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邪眼学園黄龍譚18限目【ノスフェラトゥ】後編


そして校舎内でぶつかる2つの影
鬼哭とほろにが
飛びかかる鬼哭をほろにがの忍刀が弾き飛ばした

「ギャゥガァッ!?」

黒い血を宙に撒き散らしながら
壁に手を突き刺し、そこに"着壁"する鬼哭
ほろにがを無数の瞳で睨みながらおぞましき声で喋る

「すげぇすげぇ…!俺の身体が紙切れのように安々と…!」
「びびったか?」

ヘラヘラと笑いながら忍刀をクルクルと指を使って回転させるほろにが
涼しげな顔で尋常ならざる切れ味を誇る忍刀をまるで自分の身体の一部のように操る
だが重要なのはそこだけではない
壁、天井、床を利用し予測不可能の軌道で高速で飛びかかる鬼哭
それを的確に捉えカウンターとして切りつけるほろにが自身の能力の高さ
それが戦闘飢餓の鬼哭の魂をまた揺さぶっていく

「楽しい、楽しいよぉぉぉぉぉ!!
 いつぶりだ!ここまで血が騒ぐのは!!!」
「…お前は、覚えているか?」
「何をだぁ!?」
「かつて、人であった頃の自分を」

ほろにがが刀の切っ先を鬼哭に向ける
無数の鬼哭の目が刃に写る
鬼哭は首をかしげる

「…?」
「忘れたのなら思い出させてやろうか
 お前は忍の一族として生まれ、類稀なる才能を持っていた
 だがお前は忍の掟とかそんなものはどうでもよかった
 お前は血が好きで、人を殺すのが大好きなただのイカレ野郎だった
 そしてその狂気が極限に達した時、お前は一族を皆殺しにした」
「…うあ…ぁぁ?」
「ま、中には生き残った奴らもいたがな…
 …そしてお前は自らの狂気を満足させるために自らをある部隊に売り込んだ
 それが七三一部隊、戦争によって生まれた悪魔の部隊」
「クカカカカカカカッ!!!!」

突然、鬼哭が笑い出す
頭に手をあてただただひたすらに笑う
そしてゆっくりと喋りだした

「思い出した…!思い出した!!
 お前は生き残った奴の子か!?
 一族の仇を討ちに来たか!?」
「生き残ったのは俺の爺さんだ…
 七三一部隊が最後に使っていたのが60年前のこの学園
 …依頼が来た時はこれも運命かと思っちまってな
 お前を見た時、なんとなくわかっちまったよ、お前が話に聞いていたイカレ野郎だったってこともな
 さっきも言ったが正直俺は仇とかってガラじゃねぇんだよ
 もう依頼も割りとどうでもいいしな
 お前さえいなければ俺はド貧乏の底で生活なんてしなくてもよかったとか…
 色々考えちまうわけだよ、物心つかない時から暗殺術とか叩きこまれるしよぉ
 ただなぁ…それ以上に」
「以上に?」
「引き受けたからには俺がお前を倒さないと格好悪いだろ?」

ほろにがが地面を蹴った
その速度はまるで弾丸の如く
刀を前に突き出し、鬼哭へと向かう

「幻魔烈残影」
「クカカカカカッ!!!」

鬼哭が飛んだ
ほろにがは鬼哭の下をすり抜ける
着地した鬼哭が振り向き様にその手を何も無い場所に向かって突き出す
何も無い空間、そのはずなのに金属音が響き渡る
そこには鬼哭によって刀を止められたほろにがの姿

「すり抜けて行ったのは幻
 実体は回り込み後ろからの1撃だろぉ?」
「チッ…」

舌打ちしながらほろにがが後ろに飛び退き距離を取る
鬼哭が長く真っ赤な舌で裂けた唇とジュルリと舐める

「思い出した、ということは…
 つまり、お前の技は全て知っているんだよ
 クカカカカカカカッ!」
「ま、そうだろうな
 だったら避けれなくなるまで斬り続けるだけだ!!」

そう叫ぶとほろにががまた鬼哭へと向かった
流れるように二振りの刀で鬼哭を斬りつける
それを避け、手の先で弾き続ける鬼哭
ほろにがの息は上がらない、淡々と相手の命の届くまで刀を振り続ける
徐々に、弾かれる金属音が減り、肉を裂く音が響き出す

「グギャッ…」
「どうした?もう終わりか?」
「…クカカカッ…お前は最高だ…
 初めて殺してしまうのが惜しいと思ったよ」
「戯言を」

ほろにがの刀が、鬼哭の首へと狙いを定める
左手の刀が鬼哭の手を受け止め右の刀が首をかき切る
避けることも受けることも出来ない最後の一撃
刀が、振られる
散った火花、刃は止まっていた

