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邪眼学園黄龍譚20限目【君が守った希望】後編


??/?? 黄龍降臨の間

「グァウァァァガァァアアアアアアア!?!!?」

突然、絶叫し、のたうち回る外道
喉を抑え、苦しそうに

「馬鹿なッ…何がッ…!?」
「外道…!!」

俺の両手の黄龍鉄甲が光り輝きだす、今までも最も激しく煌く…
その煌きの中に浮かぶ無数の人たち、想いが伝わる
ノスフェラトゥ、いや、外道
これが真の、黄龍の力だ!!!

「目覚めろッ――!黄龍ッ!!!!」

2つの輝きが、混ざり合った
究極の陽の力と、究極の陰の力、決して相容れる事の無い2つの力はそれを遥かに上回る想いによって束ねられる
身体を覆う鎧は金色と黒が混ざり合う
黒き鎧に金色のライン、すべてを飲み込む闇と、すべてを包み込む光
そういえば前にゆき兄に借りたゲームで言ってたな
『調和する2つは完全なる1つに勝る』…だっけ?
それが真実なら…俺は…!!

「グッ…新たな変形を会得したところで俺にはッ…!!」
「おおおおおおおおッ!!!」

右腕が、外道の腹部に叩き込まれた
今までなら感触はあったもののまるで効いてはいなかった、でも今回は…

「グブゥッ…!?」
「爆ぜろォォォォォォオオオ!!!」

拳から爆発が起こる、陰と陽の力を拳の先で激突させ巻き起こす爆発
外道からすればほぼ体内に爆発をブチ込まれたような状態

「がっはぁぁ…きっさぁ…まぁ…!?」

後ろにずり退がりながら腹部を抑える外道
その瞳に宿る憎悪が更に燃え上がっていく

「…なぜだ…!体力の限界…いや命の限界のはずのお前が…!
 なぜ今になってこんなッ…!!」
「俺の力は俺一人のものじゃないからだッ!!!
 お前からしてみれば脆すぎる人の命も力も、束ねれば何よりも強いんだッ!!」
「ほざけぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!!」

外道が怒りの形相で向かってくる
寸前で、外道が高く飛んだ
そのまま宙を舞い、真後ろに着地する

「たまゆらぁぁあああああああああああああ!!!」

外道の拳が背中に叩き込まれる、だけど、殆ど何も感じない
そのまま振り向きざまに拳を振った、所謂裏拳
それが外道の顔を捉えた瞬間に起こる爆発

「ガァッ…!!」

煙をあげながら、顔を抑え、後ろへと後退する外道
指の隙間から覗く目、憎悪の塊

「陰の力で力を飲み込み、陽の力が力を包み込み霧散させる…!
 ふざけるなッ…!そんな力…認めるものかッ…!!!
 認めるッ…ものかぁぁああああああああああ!!!」

外道が顔を抑えながら絶叫する、見開かれた目は血に染まる
大きく開き過ぎた口は両端が裂け血を流し始める
そして、一直線にこちらに向かってきた

「たぁまぁゆぅらぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

その拳を、拳で受け止める
外道の口が大きく開かれた、その喉の奥で何かが光るのが見え、俺は咄嗟に顔をズラした
次の瞬間、外道の口から放たれたレーザーのような光が後ろの壁を貫き砕いた

「いよいよ何でもありだなッ…!爆ぜろォォォォォオオ!!!」

拳の先から起こる爆発の衝撃で外道の拳が離れる
だが次の瞬間にまた拳が煙を引き裂いて向かってきた
すぐさまそちらをガードする

「お、俺、オレ、は、完全、、死は、恐れ、な、い、いい、いぃぃ、い…!」

外道は完全に壊れていた
口から血が混じった泡を吹き、目は焦点が合わずにあちこちをグルグルを見渡している
膨らみすぎた憎悪が心を打ち砕いた、闇に堕ちノスフェラトゥとなった人間は更にそれを越え最強最悪の魔物へと変貌した

「コロス、コロォォォォオオオス!!!」
「クッ…!!」

最早外道の攻撃に加減など無かった、1撃1撃が全力、ありったけの殺意を乗せ打ち込まれる拳
通常ならこんな調子で攻撃をし続けるとすぐに体力切れを起こすものだが
黄龍を宿す外道にそれは無い、それはたまゆらも充分にわかっていた

