邪眼学園黄龍譚17限目【闇集結】後編
11/15(水) 夜
日が落ち、暗い夜に包まれた校庭
そこに集まる、力たち
風が吹く、ごうっと音を立て、まるで生物のように校舎が鳴動する
否、鳴動したのは校舎ではない
校舎から溢れ出るように蠢く闇、堕人
その闇、全てを埋め尽くすかのような数
絶対的な黒の中に浮かぶ白い顔、仮面
"笑う"という感情だけを残し作られた仮面
真なる顔を覆い隠し仮初の顔を常に映し出す
ノスフェラトゥ、全ての敵
大きな声が響く、獄の底より響くような声
「実に盛り上がる!!
まさに最後を飾るに相応しい舞台だ!!!
クックック、キヒャッハッハッハッハ!!!」
狂ったように笑い声をあげるノスフェラトゥ
楽しくて楽しくてしょうがないと言うように
無防備にただ耳障りな声で笑い続ける
白やんが一歩前に出た
「笑っていられるのも今のうちで
今日この時を以って貴様ら堕人は全て殲滅する」
「ヒャハッ…」
ノスフェラトゥの笑い声が止まる
そして仮面を爪の先でカン、カンと叩く
「…堕人は、悪か?」
「何?」
「立場が変われば悪も正義も逆転する…
俺達からすれば…」
ノスフェラトゥは淡々と抑え場の無い口調で続ける
後ろで蠢く大量の闇もさきほどまでとは違い静かに鳴動している
「…恋人が死に事実を認めたくないが故に闇を振るった者
破壊を憎むあまり何よりも完全な破壊者になった者
嫌われたくないから意思を操り都合の悪いことを排除していた者
絶対的な正義を盲信したが故に全てを力でねじ伏せた者
空虚な思想で何も考えずただ現れる者を潰していく者
己の力を更に高めるため仮初の正義に身を委ねた者
力に溺れ力を誇示するために戦い続けた戦闘飢餓の者
恐怖に怯えるあまり濁りきった闇に落ちた者
自ら戦う手段を持たず狡猾に相手を絡めとる者
全てを信じず力を持て余した悪魔の思想を持つ者
…根本的な解決にならないと知っていながら全てを停滞させ腐らせた統治者
醜い、醜い、醜い、醜い、醜い!!!!!!
それに比べて我らのなんたる純粋なことか!!
虚飾や思想に縛られることなくただ純粋に1つの物をただ求め続ける!!
本能が!衝動が!生きろと!生物としてあるべき姿に戻れと突き動かす!!
それをなぜ!なぜ!なぜ!なぜ!なぜ!!
いともたやすく心を蝕まれる貴様達が邪魔をする!!
弱者弱者弱者弱者!!!脆い脆い脆い脆い脆い!!!!
吼えるしか能が無い牙を抜かれた野良犬の分際で!!!!」
ノスフェラトゥの声は完全な狂気
聞くだけで吐き気を催すような、狂った声、存在してはならない声
「違う!!」
俺は叫んだ、腹の底、心の底から
全身全霊を以てノスフェラトゥを否定する
狂った叫びは俺に問うた
「何が違うという!?
お前は見てきたはずだ!!
戦いの中で薄っぺらい正義に隠された渦巻く人間の悪意!欲望!狂気!」
「皆怖いだけだった!自分を失いそうな恐怖の中でただもがいていただけだ!!
お前のような奴がわかったふうな口を聞くな!!!
人は迷う、だからこそ人であれるんだ!
決して一人では存在できない未完成な光と闇の間に産み落とされた孤独な存在…でも
だから寄り添う!だから戦う!迷って迷ってあがいてあがいて、最後には手を取り合えることを信じて!!
そして今ここにいる皆が俺の答えだ!!
思想も何も無くなったお前らなんて本当の化け物だ!!」
「化け物…違う違う違うちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!!
我らこそが最も純粋な生命!!どんな生命も決して敵うことはない!!
