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邪眼学園黄龍譚14限目【アウトブレイク】


10/25(水) 深夜

「…こんな時間に緊急召集とは」
「…姫はやられたよ」
「なッ…」
「残り2本の楔では力不足らしい
 今にもそこらじゅうから堕人が溢れてきそうな勢いだ」
「…方法が1つ」
「何だ?」
「…アルゴルの使用許可を」
「アルゴルだとッ!?
 何を考えている!?」
「わかってます、アルゴルは僕が作り出した最強最悪の…
 その名の通りのまさしく"悪魔"そのものです
 一度放てばそう時間もかからず学園は地獄そのものと化すでしょう」
「それを理解していながらなぜ?」
「堕人の出現は抑えられるでしょう」
「だが学園そのものが崩壊してしまえば意味は無いぞ」
「アルゴルによって堕人の出現を抑え
 学園がアルゴルに飲み込まれないうちに転校生を叩き
 新たな楔を仕立て上げる、これしか無いでしょう」
「…」
「全ての責任は僕が背負います
 …使用許可を」
「…3日だ」
「と、いうと?」
「アルゴルを放ち、3日以内に転校生を断罪できなかった場合は
 すみやかにアルゴルを取り払う」
「わかりました、ではそのように…」
「…」


10/25(水) 同時刻

「…ウ…ア…」
「お目覚めだねぇ、風哭…」
「ウゥゥウウ…」
「…憎いだろぅ?妬ましいだろぅ?
 何も知らぬ馬鹿どもが蔓延り偽りの安寧に身を委ね
 意味も無き生をのうのうと過ごしている
 無限に続くような地獄を延々と渡り歩いてきた俺たちの上で…
 奴らはずっとそうして生きてきた
 羨ましくもあり、妬ましくもあり、どうしようもないぐらいに憎らしい
 呪われたこの身ではどれだけ望んでも帰ることは出来ない
 だが闇に堕ちきった我らにも希望はある…
 共に目指そう、我らの希望、大いなる存在を…」
「仰せの…ままに…」
「クカカカカカカカッ!!!」
「鬼哭…もうすぐだ…
 もうすぐ…終わる…」



10/26(木) 早朝

「んん…」

目が覚めた
どうやら自分は保健室にいるようだった
周りを見渡すと隣のベッドではゆき兄が寝ていた
どうやら保健室に寝かされてたみたいだな…

「よっと…」

ベッドから降りてカーテンを開けるとヤチャマルが机に足をあげて爆睡していた
起こすと怒られそうだな
時間も割と早いので1度寮に戻って準備してから
普通に登校するのがいいかな
動くのが若干めんどくさいけど、しょうがない
保健室を出ようとしてふと壁にかけてあった鏡を見る
額にでかでかと肉と書かれて
まぶたに目、口周りにヒゲ、頬に傷と花丸
他いたるところにこれでもかと言うほどの落書きを施されていた

「…こいつら…」

寝ている2人を殴ったろかと思ったが
一応ゆき兄には助けられたし、ヤチャマルは後で殺されそうだし…
やめとこう…

とりあえず顔を手で隠し
自分の部屋に辿り着くまで誰にも会わないことを願って俺は走り出した
早い時間でよかった…


10/26(木) 朝

寮に戻ると速攻で顔を洗った
幸い油性ではなかったようで洗ったらすぐ落ちた
油性だったと思うとゾッとする

「ふぃー…」


顔を拭きながら学校に行く準備をする
しかし自分で言うのもなんだが俺って真面目だなぁ
命を賭けた戦いをしてるのに毎日素直に登校…か
よっぽどゆき兄のほうが健全なのかもしれないな
どっちがいいとも言えないし、考えるのはやめておこう
さて、それじゃ今日も真面目に学校いきますか…と


教室につく
ゆき兄はおらず何人かが仲のいい者同士で話してる
いつもどおりの光景だ
そして俺の姿を見るやいなやリカが走りよってくるのもいつも通り

「おっはよ~」
「おはよ」
「…今日もゆき兄来てないんだね」

そういえば最近、ゆき兄は運が悪いというか何というかで
まともに登校している気がしない
ちゃんと進級できるんだろうか
大怪我したりと休むに値する理由はおおいにあるとは思うが
いかんせん本人にやる気が無いのが問題だな