「爆ぜろッ!!」

両手から巻き起こる爆発の直撃を受けて外道は後ろに盛大に吹っ飛んだ
地面を転がるも、床に指を突き刺し、床を抉りながら停止する
そしてすぐに立ち上がる、その顔には笑みが浮かんでいた

「…この力で、全ての悪夢を断ち切る…」

たまゆらが両手を構えた
それはしっかりと外道を狙っていた

「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!」

飛び上がる外道、そのまま天井に指を突き刺してそこに停滞した
たまゆらが狙いを上に上げるとほぼ同時、天井からまるで流星のように落下の速度を加えた蹴りがたまゆらを襲った

「グッ…!?」
「やはり、俺が勝つ!勝つ勝つ勝つかぁぁぁあああつ!」

叫びながらまた距離を取る外道
吸収しきれないほど威力の攻撃、陰陽極まった究極の鎧越しにたまゆらは痛みを感じた
早くしないとやはりやられるかもしれない
しかし外道はあちこちを動き回り、狙いを定めることが出来ない
生半可な攻撃では動きを止めることが出来ない、故にたまゆらは自らの最大攻撃を叩き込む必要がある
しかしそれには狙いを定めるという間が必要となる、強い攻撃だからこそ間は必然
外道は知ってか知らずかその間を作らない

「クソッ…このままじゃ…」

??/?? 校庭

「何やってんだ!畳み掛けろ!!」
「そこだそこぉぉぉぉ!」
「噛め!抑え付けて噛み千切れ!!」
「回り込めよ!!」

校舎の上で戦う2体の黄龍
それはたまゆらと外道の戦いと同時に展開されるもう1つの戦い
たまゆらと共に戦おうという想いが生み出した黄龍と外道の憎悪が生み出した黄龍の食らい合い
互いが互いを押さえつけ、食らおうとする

「…たまゆら君」

数百人の応援の叫びの中でリカが静かに呟いた
ぶつかり合う2体の黄龍を見つめながら

「ゆき兄も、そこにいるんでしょ…?
 神様…私の全てを差し上げますから…どうか…2人を…」

神に祈ろうとし、組もうとしたリカの手を誰かが止めた
それは白やんだった

「…神なんかいない、どんな運命も人が切り開く
 人は弱いから神を信じ祈るのも仕方ない、だけど今だけは神に頼ることなどしないで置こう
 あそこで戦っているのは神なんかじゃない、俺たちの想いだ」
「…そうだね…」

リカは手を強く強く握った

「勝とう、皆で」


黄龍が、一際大きい咆哮を上げた
その爪が、狂いし黄龍の身体を押さえつけた

「行け!今だ!!」
「トドメだ!トドメ!!!」
「行けぇー!!龍ちゃぁーん!!!!!」

そして狂いし黄龍の身体に、深くその顎が突き刺さった
絶叫する狂いし黄龍、断末魔の悲鳴にも似た叫び声
同時に校庭から沸き立つ歓声

??/?? 黄龍降臨の間

「グァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

突然絶叫と共に外道の動きが止まった
身体を抑え、もがき苦しむ、まるで身体に無数の牙を突き立てられたかのように
その理由はたまゆらが知る由も無い、だけどたまゆらは何となく理解できていた
何にせよ最大のチャンスには違いなかった

「皆、ありがとう…」

呟き、両手を構えるたまゆら
金色と黒が両掌の中で交じり合う
外道は動けない、身体を抑えたまま顔だけをたまゆらの方向に向ける

「や、め、ろぉ…」
「これで終わりだ!外道ォォォォオオオオオオオ!!!
 陰陽完全調和!!!滅殺黄龍弾!!!!」

両掌に交じり合った金色と黒が撃ちだされた
陰にも陽にも属さない調和する完全を越える究極の力
ライフル弾のような回転する小さな玉
それが、外道の額を直撃した

「ああッ…がッ…げっ…!?」

全身を痙攣させながら大きくのけぞる外道
その額に空いた穴から漏れ出す光
徐々に、身体中に穴が空き出し、そこから光が漏れ出してくる
必死に穴を塞ごうと手で押さえながら、フラフラと揺れ動く外道

「ゲッ…ガッ…身体が…ッ…そんなッ…!!」
「狂った黄龍ごと、消し飛べ!!!」
「ぎぃぁぁがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

断末魔の叫びと同時に、外道の身体から漏れ出た光が一層強まり
外道の身体は大爆発を起こした
極限まで凝縮された陰と陽の気の弾丸
体内に入り込み、全身を駆け巡り、やがて体内より大爆発を巻き起こす
それが陰陽完全調和【滅殺黄龍弾】
爆風と衝撃と熱が部屋を包み込んでいった