もう議論も飽きた!!八つ裂きにしてやるぁぁぁぁぁぁ!!」
もはや声になってはいない、ノスフェラトゥの雄たけび
闇が、蠢く
収束、そして拡散
闇の塊はその姿を散らし無数の堕人を化していく
肩に誰かの手が置かれた
振りぬくとしげるがいた
「…行きましょう、一緒に
僕はもう、貴方と手を取り合える」
「しげる…」
「俺もいける、阿部さんのことは許したわけじゃないけどさ
今はそんなこと考えてる余裕も無いだろ?」
「えび助…」
「私もきっと出来る
大した力は無いけど無いよりはマシでしょ?」
「桃花…」
身体に伝わる温もり
「僕はこれが本当の正義だと思う
…正義の味方は1人じゃない、必ず仲間がいる」
「透過…」
「迷いが無ければ、剣の切れは冴え渡る…
今ならきっと鋼鉄ですら両断することが出来る」
「剣三郎…」
「空虚な思想だなんてな…
ムカつくよ、あの仮面野郎、全員串刺しにしてやる」
「黒やん…」
温もりが、力に変わる
想いが、流れ込む
「…これ終わったらもっかい俺と戦ってくれよ
今度は…普通に殴り合いで」
「雷雲…」
「僕はあの時からずっと信じていましたから
たまゆらさんは間違ってないって」
「蝶…」
黄龍鉄甲、想いを受けて輝け
深淵の闇ですら眩く照らす金色の光を
「さてと、いよいよだな
腕がなるぜぇ」
「ほろにが…」
「まさか決別したはずの過去に自ら舞い戻るとはな…
だがもう心無い鬼では無い、鬼が振るう力は守るための力」
「ヤチャマル…」
俺の前に出る白やん
顔は見えないが、その後姿に気圧されるような威風
「…ずっと、迷っていた
本当の正義は何なのか…
…もう迷わない…互いに手を取り合う…それだけでこんなにも心は安らげるんだな
差し伸ばしていなかったのは俺のほうか…」
「白やん…」
「こぉぉぉぉぉぉろぉぉぉぉせぇぇぇぇぇぇ!!!」
「来るがいい!堕人ども!!
手を取り合うことが出来る人の本当の力を見せてやる!!」
ノスフェラトゥの耳を劈く絶叫
そして雄叫び、意思を持たぬ本能の群れ
襲い来る、圧倒的な闇
「来るぞ!!1匹残らずブチのめせ!!!」
「「「おお!!!!」」」
吹き荒れる嵐の風のような闇がこちらに向かってくる
迎え撃つ、仲間達
しげるの目くらまし、えび助の全方位爆撃、桃花の音の力での感覚汚染
透過の弾幕、黒やんの鋼鉄の羽根、剣三郎の一刀両断
痛みを引き受け堕人に叩き返す雷雲、1撃の下に大地を砕き堕人を砕く蝶
それぞれが持てる力を振り絞り目の前の堕人を倒していく
次々と黒い霧となり霧散する堕人
だがそれを上回る速度で仲間の死骸とも言える黒い残滓を掻き分けてくる本能の闇
それでも俺達は引き下がらなかった
揺るがない覚悟『1匹たりとも堕人をここから先に行かせない』
覚悟を背負った強い力が激流の如く全てを飲み込み押し流そうとする闇を押し止めていた
殲滅の意思、自分たちの居場所を守ろうとする意思
確かに人の心は脆弱で、繊細で、危うげで容易く心を闇に落とす
でもそれ故に、何かを強く信じれたのならそれはきっと…
きっと、闇を撃ち払う力になる!
堕人の残滓、宙に漂う黒い霧が歪む
そして歪んだ空間を砕くように現れる者
血塗れの包帯、蜘蛛の目、恐怖の具現
上級堕人、鬼哭
「クカカカカカッ!!
