??/?? 黄龍降臨の間
「何を考えているんだ?」
天下がこちらを見ていた
相変わらず口元には微笑
「いや…」
「もうすぐ、封印は解ける…完全に…
その時は、受け入れろ、もう逃げ場などない
今更お前がどう足掻こうが、もう間に合わん、復活は確定的だ」
「…」
天下は、たまゆらが楔を破壊すると同時に弱まったきのこさんの封印から漏れでた
黄龍の意志の、断片
人の姿を取るが、根底は人ではない、自ら肉を作り出したエネルギーの集合体
いくら殺したところで復活する
「…約束、守れなかったなぁ…」
同時刻、時計塔最上階
「はぁ…はぁ…」
胸を押さえ、苦しそうに呻くきのこさん
心臓の鼓動はとてつもなく早く、全身は焼けるように熱を持つ
「抑え…切れない…!」
机に倒れ込むより寄りかかる
積まれていた本がドサドサと崩れ落ちる
その時、部屋のドアがガチャリと開いた音がする
「誰…白やん…」
「いや…」
そこにいたのは白やんではない
招かざれる客、黒いマント、白い仮面、長い鉤爪
「なんで…!?」
2度の死すら乗り越え、またも現れる究極の悪意
その名は
「…限りある者よ、平伏せよ…!
我は…不死なる者!ノスフェラトゥ!!!」
「くっ…!」
ノスフェラトゥに半ば体当たりするように脇をすり抜け逃げようとするきのこさん
だがその髪の毛をノスフェラトゥが鉤爪の無い左手で掴んだ
「うっ…」
「わざわざ来たんだぁ…そう邪険に扱うなぁ…」
きのこさんはノスフェラトゥを振りほどこうと暴れるが
ノスフェラトゥはその手を離さない
それどころかギリギリと力を込めて引っ張ってくる
「…ふん、わざわざこなくてもよかったな…
お前に施された封印はもう皮一枚で繋がってるような状態だな」
「…」
「ま、俺もそろそろ余裕が無くなってきててなぁ…
早いとこ…迎合を果たし完全なる者に…そしてたまゆらを…奴の仲間を惨殺する…!!」
鉤爪をカチカチと鳴らすノスフェラトゥ
その言葉の節々から憎悪が滲み出ていた
きのこさんからしてみれば絶体絶命の状況
「ふふ…」
それなのに彼女は小さく笑った
面白そうに、嘲笑するように、小さくても確かな笑い
無論それをノスフェラトゥが聞き逃すはずは無かった
「何がおかしい…?」
「滑稽すぎるわ、貴方は」
凛とした声でハッキリとノスフェラトゥを"滑稽"と称す
今まさに命を奪われんとする状況で躍り出た
ノスフェラトゥに対する嘲笑の言葉
「何だと…?」
「…限りある者ども平伏せよ?不死なる者?馬鹿みたい…
貴方は怖いだけでしょう?たまゆら君が、いえ、たまゆら君だけじゃない全ての人間が怖いんでしょう?
限りある命だからこそ一際大きく輝こうとする人間の力に怯えているんでしょう?
貴方は自分には永遠に手に入らない物に怯えると同時に憧れているだけ
不死の力に振り回されてるだけの、ただの哀れな道化よ」
「…道化…俺が…道化?」
「図星ね?完全なる者に固執するのは自分がどう足掻いても人になれないのを知ってるからでしょう?
人の輝きに怯えると同時に羨ましくて、切望して止まない…
仮面をつけてるのは怯え、憧れる顔を見られたくないからでしょう?
プライドだけは無意味に高い…自分を曝け出せなくて…
取り繕っている表面と内面のギャップにまた自らを嫌悪する」
「…だ、黙れ…!!」
「怯え、怖がって、だけどその輝きに魅了され、憧れて、切望してでもどうしても手に入らないから壊そうとする
私にはまるで貴方が暗闇の中で泣き続けている子供に見えるわ
…哀れよ、ノスフェラトゥ」
「黙れぇぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
ノスフェラトゥの耳を劈く絶叫と共に
きのこさんの背中に鉤爪が突き刺される
背中に突きこまれた鉤爪の先端は胸を切り裂き、その切っ先を空気に晒す
口から血を流しながらも、きのこさんはもう1度言った
「…貴方は最初から負けているのよ、ノスフェラトゥ
本当は、気づいているくせに…」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!!!
