邪眼学園黄龍譚18限目【ノスフェラトゥ】前編
11/15(水) 夜
「ヒャッハッハッハッハッハッハ!!!!
あがけぇ!もがけぇ!!!そして後悔を抱いて死んでいけ!!
お前達に未来は無い!!いや全てに未来などは無い!!
どのみちいつか死を迎える限りある命!!
我は不死なる者ノスフェラトゥ!!限りある者どもよ!平伏せよ!!
その血を以て瑞光となれ!!遍く大地と海を血に染めろ!!
ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
響き渡るノスフェラトゥの笑い声
とても耳障り
ずっと聞いてると吐き気と頭痛を催しそうなほどの嫌悪感を沸き起こす笑い声
それでも今は目の前の脅威から目を離すわけにはいかない
「…うう…うおあああ…!」
頭を抑えながら呻く風哭
やはりこいつだけは他の堕人と比べて何かが違う
何が、と具体的にはわからない
強いて言うならば無理やり押えつけられてるような意思の力
「…もしお前が本当に風太なら…
どうして…」
「グッ…!違う…俺は…風哭!!」
風哭の銃がこちらを向いた
震える銃口、左手で鋼鉄の仮面を抑え揺れる身体でこちらを狙う
銃口が跳ねる、発射されたのは紫の光弾、さっきと違う?
だが速度は速かった
あっという間に目前に迫り来る光弾
正面、左、右、回避の可能性を潰すように連続で発射される
ならば!
「目覚めろッ!!朱雀!!」
俺は宙に飛び上がる
光弾は足のすぐ下を突破し地面を抉る
風を切り裂き、滑空するように風哭へと突進する
「あぁぁああ!!」
風哭の声にならない声、恐怖の感情、苛立ちが込められた声
放たれる光弾をスピンしながら左右に避ける
そして右手を振るう
空を切る拳
風哭が高く高く跳躍
遥か上、月の光を受けた鋼鉄の仮面が銀色の光を放っていた
銃撃音、直後、背骨が折れるような衝撃
「げはッ…」
地面に叩きつけられ、地面に残す傷痕
撃たれた、いや違う…
背中を突き刺すように落下してきた風哭の足に命中したんだ
だけどどうやって一瞬で加速を乗せて落下してきた
後ろに着地する風哭
手に持っている骨の銃は2丁
後ろに向かって、放たれる銃撃
バーナーのように風哭の後ろに拡散する巨大な紫の光
それを視認するとほぼ同時に風哭は周囲の空気を切り裂き俺に恐ろしいスピードで向かってくる
足は少し地面から浮き、滑るように
理解した、銃からのエネルギーの射出を推進力にしている
あまりにも早すぎるそのスピード
感情も何も感じられない鋼鉄の面、月の光に照らされるそれはまるでこの世ならざるもの
鋼鉄の面がすぐ近く、ゴウッ!と言う風を切る音
紫の光の帯が空に向かって伸びていく
視界から消える風哭、目の前には薄っすらと輝きを残すエネルギーの残滓
思考が止まる、消えて、エネルギー残滓、上に昇った紫の光
理解した時は手遅れ
振り下ろされる鉄槌
ごがん
頭蓋骨の中を駆け巡る鈍い音
視界が白に染まりそうなる
痛みはなく、それはすでに衝撃
立っているのか、倒れているのか
それすらもわからないほどの思考の狂い
倒れるわけには行かない、その気力だけが意識を繋ぎとめていた
だがそんな決意すら容易に奪う、風哭の攻め
がつん、がつん、がつん、がきん、がきん、ごきり
がつん、がつん、がつん、がつん、めきめき
何が起こっているのかわからない
痛みすらも感じることが出来ない衝撃の渦
白い視界、揺れる世界、揺れているのは脳
腕や足、動いているのかすらもわからない
だけど何故か、どうしようもなく悲しい
手も足も出ないというのが悲しいんじゃない
風哭が俺を攻撃する度に衝撃と共に伝わる戸惑い
そしてそれを上回る苛立ち、絶望
まるで先の見えぬ暗闇の中でもがいているよう
チャリン、チャリンと金属がぶつかる音
なぜかその音が、風太の声に聞こえた気がした
『助けてくれ』と、言っているような
結界の外で慌てふためく2つの影
神楽君と姫は殴り続けられるたまゆらを見ているだけしか出来ない
「どどどど、どうしようどうしよう!?
