
ただ2人して黙々と弁当を食べている
それがどうも重くるしい
味なんかわかんねぇよコレ…
しばらく食べているとポツリと小川が言った

「…凄いよね、この学校は?」
「え?」

いきなり言い出すから何かと思った
具体的に何がどう凄いのだろう

「…物凄い量の闇が渦巻いている
 こんな場所、世界中探しても数えるほどしか無いと思うよ」

…また始まったようだ

「だがどんなものにもバランスがある」
「バランス?」
「強大な闇があると言うことは
 逆に強大な光も存在する必要がある」
「…光がなければ影は出来ないとかいう奴ですか?」
「そうさ、すさまじいほどの闇が長期に渡り存在するこの学校には
 同時に凄まじいほどの光が存在しているはずだ」
「…」

卵焼きを口に運びながら黙って小川の演説を聞く

「しかしおかしなことがある、光がまるで見えないということだ
 この学園には闇しか見えない
 闇がある以上確実に光は存在するはずなのに
 光はまるで見えない、もし光が無いというのなら自然の摂理に反している
 …そういう意味でもこの学園は狂っている」

そうだな、この学園は狂ってる
だがそれは一部の人間が狂わしてるだけだ

「…だが僕には干渉するほどの力は無いし
 あったとしてもどうにかしようとも思わない
 狂った世界が正しき世界に押し潰されるか
 逆に正しき世界を狂った世界が飲み込むのか
 この学園はある意味新世界の卵となる可能性を秘めている」
「…」
「それでね、一つ良い事を教えてあげる」
「良い事?」
「5番目だ」

小川の瞳に怪しい炎が揺れている気がした

「…この学園には誰も入ってはいけない隠された部屋がある
 その場所に知らずに立ち入った者は永遠の眠りに落ちる」
「…永遠の…眠り?
 死ぬってことか?」
「結果はね…」

それだけ言うと小川はゆっくりと屋上のドアに向かった

「ごちそうさま、楽しい時間だったよ」

そのままゆっくりとドアの隙間に消えていった
永遠の眠り…か
…何か忘れてるような…気がする
とても重要なことを…

駄目だ、思い出せない
昼休みはもう少し時間があった
…ゆき兄の様子でも見に行こうかな
そう思って俺は保健室に向かった
保健室の扉を開ける
だるそうにヤチャマルが椅子に座っていた

「ゆき兄目は覚ました?」

ヤチャマルがぼけーっとしたままベッドのほうを指差した
見るとベッドの上に座り込んでるゆき兄が見えた

「目が覚めたのか!」
「ん、ああ、悪かったな
 俺がぶっ壊してやるっつったのに」
「そんなのいいさ…
 そもそも俺の白虎の力が暴走したときの傷のせいだろ…」
「責任を感じるな」
「でも…」
「俺が隠してたのはお前に責任を感じさせないためだ
 ここでお前が責任を感じたら俺の苦労が無駄になるだろ」

ぼけーっとした感じのままゆき兄はそう言い放った
確かにそれはそうなんだが…

「たまゆら」
「え?」

椅子に座ってダラけきっていたヤチャマルが後ろに立っていた

「何?」
「気の流れがガタガタだぞ」
「うん?」
「ちょっとこっち来てみろ」

言われるがままに椅子に座る
頭にヤチャマルの手が置かれた
しばらくすると段々頭がすっきりしてきた

「…割とマシになったがまだ歪みが酷いな
 昨日の戦闘で大怪我したりしてないか?」
「いや、別に…」
「…心のほうから来てるのか…?」
「ハハッ、なんなら一緒に午後はサボるか?」
「サボるというか休んだほうがいいというのは同意だな
 最近ハードに戦ってるみたいだしな」
「うーん…」

言われてみれば最近ゆっくり休んだ記憶も無い
ここはお言葉に甘えるか

「それじゃあ午後はここで過ごそうかな」
「連絡しといてやるよ
 空いてるベッドを勝手に使え」
「つっても俺の隣しか空いてねーよ」

とりあえずゆき兄の横のベッドに上がる
自室のベッドと違って保健室のベッドはなんというかまた別の感じで安心する
独特の匂いというか何と言うか…
そんなことを考えてるうちに昼休みが終わった