「うーん、ゆき兄はサボりなわけじゃなくて…あ、いや…」

大怪我して休んでるとか何とか言って
無駄に不安にさせることも無い気がした

「サボりじゃなくて?」
「やっぱりサボりかもしんない」
「…うーん、今度ちゃんとお説教しなきゃ」

すまん、ゆき兄
まぁ説教ぐらいで死ぬことも無いだろうし耐えてくれ
そんなこんなで話してるうちに授業が始まった
ゆき兄まだ寝てんのかなぁ

10/26(木) 昼休み

今日はリカがお弁当を作ってきてはないようだった
仕方ないので購買で何かしら買って食べるか
寝すぎたのかあんまり食欲が沸かないが…

購買につくと何だか普段以上に人だかりが出来ていた
なんだろう、安売りでもしてんのかな?
それだったらモタモタしてる場合じゃないな
俺は滑り込むように人だかりの中に飛び込んだ
人を押し分けて進んでいるとオラァ!だのなんだのと声が聞こえた
何の叫び声だ?と気になったが人ごみを抜けて理解した

「てめぇこの野郎!!」
「んだこらぁ!!」

男子生徒が殴りあいの喧嘩をしていた
周囲にはその男子生徒の友達らしきやつが2人を抑えようとしていた
わりとヤバそうな雰囲気だが、なんだかな
いつもいつも命を賭けた戦いとかしているとこういう光景ですら平和的なものに思えてくる
まぁ関わることでもないな
ヒートアップしてる男子生徒たちを尻目に購買でパンを買った
食べるとすれば…やっぱ屋上かなぁ

というわけで屋上に上がっていると
男子生徒が階段を下りてきてすれ違う
なんだろう、なんだかフラフラしてるなこいつ

「…おい」
「え?」

突然呼び止められる

「何ですか?」
「…今俺にガンつけたろ?
 何様だテメェ…!?」
「は?」

いきなり絡まれた
どんな時代のヤンキーだよこいつ
どう言い訳しようか考えているといきなり胸倉を掴まれた
驚いて持っていたパンが階段を転がった

「やる気か!?やる気なのかテメェ!?
 上等だ!!やってやる!やってやっからな!!」
「ちょ…!?」

何だコイツ!?
やる気か!?って自分から掴みかかってきてるんじゃねぇかよ
まずいな、どうやって切り抜けよう
とか考えてるうちにますます相手はヒートアップしてきている

「ウゼェ…!ウゼェ…!どいつもこいつも…!!
 殺してやる!!死んじまえ!!」
「なッ…」

相手の腕が振り上げられた
やべぇ、こいつ本気だ
思わず目をつぶる
間髪入れずドガッ!!と音がする
殴られた!…と思ったが痛みが全く無い
ゆっくりと目を開けてみる

「何やってんだお前?」
「高橋…」

俺を掴んだいた男子生徒が後ろに倒れそうになる
ってここ階段だぞ!?

「おっと」

高橋がそいつを支える
どうやら高橋が気絶させたらしい

「喧嘩売ったのか?売られたのか?」
「…売られた」
「ならやっちまえばよかったのに」
「なんつーか…性分」
「…チ、相変わらず甘い甘い」

高橋は支えていた男子生徒を階段の踊り場に寝かせた

「…お前、生徒会の1人倒したみたいだな」
「え?何で知ってる…の?」
「俺は何度も言った、生徒会を倒すなどというのはやめておけってな
 だがもうそれは言わない、言ってもどうせ聞き入れないだろ?」
「…ああ」
「ただ…背負う覚悟だけはしておけよ
 手負いの獣は、なりふり構わず襲ってくるぞ」
「…あ、ああ…」
「…それじゃあな」

高橋はそれだけ言って去っていこうとした

「待って」
「ん?」

俺は思わず高橋を呼び止めていた
聞きたいことは山ほどある、だけど言いたいことがまとまらない
そんな状況で俺の口から出た言葉は

「結局、お前は…敵なのか?味方なのか?」
「さぁな」

問いに答えることなく
高橋は落ちていたパンを拾い上げ俺に投げてきた
それをキャッチするちポフッと音がした
高橋は言ってしまった
背負う覚悟か…そんなもの…もうとっくに…
食欲は失せていた
その場でパンに食らいつき早々に教室へと戻ることにした

10/26(木) 放課後

授業が終わり、とりあえずゆき兄の様子を見に行くことにした
保健室い向かっているとまた誰かが喧嘩をしているのが目に入った
今日はなんだかやけに喧嘩が多いな
そんなことを思いながら保健室に入る