このままじゃたまゆらが死ぬ!」
「だけど私達が動いたら結界が崩れる!」
「んなこと言ってもこのままじゃ…!」
「退け」
「えっ?」
2人の間を風が抜けた
風は飛び上がり結界に激突した
火花のような物が炸裂し、風は結界の中へと侵入した
「生身でこの結界に穴を開けた…!?」
「誰…あれ…?」
風哭がたまゆらの首を掴み持ち上げる
呻くたまゆら、抵抗の意思は感じられない
いや、正確には抵抗したくても出来ない
鋼鉄の仮面の下から響く声
「…俺は風哭…過去も何も無い…
ただ罪から生まれ罪に還るだけ…
だから!!お前を殺さないといけない!!!」
風哭の腕が大きく振り上げられた
天高く、力無く吹き飛ぶたまゆらの身体
掲げられる風哭の銃
「終わりだ!!」
そこに飛び込んだ風
風哭の銃が回転しながら宙を舞う
1テンポずれて、今度は風哭自身が吹っ飛んだ
「ごふっ…」
「おっと」
落下してくるたまゆらを両腕でしっかりとキャッチする
それは誰よりも強く、並ぶことの無い蹴り技の持ち主
人を遥かに超越したとも言える体技を持つ、高橋
受け止めたたまゆらをそっと地面に寝かせると風哭へと向き直る
「ここから俺が相手だ
…俺はたまゆらほど甘くねぇぞ
俺の蹴りは鉄すらブチ破る…」
校舎の裏、けたたましい笑い声と破壊音
血塗れの包帯に身を包んだ悪魔
壁から地面に、地面から壁に、壁から壁に
跳躍しながら高速でほろにがに向かって全てを砕く包帯を放ち続ける
「クカカカカカッ!!」
「くそっ…」
ほろにがほどの戦闘能力を持っていたとしても
予測不能な攻撃を見てギリギリで避けるだけが精一杯
とてもじゃないが反撃に移ることが出来なかった
そしてその事実がほろにがを苛立たせる
武器も持たず、素手だけなのに
相手は人じゃなくて壁や地面を飛び回り下手な弾丸より威力の高い攻撃を乱射する
圧倒的不利な状況
だがほろにがは諦めていなかった
ただその目は反撃の一手、勝利に繋ぐ可能性だけを探し続けていた
「距離を詰めるだけなら曲がり角で待ち伏せなり強引に飛び込むなり…
微妙だし危険過ぎるしなー…」
「ブツブツ言ってる暇が?」
風を裂く音、飛来する死の布
ほろにがの足元を突き崩す
「うおっと」
軽い跳躍でそれを越えるほろにが
鬼哭は壁から壁へと飛び移りながら後を追う
その状況でほろにがの顔には笑み
後ろから追いかける鬼哭がその笑みを見ることは出来ない
笑みの理由、それは勝利への一手を見つけたこと
勝負は次の鬼哭の攻撃
失敗すればいよいよ打つ手無し
命を賭けるギリギリの状況下、だからこそほろにがは笑みを浮かべる
それが油断となったのか、ほろにがの足がもつれた
「うおっ…」
勢いをつけたまま前に転倒しそうになる
その隙を鬼哭が見逃すわけが無かった
死がほろにがに迫り来る
「なんてね」
倒れながら両手がしっかりと地面を捉えていた
勢いという力を使い、手を支点としほろにがは前へと宙返り
すぐ後ろでコンクリートの砕ける音
ほろにがの手が、包帯を掴んだ
「キャッチだ」
微かに笑みながらそう言うほろにが
だが鬼哭が一際大きい笑い声をあげた
「クカカカカカッ!!!