「な…!?」

刃を受け止めたのは、鬼哭の鋭く尖った歯
死を恐れていない者だからこそ出来る技
命を奪う刃を目前にしても決して退くことなく刃へと向かえる者だけの技
そしてそれ以上に人間を遥かに超越した鬼哭の顎の力
その顎に、更なる力が入った
金属の砕ける音、飛び散った破片

「馬鹿なッ…」
「喉笛を噛み千切ってやるよぉぉぉぉ!!」

鋼の刃すら砕く鬼哭の鋭い歯がほろにがの頚動脈へと向かう
その無数の目は狂喜し、鮮血を渇望する
ほろにがの背筋に走る冷たい物
心臓を握られているかのような感覚
無我夢中で、ほろにがは鬼哭に渾身の力で蹴りを叩き込む
わずかに逸れた鬼哭の貪欲なる口
だが逸らしきることは出来ずに、ほろにがの右肩へとその鋭い歯が食い込んだ
そして、肉が引きちぎられた

「がぁぁぁぁぁ…!!」
「あはぁぁぁぁあ!!!」

鬼哭が離れ、ほろにがは右肩を押さえて膝をつく
ごっそりと肉を持っていかれた右肩は恐らくもう使い物にならない
鬼哭はピチャピチャとほろにがの肉を食らいながら喋る

「お前の動きは完全にわかってる…
 どう足掻いても俺に勝つことは不可能だ」
「ヘッ…馬鹿言うな…
 お前がのうのうと寝ていた60年と…
 爺さんの代から続いた俺へと受け継がれた60年はまるで違う」
「どう違うという!お前はここで死ぬ!
 俺に全ての肉をかじり取られてなぁぁぁぁぁあ!!!」

鬼哭の口が、更に大きく開く
そして全てを噛み砕くかのようにほろにがへと向かう
その1撃で全てを終わらせるかのように
狙いは、頭
容易く頭蓋骨を砕き、脳髄を齧り取るであろう鬼哭の牙
ほろにががゆっくりと顔を上げた

「…臨」
「!?」

ほろにがが、消える
虚を突かれた鬼哭の背中に、鋭い斬撃

「がハァッ…!」

すぐさま振り向きその鋭い手を振るうがそこにほろにがの姿は無い
鬼哭の記憶には無い動き
そして間を置かずに今度は側面から斬撃

「…兵」
「ゲハッ…」

畳み掛けるように四方八方からの連撃
鬼哭はほろにがの姿をその無数の目を以ってしても捉えることが出来ない
それはほろにがが持つ最大の奥義
鬼哭が堕人に堕ちてから60年で作り上げられた
鬼哭を倒すための思いの結晶
地獄すらも生ぬるい9連続の斬撃

「…闘…者…皆…陣…烈…在…前…」
「…!」

そして鬼哭の頭上に刀を振り下ろそうとするほろにがの影
鬼哭の蜘蛛の瞳が、その刃を見た
それは自らに死を与える、因果応報の刃

「封魔九印剣!!!」

突き刺さる音
頭部に深く突きこまれた、ほろにがの刀
頭蓋骨を貫通し刃の根元まで突き刺さった刀
虚ろな蜘蛛の瞳が、ほろにがを見ていた

「クカカカ、これが…俺の、求メテ…イタ…」
「地獄に戻れ、クソ野郎」

その言葉に呼応するかのように
鬼哭の身体はその形状を維持することが出来なくなったかのように
徐々に煙と化し、爆散した
ほろにがはそれを見届けると懐からタバコの箱を取り出した
だけど箱からはタバコは出てこずにほろにがは箱を握りつぶし
そして壁に背を預け座り込んだ

「ちぇっ…ついてねーの…」



時計塔の下、無数の剣を切り払い慟哭を追い詰めていく白やん
慟哭は宙を舞い、剣を出しては白やんへと向かわせる
だがその全てが白やんへと届かずに
切り払われ、白い光を残して消滅する

「なんだこの人間は…!人間如きが…!」
「例えお前の剣が無限であったとしても俺の命に届くことは無い」
「ふっ…ざけるなぁぁぁああああ!!人間如きがぁぁあああああ!!!」

慟哭のローブの下から覗く無数の刃
今までとは違い圧倒的な数
次々と現れる剣は塊、1つの巨大な剣を形成する

「666本の剣が全て貴様に向かう!!
 いくら貴様でも666本全てを切り払うのは不可能だろう!!」
「…」

白やんの表情は揺るがない
全てを貫くであろう666本の剣から成る1本の巨大すぎる剣
それを目の当たりしても白やんはただ静かに佇む

「終焉だ!!」

剣が、白やんへと向かう
白く輝く鎌の刃を見た白やんは少しだけ笑った
迫り来る剣に臆することなく呟く

「…なぁたまゆら、お前が強くなった理由
 今わかった気がするよ…
 俺に足りなかったのは…きっと…」

白やんが構える
その目に宿る、強い意志
誰にも折ることが出来ない覚悟の力

「散れ!!」
「…ジャッジメント・オブ・デス!」

狂死刃ホワイトデスジョーカーが光輝いた
そして、振りぬかれた刃から発射される光弾
否、それはもはや弾ではない
あまりにも巨大な、全てを飲み込むかのような光の塊
周囲を眩く照らし、黒く巨大な剣すらも飲み込んでいく
その光の中で慟哭の声が響く