??/?? 校庭

『ウォォォォオオオオオォォォォ…』

狂いし黄龍の身体が徐々に光の粒子となっていく
それはまるであの日見た花火のように暗い夜空を照らしていく
1人の男子生徒が叫んだ

「勝った…勝ったんだ…!!」

その言葉が一斉に周りに伝わった

「勝ったぞぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「やったぁああああああああああああああああああああああああ!!!」
「何が何だかわかんないけどとにかく勝ったんだぁあああああああああああああ!!!!」

喜んでいるのは一般生徒だけではない
執行部もほろにがもヤチャマルも白やんも阿部さんもカナも神楽君も喜びの声をあげていた

「やった!やったよ!勝ったんだ!たまゆらさんが勝ったんだ!!」
「本当にアイツはやってくれるぜ!」
「当然でしょ!たまゆらさんが負けるわけがないんだし!」
「ちっきしょう、何か泣けてきた!」
「さすが同じカマを掘った…いや、違った」
「店長2回目だとさすがにクドいです!!」
「おいおいおいおいおいおい!あいつ本当にやりやがったぜ!!」
「まるで夢を見てるよう…」
「見てみろ!龍が消えていくぞ!!」

狂いし黄龍が完全に消え去ろうとした頃
想いより生まれた黄龍の身体も徐々に粒子と化していく
空に昇る、金色の光
例え消えようとも、生まれた希望は決して消える事は無い
希望は根付いたのだから
それを見ながらリカが言った

「後は、ちゃんと2人で帰ってきてね…」


??/?? 黄龍降臨の間

「ハァ…ハァ…」

爆風が過ぎ去り、俺の身体を纏っていた黄龍の鎧は2つの黄龍鉄甲に戻っていた
全て終わったと思った、だが煙が晴れた時に戦慄が走った
内部からの爆発で粉みじんになったはずの外道が、立っていた

「ウゥ…ァァ…」
「クッ…」

外道がこちらに手を伸ばしてゆっくりと近づいてくる
駄目だ、もう戦えない…!
だが予想を遥かに越える出来事が起こる
外道の伸ばした手が先から割れたガラスのようにバラバラと地面に落ちていく

「な、ぜ…だ…俺は…完全なは…ず…」
「強引に黄龍を宿すことは出来ても器で無い限り必ず限界が来る…」
「ゆき兄ッ!?」

いつの間にかゆき兄が立ち上がり、俺の横に立っていた
やっぱり、生きてたんだ…
外道がゆっくりと、ゆき兄の方向を向いた、その間にも外道の身体の崩壊は止まらない

「俺は、死ぬ…の、か…?」
「死ぬだろうな」
「そう、か…」

それだけ言うと外道は俺たちに背中を向けた
すでに両腕は砕け散り、身体も徐々に崩壊を始めていた

「60年…ずっと望んでいた…この時を…
 欲しかったのは…完全なんかじゃなくて…この優しい…安そッ…」

パキィン!と高い音が周囲に響いた
足と胴体と頭、残った外道の身体が全て一瞬で砕け散った
ガラスの破片のような外道だった者の欠片がその場にガチャガチャと落ちた
これで、全部終わったのか…

「…これで全部終わったの、ゆき兄?」
「多分な…外道ごと黄龍も吹き飛んだとは思うが」
「そっか…じゃあやっと…帰れるんだね…」
「…ああ…」
「あ、これ返すよ」

俺は黒い黄龍鉄甲を左手から外してゆき兄に返した
少し笑いながらゆき兄は受け取る

「つってももう意味はないぞ、力の根源である黄龍が消えたんだ
 もうこいつはただの鉄甲だよ」
「…あ、そうか…」
「まぁそれでも武器として使えないことは…!?」

ゆき兄が黒い黄龍鉄甲をつけた瞬間に顔つきが変わった

「馬鹿な…!?」
「どうしたの!?」
「消えてない…!黄龍はまだ消えてない!!」
「えッ!?」

驚き、聞き返そうとした時、部屋に絶叫が響いた
これ以上ないほどの絶望を俺たちにもたらす声

『器ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

黄龍…!?
金色の光が目の前に集結していく
そんな…こいつ、まだ…!?