これだ!これこそが俺が求めていた戦場!!」
「きこぉぉぉぉぉぉぉぉぉく!!!!」
追いすがる下級堕人を振り切って
ほろにがが鬼哭に向かって走り出した
それを見た鬼哭が笑ったような気がした
包帯の下で、楽しそうの
そして逆側で地面から何かが飛び上がった
しなやかで流れるような長い天に舞う黒髪
微かな月の光に照らされる冷たく輝くその肢体
風を受けはためくスカート、戦場には似つかわしいその姿
跳躍距離、ざっと2メートル
上級堕人、哀哭
「殲滅します」
宙に舞った哀哭の両手の袖口から黒い光が放たれる
だが光と光が衝突の寸前
哀哭より更に高く飛び上がる影
そして哀哭の頭上に振り下ろされる足
ごきん
嫌な音が周囲に木霊する
凄い勢いで地面に叩きつけられる哀哭
だがまるで痛みなど感じてない素振りですぐに立ち上がる
その目は自分の邪魔をした者に向けられていた
ガラスのような瞳に憎悪の炎を燃やして見つめいる
「戦うメイドさんか…個人的には好きなんだけどな
…でも今回は鬼面夜叉の力、見せてやるよ」
頭上から風を切り裂く不気味な音
4本の剣を周囲に回転させながら舞い降りる闇
その着地地点にいた下級堕人が一瞬のうちに黒い霧と化す
肉のようなものが切り裂ける音、骨が力任せに砕かれるような音
巻き起こされた風が黒い霧を舞い上げその中心に佇む者
上級堕人、慟哭
「人如きがどこまで足掻けるか、見物だな」
慟哭の後ろ、闇の中から右手で下級堕人の頭を掴み現れる影
投げ捨てられた堕人はその姿を霧散させる
武器を失ってもなおその力は衰えない
それこそが邪眼学園生徒会長の真なる強さ
「…お前は俺によく似ている」
「武器を失った人如きが我と並ぶつもりか?」
徐々に押し返されてきているのがわかった
現れた鬼哭、哀哭、慟哭のせいでバランスが崩れだした
…待て、なぜあの3体だけ?
咄嗟に辺りを見回した
月の光を隠す天を舞う影
見上げると、空を駆け抜ける闇
黒い流れ星、戦場を突き抜けていく
「…よく気づいたな
だが手遅れだ」
「風哭ぅぅぅぅぅ!!!」
戦場を抜けた風哭、追いかけようとするも亡者のように掴みかかってくる堕人
だが風哭が校庭を抜ける寸前、火花が散った
それに弾かれるように風哭は勢いを失って地面に落下する
「間に合ったぁ…」
「立体式焼失結界…
急ごしらえだがなんとか正常に展開できたな」
神楽君と姫が、協力して作っていた学園全体を覆う
神魔混合属性結界
ギリギリで間に合ったそれが風哭を阻止した
堕人を振り払い、俺は風哭へと向かう
「うおぉぉぉぉおお!!」
「…」
風哭の鉄の面に黄龍鉄甲の1撃が叩き込まれる
鉄と鉄を力任せにぶつけたような感覚
チャリン、と風哭の首元から光る何か
やっぱりだ、見間違いじゃなかった
心臓の鼓動が早くなり、逆巻く記憶の渦の中
見覚えのある、その光る何か
あのタリスマンは、間違いない
神楽君にもらった物、そして風太に渡したままにしていた物
「…風太…?」
「…俺は、風哭」
骨が軋む音、直接揺さぶられるような脳への衝撃
視界がぐるんと一回転
理解の外、追いつかない思考の先
地面に叩きつけられる俺
わけがわからないな、どうして風太がもったままのタリスマンを持ってるんだ
全然わからないけど…
「それなら尚更寝てるわけには行かないんだよ!!!」
「…俺は、風哭…風哭…!」
ノスフェラトゥが笑う
身をよじり、ゲラゲラ、ゲラゲラと不快な笑い声
呼応するかのように殲滅の速度を凌駕し次々と湧き上がる下級堕人
