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邪眼学園黄龍譚19時限目【真実にて猛る最強の力】


11/18(土) 深夜

白やんのメモに導かれ、廃屋街へとやってきた
どうやらここから謎の通路に侵入できるらしい
倒壊した家と家の隙間、メモを確認するとやはりここ
地面を注意深く調べる、するとどうも感触がおかしい一角を発見した
土ではない、なんだか硬すぎる
表面の土を払っていくと鉄板のようなものが現れた
近くの廃材をひっかけてテコのように鉄板を引き上げる
鉄板の下には地下へと向かう続く階段、その先はまるで深淵に続いているかのよう
暗闇をポツリポツリと照らす壁に設置された蝋燭
…蝋燭に火がついているってことは、誰かがこの先に?

白やんから渡された紙を握りつぶす
ゆき兄、やはりここにいるのか…?
漂ってくる冷たい空気とカビたような匂い
それが余計に心中の不安を煽って行く
誰か呼んでくる…?いや、全員堕人との戦いの傷で消耗しきっている
3日立ったといえ完全に回復しているとは言えない、何が起こるか分からないこの先に連れていくことはできない
黄龍の力を受けて回復している俺じゃないと…
深呼吸して気持ちを落ち着ける
そして、俺は深淵へと続く階段へと踏み出した
その先に在るであろう、真実を目指して

??/??

瓦礫と化した広場を背に、俺は通路を進み始めた
もう戻ることも出来ない、ただ先へ進むしかない
壁画に囲まれた、人1人がなんとかすんなり進める程の狭くるしい通路
ふと、壁画に目をやる

「…これは、虎?」

反対側の壁画に目をやる
そこには炎を纏ったような鳥のような絵
さらに歩を進めると、巨大な亀のような絵
そして身体を捻っている龍の壁画
間違いない、これは四神の絵だ
だがなぜ四神の絵が書かれているのか?
黄龍鉄甲と関係があるのか…いや、無いほうがおかしいだろう
…今考えるのはよそう、この先に行けば全てがはっきりするはずだ
俺はまた先へと進みだした
長い、長い通路、まるで永遠に続いているかのような
もしこの先が行き止まりだったら?などという縁起でも無い想像をしてしまう
胸を埋め尽くす、どうしようもない不快感
それらを必死に抑え込み、出来るだけ何も考えないように必死に先へ先へと歩みを進める
どれだけ歩いたのか、何時間?何十分?それとも数分?
俺の目の前に扉が現れた
その扉には朱雀、白虎、青龍、玄武が彫られていた
まるでこの先に全ての答えがあることを示しているように
ゆっくりと扉に手をかけて、力を込める
ギィ…と音が響き、開いた扉の先から灯りが漏れてくる
ガタン、と一層大きな音を響かせ、完全に扉が開いた

「すっ…げぇ…」

それしか言葉が出なかった
その部屋は天井や壁に幾つもの松明が設けられ
周囲の壁は炎によって出来た灯りを煌きと共に反射する
黄金で彩られた壁、天井、床、幻想的な光景
長方形のように部屋は奥へと続いていた
煌きの中をゆっくりと奥へと進んでいく、まるで別世界に迷い込んでしまったように現実感が希薄だ
やがて奥に何かが見えた
それは、黄金で作られた、龍の彫像
部屋の最奥の壁を背に鎮座する、まるで神像
その足下に作られた祭壇のような場所、そこに、"彼"が座っていた
いつものように、お気に入りのジュースを飲みながら

「ゆき兄ッ…!」
「来るな」

走り出そうとした俺をゆき兄が制止した
その声は、今まで聞いたことも無いような、魂すらも凍てつかせるような冷たい声
驚きからか、それとも声に込められた力からか
何かはわからないが、俺の身体は動きを止めた
グシャリと、ゆき兄はコーラの缶を握りつぶした
そして小さく喋りだす