「やはり…意志ある黄龍を倒すのは不可能なのか!?」
「駄目だ、もう戦えない…一旦退こう!」
「しかし…ここで退いても…!」
「外道だって何とか倒せたじゃないか!!退くことで勝機が見出せるかもしれないだろ!!」
「たまゆら…お前…!わかった…!
 …とはいえ帰り道は瓦礫で埋まってるし…」
「外道が出てきた穴はどこかにつながってるんじゃ?」
「そうか、よしわかった…!」

集結する光が徐々に龍の形を作っていく
早くしないと…時間が無い!
俺たちは慌てて外道が出てきた穴を見る、決して広いとは言えないが全速力で走れそうなぐらいには幅がある
これならいける…!あ、でも…

「どうした?早く行け」
「あいつも…一応、なんとかならないかな」

俺は祭壇の前を指差した
そこには倒れているスイカ

「…わかった、俺は充分休んだからな、俺が担いでいく
 だからお前はさっさと行け」
「行けっていって自分だけ残るのはナシな」
「わかってるよ!」

ゆき兄はスイカの近くに走っていき力なくうな垂れた手を掴んで担ぎ上げた
その時、スイカが小さくうめいた

「…生きてる…のか?コイツ…?」
「ゆき兄!早く!!」
「今いく!!」

ゆき兄が来たのを確認して俺たちは穴に飛び込み、真っ暗な地下通路を走っていく
後ろから、黄龍の咆哮が聞こえた、どうやら完全に元通りになったらしい

「絶対振り返るなよ!前だけ見て走り続けろ!!」

後ろからそう言われただ俺たちは真っ暗闇を走り続けた
遥か後ろから聞こえる何かが崩れ落ちて行く音
そして狭い通路に反響する黄龍の叫び声

『ウツワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

岩盤を抉るような音、揺れ動く地下通路、振り向きたい衝動を必死に押さえ込む
足がとても痛く、息は吸っても吸っても酸素が足りない
心臓の鼓動は破れるように早い
やがて正面に光が見えた

「出口だ!!」
「突っ切れ!!!」

穴から飛び出した俺、カツンとコンクリートの地面を踏む
そして目の前にあった地面に空いた大穴

「うわッ!!」

危うく落ちそうになる、ここは…何だ?
上を見ると大きな穴が開いていた、見える歯車と機械
まさかここは…時計塔…?

「ハァ…ハァ…この大穴は…?
 ここは…時計塔…?」

地下通路から飛び出したゆき兄が大穴を見る
確かに気になるが今は構っている暇は無い、すぐにここから脱出しないと
梯子に向かおうとするが、ゆき兄は大穴を見つめている

「何やってんだよゆき兄!?早く!」
「…穴…?龍脈…?」

動かないゆき兄に駆け寄り腕を引っ張る
こんなときに何を考えて
するとゆき兄が背中におぶっていたスイカを俺に渡してきた

「行け、たまゆら」
「何言ってんだよ!?ここまで来てまた死ぬ気か!?」
「…そうじゃない」
「じゃあなんで行けって…!」
「…」

ゆき兄は黙った、だがその目には今までと違う、新たな覚悟が垣間見えた
何をする気なのかはわからない、だけど止めなくちゃいけないと直感で理解した

「…いいから早く逃げよう!体制を整えなおせば倒す方法だって見つかるかもしれない」
「倒す方法なら見つけた、だけど今しかない」
「それってどういう――」
『みぃつけぇたぁぞぉォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

壁に空いた穴、その奥から徐々に金色の光が近づいてくる
早く逃げないと…!!

「いいから早く!!」

そう言って俺はゆき兄を無理やり引っ張ろうとする
だけどゆき兄は抵抗する
そうこうしてるうちに黄龍の声と光はどんどん近づいてくる

「ああ、わかったよ…」
「え?」

唐突にゆき兄がわかったよと言った

「やっぱナシだ、逃げよう」
「…ああ!!」

安心して手を離したその時だった
ゆき兄が、思いっきり俺を突き飛ばした

「え…?」
「わりぃな、たまゆら」

スイカを抱えて上手くバランスが取れずに俺は後ろに転倒し尻餅をつく
慌てて立ち上がろうとしたが俺の身体に覆いかぶさるようになったスイカのせいでうまく行かない

「何やって…早く逃げないと…!!」
「ははっ」

ゆき兄が笑った
なぜこの状況で笑えるのか不思議でしょうがなかった
だがその刹那、笑みの理由を俺は理解した

「もう遅いさ」
『ウケイレロォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

ゆき兄が両手を広げた
壁の穴に向かって、即ち、黄龍に向かって
そして、壁の穴から光が溢れる
俺が叫ぶよりも早く、その光はゆき兄に直撃した

「がぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」

光、いや黄龍は物凄い勢いでゆき兄へと吸い込まれていく
何やってんだよ、何を…その黄龍を受け入れたら…!
世界が滅ぶんだろ!?それなのに…!?
ただ呆然とし、動けない俺を尻目に黄龍はまるでなだれこむようにゆき兄へと吸い込まれていく
そして、完全に全てがゆき兄の体内へと吸収された