「またかよ!!…ってたまゆらか」

ヤチャマルは物凄くダルそうな顔をしていた
いつものことなのだが今日はその数倍ダルそうだった

「どうしたの?」
「いや…ちょっとな…」
「今日はやたらと怪我人が来るんだよ」
「ゆき兄」

保健室の奥からゆき兄が顔を出した
手には板チョコを持っていた

「そういえば今日は喧嘩が多いなーとは思ってた
 俺も絡まれたりしたわ」
「かなりの怪我をする殴り合いの喧嘩とか滅多にあるもんじゃないんだけどな
 おかげで疲れた…」
「まぁそういう日もあんだろ
 普段サボってるヤチャマルには丁度いいんじゃないか?」
「お前が言うか…?
 別に叩き出してやってもいいだぞ?」
「…いや、すいません
 さて、んじゃあ寮に戻るか」
「あ、俺も戻るよ」

ゆき兄と一緒に寮に戻ることにした
帰り際に気になったことを聞いて見た

「舞姫はどうなったの?」
「ん、ああ、寝てたと思ったらいきなり身体から黒い煙が噴出したからな
 こりゃあたまゆらが勝ったかと思って放っておいて帰ってきた」
「結局あいつはどこで寝てたの?」
「校舎の奥にある普段は鍵かかってる倉庫だよ
 びっくりしたぜ、中入ったら魔法陣と蝋燭で完璧な呪術仕様だ」
「でもよくそこにいるってわかったね」
「あちこち駈けずり回ったんだぞ…
 そしたらほろにがが前に忍び込んだところで怪しい所があったって教えてくれてな」
「それが倉庫だったと」
「ああ、魔法陣と蝋燭の後を見てここは怪しいと思ってたらしい」
「…ということは間接的にはほろにがにも助けられたのか…俺は」
「ま、そういうこっちゃな、一応カップ麺程度は差し入れとけばいいんじゃねぇか?」

ほろにがはおちゃらけてるがここぞと言う時はとにかく頼もしい
あいつ真面目に戦ったら相当強いんじゃねぇかなぁ
なんて考えてると寮についた

「じゃあな、たまゆら」
「ああ、それじゃな」

部屋に戻る、さてこれからどうしようかな
とりあえず夜になったらカップ麺でもほろにがに持っていってやるかなぁ


10/26(木) 夜

「とっとっと…こぼれるこぼれる…」

カップ麺にお湯を入れてゴミ捨て場に向かう
しかしすっかりゴミ捨て場に居ついたなぁ、あいつ
ゴミ捨て場についてほろにがを呼ぶ

「おーい、ほろにがー」

…返事は無かった
普段ならゴミの山からズボッと出てくるはずなのだが…

「おっかしいな、ほろにがー、いないのかー」

相変わらず返事はない
おいおい、麺が伸びるじゃねぇか…
まぁあいつなら麺が伸びても普通に食べそうだが
カップ麺を地面においてしばらく待ってみることにした
…さすがにもう寒いな
ずっと野外で寝てるほろにがは風邪とか引かないんだろうか
でも絶対ひかなそうだな、なんとなく

「…よぉ、器」
「は?…ってうおお!?」

思わず後ろに飛びのいた
目の前にいたのは放送室で俺を襲った…天下

「テメェ…!?」
「そう殺気立つな
 今日は別にお前を試そうともしていない」
「なんだと…?」
「朱雀、白虎、そして青龍まで覚醒させたお前には器としての力は充分にあるようだからな」
「…お前は一体、黄龍の意思って何なんだ」
「キヒャヒャヒャ…
 お前は何も知らないでいい」
「ふざけるなよ…」
「戦いを続ければ、いずれ分かるさ
 矮小な人の思惑などは運命は等しく全てを飲み込む」
「どうやら教えてくれる気はなさそうだな」
「安心しろ、俺は味方だ
 表だって動いてはやれないがな」
「信じられないな」
「お前が何を信じようとも運命は流れ続け
 やがてひとつの真実へと辿り着く」
「…」
「それじゃあな、器…」
「待てッ!」

天下は高く飛び上がり
空中を走るようにどこかへ行ってしまった

「…天下、あいつは…」

考えてもどうせわからないだろう
やがて真実に辿り着く…か
なんだか疲れた
ほろにがも戻ってこないし寮に帰ろう
寮に戻ると俺はそのままベッドに倒れこむように眠りに落ちた
わからないことが多すぎて
なんだか、イラつく


