邪眼学園黄龍譚20限目【君が守った希望】中編
??/?? 学生寮前
「おい、全員避難完了したか!?」
「何なんだよこの地震は…クソッ…!」
「おい怪我人早く運び出せよ!!」
断続的に起こり続ける、地下での戦いと龍脈の暴走により起こる地震
そして暴走したエネルギーが起こす放電現象や数々の災害
それらは校舎だけではなく学生寮すらも襲っていた
避難を始めた生徒達をかきわけてるリカ
その顔はとても暗い
「…凄く嫌な予感がする…何…これ…?」
不安に身体を震わすリカの耳に不気味な音が響いた
それは地を這うように響く鐘の音、遠く、校舎のほうから聞こえてくる
横であたふたしていた男子生徒が言った
「時計塔が、動いてるのか…?」
「時計塔…?」
ゴォーン、ゴォーン、と鳴り続ける鐘の音
不気味な音、それがなおさら不安を煽って行く
「リカさん!無事でしたか!」
「…しげる君…」
リカに近づいてきたのはしげるだった
今まで怪我人を運び出したりしていたのか汗ダクになっていた
校舎の方向を見ながらしげるは言う
「一体何が起こっているんでしょう…
全て、終わったはずだったのに…僕達は間違えたんでしょうか…」
「間違ってなんか…」
リカがそう呟いた時だった
背後から怒号が響いた、何人かの男子生徒が口論しているようだった
「お前勝手にどこ行くんだよ!?」
「こんな場所入れるわけねぇだろ!早く逃げないと死んじまうぞ!」
「馬鹿!まだ怪我人がいるんだぞ!!」
「じゃあ俺はそいつらのために死んじまえって言うのか!?」
「そうは言ってねぇだろ!!!」
それを見たしげるが苦虫を噛み潰した顔で呟いた
「まずいな…何もわからないこの状況で皆パニック寸前だ…
下手すりゃ地震とかの被害よりこっちのほうが…」
口論は激化し、今にも乱闘になりそうな状態だった
ここで乱闘が起これば被害が被害を呼んで多数の怪我人…
いやもしそれで救助が遅れて寮が倒壊でもすれば、死者まで出てしまうかもしれない
それだけは断じて避けなければいけなかった、だけどどうすれば…?
「んのヤロォッ!!」
1人の男子生徒が、口論の相手に向かって拳を振りぬいた
それは、崩壊への引き金
当たれば間違いなく、狂気は伝染する
拳と男子生徒の間に、誰かが割ってはいった
バキィッ!と音がする
「え…」
「…」
割って入り、拳の直撃をその顔で受けたのは蝶だった
痛みから逃げ続けていた蝶が自ら痛みにその身を晒した
そして、さらに声が響く
「全員慌てるな!!俺の言う通りにしろ!!」
その叫び声の主は剣三郎
だがその発言に何人もの生徒が反論する
「言うとおりにしろって何様だ!」
「なんで俺らがお前らの言う通りにしなきゃいけねぇんだよ!」
その言葉に剣三郎は大きな声で返答する
「俺は執行部だ、教師、生徒会共に不在の今
いたずらに被害を広げないために俺に従ってもらう」
「執行部だって!?」
「ふ、ふざけんな!!今までテメェらが俺たちに何をしてきたか忘れたとは言わせねぇぞ!?」
「誰がお前らの言うことなんか聞くかよ!」
反論する声がどんどん高まっていく
剣三郎は血の気が多い奴らに周囲を囲まれている
殴られる、その寸前に一人の女子が飛び出した
「待って!」
飛び出したのは桃花
「あぁ?女子はすっこんでろよ!?」
「私も執行部だから…確かに今まで私達は皆にひどいことをしてきた…!
