邪眼学園黄龍譚19限目【真実にて猛る最強の力】前編
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暗い通路、まるで地の底へと続くような
埃っぽく冷たい空気を蓄えた石の通路
僅かな蝋燭の灯りだけが先を照らしている
足音が反響し、ただ闇へと向かう俺の心をざわつかせる
やがて俺は少し開けた場所へと辿り着いた
広場、その真ん中に立っている男
「…来た、か」
「高橋…なんでここに…」
「戻る気は?」
俺は静かに首を横に振った
暗く、冷たい、広場
その真ん中で後方に在る扉を守るように高橋が、構えた
「…誰1人この先に行かせるわけにはいかない
例え相手でお前であろうと」
「聞かせてくれ、この先には何があるんだ?
お前がそうまで守る物って…」
「…この先には…全ての始まり…
そしてあの日、沢山の罪が生まれた場所…」
「…」
「…堕人は消えた…お前の活躍によってな
これ以上足を踏み入れることはただの蛇足だ…
それでもお前は、この先に進むと?」
高橋の目に宿る確かな、覚悟
暗い広場の中でもわかる
魂の輝きを宿した、悲壮なまでの覚悟
何者にも折ることが出来ない意志の力
だけど、その覚悟を持ってるのは、高橋だけじゃない
「…俺はただ…知りたいんだ…
全ての始まりと言われるそれが何なのかを…」
「真実を暴くことで幸せになれるとは限らない
知ってしまえば更なる痛みと生み出すだけかもしれない」
「…そうだな…
そんなこと…もう痛いほど…味わってきたよ…
でも、それでも、退き下がるわけにはいかないんだ
…どうしてもここを通さないと言うなら…
高橋、お前を…倒す」
俺は黄龍鉄甲を構えた
それを見た高橋はため息をついた
「…風哭、いや、風太だったか…」
「!?」
「あいつにトドメを刺したのは俺だ
その事実は受け入れよう…
だから、本気で来い、俺も本気でお前を止める」
高橋の周囲の空気が凍りついたかのように一変する
その身体が何倍も大きくみえる
全身に突き刺さるような、殺気
…本気なんだ、高橋は
本気で俺を殺してでも止めるつもりなんだ…
身体の中で何かが熱く、滾る
交錯する視線、ぶつかり合う殺気と殺気
意志と意志、どちらが上回るのか
答えを見つけようと、高橋と俺は互いに互いの命へと走り出した
11/18(土) 午後
保健室のベッドの上で眠り続けるピュア
倒れてからずっと眠りっぱなし、聞きたいことは山ほどあるのに聞きだす術は無い
微かに語られた断片は時計塔の地下、その言葉
60年前で俺が見た時計塔の地下にあった巨大な機械…
そして現代の地下にある大穴…
ピュアは、何を知っているんだろうか
そして「止めなくちゃ」その言葉の意味は…
…いや、俺が本当に知りたいのはそんなことじゃない
眠り続けるピュアの身体を掴む、シーツにしわが出来る
「…お前が…ノスフェラトゥだったのか…?
それとも…何かの間違いだったのか?」
それだけが、ただ知りたい
なぁ、目を開けてくれよ、それで笑顔で「違う」と言ってくれよ…
お願いだから、お願い…だから…
保健室のドアが開く音、足音は近づいてくる
振り向かずに俺はシーツを強く掴み、頭をうずめていた
肩に置かれる手
「…たまゆら」
顔をあげ振り向くとそこにいたのは白やん
心配そうな顔、その表情は以前の白やんからは決して想像することは出来なかった
「気になるのはわかる
だけど少しは休んだほうがいい」
「…そう、だね」
小さく返事をして俺はまたピュアのほうを向いた
静かな寝息を立て続け、その口は何も語ることは無い
後ろから白やんのため息が聞こえた
「…少し、話したいことがあるんだ」
「何?」
振り返らずに俺は聞き返した
「…ここじゃ話せない
少し、来てくれないか?」
「…わかった」
俺は立ち上がり、白やんと共に保健室から出た
廊下を歩き、連れて行かれたのは生徒会室。
部屋に入ると白やんは椅子を出した、机の上にコーヒーが置かれた
一口ほど口をつけ、俺は白やんに聞いた
「それで、話したいことって…?」
「…」
白やんが窓の外を見る
太陽の光に薄く照らされるその横顔
ゆっくりと、白やんは喋り始めた
それは全てを覆すかのような、真実
手から、コーヒーカップが落ちて
陶器の割れる音、絨毯に広がる黒い染み
「…冗談、だろ?」
「いや…全て本当だ…」
「は、ははは…」
なぜか、乾いた笑いが零れ落ちた
呆然とする俺に白やんは続けた
「もしも、全てを知りたいと言うなら…」
「…?」
「…少し待て」
そう言うと白やんは机から紙とペンを取り出して
何かを書き始めた
地図、のようなものか…?
