アットウィキロゴ
 

邪眼学園黄龍譚16限目【決着】


11/12(日) 深夜

校舎の裏、そこにある茂みの中でガサガサと動く者
不定形の卵塊のようなソレはビクビクと小刻みに震える
そして、一部に亀裂が走る
亀裂から出てきたのは、人の腕
続いて頭がゆっくりと這いずり出してくる

「くぁぁぁ…!!!」

ビチャッビチャッと水気を含んだ音が周囲に響く
やがて卵塊はその形を崩していく
後には這いずりだした男だけが倒れていた

「再生蟲を仕込んでいなかったら生きてはいなかった…
 まさかここまでこの俺が…追い込まれるとは…!!
 クソッ…!クソがッ…!!!次こそ必ず…!!」
「野心、憎悪、憤怒、狂気、そして…絶望」
「誰だッ!!」
「心地いいな、その衝動…」
「貴様は…!?」


11/14(火) 深夜

土砂降りの雨が降りしきる中で
俺と白やんは互いに肩で息をする
荒れた呼吸は静まらず、心臓の鼓動は張り裂けるように早い

「最初に会った時とは…
 まるで別人のような強さだな…
 この短期間で…何が貴様を強くした…」
「俺は…!」

ビシャと、足元の水溜りの水が跳ねた
踏み出した足が塗れた地面を蹴り出し、湿った土を蹴り上げる
白やんの持つ鎌が怪しく揺らめく
それが合図。
堰を切ったように刃が煌き、刃に産み落とされる白い輝き。
白やんが駆け出しても光は動かない、ただ刃を白く光らせ続ける。

「終わりだ、最後の楔は必ず俺が守り抜く」

白やんが鎌を振るった。
無数の輝きが、一斉に風を裂いて飛ぶ。
その先には俺、飛来する輝きは圧倒的速度の化身。
視界が、真っ白に染まっていく


11/13(月) 朝

「ふぁ~あ…」

朝の日差しを身体に受けて目を覚ました
もっと寝ていたかったが…そうもいくまい
昨日あれだけのことをやったのに代休も無いなんてな…
幸い筋肉痛にはなっていない、戦いの賜物かな
出来ればもう戦いはゴメンだ
けれどそうも行かないだろう
まだ白やんという最大の敵が残っている。
だけどそれさえ乗り越えれば全てが終わる
約束も果たせる、60年前のあの場所での約束も…
…色々あった、けれどやっと終わりが見えたんだ
必ず、白やんを倒そう

「って考えてる場合じゃなかった
 とっとと用意しないと」

俺は服を着替えて
カバンを持って学校へと向かった
教室は学園祭の翌日だと言うのにいつもより騒がしい
そう思っていると皆が近づいてきた

「おいおい、たまゆらすげーなお前!」
「え、何が…?」
「昨日のバトルロワイヤルだよ!
 優勝は出来なかったけどお前滅茶苦茶強いじゃねーか!」
「不覚にもかっこいいと思っちまったぜ!」
「そ、そうかな」
「もっと自信もっていいと思うぜ!」
「そうそう、見直しちまったぜ!」

皆に褒められていい気分になりながら席についた
しばらくしてリカが登校してきたが俺と同じように昨日のバトルロワイヤルについて話されていた
そういえば今日はゆき兄は来ていないか…
遊び疲れたのかな

11/13(月) 午前

酷く、眠い
なんだろうな、たっぷり寝たはずなのに
先生の声があまり頭に入ってこない。
朦朧とする意識を必死に現実に留めようとする
だがこういう時はいくら頑張っても眠気には抗えない。
目を閉じ、一瞬意識を失い、気がつくと目を覚ます。
それを何度も何度も繰り返していく…
そういえば前もこんなことがあったな
確かあれは、そう、姫に夢の世界に誘い込まれた時…








さやさや、さやさやと細い音が俺を包んでいた。
触れ合う葉と葉が風に唄う。
葉…?