「俺とお前が出会って、まだたったの3ヶ月だ
 …長いようで短い時間、なのにこの3ヶ月でいろんなことがあった」

俺は黙ってゆき兄の話を聞いていた
そうするしか出来なかった、ゆき兄から発せられる雰囲気が俺にそうせざるを得ないという状況に陥らせていた

「俺は忠告したよな、校則は守れよって…
 …本当ならお前の横槍がなければ全てはいずれ解決するはずだった」

何を言って…

「…確かに、ここまでのお前の活躍は素晴らしかった
 堕人を殲滅し、学園の闇を全て払ったかには見えた
 …だけど覚えているだろ?与えられた情報だけを妄信してしまった結果、堕人の枷を完全に外してしまったことを
 同じさ、黄龍鉄甲とは何なのか、なぜ堕人が現れるようになったのか
 疑問に思いながらも自ら知ろうとはせずに戦い続けた
 お前は、また与えられた情報以上のことを知ろうとはしなかったんだ」

記憶に残るどこかで聞いた言葉…
『お前がやっていたことは目的とはまるで逆
 与えられた情報だけを盲信してしまった結果』
どこで、この言葉を、俺は聞いた?
違う、覚えてる、覚えてるけど、認めたくないだけだ…
認めてしまえば、俺は…

「…黄龍とは、超自然エネルギーの集合体
 本来言葉で表すことは不可能だが便宜上"黄龍"と称されているだけに過ぎない
 そして黄龍の器とは膨大な量の超自然エネルギーを先天的に身に宿せる者のことを言う
 世の理が乱れた時、黄龍は現れ、導かれた器は黄龍を宿し、世の理を正す…
 黄龍鉄甲は器に与えられる、黄龍の力を引き出すための媒介としての役割を果たす」

違う、違う、違う…!
嘘だ、嘘だ、嘘に決まってる!
これじゃまるで、まるでゆき兄が…!!!

「聞いたんだろ?
 白やんから、生徒会のこと」
「!!」

そう、聞かされた
生徒会室で、俺は…


11/18(土) 午後

手から、コーヒーカップが落ちて
陶器の割れる音、絨毯に広がる黒い染み

「今、何て言った…?」
「…生徒会長、書記、会計
 1つだけ足りない役職がある…生徒副会長…」
「そいつが、まだ残ってるっていうのか!?」

語尾を荒げ、白やんに問う
白やんは静かに首を横に振った

「違うんだ、たまゆら
 …俺の本当の役職は邪眼学園生徒"副会長"」
「ってことは…」
「…本当の生徒会長が誰かは俺も知らない
 彼はいつも顔を隠して、マントで全身を覆っていたから…
 あの人は俺に死の力と、他者の能力を覚醒させる力を授けて
 生徒会を作り、そして堕人から学園を、きのこさんを守れと…
 あとはたまに、指令が来たり、接触して指示をくれたり…
 …隠していてすまなかった…だけど言うわけにはいかなかったんだ…」

信じられない、だけど、白やんの顔は真剣そのもので
嘘をついてるとも思えない
俺は、信じられなくても信じるしかなかった
それでも一縷の望みを賭け、もう1度、聞きなおした

「…冗談、だろ?」
「いや…全て本当だ…」
「は、ははは…」


??/??

白やんから聞いたこと
そして全てを知れるというこの場所
そこにいたゆき兄、これらから導き出せるのは…

「それじゃあ…じゃあ…」

聞きたくは無い
だけど、聞くしかなかった
俺の、望んだ答えが返ってくることだけを願う
でも、返ってきたのは、あまりにも無情な

「…俺が、邪眼学園生徒会長だ」

なん、だよ、それ…
それじゃあ、今まで全部、知ってたのかよ
知ってて、ずっと、遊んでいたのか?
一緒に戦ったのも、死にそうになってたりしたのも、全部、演技だったとでも言うのかよ
認めない、そんなの、認めない…!!
認める、もんかッ…!!!

「…世の理を正す、と言ったが
 黄龍を宿した器に与えられるのは全てを支配するほどの圧倒的な力だ
 ……俺はそれがどうしても欲しくてな
 お前がいなければ今頃俺の物になっているはずだったんだが…」
「…ゆき、兄ィィィ…!!!」
「見ろよ」

ゆき兄が背後から何かを取り出す
それは、とても見覚えがある形

「黒い、黄龍鉄甲…?」
「…俺も器なんだよ、黄龍のな、お前と違う点といえば俺は陰に属する黄龍の器…
 ただ器として目覚めた時点じゃ黄龍を宿しきるのは不可能でな…
 力を蓄えつつそのうち宿してやろうとしたが…お前が来やがった
 器が2つ在っては黄龍の力が2分しちまう
 だから古より器が2人現れた時はそいつらは戦う運命なんだよ」
「それって…」