「馬鹿なッ!!なぜ!なぜ人間如きが我らに対抗できる!!」

砕けるように消えていく666本の剣
やがて白い光が消えて行く
光が消えた時、慟哭の目に写ったのは地面に膝をつく白やん

「…グッ…」
「ふ…ははははははは!!
 どうやら今ので体力が尽きたようだな!」
「まずいな…血を流しすぎてる…」

その時、白やんの足元から黒い手が突き出してくる
黒い手は白やんの足を掴んだ

「!?」
「下級どもか…!いいぞ!そのままそいつを掴んでおけ!!」

慟哭のローブから現れる剣
まるで流れ落ちる滝のように次々と現れ宙へと浮かぶ
ドームのように白やんの周囲を包み込む

「…これが俺の最強の技
 1000本の剣が敵を包み込み串刺しにする」
「…仲間ごと串刺しにするつもりか」
「敵を滅するためには犠牲は付き物だ
 御託はもう充分だ!串刺しになってしまえ!!」

1000本の刃が、一斉に白やんへと向かう
白やんの鎌が、足元の下級堕人を切り裂いた

「無駄だ!もう避けることは不可能!
 全方向から来る1000本の剣を切り払うことも不可能だ!!」
「…全部切り払う必要は無い」

白やんが正面に向かって走り出す
全てを埋め尽くす刃に向かって

「ジャッジメント・オブ・デス」

先ほどよりかは小さい光を正面に向かって撃ち出した白やん
剣のドームに、穴が開いた
白やんは体勢を低くした

「甘い!1000本からなる剣の包囲は崩せん!!」

穴がすぐに塞がれる
だが白やんは表情を変えずにそこにもう1発の光弾を発射する
しかしそれで開いた穴もすぐに塞がれる

「無駄だ!」

そう叫んだ慟哭
その正面の剣が弾け飛び、そこから何かが飛び出した
それは、鎌の先端
虚を突かれた慟哭だがかろうじてそれを避ける
だが鎌は軌道を変え、慟哭の腕に鎖をからませた

「なにッ…!?
 だがこれも無駄だ!何をしようとその包囲からは抜けられない!!
 これで俺の動きを封じたつもりだろうが逆だ!
 お前のほうが動きを封じられたのだ!!」

剣のドームが、収束していく
だが慟哭の正面、鎖が出ている部分が白く光り輝き出した
そして剣が弾ける
包囲網を抜け、飛び出した白やん
右手を前に突き出し、迫り来る剣の力を全て殺し、剣の包囲を抜けて
慟哭が、声にならない声を微かにあげた

「な…」
「光弾は鎌の先端を包囲から抜けさせるために
 "膜"を薄くするため必要だった
 あとは鎖に引っ張られて死の右手で急所を庇えば抜けることは出来る」

鎖に巻き取られ、一直線に慟哭へと向かう
ガキン!と白やんの持つ鎌から鎖が外れる
完全な、死の射程距離
白やんが鎌を振りかざした

「我が人間如きに…やられるというのか!?」
「お前の運が悪いことは3つある
 信じあえる仲間がいなかったこと、相手が"俺達"だったこと
 そして…俺の逆鱗に触れたことだ!!!」

白やんの鎌の刃が、横一文字に慟哭を切り裂いた
だが止まることはなくそのまま今度は縦に
そして右下から左上に、右上から左下に
新たに剣を出す暇すら与えない空中での連続の斬撃
そして斬れば斬るほどに輝きを増す刃

「断罪の時だ、慟哭」

慟哭の腹部に刃が深く突き刺さる
白い輝きが慟哭のローブや、フードから溢れ出す
慟哭の痙攣が振動となり鎌へと伝わる

「ジャッジメント・オブ・デス!!」

体内に直接撃ち込まれた白き死の輝き
光に押し潰されるかのように慟哭のローブが徐々に霧へと姿を変える
溢れ出す光は全ての闇を包み込む
その光の中で慟哭の絶叫が響き渡る

「何故…何故、何故ぇぇぇえええええええええ!!!?」
「俺はもう、1人で戦っているのではないからな」
「チ、ク、ショ、オォォォォオオオオオオオオオオオォォォォォ…」

ボフッと音を立てて慟哭の身体が全て黒い霧と化す
光は収束し、あたりは静けさを取り戻していく
それは人にも、堕人にも、全ての者に平等に降り注ぐ死の静寂
地面に着地する白やん
同時にその口から赤い鮮血