10/27(金) 朝

目が覚めた、あまり寝た気分はしない
けっこう長い間寝てたはずなのに身体がずっしりと思い
悩んでたり心配事があると深く眠れないんだな…
とはいえ起きてしまったものはしょうがない
うだうだしてるより学校へ行ってしまおう

教室につくと何だか変な空気だった
なんというか会話が無く静かなのだ
普段ならわいわいがやがやとうるさいはずなのに…
まぁこういう日もあるんだろうと自分で納得して席につく
チラと隣の席の奴を見ると頭を抱えてブツブツ呟いていていた
…空気が恐ろしく悪い
教室は沈黙を保っている、やっぱり何かあったんだろうか…
意を決して誰かに聞いてみるか?と思ったその矢先だった

「あああああああぁぁぁぁあ!!!!」

絶叫と共にガシャーンと音がした
机が吹っ飛んでいた、いや蹴り飛ばされていたというほうが正しい
何が起こったかわからない
突然窓際の席のやつが机を蹴り飛ばしていた
それを見た数人の男子が立ち上がってそいつに近づいていった
なだめにいったんだろうと思っていたがその予想は次の瞬間に砕け散った

「うあぁぁぁぁぁああああ!!」

いきなり、1人が殴りかかった
呆気に取られているとまた1人、1人と殴りあいに参加する
何が起こってるっていうんだよ!?

「うぜぇ!どいつもこいつもうぜぇ!!」
「しね、しね!しんじまえ!!!」
「あぁぁぁあああああああ!!!」

もはや乱闘状態だった
止めようにもどうしていいかわからない
ふと周りを見ると何人かは机にうずくまって頭を抱えている
立ち上がって乱闘に参加する奴もいた
おかしい、いくらなんでもおかしい
まさかまた執行部が何か…!?

「くっそ!!」

俺は教室から飛び出した
とりあえず、保健室だ
それからゆき兄と合流して…

「ぶっころしてやる!!!」
「こっちのセリフだ!!」
「全員消えちまえ!!俺以外みんな消えろよぉぉ!!」

ガシャーン!とガラスの割れる音や重いものが吹っ飛ぶ音
そこらじゅうの教室などから怒号が聞こえる
学校全体がこんな感じなのか?
すると前からえび助がフラフラと歩いてきた

「えび助!?」
「…たまゆら…くん…」
「どうした!?大丈夫か!?」
「…止められない…」
「え?」
「早く…僕から離れて…
 もう、耐えられない…」
「何言ってんだえび助!?」
「…きっと…生徒会の…
 動き出して…でも…まさかここまでするなんて…
 早く…逃げて…」
「えび助!?おい!しっかりしろよ!」
「…」
「えび助!?」
「…死んじまえ」
「え?」
「俺に触るなぁぁぁぁ!!!」

いきなり、えび助は俺の顔をブン殴った
咄嗟のことで反応できずに俺は思いっきり後ろに吹っ飛んだ

「えび助…!?」
「いつもいつも…上から目線で何様のつもりだ…
 ぶっ殺してやる…!!」

えび助の目には怪しい光が揺れていた
どうやら本気で俺に攻撃をしかけようとしてるようだ
口の中が切れたらしく血の味がする
駄目だ、これが生徒会のせいならえび助と戦うわけにはいかない
今はとにかく逃げるしかない

「えび助、必ず助けてやるからな!!」

俺は必死に逃げ出した
後ろではえび助は叫び声をあげている
そこらじゅうでいろんな奴らが殴り合いの喧嘩をしているようだ
…白やん、生徒を守るとか言って
結局お前の正義ってのはこの程度なのか…!!!
保健室に辿りつきドアを開ける

「ヤチャマル!」
「たまゆらか、お前は平気なのか?」
「何が?」
「…どうやらお前はまだ平気なようだな」
「…何か知ってるのか?」
「こいつが全部話してくれたよ」
「わー!たまゆら君無事だったんだ!!」
「うお、リカちゃんもいたのか…
 ゆき兄、こいつって?」
「たまゆらにも説明頼むわ」
「はい」