「!?」

飛び起きて周りを見渡す。
一面に広がる緑、大海を思わせる広々とどこまでも続く草原。
空は青く、小さな雲が流れていく。
ここは…また姫の夢か?
しかし前に来た時と比べて随分と…違う。
陰鬱だった空気を一掃され
とても気持ちがいい、春の日のような暖かい日差しに照らされ。
吹き抜ける風によって草が唄を奏でる。
とても、暖かな、夢だ
突然、一際強い風が吹いた。
ざあっと、草が音を立てて大きく揺れる
後ろから声が聞こえた。

「たまゆら君…」

姫の声だった
俺は振りぬいて聞いた。

「…またやる気なの?」
「違うよ、ちょっと話があってさ」
「わざわざ夢に呼び出さなくてもさぁ」
「ごめん、ごめん、自分のクラス以外にはなんとなく行きづらくて…
 特に下級生の教室になると」

共感はできるな、確かに下級生の教室って入りづらい
敵意も無いようだし俺は黙って話を聞くことにした

「それで話って?」
「…会長が、いよいよ動くみたい」
「…」

覚悟はしていた、思ったよりも遅いぐらいだ
猶予をくれた、ということだろうか
しかしやはり実際に事実を突きつけられると動揺が全身を駆け巡る。

「多分、近いうちに何かしらのアクションはあると思う
 それが今日か、明日か、明後日か、その次かとか詳しいことはわからないけど」
「…そっか」
「…怖くは、無い?」
「怖いさ…ずっと怖い…いつもいつも怖くて怖くて逃げ出しそうだ
 それでも逃げ出さないのは…支えてくれる人たちがいるから
 それに逃げるのはもうやめた」
「そっか…」
「伝えてくれてありがとう」
「どういたし――!?」

姫が驚愕の表情を浮かべると同時に周囲の草花が一気に枯れ果てていく
空はゆっくりと青から赤へと景色を一変させていく

「夢が…干渉を受けてる…!?
 現実…からじゃない…同じ夢…無意識の世界から来る強い力…!!」
「ひ、姫!?」
「あ…駄目…夢が…弾ける…!!!」

ぱん、と音が周囲に木霊した
同時に夢が収束し、小さな塊となる
その小さな塊に内包された俺。
頭の中に無数の景色が飛び込んでくる
早回しのビデオを見ているみたいにあらゆる景色が高速で移り変わる。
目をつぶってもそれは消えることはなく瞼の裏で展開される無数の景色。
やがて世界は真っ白になった。
目を開けても真っ白、閉じても真っ白。一点の曇りも存在しない純白の世界。
そして俺の前に人が立っていた。
正確には男がどうかもわからない、光の集合体が人の形を成してるだけだった。

「強制転移は骨が折れるな」

全方向から包むように響くその声。
その声から目の前にいる奴は男だと判断した。

「お前は…誰だ…」
「ある意味ではお前に最も近く、最も遠い者、と言えばいいか」
「謎かけやってる暇はないんだよ!
 ここはどこだ!姫はどうした!」
「ここは俺の世界、無意識下に作り出された空虚の空間
 同じ無意識下に存在する夢の世界にいたお前を引きずり込むために構築された空間」

淡々と質問に答える、その存在
話は出来るようだ…

「あの女は別にどうもなっていない
 ただ夢に穴を開けただけだ、今はただ眠っている、もしくは目が覚めているか」
「…俺を招待してどうするつもりなんだ?」
「それはゆっくり話そう
 座るといい」

フッと目の前に椅子が現れた
まるで王様が座るかのような豪華な椅子だった
罠か、それとも…?
どっちにしろ、よっこらせと座るわけにはいかない

「このままでいい」
「…では話を進めようか
 だいたいの事情は理解しているが故に聞きたいのはたった1つ」
「何だ?」
「君はどうあっても生徒会長、白やんを倒すつもりか」

こいつはなぜ知っている?
やはり生徒会に関わりがある人間?
それとも堕人か?もしくは黄龍の意思と言っていた天下の仲間か?
何にせよ俺の答えは決まっていた

「倒す」
「…なるほど、いとも容易く言い切れる程の強い覚悟か
 ではどうしてそこまで?一般生徒を守るためだけか?」
「…約束だからだ
 俺は堕人を完全消滅させなくちゃいけない」
「…」

光の塊は黙ってしまった
何かを考えてるようにも見えるし
ただ沈黙しているだけのようにも見れる

「…まぁいい、状況がどうであれ私がお前に希望を見出したのは事実だ」
「希望?」
「だが人の心は脆い
 脆弱で、繊細で、危うげ…
 しかし事実の否定は許さない
 お前が為すこと、そしてそれによって起こる事実を決して否定はするな」
「似たようなことを前にも誰かに言われたような気もするな」
「私が君をここに呼んだのは状況と君の意思の確認だ
 白やんが勝てば学園はこれからも何も変わらない
 君が勝てば学園に長い時をかけて施された闇を打ち崩す可能性はある」
「用件が済んだならそろそろ開放してくれないか?」
「いいだろう
 だが忘れるなよ…何が起ころうとも決してそれから目を背けるな」