でもそれは元はと言えば皆を守るため…暴走したのは確かに私達の罪だけど…
本当は生徒会と執行部は皆を守るために…!!」
嫌われることに怯え、それゆえに力に囚われた桃花が
これ以上ないぐらいに嫌われるかもしれない執行部だということを自分から明かし
暴走を始めようとする生徒を止める
「信じられっか馬鹿野郎!」
「そうやってお前ら俺らを油断させて…!」
「黙れ、下衆ども…」
「!?」
いつの間にか反論する生徒達の中に混じっていた黒いマントの男
静かに、それでも圧倒的な存在感を放つ声が周囲を驚かせる
「助けてやろうと言っているんだ
変わらないだろう、今までと、俺たちに従うなら安全は保証され、逆らうなら罰だ
…逆に言えば、どんな状況になろうと生徒会執行部に命を預けるなら俺たちはそれを全力で守り抜く」
空虚な思想でただ目の前に現れる者を倒すだけの存在だったはずの黒やん
それが今、他の執行部の意に沿うように意見し、あまつさえ守り抜くと言った
僅かに、反論していた生徒たちに動揺の輪が広がっていく
「だ、だけどやっぱり…」
「執行部なんて…信用…」
「何を信じるか、自らの正義は何なのか…悪とは何のか…
境界線など無い、守りたいという想いは時に人を傷つけてしまう
それでも守りたいという想いだけは決して嘘なんかじゃない」
ゆっくりと現れたのは透過
絶対的正義を妄信していた彼は言う
正義と悪に確かな境界線など無いということを
「信じてくれとは言わない
それでも、守りたかったという気持ちは嘘じゃない
執行部になってからは狂ってしまった俺たちも、執行部に入ろうとしたのは守りたかったからだ」
反論していた生徒達は押し黙る
その中の1人がゆっくりと剣三郎に近づいた
「…どうすれば、いいんだよ」
「全員校庭の真ん中に避難、元気な奴らは怪我人を運んでやってくれ
まだ寮に取り残されている怪我人などは執行部が探索して救助する!急げ!」
「わ、わかった!!」
1人が走り出した、それは輪のように一斉に他の一般生徒に広がった
怪我人を抱きかかえ、何人もの生徒が校庭へと避難していく
それを見て安心したような顔をする剣三郎の肩にポンと手が置かれた
剣三郎が振り向くと黒やんが手を置いていた
「こりゃ次期生徒会長はお前かな」
「生徒会長って柄ではないがな…」
「ああ、それと」
「ん?」
「ズボン、破れてるぞ、尻の部分な」
その少し後ろでは頬を抑える蝶を桃花が介抱していた
奥歯が折れたらしく、蝶は口から血を流していた
一般生徒のために身体を張って下手すれば袋叩きにされたかもしれないのに執行部だということをバラし
パニックになるのを抑えた皆を見てリカは感じていた
それは、たまゆらがもたらした、闇に淀んだ学園の希望
全ての闇を撃ち払う、守りたいという気持ち、思いやる心、…絆の力
同時にしげるも感じていた、そして思い出していた
ツチノコの言葉、人の心にある星の煌きのような儚くも、確かに光る…
しげるは、その本当の意味が今更ながらやっとわかった気がした
星空は決して1人で作ることなんか出来ないんだ、と
剣三郎が尻を隠しながら叫んだ
「2手に分かれて男子寮と女子寮に取り残されてる生徒がいないか見に行くぞ!