部屋の奥からゆき兄とリカに続いて出てきたのは…

「舞姫…」
「現実で、会えたね」
「…いや、それよりも教えてくれ
 一体何が起こってるんだ?」
「恐らくスイカの仕業」
「スイカ…生徒会の会計だったっけ」
「ええ、彼は創造主の力を与えられている
 彼は新種の生命体を作り出すことが可能なの」
「…それがこの状況とどういう関係が?」
「アルゴルを使ったんだと思う」
「アルゴル?」
「アラビア語で悪魔を意味する、それがアルゴル
 スイカが作り上げた寄生生命体で最も危険な物…」
「寄生…生命体…?」
「アルゴルに感染した人間は異常なほどに攻撃性が増大し
 同時に敵意の塊のような状態になって他者を傷つけることに戸惑いを感じなくなる」
「つまり乱闘やら何やらを起こしてる奴らは全員そのアルゴルに感染していると?」
「間違い無いと思う
 アルゴルの本当の恐ろしさはその爆発的な感染力
 感染してからだいたい6時間で発症するからまだ症状が現れて無い人のことも考えると
 もう学園全生徒の3分の2ぐらいは感染してると考えたほうがいいわ」
「その、アルゴル、弱点はないの?
 ほら、ワクチンとか」
「…私は知らないかな…それを知ってるのはスイカだけと思う
 アルゴル自体、あまりにも危険すぎるということで会長はその使用を禁じていたし
 あ、でもアルゴルは寄生主が学園の外に出た瞬間死滅するらしいから
 この惨劇が学園から日本中に広がることはないよ」
「それがせめてもの救いだな」

話を黙って聞いていたゆき兄が会話に混ざってきた

「要するに俺らが今やらなくちゃならないのは
 スイカを捕まえてアルゴルをどうにかしないといけねぇってことだ
 だけど、問題があるとすれば…」
「すれば…?」
「発症してないだけで俺らもすでに感染してる可能性があるってことだ」

その一言で全員が押し黙った
…しばらくの沈黙の後に続けてゆき兄が言った

「…だが何もしないわけにもいかないからな
 感染してようが感染してなかろうがやることは一つ
 迅速にスイカを捕まえるだけだ」
「…そうだね」
「一応、アルゴルに感染している奴らを調べて見る
 上手くいけば治療法が見つかるかもしれない」

ヤチャマルがなんだか医者っぽい顔になっている
普段のだらけっぷりとはえらい違いだ

「おー、ヤチャマルさんマジかっけーっす」
「あん?」

とぼけた声が聞こえたと思ったら
机の下からほろにがが這いずりでてきた

「…いつからいたんだ?」
「ずっと…なんだか出て行ける雰囲気じゃなくて」
「…危機回避能力だけは相変わらず最強だな
 さて、それじゃたまゆら、行くか」
「俺は一度黄龍鉄甲を取りに帰らなくちゃ」
「わかった、ええと、それと姫さんよ」
「うん?」
「スイカの居場所で心当たりはないか?」
「…生徒会室にいる以外はいつもどこにいるかわからないから…」
「そうか…まぁしょうがねぇ
 行くぞ、たまゆら」
「うん」
「…スイカは危険すぎるの
 だから…気をつけて…」
「…わかった」

俺とゆき兄は同時に保健室から飛び出した
俺は一旦寮へと戻って黄龍鉄甲を取り、再び戦場と化している学校へと戻る

10/27(金) 午前

もはや完全に学校はスラムのようになっていた
そこらじゅうの窓ガラスは割られて何人もの生徒が倒れている
絶対に許さねぇ…!!
しかしよく考えたら俺はスイカの容姿も知らない
舞姫からもっと詳しく聞いておけばよかった

「うぅぅぅ…!」
「!?」

目の前に3人の男子生徒が立ちふさがってこっちを睨んでいた
まずい、捕捉された
そう思った瞬間に3人は一斉に飛び掛ってきた
3方向から…防御できても2方向が限界だ…
その瞬間、俺の横を風が吹き抜けた
ドガガガガガッ!と音がして3人がその場に倒れた

「峰打ちだ、安心しろ」
「お前…」
「…初めまして、と言えばいいか
 転校生たまゆら、だな?」

木刀を持って剣道着を着た男子生徒が俺を助けてくれた
あの一瞬で3人を一気に気絶させたのか…?

「俺は元執行部、剣三郎
 今は、ゆき兄の友」
「…あっ」

そういえば俺が前にぶっ倒れてる時に
ゆき兄が1人執行部を倒したって言ってたな
それがこいつか!