ゆき兄が祭壇から飛び降りた
その手に、黒い黄龍鉄甲を装着して

「俺らも戦わなくちゃいけないってことだ」

ゆき兄の言葉が、胸に突き刺さる
戦う、ゆき兄と?今まで共に戦ってきたのに?でもそれは全部嘘?俺はずっと騙されていた?
わからない、わからないんだ…信じたい、けど…!!!
俺は…俺ッ…はッ…!!!!
深い闇に落ちていくような感覚、何を信じるべきなのかもうわからない
でもその時、頭に浮かんだ言葉
『与えられた情報だけを盲信してしまった結果』
『よく考えろ、そして決めろ、歩むべき道を…』
そうだ、まだ、全てを信じるには早すぎる
与えられた情報だけを妄信するな、考えろ、今のゆき兄の話だけじゃ納得いかないところがある
語られる言葉だけが真実じゃない、戦うことで見える真実だって存在する

「…違う」
「何?」
「ゆき兄は、まだ何か隠してる…!
 そうじゃなきゃ今までのことに説明がつかない!!」
「全部フェイクだよ…全部な」
「嘘だァッ!!!!」

声を荒げ、全身全霊を以て否定の叫び声
全身がビリビリと痺れるような叫び声の余波
ゆき兄は何も言わず
静かに、黒い黄龍鉄甲を構えた

「嘘だと思うなら、身体に分からせてやる
 真実の痛みって奴をな」

俺もゆっくりと黄龍鉄甲を構える
どちらも動かずに、ただ一瞬たりとも目を離さずに相手を見続ける

「…力づくでも…!本当のことを喋ってもらう!!!」
「やってみろ」
「目覚めろッ!!白虎ォォォォォォォッ!!!!」

白虎の力を発動させると同時にゆき兄へと向かう
白き虎の爪がゆき兄へと振りぬかれる
その爪が、受け止められる

「なッ…!?」

振り解けず、それがブレーキとなり、不自然に足が地から離れ宙へと浮く
背中に、衝撃、同時に手を離され、そのまま正面の壁と叩きつけられる
白虎の力が消えていく…何が、起こった…!?
クラクラする頭を抑えながら壁から離れもう1度ゆき兄に向き直る
何も無かったかのように、ゆき兄はただ佇んでいる

「圧倒的攻撃力と速度で敵を翻弄する白虎の力…
 だがその分防御力は犠牲になる
 そして最大の武器である速度が逆に動きを読まれると最大の弱点になる」

ただ淡々と説明するゆき兄
クソッ…!ゆき兄こんなに強かったのか…!?

「目覚めろッ!朱雀ゥゥゥゥゥッ!!!」

発動と同時に天井近くまで上昇する
ゆき兄はただこちらをじっと見つめてる
1撃で決めてやれば…!!
羽根から炎が噴出し、灼熱の空気を生み出す

「朱雀爆炎大焔帝!!!」

炎が右腕に収束する
同時に翼から放たれた爆炎が圧倒的な加速力を生み出す
右腕を突き出し、炎のエネルギーを全て叩き込む!!
一直線に向かう炎の矢、それを目の当たりにしてもゆき兄は眉一つ動かさない
それが逆に、ひどく不気味に感じた

「くだらねぇ」

小さくゆき兄が呟いた
同時に最早寸前まで迫っていた俺の拳をゆき兄の黄龍鉄甲が
とても自然に、まるで虫を追い払うかのようにとても軽く、弾いた
拳がズレ、力の方向がズレるそして、視界には壁
状況を理解する暇すら与えてくれず、全身を襲う衝撃と熱、爆風
大きな穴が開いた壁、全身を襲う激痛、朱雀の力が…消える…
ぼやける頭にゆき兄の声が響く

「使いどころをよく考えろ
 爆発的推進力ってある意味諸刃の剣だ
 こんな狭い場所で使えば少し力の方向をズラされただけで今のお前みたいに容易く自爆に繋がる」
「ク、ソッ…!!!」

