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邪眼学園黄龍譚14.5限目【絶望の中の希望】後編


10/27(金) 深夜

動かなくなったカルディアを心臓から引き剥がそうと必死に頑張る俺達
だがカルディアはがっちりとくっついている

「…駄目だ、これ以上引っ張ると心臓のほうが裂けてしまう
 この短時間でレーザーに耐える身体に進化たのか…
 だが外殻の強度が増したせいで動きを犠牲にした…」
「じゃあどうするんだよ?」
「…」

ヤチャマルは無言でメスを取った

「何する気だ?」
「カルディアが食らいついた部分ごと切除する」
「心臓を切り裂く気か!?」
「開いた穴は左右を繋ぎとめて塞ぐさ…
 カルディアの位置を考える幸か不幸か不可能じゃない位置だ」
「だけど…」
「問題は…俺のほうか…」

ヤチャマルの手はガクガクと震えていた
間違いない、アルゴルが発症してるんだ
それを精神力で抑え込んでるって言うだけでも凄いが
この状態で手術なんか出来るわけが…

「…普通じゃ無理だろうな…」
「え?」
「だが俺は…夜叉だ…
 夜叉は恐れない、夜叉は退かない…
 ただ敵を滅する…俺が今滅するべき敵は…カルディア…」
「ヤチャマル…」
「…あとは…俺に任せてくれ…」
「だけど…」
「…例えカルディアの摘出に成功しても
 スイカ自身はまだ残っている…倒せるのはお前しかいない」
「…」
「鬼と化した夜叉は1人で戦うものさ…」
「俺は…鬼だろうが悪魔だろうが、ヤチャマルは味方だと思ってる
 たまゆらは任せた、俺はスイカは止める」

俺は無菌室から外に出た
不安がないと言えば嘘になる
それでも…

「ん?」

縛られた舞姫とリカは疲れ果てたのか眠っていた
それはいいんだがほろにががいない
どこに行きやがったんだ?
嫌な予感がする
俺は保健室を飛び出した
しかしどこにいるかもわからない…などうしよう
そう思っていたが廊下の奥から戦闘音が聞こえた
誰かと誰かが戦っている…?
音のする方向へと、走る

「うおぉぉぉっ!!!」
「がはぁっ!!」

ほろにがの声…と、スイカ?
戦ってるのか?

「ほろにがッ!」
「おおっ!?ゆき兄か!」
「お前、アルゴルは…!?」
「今んとこは抑え込んでるが…」
「抑え込む…?」
「それよりも今はあいつだ」

ほろにががスイカを指差す
昼間見た時と違いスイカの顔から余裕が消えていた

「次から次へと…ゴキブリか貴様らは…!」
「これで2対1だ、降参したほうがいいんじゃないか?
 最も降参しても許してはやらねーけどな」

ほろにががニタニタ笑ってそう言った
なんだか知らないけどこちらが押してるみたいだな
そう思っているとほろにがは顔はスイカに向けたまま小声で話しかけてきた

「…こいつ、攻撃は全く大したことないが
 ダメージを全然与えられない」
「…むぅ」
「少なくとも打撃は無理だ
 剣で切って見ろ」

それだけ聞くと俺は踏み出した
スイカは動かない、いや、避ける素振りすら見せない
正気かコイツ…!?
俺の剣は、スイカのわき腹に命中し、切り裂いた
だけどおかしい、手ごたえが軽すぎる
すぐに後ろを振り向く
スイカのわき腹は無残に切り裂かれていた
中心より半分より左は切断され、バランスを失えば上半身が地面に落ちてもおかしくない
だが、血が出ていない…?

「酷いこと…するじゃないか」
「効いてないのか!?」
「化け物かコイツ!」

ほろにがと俺でスイカを挟み込む
グジュグジュと嫌な音がしたかと思うとスイカの傷口が塞がった

「…お前、一体どういう能力だよ」
「創造主だよ」
「言ってる意味が…」
「…そろそろ遊んでる時間も勿体無くなったよ
 終わりにしようか」

スイカが手をほろにがにかざした
あの距離から攻撃する手段を持ってるのか…?

「ダクテュロス」
「なッ!?」

スイカの右手が崩れた
まるで絡み合った糸が解けるように
そして大量の糸、いや、触手はほろにがへと向かっていった

「くおっ!」

ほろにがが横に転がって避けようとする
だが触手も方向転換しほろにがを執拗に追う
俺は走り出していた
後ろから1撃を食らわしてやる!
剣の射程範囲にスイカを捕らえる
このタイミングなら対応できない!