その言葉を最後に世界にポツポツと黒い染みが広がっていく
あっという間に純白の世界は黒に包まれた
完全な黒に包まれた世界、もう声も聞こえない

「うわぁ!!!」

叫び声と共に飛び起きた俺の視界に見慣れた光景が移っていた
白い天井、白いカーテン
シャッ!とカーテンが開いてこれまた見慣れた顔

「起きたか」
「あれ…ヤチャ…保健室…いつの間に?」
「授業中にいきなりぶっ倒れてここに運びこまれたんだよ
 普通に爆睡してるみたいだったから過労と思って寝かせておいた」
「…」

記憶ははっきりしていた
姫に夢に誘い込まれて話を聞いた後に突然何者かに姫の夢から引きずり出されて
状況確認されて事実を決して否定するなと言われた
夢か現実なのか…よくわからない、夢は夢なんだろうけど


11/13(月) 昼休み

昼休みなったところで俺は保健室を後にした
教室に戻るとリカが近づいてくる

「大丈夫だったの?」
「なんとかね…」
「やっぱり昨日のバトルロワイヤルが尾を引いてる?」
「いや…そういうわけじゃないんだけどね」
「…本当に大丈夫?」
「大丈夫だって」

心配そうな顔で覗き込んでくるリカ
笑顔でなんとかごまかそうとする俺
しばらく後、リカは顔を離した

「…お弁当食べる?」
「うん」
「じゃあ屋上いこっか」

リカは自分のカバンからいつものように3人分の弁当箱を取り出した
とりあえず、ごまかせたんだろうか
ゆき兄がいないのはしょうがない
俺とリカは2人で屋上に上がった
広げられたお弁当をつつきながら、時間が過ぎていく
…俺は、この時間を守りたい
だから、戦うんだ…

「ねぇたまゆら君」
「ん?」

顔をあげるとリカがこっちを見ていた
不安そうな顔

「な、なに…?」
「もうすぐ、最後の戦いなんだよね」
「え…」
「…ちょっと考えれば私にだってわかるよ」
「そう…だね…」

返す言葉が見つからず俺は黙ってしまった
リカも同じように沈黙を続けてる
気まずい…

「そうだ、あのね、昨日の写真、写真部に頼んで即効現像してもらったんだ」

そう言ってリカは懐から1枚の写真を取り出して俺に渡してきた
花火をバックに、俺とゆき兄とリカ、カナ、ヤチャマル、ほろにが
なんだか気恥ずかしいな
じっと写真を見つめているとリカが呟いた

「…勝てるかな」
「…正直わかんないな」
「そうだよね…」
「戦う前から勝ち負けを考えるな」
「え?」

頭上に影
影の主はタンッ!と屋上に着地する

「寒くなってきたとはいえ屋上サボりはやっぱ気持ち良いわ」
「ゆき兄…」
「たまゆら」
「何?」
「あれこれ考えるより、戦え、そんで勝て
 白やんが相手なんだ、無駄なことを考える余裕なんて無い」
「…」
「あらゆるパターンを想定して勝負に挑むのは秀才だ
 だが最良を越えた計算外のパターンを弾き出すのが天才
 秀才は天才には勝てない、生まれもった脳の差だ」

ゆき兄が指を銃の形にしてこめかみに当てる
ニヤリと笑ってさらに問う

「頭の中にあるたったこれだけの器官が全てを決める
 絶対的な天運、それが必要不可欠
 そして白やんは間違いなく天才の部類」
「…」
「天才にあれこれ考えて挑むと負ける
 だけど、天才をブッ倒す奴もいるんだ」
「それは?」
「馬鹿だよ、馬鹿だけが唯一天才を討てる」
「…はぁ?」

リカもよくわからないというか呆れたような顔になっている
かまわずにゆき兄は続ける

「馬鹿は何も考えない
 何も考えないってのは全てだ
 そこにあるのは無限のパターン、それは時として天才すら凌駕する」
「言ってることがよくわからない」
「ま、そうだろうな
 わかってたほうが驚くよ」
「お前…」
「悩むなってことだよ
 あーあ、腹減ったな、まだ余ってるか?」