「ふむ」
書き終えたのか白やんはその紙を俺に渡してきた
やはり、地図、学園の…?
「あれ?」
見ているとどうもおかしい
あるはずのない通路が書かれている
その通路の先には大きな部屋が書かれている
こんな通路と部屋ってあったかな…?
「そこに行け」
「え?」
「…ただ、そこで何が起こるか、俺には予測不可能だ」
「…」
それだけ言うと白やんは黙ってしまった
紙をポケットに入れると俺も無言のまま生徒会室から出る
…この場所に、全ての真実が?
とりあえず一旦寮に帰ることにする
寮の前まで来ると見覚えのある顔が立っていた
「たまゆら君…」
「リカちゃん…ど、どうしたの?」
不安そうな顔のリカ
思わず何があったのかを聞いた
「…ゆき兄、どこ行ったんだろうと思って
焼肉パーティーのときからいなくなって連絡もつかないし…」
「…」
確かに、ゆき兄はあれ以来どこかに消えてしまった
だけどノスフェラトゥとの戦いの時、黄龍を発動させた時にゆき兄の声は聞こえた
どこにいるのかはわからないけど、少なくとも死んでるというわけじゃあない
「…大丈夫だと思う
もう生徒会も堕人もいないわけだし」
「あ…そっか…そうだよね…
ただどっかでブラブラしてるだけなのかな?」
若干リカの顔に余裕が戻った
「多分そうだと思うよ
そのうちひょっこり帰ってくるんじゃないかな?」
「…うん、そうだね…」
納得したリカは俺にお礼を言って女子寮へと戻っていった
とはいったものの、本当にどこに言ったんだろう
相談したいことは山ほどあると言うのに…
何か、ゆき兄が行った場所の手がかりになるようなのは…
11/18(土) 夜
俺は今、ゆき兄の部屋の前にいる
もしかしたら部屋にいるかもしれないという淡い期待を抱いて
だがすでに10回はノックしている
それで反応が無いということは間違いなく部屋にはいないんだろう、室内からは物音一つ聞こえない
何の気なしにドアノブに手をかけてみる
ゆっくりとドアノブを回して引いてみる
予想に反して、ドアが開いた
「開いてる…?」
少し躊躇したが別に泥棒しに来たわけでもない
あくまでも突然いなくなったから心配して手がかりを探しにきただけだ
うん、そう、だからとりあえず中に入るべきだ
1人で勝手に納得して部屋へと入る
「真っ暗か、電気電気…」
壁のスイッチを押して電気をつける、2度の明滅の後蛍光灯によって部屋が照らされる
…部屋は相変わらず汚かった
コーラの缶とペットボトル、スナック菓子の袋や服などががあちこちに散乱し
ベッド脇には漫画が塔のように積まれ今にも倒れそうになっている
この部屋からあるかどうかもわからない手がかりを探すのは無理な気がする…
ふと、汚い部屋の中で不自然に生理整頓された机が目に入った
まるでそこだけ空間ごと切り離されたように
「…?」
気になって机に近づくと数冊かのノートが置いてあった
表紙には何も書かれてはいない
勝手に見るのはどうも気が進まないが、不自然なまでに整頓された机の上に置かれたノート
それがどうしても気になり、適当な1冊を手に取った
少し見て戻せばいい、どうせゆき兄のことだからくだらないことしか書いていないはずだ
そう思いノートを開いた
そこには日付と、何行かの文字
「…日記か…ゆき兄ってマメに日記書くような奴じゃないと思ってたけど」
だが別に毎日書いてるわけではないようだ
途切れ途切れに、酷いときは1ヶ月ぐらい日付が飛んでいる
とりあえず日記なら大したことは書かれていないだろう、あまり人の日記を見まくるのもいい気分じゃない
ノートを閉じようとした時、ある1文が目に入った
見間違いかと思い、もう1度確認する
『20XX 5/21
特異な形状をした堕人が現れる
戦闘能力は今までと比べ物にならないほど高い
どうやら他にもこのような奴らがいるらしい
便宜上、上級堕人と称す』
「…!?」
自分の目を疑った、しかし何度見ても見間違いではない
日付は、1年前の5月21日
ゆき兄はこの頃から堕人を知っていた?