10/25(水) 同時刻

「会長、お疲れのようですね」
「…ああ」
「一体いつ寝てるんですか?」
「合間を縫って寝ているさ
 …そういえば姫はどこに?」
「例の場所に」
「そうか」
「転校生、今度ばかりは無理でしょうね」
「どうかな」
「…会長は転校生をどう思っているんですか?」
「奴は強いよ」
「認めていると言うことですか?」
「認めてはいる、だが決して相容れはしないだろう
 強い力と力は共存できない、隙を見て相手の喉笛に食らいつく」
「思想の違い、というやつですか」
「ある意味ではこれも自然の摂理なのかもな」
「と、言うと?」
「…バランスだよ」

10/25(水) 午後

ぼーっと保健室の天井を見る
皆勉強してる中、寝ているのはとても快適だ
特別な気分っていうか
しかし隣のベッドにはその特別をかなりの頻度で味わっている奴がいる
見るとイヤホンをつけて何かゲームをやってるようだった
カチ、カチとボタンの音がしている
その音を聞いていると保健室の丁度良い温度と相まってウトウトしてくる
別に我慢しなくていいんだ…寝てしまおう
さっきのヤチャマルの気功のおかげで気分よく寝れそうだ…

ふと、頭に痛み
何だろう、と目は開けないまま手を伸ばす
鋭い痛みと、ぬるりとした感触
驚いて慌てて目を開けた

「ここは…」

枯れ果てた大地がどこまでも続いている、起伏も何も無い大地が
延々と続き地平線が見えていた
空は茶色くどんよりとした空気が漂っていた
って何かこの光景前にも…

「…思い出した、ここは夢だ」

歩いて歩いて歩き続けて
巨人やチェーンソーを持ったテディベアに襲われる夢だ
そういえば授業中もテディベアとウサギに襲われる夢を見たな
いや、待てよ…
頬に手を当てて見る
カサカサした感触、血が乾いてかさぶたが出来ていた
そして頭の傷
夢が、続いている?

「気づいた?」
「誰だッ!?」

振り向くと、女子生徒がいた

「はじめまして、私は舞姫、生徒会書記」
「生徒会…!?」

咄嗟に後ろに飛びのく
だけど舞姫は動こうとはしない

「ここは夢の世界」
「…お前の…仕業なのか」
「そしてここは私の世界でもある…
 誰一人この世界では私を倒せない」

舞姫がゆっくりとこちらに歩いてくる
どうする、黄龍鉄甲は無い
いや、そもそも夢の世界に持ってこれないだろ…

「…夢の中で傷つけられても肉体が実際に傷つくことは無いよ
 だけど精神は切り刻まれていき…
 もしこの世界を死を迎えたなら、肉体は永遠に目覚めはせず
 いつしか心臓も止まり、静かに死んでいく」
「冗談じゃねぇ…!!」

必死に起きようとしてみる
頬をつねったり叩いたりと何とか目覚めようとする

「無駄、この夢は自分の意思じゃ目覚めれない」
「そんな…」
「1度目は…ベッドから落ちたのかな
 2度目は誰かに起こされた?
 それでもこの夢の記憶は目覚めた瞬間に消えてしまう」

そうか、どちらも自分の意思で起きたのではない
起きてしまったのと、起こされたんだ

「もう逃がさない
 ここで死んでもらう」
「ふざけんな!!」

だが舞姫の身体が霧のようにぼやけ、消えた
同時に遠くから地響きとモーター音
間違いない、あいつがまた来たんだ
チェーンソーテディベアが…
その予感は当たることには当たったが更に斜め上を言った
四方を囲むように4体のチェーンソーテディベアがこちらに向かってきていた

「嘘だろ!?」

慌てているうちにもどんどん奴らは近づいてくる
どうする!?どうすればいい!?
逃げるにしてもこの夢の世界で逃げ切れるのか!?
いや、それでも対抗する手段を持たない今は逃げるしかない
一か八か、まだテディベア同士の距離が離れてる今のうちに
どれか1体の横を抜けるしかない
俺は真正面のテディベアに向かって走り出した
俺が走り出したと同時にテディベアがチェーンソーを振り上げた
当たればひき肉決定だろうな
チェーンソーの射程距離に入った瞬間にテディベアはチェーンソーを振り下ろしてきた
横に避けると地面に叩きつけられたチェーンソーの刃が砂を巻き上げた
朝の夢がフラッシュバックした
深く考えたわけではなかった、ただ反射的に飛んだ
足スレスレを、チェーンソーが横に通っていった
これで抜けられる!と思ったも束の間
通行止めだと言わんばかりにチェーンソーが目の前に突き出された