「…どうやら…ここまで…か…
 だけど…どうしてかな…お前なら必ず勝てると…思えるよ…
 任せた…ぞ…戦友たち…」

その言葉を残し
白やんは地面と倒れこんだ
白く輝く死神の鎌が月光を反射していた


白やんと慟哭の戦いの最中
校庭では黒き破壊の炎を撒き散らす哀哭と1人の鬼が戦いを繰り広げていた
焼け焦げ、穴だらけの大地、まさに地獄の如く
その地獄で円舞曲を踊るように戦い続ける2人
宙を走る黒き焔、それを避け、哀哭へと向かう鬼面夜叉

「…貴女はとても強い
 ですが私がノスフェラトゥ様から受けた命令は最後の封印の処理
 故に私は貴女がどんなに強かろうと倒さねばいけません」
「…」

返事はせずに、ヤチャマルは哀哭へとひたすらに突き進む
哀哭は静かに続ける

「ただ放つだけでは避けられるのはすでに理解しました」

その発言の後
哀哭の身体が真横に高速で動いた
黒く焦げ付き、煙を浮かばせる地面

「真横への高速移動…?」
「真横だけではありません」

バシュッ!という音
そしてジグザグに高速で移動しながら哀哭はヤチャマルへと接近する
そのまま放たれる黒い焔
正面へと転がるように避けるヤチャマル
弧を描くように真横から背後へと続く地面を削る音
真後ろから響く哀哭の冷たい声

「焼滅しなさい」

ヤチャマルの背後から迫る何かが風を切り向かう音
振り向かずともそれが何かは理解できる
全てを焼き尽くす暗黒の焔
タン、タン、タンと、3つの音
次いで地面が抉られる破壊音
正面へと転がるように抜けたヤチャマル
だが地面を削るような音が真後ろから側面へと

「人である限り、私についてくることは出来ません」
「…チッ」

ヤチャマルの視界に微かに映る哀哭
その靴から黒い炎が噴出している
大地を焼け焦がす炎の噴出
それがあらゆる方向への高速移動を可能にしていた
鬼の面の下で、ヤチャマルが言葉を紡ぐ

「…昔なぁお前みたいに上からの命令を淡々とこなす奴がいたんだ
 善か悪なども考えず、ただ命じられたままに作業のようにこなす奴がな」
「何を言っているのですか?」
「お前の結末が、見えるって意味かな」
「…理解しかねます」

哀哭の靴から、今までの数倍とも言える炎が噴出した
異常な加速、まるで哀哭そのものが弾丸のようにヤチャマルへと向かう
その右手は黒い剣と化し、左手には揺らめく暗黒の焔
まず放たれたのは焔、ヤチャマルを焼き尽くすべく一斉に放たれる
避ける場所など無いかのように広がる焔
だがヤチャマルの目は唯一、避けられる場所を見つける
右に飛び、その唯一の回避ポイントへと向かう

「そう、逃げ場はそこしかない
 だからこそ私の右手が貴女を殺れる」

正面に、冷たく微笑む哀哭
その右手が、滑らかに、振り下ろされる
乾いた音が響く
すれ違いざまの1撃を放った哀哭が少し離れた場所で止まる
間を置かず、何かがカランと地面に落下する
それはすっぱりと斬られた鬼の面の右上部分

「…紙一重で避けましたか…
 それと…カウンターで私の腹部に1撃…」
「普通なら倒れてるはずなんだけどな」
「…そうですね、人間なら、倒れているはずです」
「はぁ…どーしたもんか…」

ヤチャマルが困ったような声をあげる
哀哭は口元に手をあてしばらく考えるような素振りを見せる
…そして口元から手を離し冷たい声で呟く

「風哭、鬼哭、慟哭…そう…やられたのね…」
「何?」
「…どうやらもう遊んでいる暇はないようですね…
 温存しておきたかったのですが…貴女に使いましょう」

哀哭の両手が空へと向けられる
両の袖口から螺旋を描き空へと向かう黒き帯
するすると帯と帯とが絡まりあい
空中に巨大な"何か"を形成する
それは黒き巨人の上半身
圧倒的な、大きさを誇る全てを破壊すべく哀哭によって生み出された者
冷たい声がまた響く

「デウス・エクス・マキナという言葉をご存知ですか?」
「聞いたことはある」
「ラテン語で"機械仕掛けの神"という意味です
 そしてこれこそが私の作り出した、デウス・エクス・マキナです」
「フン…」
「さぁ終わりにしましょう
 機械仕掛けの神の1撃は誰であろうと防ぐことは出来ません」

巨人が動く
その右腕を天高く振りかざす

「クッ…!!」

哀哭へと走り出すヤチャマル
だが、振り下ろされる巨人の手から抜け切ることが出来ない
巨人の咆哮が大地を、空を揺るがす
全てを叩き潰す鉄槌が、ヤチャマルへと迫る
その時だった
何処からか放たれ、巨人の頭部へと向かう黒い光の弾
空を切り裂き周囲に螺旋状のエネルギーの奔流を巻き起こす黒き光弾
それが、巨人の頭部へと命中し爆発した
巨人の腕が止まった
身をよじるように動いた巨人、その指先が徐々に塵と化していく
哀哭の叫び声、その声には驚愕、動揺