「ケルコス」
「…がッ!!?」

腹部に強い衝撃
俺は衝撃で後ろに吹っ飛ばされる
背中から冷たい廊下に叩きつけられる
激痛をこらえ剣を支えに立ち上がる

「…何が起こった…!?」

スイカはこちらを振り返ってはいない
だったらなぜ…

「無駄だよ、俺には適わない
 俺はすでに人の領域を遥かに超越した」
「クッ…」
「人の領域ねぇ…」

逃げ回りながらほろにがが呟いた

「…教えてやるよ
 どこまで行こうと、人は人でしかなれないんだ」

そう言ってほろにがが姿勢を低くしてスイカに向かって飛び込んだ

「…」
「リーチが伸びれば返りが遅くなる
 自明の理だろ?」

触手の束の下を走り抜けるほろにが
確かにこの状態ならほろにががスイカ本体に到達する

「ケルコス」
「甘いぜッ!打撃は効かないんだろ?」

ほろにがが頭上の触手の束を掴んで床を蹴った
返ってきた触手の先端は軸をズラされほろにがの横をすり抜けた
スイカがバランスを崩す

「うおっ…!?」

前のめりに倒れこむ
その視線が見たのは黒い銃口

「化け物が相手なら使用も止む無しだからな」
「キッ…サァマァァァァァ!!!!」
「風穴開けてやるよ」

発砲音が、冷たい廊下に響き渡った
スイカが、後ろに倒れる
その光景は酷く遅く、スローモーションのようだった
ドシャッ!と音がして仰向けに倒れるスイカ
着地したほろにがは銃口を一吹きした

「人には知恵があるんだよ、化け物」
「ほろにが…」

俺は倒れているスイカの横をすり抜けてほろにがに近づいた
ほろにがはバツが悪そうな顔をして銃をしまう

「使う予定は無かったんだがな…」
「銃なんて持ってたのか…」
「まぁおかげで勝てたしいいんじゃねーか?」
「それ俺のセリフだろ」
「…しかしありゃ何なんだ」

ほろにががスイカを見る
右腕は途中からが触手の束のようになり先端はあちこちにバラけている
異形…その言葉がピッタリだった
そう思っていると触手の1本がビクンと動いた

「何!?」
「…今のは…危なかったぞ…」
「生きているのか!?」
「眉間に弾丸ブチ込まれても生きているなんてな…
 いよいよ本物の化け物だな」

ゆっくりとスイカが立ち上がる
ペッ!と何かを吐き出しとカッキィーンと硬い音がした
見ると銃弾が転がっていた

「…はぁ…はぁ…許さない…
 これだけは使いたくなかったが…
 お前らは許さん…!」
「やべぇな、どうやらまだ隠し玉があるらしいぞ」
「…何をする気だ」
「ゲネアー…」

そうスイカが言うとスイカの全身がビクビクと痙攣を始めた
そして、額が角が生え出した

「な…」

呆然としてる俺たちの目の前でスイカの身体が変化していく
いや、もう変化などというものではなかった
右腕はウネウネと動く大量の触手のままだが
左腕は巨大な刃と化し、口からは2本の牙がのぞいている

「グゥゥゥゥゥ…」
「…やべーんじゃねーかこりゃ」
「同感だな…」
「…俺は体内に何万という自ら作り出した虫を飼っている…
 普段は眠っているが起こすことも出来るし状況によっては俺が目覚めさせることもできる…
 …今俺の体内の虫すべてを目覚めさした」
「…なるほどな、そういうことか」
「俺の身体が傷つけばある虫が傷を癒す
 俺たちは共生しているんだ…」
「化け物が」
「…この姿を見た貴様らを生かしておくわけには行かないな…
 全力を持って、断罪してやる…」
「勝手になった癖に無茶を言うな」
「黙れ!!」

怒りに呼応するかのように
スイカの背中から何かが突き出てきた
本物の化け物じゃねぇかよ

「一旦退いたほうがよさそうだ」
「同感だ」

2言だけ会話を交わすと俺とほろにが一目散に逃げ出した

「逃げるのか貴様ら!!」
「あいにく化け物相手に正面切ってやりあう趣味は無いんでな!」

逃げ出すのは簡単だが保健室を襲撃されるのはまずいな
一度姿をくらました上で保健室を守れる位置に身を隠すのが妥当か
おおむねほろにがも同じ考えだとは思うが…


10/27(金) 夜明け

「術式…終了…か…」
「…命を奪うためだけに生まれた生物か…
 なのに…それ単体では生きていけないか弱さ…」
「哀れな…生物だ…」
「…後はお前の回復力だけだが…
 常人なら数ヶ月は動けはしないだろうな…」
「俺も…限界か…
 だがここで暴れてたまゆらを傷つけてしまえば元の木阿弥だ…」
「グゥッ…」
「しばらく…眠る…
 あとは任せたぞ…ゆき兄…」
「…」
「この人間…随分と…」
「まぁいい…起きろよ、たまゆら」
「わかるはずだ、黄龍の鼓動が…
 …究極の進化はいつも滅びの目前にある
 今のお前にならわかるはずだ、魂と肉体の境界を失い
 夢幻のようなか細い意識の中に唯一強く鳴動する黄龍の息吹を…
 それに触れた時、お前は真なる器となる…
 その時こそ…全てが…」

