邪眼学園黄龍譚14.5限目【絶望の中の希望】前編
某日、時刻不明
俺の剣が彼女を貫いた
刃に伝わる血が鞘に辿り着き、冷たい床に落ちる
ポタポタと、足元に血溜まりが出来ていく
「あ…あああああぁぁ…」
声は、声にならない
絶望から捻り出したかのような声だけが絶えず俺の口から発せられる
剣が、ズルリと、彼女の身体から抜ける
支えを失った彼女は血だまりの中へと倒れる
『世に安寧を』
ふざけるな!!!
認めない!!絶対に認めてたまるか!!
俺の身体は俺のものだ!!
それでも身体は俺の意思に反する
血に染まった剣を握りなおし再び俺は剣を振り上げる
「あぁああああああああああああああああああああああああ!!!」
絶叫が、響き渡った
10/27(金) 午後
「クソッ!どうすりゃいいんだよ!!」
状況を整理する意味も兼ねて今の状況を皆に説明した
そして最悪だということを再確認してしまい
俺は声を荒げて机をぶっ叩いた
たまゆらはカルディアとかいうので動ける状況ではないし
ここにいる皆もアルゴルに感染して動けるのは俺だけ
例えスイカを倒しても最悪アルゴルもカルディアも止めることはできない
…アルゴルが止まったとしてもカルディアはスイカにも止められないと言っていた
となるとたまゆらの命は明日の昼過ぎまで…?
認めない、そんなの…
「アルゴルの発症まで6時間…
たまゆらの命は24時間…」
「…ぐ…」
「ヤチャマル…?」
「たまゆらを…治す」
「…治せるのか?」
「薬や気功で外部からの治療は不可能…
なら切って直接やるしかない…!」
「無茶言うなよ!?
こんな場所で手術する気か!?
そんなんするぐらいだったらどっか適当な病院に運んで…」
「スイカの作り出した未知の寄生生命体にそのへんの医者が対応できると思うか!?
時間が無いんだ!ここでやるしかない!」
「しかし…」
「器具はある、携帯無菌室も確かあったはず…
やってやれないことはない…
重要なのはカルディアが一体どんな奴なのかということと
アルゴルの発症…」
「…グズグズしてる時間はない…か」
「皆手伝ってくれ…10分、いや5分で用意を済ませる」
「…わかったよ」
全員ぼろぼろの身体に鞭打ってヤチャマルの指示通りに動く
あっというまに保健室の一角に膨らました風船のような部屋が設置された
ヤチャマルが器具の消毒とかをしている
たまゆらの顔色はとにかく悪い、青ざめるを通り越して土気色だ
その時保健室のドアが開く音
「ゆき兄はいるか!?ゆき兄は!?」
「剣三郎…?
…なんでパンツ一枚なんだよ」
「乱戦で…道着が敗れたんだ…」
「プッ」
リカが我慢できずに吹いたらしい
それに釣られて我慢していたであろうほろにがが爆笑を始めた
「がーはっはっはっは!!ひーひひひ!」
「プ、ププッ…クックック…」
「わ、笑うな!!!」
「あー、わりぃ、わりぃ
それでどうした?」
「うむ、俺と黒やんで暴れまわっていた一般生徒をほとんど気絶させた
一時的ではあるがしばらくは安全だと思う」
腕を組んでそう話す剣三郎
しかしパンツ一枚で威厳も何もあったもんじゃない
「…待てよ
気絶した奴らを外に投げ出せばアルゴルを死滅させれるんじゃないか?
ていうか皆も一旦外に出ればアルゴルの発症は免れるんじゃ?」
「ああ、そりゃ無理だ」
「え?」
窓の外に黒やんが立っていた
「お前…どういう意味だよ」
「なんといえばいいか
学園全体が見えない壁のようなもので覆われてるぜ?