「馬鹿な…!?
 デウス・エクス・マキナのエネルギーが撃ち消され…て!?
 そんなこと…ノスフェラトゥ様以外に出来るわけが…!!」
「そんな顔も出来るんじゃないか」
「!?」

哀哭の目の前で構えるヤチャマル
右手の掌が、哀哭の腹部にゆっくりと押し当てられた
殴打ではなく、ただ優しく、包み込むように

「夢想…!光鬼発勁!!」

爆発音のような腹腔に響く音
周囲が一瞬、明るく輝く
そして、哀哭が、崩れ落ちる

「な…ぐッ…」
「はぁ…はぁ…」

哀哭の表情が焦るように変化する
今までの哀哭からは想像もつかない表情の変化
それは自らの身体が動かないという恐怖から来る物

「なぜッ…!たかが腹部への打撃で…!
 なぜ身体が…ピクリとも動かないの…!?」
「…」

ヤチャマルが鬼の面を投げ捨てた
カラン、と音を立て鬼の面は地面を転がり
…そして砕けた

「夢想光鬼発勁は体内で練り上げた気を相手の体内に撃ち込む俺の最終奥義
 人であろうと、機械であろうと、何であろうと
 直撃を受けて動ける奴はまずいないさ
 …というか普通なら即死するような威力だけどな」
「くっ…」
「最も…これを使うとな…俺の気もほとんど枯渇するんだ…
 もう…動けねぇなぁ…」

そしてヤチャマルがその場に倒れこむ
黒き巨人、デウス・エクス・マキナの残滓がただ宙を舞っていた
戦いの終結を知らせるかのように


そして…

堕人を率いる狂った王と戦い続ける…

「ノォォォォスフェラトォォォォォォオオオ!!!!!!」
「ククッ…!!!」

黄龍鉄甲を振りぬく
ノスフェラトゥは時にゆるやかに、時に素早く避け続ける
奥歯をかみ締め、ただノスフェラトゥを倒すために拳を振り続ける
コイツのせいで…コイツのせいで風太はまた…!!
風太だけじゃない…コイツがいたせいで多くの悲しみが生まれた…
コイツだけは絶対に俺が!!

「目覚めろッ!!!白虎ォォォォォォォオオオオ!!!」

叫ぶと同時にノスフェラトゥへと向かう
ズタズタに切り裂いてやる!!!
お前のせいで生まれた…
いくつもの悲しみ…怒り…涙…
嘆き…痛みを…思い知れ!!!
爪が、ノスフェラトゥの身体を切り裂いた
後ろへと吹き飛ぶ、いや、自ら飛んでいくノスフェラトゥ
その着地地点に倒れている2人
ヤチャマルと…アレは…哀哭?
砂煙をあげてノスフェラトゥは2人の真ん中に着地する
哀哭が声をあげた

「…ノスフェラトゥ様…」
「…どうやら全滅か…
 やはり頼れるのは自分だけ…かぁ」
「お願いします…今一度私にチャンスを…
 私は…貴方様のお力に」

哀哭の言葉を最後まで聞くこと無く
ノスフェラトゥはその鋭い爪を哀哭の背中へと突き立てた
迷いなく、ただ"処理"するかのように

「…ノ…ス…」
「2度目など、無い」
「…い、いやァァァァァァアアアアァァァアアアアアァァァ…」

哀哭の絶叫、頬を伝う、黒い涙
その身体がゆっくりと黒い塵と化していく
しなやかな身体も、身に纏っていた黒いメイド服も
何もかもが塵と化す
俺は動けなかった、今初めて俺はノスフェラトゥという存在の恐ろしさを認識した気がした
ノスフェラトゥがこちらを向き直った

「たまゆら、本気で行くぞぉ?
 覚悟はいいか?」

手の震えを握りこむように抑え込み
俺は返事をした

「覚悟するのは…お前のほうだ!!!」
「…どのみち大いなる者と迎合するのは俺だけでいい
 我らは全にして個、個にして全だからな」
「ふざけるなぁッ!!!」

ノスフェラトゥへと飛びかかる
白虎の爪を振り下ろす
ガキィン!と金属音
信じられなかった
誰が相手だろうと全てを切り裂いていた白虎の爪が、止められていた

「な…!?」
「…ククッ…」

ノスフェラトゥの反対側の手の爪が振りぬかれる
白虎の力を持ってしても避けれない
否、手を掴まれ、避けることが出来なかった
振りぬかれた爪は、俺の身体の肉を切り裂いた
スローモーションに動く世界で、飛び散っていく俺の赤い血
同時に白虎の力が消えていく感覚
そして切り裂かれた身体に突然襲い来る激痛