ゆき兄はお弁当の残りをつまみ出した
悩むな、か
難しいな、悩むなってのも…

「あ」

間の抜けた声でウィンナーを口に突っ込みながらゆき兄が言った

「悩むなってのと思考停止は違うからな」

余計ややこしくなった…
頭がこんがらがる
俺はめんどうくさくなって深く考えるのをやめた
クックックと押し殺した笑い声が聞こえた

「それでいいんだよ」

ゆき兄はそう言っておにぎりを口に突っ込んだ
今日はいつにもましてよくわからないなコイツ…
しばらくゆき兄はそのまま食べ続け満腹になったのか大きなあくび

「それじゃ俺はまた適当にどっかで…」
「授業出なさいよ!」
「…気がむいたらな!」
「コラ!待て!!」

走って逃げ出すゆき兄と追いかけるリカ
あっという間に2人の姿は屋上から消えた
また置いてけぼりのパターンか…
すると突然、ガァン!!と屋上に音が響いた
驚いてドアのほうを見る

嘘だろ?
こんなに早く?

「白…やん…」
「…」

返答は無く
コツ、コツ、と足音を響かせながらゆっくりと歩いてくる
まずい、武器は今持ってないぞ!!
コツ、と白やんの足が止まる
目が合った瞬間、全身を稲妻が駆け巡ったかのような衝撃
今までの白やんとは違う
酷く危険な揺らめきを携えたその目は直視することもままならない
だけど目が離せない
まるで蛇に睨まれた蛙のような状況
ぞくりと背筋に冷たいものが這いずるような感覚
呼吸が乱れ、口の中が乾く

「…これが俺だ」

威圧的、そして誇り高い、全てを統べる者の声

「俺は死の塊
 イメージなどとは比べ物にならない、質量を持った死の具現」
「はぁ…はぁ…」
「明日…いや正確には15日の深夜0時
 時計塔の前に来るといい
 決着をつけよう」
「…明日…」
「…」

白やんは踵を返し、来た時と同じように
コツ、コツ、と足音を立てながら屋上から去っていった
その姿が完全に視界から消えた時
俺はその場にへたり込んでしまった

11/13(月) 放課後

憂鬱な気分なままなんとなく保健室に足を運んで見る
ヤチャマルとほろにががわんこそばを食っていた

「ふがははは…21杯目だ…」
「19杯目…!」

…毎度のことながらこの2人は何をやっているんだろう
ほろにがが勢いよくカパァン!とお椀を机にたたきつけた

「ぶはぁー!もうそばがねーよ」
「クソッ…負けた…
 ん、たまゆら、いつからそこにいた?」
「今だけど…何やってんの?」
「大量のそばが手に入ったからどうしようかと悩んでたら
 ほろにがが来たからわんこそばの食い合いでもしようと思ってな」
「いやー、最近マトモな物食えることが多くて何よりだ
 …あん、どうした浮かない顔して」

ほろにがが指さしながら問いかけてくる
浮かない顔か…確かに今の俺はしてるんだろうな
ゆき兄は勝ち負けを考えるなとは言われたが…
正直勝てる気が全くしない
ほろにがとヤチャマルにぽつりぽつりと俺は話し始めた

「…もうすぐ最後の戦いなんだ」
「へー」
「でも正直勝てる気がしないんだ」
「ふーん」
「…真面目に聞いてる?」
「お楽しみポイントも何も無い愚痴なんて聞きたくねーやい」

そう言ってほろにがはそっぽを向いてしまった
こいつに話した俺が馬鹿だった
呆れているとヤチャマルが俺に聞いてきた

「んで、勝てる気がしないからどうするんだ?
 助っ人でも頼みにきたのか?」
「助っ人…いや、そんなんじゃないよ」
「…気持ちはわかるが、それなら何もしてやれないな」
「そーゆーことだ
 腹決めて戦ってこいや」
「…そうだね」
「話して楽になれるのなら話すといい
 それも一応保険医の仕事だしな」

話して楽になるか…
…でも解決にはならない
俺は静かに首を振った

「…そうか、まぁゆっくりしていけ
 茶でも飲むか?」
「ヤチャマル、俺こぶ茶」
「お前にはボーフラ入りの水で充分だ」
「さすがにボーフラ入りはなぁ…」

少しだけ、ほんの少しだけ気が楽なった
覚悟っていうか、腹をくくったというか、どうにでもなれと思ったか
いずれにせよ、少しだけ気持ちが和らいだ
明日、全てが終わる…
この長い戦いに決着がつくんだ…