死傷者なんか絶対に出すなよ!!!」
処罰するためでは無く、守るために執行部の面々は駆け出していった
男子寮の中は断裂した電源ケーブルなどが宙ぶらりんになったり、水道管から水が溢れたりと酷い有様になっていた
剣三郎は叫ぶ
「誰かいないか!!」
その時、誰かが階段を駆け下りてきた
剣三郎がそちらを振り向くと背中に3人もの人間を抱えた雷雲がいた
自らを傷つけ、誰かを傷つけるだけだった雷雲が
必死の形相で助けるために3人もの人間を背負っていた
「これで…もう誰もいないぞ…」
「よくやった!」
だが雷雲の真上の天井にビシリと亀裂が走った
天井が崩れる、間に合わない
「雷雲伏せろォッ!!!」
咄嗟に飛び出した誰かが天井に向かって何かを投げつけた
爆発が起こり、砕けた天井の破片が辺りに散らばった
「えび助ッ!」
「…守るために壊す…か
あのジャングルジムもよく考えればただ壊されたわけじゃなくて…
子供の命を守るために壊されたんだよな…」
誰よりも破壊を憎んだ故に完全な破壊者になってしまったえび助
だが知った、壊すことで誰かを守れることもあり、誰かを守るために壊さなければいけない物もあるのだと
剣三郎たちは男子寮から脱出する
桃花と蝶も女子寮から2人を背負って出てくる
「どうだ!?」
「大丈夫、女子寮もこれで全員」
「よし、俺たちも校舎に…」
「…リカさん?どうしました?」
しげるが立ち尽くすリカに声をかけた
リカは静かに、校舎のほうを見ながら佇んでいた
そして呟いた
「…たまゆら君、ゆき兄、わかるよ…きっと今も戦ってるんでしょ…?
いつもいつも私だけ置き去りなんだからさ…
…ね、希望が芽吹いたんだよ、だからもう学園は大丈夫…大丈夫だから…」
リカが地面に膝をつき、座り込んだ
ポタ、ポタ、と涙の雫が地面を濡らしていく
「…うっ…くっ…今度もっ…ちゃんと…帰ってくる…よね?
大丈夫…だよ…ね?
まだ…私…ちゃんと伝えてない…よ…ゆき兄…ゆうくん…」
??/?? 黄龍降臨の間
…誰かの声が聞こえた気がして、意識が徐々に戻ってくる…
どうやら俺はまだ生きているみたいだった
外道は、どうなった…?
そう思った時だった、鼓膜を揺らす、外道の声
「何だッ…!?力がッ…抜けてッいくッ…!?
龍脈の気が…戻って…!?」
目を開けると、身体を抑える外道の姿
その身体から金色の光が溢れ出ていた、まるで何かに取り出されているように
何が起こってるかわからない…が、チャンスなのか?
俺の身体は…動くのか…?
遠くから、ガラガラと瓦礫が崩れる音が響いた
そちらを見ると、血を流し身体の至る部分が焼け焦げたゆき兄がいた、立ち上がっていた
「…声が聞こえた…あいつの声が…」
ゆき兄がそう呟いた
俺も聞こえたよ、誰のかはわからなかったけど、ゆき兄はわかったのかな?
「…ここで死んじまったら…どんだけ馬鹿にされるかわかったもんじゃねぇ…
死後もずっと馬鹿にされるのは我慢ならねぇんでな…」
一歩、外道へと近づくゆき兄
だがその身体はいつ倒れてもおかしくないぐらいフラフラで
踏み出した足が地面についた瞬間に、ゆき兄は口から血を零す
「ハァ…ハァ…目覚めろ…黄龍…!」
ゆき兄の黄龍鉄甲が変形し鎧となる
だがその黒い炎は今にも消えてしまいそうなほど儚い
それを見た外道は自らの身体を抑えながら叫ぶ
「力が抜けていくと言ってもお前を殺す程度の力ならまだ有り余っている…!