いや、知っているどころかこの文章はまるで戦ったかのような…
慌てて他のページも調べて見る
ノートに綴られた過去の字列、そこに必死に目を走らせる
机の上に置かれた全てのノートを開き、そこに書いてある文章を片っ端から読んでいく
途中から日記形式では無くなり、無数の文字がビッシリとページを埋め尽くしている
大半はひどく乱れた殴り書き、その中から必死に判読可能な文章だけを探していく
『衰弱が激しい、これだけでは駄目だ』
『解決策が思い浮かばない
考えれば考えるほど頭が痛くなる』
『根本的な解決ではない』
『楔』
『堕人の出現にはやはりアレが関係している可能性は高い』
『生徒会による深夜の校舎への侵入の禁止
順ずる校則違反の罰の強化
迷い出た堕人の殲滅、状況安定』
『酷く眠い、だけど眠れない』
『図書室、資料、陰陽、五行思想
仮説、強すぎる陽に引かれた陰、それが堕人』
『思い違い、極面に目を奪われている可能性』
『60年前、軍の施設、しかしそれ以上は出てこない』
『×引かれた
○元からいたものが目覚めたもしくは出てこれるように』
『状況、依然安定』
『生徒会への不満が高まっている
反動が来ないことを願う』
次々とページを捲っていく
心臓の鼓動はまるで早鐘を打つように異常なほど早い
奥歯がカチカチと音を立てる
なんなんだ、これ…一体ゆき兄は何をしようとして…?
そして、非常に見慣れた文字が俺の目に飛び込んできた
『転校生、たまゆら、10円』
『たまゆら、器として覚醒、運命と言えば聞こえはいいが…』
『保護』
『困ったことになった
可能性が無いわけではないが賭けるには余りにも分が悪い』
『楔が抜ける、早く決断しなくてはいけない』
『賭けてみよう、たまゆらに
しかし背負わせるにはあいつは優しすぎる
もしもの時は…』
『しばらく剣を使うことになりそうだ、皮肉なことだ』
『ノスフェラトゥ』
『なぜ名前を知っていたか?』
『恐らく堕人
しかし何か他とは違う、統率者か?』
『黄龍の意志、不確定因子
残された時間は僅かだということだろうか』
『カルディアからヒントを得る』
『決着がつけば楔が全て消えることになる
最終封印が残ってるとしても過去の状態と照らし合わせると…
様子を見に行ったほうがいいかもしれない』
それ以降は何も書かれていなかった
後には白紙のページが延々と続いている
呼吸を整えようとするがうまくいかない
一体これは何なんだ、これは本当にゆき兄が書いたのか…?
もしそうだとしたら…これじゃまるで最初から全部知っていたような…!
俺はノートを机の上に置いた
見るんじゃなかった。そう思った
静かな水面に投じられた小さな石、だけどそれは心をかき乱すには充分すぎた。
不安が、胸中を満たしていく
「…最後の一文、様子を見に行ったほうがいいって…
ゆき兄はそこに行って…?
でも、どこなんだ…?あっ…」
ポケットに手を突っ込む
指に触れる紙、そっとそれを取り出す
白やんの言う、全てを知れる場所…
もしかして、ここなのか…?
??/??