だからどうした!お前ごと巻き取って串刺しにしてやる!!」
ほろにがの身体に物凄い力が加わる
否、包帯から、そしてそれを掴んでいる手を介して
ほろにがの靴が地面と擦れて音を立てる
引っ張ろうとする力とそれに対抗する力のぶつかり合いが足に恐ろしい力をかけている
このままじゃあマズいと判断したほろにがは両手で包帯を掴みなおす
だが鬼哭の力も更に増していきこすれた地面と靴からは薄っすらと煙が上がる
ゴムの焼けるような匂いがほろにがの嗅覚を刺激した
「へっくしょい!!」
くしゃみ、それが原因でほろにがの身体から一瞬力が抜けた
足が地面から離れ、一気に身体が鬼哭へと向かう
その先で待ち構える無数の血塗れの包帯
だがほろにがは手を離して落下し硬い床を跳ね転げる
包帯を戻し鬼哭が笑う
「クカカカカッ…残念だったな!」
ほろにがが懐からぐしゃぐしゃになったタバコの箱を取り出して
1本を口に銜えライターで火をつけた
大きく煙を吸って吐き出しながらほろにがは言った
「…そう残念でもねぇーんだぜ?」
「…ああう?」
「吹っ飛べ、クソ野郎」
その言い終えた瞬間
爆発音、熱風、衝撃、吹き飛ぶ鬼哭の身体
辺りに立ち込める火薬の香り
その匂いを嗅ぎながら鬼哭が叩きつけられ開いた壁の大穴を見るほろにが
「粘着テープとグレネードを組み合わせて…さしずめ粘着手榴弾か?
包帯を両手で掴んだ時に張り付けといたわけだ
気づかないで包帯を巻き取ったお前の負けだ」
誰に言うでもない種明かしをし、タバコを指で弾く
地面に落ちたタバコを足で踏みつけその場を去ろうとする
3歩と歩いた所で背後から瓦礫の崩れる音
そして、鬼哭の声
「あぁ…はぁ~…」
「!?」
ほろにがが振り向くと穴の向こうに立っている鬼哭
全身の包帯は所々が焼け焦げている
間違い無くかなりのダメージを受けてはいる
だが、鬼哭は楽しそうに笑い声をあげる
周囲に飛び散る黒い液体
「血だぁ…ぼたぼた、ぼたぼた流れてるよぉ…」
「こいつッ…」
「あはぁぁぁぁぁぁあ!!!」
跳躍する鬼哭
先ほどと違うのは一直線にほろにがに向かうこと
顔の包帯がほどけ、隙間から覗く鋭い無数の牙
唾液の糸を引きながら大きく開く顎
真っ赤な舌がうねり、久方ぶりの肉を今か今かと待ちわびる
「チッ…」
身を捻るほろにが、肩を掠める貪欲なる牙
飛び散る赤い血、抉れる肉
着地する鬼哭の口からぴちゃぴちゃと音が鳴る
右肩を抑え痛みに耐えるほろにがにはそれが酷く不快
「あはぁ…」
「…化け物め」
鬼哭の身体を纏っていた包帯は所々が焼け焦げて破れている
手は5本の指が1つに束ねられているような全てを貫くような手
身体は皮膚がなく筋繊維と骨格が剥き出しになっている
それは異形の進化を遂げた、人の形を残すだけの存在
「…60年、長いようで短い歳月」
「あはぁ?」
ほろにがは小さく呟いた
鬼哭は血に塗れた舌を出したまま振り返る
「直接お前には恨みは無いが…
一族の仇…っていうか俺の人生を生まれる前から狂わした責任は取ってもらうぞ」
「意味がわからないよ…
それよりもっとお前の肉を食わせてくれよぉぉぉ!」
鬼哭が天を仰ぎ、その口を大きく開く
悪鬼、それ以外に表す言葉が見つからないほどの醜悪な力
それに怯むことなくほろにがは言う
「格闘術、剣術、棒術、銃撃、爆発物…
使える武器は数あれどその中で俺が最も得意とする武器は
子々孫々と受け継がれ続けた、忍刀【生者必滅】と忍刀【生殺与奪】…」
「二刀流ゥ…?」
懐から取り出された小さな二振りの刀
逆手に持った二つの刀の刀身が小さく揺らめく
「テメェの命、頂くぞ」
校庭の空に拡散する黒い光