「がッ…」

思わず左手で傷口を抑える
身体が前屈みになったその瞬間、傷口に更なる衝撃
視界に映ったノスフェラトゥの足
後ろへと吹っ飛び、地面に背中から叩きつけられる
痛みを押さえ込みすぐに立ち上がろうとする
だが強い力で後頭部を地面に叩きつけられた
視界がゆがみ、気持ちが悪い、頭がクラクラする
すぐ頭上からノスフェラトゥの声が響く
ノスフェラトゥは俺の頭を足で地面に押さえつけていた

「…お前は本当に今までよくやってくれた
 だからこそ、私が本気で、直々に手を下してやる
 限りある命で足掻け、そして脳に刻み込め
 不死なる者、ノスフェラトゥ、その強さを」
「…けるな…」
「何?」
「ふざけるなぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!
 目覚めろッ!!玄武!!!」

光が弾け、ノスフェラトゥが飛び退く
俺は立ち上がる

「こんな痛み…どうってことない…!!
 …お前を倒さないと…痛みは止まらない…!!
 だから俺は…どんなに痛くても…止まるわけには行かないんだ!!!」
「…ククッ…いいだろう…
 ならばお前には更なる絶望を与えよう…」

ノスフェラトゥが天を仰ぎ両手を広げた
空を切り裂く焔…空が…燃えていく!
天を埋め尽くす劫火はまるでこの世の終わりのような光景
紅蓮の業火に埋め尽くされた空
ゆっくりと、ノスフェラトゥの手が動いた

「…何をする気だ!!!」
「絶望しろたまゆら!!」

俺がノスフェラトゥへ向かって走り出したと同時に
天を漂う紅蓮の業火は地上へと降り注いだ
まるで流星のように、結界に穴を開け
地上へと降り注ぐ
校庭のあちこちで爆発が巻き起こる
業火は、敵も味方も関係無く無差別に降り注ぐ

「やめろぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

ノスフェラトゥへと黄龍鉄甲を振る
弾かれる衝撃、無理やり押さえ込みもう1撃
だが、ノスフェラトゥは後ろへと飛び退く
着地し、小さな笑い声をあげる

「聞こえるか、たまゆら?
 お前の仲間の悲鳴が?」
「…!」
「そしてホラ、空を見てみろ」

ノスフェラトゥが指を指す場所
空中に浮かぶ黒い球体
球体の周りが歪んでいるようにも見える

「…あれは重力制御で作り出した極小ブラックホール
 徐々に落下し、地面に辿り着いた時にこの学園を飲み込むだろう
 無論、最後の封印が隠れている寮もな…」
「…テメェ…」
「落下まで10分と言った所だ
 さぁ、抗ってみせろよぉ?」

頭の中で、何かがブチリと切れた音がした気がした
周囲に降り注ぐ業火のせいだけじゃない、身体が熱い
両の目は最早ノスフェラトゥしか見えない
俺は、もう何もいらない
ただ1つだけこいつを倒すための力が欲しい
全ての悲しみを止めるために、全ての絶望を終わりにするために
何を失っても…こいつだけは…!!!
こいつ…だけはッ…!!!
右手が、震えだす
違う、震えてるのは…黄龍鉄甲…?
黄金色の光が、黄龍鉄甲から溢れ出す
暖かい…光…脈打つような力の意志…
声…声が聞こえる…

『真なる目覚めの時
 完全なる覚醒、お前はそれを望むというのか?』

望むッ…!!
それでこいつが倒せるというのなら…!!

『…ならば聞け
 破邪の拳に秘められし究極の力…
 その力の名は――…』


「どうしたぁ…?
 戦意喪失か?」

ノスフェラトゥがゆっくりと俺に近づいてくる
俺は顔をあげた

「…ノスフェラトゥ」
「んん?」
「…もう、お前の声は聞きたくもない」
「どういう意味だ?」
「…目覚めろ…!!!黄龍ゥゥゥゥウウウウウ!!!!!」



金色の光が、弾けた
衝撃の波がノスフェラトゥは後方へと吹き飛ばす

「グオオッ!?」

黄龍鉄甲が形を変える
質量を無視した、変形、否、増殖
変形を繰り返し右腕全体を覆う黄龍鉄甲
それだけには留まらず、鉄甲は鎧と化し、全身を覆っていく
両腕には、如何なる物も切り裂く黄龍の爪を携えた拳
両足に、大地すらも掴む黄龍の爪
あらゆる攻撃を弾き返す黄龍の龍鱗の如く神々しく輝く鎧
黄龍鉄甲の究極の力…
いや、違う、これこそが黄龍鉄甲の本来の姿
全身を巡る躍動感、熱くたぎるような血液
淡い金色の光で周囲を優しく照らしつつも荒ぶるような力を感じる
これが…四神を統べる、黄龍の力…!
吹き飛ばされたノスフェラトゥが立ち上がる
そして、俺を見る