まるで無限とも思えるようなその数に徐々に気圧とされていく皆
「キリが無いですね
…目くらましだけの自分の力が恨めしいです」
しげるが苦虫を噛み潰したかのような顔でそう呟く
鋭い爪を振り上げ切りかかる下級堕人を避けていく
だがその足に倒れていた堕人が封じる
「しまった!」
目の前に迫る無数の闇と爪
爆発音、叫び声をあげ吹き飛んでいく堕人
煙の中に立つ破壊の王
「油断すんなよ
…しっかしこの数はさすがにまずいな…
完全な接近戦にもってかれると爆発物は使えねぇし…」
焦りから来る一瞬の油断、闇に堕ちた者どもはその隙を見逃さなかった
闇の中から来る闇の塊
虎のような姿の、影
「いッ!?」
鋭い爪と牙がえび助に向けられる
その速さ、獣のそれ
狙いは正確、得物の喉笛を食いちぎろうとする
突如響く旋律、獣の目に惑い
獣はえび助の脇を抜け、自ら地面に頭を叩きつけ転倒する
ヴァイオリンを構えた桃花が旋律をかき鳴らす
音の力による感覚汚染が獣の殺意をえび助か逸らした
倒れた獣はグルルルルル…と不気味な唸り声をあげ今度は桃花に飛びかかる
「やばっ…」
「次元斬」
光る閃光が獣の体を通り抜ける
牙は桃花に届かず、真っ二つになった獣はその姿を霧へと変える
息つく暇も与えずにまるで津波のような堕人の大群
「下がれ」
「剣三郎…でも…」
「いいから」
剣三郎の前方にはまるで黒き山、闇の塊
それが地鳴りをあげ剣三郎へと接近する
剣三郎は深く腰を落とし刀に手をかけた
「…この1撃に答えを乗せよう」
剣三郎は動かない
静かに目を閉じて荒れ狂う堕人の群れの前で静かに待つ
覆いかぶさるように堕人の群れが剣三郎を飲み込もうとする
その瞬間に閃光が走った
黒き山が、真一文字に切り裂かれ爆散する
黒い粒子が風に舞い、全てを切り裂く次元刀の刀身に静かに降り注ぐ
その光景を見つめている大きな銃を携えた者
50口径のキャリバーライフル、戦車の装甲ですら1撃の元にブチ抜く大型ライフル
「援護射撃完了っと」
そこに唸り声を上げて飛びかかる影の獣
咄嗟に飛びのく透過
「悪いが、俺だって遊んでいたわけじゃないんでね」
懐から取り出したのは銃、50口径リボルバー
装填されているのは500S&Wマグナム
最大最強の拳銃弾
普通の人間が放てばあまりにも大きすぎる反動で自らが傷つく代物
それほどのものが右手に1丁、左手に1丁、究極の2丁拳銃
発砲音、いや、それは衝撃音
獣の眉間に打ち込まれた弾丸は貫通を遥かに超越し周囲の闇を消し飛ばした
「趣味が悪いな、1撃にかけりゃいいってもんじゃないだろ
…こういう敵が沢山いる状態は特に」
いつの間にか近くにいた黒い羽根を持つ男
闇の中でもより黒く穢れ無き漆黒
静かに、周囲に向かって羽根が放たれた
黒き羽根の鋼鉄の弾幕、無数の羽根は堕人に突き刺さり、貫き、その姿を散らせて行く
不気味なうなり声をあげ倒れる堕人は漆黒をより際立たせる黒い霧と化していく
「羽根ちょいともらうぜ」
弾幕の中に自ら飛び込んだ男の全身に羽根が突き刺さる
顔を苦痛に歪め、それでも笑みは絶やさない
そして両手を前に突き出し1体の堕人の頭を掴んだ
「お前にやるよ、この痛み…
お前に触れてる他の奴らにも全部伝わるけどな」
周囲の堕人の身体に纏めて穴が開く
ヒュウヒュウと空気の漏れる音が辺りに響く
地面に倒れこむ大量の影が霧散していく
風に煽られ天を彩るその塵を同様に霧の中で見ている者