10/27(金) 同時刻

「もう夜明けか…」

あれからスイカと遭遇はしていない
運がいいのか、それとも向こうに本気で探す気がないのか
…たまゆらは大丈夫だろうか

「デェテ…コォイ…」
「…!」

廊下の奥から不気味な声が響く
もはやそれは人の声ではない
だがスイカの声だと直感的に理解した
ズルズル、ビチャッ、ズルズル、ズチャッと水分を含んだ何かが歩く音
…それと何かを引きずる音がする
そっと顔を出して覗いてみる、こっちは暗がりだから大丈夫なはずだが…

「!?」

思わず声をあげそうになり口を手で押さえる
引きずられていたのは剣三郎と黒やんだった
衝動的に飛び出しそうになった
だけど落ち着け、飛び出してどうなる
これはスイカの挑発だ、乗ったらいけない挑発に乗るわけには…
これが最善なんだ、激昂して飛び出せば相手の思う壷だ

だが心はざわめく、荒れ狂う波が押し寄せるように
…最善ではある
だけど…かっこわりぃな…
でもこれが現実なんだ、物語のように上手くはいかない
だけど…やっぱり…格好悪いな…
信じてた頃もあった…だがそれ故に俺は背負い切れない罪を…
繰り返さないためにも…ここで飛び出すわけには…!!

「酷い扱いだな、外見だけじゃなく心まで醜悪な化け物だな」
「…ほろにが?」

いつの間にか後ろにほろにががいた
スイカのほうをまっすぐ見つめていた

「なぁゆき兄、避けられる戦闘は避けるってのは理屈に敵ってるよな」
「…」
「…だけどよぉ、理屈や効率に縛られて自分の心を裏切るっては…
 なんつーか、馬鹿げてるよな」
「え…」
「俺は、心を裏切らない
 それでどんな不利益を被ろうともそれだけは絶対に無い
 今よぉ、どうしてもムカついてるんだ…アイツがな」

それだけ言うとほろにがは飛び出した
止める隙すらなく、ほろにがはスイカの前に立ちふさがった

「オマェェ…」
「よぉ、化け物」
「…ナゼ、キサマ…アルゴルヲハッショウシナイ…」
「ん~、そりゃあ…
 確固たる意思を持った人間を虫如きが操れるわけねーってことだろ」
「ナラ…チョクセツ…コロシテヤル…」
「やってみろ、化け物が」

心を裏切るのは馬鹿げてる、か
そうだな、そうだったよ
結局、逃げてるだけか、俺は
罪の十字架を背負った気になって自らを肯定していただけか
…心のままに、戦う…

「待てや、クソ野郎!!」
「キサマ…」
「ゆき兄、一緒にやるか」
「そうだな、一緒にやろうぜ」
「とはいえどうしたもんかって状態だよな
 銃弾すら効かねぇんだぜ?」
「微塵切りにでもしてやれば倒せるんじゃねぇか?」
「…乗ったッ!」

俺とほろにがスイカに向かって走り出す

「ナメルナァァァァ!!!」

スイカが左腕の巨大な刃を横薙ぎに振るう
受けるか?それとも…?
一瞬考えたが本能的に俺は飛んだ
ほろにがも同じ考えに辿り着いたようだった

「ケルコス!!」

スイカの後ろで何かが動いたと思ったその刹那
空中で、横から強い衝撃
さっきのときと同じだ…何かが高速で…
思考はそこまでだった
吹っ飛ばされた衝撃でほろにがを巻き込み、壁に叩きつけられる