「うおぉぉぉぉおおお!!」
「…」
俺の攻撃を高橋は完璧に避けていく
その回避には一片の無駄は存在しない。
完全なる必要最小限の動きで全てを避ける、高橋はほとんど動いてないに関わらず黄龍鉄甲はかすりもしない。
一瞬頭に沸く焦り、その瞬間腹腔が爆発したかのような衝撃。
視界から高橋が遠ざかる、背中に感じる風、そして、全身の骨を直接殴られたかのような、痛み。
蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた、それだけは理解できた。
「うっ…ゴブッ…」
口の中に生暖かい大量の液体
それを血と判断する前に、正面の空中で足を振り上げる高橋
「目覚めろッ!玄武ッ!!!」
黄龍鉄甲の玄武の力を目覚めさすと同時に両手で高橋の足を防ぐ
腕を襲う、"壊滅的"な威力の衝撃
その衝撃が俺の立っている場所の石で出来た床を砕く
なんだこの威力…!?玄武じゃなかったら腕ごと砕かれてる…!
「回復と同時にガードか…
随分的確な判断が出来るようになったんだな」
「たっ…かはしぃ…!」
足を離し、距離を取る高橋
その身体から何かが噴き出しているのが見えた
黒い、炎のようなものが全身から発せられている
「まさか…お前も能力者だったのか…?」
「…確かに力はもらった、だが」
そこまで高橋が喋った時
視界が反転した
宙を舞う、俺の身体、そして追撃しようと襲いかかる高橋
「俺はただ、身体能力が人の限界を超越した、それだけだ」
振り上げられる高橋の右足…
鉄を突き破り、コンクリートを砕き、そして…風太を殺した…
破壊の、化身
防ぐ術無く、破壊の化身は無情に俺の身体を撃ちぬいた
何も理解出来ぬまま、俺の身体は地へと向かい
硬い床に叩きつけられ、床を砕き、大小様々に砕かれた床石に埋もれる
「あ…ああ…」
伸ばす手が、虚空を切る
立ち上がることが出来ない、意識が、途切れ…
うまく呼吸が出来ず、呼吸しようともがけばもがくほど広がる血の味
溺れるような苦しさ、痛みが駆け抜け、それが意識を奪い去ろうとする
必死に繋ぎ止めたところで身体は動かない
途切れそうな視界の端に見える高橋
「ノスフェラトゥを倒したお前の力はその程度のものなのか?
ここまで来たお前の覚悟はそんなちっぽけなものなのか!?
お前が今まで背負ってきた想いは俺1人に押し潰されるようなものなのか!!」
そんなわけ、ない
俺はッ…俺が今まで背負ってきたのは…!
俺の、俺の覚悟は…!!
手が、ピクリと、小さく、確かに動いた
そしてそれが全身へと伝わり、ゆっくりと、だけどしっかりと俺は立ち上がった
それを見た高橋が小さく笑う
そうだ、こんなところで、負けるわけにはいかないんだ…!!
必ず、真実を掴む、だからこそ俺はここに来たんじゃないか…!
なのにここで倒れるわけにはいかないんだ!!
「使え、たまゆら
ノスフェラトゥさえ圧倒した黄龍の力を!
お前が持てる力の全てを出し切られないと俺は越えられないッ!!!」
静かに、黄龍鉄甲を構える
出来るかな、ノスフェラトゥの時は半ば無我夢中だったけど…
いや、出来るさ…だって俺はもういつだって…
どんなときでも、1人で戦っているわけじゃないから
戦いの中で見つけた絆を信じられたなら、いつだって黄龍はその想いに答えるから
だからきっと、俺は高橋に勝てる
勝たなきゃいけないんだ!!!