立ち上がるとパラパラと砕けた石が地面に落ちる
全身の皮膚が引きつれるようでとても動きにくい
倒れそうになりながらも必死に立ち上がる
それを見たゆき兄はいつものように、めんどくさそうに言った

「…次は?」
「…目覚めろッ!!玄武ゥゥゥゥ!!!」

玄武の力が発動すると共に身体の痛みが一気に引いていく
これで行ける!そう思った時、目の前に、黒い塊
脳を揺さぶる鋼鉄の拳
身体に叩き込まれる直接骨を砕くような連撃
内臓すらも突き破るような、研ぎ澄まされた1撃
玄武の防御能力と超回復能力すらも上回る殺戮の連続攻撃
何も出来ない、まさしくそんな状況でただ攻撃に身をさらし続けるしか出来ない
やがて、玄武の力が途絶える
そして、吹っ飛んでいく世界、違う、飛んでいくのは俺
天井、激突、落下、床、また激突…

「か、はッ…!?」

攻撃が、まるで見えない
頭に1撃受けて意識が飛びそうになったとはいえ…そんな…!

「超回復能力を持つ相手を倒すには1撃で即死させるか
 回復能力を上回る程の勢いで攻撃し続けるか、そのどちらかだ」
「クッ…!目覚めろ青龍ゥゥゥゥゥ!!!」

黄龍鉄甲が分離しビットがゆき兄へと向かって行く
なんとか上半身を起こす
放たれる無数の光弾、ゆき兄がこちらに向かって走り出した
だが距離は充分にある、この距離ならビットの光弾を当てる余地は充分にある!!
左に右に高速で動き、ゆき兄へと光弾を発射するビット
着弾と同時に巻き起こる小さな爆発すら避け、ゆき兄はひたすら俺へと向かってくる
だが光弾の1つが、確実な命中するラインへと乗った
背後からの1撃、避けることは不可能、やったか!?
だがゆき兄は走りながら身体を回転させ、振り向きざまに光弾を黒い黄龍鉄甲で弾き飛ばした
そしてそのまま何も無かったかのように俺へと向かってくる

「避けられるのは避けて
 どうしても当たるものは弾けばいい、普通だろ?」

普通、確かにそうなのだが
無数に乱射される光弾の中から自分に当たる物だけを見切るなんて…
しかも背後だぞ、あり得ない…!
充分だと思った距離は、もう後僅かしかなかった
迫り来る、黒き鉄槌、湧き上がる、恐怖

「うわぁあああああああああ!!!」

一際大きい光弾が、ゆき兄の背後から発射された
それは必死に自分を守ろうと放った光弾
ゆき兄が、飛んだ、いや、舞った
爪先をかする光弾、そして光弾を過ぎ去るより早く、黒い黄龍鉄甲が光弾へと叩きつけられた
光弾は軌道を変え、向かう先は、俺
視界が青白い光に染まっていく、そして…全身を焼け焦がすような痛みと、鼓膜を突き破るような爆音…

「自動追尾で発射するってのは
 ま、こういうことも起こるんだぜ?」
「うっぐっ…」

強すぎる…なんだよ…この力、こんなの…反則じゃないか…
圧倒的すぎる…

「舐めんなよ、たまゆら
 俺も黄龍の器だぜ?そしてお前より歴は長いんだ
 例えお前が全力で来たとしても俺は倒せねぇよ」

全力で、来たとしてもか
そうだ…まだ、全力じゃ…ない…!!
まだ残ってる…まだ可能性はある!
俺は立ち上がる、ポタ、ポタと足元で血が跳ねる

「目覚めろッ――!黄龍ッ!!!!」
「来るか…黄龍の力…」
「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」

金色の光の爆散と同時にゆき兄へと突っ込む
金属音が響き渡り、俺の拳とゆき兄の黒い黄龍鉄甲がぶつかり会う
弾き飛…ばない…!?互角なのか…!?
何も変化していない黄龍鉄甲で黄龍と渡り合えるっていうのかよ!?

「…やっぱり」

ゆき兄が呟いた

「何だよ!」
「お前は俺には勝てないわ」
「どういう――!?」

右腕が、弾き飛ばされた
一気に押し込まれた力に耐え切れず、真上へと弾き飛ぶ
ゆき兄の顔は無表情、ただ無意識に何かを為すように
その黒い黄龍鉄甲が、視界を遮る
顎を救い上げるように、下から上へと
足が地面から離れ、宙へと浮き上がる浮遊感
視界が真っ白になり、一瞬の間を置いて床へと落ちる
黄龍の力でも、駄目、なのか…!?そんなのって…!