壁っつーかドームだな、上空からの脱出も不可能だ」
「スイカの野郎…用意周到にも程がありやがるな
カルディアをたまゆらに打ち込んだあとに先んじて仕掛けたってことか」
「どうやら本気でたまゆらを確実に殺そうとしてるみたいだな」
会話にほろにがが割って入ってきた
「んじゃあ今からどうするかってのが問題だ」
「…最優先はたまゆらを何とかすることだが俺達には無理だ
外にも出れないとなるとスイカ自体をどうにかするしかない」
「…やっぱそうなるか
めんどうだけど発症して暴れまわるのもゴメンだからな
今回ばかしは全力で手伝ってやるよ」
「ああ」
「ゆき兄、ほろにが」
「あん?」
ヤチャマルが指で水道を指している
どうやら手を洗えと言ってるようだ
「それとコレな」
ぽんっと投げ渡されたのは服だった
…どうみても手術着とかいう奴だが
「手伝え」
「はぁ!?」
「なんで俺らが!?」
「血に慣れてるだろ」
「いやいや…」
「とにかく1人じゃ無理なんだ
経験が無いにしたって人手がいる」
「リカとかのほうがまだ役に立つ気がするんだが」
「…普通の女子高生が胸かっさばいて手術されてる同級生を見て平静を保てるか?」
「うーん…」
「総合的に見ればお前とほろにがが適任なんだ」
「…わかったよ」
俺は剣三郎と黒やんに向き直った
「2人は、スイカを探してくれないか?」
「承知した」
剣三郎はすぐに了承したが
黒やんはそっぽを向いている
「…俺はお前らの味方になったつもりはない
勝手にやらしてもらう」
「そうかよ…好きにしろ」
黒やんは保健室から出て行ってしまった
…まぁ無理やり手伝わせても面倒ごとが増えるだけだろう
と、なると残りは姫とリカをどうするかか…
チラ見すると姫は割と冷静だがリカは…まぁ仕方の無いことか
俺は2人に近寄った
「これから俺達はたまゆらを助ける
…2人は、じっとしておくんだ」
「でも…でも…」
リカが泣きそうな顔で突っぱねようとする
不安でどうしようもないが何かしたくてしょうがないんだろう
健気ではあるが…
「…俺達がここから離れられなくなる以上はお前らが目に付かない場所にいるのはまずいんだ」
「…」
「見張り、ぐらいだな
保健室に誰かが接近してきたら知らせてくれ」
「う、うん…」
「それと」
「?」
「アルゴルの発症の兆しが見えたらすぐに言え
いいな?」
「…わかった」
「頼んだぜ、姫」
「うん」
「じゃあ、ちょいとたまゆらを助けてくる」
俺は手術着に着替えて手を念入りに洗った
ほろにがの顔から普段のおちゃらけが消えていた
「準備できたぜ」
「時間が無い、急ごう」
「了解、たまゆら、死ぬなよ」
10/27(金) 夕方
俺とヤチャマルとほろにがは携帯無菌室の中に入る
なんか巨大な風船の中に入った気分だな
真ん中の台にたまゆらを乗せ麻酔を打つとほどなくしてたまゆらは眠った
それを見届けたあとヤチャマルが説明しだした
「2人に多くは求めてない
1人は俺に器具を渡してくれ
もう1人は術野を広げるなどだ」
「じゃあ俺が器具を渡してやるよ」
ほろにがが器具渡し役に立候補した
となると俺は直接たまゆらの身体を触らなくちゃいけないってことか…
「…オフポンプでやるしかないか」
「オフポンプ?」
「心臓手術は基本的に心臓を止め患者に人工心肺を繋いで行う
だが心臓が動いたまま施術するのがオフポンプだ」
「大丈夫なのか…?」
「…難易度は跳ね上がるさ…
だけどさすがに人工心肺なんてものは用意できていないからな
選択肢はこれしかない」
「…」
「とにかく話してる時間も勿体無い
始めるぞ!!!消毒しろ!」
「は、はいっ!」