「目覚めろッ――!黄龍ッ!!!!」
黄龍鉄甲から金色の光が溢れ出し、変形する
両腕は如何なる物も切り裂く黄龍の爪を携えた拳
両足は大地すらも掴む黄龍の爪
あらゆる攻撃を弾き返す黄龍の龍鱗の如く神々しく輝く鎧
全身を駆け巡る熱く滾る血液、動かずにはいられないほどの身体の奥から沸いてくる躍動感
ノスフェラトゥすらも圧倒した、究極の力
「行くぞ、高橋」
蹴り出したと同時に床石が砕けた
ノスフェラトゥの時と同じ、飛び込んだと思った時にはすでに高橋は目の前
右腕を振るう
だが、高橋は上半身を捻り、それを避ける
いや、完全に避け切れてはいなかった
僅かだが黄龍の爪が高橋の服を切り裂いた
「あぁぁぁあああ!」
間髪いれずに左腕を叩き込もうとする
そこに高橋の足が来る
「舐めるなッ!!!」
黄龍の爪と高橋の蹴りがぶつかり会う
金色の光と黒い炎が弾け飛び、暗闇の広間を照らし出す
「うぉぉぉぉぉおおお!!」
「連牙双脚!!!」
両の拳を高橋へと振るう
高橋は両脚でその全ての拳を蹴り弾く
敵の攻撃を弾き、自らの攻撃を相手に叩き込もうとする応酬
金色の光と黒い炎はまるで線香花火のように弾けては消え、弾けては消え
黄龍の力に互角に渡り合う高橋
高橋と攻撃を撃ち合う度にその蹴りから伝わる高橋の想い
「絶対にこの先には誰も行かせるわけにはいかない」、その覚悟が、高橋の力を数倍に引き上げていることが理解できた
だけど、何度も言うけど…
「俺だって生半可な覚悟でここまで来たんじゃない!!!!」
一際大きい金色の光が弾ける
まるで闇に咲き誇る金色の華、美しく、儚く、あまりにも神々しい
より強い力で蹴りを弾かれた高橋がバランスを崩す
そして出来る、高橋の胴体へと攻撃を直撃させるライン
「食らえッ!!!」
渾身の力を右腕に込め振りぬく
完全に通る、間違いなく直撃だ
そう確信した時、顔に衝撃
上半身が横にずれ、渾身の1撃は直撃せずに僅かにかするように命中する
そして逆に俺の身体に黒い炎をまとった高橋の脚が直撃する
黄龍の鎧越しでも充分すぎるほどの威力が俺の身体に伝わる
後ろへと吹っ飛ぶが今度は壁に叩きつけられる前に衝撃を殺し、滑るように着地する
いや、それよりも…!
「クソッ…」
高橋の手が、ポケットから外に出ていた
蹴り技しか使わず防御も脚でこなす高橋、手は回避の時以外はポケットから出ていることは無かった
その高橋が直撃を避けるためといえど手を使い俺を攻撃した
つまりそれだけ追い詰められたってことだ…
だけど素直に喜ぶことは出来ない、脚だけでほぼ互角の戦いだったというのにそこにさらに手からの攻撃が加わるとなると…
…いや、簡単じゃないか
攻撃が激化するというなら、それを更に上回ればいい
今までの俺なら無理だった、でも今の俺なら…!
「たまゆらァァァァアアアアア!!!」
高橋が、纏う黒い炎、立ち上るそれはまるで黒き龍
両脚に加え、両腕、4つの武器から繰り出される怒涛の攻め
どんな防御も貫き、敵と絶命させる
だけど、俺はそれを全て弾く
腹部を穿とうとする高橋の脚を、俺の脚が弾き飛ばした
「馬鹿なッ…この蹴撃、俺と同じ…!?」
「お前に使えて俺に使えないことがあるかぁぁぁあ!!!」
1撃、1撃、残像を巻き起こすほどの高速の攻撃を弾き飛ばす
徐々に、殆ど分からないほどゆっくり、だけど確実に高橋の攻撃速度が低下を始める
何百発の撃ち合いをした者にしか分からないほどの変化
黒い炎と金色の光に混じり、赤い何かが飛び散っていく
それは血、黄龍の力と生身で撃ち合いを続けた高橋の脚と腕に蓄積されたダメージ
限界を越えたダメージに耐え切れなくなった高橋の身体
それは裂傷、打撲、断裂となり、撃ち合いの度に皮膚が裂け、血を周囲に撒き散らす
苦痛に歪む高橋の顔、それでも攻撃は止まらない
「もうッ…やめろッ…!!」
「グッ…オォォォオオオオオオ!!」
もう、最初の頃のような攻撃のキレは完全に無くなっていた
どれだけ強い力を持っていようがあそこまで傷ついてしまえば…