「…やはり駄目か」
「な、ん…」

声は、声にならない
かすれるような途切れ途切れの言葉しか出てこない
立ち上がろうとしたが、足に力が入らない
必死に立ち上がろうとして転倒するを繰り返す俺を見ながらゆき兄が言った

「…俺の黄龍鉄甲にはお前みたいに沢山の変形は無いんだ
 俺の変形は一つしかない…」
「えッ…!?」
「猛り狂え、黄龍――」

黒い風、いや、衝撃波が周囲を揺らす
痺れるような空気、金色ではなく、黒き光を放つゆき兄の黄龍の鎧
あまりにも美しい黒き光は、俺と同じように一種の神々しさを併せ持っていた
しかし違うのは、放つ光の圧倒的な量の差
淡く周囲を照らす俺の金色の光とは違い、周囲を飲み込むかのように眩い黒い光
本能が告げる、絶対的な力の差
同じ力を扱うものだからこそ分かる、決して埋めることが出来ない差
その目が、赤く輝き、絶対的な黒の中で自らの存在を誇示する
これが、ゆき兄の黄龍鉄甲…

「アァァァァ――…」

それは、唸り声なのか、それともただの呼気の振動なのか
その声に触れる者全てを一片の欠片も残さず焼き尽くすと錯覚するような絶大なるエネルギー
動けない、白やんの時のようにイメージに縛られて動けないんじゃない
爆発的に放射される形の無いエネルギーが波動となり"物理的"に身体を押えつける
そんなことありえるはずがない、だけど現に俺は動けず、叩きつけられるようなエネルギーを感じていた
まるで床に磔にされたように、指の1本すら思い通りにならない
猛り狂う、俺と同じ、だけど圧倒的な力、それがゆっくりと近づいてくる
心臓の鼓動が、とても大きい、呼吸する音が頭蓋骨に響く
とても勝てる気がしない、いや、そんな次元の話じゃない、力の桁が違いすぎる
逃げるか?逃げ道なんてないだろう?じゃあどうすればいいんだよ!!
1人で自問し、1人でパニクって…俺は何がしたいんだ…!
勝たなきゃいけないのに…勝たなきゃ…!!

「ぐっ…おぉぉぉおお…!」

右腕に渾身の力を込める
押えつけてくる力に抵抗し、ガクガクと震えながら
掌をゆき兄へと向ける、チャンスは今しかない
油断してる今、全エネルギーを叩き込むしか方法が思いつかない
それでどうなるかはわからない、それでも地に膝をつけるぐらいは出来るかもしれない
ノスフェラトゥさえ圧倒した、黄龍の力を…!叩き込む!!

「黄龍烈破滅閃双撃破ァァァ――――――!!!!」

右手の掌から放たれた金色の光
ノスフェラトゥの動きすら封じ、撃ち倒した爆発的エネルギー
それがゆき兄へと一直線に迫る
黒い炎が弾け、金色の飛沫が散る
無表情で、右手を突き出したゆき兄、そこに命中した金色の究極の破邪の力
力は、そこでまるで壁にぶつかったかのように上下左右へと爆散する
ゆき兄は届かない、片手で俺の全てのエネルギーを受け止めている
勝て、ない、何をしても、俺は、ゆき兄に、勝てない
想像、予想、未来、そのどれでもない、それらのどれよりも確実な事実
心が絶望に閉ざされていく、戦う気力は削がれて行く
そんな俺の心に呼応するかのように金色の光のエネルギーの放出が止まる
右腕が、落下し、ガツンと音を立てて床に転がった
もう力が、入らない…

「…それじゃあな、たまゆら
 信じないかもしれないけどな、お前と友達になれてよかったと思ってるよ
 器とか、そんなものが無ければ…きっと俺は…」
「ゆき兄ッ…!俺…!」
「だが、これが現実だ、捻じ曲げられることは決して出来ない真実
 可能性という無数の世界から選ばれたたった一つの世界
 …どんなに残酷で、無情だとしても決して変えられはしない!!」