すごい剣幕に押されてほろにがが機敏に動き始めた
ヤチャマルが手に持ったメスを見つめている
「…今更…救われようとは思わない…
だが…この命だけは…」
「…ヤチャマル?」
「…なんでもない、それじゃ…」
ヤチャマルのメスが、たまゆらの胸をスッと滑るように入った
次の瞬間、一瞬の迷いもなくスパッ!と見事にたまゆらの胸が切れた
血が、とぷんと流れ出す
「…血は吸引してくれ
輸血が足りなくなった場合は使いまわす」
「あ…ああ…」
掃除機みたいな機械を血だまりに当てると凄い勢いで血が吸われていく
血とかには割かし慣れているが…
この量は確かに少し心を揺さぶられるな
「…筋膜を切り開く」
「ああ…」
正直、あまりやることは無い
ヤチャマルの手の動きはまさに神速
一体何人分の作業を1人でやっているのか
何も知らない俺には全くわからないがとにかく恐ろしいスピードだと言うのは理解できた
…前から不思議だった
どうしてこれほどのスキルを持っているのにこんな学校の保険医なんだろうか
この技術があればもっともっと地位も名誉も手に入るんじゃないのか…
そうこうしてるうちに筋膜が切り開かれ
俺達が頭の中でよく思い描く人体というものが姿を現した
「…恐らく、肋骨を切り開く必要があるだろうな」
「そうなのか?」
「カルディアがどんなものかわからない以上
下手に刺激したあとに切り開くんじゃ遅い可能性がある
…切るぞ、正直キツい光景だとは思うが絶対に目を逸らすなよ」
「…ああ、わかったよ」
高速で回転する丸鋸のようなものをヤチャマルが取り出した
キュイーンという音がその切れ味を物語る
「…行くぞ」
丸鋸が骨にあてがわれた
何かが散る
骨を削る耳障りな音が辺りに響き渡る
ほろにがはただ目の前で行われてる非日常をぼーっと見つめている
俺も色々経験してきたがこれほどのことは…初めてで
グラつきそうになる足元を必死に抑えていた
しばらくすると肋骨が切れたらしい
隙間が開いて心臓が見えた…がどうも想像とは違うな
鼓動に合わせて動いてはいるが
「…心臓はどこ?」
「心膜の中だ、今から心膜を切る」
「…」
言うが早いか
心膜がスパンッと切り開かれる
そして現れた心臓を見たとき
俺も、ほろにがも、ヤチャマルですらも絶句した
「何だ…これは…!?」
「…心臓が糸のようなもので包まれてる…!?
いや…縛られてるのか!?」
「…ど、どうするんだよコレ…」
心臓は蜘蛛の糸のようなもので覆われていた
何も知らなければ体内に白い塊があるようにしか見えなかった
ヤチャマルはしばらく考えていた
マスクをしているから口元はわからないが
明らかに苦虫を噛み潰したような顔だった
しばらくして、意を決したようにヤチャマルは言った
「…とにかくこの糸を切るぞ」
メスの先端を刺し込み
慎重に上に引っ張り糸を切ろうとする
かなりゆっくりだ…いや、何が起こるかわからない以上当たり前か…
糸が、プツンと切れた
…何も起こらない
「…大丈夫なようだ
このまま切って行くぞ」
少しずつ少しずつ丁寧に糸を切断していく
なんとも言えない緊張感が辺りに漂う
やがて、糸が切り開かれ
やっと心臓が見えた
「…心臓自体は…何ともなっていないようだが…」
「…何がどうかよくわからないが…」
「それとも中に潜伏しているのか…?」
「ん?」
「どうしたほろにが?」
「いや、今何かが…動いたような」
そう言ってほろにがが糸の膜をめくろうとした
その瞬間、ヤチャマルが物凄い剣幕で叫んだ
「不用意に触れるな!」
「なッ!?うわっ!?」
何かが、糸の膜と心臓の隙間から飛び出した
そいつが通った場所が、切れた
血が、流れ出す
「おッ!?おいッ!?