天より降り注ぎ大地に突き刺さる光撃
そして振りぬかれる4本の光の剣
その無数の攻撃を見事に避け続けているヤチャマル
無表情でただ光を撒き散らしヤチャマルの首を落とそうとする哀哭
「ハァッ…ハァッ…」
「息が上がってきたようですね
人にしては随分と頑張りましたがもう限界でしょう
…久方ぶりに私も楽しい時を過ごせました」
「ああ、そりゃ何よりだ」
「が、これ以上予定が狂うのはさすがに問題があります
ですからこれにて終幕にさせて頂きます」
哀哭の袖口から放たれる黒い光
今までと違う圧倒的な射出量
網のように広がりヤチャマルを包み込むように拡散する
回避不能、発射から着弾までの僅かな時間に相対する者に絶望を与える攻撃
だがヤチャマルの目には迫り来る黒い光が別の物に見えていた
迫り来る、無数の弾丸
呼び起こされる過去の記憶
殺し屋として生計を立てていた中で絶望に囚われるような絶対絶命の状況はいくつもあった
だが今でもヤチャマルは生きている
どんなときでも絶望に囚われないその心が幾度となく窮地を打ち破ってきた
ヤチャマルの拳が振られた
「生身の拳で弾けるほど甘くはないです
コマ切れにおなりなさい」
勝ちを確信したであろう哀哭の冷たい声
拳が黒い光に触れる
まるでそれは剣が砕けるよう
光は破片となり砕け散り、絶望の弾幕に穴を開ける
地面がコマ切れになった中でヤチャマルの足元だけは無傷
そこにしっかりと立っているヤチャマルもまた無傷
だが哀哭の顔からは動揺が感じられない
ただ虚ろなガラス玉のような目で起こった光景を見つめているだけ
唇を小さく動かしヤチャマルに問う
「…貴女は本当に人間ですか?」
「…ただの鬼さ…お前と同じ、哀しい夜叉さ」
小さく、哀しげに答えるヤチャマル
だがその眼には確かな反撃の意思、戦いへの覚悟
そしてヤチャマルは前へと踏み出した
哀哭の袖口から黒い光の帯
帯は無数に枝分かれしヤチャマルの行く手を阻む
「弾丸に比べると遅すぎる」
それだけ言うと身体をねじり、軽く飛んだ
身体スレスレを黒い光が掠めて行く
小さく切れる頬、まさに紙一重の回避
着地、黒い光の隙間に降り立つヤチャマル
そして拳が哀哭に振りぬかれる
人形のように整った顔の頬に叩き込まれるヤチャマルの拳
メキメキ…と小さな音がヤチャマルには聞こえていた
黒い光が弾けて消える
そして後ろへと吹き飛び地面を抉って行く哀哭の身体
小奇麗だったメイド服が泥にまみれ、それでも勢いが止まることは無い
だが地面を転がる哀哭の手が開かれる
ガギギギギギ、と何かが削れる音
吹き飛ぶ哀哭の勢いが緩んでいく
完全に勢いを失い停止した哀哭がゆっくりと立ち上がる
口の端から零れ落ちる黒い液体が青白いな肌を彩っていた
「命中の際に拳から大量のエネルギーの放射を確認…
…中国武術などに見られる気功と見てよろしいでしょうか」
「…正解」
「なるほど、先ほどの私の攻撃を砕いたのも衝突の際に多量のエネルギーを放出し
一点集中で脆い部分を狙い砕いたということですね」
「それも正解…だけど何か調子狂うな…」
「…」
哀哭の細い身体が小さく揺れる
静かで、とても落ち着いた波紋のひとつも無い水面を彷彿とさせる哀哭
しかしその身体の奥からあふれ出すような躍動感。
哀哭の手が大きく動く、黒い光、いや、光のような飛沫。
輝ける闇の粒、空を駆けるあまりにも美しい暗黒の焔。
その輝きに見惚れることも無くヤチャマルは上へと跳んだ。
ぼうっとヤチャマルの足音から異音。
拳大ほどの地面に開いた穴、穴の周囲は黒く焦げつき異臭を放つ。
続けざまに大気を切り裂いて飛ぶ暗黒の流星群。
ヤチャマルの手に握られている鬼の面。