「がっは…」
「ど、どけよ!」
「悪い…」

なんて悠長に話してる場合じゃなかった
正面ではスイカが刃を振り下ろそうとしていた

「まずい!避けろ!!」
「うおおっ!?」

飛びのくようにその場を避ける
刃はコンクリートに深く突き刺さった
避けて正解だったか、とても受けきれるような代物じゃないな

「ヌ…」

スイカの動きが止まる
コンクリートに突き刺さった刃が抜けないようだった
チャンスと思ったが俺たちが動くよりも早くスイカがあいている右腕をこちらに突き出した

「ダクテュロス…プース…」

右腕がほどける
そして大量の触手となり、こちらへ高速で向かってくる
全てを貪欲に食らい尽くそうと
幸い攻撃に転じていなかったお陰で避けることは簡単だった
転がるように直撃を避ける
だがスイカの猛攻は止まらない
引き抜いた左腕の刃が振り回される
あまりにも違いすぎるリーチが圧倒的不利な状況を招く
大振りな動きは避けることは出来てもそのリーチのせいで攻撃に転じることが出来ない
それはほろにがも同じなようだった

「クソッ!このままじゃラチがあかねぇぞ!!」
「わかってるけどどうすりゃいいんだよ!!」
「トラ、エタ」
「何ッ!?うおっ…!?」

スイカを挟んだ反対側でほろにがが転倒した

「馬鹿!?何やってんだよ!?」
「足に何かが…!?」

見るとほろにがの足には糸のようなものが絡み付いていた
糸はスイカの足から出ていた
まずい!これはやべぇ!!

「ほろにがぁぁぁぁぁああ!!!」

スイカを越えてほろにがに近づこうとするが
近づけない、スイカはこちらこそ見ていないが縦横無尽に動き回る触手が邪魔をする
切っても触手は減らない、むしろどんどん量が増しているようだった
まずい、このままじゃ…

「折角とっときのを取って置いてたんだがな」

絶対絶命の状況なのにほろにがはめんどくさそうに呟いた
この状況で何言ってるんだよ!?

「まぁいい、くれてやるよ
 極上の酒だぜ?」

ほろにがが、倒れたままスイカに向かって何かを投げつけた
パリーン!とガラスが割れる音がした
ビチャビチャと液体がこぼれる音がする
だがスイカは意に介していない
そしてほろにがに向かって左腕を振り上げた

「派手に燃えちまえ」

カチンシュボッと音がして
刃が振り下ろされるとほぼ同時に何かがスイカへと投げられた
だが刃が止まらない

「上半身が無事なら避けれるんだなコレが」

ドゴォォォン!と音がした
そして次の瞬間にスイカの身体が勢いよく燃え上がる

「ウォォォォォォォォ!!!!!?」
「火で焼き尽くすってのは基本だよな」

ほろにが上半身を捻って1撃を回避していた
火で怯んだのか足の拘束も解けたらしく立ち上がる
触手もすでに俺を狙っているというよりも暴れていると言ったほうが正しい
俺は剣を構えなおしてスイカに向かった
確かに半端な斬撃じゃあ効かないだろう、半端なら…

「うおぉぉおおおおおおお!!」

俺は勢いよく飛び上がった
渾身の力を込め、俺はある一点を狙い剣を振り下ろした
皮膚を斬り、肉を裂き、骨を砕く
殺意の1撃を全力で叩き込む
反発する力を力で押さえ込み、落下の力を込めて一気に押し返し
何かが飛び散る、意外にも音は無かった
ただ斬ったという感触だけが俺の手に残る
燃え盛るスイカの動きが止まる
動きを司る脳はすでに身体と繋がっていないのだから
俺の着地とほぼ変わらないタイミングで
ゴトン、と重い物が床に落ちる音

「はぁ…はぁ…」
「…終わった…か?」

スイカの身体は動かない
ただ燃えているだけ
俺とほろにが燃え尽きるまでそれをジッと見ているしかなかった
やがて火の勢いは衰え、黒こげになった物質だけが残された

「…」
「やるせねぇな…」
「仕方ないさ…」

そう、仕方が無い、仕方が無いこととは言えやるせない…
…いや、こういう汚れ役は俺がお似合いなのかもな
たまゆらには人は殺せない…

疲れ、やるせなさ、どうしようもない不快感
そういった様々な感情が頭の中を交錯する
すると突然身体に何かが絡みついた
そしてそれを判断するよりも早く、全身が締め付けられた

「くあっ!?」
「がっ…!?」

何が起こったのか、身体に巻きついているものは何なのか
そのままゆっくりと足が地面から離れていく
同時に全身にかかる圧力も増していく
メキメキと骨が軋む音がして全身に激痛が走る
俺を締め付けているのは黒く焼け焦げた触手の束
その大元もまた黒く焼け焦げたスイカの身体だった
ほろにがも俺と同じように虚を突かれて触手に捕らえられたらしい

「コイツ…!首を落とされてもまだ…!?」

必死に触手を引き剥がそうとするが異常な力で締め付けられ一向に引き剥がせない
それどころかさらに締め付けは強くなる
血液が逆流し、内蔵が押しやられる感覚
手から力が抜け、剣がカランと床へと落ちる