そんなに死に急ぐなら今すぐ殺してやるァァァァアアアア!!!」
外道が、ゆき兄へと向かう
俺の身体は、動かない…
「黄龍冥撃―――」
「遅いッ!!!」
「グッ!?」
ゆき兄の攻撃が放たれるより早く、一瞬で懐に潜り込んだ外道の拳がゆき兄の腹部に叩き込まれる
そして、外道の攻撃は加速していく
避ける体力も残っていないゆき兄は砂の代わりに血が詰まったサンドバッグのよう
殴り飛ばされる度に周囲に赤い飛沫が飛んでいく
「がはっ…ごほっ…げっ…!」
「死んでしまえ!死んでしまえ!死んでしまえぇぇぇええええ!!」
叫び声と同時にゆき兄が吹き飛ばされる
床石を抉り、轟音を立てながら俺の足元に吹き飛んでくる
もはや焦点が定まっていない虚ろな目
口元は自らが流した血で真っ赤に染まっている
外道は吹き飛ばしたゆき兄を追うこともせずに自らの身体より抜け出ていく力を留めようと必死になっている
「た、ま、ゆ、ら…」
「ゆき兄…大丈夫!?」
相変わらず目の焦点は定まっていないが、ゆき兄は静かに笑った
そしてゆっくりとその手の黄龍鉄甲を外し、俺に突き出してきた
「つか、え…」
「え?」
意味がわからず、俺はどうしていいかわからなくなる
早く受け取れと、言いたげにゆき兄は黒い黄龍鉄甲を俺の前で揺らす
腕が、動いて、俺はそれを掴んだ
「…おまえ、に…全部…託す…本当は…俺がケリを…つけなきゃ…いけないのに…な…
だいじょ、うぶ…お前な、ら…きっ、と…陰であろうと、陽であろう、と…
手を取り合わせ、た…お前な、ら…
わり、あと、頼む…わ…」
ゆき兄はそれだけ言うと静かに目を瞑り、黄龍鉄甲を渡した手が力なく地面に落ちた
嘘、だろ?冗談だろ…?なぁ…?
死ぬなんて、冗談だろ?ここで死んだら、ずっと馬鹿にされるって言ってたじゃねぇかよ…
「外道ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
どこにそんな力があったのか
俺は今までで一番大きいとも言えるほどの絶叫を放った
悲しみ、怒り、あらゆる感情が入り混じった、叫びを
その声に、外道がこちらを振り向いた
「どうした…死んだか…そいつ?
ざまぁないな…ヒャハハハハハハ!!」
「…許さない…」
「勝つことも出来ないのに許さないと?」
「勝つ…絶対に…それに…」
ゆき兄が死ぬわけはない、意識を失っただけだ、そうに決まってる
でもゆき兄は最後に残った力を俺に託したんだ
俺たちは、一緒に戦うんだ…一緒に…!!
お前を倒して、すぐにゆき兄をヤチャマルに診てもらう…
だからお前は、一刻も早く倒さないといけないんだ…
俺は空いている左手にゆき兄から受け取った黒い黄龍鉄甲をつけた
身体の芯から湧き上がる、とても熱く、強い力、そして、悲しみと、怒りと、後悔の念
ゆき兄がずっと心に宿していた想い、激流のようなその想いを今全て理解した
だからこそ、俺は…この想いを託されたからには…
「外道ォォォ…!!」
何度倒れても、立ち上がる、そして戦う、お前が何度俺の前に立ちはだかり
何度俺を地に倒そうとも、立ち上がる、そして…お前を倒す!!!
外道は思っていた、なぜ立ち上がるのかと、力が抜けているとはいえ今だその力の差は歴然
なのにどうしてこいつらは負けるとわかっていて立ち上がるのか
絶望してヤケになったのかとも思った、だがたまゆらの目を見た時に感じた
その目から溢れ出る、自らを倒すという揺ぎ無き意志の力を
そして同時に、外道の背中に冷たい物が走る
(馬鹿な…俺は完全なる者…決して俺には誰も勝てないはずなのに…
なんだ、この感覚は…!?)