何やったんだお前!?」
「しらねぇ!?何かが!」
「病原体の自走による裂傷生成だと…!?」
「反対側の糸の膜の裏だ!!」
「…いや、小刻みに中で動き回ってる
出てくるぞ…!!」
「!?」
シュッ!と何かが飛び出した
小さな蜘蛛のような生物
こいつが、カルディア…!?
「とにかく縫合を…」
カルディアを裂け、ヤチャマルが切られた心臓を縫い始める
俺とほろにがは、カルディアから目が離せなかった
宿主の心臓を躊躇無く切り裂く寄生生命体…それがカルディア…
こんな奴、どうしろって言うんだ…
人体のグロさや、血の量、それ以上に異形とも言えるカルディアのその姿に戦慄
思わず、自分の胸を押さえる
「…とりあえずの縫合はしたが
カルディアをどうにかしなければ」
「ピンセットか何かで摘んで引きずり出せないか?」
ほろにがが提案する
「…やってみよう
何が起こっても対処できるようにしておけ」
ヤチャマルがピンセットを持った
俺は皮膚を広げて少しでもやりやすいようにする
ほろにががヤチャマルを凝視してその手は器具をいつでも取れる位置に置いていた
ピンセットが、カルディアを挟もうとした
その瞬間、カルディアが動いた
「!?」
バシュッ!と血が吹き出た
俺の顔に、血しぶきが散った
「吸引しろ!縫合する!!」
「わかった!」
「は、針と糸!!」
こいつ、捕まるのを察知して心臓を傷つけたのか!?
たまゆらの顔色はさっきよりも格段に悪くなっていた
「…どうするんだよ!?」
「…直接摘出はできないか…」
「だからって特効薬とかも無いんだぜ!?」
焦りが感じられる
無理やり引きずり出そうとすれば心臓を切り裂かれる
だとしてもカルディアに特効薬なんか存在しない
ヤチャマルは何かを取り出した
「それは?」
「医療用レーザーだ」
「…何する気だ?」
「焼き殺してから摘出する」
「大丈夫なのか!?」
「…少しミスれば…」
ヤチャマルは口をつぐんだ
ああ、俺だってそれがどういう意味かぐらいわかるさ
だけど今はヤチャマルを信じるしかない
ほろにがと俺はヤチャマルの手元をじっと見詰めた
先端がカルディアに近づいていく
「行くぞ!」
発射されたレーザーが、カルディアに命中した
ジュワッ!という音がして同時にカルディアが動き出した
「逃がすか!!」
発射と停止を小刻みに繰り返し
ヤチャマルは逃げ回るカルディアに断続的にレーザーを当てていく
レーザーから逃げ回っている以上カルディアは心臓を傷つけることは出来ないらしい
ただ、このレーザーが効いているのかどうかがわからない
いや、逃げるということは少なくとも危機を感じているということか…?
とにかく今は俺達は何も出来ない…
ただ、ヤチャマルがカルディアを倒すのを待つしかない…
10/27(金) 同時刻
「見つけたぞ…!」
「んん…?
お前…剣三郎だったか」
「アルゴルを止めろ!」
「…ああ、もう止めてもいいんだけどさ
せっかくだし時間一杯までどうなるのかを見てみたいんだよね」
「ふざけるな!!!
生徒会はいつからそんなに腐った!!
俺が執行部に名を連ねたのは少なからずの正義を感じたからだ!!