「…かはっ…」

意識までもが追いやられる感覚
まずいな…ここまでか…?
朦朧とする意識が俺の最期を教えてくれているようだった

その霞かかったような世界に足音が響いた
廊下を、ゆっくりと歩いてくる足音
誰か知らないけど、逃げたほうがいいと思うんだがな…
と、言ってもこの化け物の姿を見りゃ大抵の奴は逃げ出すわな
足音が、走り出したように変化した
逃げたか、ああ、当たりだ、こんなやつに突っ込む奴がいたら見てみたい
…あー、俺とほろにが、か

その瞬間、身体が楽になった
同時に地面に落下する浮遊感
軽い衝撃の後、自分から触手が離れているのを理解した

「何だ…!?」

どうして助かったのかわからない
だが助かったのは事実だ
そして視界に飛び込んできたのは信じられない光景
通常ありえない、その光景

「たまゆら…?」
「お前だけは…絶対に殺してやる…!!!」

スイカの身体の中心に、深々と黄龍鉄甲が突きこまれていた

「お前!?どうして動けるんだ!?」
「…やっぱりこれじゃ無理か」
「お、おい!?」

俺の問いには答えずたまゆらはスイカから距離を取った
そして胸の前に黄龍鉄甲をかざした
一呼吸置いて、たまゆらは叫んだ

「目覚めろッ!!!玄武!!!」

たまゆらの黄龍鉄甲が変形した
変形、いや、分裂と言うべきか
分かれた黄龍鉄甲は両肩を肩パッドのように覆い
残ったパーツは両手の甲を覆った

「お前だけは…!お前だけはぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ウゴゴゴ…」

スイカの身体が不気味は唸り声をあげる
そしてガバァッ!と肋骨が開く
胸部には縦に裂けた巨大な口と不規則に並ぶ牙ような物体
そこに向かってたまゆらは走り出す
突っ込む気か!?無茶だ!?
走り出したたまゆらめがけて牙のような物体が発射された

「避けろ!!串刺しになるぞ!?」
「避けない…!!」

その発言の通り、たまゆらは避けなかった
無数の牙が、たまゆらの身体に突き刺さる
生きていられるはずはなかった、なのにたまゆらは走り続ける
突き刺さったキバがガランガランとたまゆらの身体から落ちていく
信じられないことにたまゆらの身体に空いた穴は一瞬で塞がっていく
無数に乱射される牙をすべてその身で受け、たまゆらはスイカの目前に辿り着く

「押し流せ!!玄武浄撃重羅意拳!!」

たまゆらの右腕が縦に裂けた口の中に突きこまれた
そのまま、たまゆらは床を蹴った
バチュウッ!と嫌な音が聞こえたと思うとたまゆらは口の中に吸い込まれていった
否、食われたのではない、飛び込んだのだ
ブチブチブチッと何かを引き裂く音が聞こえる
そして、スイカの身体に穴が開いた
たまゆらが、スイカの身体を貫通したのだ
そしてスイカの身体がドロドロと溶け始めた
水の塊のようになり、徐々にその身体は崩れ落ちていく
ビシャビシャと大量の水となり
窓から差し込む朝日にキラキラと光り
最期には大量の水だけと化した…
あれだけの化け物が、あっけなくその命の終わりを告げた

「…たまゆら
 お前、どうして…」
「玄武の力…」
「あん?」
「よくはわからない…けどわかるのは…
 玄武の力の最大のポイントは異常な回復力なんだと思う」
「…異常な回復力ね」
「俺がカルディアで倒れてる時に何があったのかは…
 だいたいわかってるよ…」
「…何も言うな
 今はとにかく…休もうぜ…」
「…」


10/27(金) 午前

「スイカの気が…
 消えて…いや、消えてはいない…がか細くなった」
「…やられたと…言うのか?」
「…」
「アルゴルも消えるはず…
 これだけ弱れば…楔としての役割も…」
「いよいよ堕人の進行が始まる」
「もう、後戻りは…出来ないか」


10/27(金) 同時刻

「朱雀、白虎、青龍、玄武
 四方を守る聖獣は全て揃った…」
「…もはや真なる目覚めは目前
 そして奴はもはや息吹に触れた」
「楔…いや、封印もあと1つか
 それで俺の役割も終わる」
「楽しみだな、たまゆら
 これからもっともっと面白くなるぜ…
 俺にとっても…お前にとっても…そしてお前を取り巻く全ての人間にとっても…な」



14.5限目 - 絶望の中の希望 -




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最終更新:2009年11月01日 03:03