11/13(月) 深夜

暗い校舎の中に響く足音
足音の主、邪眼学園生徒会長、白やん
静かな殺意を秘めたその目
見据える先は暗い廊下の奥
その手には白い大きな剣
カツン、と一際大きい音が辺りに響き渡る

「…見つけたぞ」
「これはこれは…」

相対するのは、仮面を被りし悪魔
その名はノスフェラトゥ
目の奥の殺意を揺らし、白やんが言葉を紡ぐ

「もうお前を放っておくこともできなくなったのでな」
「…クックック…それはまた…」

仮面の奥から響く、くぐもった笑い声
長い鉤爪をゆらゆらと揺らすノスフェラトゥ
逃げる気配など微塵も感じさせない

「お前が何を考えているのかはわからない
 だが間違いなくお前の目的は俺達に取っていい結果にはならないはず
 たまゆらと決着をつける前にお前を仕留めておかないと安心して戦いに望めないのでな」
「…クックック」
「斬り払え、狂刃ホワイトジョーカー」

その言葉と同時に剣が変形しその形を鎌に変える
しかしノスフェラトゥは動かない
沈黙の後に、言葉を発する

「…どうやら、逃がしてはくれないようだねぇ」
「気づいたか、周囲には強烈な陰の結界
 堕人は入ることも出ることも許されない」
「やるしか…ないかぁ…」
「安心しろ、一瞬で消し去る」

白やんが一気に飛び込む
白い大鎌が一気に振り抜かれる
その狙いはノスフェラトゥの首

「ヒャヒャッ!!」

バサァッ!と黒いマントを翻しノスフェラトゥが飛び上がる
ありえない反応速度
だが白やんは眉一つ動かさずに斬撃の方向を変える
刃がマントを抜ける

「…浅いか」

パサッと地面に落ちるマントの一部分
ノスフェラトゥを斬ることは出来ていなかった

「…どうやら今度ばかりは本気のようだなぁ…
 仕方ない…なるべくなら避けたかったが…」

ノスフェラトゥは天井に"立っていた"
ぶら下がっているというようなことではない
まるでそこだけ重力が反転したかのように両足で天井に立っていた

「…お前の能力は…」
「人、いや、地球の物体全てが生まれながらに晒されている力を知っているか?」

問いかけながら、ノスフェラトゥは白やんから少し離れた場所に着地する
白やんは表情を崩さず、冷静に問いに対する答えを述べる

「…重力制御、それがお前の能力か」
「さすが生徒会長サマ
 理解が早い」
「なるほど、厄介だな」
「ククッ、それが厄介って顔かねぇ…」

白やんは無言で大鎌を構えノスフェラトゥへと向かう
一歩一歩がまるで跳躍
瞬時に間合いを詰めていく

「ヒャハッ…」

ノスフェラトゥの笑い声
刹那、白やんの足が地面から離れる

「!」
「串刺しだぁ」

制御を失った白やんの身体
向かう先はノスフェラトゥの鋭い鉤爪の先端
貫かれる瞬間、火花が散る
後ろへと吹き飛ぶ白やん、足と指で地面をこすりながら着地する
体勢を崩しよろめいたノスフェラトゥが仮面を抑えながら後退する

「…反応速度、判断力、覚悟、どれを取っても最上だなぁ…」
「俺は生徒会長だからな」
「…だがこれでわかったろぉ…
 俺には勝てない、刃を引っ込めろ」
「笑えない冗談だ…
 …だがこのままでは勝てないのも事実か」
「ククッ、物分りがいいことで…」
「なら、技を変えようか」
「…何?」

白やんが大鎌を回転させ始める
高速の回転が風を呼ぶ
吹き荒れる風がノスフェラトゥのマントをはためかせる
そして勢いを乗せたまま白やんが鎌を振るった
当然ながら届くはずがない
しかし白やんの鎌の刃からガキン!と音が響いた
音を合図に、刃の中心部分が割れた
鎖に繋がれた先端がノスフェラトゥへと高速で向かう

「まさかの仕込み鎌かぁっ!!」

ノスフェラトゥが飛び上がる
鎌の先端は数秒前までノスフェラトゥが立っていた地面に突き刺さる
繋がれた鎖がジャラジャラと音を立てる
次の瞬間、鎖が物凄い勢いで先端に巻き取られ始める