「行け」
「え?」
「ゆき兄からお前を助けてやってくれと言われてな
 俺も生徒会のこの非道には少々頭に来ている」
「おまえ…」
「さぁ早く行け、後ろは俺が守ってやる
 お前は前だけを見て進め」
「…ありがとう」
「…もう俺は偽りの平和などに縛られはしない
 己の信ずる友のために、この刀を振るう!!」

俺は走り出した
あても無い、だけどこうなったら…
僅かな可能性に賭けるとしたらあそこしかない
辿りついたのは昨日も来た生徒会室
俺は扉を蹴り破って中に入った
だが室内には誰もいない

「白やん!出て来い!!!」

叫ぶように白やんを呼ぶが返事が無い

「クソッ!!!」

苛立ち、机を蹴り飛ばした
書類の束がバサバサと宙を舞う
どうする、どうすればいい…!
後ろから足音が聞こえた
振り向くと10人以上の目の空ろな生徒達が入り口を塞いでいた

「あぁぁぁぁぁ!!!!」
「殺してやらぁぁぁぁあ!!」

まずい!人数が多すぎる!!!
後ろの窓、いや正確には窓の外から声が聞こえた

「伏せろ、転校生」
「!?」

考えるよりも早く身体が咄嗟に動いた
俺が伏せると同時に窓ガラスが割れる音がした
そして黒い羽が室内に舞い散った
この羽は…!?
羽が命中した生徒たちはバタバタ倒れていく

「ふん、能力も持たない雑魚がいくら群れたところでこの程度さ」

割れた窓枠に足をかけこちらを見ているのは
間違いない、黒やんだった

「…お前、俺を助けてくれたのか?」
「悪い冗談だな、お前のせいで俺の能力の大半は失われたんだぞ?
 見てみろ、羽根の威力が著しく落ちて凡人1人殺せない
 全くムカつく…」
「…」
「だがここでお前がやられるのはもっとムカつく」
「え?」
「行けよ、とっととこの騒動を終わらせろ
 うるさくって寝れやしねぇんだよ」
「…ハハハ」
「何がおかしいんだよ」
「典型的なお前を倒すのはこの俺だ!って奴だな
 ツンデレか?」
「なっ…!?」

黒やんが赤面した

「そんなんじゃねぇ!!
 とにかくさっさといけ!!!」
「ああ、ありがとな」

とりあえず生徒会室から出る
しかしこれでいよいよアテが無くなったぞ
しらみ潰しに探すしかないのか?
すると携帯が鳴った、電話…?ゆき兄から?
俺は走りながら電話に出た

「たまゆらか
 一旦保健室に戻れ」
「どうしたの?」
「ラチがあかねぇからな
 一旦作戦会議だ、ヤチャマルがアルゴルについて何か掴んだかもしれねぇからな」
「わかった」

俺は保健室へと引き返すした


10/27(金) 午後

「状況はかなりマズい
 乱闘が乱闘を呼び負傷者多数だ
 だが完全に発症している奴らは手当てすることすら出来ない」
「1日この状態で放っておいてみろよ
 完全に学園はぶっ壊れるぜ」
「なんてもん作り出してんだよスイカって奴は…」
「ヤチャマル、アルゴルの治療法はわかったのか?」

ヤチャマルが首を振った

「…わかったことといえばアルゴルは脳に影響を及ぼすってことぐらいだ
 外科手術などで物理的に取り除くことは不可能」
「八方塞りか…」
「しかしこのまま放っといたら死人が出るぜ?
 つーか俺が思うに感染した奴らを全員学園の敷地外に誘い出せばいいんじゃねぇか?
 学園の敷地外に出たらアルゴルは死滅するんだろ?」
「いや、そりゃ無理だ」

ほろにがの意見をゆき兄がすっぱり否定した

「試してみた、だがどうも学園の敷地外には出ようとしない
 俺が敷地外に出たらその瞬間、興味が無くなったかのように攻撃対象を他の人間に変える」
「行動すらも操るってことかよ…
 なんつー生命体だよ…」
「本来寄生虫などの生命体は宿主を死に至らしめることは稀なんだがな
 そういう意味でもアルゴルは最強最悪の寄生生命体だ」
「はぁ…どーすっか…」