ゆき兄の身体から放たれていた黒い光が収束した
来る、俺と同じ、最強の力
最も威力は俺の何倍、いや、数十倍、数百倍?
だけどすぐに考えるだけ無駄だと悟った、どのみち、負ける

「お別れだ、たまゆら
 …今まで、ありがとう」

ありがとう?何で今更そんなこと言うんだよ…
意味分からないよ、分からない、けど…
俺は知ってるんだぜ?
…冷たいフリして、他人の痛みなんか知らないフリして、やってられかってフリして
でも、それが全部嘘で、本当は、誰よりも…!
それすらも嘘だとは、俺は絶対に思えない
この3ヶ月で、沢山の君を見た、共に戦い、共に笑った…!
偽りなんかじゃない、確かな暖かさを俺は感じた、だから…だから…!
力の入らなかった拳に暖かさを感じた、痛いほどに強く握った拳が紡ぎだす覚醒の力

「…黄龍冥撃夢幻黒蓮破ァァァ――――!!!」

黒い、全てを覆い尽くそうとする、破壊の力
部屋すらも飲み込んでしまいそうな極大エネルギー
もしこれが、君がずっと、1人で抱え込んできたものと言うなら…!!!
この闇から君を救い出す!!!今までと同じように!必ずゆき兄を救う!!
絶対の、絶対の、絶対にだッ!!!!

「究極黄龍破邪滅閃双撃龍波ァァァ――――――!!!」
「なにッ!?」

俺の身体から放たれた金色の光が黒い炎と激突した
周囲に金と黒と撒き散らし、拮抗する2つの波動
荒ぶる2つのエネルギーの激突が大気を奮わせ衝撃波を生み出す
松明が倒れ炎が消える、それでも放たれる2つのエネルギーの輝きが部屋を照らし続ける
夢か現か、ぶつかり合う2つの力の狭間に揺れた景色

それは倒れている人の中で、何かに抗い続ける、ゆき兄の姿
自らの足に剣を突き立て、苦悶の表情を浮かべながらも覚悟を持ったその瞳

『器が我に逆らうかァァアアアアア!!』
「俺たちの世界は俺たちが作るんだ!!
 お前の出る幕なんか無い!消えろォォォオオオオオ!!!」
『消えろ、か、ハハハハハッ、無様だな!
 人ごときが森羅万象より産み落とされた我を消滅させることなど出来ぬ!』
「…クッソォォォオオオ!!」

景色が、変わる
血まみれの少女を抱き、自らの血に染まり
涙を零し続ける、ゆき兄

「ちくしょ…おっ…なんで…こんな…!!
 俺はッ…!俺はぁぁああああああああああ!!!
 あぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

絶叫、込められた痛いほど伝わる悲痛な想い
断片的な記憶から伝わる過去の事実
ゆき兄、何があったんだ…どうして…話してくれなかったんだ…!
俺が弱いから?もっと、もっと強ければ、話してくれたのか?
強く、なるから、俺はもう誰にも負けないから…!負けないから!!!

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!!」

金色の光が更に増大する
それはまさに闇を貫く流星

「尽きることなく無尽蔵にエネルギーを増大させていく…!
 これがッ…たまゆらの強さ…!!だけど…」

ゆき兄の黒い炎が爆散し、一気に収束する
俺の金色の光が徐々に押され出す、いや、飲み込まれていく
これでもまだ…足りないのか!?

「俺には届かない」

黒い炎が金色の光を貫いた
そしてそのまま黄龍の鎧すらも…
黄龍の鎧すらも貫く爆発的なエネルギーが全身を"噛み砕く"
5体が引き裂け、爪の先まで砕け散るような感覚
鼻腔を突く、肉が焼けるような匂い
意識に"穴"が開く、泡が弾けて消えるように"穴"はどんどん増えて…
全てが闇に落ちる寸前に聞こえた、強く、悲しい声

「…お前には、黄龍の力と宿命は重過ぎる…」

意味を問おうとしたが
だけど、もう俺の口から言葉は出なかった
最後に見たのは、悲しそうにうつむく、ゆき兄の顔



19時限目 - 真実にて猛る最強の力 -



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最終更新:2009年11月09日 01:35