「グッ…がぁぁ…!!」

ゆき兄の身体から黒い炎が揺らめき立つ
それはまるで脈打つマグマのように
全身が震えているのは黄龍に抗っているからだろうか?
一体、ゆき兄は何を…!!

「ク、ククククク、ついに…器を手に入れた…
 もはや封印する者も存在しない…!!手に入れたぞ…!」

その声はゆき兄ではあるがゆき兄ではない
声を紡ぐのは、黄龍
ゆき兄の身に宿った黄龍が、こちらを向く

「手始めにお前を浄化し…
 そのあとゆっくりとこの世界を浄化してやろう…!!」

ゆっくりとこちらに近づいて来るゆき兄、否、黄龍
だが俺に到達する前に黄龍の足が止まる

「こいつッ…!またも俺に抗うかッ…!!
 だが無駄なのはわかっているだろう…!封印が無い以上、我を押し留め続けるのは不可能だッ!!」

頭を抑える黄龍
抗う…?ゆき兄が、黄龍に抗ってるのか…?

「たまゆら…」
「ゆき兄ッ!?」

その声はゆき兄本人の意志で発せられたものと理解した

「…やっぱり…これは俺の役目なんだ…
 俺が…こいつを目覚めさしたんだからな…」
「何言ってんだよ…?役目って…?」
「…楽しかったぜ…たまゆら…
 もしいつかまた…いやいつかは無いだろうな…生まれ変わったら…今度は普通に友達として…」
「無いってなんだよ!?何する気だよ!?」
「ああ…あいつには…リカには適当言っておいてくれよ…
 俺のことなんか忘れて…勝手に生きろって…」
「何が、言いたいんだよぉ…!」

頬に涙が零れ落ちた
どうしてだろう、ゆき兄の目がとても、悲しかった

「…じゃあな…たまゆら…
 貸したゲームは…お前にやるよ…それじゃ、な…」

ゆき兄は、それだけ言って地面を蹴った
向かう先は、地面に空いた大穴

「ふざけるなァぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

スイカを跳ね飛ばし、俺は飛んだ
落下していくゆき兄、間に合わない、だけど必死に手を伸ばす
俺の手に、何かがかすり、無我夢中でそれを掴んだ
強い引っ張られる力、それを押さえ込んで、必死に手を離さないようにする
俺が掴んだのは、ゆき兄のつけた黄龍鉄甲についていた赤い紐

「今…引っ張り上げるから…!!」
「離せ、たまゆら」
「嫌だ…!!何やってんだよ!?何でこんな!?」

泣きながら、どうしてこんなことをしたのかをゆき兄に問う

「…この黄龍は人の手によって抽出された龍脈の気から作り出された存在
 ならば、龍脈の流れに落としてやれば…黄龍は龍脈へと還る」
「だからって何でゆき兄ごと…!?」
「龍脈は深い地の底にある…
 黄龍だけを落としても龍脈に飲まれる前に上がってくる…
 だからあえて器である俺が受け止め、そのまま落ちればいい」
「そんなの…そんなのって…」

絶句し、言葉が上手く出てこない
そんな俺を見て、ゆき兄は言う

「落とせ、たまゆら、それで全てが終わる」
「出来るわけが…」
「…グッ!?」

ゆき兄の顔つきが変わる
そして響く声は黄龍のもの

「馬鹿なッ!この器…!我ごと死ぬ気か!?
 早く引き上げろ!!」
「ッ…!!」
「落ちれば器は間違いなく助からんぞ!?
 さぁ引き上げろ!!」

引き上げれば、ゆき兄は助かる、だけどゆき兄はすでに黄龍を宿している
手を離せば、ゆき兄は死ぬけど、黄龍も消し去れる
どうすればいいんだ、俺は…?どうすればいい?
こんな、こんな選択…したくない…!