「うわっ!?」

あわてて回りを見ると完全に囲まれていた
逃げようが無い
テディベア達はチェーンソーが大きく唸り声をあげた
そして一点集中と言わんばかりに全てのチェーンソーが俺に向かってきた
とにかく方向も考えずに俺は飛んだ
肩に刃が触れる、服が破れ、血飛沫が視界の端に見えた

「がっ…!!」

着地も取れずにヘッドスライディングのように地面を滑る
すぐさま後ろを振り向くと綿が吹き荒れていた
テディベアのチェーンソーが他のテディベアの身体を切り裂いていた
それでも刃は止まらない
ほとんど真っ二つに切り裂かれたテディベアの上半身が地面に落ちた

「ぐっ…!!」

右肩を押さえ、走り出す
神経が右肩に集中したように激痛が絶え間なく襲い来る
だが何かにつまづいて転倒する
何だ!?
足を見るとピエロが俺の足首を掴んでいた

「よぅ兄弟、そう急ぐなよ
 見てくれよ、人体切断マジックに失敗して俺の身体はバラバラだ
 今は接着剤で保ってんだぜゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」

ピエロは俺の足首を掴んだまま狂ったように笑い出した

「離せ!離せよ!!」
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッハ!?
 ハッ…ガッ…ギャアアアアアア!!」

ピエロの口の端が裂けていく
笑いすぎて避けたのか!?
肉がバクリと裂けて血がドロドロこぼれ落ちる
ある程度まで裂けるとピエロの口の中からピンク色の物体がずにゅりと出てきた
同時にピエロの上顎から上が宙に飛んだ
空中でパンッ!と音を立ててハトがパタパタ飛んでいた
そして残ったピエロの体の中からウサギが出てきた
そう、血塗れの斧を持ったあのウサギだ

「なんなんだよ…!こんなところにずっといたら気が狂う!!」

抜け殻のようになったピエロの手を振り解いて立ち上がる
早く逃げないと
真正面の地面に斧を振り下ろすウサギの影が見えた

「うわっ!?」

咄嗟に避けるとガァン!と音を立てて
俺のいた場所に斧が突き刺さった

「ちっくしょう…!」
「キャハハハハハハ!!」
「今度は何だよ!!」

もう泣き声に近かったかもしれない
前方に沢山の目の無い子供がいる

「せんそーごっこだ!」
「撃て撃てころせ!あいつをころせば英雄だ!!」

正面からボウガンの矢のようなものが大量に放たれた
必死に伏せる、後ろからドスッ!ドスッ!ドスッ!と矢が何かに刺さる音がする
きっとウサギに大量に命中したんだろう

「キャハハハハハハハハ!!
 的だ的だ!!」

笑い声、そしてギュオオオオン!というチェーンソーのモーター音

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

笑い声と絶叫が周囲に響き渡る
もう顔をあげることが出来ない
今正面で起こってることを見るのが夢だとはいえ恐ろしかった
これは本当に夢なのか
いや、ここでの死が現実ならここは…

「キャハッ!」
「!」

至近距離から甲高い笑い声が聞こえて目を開けた
まさに至近距離、数cmという場所に目の無い子供の生首
でもその首は楽しそうに笑っていた

「げーむ、おーばぁ」
「!?」

顔を上げるとテディベアがチェーンソーを構えていた
そして周りとボウガンを構えた子供たちが取り囲んでいた
テディベアの上にさっきのピエロが立っていた

「さぁいよいよ終幕でございます!!
 最後の演目はタネも仕掛けもありません!
 奇跡の人体切断マジック!!成功の際は皆様惜しみない拍手をお願いしまぁす!!」

ギュオオオオオオオン!と今まで1番大きく聞こえるチェーンソーのモーター音
同時に周囲から響き渡る歓声とけたたましい笑い声
死ぬ、そう思った

チェーンソーが振り下ろされる
駄目だ、もう無理だ…!!!




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最終更新:2009年11月01日 02:56