その感覚を忘れようとするように頭を振る外道
あるはずが無いのだ、黄龍と融合を果たし完全なる者として生まれ変わった自分に
不安など、ましてや恐怖など、あるはずが無いのだ
外道はそれを確かめようと思った、つまりたまゆらの息の根を完全に止めようとする
「たぁまぁゆぅらぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」
??/?? 時計塔
「やべぇ…吸い込まれるッ!!!」
「ほろにがぁ!!何やったんだよ!!」
「いやちょっと立ちショーベン…」
「はぁぁぁあああああああ!?」
ほろにがとヤチャマルと白やんはそれぞれが地面の窪みや、壁に伸びているパイプなどを掴んでいた
スパークした機械が爆発したと同時に突然金色の光の噴出が止まった
それだけならよかったが今度は逆に物凄い勢いで大穴は辺りのものを吸い込み始めた
全員吸い込まれないように咄嗟に周辺の物を掴みその吸引に抗っていた
「耐えろよッ!落ちたらどうなるかわからねぇぞ!!」
「言われなくてッ…!?」
ほろにがが手に力を入れた瞬間だった
掴んでいたパイプの上部のボルトが吹き飛び、パイプが傾いた
「おわっ、おわっ…」
そして、上部の支えを失い下部のボルトまでが吹き飛んだ
パイプが宙を舞う、掴んでいたほろにがもまた同様に
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
こんなとこで死ぬのはいやぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ほろにがァッ!!!」
地面を掴んでいる白やんが手を伸ばした
ほろにがは咄嗟にパイプから手を離してその手を掴んだ
白やんの身体に強い力が加わり、窪みを掴んでいる片腕が離れそうになるがなんとか耐え抜く
「大丈夫か?」
「…生徒会長っつうのも伊達じゃないのか?」
「フン…」
「白やん、ほろにが、こっちに移って来い
そこからパイプ越しにここまで来れるはずだ」
遠く離れた場所のパイプに捕まっていたヤチャマルが言う
ほろにがが反論する
「まずパイプに行くのが無理なんだよ!
白やんが手をかけてるのは小さな地面の窪み!ついでに片手は俺を掴んでんだぞ!」
「しかしそのままではいずれ吸い込まれる!!」
「だ、そーだが…生徒会長サンよぉ…どうする?」
白やんが小さく笑う
「伊達じゃないのかと聞いたが…生徒会長などという名に意味など無いさ…
全てを救うなんてとても俺には出来ない…だから白やんと呼べよ、ほろにが」
「…じゃあ、白やんよぉ、どうする?」
「全てを救うことなんか出来ないが…
お前1人なら、余裕だッ…!!うおぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
白やんの腕に血管が浮き上がる
そのままほろにがを一気に引っ張り上げパイプに届く位置まで持ってくる
ほろにがはパイプを掴んで強度を確認した
「…俺だってな、お前1人ぐらいなら余裕なんだッ…よぉぉぉおおおおおお!!」
今度はほろにがが渾身の力で白やんを引っ張り上げた
白やんの腕がパイプを掴む
2人で同じパイプに掴まって顔を見合わせる
「…まぁ本当は3人ぐらいなら余裕なんだけどな」
白やんがそう言うとほろにがは口元をピクリとさせて反論した
「いや俺も実は5人ぐらい余裕かな」
「頑張れば7人もいける」
「俺だって頑張れば10人はいける」
「11人」
「12人」
火花を散らすような2人を見てヤチャマルは呟いた
「あの2人本当は気が合うんじゃないのか…?
ああ、いや…おいっ!!早くこっちに来い!!」
そう2人に呼びかけると2人はパイプからパイプを伝いゆっくりと移動を始める
ギシギシと危うげなパイプもありゆっくり、ゆっくりと…
その時、白やんの掴んでいたパイプが砕けた
劣化し、錆と化したパイプが負荷に耐え切れなくなったのだ
「しまったッ…!!」
白やんは他の場所を掴もうとしたがすでに遅かった
身体は浮き、穴へと吸い込まれそうになっていく
「白やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
ほろにがが、自らパイプから手を離し、白やんのほうへと向かった
「馬鹿ッ!何をしている!!」
それを見た離れた場所にいたヤチャマルもパイプから手を離した
白やんは吸い込まれながらも驚愕の表情をして叫んだ
「な、何をしている!?
これじゃお前らまで…!!」
「言ったろうがぁぁぁ!お前1人助けるぐらいなんでもねーんだよ!!」
「ここでお前が死んだら寝覚めが悪いッ!それに俺は保険医だッ!!