「たまゆらー…」

今度はまたゆき兄の声
俺は答えない、ただ突きつけられた決断に迷い続ける

「…1を捨て、10を生かすか…10を捨て、1を生かすか…辛い決断だよな…
 でも俺は昔決めたんだ…でも俺はその意地から1度逃げてしまった…
 もう二度と、逃げ出しはしない、だからお前が気に病む必要は無い」

突然、手が軽くなった
下を見ると、俺の手にぶら下がっているのは、黒い黄龍鉄甲だけ
落ちていくゆき兄、酷くゆっくりと

「絶対に捨てなきゃいけない1なら俺が補う…この身でな…」

そう言って、ゆき兄は微笑んだ
心底、安心したかのような、笑顔

「さぁ、100年の悪い夢は終わりだ、黄龍
 目覚めさせてしまった俺と、目覚めたお前で共に行こうぜ…」

その言葉を最後にゆき兄は暗い穴の底へと、奈落へと落ちていった
手を伸ばしても、決して届かない
言葉を失い、ただ光届かぬ奈落を見据える

「あ…ああああ…ああ…!」

引き上げたのは、ゆき兄の黒い黄龍鉄甲だけ
そこに残る温かみだけが、彼の証
それもやがて消えていく

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

時計塔に響く絶叫
砕かれた天井の穴から抜けるその絶叫は空へとただ響くのみ
メキリと、上から音が聞こえたと思うと、バキバキと今度は木がヘシ折れていく音
響く金属音、チャリンと、横に落ちた小さな歯車
それが合図、時計塔が壊れていく

「…」

動く気力も起こらず、壊れていく時計塔を下から眺める
全ての始まりの場所が、音を立てて、今、崩壊する
不意に、誰かが俺の首根っこを掴んだ
振り向くと、そこにいたのは…

「高橋…?」
「ゆき兄は、お前らに未来を、希望を残したんだ…!
 それなのにお前が腑抜けてここで死んだらあいつが死んでも死にきれねぇぞ…!!」
「…俺は」
「お前が死にたいなら勝手に死んじまえと言いたいが…!
 お前は託されたんだ…!そのゆき兄の想いを踏みにじらせはしないッ!!」

手に持った、黒い黄龍鉄甲を見た
微かに残る、内側の暖かさがまるで俺に…
ポタリと、大粒の涙が、鉄甲に落ちた
崩壊していく時計塔の下で俺はただ泣き続けて…



落ちていく、どこまでも、深い闇を
その闇の中で、見えた懐かしい顔

「そこにいたのか、随分待たせたけど…やっと終わるよ
 約束通り、復活の可能性はこれで全部消える…
 …そう悲しそうな顔しなくてもいいじゃんか
 そりゃ本音を言えばもっと生きたいし死にたくはないよ…
 んでもさ、なんつーか…しょうがない…かな…あと思ったより怖くはないんだ
 …託せたから、かな…ある意味最も重い物を背負わせた気もするけどね…
 でも最後に君に会えたよかったよ…例えこれが幻想だとしても…俺はもう…充分だよ」

そして、目を瞑り
静かに、深い闇へと、落ちていく、どこまでも…




翌年3/15 体育館

「…最後になりましたが、邪眼学園高等学校の更なる御発展をお祈り申し上げ、答辞とさせていただきます…
 平成XX年、三月十五日…卒業生代表、白やん」

壇上の上で淡々と卒なく文章を読み終わる白やん
拍手に包まれながら壇から降りる
卒業式が行われている邪眼学園を遠くから眺めてる男が1人いた
学園の前の道端、バイクに腰掛けながらタバコを吸う男

「丁度そういう時期か…ちょっくら寄ってくか…
 ウロついてるの見つかっても誰かの保護者って言えば問題ねぇだろ」

そう言いながら勝手にバイクをその辺に置いてほろにがは校門を潜った

「おお、久しぶりじゃないか
 ついに掘らせてくれる気になったのか?」
「ゲ…てめぇまだ居たのか…?」

ほろにがを玩具を見つけたような目で見つめるのは阿部さんだった
その手は怪しい動きをしていた

「誰が掘らせるかっつーの…」
「冗談だ」
「もー店長あんまりそういうことしないでくださいよ」
「硬いこというな、生徒にはもうやらないよ」
「そーいう問題じゃなくて…」

阿部さんに文句を垂れるのはカナだった
そんなカナを見てほろにがが呟いた

「へー、前よか胸大きくなったな、成長期か?」
「…店長、ヤっちゃってください!」
「待て待て待て待て!!!」
「ハッハッハ、掘りたいのも山々だがそろそろ式も終わったようだぞ」
「んん?」