なぁ、お前はどうしてそこまでして…
正直俺はどうしようもなかったとしても風太を殺したお前が、やっぱり許せない
だけどもしお前をそこまでさせるほどの覚悟の理由がこの先にあるというのなら
やはり、俺は行かなくちゃいけない、そして、見なくちゃいけない
だから俺は、お前を…
俺の右足が、後ろへと下がる
高橋の右足も後ろへと下がり、攻撃が停止する
この1撃で勝負をつける、互いがそう思った
高橋の四肢より零れ落ちる、いや、流れ落ちる血液が床に血溜まりを作っていく
やがて、血溜まりが、跳ねた
左足を軸に、渾身の力を右足に込め、相手の身体に叩き込む
ほぼ同時の発射、だが…
「…!?」
先に相手の命へと辿り着いたのは、高橋ではなく俺の足
そして衝撃で後ろに吹き飛ばされた高橋の攻撃は俺に命中することは無かった
宙を舞い、遥か後方へと吹き飛び壁へと叩きつけられる高橋
壁石が砕け、それだけでは飽きたらず衝撃で出来た亀裂が天井にまで到達する
「ガッハッ…!」
高橋の口から大量の吐血
それが白いシャツの胸元を赤く染め上げた
黒い炎は、すでに消えていた
同時に黄龍の鎧は鉄甲へとその形を戻していく
勝った、という実感は沸かなかった、ただ何故か無性に悲しくなった
それと同時に周囲が揺れた、いや、揺れたのは部屋
天井へと走った亀裂が広がっていき、その隙間から土が零れ落ちる
広場が、崩れていく
頭上から、ひときわ大きい何かが崩れた音
見上げると、崩れた天井、大量の瓦礫、降り注ぐ
まずい、避けれな…
そこに飛び込んだ、黒き龍、自らの血で赤く染まる足が、瓦礫を粉々に砕く
「…え?」
高橋が着地すると同時に何かが折れるような音
右足が、ありえない方向へと曲がっていた
「ぐぅっ…!」
「高橋!」
高橋が俺を睨み、叫んだ
「勝ったんだろお前は!!行け!!
言って全てを知って来い!!!」
「でも…高橋お前も…!」
そこまで喋った時
高橋は俺の胸元を血に染まる手で掴んだ
そして小さな、だけど確かな声で言った
「俺の覚悟を、踏みにじるな」
身体に強い衝撃
高橋の左足が、俺の身体に叩き込まれた
吹き飛んだ先にあったのは扉、高橋が守り通そうとした扉
身体が叩きつけられ、扉が大きく開き、通路に投げ出される
「何をッ…」
慌てて立ち上がり崩壊を続ける広場へと戻ろうとする
そこに、叫び声
「来るんじゃない!!!!
お前が俺を倒したのは振り返るためか!!?
ここはまだ道の途中だ!お前が目指すべき場所はその先だ!!!」
「だからって…見捨てられるわけないだろ!!!」
「…お前は、甘すぎるんだよ
だけど、その甘さはアイツが忘れてしまったものだ…
忘れるしかなかった、それでも…アイツは…」
瓦礫が、ドアの前に大きな音を立てて落下した
隙間から見える広場も最早広場とは言えない、瓦礫の、山
「行って来い、そして出来るなら、あいつを救ってやってくれ
俺には、出来なかった、結局俺も加害者でしかなかったんだ
…頼んだぜ、たまゆら」
高橋が、笑った
全ての憂いを吹き飛ばすように、初めて高橋が見せた笑顔
だけど、どうしてだろう、その笑顔はまるで死に向かう者が見せた最後の…
瓦礫が、まるで滝のように
俺の目の前に落下した瓦礫が完全に通路と広場を遮断した
「高橋ィィィィイ――――――――!!!!!
うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
もう声は聞こえない
ただ、崩れ落ちる崩壊の音だけが瓦礫越しに聞こえる
いつしかそれも止み、残るのは静寂のみ…
瓦礫を見つめる俺の瞳から零れ落ちる、涙
どうして、泣いているんだ?俺は…?
高橋は風太を殺した張本人なのに、どうしてこんなに…
「悲しい…んだよ…!!
ちく…しょぉぉぉ…!!」
流れる涙を止めることも出来ずに、地面に膝をつき
ただ、泣き続けた、理由もわからずに…
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最終更新:2009年11月09日 01:34