「こいつ…!鎖に引っ張られて…!」
「これなら重力は関係ないだろ?」

白やんはノスフェラトゥの真下
握られている白い大鎌
ノスフェラトゥは身動きが取れない

「消えろ、堕人」
「待っ…」

言い終わりを待たずに回転するように振るわれた大鎌
その刃は縦にノスフェラトゥの身体を切り裂いた
鮮血がほとばしり、刃を紅に染める
だがそれで終わりではなかった
縦に振るわれた鎌は斜めの軌道を描き
勢いが衰えぬまま、今度は横にノスフェラトゥを切り裂いた

「…げっ…はぁ…!!」

ピシッ!と音を立て
ノスフェラトゥの仮面に亀裂が入った
白やんが鎌を投げ捨てる
ガァン!と音がして硬い廊下に刃が突き刺さる

「砕けろ」

白やんの右拳がノスフェラトゥのヒビの入った仮面に叩きこまれた
破砕音、そしてノスフェラトゥの仮面が、砕けた
勢いよく後ろにぶっ飛んだノスフェラトゥは背中から地面に叩きつけられた
そしてピクピクと短い痙攣を繰り返し
やがて動かなくなった
着地した白やんは動かなくなったノスフェラトゥにゆっくりと近づく

「…こいつは…!?」

仮面の下の顔
気絶しているその顔
それは間違いなくこの学園の生徒
名前は、小川
たまゆらに七不思議について繰り返し教えてきた小川

「…ノスフェラトゥは堕人ではなく…人だったと…?
 なら…同胞という言葉は一体…」

小川は何も語らない
ただ意識を失い、横たわっているだけだった…

11/14(火) 昼休み

「そんじゃま、パーッとやっか」
「うっうっ…焼肉なんて久しぶりだ…」
「泣くなよ…」
「はい、いっぱい食べてねたまゆら君」
「いいのかな、保健室で焼肉なんて」
「構わん」
「主がこう言ってるからいいんだろ」
「誰だよ!!俺のカルビ食べたの!」
「っせぇ!まだ一杯あんだからいいだろ!!」

前祝い、とでも言うのか
今日の昼は保健室に集まって焼肉となった

「うぃー、酒も久しぶりだ」
「ほろにがぁぁぁ!それは俺が隠しておいた取っときの!!」
「にぎゃああああ!!」
「ぎゃはははは、ほろにがの目玉が飛び出した!定規もってこいよ定規!」

騒々しい…
このメンツが集まるとどうしてこう騒々しくなるんだ
でも…楽しいからいいか
不思議と、笑顔がこぼれる

「楽しいか?たまゆら?」

ゆき兄が横に座る
俺は頷いた

「そうさ、それがお前の戦う意味だったろ」
「…ああ、そうだね」

守りたいのは、これなんだ
この日々を、この楽しい日常を、守りたいんだ
誰かのためとかじゃなくて
ただ俺はこの日々を守りたいんだ

「忘れるなよ、絶対」
「…ああ」
「…そうだ、これ、やるわ
 手、出せ」
「え?」

言われた通りに手を出すと硬い物を握らされた
それは、眼球をあしらったペンダント
…趣味悪いなぁ

「何これ?」
「神楽君に頼んで作ってもらったんだよ
 効果も何も無いが…俺は気に入ってる」
「へぇ…」
「やるよ」
「…もらっとく」

俺はペンダントを握り締めてポケットへと入れた
それを見たゆき兄は小さく笑って立ち上がった
そしてそのままドアのほうへ

「どこいくの?」
「ヤボ用」
「珍しいな」
「…悪いな、今日は加勢には行けそうにねーや」
「大丈夫、なんとなく1人で決着をつけようと思ってたから」
「…そっか」
「圧倒的に不利なはずなのに…何でだろうね」
「…お前ならきっと勝てるさ
 お前は…強い」
「…なんかむずがゆいな…ゆき兄に素直に褒められると」
「それじゃ…俺、行くわ…
 じゃあな、たまゆら」
「あ、うん、いってらっしゃい」

ゆき兄はゆっくりとドアを閉めていった
またもや珍しいな、普段ならドアを足で無理やり閉めていくのに…

「おい、たまゆらー
 早く食わないと肉がなくなるぞー」
「お、おい!まだ全然食ってねぇよ!!」
「フハハハハ!タンは全て俺の胃袋の中だ!」
「この野郎!!!」

守るんだ、勝って、絶対に
白やんがどれだけ強かろうとも俺は絶対に負けるわけにはいかない
黄龍鉄甲も何も関係ない
これは俺が始めた、俺の戦いなんだ
ここまで来た以上、絶対に勝つ、勝たなきゃいけないんだ



.

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年11月01日 03:10