体育館からは生徒たちがぞろぞろと出てきた
そこにちらほら混じる懐かしい顔ぶれ

「あ、お前なんでいるんだよ!?」
「おお!ヤチャマル!って何で卒業式で一升瓶もってんだよ」
「祝い酒だ」
「久しぶりに会ったことだし俺も飲ませてくれない?」
「誰が飲ませるか、誰が」
「ケチなところは変わってねぇな、あーあー、セコい人ってヤダヤダガブァッ!?」

ヤチャマルの鉄拳がほろにがの顔面に叩き込まれた

「変わってないのは攻撃の威力もだぞ?」
「よく…わかりました…」

鼻血を垂らしながら引きつった笑顔で答えるほろにが
そのほろにがにハンカチを差し出す手、白やんだった

「拭け」
「よぉ、生徒会長…」
「残念だが、もう生徒会長は引退だ」
「あ、そーなの…」
「もう堕人も黄龍も存在しないからな、力も無くなり今までの生徒会は完全に無くなったよ
 今はとても普通さ、執行部も姿を隠すようなことも無くなった」
「今の生徒会長は誰なんだ?」
「あれだよ」

白やんが後ろを指差す

「会長ー、また尻の部分破れてますよ」
「心頭滅却すれば尻また涼し…」
「意味わかんねぇっすよ…」

それを見たほろにがが笑った

「あんなんでいいのか?」
「あれはあれで有事には割りとリーダーシップがあるようだからな
 何度いっても尻はいつの間にか出ているが…」
「会長ー…じゃなかった、白やんさーん、写真撮りませんか?
 ってあれ…懐かしい顔が…」

カメラを片手に近寄ってきたのはしげるだった

「オス、久しぶりだな」
「どうしたんですか?」
「近くによったから立ち寄っただけさ」
「…ああ、そういえば白やんさん」
「ん?」
「さっきあっちで喧嘩がありましたよ?」
「止めたのか?」
「止めようとする前に雷雲さんと黒やんさんがめでたい日に喧嘩なんかすんなッ!てしばき倒してました」

ほろにがが目をパチクリさせて
しげるに聞いた

「あいつらが…?信じられねぇ…」
「色々、変わったんですよ、僕らも、あれから…」
「…そっか」
「もう皆特殊な力は無いからな
 そして、アレも無い」

白やんが呟きながら遠くを見た
その方向には時計塔があったはずだが、すでにその面影は無く青空が広がっている

「…」
「なーに懐かしい顔ブレで神妙なツラしてんすか!うまい棒食べる?」
「えび助…」
「これ新発売のうまい棒焼酎味なんすけどね、隠し味にアルコールがケケケ」
「お前酔ってるだろ!?」
「酔ってへん、酔ってへん、なー、透過~!?」
「そうれす、酔ってへんれす」
「いや、酔ってる酔ってる!絶対酔ってる!
 つーかお前らいいのかそれって!?」
「いーんっすよ、卒業式の日に酔うぐらい正義れすって」

ヘラヘラと笑いながらそう言う透過
その肩をポン、とヤチャマルが叩いた

「一応、俺も教職だぞ」
「は、はははははは…」
「まぁまぁいいじゃねーか、卒業式なんだし」
「…ま、いいけどな」
「おー、ヤチャさん話がわかるっす~」
「何やってるんですかー?」
「お、蝶か…久しぶりだな」
「あれ、ほろにがさんホームレスになってまた学園に住み着きにきたんですか?」

サラッと物凄いことを言い出した蝶

「…お前めっちゃ変わったな…」
「そうですか?」
「変わったよ…」
「あ、いたいた、皆~」
「お、姫じゃん」

息を切らしながら走ってきた姫

「何やってんですか?皆で集まって?」
「怪しい不法侵入者を捕まえてたんだよ」
「仮にも一緒に戦った仲間にその言い草!?」
「立ちショーベンが何を…」
「わぁわぁ!!それは言うな!!それは!!」

慌てるほろにがを見て皆が笑う
それを物陰から見ているのが1人

「…楽しそうだな…いや、あんなくだらない集まりなんか興味ない…
 無いし…今更俺が顔を出すのも…」

そう呟いていたのはスイカ
だがぞくりと後ろから不気味な雰囲気を感じる
振り向くと2人の女生徒がいた

「ねぇねぇキリン」
「何かなミギー?」
「こういうプライド高い人が慌てふためく姿を見たくない?」
「見たいねぇ」
「それじゃどーん!」
「どーん!!!」
「うおッ!?」