「…あいつも割かし強くなったなぁ」
余所見をして呟きながらもその手が堕人を突いた
瞬時に堕人の身体は砕けちる
「執行部の隠し玉としてのメンツってのが俺にもあるんでね」
蝶は地面を突いた
地盤が揺れ、ビシリと校庭にヒビが入った
「今度は堕ちたら戻ってこれねぇぞ」
地面が、口を開いた
大地が動きその全てを飲み込む口に堕人が落ちていく
叫び声をあげながら飲み込まれていく堕人
咆哮と、断末魔の叫びと、雄叫びと、黒い霧、赤い血
生と死が行き交う戦場
それでもなおもノスフェラトゥは笑い続ける
まるでこれを喜劇だとでも言うかのように
鬼哭の包帯があらゆる方向に伸び、大地を抉る
周囲は最早校庭という面影を残してはいなかった
必死に攻撃を避け続けるほろにが
「近づけねぇぞ!!クソッ!!」
まるで曲芸のように辺りを縦横無尽に飛び回る鬼哭
予想外の方向から放たれる殺戮の包帯
常人ならば避けることすら出来ぬその軌道
だけどほろにがは危うげながらも攻撃を避け続ける
鬼哭が笑う
「面白い面白い面白い…!
場所を変えよう!邪魔の入らないところで思う存分やろう!!!」
「ああ!?」
鬼哭がほろにがに背を向けて飛び跳ねるように校舎の裏手に向かう
普通に考えれば罠、だけどほろにが追いかける
「待てッ!ほろにが!!」
走って行くほろにがの後ろ姿に声をかけるヤチャマル
その足元に黒い光が煌く
「ちぃっ!」
光が地面から上に向かって飛び上がる
咄嗟に飛びのかなければ全身を貫かれていた
無機質な、透き通るような冷たい声
「貴女に余所見をする暇は与えません
…スケジュールが狂いました、迅速にお死になさい」
「このあと一杯やりたいんでね
そりゃ無理な注文だ」
哀哭の袖口からまた黒い光
しかし放たれはせずに光の帯は袖口に停滞する
その形状は、剣
「接近戦に移行…」
動きにくいメイド服を意に介さず
長い黒髪を風になびかせながらヤチャマルへと走り抜ける哀哭
振りぬかれる右腕が正確に首へと向かう
それを必要最小限とも言えるゆるやかな動きで受け流すヤチャマル
立て続けに振りぬかれる左腕
読み通りと言った具合で刃が首を落とす前にヤチャマルは哀哭の左肩に軽い打撃
直後、哀哭が飛んだ
「何ッ!?」
腕と同じように、両足に黒い光の剣
サマーソルトのようにその足の剣はヤチャマルを捉える
長いスカートをはためかせ、布が風を受けバタバタと音をさせる
血が、迸る
ガスッ!と足の剣を地面に突き刺す着地した哀哭
表情一つ崩さずに淡々と唇を動かす
「…あの状況に対応するとはお見事な反応速度です
最も人にしてはですが」
ポタリ、ポタリ、とヤチャマルの足元に赤い雫が落ちる
流れ出る血は頬につけられた切り傷から滴り落ちる
ヤチャマルは哀哭から目を離さない
殺し屋として生きてきた己の歴史が理解させた
目を離せば確実に殺られる、と
哀哭も動かない、微動だにせず
そこだけ時間が停止したかのような不気味な空気
そして対照的に戦場を駆け抜ける2つの風
進路にいる者は全て切り裂かれ、砕かれる、殺戮の風
慟哭と白やん
戦場を駆け回りながら激戦を繰り広げる
否、そうではない
武器を持たない白やんを慟哭が追い詰めているだけ
慟哭の周囲を高速で回転する4本の剣
1本なら"死の右手"を使えばどうとでもなる
だが4本、例え1本を止めたとしても残りの3本に切り刻まれる
だからこそ白やんは決定打を与えられずに逃げに徹するだけだった
それでも決して後ろは見せず、勝利に繋ぐための回避の連続