この非道のどこに正義がある!」
「パンツ一枚でそんなこと言っても凄みが無いなぁ」
「…斬る!」
「うおっ!?」
「殺った!!」
「…ん、ふふ…」
「…何!?」
「執行部風情が…生徒会を甘く見るなよ…」
「馬鹿な!?なぜ生きていられる!?」
「普通の人間なら…死んでるよ…
躊躇わず命を奪おうとするなんてな…
正義だなんだとほざくお前も…所詮生徒会と変わりはない…」
「違う!!!」
「ひとつ、教えてやるが…
会長と姫がどう思っていたかは知らないが
俺は生徒会を正義とも思っていない…そして誰一人仲間とも思わない」
「何だと…!?」
「生徒会なんて…支配のための道具に過ぎない…
いずれ会長すらも駆逐してやるよ…最初から俺は誰一人信用していない」
「奇遇だな、俺もお前を信用してなかったよ」
「黒やん!?」
「勝手にしろと言われたからな
ここで俺がコイツをぶっ倒すのもいいってことだろ?」
「いいさ、どうせ最終的には全部潰すつもりだった
ここでお前らはやってやるよ」
「舐められたもんだ」
「お前だけは…許すわけにはいかないッ!」
「創造主の力…見せてやる…」
10/27(金) 夜
かなりの時間が立った
ヤチャマルはずっと逃げるカルディアにレーザーを当てる鬼ごっこを繰り返している
その目は、真剣だった
俺とほろにがは、何も出来ない
ただ、見ていることしかできない
ふと、ほろにがが外に出た
「おい…」
「縛ってくる…俺も戻れないだろうしな
ヤチャマルを見ておけ」
「…え?」
外に目をやると
リカと舞姫に話しかけた後にロープで手足を縛ろうとしていた
そうか…アルゴルの発症時間か…
ってヤチャマル!?
「はぁ…はぁ…」
ヤチャマルは明らかに体調が悪そうだった
アルゴルの発症前の頭痛か!?
「お、おい…ヤチャマル…大丈夫か?」
「…大丈夫だ…」
「大丈夫って…明らかに…」
「…ここでやめたら…意味が無いだろう!!!…ッ!?」
ヤチャマルが、倒れこむ
「おいっ!?」
レーザーの機械が、宙を舞った
カチャン、と床に跳ねる音
俺はヤチャマルに駆け寄った
「はぁっ…はぁ…ぐっ…」
それでも必死に立ち上がろうとするヤチャマル
「やめとけよ!もう無理だ!」
その言葉を聞いたヤチャマルが俺の胸倉を掴んだ
そして言った
「ここで諦めたらたまゆらの命は無い!!
今もたまゆらは戦ってる!!必死に生きようとしている!!
救えるのは俺だけだ!!ここで諦めれば結果的には俺がたまゆらの命を奪ったことになる!!
もう嫌なんだ!!人の命を…奪うのは…!!」
「…命を、奪うこと…?」
その瞬間、たまゆらの身体がビクンと跳ねた
ヤチャマルが俺を突き飛ばして勢いよく立ち上がった
「カルディアが自身の危機を感じて暴れだしている…!
まずい、このままじゃ、レーザーを…!」
「…レーザー!?」
確かさっきヤチャマルが倒れた時にどこかに吹っ飛んでた…
あった、反対側の足元だ!