黒い流星はヤチャマルの身体を貫いた。
その左下辺りにもヤチャマル。
貫かれたほうは蜃気楼のように揺らめき消える。
それでも哀哭の攻撃は止まらない
瞬きの間も与えずに次々と撃ちだされる暗黒の焔。
それを避けるヤチャマルも人間技とは思えない程の動きを連続して行う。
一瞬の間に周囲が焼け焦げた臭いに包まれ大地には大量の破壊孔が開く。
流れ弾は下級堕人にも命中しその姿を一瞬で霧へと還す。
射撃が止んだ、同時に穴だらけになった地面に両の足でしっかりと着地するヤチャマル
いつの間にか被っていた鬼の面。
鬼面夜叉、かつて決別したはずのその姿。
それを見た哀哭の顔から初めて微々たるも確実な感情が見て取れた。
それは小さな小さな、微笑。
ヤチャマルと哀哭から離れ、時計塔の下
その真下、膝をつき、汗と血を地面に滴らせる白やん
手には刃が砕けた黒い剣
正面には黒いローブ、慟哭
周囲に漂う8本の剣、その隙間から慟哭の発する声が聞こえる
「…傷が開いたようだな
その身体でよくここまで頑張ったと褒めてやろう」
「グッ…」
「お前には運が悪いことが3つある…
人に生まれてしまった事、堕人に歯向かってしまったこと
そして…相手が俺だったと言うことだ」
8本の剣全ての切っ先が白やんへと向けられる
先端が月の光を反射し絶望を彩る
「我が8本の剣から無尽蔵に繰り出される突きは空間ごと抉り取る
…その傷では避けれまい」
「せめて…鎌さえあれば…」
「終焉だ」
白やんの視界一杯に広がる黒い剣の鋭い切っ先
無意味に等しいかもしれない
だが白やんは右手を前へと突き出した
死の右手に触れた物は如何なる物でも力を失う
…8本の前にはそれも無力なのだが
それは白やんにも充分すぎるほどに理解出来ていた
全身に突き刺さる衝撃
貫かれる激痛、襲い来る死への恐怖
脆い心は津波のように流され、永遠の安息に抱かれることを良しとする
衝撃は、止まない
時計塔の頂上に月光に抱かれた影
手に持つ巨大な大鎌
白く、純白の鎌、表面に彫られたあまりにも美しい死神の彫刻
影が、死神を高く放り投げた
月の光を刃が反射し、地上へと続く一筋の光
「何だ、この光は…!?」
慟哭が上を見あげ、剣の攻撃が止まる
全てを切り裂くように回転しながら舞い降りる死神
白やんは聞いていた
遥か頭上より響く聞こえるはずの無い声を
『死を知り、死を統べ、自らの道を阻む全てに死を与えろ
死の力は悪ではない、迷い無く正として使う今こそ死神は究極の輝きを放つ
受け取れ、未来を切り開く力、狂死刃ホワイトデスジョーカー』
白やんの右腕が、高く空へと伸びる
まるでそれは失った半身を求めるように
吸い込まれるように、白き死神は白やんの元へ
「させるかッ!!」
黒い8本の剣が白やんを取り囲み、一斉に飛びかかる
全方位からの攻撃、避けることは不可能
白やんの手に、狂死刃ホワイトデスジョーカーが舞い降りる
そして8本の剣は白やんの身体に8方向か突き刺さる
いや、突き刺さるはずだった
金属音が辺りに響き渡り、弾かれるように8本の剣が宙を舞う
そして剣は空中でその形を崩し塵と化していく
「…何だと…!?」
ありえない、そう言いたげな慟哭の声
声に混じる微かな、恐怖
8方向からの絶命の1撃、その全てが弾かれた事実から来る恐怖
「貴様ぁっ…!!」
慟哭のローブの下から次々と刃の切っ先
現れた剣は次々に慟哭の周囲を取り囲む
総数44本、まるで剣の塊がそこにあるかのような状態
白やんがゆっくりと立ち上がる
動くたびに身体のあちこちから鮮血が噴き出す
それでも白やんは立ち上がった、その手に最強の死の力を携えて
「手負いと甘く見たか…!