突き飛ばされて転がるように物陰から皆の輪の中に飛び込むスイカ

「うおっ…」
「ハッ!?違う!別に混ざりたかったわけじゃなくて…!」
「ぎゃはははは、いきなりギャグキャラに成り下がってやんのコイツ!」
「…創造主の力を失った俺なんて無力なんだからあんまりいじめるな…所詮俺は凡人…」
「あらら、イジけちゃった」
「あ、おーい!」

桃花が友達から離れてこちらに近寄ってきた

「なっつかしい顔ぶれ~
 そういえば皆たまゆら君見た?」
「いや見てない」
「じゃあ多分あそこにいるんだよ、皆で行かない」
「ああ、なるほど…んじゃ行きますか」
「いこいこ」

皆はぞろぞろ移動を始めた
校舎の裏へ向かって


同時刻 時計塔跡地

積み上がった瓦礫を見つめている女子生徒がいた
静かに、瓦礫を見つめたまま呟く

「忘れるなんて出来るか、ばーか…」

後ろからザクザクと何人もの足音
振り向くと、共に戦った仲間たち

「皆!ほろにがさんまでいる!」
「おう、リカちゃん、髪伸びたな」
「あれ?たまゆらは?」
「あっ、何か忘れ物があるとかいって…」
「入れ違いになったか…ま、待ってりゃ戻ってくるだろ
 にしても見事に瓦礫の山になっちまったな…」

ほろにがは瓦礫を見つめる
あの夜、時計塔は崩壊し、瓦礫の山の横に倒れていたたまゆらを見つけた
そして全てを皆は知った
ゆき兄が、全ての絶望を背負って持っていったことも
後ろから、声が響いた

「皆!」
「お、たまゆら!何取りにいってんだ?」
「これ…」

たまゆらが出したのは黒い黄龍鉄甲
ゆき兄が残した、想い

「…一緒に戦った皆で集まれるの、これで最後かもしれないだろ?
 だからせめて…これだけでも」
「そ、だな…」

たまゆらは瓦礫の中央に黒い黄龍鉄甲を立てた
ゆき兄なら今すぐにでも瓦礫の下から現れる気がした
だけどそれは夢、優しい夢
決して叶うことは無いけど、もう悲しむことはしなかった
悲しむんじゃなく、ゆき兄が残した明日を、希望を生きようと誓ったから

その光景を屋上から見ている者がいた
折れた足は完治し力を失ったから以前のような威力はもう無いものの
今だその蹴り技は健在なメチャ強い不良、高橋
最もアレ以来だいぶ真面目になったようで授業にもちゃんと出るようになったらしい
その顔には、優しい笑みが浮かんでいた

「それじゃ…今から皆でイビルアイでパーティーやるか!
 先手を打って神楽君に貸切にしてもらったから!!」
「ヤチャマル偉い!」
「よっしゃ善は急げだ!!」
「たまゆら君、行こうぜ!」
「ああ、後から行くよ、先に行ってて」
「ちゃんと来いよ!!」

皆はイビルアイに行ってしまった、薄情だとは思わない
わかっている、ここにいたら泣いてしまうかもしれないんだろ?
残ったのは、俺とリカだけ
俺は黒い黄龍鉄甲に向かった

「…この楽しさが、ゆき兄が守ったものだよ
 どこかで、見てるといいな…」

次にリカが言う

「絶対忘れない、死ぬまで忘れない
 それであの世で一生分の文句を言ってやるから覚えとけよっと」

それを聞いて、俺は少しだけ笑った
空は晴天、吹き抜ける風が心地いい
きっと、今日が終わればまたとても普通な、あの頃とは考えられないような普通な日々が始まるんだろう
その普通は、ゆき兄が守りきった物、だから僕らは精一杯、日々を生きていくよ
だから、今日ぐらいはいいだろう?
思い出に、懐かしいリフレインに身を委ねても、いいだろ?

「それじゃ、いこっか、たまゆら君」
「そうだね、行こうか…」

俺たちはイビルアイへと向かった
最後に振り返ると、太陽の光を黒い黄龍鉄甲が反射してキラリと光った
なんだか、それがゆき兄が笑った気がして…
胸にこみ上げてくる想いを抑えて、俺は前を向いて歩き出した
託されたから、俺は君の分まで生きていくよ、精一杯、君が守った世界で、日々を、皆と共に…





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最終更新:2009年12月03日 09:10