「…その姿は…」
「ノスフェラトゥ…!!行くぞ!!」

地面を蹴ったと同時に離れていたはずのノスフェラトゥがすでに目の前
脚力とかそういう問題では無く、瞬間移動にも近いようなその動き
蹴り出した地面が砕けるほどの勢い
咄嗟に右腕を振るう
黄龍の爪が、ノスフェラトゥの身体を切り裂く
次に左腕
こちらも容易にノスフェラトゥの身体に食い込み、裂く

「ゲハァッ…!!」

後ろへと吹き飛んで行くノスフェラトゥ
その勢いは校庭を端から端へと突っ切り校舎の壁に激突する
コンクリートにヒビが入り、その部分がまるで鉄球を叩きつけられたかのようにヘコむ

「馬鹿なッ…なんだこの威力はぁ…!」
「ノォスフェラトォォォォ!!!」
「クッ…!!!」



結界の外では皆が姫と神楽君の協力によって避難していた
堕人の軍団との戦いと降り注ぐ紅蓮の業火によって全員が満身創痍の状態だった

「…誰かが戦ってる」

そう呟いたのはしげるだった
ぽん、としげるの肩にえび助が手を置いた

「…たまゆら君しかないだろ」
「あの業火の中でたった1人で…」

燃え盛る業火に阻まれ結界の中は見えない
それでも響く戦いの音
その場にいる誰もが理解していた
全てを背負い、業火の中で戦っているのは誰なのかを

「クッ…!」
「待て、剣三郎…
 足手まといになるだけだ」
「しかし…」

結界の中へと戻ろうとする剣三郎を黒やんが静止する
気持ちは誰もが同じ
それでも今行けば足手まといになるだろうということは誰もが理解していた
ただ祈ることしか出来ない自分たちが悔しくてしょうがない

「…たまゆら君は、必ず勝つ」

桃花がそう小さく呟いた

「当たり前じゃないですか」

蝶はそう返事を返す
それでもその手は震えている

「僕達の想い…託します…」

透過が小さく呟き、祈るように手を組んだ
それを見た雷雲も恥ずかしそうに手を組んだ
気がつくと、誰もが手を組み祈りを捧げていた
仲間の、勝利を祈って



「グォォォォッ…!!」

焼け付いた地面を転がっていくノスフェラトゥ
右手の鉤爪は砕け、その身に纏うマントもすでにボロボロになっていた
全身につけられた黄龍の爪による傷跡
そこから赤い血が流れ出す

「…クソッ…ブラックホール維持のために重力制御は使えない…
 この力…対抗できぬ…!!」
「お前の負けだ、ノスフェラトゥ!!」
「舐めるなァァァァァァアアアアア!!!!」

ノスフェラトゥが左手の鉤爪を振りかざし向かってくる
俺は両手を前に突き出した
ずっと聞こえていた
皆の声が、俺を想う気持ちが
だから、俺は負けない
負けるわけには、いかないんだ!!!

『頼みましたよ、たまゆらさん!』
『俺達の、いや、この学園の未来、たまゆら君に託すぜ!』
『生きて帰ってきてよ!たまゆら君!!』
『本当の正義ってのはきっと君なんだ!』
『そのムカつく奴、ぶっ潰してくれよ!』
『俺達はいつだって共に戦ってる』
『俺を倒したんだから、必ず今回も勝ってくれるよな!』
『たまゆらさん、貴方を信じた僕は間違ってなかったと証明してください!』
『終わらない悪夢なんて無い!きっと終わる!』
『たまゆら、学園を救ってくれ…束縛ではない、真の解放で!』
『お前ならきっと出来るさ、なんたって俺が認めた奴なんだからな!お前は!』
『全部終わったら…サボりぐらいは許可してやんよ!』
『また…お弁当作るから、皆で食べようね』
『たまゆら君が時空を超えて俺に会ったのは…
 きっと…意味があったんだろうな…
 今、全てに終わりを!!』

想いに答えろ、黄龍鉄甲、そして、俺の想いをこの一撃に乗せろ
全ての根源を滅殺しろ!!!

「…黄龍」
『待て、たまゆら!!』
「…ゆき兄!?」
『仮面だけを狙え!』
「…わかった!」

ノスフェラトゥが迫り来る
仮面だけに狙いを定め

「たぁぁぁまぁぁぁゆぅぅぅらぁぁぁぁあああああ!!!」
「黄龍烈破滅閃双撃破ァァァ――――――!!!!」


両手より放たれた金色のエネルギー
細く絞られた全ての邪を粉砕する究極の力は
ノスフェラトゥの仮面に直撃した

「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
「グガ…ガ…!!
 馬鹿なッ…!この威力…人が出せる出力を遥かに超越して…!!」

全エネルギーを仮面へと叩き込む
今ならわかる、俺が執行部と戦い続けた意味が
戦いの中で知った皆の想い、記憶の欠片が揺ぎ無い絆を生み出して
その想いが、力に変換されて行く
これが、本当の黄龍鉄甲の使い方
四神の力で誰かと繋がり、黄龍の力でその想いを束ね
そして、全ての敵を滅殺する!!