ならば肉片のみになるまで切り裂いてやる!!」
黒い44本の刃が白やんへと一斉に向かう
白やんが小さく笑った
「無駄だ」
振り抜かれる白い大鎌
砕ける黒い刃、宙空に残される白い軌跡
持ち手を変え、2撃目、3撃目
四方八方、縦横無尽に周囲を切り裂く死神の刃
これこそ、白やんがもつ力
圧倒的見切り能力と絶対的な武器への熟練度
武器を取り戻した白やんに最早慟哭の小手先の技は通用しない
迫り来る44本の刃が全て塵と化し、後には白い光の残滓のみを残す
「…邪眼学園生徒会長、白やんが…お前を断罪する」
そして校庭の端で響く金属音と断末魔の叫び声
風哭と、高橋
銃を推進力として抜群の機動力を持つ風哭に
無理に追いかけずに渾身の1撃を叩き込むように立ち回る高橋
対照的に徐々に動きが遅れて来る風哭
ダメージのせいだけでは無く、風哭自身の思考に何かが起こっていた
戦いながら呟く言葉は高橋にも聞こえていた
「俺は…風哭…
風哭…俺は…どこから…」
「チッ…うるせぇ野郎だな…」
風哭の銃が高橋に向けられる
一瞬の間の後に断末魔の叫びを放ち銃口から爆散するエネルギーの射出
生身の人間なら直撃すれば骨も残さず消し飛ぶほどの力
だが高橋は臆することも無くそこに飛び込んだ
地面と射出されるエネルギーの僅かな隙間に身体を滑り込ませる
地面を滑り、辿り着いた風哭の足元
風哭は爆散して放たれるエネルギーによって視界が狭められていた
必然、予想外の場所に現れた高橋への対応が遅れる
気づいた時にはすでに遅い、鉄すらも蹴り破りコンクリートすら易々と砕く高橋の蹴りはすでに放たれていた
下から天を貫くように上へと放たれた蹴りは身を引いた風哭の鋼鉄の仮面へと命中し
鋼鉄の仮面が、宙を舞った
「うぉぉぉぉおあああああああああああああ!!!」
絶叫する風哭
仮面の外れた顔を両手で抑え悶え苦しむ
その叫び声が、傷つき倒れている者に覚醒を促した
鼓膜に響く絶叫は遥か過去の約束の叫び声
彼との約束、すぐそこに…
寝ているわけには行かない、ここで倒れるわけにはいかない…
目を開く、霞かかる視界に映る者
風哭…?いや、違う…
「風ッ…太…」
かすれるような声を絞り出した
聞こえたのかどうかも定かではない
だけど、風太の絶叫が止んだ
そして、聞こえた、懐かしい声
「…たま…ゆら…君…」
視線が交錯する
疑念が確信に変わったその時、風太の身体に衝撃
身体をくの字にして後ろへと吹き飛ばされる風太
衝撃の主は、高橋…
「トドメだ」
「よせぇぇぇぇぇぇえええええ!!」
膝を突く風太へと向かう高橋
そしてそれを止めようと立ち上がったものの足が上手く動かない
俺の叫び声には耳を貸さず、高橋の全てを蹴り砕く足が風太へと向かう
どうすればいい、どうすれば…?