黙れッ!黙れッ!黙れよオマエッ!!!
怯えてなんかいない!!憧れてなんかいない!!
喋るな!黙れ!!黙れ!!黙れェェェエエエ!!!!!」
何度も何度も、爪を抜いては刺し、抜いては刺す
爪を抜くたびに噴出す鮮血が周囲を赤に染めていく
鉤爪は真紅に染まり
跳ね散った返り血により、白い仮面も赤く染まっていく
やがて、きのこさんの手がブラリと力に失ったようにうなだれた
それでもノスフェラトゥは爪を突き刺すのを止めない
泣き声が混じったような声で否定と呪詛の言葉を淡々と呟きながらただ爪を突き刺し続ける
やがてその動きも止まり
真紅に染まったノスフェラトゥは放心したようにその場に立ち尽くす
きのこさんがドサリと床に倒れる
それを見ていたのか見ていないのか、ノスフェラトゥはブツブツと喋りだした
「怯えてなんかいなぃ…!憧れてなんかいなぃ…!
恐れてなんかいなぁぃ…!切望なんかしていなぃ…!
オレは道化じゃなぃ…哀れでもなぃ…!オレは…オレはノスフェラトゥ…!
不死なる…不死…なる者…あぁぁあああ…!!」
頭を抑え、その場にうずくまるノスフェラトゥ
きのこさんが最後にノスフェラトゥへと放った言葉
それはノスフェラトゥ自身がずっと心の奥底に押し留めていた感情
自分より遥かに脆弱で、虫ケラのように思っていた人に対する、怯え、恐怖、憧れ、切望
それはノスフェラトゥにとって、何よりも耐え難い"真実"
突きつけられた真実から逃れることは最早ノスフェラトゥには出来なかった
全身を返り血に染め、否定と呪詛を吐き続けるノスフェラトゥ
そんな彼の後ろで倒れているきのこさんの身体から何かがゆっくりと出てきた
それは金色の光球、しばらくきのこさんの真上で停滞した後一気に壁を貫き、どこかへ向かっていった
うずくまっていたノスフェラトゥはフラフラと立ち上がった
「そうだ…なればいい…完全なる…存在に…
迎合するんだ…恐れるものか…憧れるものか…」
呟きながら、ノスフェラトゥは静かに血で赤く染まった部屋を出て行った
残されたのは…最後の封印の抜け殻のみ…
同時刻 黄龍降臨の間
「きひゃひゃひゃひゃひゃ!!!
来たぞ!!封印が解けた!!」
突然天下が笑い出した
封印が解けただと…馬鹿な、早すぎる!
まさか、きのこさんの身に何かが…!?
慌てて時計塔に向かおうとする俺の手を天下が掴んだ
「どこへ行く気だ…?
今更逃げることは出来ないぞ…?」
「逃げねぇよ!!少し様子を見てくるだけだ!!離せ!!」
「まぁそれでもいいが…オマエが消えればそこで倒れてるたまゆらのほうを器にするだけだ」
「…!?クソッ!!!」
俺は天下の手を振り解いた
天下は心底楽しそうに笑い続ける
「諦めろ、どうせ皆死ぬんだ」
「天下ェェェェェェェェエ!!!!」
「見ろ、来たぞ…我が本体…!!
今こそ、黄龍が降臨する…!!!」
「!」
龍の像の正面に、光が集まっていく
1年半前と同じだけどあの時と違うのはハチ切れそうなほどのエネルギーが荒々しく暴れている
螺旋を描き、広がる、眩いばかりのエネルギーの総体
「ヒャハハハハハハ!!復活だ!!
ついに我は完全なる復活を果たしたぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
天下の身体が浮き、光の塊となり、像へと吸い込まれていく
地響きのように周囲が揺れ動き、天井から砂がパラパラと落ちてくる
"完全なる意志"を取り戻した黄龍の力は段々と統率が取れてくる
ゆっくりと力と力がまるで織り込まれるように、互いを包み込むように重なっていく
そして、それは1つの形を作り上げる
伝承に伝わる、黄龍の姿を
『ウォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!』
黄龍の咆哮、後ろに吹っ飛びそうになる
おかしい、以前よりエネルギーが強い気がする…
気のせいなんかじゃない、間違いない…!