俺は地面を蹴り飛ばすように飛び出した
頭から、反対側の床に突っ込み、キャッチした
「投げるぞ!」
レーザーの機器が、宙を舞い
ヤチャマルはそれを見事にキャッチした
「やらせるか!!」
ヤチャマルはレーザーをまたカルディアに当てだした
俺は立ち上がって、無言でそれを見続けた
もう何も言わない
ヤチャマルにそれだけの覚悟があるのなら…
外から、バスン!と音が聞こえた
見ると椅子に縛られたほろにがが暴れていた
…知っている人間が発症したのを見ると辛かった
だから俺は外を見ないようにした
ヤチャマルも明らかにスピードが落ちていた
無理もない、アルゴルに関係なくもう6時間ぶっ通しなんだ
確かにレーザーはカルディアに効果はあるんだろう
だが…カルディアは一向に弱る気配を見せない
…間に合うのか、これで
「…少し、昔話でも…聞かせよう」
「え?」
唐突に、ヤチャマルが呟いた
意味がわからなくて返答できなかったがヤチャマルは続けた
「…俺は…昔とある機関に所属していた…
表向きは…そこの医者…裏の顔は…殺し屋」
「殺し屋…」
「疑問は持たなかった…殺し屋であろうと自分の選んだ道…
顔を隠すために…殺しの際は鬼の面を被った…
ついたあだ名が鬼面夜叉…笑える話だ」
「…鬼面夜叉」
「…沢山の命を奪った…殺して、殺して、殺し抜いて…
罪悪感も無い、ただ…命じられるままに…それだけが俺の生き方だった…
だけどある日突然、俺はその生き方を失った…」
――辺りは、屍で埋まっていた
「君は実に有能だった
有能すぎたのだ…」
「だから、自らの地位を脅かす存在になる前に処理すると?」
「…別におかしなことは無い
人の歴史を紐解くとそのようなことは珍しくもない」
「野心なんか…無い」
「それは私がよくわかってる
だが本人がどうであれ他者は必ず評価をつける」
「…」
「お別れだ、鬼面夜叉」
その時、初めて死に恐怖したよ
数え切れない程の人間を殺しておいて
今更すぎる、死への恐怖だ
笑えるだろう?
そしてその時、初めて自発的に殺した
鬼の面を被っていなかったが、あの時俺は本当の意味での鬼面夜叉だった
生き長らえても、先は見えなかった
生きる意味は失われ、自ら組織を叩き潰し
残ったのは残ったのは鬼面の夜叉が1匹…
だけど俺は生きていたかった
許されるとは思わないし、許されるつもりもない
報いなら受けようと思う
それでも、最後の瞬間まで生きていたかった
各地を点々として、気がついたらここにいた
普通の医者として生きなかったのは理由は
手術…命を奪う可能性が怖かったんだ
今?ああ、勿論、怖いさ…
メスを握った時から…ずっと恐怖で押しつぶされそうさ…
でも今たまゆらを救えるのは俺しかいない
俺が死の恐怖に怯えたように、たまゆらだって今恐いはずなんだ…
見捨てない、もう命を奪うのは…ご免だ
「…なぜかな…
こんな状況なのに…話したくなったよ」
「ああ…」
「…」
ヤチャマルは黙ってしまった
ただ、その手は変わらずカルディアにレーザーを当て続けている
すると突然カルディアの動きが止まった
「え…?」
「何…?」
カルディアは動かない
ヤチャマルはレーザーを当て続ける
それでもカルディアは動かない
「…やった…のか?」
「…こんな突然絶命するものなのか…?」
「とにかく今なら摘出可能かもしれない」
ヤチャマルはピンセットを取り出し
ゆっくりと、カルディアを掴もうとする
ピンセットの先端がカルディアに触れる、だが何も起こらない
カルディアは完全に沈黙していた
ヤチャマルのピンセットがカルディアを挟んだ
やったか…!?
「いや…」
カルディアを引っ張ると心臓までもが引っ張られた
まるでカルディア自身が心臓の一部と化しているように
10/27(金) 同時刻
「ぐっ…」
「随分手こずらせてくれたじゃないか…」
「ちく…しょぉ…」
「どう殺して欲しい?」
「待てよ」
「んん…?お前…?」
「俺はこういうの向いてないんだけどな
テメェだけは腹が立ってしょうがねぇんだよ」
「…どこから忍び込んだのかは知らないが
運が悪かったな…」
「ハッ、そりゃこっちのセリフだぜ
お前は俺を怒らせた、運が悪いにも程がある」
「言ってくれるじゃないか…」
「お仕置きの時間だ
言っとくけど今の俺は手加減できねぇぞ、自業自得だがな」
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最終更新:2009年11月01日 03:01