皆暗い顔でどうするか考えていた
スイカを見つけなければ全く話にならないのだ
だけど完全に雲隠れしてやがる
その時保健室のドアがガラリと開いた

「ううっ…」

入ってきたのは傷だらけの男子生徒だった
その場にいた全員が顔を見合わせた

「感染してるか!?」
「わからん…だが、少なくとも発症はしていないようだ」
「おい、お前大丈夫か?」
「書庫室…隠れてたら…突然…うっ…」

それだけ言うと男子生徒は気を失った
書庫室…そんな場所あったっけ…

「書庫室…そうか…
 あそこのことを完全に忘れてた」

ゆき兄が呟いた
俺はゆき兄に聞いて見た

「書庫室なんてあったっけ?」
「図書室の奥にあるんだよ、一般生徒は普段絶対に行くことはないからな知らないのも無理はない」
「じゃあもしかしたらそこにスイカが?」
「可能性はある」
「他にアテも無いし、行ってみよう」
「そうだな、行ってみるか」

倒れた男子生徒をヤチャマル達に任して
俺とゆき兄は保健室を飛び出した
すでに校舎内には負傷して気を失った生徒がそこらじゅうに倒れていた
おかげで襲われることもなく図書室へと辿り着いた

「…酷い有様だったね」
「ああ…」
「ゆき兄、俺は絶対にスイカを許さない」
「ならその気持ちを黄龍鉄甲に乗せてぶつけてやれ」
「ああ!」

本棚をくぐり抜けていくと書庫室と書かれたドアの前に辿り着いた
確かにこんな場所今まで知らなかった…

「それじゃあけるぞ」

ゆき兄がドアに手をかけてゆっくりと開けようとする
カギはかかってないようでカラカラと音を立ててドアは開いた
書庫室の中は埃っぽくて随分長い間人が立ち入った形跡はなかった
だが部屋の中心で、一人の男が本を読んでいた

「…初めまして、転校生」

男は本から目を離さずに呟いた

「お前がスイカか」
「ああ」

スイカは本をパタンと閉じ
こちらに向き直る

「…アルゴルを止める方法を聞きだしにきたんだろう?」
「そのとおりだ」
「僕もね、アルゴルを使うのは本意ではなくてね
 出来るなら今すぐに止めたいんだ」
「ならさっさと!」
「だがそれが出来ないのは君という存在があるからだ
 …君がここで素直に僕にやられてくれればアルゴルはすぐにでも止めると約束しよう」

俺は首を横に振った

「悪いがそれは出来ない
 それに俺達はお願いしてるんじゃない、止めろと言ってるんだ」

黄龍鉄甲を構える
同時にゆき兄も剣を構えた

「やはり素直に聞き入れてはくれないか…」
「止めないというなら…力づくでも」
「…落ち着け、そろそろ時間だ」
「どういう意味だ?」
「おかしくはないか?自分の居場所を嗅ぎ当てられたのに顔色ひとつ変えない僕が」
「…」
「保健室に行き、ここの場所を教えた生徒がいるだろう?
 あいつは僕が支配している、正確にはあいつの身体を支配している奴を僕が支配しているんだが…」
「何だと…!?」
「…僕が作り出した子はアルゴルだけじゃないのさ
 さて、時間だ」
「さっきからその時間てッ…!?!?」

頭に物凄い痛みが走った
同時に吐き気がこみ上げる
耐え切れずに、膝をつき頭を抱えた

「たまゆらッ!?」

汗がにじみ出る
頭が割れると錯覚するほどの頭痛が襲う
痛い、痛い、痛い、痛い…!!

「どちらにせよアルゴルを使用できるのは明日までだ
 その前に君を仕留めなきゃいけないんでね」
「お前…たまゆらに何をした!?」
「僕は何もしてない」

ゆき兄とスイカの会話を頭を抑えて聞き続ける

「…殴られたろう?アルゴルに感染した奴
 その時にお前は感染している
 酷い頭痛のあとにすぐに発症する」
「…そん…な…」
「…だが君だけは確実に殺さないといけないのでね」

スイカが動けない俺へと突っ込んできた
避けれない、動けない、ゆき兄も間に合わない
スイカの身体が、ドンッ!とぶつかる衝撃
同時に、太ももに何かが刺さる痛み

「テメェ!!」

ゆき兄がスイカを掴み壁に叩きつける

「たまゆらに何をした…!」
「…今、彼に打ち込んだのは僕が作り出した最強の死神…
 感染能力は皆無な故に直接打ち込む必要があった
 そのためにアルゴルの発症時間を予測してここにおびきよせたんだ」
「死神…!?」
「カルディア、それが死神の名」
「カルディア…?」
「…ククッ、死ぬぞ、そいつ
 カルディアは打ち込まれて24時間以内に必ず宿主を死に至らしめる」
「なんだと…」
「カルディアは人の体内に入ると一直線に心臓を目指す
 そして…死に至らしめる
 そいつの命は残り24時間
 ここでお前が僕を殺そうともそれは変えられない」
「止める方法を言え!!」
「無理だね、カルディアは1度感染すると僕ですら止めることは出来ない
 …ああ、安心しろよ、カルディアはアルゴルですら食い殺してしまうからね」

カル…ディア…
何だ…視界が霞む…?