生徒が死にそうになってりゃ助けなきゃいけねぇんだッ!!」
それでも2人の手は白やんには届かない
白やんの足が穴へと差し掛かる
その時、頭上からガァン!という音が響いた、同時に穴の吸引力が失われた
だが吸引の余波が白やんを完全に捉え、もはや後は落下するだけと言った具合だった
「手を伸ばせぇぇぇぇえええええ!!!」
「クッ!!」
白やんが伸ばした手をほろにががキャッチする
だが穴から大きく身体を出していたほろにがも踏ん張りきれずに仲良く穴に落ちそうになる
「うわっうわっうわわわわわ!!!」
「ええい!世話がかかる!!!」
ずり落ちそうになるほろにがの足をヤチャマルがガッチリと掴んだ
「やった!早く引き上げてよ神様、ヤチャマル様!」
「現金な…!!」
ヤチャマルは地面を蹴るように身体全体を使ってほろにがを引っ張り上げる
芋掘りのようにほろにがに続いて白やんも穴から顔を出す
3人でその場にへたり込む
さすがに疲れたのか3人とも無言で座り込み続けている
「…しかし何だって急に止まったんだ?」
「上からガァン!って音がしたような気がしたが…」
3人は上を見上げた、遥か上の螺旋階段を誰かが歩いていた
「…ありゃ、ピュアか?」
ほろにががそう呟くと上からピュアの声が響いた
「大丈夫ですか!?
歯車に鉄パイプを挟んで無理やり機能を止めました!!
とりあえずこれで大丈夫です!!」
それを聞いて3人は顔を見合わせた
「あいつに助けられたってことか…」
「実はけっこうやる奴だったんだな…」
「つーか、俺たち何もしてないような…」
「立ちショーベンしただけかな…俺」
それを聞いて白やんがハッ!と気づいたように自分の手を見た
しばらくそのまま考えたあとにほろにがに向かって叫んだ
「手洗ってないだろ!!汚ぇ!!」
「いや男なら普通手とか洗わないだろ!!」
「洗うわ!!!」
その場で口論を始めるほろにがと白やんを見てヤチャマルはため息を吐いた
「やっぱ仲いいんじゃねぇかなコイツラ…」
??/?? 黄龍降臨の間
「ヒャーッハッハッハッハッハ!!!」
「グッ…」
2つの手甲を使い、必死に外道の攻撃を受け続ける
だが受けるだけでもその衝撃は身体の芯から揺れるような痛みを呼び覚ます
それでも必死に受け続けていく、直撃すれば死は免れない
攻撃の手を緩めずに外道は言う
「力の流出が止まった…!残念だったなたまゆらぁぁぁぁあああああ!!」
双掌を重ねた鉄甲に叩きつける外道、自らの身体から聞こえるミシミシという音
鉄甲の中で握り締める拳に水気を感じるのは恐らく出血しているから
ガードと殴打、限界を超えた俺の身体にかかる過負荷は高橋と同じように自らの攻撃で自らを傷つけている
それでも俺は倒れるわけには行かない
「グッ…オォォォオオオ!!」
外道の双掌を弾き飛ばす、よろめいた外道の胴体ががら空き
そこに陽の黄龍鉄甲を叩き込む
殴打だというのに深く肉に突き刺さる感触、そう、攻撃はこれ以上無いぐらいに確実に命中しているのだ
なのに外道はさも平然と立っているだけ
当たってはいるが効いていない、それが俺と外道の間にある決定的な力の差
それでも諦めない、効いていないというなら効くまで殴り続ける
「オオオオオオオオオォォオオオ!!!」
自らを鼓舞するかのように俺は叫び、両椀を何度も何度も外道へと叩き込む
外道は動かない、ただ殴られ続けている
「…あまり調子に乗るなッ…」
外道の右手がゆっくりと上げられる
一旦引くかどうか迷うがここで退いたらいつまた懐に飛び込めるかわからない
ならば、今はただぶっ飛ばされるまで殴り続けるだけだ!!