「そうか…時計塔によって新たに汲み上げられた…龍脈の気まで取り込んだんだな…!!」
見ただけでわかる、こんな力が世に解き放たれれば世界が終わる
だけどもう封印することも出来ない
身を持たない膨大な量のエネルギーである黄龍を倒すことも出来ない
万事休すか…
でも、安心しろよ、たまゆら…
世界を滅ぼす罪を、お前に背負わしはしない
人類最大の罪とも言えるこれを背負うのは、もう罪にまみれている俺がお似合いだ
『器ァ…!!器はどこだぁ…!!』
「黄龍!!」
『そこに…いたかぁぁああああああ!!!』
俺は両手を広げた、黄龍を受け入れるために
目を瞑り、これから起こることを考える
自分の意志とは無関係に殺戮を繰り返すんだろうな
これだけのエネルギーを全部使えるんだ核兵器を受けても死なねーんじゃねぇかな
…駄目だな、嫌なことばっかり思いついちまう
いっそのこと、一瞬で世界全部消し飛ばしちまうってぐらいのほうがまだ救いがありそうだ
全身に叩きつけられる黄龍の波動
もう避けようと思っても間に合わないな…終わり…か…
「ゆき兄ッ!!!!!」
「えッ?」
横から飛んで来た誰かが、俺の身体を巻き込んだ
2人で仲良く転がって、俺の背中ほんの数ミリと言った所を黄龍が掠める
「たまゆら…」
壁に叩きつけられ、回転が止まる
器を見失った黄龍は壁にぶつかり、爆散する
それを見たたまゆらが叫んだ
「やった!あいつ自爆したぞ!」
「いや、駄目だ!今のあいつには完全なる意志がある!すぐに元に戻るぞ!!」
俺の言った言葉とおり、周囲に散った金色の力はすぐにまた一箇所に集まり
先ほどとなんら変わりの無い黄龍の姿へと戻る
『どこだァァァァァァァアアア!!!器ァァァァァアアアアアア!!!』
黄龍の叫び声、暴れまわる超自然エネルギー
自らを宿す器を探し、部屋を破壊しつつ爆散しては集結し、爆散しては集結し…
それを横目で見ながら俺はたまゆらに食ってかかった
「どういうつもりだ!折角俺が…!!」
「よくわかんないけど…アレ倒せば…全部終わるんだろ?
アレさえ倒せば…俺たち、また笑えるんだろ!!!?」
「…無理だ、エネルギーの総体である黄龍を倒すのは不可能だ
意志を封印して散らすことももうできない…!」
「…気なら!?俺の究極黄龍破邪滅閃双撃龍波と…
ゆき兄の…えとほら、似たような技を同時に叩き込めばなんとかならないかな!?」
「それも無理だ…どんなに出力を上げてもアレほど莫大なエネルギーの前には吸収されて終わりだ」
「えーと、えーと、じゃあ…!!」
「無理なんだよ!こうなっちまった以上、黄龍は倒せないんだ!!!」
思わず、叫んだ
たまゆらは何かを言おうとしたが俯いて黙ってしまった
『そォォォォこォォォォかァァァァァアア!!!!』
黄龍が向かってくる
勝てないんだよ、黄龍には…だからたまゆら…
お前が器になったら…最後に心残りが出来ちまう、だから早く逃げてくれ
そんな俺の心とは裏腹に、たまゆらは俺の前で向かってくる黄龍に向かって構えた
その右手に、黄龍鉄甲
「馬鹿よせ!!無理だ!!!」
「どっ…」
「ん?」
「どっ…どんな強大な力に襲われても可能性はある
それでもうずくまってるなんとかなるのを待ってるだけじゃ何とかなる可能性は0に等しいんだ…
そう教えてくれたのは…ゆき兄じゃないか」
「…!」
「言ったじゃないか…ゆき兄…!