止めるには…止めるには…!!
「やめてくれぇぇぇえ!!!目覚めろッ!!青龍ゥゥゥゥゥ!!!」
変形とほぼ同時に発射された青い光弾
無防備な高橋の背中へと直撃する
「がッ…!?」
予想外の攻撃、完全なる直撃
高橋は転倒し地面を転がっていく
俺は叫んだ
「風太ァァ!!!何があったんだ!教えてくれ!!!」
「たまゆら君…これは…奇跡か…?」
高橋が立ち上がった
額が切れたのかその顔は血化粧に彩られる
その目がこちらを向いた
完全なる、敵対の目
「…たまゆら…貴様…
どういうことだ…納得の行く説明をしてもらおうか?」
「こ、こいつは敵じゃない!!」
「敵じゃないだと…?
ふざけるなぁッ!!!」
高橋が今度はこっちへと向かってきた
恐怖、圧倒的な高橋の力が全て自分に向かってくる
「話を聞いてくれッ!」
「黙れ!!」
高橋が飛び上がる
回転して、伸ばされた足
まるで断頭台
避けようとしたが全身を巡った激痛
それが俺の動きを止めた
「終われ!!たまゆら!!」
こんな、ところで…
絶望の暗雲が心を覆っていくのを感じていた
伝わらない、その悲しさに涙が零れた
頭上に感じる風、高橋の終焉の1撃…
「たまゆら君ッ!!!」
「!?」
とても嫌な音
骨が砕け、内臓が潰されるような異音
頭に降り注ぐ液体、黒い、雨
ゆっくりと上を見る
口から黒い血を流す風太、その顔はとても、辛そうで…
「堕人が…他者をかばっただと!?」
「あ…ああ…」
「大丈夫…か?」
声が出ない、頷くことしか出来ない
何度も頷いた俺を見て
口から血を流しているのに、とても辛そうなのに…
風太は笑ったんだ
力なく微笑むその顔を見て、俺は聞いた
「何が、何があったんだよ…風太…!」
「…獄の果て…罪の意識を抱いた俺は…
堕人に落ちるには充分すぎた…ノスフェラトゥはあの鋼鉄の仮面で…記憶を奪い…
…俺を…利用して…」
「…利用…?」
「話さないと…いけないことは沢山…
でも…すまない…もう…ごぶっ…!」
びちゃびちゃ、びちゃびちゃ
大量に流れ出す黒い液体
「逝くな…2度も…俺の目の前で…逝かないでくれ…」
「…地獄の果てで…見れた天国…か…
もう思い残す…こと…」
風太の身体が、黒い霧となり
風に散って行く
必死に掻き集めようと手を伸ばしても
指の隙間から零れていく風太であった物…
どれだけ、どれだけ望もうが…戻ることは無いその欠片…
「ああぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」
「…たまゆら、お前はあいつと何が」
そこまで高橋が言った時
その背後に迫る、爪
微塵も気配を感じさせずに現れた"奴"
高橋の腹部をその爪が貫く
「がはっ…!!」
「…風哭…やはり裏切り者は裏切り者でしかなかったかぁ」
現れたのは、ノスフェラトゥ
誰にも気づかれることなくここまで接近していたのか
こいつが、風太を利用した
こいつのせいで、また風太は死んだ
そして…堕人の…全ての黒幕…
「ノォォォォスフェラトォォォォォォオオオ!!!!!!」
「ククッ!いいぞ!来い!!
直々に串刺しにしてやろう!!」
.
最終更新:2009年11月01日 03:17