「…クックックック
 足掻いてみろよ、万が一にもカルディアを退けることができたなら…
 その時は負けを認めてやるよ」

急速にこみ上げる吐き気を抑えきれなくなり
俺はその場に嘔吐する

「ほら、始まったぞ
 カルディアの進行が…」
「クソォッ!!」

ゆき兄がスイカから手を離してこちらに駆け寄ってくる
心臓の鼓動が、早い、今にも張り裂けそうで…
全身が、熱い…!

「たまゆら、大丈夫か、おい!」
「カルディアは身体のあらゆる器官にダメージを与え…
 極限に近い苦痛をもたらす…」
「たまゆら、歩けるか!?」
「足が…動かない…動けな…い…」

意識が朦朧とする
気を抜くと吹っ飛びそうになる意識を必死に繋ぎとめる
身体が揺さぶられるのがわかる
ゆき兄が俺をおぶったらしい

「足掻いてみせろよ…」
「テメェは…必ずぶっ殺してやる」
「クックック…」

揺れが伝わる
ゆき兄が俺を背負って必死に走っているんだろう
俺の命が、後24時間しかないとか…冗談じゃないが…
段々と身体中に激痛が走り出した
頭のてっぺんから足の先まで全身にくまなく巡る痛みが
24時間の命というのを否応なく俺に感じさせる

「ヤチャマル…たまゆらが!…な!?」
「グ…」
「おい!皆どうした!?」
「さっきの…奴だ…突然大暴れして…
 同時に発症した奴らがなだれこんできた…!」
「…もしかして…全員、殴られたりとか…
 接触してしまったのか…」
「…」
「…最悪だ…」

どうやら自体は考えうる限り最悪の方向に進んでいるらしい
それが朦朧と意識でわかった最後の記憶だった
そこから俺の意識は闇へと落ちていった
全身の痛みが、止まらない…


10/27(金) 同時刻

「…一体何をしたの、あなた達は」
「…堕人が出現するのを食い止める為に俺達は強い陰の気を持つ者を作り上げ
 それを楔として堕人の出現を止めていた
 しかしたまゆらのせいで楔は最早堕人の出現を止めることは出来なくなった
 だから苦肉の策ではあるが堕人を一時的に止めるために一般生徒全員を使うことにした
 スイカの能力で今学園内には憎悪、恐怖、殺意…極限に近い陰の気が渦巻いている
 わかるな、それ自体は堕人の出現止める蓋と化しているんだ」
「やり方はどうあれ堕人から一般生徒を守ろうとしているのは認めていた
 だけど堕人の出現を止めるために一般生徒全てを危険に晒すなんて本末転倒じゃない!」
「一時的なものだ…期限は3日と決めた
 もう2本の楔では堕人は抑え切れなかった!」
「それでも…これだけは言える
 あなたは間違ってる!」
「…ッ!!」
「…」
「…すぐにわかるさ、たまゆらが死に、全てが元通りになれば…」
「わからない…わからないよ…」
「君にはまだしばらくここにいてもらう…」
「ゆき兄…たまゆら君…」


10/27(金) 同時刻

「やってくれるなぁ…!!!
 あの男ぉ…!!!」
「ノスフェラトゥ様…いかがいたしましょう…」
「どうしようもない…ここまで陰の気で溢れ返ってしまえば
 我々も動くことが出来ないだろうよぉ…」
「成り行きを見守るしかないと…?」
「クソッ…クソッ…!まさかこんな手段に出やがるとは…!
 八つ裂きにしておくべきだったか…!」
「ですが我々では…奴は…」
「ああ、わかってるさ風哭…!
 …とにかく今はあいつが何とかするのをなんとかするのを待つしかない」
「奴がやられれば我々はまた…」
「…勝て…たまゆらぁ…
 我々の悲願のためにも…まだお前に死なれては困るんだよ…!!」



14限目 - アウトブレイク -



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最終更新:2009年11月01日 02:59