視界に、外道の顔、その瞳は感情の色を感じさせない、虚無の目
「死―――!?」
振り下ろされると思った外道の拳がビクンと跳ねる
なぜか、拳は振り下ろされない
外道の顔が、憎らしげに歪んだ
「アァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!」
同時に、頭に叩き込まれた外道の渾身の一撃
額から血を噴き出しながら、後ろへと倒れる
頭が、グラグラする
それでも、俺は…
指に力を入れる、大地を掴み、俺は立ち上がる
「なぜお前は立ち上がる…!
いくら器と言えどもとっくに死んでいるはずだ!!」
「俺1人なら…な…」
「どういうッ…」
外道の言葉を待つことなく、地面を蹴り出し一気に間合いを詰めた俺の拳が外道の腹部にまた突き刺さる
だがそれで終わりではない、俺はそのまま走り続ける
外道を壁に叩きつけようとして
「貴様ッ!!」
外道の手が、俺の顔面を打ち据え…なかった
なぜか、顔すれすれでその拳は止まっていた
(何故だ…何故拳が止まる…!!
恐れていると言うのか!?完全なる者である俺が…器といえどもただの人間を恐れていると!?
認めん、認めん、認めん…!そんなことあるはずが…!!)
外道の手が震える、震えごと握りつぶすかのように外道は強く拳を握る
あまりにも強いその力により手からは血が滴り落ちる
それが起爆剤、外道の感情のタガを吹き飛ばす
「俺は完全なのだぁぁぁぁぁァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
外道の拳が光り輝く、それは自らの気を一点に集中させたことにより起こる発光現象
どんな物でも穿ち、砕き、爆砕し、一片たりとも残さず焼き尽くす
まさにそれはあらゆる命を殲滅する、狂いし黄龍の力
たまゆらの背筋を駆け巡った冷たい空気
足元から這いずり出し、隙を見せた者を一気に絡めとる、死の空気
??/?? 校庭
「また地震だッ…!」
「落ち着け、さっきよりかは小さいぞ…!!」
「お、おい、校舎見ろよ!何だよアレ!!」
1人の生徒が指差した先、校舎のあちこちから吹き上がる金色の光
壁を砕き、ガラスを粉砕し、天井を破壊して、あちこちから立ち昇る光は校舎の遥か上空に巨大な龍を形成していた
それは、黄龍、猛り狂う、そして神々しさに遥かに勝る禍々しさを見ている人間全てに与える
黄龍を見て呆然としている生徒の中には執行部の姿もあった、そして剣三郎が呟く
「…あれは…たまゆら…いや、違う…」
「たまゆらさんの力には似ている、でも…彼のような暖かさを全く感じない…」
「それどころか…冷たい…凍りつくような…
見ているだけで心臓をワシ掴みにされてるような気分だ…」
校舎の上で、黄龍が叫ぶ
『俺は完全なのだぁぁぁァァァァアアアアアアアアア!!!
あまねく命を血に染める!!!皆死んでしまえ!!皆!何もかも!!!』
その黄龍は、外道の身体から溢れ出た気が形作った謂わば幻影
外道の意志を、思想を多数の人間に知らしめるために生まれた存在
その言葉に打ちのめされる者、信じようとしない者、泣き崩れる者
黄龍の口より語られる言葉に嘘は無い、本能で人はそれを理解する
だからこそ、黄龍を宿した器は世界を統べる
『故にお前は今ここで死ぬべきなんだァァァァアアアアアア!!
たぁまぁゆぅらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!』
「たまゆらッ!?」
「アイツ、今たまゆらって言ったぞ!?」
「まさかやっぱりアイツ、戦ってるのか…こんな…力と…たった1人で…?」
執行部の面々に広がる動揺
だけどどうすることも出来ない、どこで戦っているのかもわからない
何より自分たちが離れれば今度こそ一般生徒は暴動状態、止めることができなくなる
何も出来ない悔しさの中で、しげるが呟いた
「…ばれ、たまゆらさん…」
「え?」
「頑張れ!!たまゆらさぁぁぁぁぁあああああああん!!」
しげるの叫び声、一瞬の間を置いて
今度はえび助が叫んだ
「…頑張れ!たまゆら君負けるなッ!!!」
続くように、桃花、透過、黒やん、雷雲、蝶、剣三郎
全員がたまゆらのことを応援しだす
やがて、その輪は状況を理解してはいない一般生徒にも広がっていく
状況が理解出来ていないと言っても彼らは理解していた
誰かが、俺たちのために戦っていると
「頑張れーー!!絶対負けんなーー!!」
「勝てー!たまゆらぁー!!」
「そんな奴さっさとやっつけろぉぉぉお!」
「死ぬなんてごめんだぁぁ!!たまゆらぁぁ!助けてくれよぉぉ!!」
「勝ちやがれぇー!!!」
「たまゆらぁぁぁああああああああ!!」
応援が、すべての生徒に広がって行く
執行部も最初は面食らっていたが、すぐにたまゆらの応援に戻る
いつの間にか、生徒ではない奴らも生徒に混じって校舎に向かって叫んでいた
何も出来ない、ただそれでもどうにかして君を助けたい、その思いが大気を揺らす声となり、大地を揺らす衝撃となる
「コラー!あたしが惚れたんだー!勝てー!」
「同じカマ掘った…じゃなかった、同じ釜の飯を食った仲だからな
俺も応援させてもらうよ、たまゆらぁぁぁああ!!!!お前なら勝てるぞぉぉぉぉ!!」
「ありったけのマジックアイテムサービスするから絶対生きて帰ってこいよぉぉぉ!!!!」
気がつくと、校庭は金色の光に包まれていた
暖かく、優しい、光
それが空へと立ち昇っていく
――そう――
――黄龍の世界を統べる力とは決してその強大な力で強引に統べることじゃない――
――ただ、戦うだけ、自らを信じ、戦い続けるだけ――
――強い想いを胸に抱き、傷つきも戦い続けるその姿に人々は希望を見出す――
――希望を見た人たちは、希望に向かい想いを束ね、とても強い…時として天命すらも凌駕する力を生み出す――
――それこそが、真の黄龍の力――
「俺たちだって同じなんだたまゆらッ!!」
「ただ守りたいんだ!」
「じっとなんかしてんじゃねぇ!!たまゆらだけが戦ってるんじゃない!」
「俺たちだって覚悟していた…!」
「お前だけじゃねぇ!学園を守りたいのは俺らも一緒だ!!」
「俺たちだって同じなんだッ!!」
「お前は1人じゃない!!!」
「「「たまゆらッ!!たまゆらッ!!たまゆらッ!!!」」」
校庭の外れである4人が、その光景を見ていた
ヤチャマル、ほろにが、白やん、ピュアはその光景に驚いていた
「龍が見える…」
呆然とした顔でそう呟くほろにが
たまゆらを応援する生徒たちの身体から立ち昇る金色の光が一体となり黄龍の姿を形作る
ヤチャマルがそれを見て言った
「…凄まじいほどの想いが…いや、気が集まって黄龍を形作ってる…」
「黄龍が、空に昇る…!!」
空へと昇った龍は校舎の上で猛り狂う、狂った黄龍へと咆哮した
それを受けた狂いし黄龍も咆哮
2体の黄龍は途端に激しくぶつかり合う
金色の光を散らしながら、互いを互いを噛み殺そうと
それを見た、ほろにがはじたんだを踏み出した
「…なんか、暴れたくてしょうがねぇよ!!俺も行ってくるわ!!」
そう言ってほろにがは走り出した
残ったヤチャマルと白やんとピュアは顔を見合わせた
そして、3人は同時に頷き、ほろにがに続いて走っていった
――束ねられた想い…黄龍はそれを具現化したに過ぎない――
――人の想いは何て強いんだろう…運命すらも打ち破る程…――
真なる黄龍が、咆哮と共に狂いし黄龍の喉に食らいついた
絶叫をあげ、のたうち回る狂いし黄龍
それを見た校庭の生徒達はさらに沸き立ち、大地を揺らす
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最終更新:2009年12月03日 09:09