「…逃げるだけしか出来ないのなら終わりにさせてもらうぞ?」
慟哭の冷徹な呟き
4本の剣が宙に散る
その中の1本が白やんに向かう
死の右手で受けるか、それとも避けるか
白やんが選んだ行動は回避
横に飛ぶと剣は地面に突き刺さる
だが着地地点に間髪入れずに2本目が向かう
確実に命中する位置、身体を捻ろうとも決して逸らすことは出来ない
白やんは右手を剣に向かい突き出す
切っ先が掌に触れた瞬間に剣は勢いを失う
…すでに迫る3本目と4本目、前後からの挟み撃ち
落下する2本目の剣を、白やんの左手が掴む
そのまま振るった剣が正面から飛来する剣を弾き飛ばし
瞬時に持ち手を左手から右手に変えた白やんは後ろを見ずに背中に剣を持っていく
弾ける金属音、飛来した4本目も弾き飛ばす
僅かに慟哭の声に感嘆の意思が宿る
「…驚いた、たかが人と侮っていたが」
「これで武器は手に入った…
剣に込められたお前の力は死んだ」
「クク、問題無い…」
小さく笑った慟哭
ローブの下から覗く刃
1本、2本、3本、4本、5本、6本…
「剣なら沢山ある…
1本くらいお前にくれてやろう」
「なるほど…真っ当な剣士じゃないみたいだな…」
そして戦場と少し離れた場所
校庭の終わり、結界のすぐ傍
「そのタリスマン…どこで手に入れた」
「…俺という存在が生まれた時から常に在った」
「お前は…風太なのか!?」
「知らない…風太など…!
俺は…風哭だぁぁぁぁああああ!!」
風哭がボロ布に手を突っ込んで取り出した物
人間の骨で作られたような、銃
銃口がこちらを向いた
キィン…という何かが収束する音
とてつもない危険を本能が察知する
俺は走り出した、あの銃は間違いなくヤバい!!
「俺は風哭!!罪の果てより出ずる者!!
それ以上でも以下でも無い!!」
銃口から、断末魔の叫び声
あれは、放たれた音
紫に光る圧倒的なエネルギーの射出
わずかに靴の先が触れた
ジュワッという音
靴の先端が、丸ごと"消えた"
幸いにも俺の足は無事だったというのは神に感謝するべきなのか…
射出された紫の光は結界に命中する
エネルギーが結界の壁を走り抜ける
周囲は紫色の光に照らされまるで真昼のような明るさになる
それを見て慌てる神楽君と姫
「なんて威力だよ!?
結界が吸収しきれずに溢れた分が爆散しやがった!」
「…並の結界なら1撃で破壊されてた…」
2人の会話から察するにやはりあれは桁外れの威力らしい
直撃どころか掠っただけで即死するような代物
恐ろしく危険な武器
「俺は…風哭…
罪の果てより…罪…罪…とは…何だ?」
頭を抑える風哭
わからない、風哭は風太なのか?それとも…
くそ、迷うな、迷えば拳が鈍る
今は、例えあれが風太であったとしても、迷うわけにはいかない!!
「ヒャッハッハッハッハッハッハ!!!!
あがけぇ!もがけぇ!!!そして後悔を抱いて死んでいけ!!
お前達に未来は無い!!いや全てに未来などは無い!!
どのみちいつか死を迎える限りある命!!
我は不死なる者ノスフェラトゥ!!限りある者どもよ!平伏せよ!!
その血を以て瑞光となれ!!遍く大地と海を血に染めろ!!
ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
17時限目 - 闇集結 -
終
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最終更新:2009年11月01日 03:16