死んでも自分の張った意地から逃げ出すなって…!!
俺は、逃げない、絶対に!!!
ゆき兄がそう教えてくれたから!!だから俺は立ち上がる!!
そして信じるんだ!!可能性を!!!」
「…たまゆら…お前…」
俺は右手を見る、そこにあるのは黒い黄龍鉄甲
…そうだ、俺は何故受け入れようとしていたんだ
最後の最後まで、足掻いてみればいいのに、どうして最初っから諦めてたんだ…
俺はまだ…戦える!!
「目覚めろッ――!黄龍ッ!!!!
究極黄龍破邪滅閃双撃龍波ァァァ――――――!!!」
そうだ、エネルギーの総体である黄龍を倒すには
直接的な攻撃ではなく、同様のエネルギー…気を使っての攻撃にしか可能性は無い
だが、人が作り出せるエネルギーが黄龍に効くのか…?
『笑止…自らの力で撃たれる愚か者などおらぬわァッ!!
あまり調子に乗るなァ!!器がァッ!!!』
「くっそ…」
「そのままだ、たまゆら」
「ゆき兄…!?」
「猛り狂え、黄龍――」
黄龍鉄甲が変形し、黒き鎧と化す
そしてそのまま俺は右手を、全ての元凶、そして自らの力の源へと向けた
効くとか、効かないとか、そんなことを考えるのはもう止めよう
例え効かなくても、最後の一瞬まで足掻いてみよう
「…黄龍冥撃夢幻黒蓮破――――!」
俺の右手から放たれた黒き力、陰に属するエネルギー
それがたまゆらから放たれていたエネルギーに絡みつく
ぶつかり合うことなく、互いが互いに螺旋を描き、決して交じり合わず、それでも決して反発することなく
陰陽、2つの力が、同時に黄龍の額にと命中し、爆発が起こる
そのとき黄龍の巨体が、揺れた
『ナッ…ニィィィイ…!?』
「効いた…!?」
「…そうか…陰陽どちらにも属さない…
言うなれば、それ単体で完全なるバランスの攻撃…!
決して他に飲み込まれることない攻撃…これなら…!!」
『キィサァァァマァァアラァァァァァァ!!!!!!!』
黄龍の咆哮、常人なら失神してしまいそうなほどの怒りの咆哮
溢れ出す怒気は、心の底からの恐怖を呼び起こす
だけど俺は恐怖なんか沸かなかった、その怒りは微かだが俺たちの勝利という可能性に繋がる気がしたから
「…まさか今さらお前に教えられるなんてな」
「ゆき兄…」
「正真正銘、ラストバトルだ
覚悟はいいか?たまゆら?」
「ゆき兄こそ、準備いいの?」
「ハハッ、言ってくれるじゃねーか」
「ハハハハッ、ゆき兄に感化されたかな」
「笑っちまうな…
…だが残りの笑いは、勝った時まで取っておこうぜ!!」
俺とたまゆらは黄龍に向き直った
『器ゴトキィガァァァァァァァァァァ!!!!!』
「来い!!人は手を取り合えるだから何だって越えられるんだ!
そいつを今から教えてやる!!」
「生きようとしている者がどれほど強いか叩きこんでやる!!
馬鹿げた夢はここで終わりだ!!!」
俺とたまゆらはお互いに狙いを定めた
何も言わずとも感じられる、互いの想い
『フザケルナァァァアアアアアアアア!!!!』
黄龍が向かってくる
全てを飲み込むかのようなその巨体
それが目前まで迫った時、ほぼ同時に俺とたまゆらは叫んだ
「「人の運命は人が決める!!お前の出る幕なんか無い!!!」」
「究極黄龍破邪滅閃双撃龍波ァァァ――――――!!!」
「黄龍冥撃夢幻黒蓮破ァァァ――――!!!」
黄龍の牙が、俺たちに届く寸前で巻き起こった大爆発
絶叫と共に後ろに仰け反る黄龍
微かな勝利の可能性は徐々に大きくなっていく
いや、信じよう、この小さく不確かな、可能性を!!
19.5時限目 - 黄龍降臨 -
終
.
最終更新:2009年11月21日 01:29