「ウゥゥッァァッ…!!!」

ノスフェラトゥの仮面にヒビが入る
爆発的なエネルギーに晒されているノスフェラトゥは動くことが出来ない
仮面から覗く目、そこには異常な程の憎悪
だけど、恐れるわけには行かない!!!
例えお前がこの世界全ての憎悪
をぶつけて来たとしても
共に戦う仲間がいる限り、俺は決して何も恐れない!!!



『たまゆらさん!行きますよ!』
『たまゆら君!これで終わりにするぞ!!』
『たまゆら君!私達の持てる力の全てを君に!』
『受け取れ!たまゆら君ッ!』
『こいつを2度とこの世に出させるな!たまゆらぁッ!!』
『この身が砕けようとも…たまゆら!君と共に戦う!』
『全部持ってけ!俺の力を!たまゆらぁッ!!』
『たまゆらさん!使ってください!僕の力全てを!!』
『どんな存在にも必ず砕ける場所は存在します!たまゆらさん!受け取ってください!!』
『俺の力、お前に預けたぞ!』
『もっていきな、たまゆら!正真正銘俺の最後の力だ!!』
『鬼の力、お前ならきっと使える!受け取れ!』
『きっと、私の力も…たまゆら君ッ!!』
『消えることなど怖くはないッ!だから最後まで君と共に!』

「うぅぅぅぅぅオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「まだ…出力が上がると言うの…かぁぁぁぁあ!!?」

金色の光がさらに輝きを増す
周囲に旋風が巻き起こり石や砂が舞い上がる


『終わりにしようぜ、たまゆら』
「ゆき兄…」
『全ての想いが束ねらる一瞬に全てを乗せて撃ち込んでやれ』
「ああ!!!」
「ぐぅぅぅぅぅ…!!」
「終わりだ!!ノスフェラトゥ!!!!」





『究極黄龍破邪滅閃双撃龍波ァァァ――――――!!!』



全ての闇を撃ち砕くかのような爆発的な黄龍のエネルギー
その全てがノスフェラトゥの仮面に直撃した
仮面を分断するかのように、大きな亀裂が走った
そして、ノスフェラトゥの絶叫

「グゲェアァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
 アアァァァアァアアアアアアアア…!俺ハッ…!!不死ナル者…!!
 ナゼェ!!ナゼ俺ガコンナッ…!コンナァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

仮面が、亀裂に覆われ
ノスフェラトゥの身体が糸の切れた人形のように力を失った
そして、黄龍鉄甲からのエネルギーの射出が途絶える
空に浮かぶノスフェラトゥの作り出した極小ブラックホールがゆっくりと消滅していく
全てを焼き尽くすはずだった業火もその勢いを急速に失って行く
やがて、ブラックホールが完全に消滅する
同時に黄龍の鎧は元の黄龍鉄甲へと戻る
俺の身体から力が抜け、地面に膝をつく

「ハァッ…ハァッ…
 勝った…ついに…勝ったのか…!?」

ノスフェラトゥは動かない
ただ立ち尽くし、微動だにしない

「…タ、マ、ユラァァァ…」
「なッ!?」

こいつ、まだ…!?
立ち上がろうとするが力がまるで入らず立ち上がれない
焦っている俺に折れた鉤爪を向け
亀裂まみれの仮面の下でノスフェラトゥは途切れ途切れの声で続ける

「ワレハ…フシナルモノ…
 カナラ…ズ…マイモドリ…キサマヲ…コロ…ス…
 カナラ…ズダ…ナンドデモ…ナンドデモ…!!
 キサマノマエニ…アラワレ…グ…ガッ!!」

バキィンと音が響いた
ノスフェラトゥの仮面が粉々に砕け散った
仮面の下に現れた顔
それは、俺のよく知る顔

「…ピュア…?」

ピュアは、そのまま地面へと倒れる
動かない身体を必死に動かしピュアへと這いずって近づく
肩に手をかけ、必死に揺さぶる

「ピュア…どうしてお前が…
 どういうことなんだよ…!?」
「う…」
「ピュア、おい!」

ピュアがゆっくりと目を開く
その瞳が俺の顔を見る

「たまゆら君…」
「ピュア…どうしてお前が…?」
「ここは…どこだ…?
 僕は…何をしていたんだ…?」
「覚えて…いないのか?」
「…時計塔…」
「え?」

ピュアの手が、俺の手を掴んだ

「時計塔の地下…
 この学園は…やっぱり…」
「な、何言ってるんだ?」
「う、ゴフッ…」

ピュアの口から大量の吐血
その血が、俺の頬に散る

「ピュ、ピュア…」
「僕は間違って…いなかっ…グッ、ゴボッ…」
「もう喋るな!」
「…止め…なくちゃ…」
「ピュア…おい…
 ピュアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」





18時限目 - ノスフェラトゥ -




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最終更新:2009年11月01日 03:18